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お笑いロワイアルvol.8

1 :名無し草:2007/08/16(木) 00:17:36
お笑い芸人を題材としたバトルロワイヤルパロディスレッド
ローカルルールや過去ログ・関連スレッドは>>2以降

まとめ入口
ttp://karen.saiin.net/~owaraibr/

2 :名無し草:2007/08/16(木) 00:18:48
*共通ローカルルール

・死亡した芸人の復活は基本的に不可
・あくまでネタスレです。まったりどうぞ
・*書き手用ローカルルール

・投下する前に過去ログ、まとめwiki(特に必読項目)に目を通す
・投下時に明記すること
・どのレスの続きか(>>前回のレス番号)
・文中で芸人が死亡、同盟を組む、他、重要な出来事があった場合
・所持品、行動方針、現在位置、日付、時間帯、投下番号
・トリップ強制 付け方は名前欄に『#好きな言葉』
・書き手は一つの話に一人だが、以下の場合は引き継ぎ可
・書き手自身が執筆中止を告げた場合
・最終投下から3ヶ月以上経過した場合
・書いた話に不都合があった場合、番外編としても投下可
・2002年ver.の話を投下する場合は文章の最初でその旨明記する
 他、詳しくはまとめ参照


*読み手用ローカルルール

・書き手に過度な期待、無理な注文をしないようにする
・コメント、感想、要望などはアンカーがついているといいかもしれません
・本スレで言いにくいことはしたらばのチラシで

3 :名無し草:2007/08/16(木) 00:19:56
過去ログ
vol.11 http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1155627128/
vol.1 http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1157112615/
vol.2 http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1157808776/
vol.3 http://aa5.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1159607069/
vol.4 http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1164460385/
vol.5 http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1170929240/
vol.6 http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1171548439/
vol.7 http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1182000891/

2002年Ver.まとめサイト・ミラー集(更新停止中)
http://www.geocities.jp/geinin_battle/
http://makimo.to/cgi-bin/search/search.cgi?q=%82%A8%8F%CE%82%A2%83o%83g%83%8B&andor=OR&sf=0&H=&D=geinin&shw=2000

9〜10スレ目・関連スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1095916149
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1114308019
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1114426574


↓こちらを使って見てください
2ch DAT落ちスレ ミラー変換機 ver.4
http://www.geocities.jp/mirrorhenkan/

4 :名無し草:2007/08/16(木) 00:21:42
512kb超えていたので新スレ立てました。
以降、◆xCi5vGY7XY氏代理投下

5 :名無し草:2007/08/16(木) 00:22:48
55 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:00:07
 気を紛らわすため、辺りを観察しながら進んだ。どうやらここは高い位置にある場所
のようで、遠くにあるはずの観覧車を発見することができた。本当に元町で間違いない
らしい。地図で位置関係を確認する。迷いに迷った時間を実感する。
「清人さん」
 構わない大溝はどんどん先にいってしまう。
「清人さん」
 捨てられた子犬みたいについていく。肩から外れたバットが高い音を立てた。そのた
びに浮かぶ相方の姿は消えないように注意する。
 最初に相方に会えたならどんなに良かったか。何百人も参加している上、スタートの
時間も離れていたから確率は低い。きっと奇跡が起こる、言い聞かせるように信じても
スタミナにはなってくれない。
 また両膝に手を置いた。背中を丸めて何回も息を繰り返した。日頃の喫煙、プログラ
ム開始前日の夜更かし、精神的なしんどさ、いくつも頭に原因が浮かんでくる。
「清人さ」
 何度目かわからない呼びかけは途中で終わった。遠くへ行っていたはずの大溝が戻っ
てきていたからだった。よく見れば栗山と同じように辺りを見渡している。やがて何か
を見つけたのか、口を少しだけ尖らせて目を細めた。だるそうに手を上げて、たくさん
並ぶ建物の一つを指さす。
「休憩」
 優しさは消えていなかったらしい。なんてことない気づかいでもいつも以上に感動し
てしまう。栗山は大げさに何回も首を縦に振って、最後の気力と言わんばかりに走った。
ほんの数メートルで疲れが倍になる。でも、先輩に全てをさせるわけにはいかない。
 ドアノブを握った大溝を止めて、中に誰もいないか確認した。考えられるだけの最悪
を避けるため罠がないかも調べて、ようやく安心したのは十数分が経ってからだ。体は
疲れ切ってしまって、置いてあった毛布にダイブしたかったけれど、ぐっと堪えてバッ
トを担いだ。

6 :名無し草:2007/08/16(木) 00:23:54
56 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:00:46
「見張っとくんで、先休んでください。っつか、寝てください」
 軽い調子で手を振り笑う。既に座っていた大溝が不思議そうに眉を寄せた。当たり前
だ、栗山が疲れていたから休憩になったのだから。矛盾、というやつだろう。
 質問される前に答えた。
「座ってれば十分です。それに清人さん、多分、寝てないっすよね?」
 仮眠の時間はあった。夜中に順番で寝るというルールを定めていたからだ。けれど夜
中に栗山が見張っていた時間、落ち着きなく大溝の肩が動いていたことを知っている。
 正解だったらしかった。あまり変わらなかった大溝の顔に、はっきりした驚きが現れ
たのだ。単純かもしれないけれど、馬鹿ではないですから。珍しく浮かんだ皮肉は止め
てへらへらした笑みを作る。さすがに無理があったらしくて苦笑いになった。はっきり
しない嫌いな表情だ。
 大溝も大溝で不満なんだかどうなんだかよくわからない顔をしていた。一応素直に従っ
て建物内に消えたけど、結局は寝ないで終わってしまうような気がする。押しつけてし
まったのだろうか、数分間の無理やりな行動に気づいた栗山はただ苛立つばかり。
 転がっていたドラム缶に座った。バットを持った右手はだらしなく落とした。自分を
自分で見てヤンキーの先輩を思い出して、背中側にいる先輩とダブらせる。見た目も性
格も似ていないのに、どういうわけかイメージだけは重なった。だからお互いはお互い
を選んだのかもしれない。
 気力のない背中は伸びていなかった。明るいはずの目線は低いところを見ていた。と
たんにのし掛かってきた暑さやそれ以外が肩を落とさせる。キャップを被って目元を隠
しても暗いやつにしか見えない。
 数分してからバットを持つ手を変えた。右掌は汗でぐっしょりしていた。
 数分したからペットボトルの水を飲んだ。ただ温いだけで変わりはしなかった。
 数分したけど瞬きを繰り返した。落ち着かない。
「あっちい……」
 音がないから嫌なのかと思って呟いた。返事がないぶん逆効果だった。

7 :名無し草:2007/08/16(木) 00:24:58
57 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:02:05
 ふと気づく。音はある、むしろうるさいくらいだ。夏っぽく蝉が鳴いているし、たま
に嫌な人殺しの音もする。なのに静かだと思った理由は何か。簡単なことだった、一人
だからだ。
 周りに誰もいないということは、一度知ってしまえばずっとつきまとう。考え事をす
るきっかけにもなってしまう。あまり深く考えたことがなくても、置かれた状況が状況
だからやってしまう。バットを両手で持った栗山は、先にある地面に顔だけを向ける。
 久しぶりにはっきり確認した。ここは殺し合うための場所だ。嫌がっていてもそれは
事実らしい。偏った性格をしていない栗山にとって、ただ怖くて苛々する現実だった。
仮に死ぬならどうなればマシなのだろうか。もちろん死なないことを前提にして。
 血まみれになって倒れている自分を想像して鳥肌が立つ。打ち消すために首を振って
も消えてくれない。諦めて他の想像を追加した。例えば、傍らで泣いている相方の姿だ
とか。
 そこでまた気づく。悲しいけれど、一人で死んでいるのと比べたらどうか。頭で何度
も比較する。まだ誰かがいてくれたほうがましか。今だって、一人でいるからごちゃご
ちゃ面倒なことを考えているのだから。
 瞬きすら少なくなっていた。キャップのせいで視界は狭まっていた。誰でも持ってい
る根暗な部分が増えてきて、引きずられそうになって、また眉を寄せて耐える。目元が
急に熱くなっても同じだ。ましてや、どうして、なんて言葉は絶対に吐かない。
 気分を直すために顔を上げた。
「うわっ」
 情けなく驚いてしまったのは、一人が二人になっていたから。キャップのツバのせい
で気づかなかった。しかも有名な人で。
「なあ、今暇?」
 すっとんきょうな質問をしてきたからなおさらだ。
「はぁ?」
 だから態度の悪い返事をしてしまったのは仕方ない。

8 :名無し草:2007/08/16(木) 00:26:03
58 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:03:01
 その人は太い眉を明るく上げて子供のように笑っていた。こういう場には似合わない
くらいに純粋だった。裏返せばそれもまた怖いことだったのかもしれない、栗山には気
づく余裕もなく、ただ目を点にして肩を落としてしまった。
 確かに濱口のイメージにはぴったりだけど。
「話あるんやけど」
 こちらの都合など考えもせずに勝手に進んだ。栗山はぽっかり開けたままだった口を
閉じて、なめられないように目つきを悪くする。さすがに普段はしない行動は、置かれ
た状況に警戒しているからこそ出てきたものだ。
 濱口の肩が少しだけ震えた。あまり気は強くないみたいで、にらみ返さずに逸らして
いた。栗山にとっては安心できる反応だ、もし殺すつもりならこんな風にはならない。
相手より上だと信じ込んでから尋ねた。
「なんすか?」
「え、あ、あんな」
 急な変化に驚いたらしい。ひょっとしたら何も考えていなかったのかもしれない。濱
口の目があっちこっちに動いていた。やがて止まり、場違いな笑顔で言ってくる。
「俺、人集めとるんや。こんなんなってもうたけど、みんなで考えればなんとかなるか
もしれんやろ。やから、えっと……」
「栗山です」
「も、どうかなって」
 名前も知らない相手を誘うことが怖くないのか。申し訳なさそうに笑う濱口に対して
の感想だった。けれど逆に、殺す気が全くない人に見えないこともない。安心感を誘う
会話は天然なのだろうか。だとしたらすごいかもしれない。
「こっちも同じことしてるんすけど」
「ならちょうどええやん」
「ただ……」
 背中側にいる先輩の姿を思い出す。同時にマークのついた名簿が浮かんだ。濱口の横
についていたマークは何だったか。どうしても思い出せない。


9 :名無し草:2007/08/16(木) 00:27:10
59 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:03:49
「他に誰かおるんか?」
 栗山の体が震える。唐突に勘ぐられて驚いたせいだった。頭の中を探られた気がして
目を見開き、すぐに気を取り戻す。濱口が相手を読むなんてことは考えにくい。栗山も
同じような性格をしているからわかっていた。単なる偶然だと決めつけてから尋ねる。
「何でわかったんすか?」
「え、そんなん」
 濱口の顔にあった笑みが不自然になった。黒目ばかりの目で、何かを確認するかのよ
うに辺りを見渡していた。どういうわけか、考えてから行動している人と姿が重なった。
おかしい、ひょっとして、テレビの姿は嘘?
 やがて濱口の顔に笑顔が戻る。
「なんとなく?」
 予想通りの答えなのに違和感があった。
 隣に大溝がいたならどうするか聞けたのに。でなくても話し合っていれば一人で決め
られた。今さらの後悔に舌打ちして、なぜかバットを持ち直す。とっさに濱口が後ずさっ
た。また違和感が増える。
「集合場所はあそこにある高いビル……見えるか? の、横の貯蓄倉庫な。時間は明日
の午後一時十分。よろしく」
 半端な時間の意味がわからなかった。飄々と銛を抱えた濱口は、他に何も言わずに走っ
ていってしまう。汗で汚れた背中が頭にこびりつく。
 残されたのは栗山と一人の時間。
 予想していなかった来客でも一人の怖さは紛れていたらしい。おまけに考えなければ
ならない宿題が増えてしまった。呆気にとられている暇もなく怖くなってきて、数分前
と同じようにキャップを深く被る。両手でバットを転がしていても変わらない。
 せめて一人ではないことを確認したかった。自然と足は寝ているかもしれない大溝の
元へ向かう。指紋で汚いドアノブを引いて、無意識でキャップを外した。夏っぽくてう
ざったい熱気が邪魔だったからだ。だから栗山は、次に見えた光景に首を傾げることに
なる。

10 :名無し草:2007/08/16(木) 00:28:15
60 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:04:25
 立っているだけで汗が流れているくらいなのに。目をうつろに開いた大溝は、見てい
るだけで嫌になる毛布にくるまって、横向きの体を壁に預けていた。傍らには何度も確
認されて汚くなった名簿がある。
 先ほどまでの怖さですら消し飛んでしまった。栗山には立ちつくすくらいしかできず、
塗り替えたはずの先輩への印象をまた元に戻してしまった。怖い。この人は何かおかし
い。
「聞いとった」
「へ?」
「さっきの話」
 濱口との会話のことだ。確かに、大溝の寄りかかっている壁の向こうは先ほどまでい
た場所だった。よく見れば窓も開いている。
 説明しなくていいのはありがたかった。あまり得意ではないからだ。説明は全てカッ
トして尋ねる。
「なら、どうするんすか?」
 大溝は答えない。目線だけが動いて、名簿の上で止まった。何となく気になった栗山
もしゃがみ込み、同じ名簿を眺める。確認したいことは一つ。
 その名前はすぐに見つけることができた。けれど、確認したからこそどうすればいい
かわからなくなってしまった。一八七番、濱口の名前の横についたマークは三角印。し
かも悩んだすえに出た結論で、消された丸印とバツ印の後が残っている。知らないわけ
ではなく、そこまで仲が良いわけでもない。頭は良いとは思えないが、信用できない性
格ではない。
 場の空気が固まった。栗山が苦手とする雰囲気だった。目を逸らして答えることから
逃げる。相手に任せっきりにしてから数秒待つ。煮え切らない自分に苛々しながらだ。

11 :名無し草:2007/08/16(木) 00:29:16
61 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:05:15
 やがて目線をずらした大溝が呟いた。
「行けば丸がおるかもしれん」
 何よりもはっきりした答えだ。どこまでも印にこだわるなら正しかった。けど栗山が
単純であるからこそ出てくる疑問もある。肌を襲う寒気をごまかしながら、聞いてはい
けないことを聞いてしまう。
「でも、バツ印の人がいたら?」
 数秒も立たないうちに大溝の口が開いた。栗山の耳に答えが届くことはなかった。聞
きたくなかった、というのが本音だったのだろう。一連の会話が終わってからの栗山は、
額に流れる嫌な汗を拭い、外していたキャップを深く被るだけで黙る。忘れてしまった
悪い夢に似た、曖昧な感情を消したかったからだ。
 毛布の影から覗く銃は重たそうだった。子供よりも弱々しい大溝の肩は毛布で隠れて
いた。これは頼るべき相手ではない。知りかけた事実を隠してから、キャップからはみ
出した髪を撫でる。バットを持った手の力は強くなる。
 端から見れば野球少年にしか見えないのだろう。栗山よりも似合いそうな相方はここ
にいない。
 一人になってでも探しにいくべきだろうか。けれど一人になったらまた、先ほどまで
の怖さが戻ってくるのだろう。大溝と一緒にいるのと大して変わらないか、明日の集合
で頼れそうな人がいるかもしれない。いなかったら、バツ印だけだったら。
 毛布にくるまった先輩を見やった。既に考え事の世界に入ってしまっていた。眉を寄
せた栗山は場から逃れるために部屋を後にする。数分後には一人でいる恐怖で沈むにも
関わらず。
 踏ん切れない自分を抱えてドラム缶に座り込んだ。

12 :名無し草:2007/08/16(木) 00:30:18
62 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:06:04
【アームストロング 栗山直人】
所持品:ライター 煙草(開封済) 金属バット
状態:良好、大溝に対する恐怖
第一行動方針:襲われれば身を守る
基本行動方針:仲間を探す(一人を避ける)
最終行動方針:できるだけ多くの仲間達と共に生還

【バッドボーイズ 清人(大溝清人)】
所持品:ブローニングM1910(18/21)
状態:良好
第一行動方針:馴染みのない相手(=バツ印)は消していく
第二行動方針:明日の集まりに参加する
基本行動方針:顔見知りを集める
最終行動方針:後の事は考えていない

【よゐこ 濱口優】
所持品:銛
状態:良好
第一行動方針:明日のため人を集める
第二行動方針:有野を捜し、指示してもらう
基本行動方針:(考えていない)
最終行動方針:(考えていない)

13 :名無し草:2007/08/16(木) 00:45:51
64 名前: ◆xCi5vGY7XY[sage] 投稿日:2007/08/16(木) 00:40:35

【現在位置:E6・元町】
【8/16 13:00頃】
【投下番号:244】

14 :名無し草:2007/08/16(木) 08:13:43
乙です
投下は色々確認してからの方がいいですよ

15 :名無し草:2007/08/16(木) 18:34:29
なんか微妙・・・
最近中田編の人、停滞してるよね

16 :名無し草:2007/08/16(木) 20:22:49
乙です
役者が揃い出した感じでwktk

17 :名無し草:2007/08/18(土) 23:00:21
保守

18 :名無し草:2007/08/19(日) 23:13:31
次からはこっちでいいのかな?
とりあえず>>1

19 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/08/20(月) 16:25:34
麒麟・ソラシド編
”思想家の朝”



本坊は説明書と睨めっこして、ピストルをいろんな角度にしていた。
「へぇ、案外軽いんやね。あ、撃った感じどんなんやった?」
「無我夢中やったからうろ覚えやけど・・・結構肩にくる。外れそうとまではいかへんけど」
へ〜、と興味津々な様子で本坊はベルトにピストルを差し込んだ。そうして大きく伸びをすると、そのまま仰向けに地面へ倒れこんだ。
コンクリートよりマシとはいえ、草もあまり生えていない地面はそこそこ硬い。頭は腕でガードして無事だったが、
明らかに痛そうな音がした。心配して川島が顔を覗くと、「いたた」と言いながら笑っているようだった。
「あはははは、めっっっっちゃ眠い!!」
そういえば、夜からずっと歩き通しで碌に寝ていないのだ。命の危険という極度の緊張から解放された事もあるが。
「川島ぁ、ここで寝てええやろー?」
「早速ここでか?」
「だって下手に歩き回るよりよっぽど安全かもしれへんよ?学校は禁止エリアなんやし、近くには人おらへんと思うしぃ」
それもそうだ、と川島は思う。わざわざ禁止エリア付近に近寄る人間は少ないだろうし、
本当は学校は禁止エリアではないという事を知っているのも自分達だけだ。
「川島は神経質やからどうせ寝れへんのやろ?僕が寝てる間見張っといてよ」
「・・・何か言い方腹立つわ」
流石にそのまま大の字で寝かすのはどうかと思った川島は、本坊の両腕を引き摺って近くの木陰に移動させた。
「そこで寝とけ!」
「うん、ありがとー」
そう無邪気に言うと、川島の傍らで本坊は横になった。川島は本坊の頭に付いた砂を適当にはたき落としながら、フウと溜め息をついた。
しばらくして、本坊のこめかみがピクッと動いたのが川島の右手に伝わり、静かに本坊は話し始めた。


20 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/08/20(月) 16:26:35
「なぁ、川島。僕の事こわい?」
「・・・怖ないよ」
「フフ、ほんまの事言うてよ」
「怖ないよ・・・今は」
「今は?」
「でも、それはお前が怖かったんと違う。自分が、自分が暴走するんが嫌やっただけなんや」
「初めて会うた時に僕以外の人がいたのも、首を絞めたんも?」
「・・・ああ。これに参加させられておかしなったのを、全部お前にぶつけてただけや。
 その一方で、変わってへんお前をうらやましいなとも思った」
「僕かて、どうなるかわからへんよ?」
「お互い様や。それを補っていけたならええと思う」
「・・・ありがと、ほんまの事言うてくれて」

礼を述べると、本坊は寝入った。
だが、川島は心情を全て吐露したわけではなく、都合の悪い事は言わないでしまっていた。(勿論言った事は全て本心であるが。)
それに川島は気付いていたし、本坊にも気付かれているのだろうという事は何となくわかった。
この時にそういった都合の悪い事もぶちまけてしまった方が健全ではあるのだが、
ようやく精神が安定し、冷静に自己分析が出来るようになった程度の川島にはそれは無理な注文だ。
本坊の規則正しい寝息を聞きながら、ゆっくりと空を見上げる。少し日差しが弱かった。


ジジジジと耳に直接響いてくる蝉の声で、川島は目覚めた。
知らないうちにウトウトとしてしまったらしい。

地面を見ながら薄目を開けると、前に人影が落ちている。
人影だけでも不気味であったが、それを凌駕する重圧があった。銃を突きつけられているのだ
おそるおそる人影が誰であるのか見上げる。その人物は川島も本坊もよく知る人物だった。
「しずちゃん・・・?」
日差しを遮る大柄な体格のその人物は、南海キャンディーズのしずちゃんこと山崎静代だった。

21 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/08/20(月) 16:28:42
「・・・何で、川島さんが本坊さんと一緒にいはるんですか?」
「しずちゃんは、ちゃんと放送聞いてたんやな」
川島は山里と本坊のやりとりを思い出し少し笑ってしまった。
「何の事ですか?」
川島の笑う理由がわからず、山崎は少し苛立った。
「いや、ごめん。こっちの事や。訳は話すから、とりあえず銃下ろしてくれへんか?」
渋々といった様子で、山崎は銃を下ろす。それを確認して川島は本坊生存の理由を話した。

「死なした事にしといて解放・・・ですか?信じられないですね」
「でも実際に、本坊は生きてるやろ?」
傍らの本坊は、2人などお構い無しにすやすやと寝ている。とても数回死にかけた人間とは思えない程だ。
「川島さんは・・・あの放送聞かはったんですよね?」
「うん、聞いたけど?」
「どう思わはりました?」
「どうって・・・」
変な声の言いなりになって飛び出した、と言っても信じてもらえないだろうと川島は思った。
「止めなあかん、て思って・・・わけもわからんと飛び出してきたんや」
そんな正義感強い奴ちゃうやろ?とまたあの声が囁くような気がした。
「そうですか・・・予想とは全然ちゃいますね」
「どんな予想してたんやな?」
「川島さんて根暗やし、そんなんせえへん人かと」
「・・・俺そんなに暗いか?」
あまりにも自然に山崎が言うので、川島は悲しくなった。
「すいません。てっきり、私と同じ様な考えかなぁ思て・・・」
「しずちゃんの考えって?」
川島が問うと、山崎は黙った。そしてしばらくすると静かに口を開いた。
「・・・その通りになったらええなって、思いませんでした?」
発言の内容もそうだが、山崎の表情が彼女独特の口角をゆっくりと上げてゆく笑顔であった事に川島は絶句した。
「私ね、本坊さん撃たれて泣きました。最初は悲しくて泣いてるんやって思ったんですけど、違ったんです。
 本坊さんの言うてはった事が実現されへんのやって思ってしまったから、泣いたんです」

22 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/08/20(月) 16:29:45
「・・・全員、死んだらええって?」
川島の問いに山崎は静かに頷く。
「もう、逃げるとか殺すとか、どうでもええと思いません?」
「生き延びようとする事自体が?」
「・・・無駄や、と思います」
昨晩の本坊の発言と重なるが、何故だろうか、川島は違和感を感じた。
「全部、なくなったらええんです。・・・今ここに敵がミサイル落としてくれたらええのに」
その山崎の発言で、川島は違和感の正体がわかったが、しばらく山崎の話を聞く事にした。
「よう言うやないですか?死んだ命は、未来の人の為になってるから、ちゃんと意味があるから無駄と違うって。
 戦死した人には、死ななければならなかった、そうせな守れへんかった国民の為に散った価値ある命やとか何とか・・・」
川島は珍しく多弁な山崎を真剣な眼差しで見つめる。

「・・・死ななあかんのやったら、最初から生まれてこん方がよかったのに」

川島がはっとなって山崎を見ると、山崎は表情を変えず涙を流していた。
「しずちゃん・・・」
「これに参加させられて、川島さんも”何で俺が?”って思わはったでしょ?」
「ああ、正直そう思たよ」
「私も、そう思って腹立ちました。山ちゃんなんか器ちっさいからふざけて、それで和田さん死んだんですよ?」
「・・・和田を山里が!?」
「あ、山ちゃん庇うわけと違いますけど、たけしさんが山ちゃんの首輪爆発さそ思たら間違えて
 和田さんのがそうなったんです。確かに原因は山ちゃんですけど・・・」
山里が睡眠薬を大量に飲んだ原因はわかったが、和田の事は正直知りたくなかった。
知ったからといって、どうにも出来ない事なのだから。
「山ちゃんがあんな事して、正直私もあいつ死んだらええのにってそう思いました。
 でも、山ちゃんかてパニクってあんなんしたんです。全部こんなんせえ言うた人が悪いんです。
 みんな、みんな無くなったらええのに」
山崎は遠くを見ていて、川島の目を見ない。
「本坊さんが死んだって聞いて、もう無理かと思たんですけど生きてはるんやったら話は別ですね」
山崎の視線がゆっくりと川島に向いていく。
そしてその視線の動きとは逆の素早い動きで、再び川島に銃口を向ける。

23 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/08/20(月) 16:31:02
「しずちゃん!?」
「川島さんが死ねば、また本坊さんはあの時と同じ事をしてくれますかね?」
「やめ・・・」
「生きてたかて、どうせ無駄でしょ?」
”無駄”というフレーズが川島に取り憑いた様に響く。

「違うっ!!」
叫びながら川島は山崎の銃を抑えて、木に押し付けた。
急に来た背中の衝撃に、山崎は悲鳴もあげれずゲホゲホと咳き込んだ。
痩身の川島から発せられているとは思えない程の力に、山崎は恐怖した。
「しずちゃんと、本坊の言ってる事は違う」
「・・・どう違うんですか?」
「あいつは参加者全員を殺したい訳と違う。水口を優勝させたいんや。
 水口に優勝してもらって、前の全滅プログラムみたいにしたらあかんて・・・」
「・・・それが何やっていうんです?1人残るか残らへんかがそんな違うんですか?」
「本坊には大分違う事みたいやけど、俺にはそんなに違う事とは思われへん」
「はぁ?」
意味がわからない山崎は、先輩の川島に向かって馬鹿にするような声を発してしまった。
「しずちゃんの言う事も、本坊の言う事も、俺には正しいと思われへん」
「それやったら・・・何で本坊さんと一緒にいはるんですか?」
「水口に会わせる為・・・それに、あいつに死んで欲しくなかったから」
「・・・何ですか、その理由」
「もちろん、それはしずちゃんも一緒やで」
「はっ、あははは!」
山崎の高笑いに川島が油断したその時、山崎は抑えられたままの銃の角で、川島の側頭部を殴りつけた。
川島は吹っ飛び、思い切り地面に叩きつけられた。落ちた銃を山崎が素早く拾い、形成は逆転した。
川島は左手で頭を抑えながら、覚悟を決めた。だが、
「何してんの・・・あれ、しずちゃん?」

24 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/08/20(月) 16:32:03
寝ぼけ眼の本坊が弱々しい声で割って入った。何が起きているのかわからずキョロキョロしている。
それを見た山崎は静かに銃を下ろした。
「・・・川島さん。本坊さんの考え変えるん、やれるもんやったらやってみて下さい」
「俺を殺さんでええんか?」
「ええ、よく考えたら川島さんにそれが出来ると思えへんし」
「・・・しずちゃん、良かったら一緒に」
「遠慮しときます。誰とも一緒にいるつもり無いですから」
そっと山崎は後ずさる。
「なぁ、しずちゃん。どこ行くん?」
まだ脳が完全に目覚めていない本坊を置き去りにして、山崎は森を後にした。

「しずちゃん来てたんやったら、何で起こしてくれへんかったんよぉ?」
山崎が川島を殺害しようとしたなど予想もつかない本坊は、自分だけ仲間はずれな事にむくれていた。
「ごめんな、よう寝とったもんやから」
「もうええけどさ・・・あ、しずちゃんと何話したん?」
「・・・お前の事や。話したがってたわ、しずちゃん」
「ええ〜、起こしてくれたら良かったやんか!それやったら」
ズキンと、川島の側頭部が痛んだ。
「いや、これでよかってんや・・・きっと」
こめかみをさすりながら、川島は言った。
「・・・変なの」
そう呟くと、本坊はつまらなさそうに欠伸をした。

25 :名無し草:2007/08/20(月) 16:36:28
【ソラシド 本坊 元児
所持品:ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:水口を捜す
第一行動方針:上に同じ
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】
【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 
基本行動方針:自分の精神を保つ
第一行動方針:本坊と水口を会わせる
第二行動方針:
最終行動方針:まず第一目標を達成してから】 
【南海キャンディーズ しずちゃん(山崎静代)
所持品:リベレイター
基本行動方針:単独行動
第一行動方針:誰とも行動しないから、誘われても断る。
第二行動方針:
最終行動方針:みんな滅びればいいのに】 

【現在位置:H-6】
【8/17 10:28】
【投下番号:245】

>>13
投下乙です!
清人がらしいなと思いました。伏線が張り巡らされているだろうから、見逃さないようにせねば。

26 :名無し草:2007/08/20(月) 18:25:53
久々の投下キテター!
ついにしずちゃん登場かー。やっぱらしいなー。
しずちゃんとの出会いが二人にどう影響を与えるか期待

チラ裏
>”無駄”というフレーズが川島に取り憑いた様に響く。
この一文を見たとき
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――――ッ!!!」てのが思い浮かんでしまったww

27 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/20(月) 23:50:15
始めっからおかしいと思うべきやったんかな。
久しぶり過ぎていつ振りか覚えてないほどの全国放送の仕事。
30もとっくに過ぎてバイト生活な自分が、そんなところに呼ばれるとは思ってなくて、本気で喜んだやけど。
何年か前にオールザッツに出るために買ってずっと押入れの奥にしまっといたスーツをクリーニングに出して。
「それでこのジャングルって何やねん!」
一張羅のスーツに合わせてピッカピカに磨いてきた革靴が台無しや。


辺りにはまだ静寂が立ち込めていた。
木々の合間には息を潜めて相方を待つ芸人たちがいるのかもしれないが、
そのまま歩みを止めることなく学校から離れることに全力を尽くす。
靴を透過してアスファルトの熱気が足裏に伝わる気がした。暑い。
汗を裾で拭おうとして思い止まる。クリーニングに出したばっかりで、まだ汚す気になれなかった。
照りつける太陽をじっと睨みつけようとして、汗が目に入るだけだと諦める。
だが上を向いたのには利もあった。日光を反射するガラス。
無機質なレンズは何気なく後藤を視界に収めていた。
今まではどれほどそのレンズの中に自分の姿が映っていればいいと祈ったのだろうか。

28 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/20(月) 23:52:26
いや、今も映っとったらええなと思う。せめて家で奥さんが心配しながら見てとるんやないやろうか。
でも、今は名前を読み上げられた芸人たちのリアクションをずっと流しとるのかな。
生中継ならそうかもしれんけど、録画放送なら自分の映像を映しとるとは考えられへん。
どちらにしろ。
バイトじゃなくて芸人の仕事だけで生活しようって、その夢は途絶えた。
体力は若い奴には勝てんし、信頼出来る相方もおらん。
元相方とは仲ええけど、教室で姿を見た限りはあいつは自分のリーダーの責務を全うしようとしてた。
なんで自分が、と思う。同期のメッセンジャーはもっと売れとって、名前も知られとって。

思考の澱は両肩に圧し掛かる。
自分が呼ばれたのは必要な人数を揃えるため、だろうか。
人々に衝撃を与える死体の数を揃えるために、死んでも支障がなさそうな自分を。
後藤秀樹という芸人は、もうこの世界に要らないんだろうか。
目から流れるように見えるのは汗だけではない。もっと塩辛くて世知辛い。
躯に宿る熱は絡み付いて重かった。

29 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/20(月) 23:55:47
今のままやったら、と頭をフル回転させる。
死んでもその死に際が流されるとは限らない。いつのまにか死んでた、なんてことになりかねない。
ダイジェストで一瞬静止画が流れるだけ、なんて可能性は十分ある。
芸人としての自分を愛して結婚してくれた奥さんに対して最後に出来る事は、
せめて華々しく全国が注目する中で動向が流れ、死が大きく取り上げられること。
人数合わせの自分が出来る、主催者に対しての一番の抵抗。
そのためには、売れっ子の芸人に関わるのが早い。
仲間になれれば中継で一緒に映れるだろうが、信用してもらえるとは考え難い。
機会があれば試すべきだろうけれど。
人を殺したって映るのは一瞬だし、
生き残れないと分かっているんだったら周りの人間を哀しませるのは割に合わない。
だったら売れっ子をストーカーする。その構図ならうまくいく気がした。
ジリジリと後ろから狙う影、視聴者をひきつけるならお誂え向きだ。

やることが決まったら早い。後藤は踵を返すと出発地点に戻って良さげな芸人を探すことにした。
自分がテレビに映るかもしれない、と思うと少しウキウキしている。
オンエアを確認出来ないことだけが残念でならない。
芸人をストーカーするからには見つかってはならないと、小さな繁みや木に姿を隠しつつ進む。
手に触れる樹皮の感触は、小さい頃に地元でカブトムシを取りに行った時の感触と変わらなかった。

30 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/20(月) 23:57:51
が、本人が慎重に進んでいたつもりでも実際は隙なんて数え切れない程。
それどころか自らの視界だって信用出来ないのだ、実際のところ。

木と木の間を飛び移るように動く。
敷き詰められているかのように散乱している葉で自らの所在がばれないように足音にも気をつけながら進む。
しかし、進行方向途中で間隔が一気に広がった。次の姿を隠せそうな木までは5mといったところだろうか。
繁みに体を隠せばいける、と腰を屈めて一気に走りぬけようとする。

「………」

駆け抜ける途中に思い切り目が合った。
長いオールバックの黒髪の下には無害そうな双眸。黒いTシャツが陰になって分からなかったのだろう。
どう対処すべきか迷って、見なかったことにしようと決めた。
「なんかお前を売れっ子って認めるの癪やわ」

「はぁ!?」
走り去る寸前に後藤が零した嫉妬含みの言葉に、長州小力は何が目的だったのだろうとただ首を傾げた。

【後藤秀樹】
所持品:不明
状態:良好
第一行動方針:売れっ子芸人を発見次第ストーキング
基本行動方針:テレビになるべく映る
最終行動方針:華々しい最期

【現在位置:H-6】
【8/15 13:40】
【投下番号:246】

31 :名無し草:2007/08/21(火) 01:31:42
>>30
新作乙です!
後藤……キモスw
そうまでしてテレビに映りたいのかw

32 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/22(水) 18:51:11
プラン9、ギブソン編

君に最終的なquestion、どこに存在するかheaven?

コンクリートで建てられたホテルから一歩外に足を踏み出すと、灼けるような日差しが全身を照らす。
昨日は蒸し過ぎた熱帯夜で、気持ちよく惰眠を貪れたはずもなく寝不足気味の眼に、この光量は必要なラインを軽く超えていた。
まるで舞台で独りスポットライトを浴びたような。
…今までそんな経験数える程やけどな。しゃーないよ。俺は一番下やもん。
瞼を閉じてもそのまま突き抜けていくような強い光に、眩しくて思わず右手を翳して熱線を遮る。
血がこびり付いたTシャツは大量に持ってきた食塩水で洗っておいたため、
血の跡は消えていたが乾ききっていないために肌に湿ったまま張り付く。
だがこれから汗を大量にかくであろうこと考えると、乾いていても変わらないと諦め。
前髪を目に掛かるように前に垂らすと、足音を立てぬようにと脱いで左手に持っていた靴を地面に放り投げた。
通り抜ける風は、生温い。

"独りにならんとあかん"
千切れてしまいそうな思考回路が導き出す唯一の確固たる決意はそれだけだった。
誰の視線も浴びず、誰の思考にも汚染されない空間。
おかしいやろ、と呟きながら柳谷は靴を手早く履くと、とんとんと爪先で地面を蹴る。
舗装されていない道路は一歩ごとに足音を立てるのが気になった。
違和感。それはメンバー4人とも死に抵抗感が薄いこと。
願いはそれぞれ異なっていたとしても、4人とも自らの死を前提とした上で思考して行動していて。
あの空間に居たら、自らの生還を諦めてしまいそうで。
戻りたい居場所も、まだ達成してない夢も、まだ諦められない。
5人で行動していて、自分が生還出来るとはとても思えなかった。
そう思って、肩の荷物を掛け直すと歩くスピードを速くする。

33 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/22(水) 18:54:04
全員、俺の命は優先順位の筆頭にはしてくれん。もっと大事なもんがあるから。
苦笑だけが小さく漏れる。
「僕が死にたない、優勝してでも元に戻りたい言うても笑って許してくれはるんですか?鈴木さん、浅越さん」
そう嘯くと、荷物を背負って木々の切れ間に見える観覧車を目指して歩み始めた。
乾ききった土は一歩足を踏み出す毎にサクサクと小気味良い音を立てる。
目立つ遮蔽物はなく、無造作にデイパックに突っ込んだ斧だけが生命線。

本来1人で行動するなら、どこかに隠れるのが最善なのだろうが生憎移動にも危険が付きまとう。
既に太陽はすっかりと島全体を照らしていて、紛れるような影さえ少ない。
ならば次善の場所と考えたのが、禁止エリア周辺である。
禁止エリアに移動して自殺志願するような輩がいるとすればもう既に死んでいる時分で、
普通の参加者であれば禁止エリア近くに留まって、襲われた時の逃げ道を少なくするようなことも好まないはずだ、と考える。
だがそんな柳谷の行動を見透かしてでもいたようにな障害が目の前にあった。

「分かりにくっ!!」
デイパックから無造作に取り出した紙切れ1枚。
手元に広げた地図に描かれた記号を指で辿る。北北東に灯台、真東にはホテル。
元々地図を眺めるのが好きだった柳谷にとって、一般的に余り馴染みの地図記号であっても知識の範囲内で。
だが建築物の位置関係ならそれなりに分かるのだが、肝心のブロックごとの境界線が分かりにくい。
柳谷が目指しているのは始めの方に禁止エリアになったC2の境界線。
遊園地の中を境界線が走っているのだけは分かるのだが。
「アトラクションとかこう…見取り図みたいにしたって十分な大きさあるやろ」
詳しい地図は余計な情報とでもいうのだろうか。参加者が事前に計画を練られるのでも恐れているのかもしれない。
どちらにせよ地図を前に文句を垂れていても仕方がない、と出来るだけ視界の開けた場所を避けながら歩みを進めた。

34 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/22(水) 18:56:00
周囲の地形と照らし合せながら建物を目印にしよう、と地図を見ていた顔を上げると、視界に入るのはホテルと病院。
眼窩を殴られたような衝撃が走り、体力を消耗しきった体がよろめいた。
目元を手で押さえて。一瞬でも気を抜いてしまった自分に嫌気が刺す。
過去はやり直し出来ない、自分の犯した行動には最後まで責任を持つ。
分かっていても。
単純に自分は逃げているのではないかと自問しかけ、慌てて首を振る。
何も悪いことはしとらん。…はず。思い込むだけじゃない、実際に。
不安感など潰した先から出てくるのは当然で。
頬を両手で強く叩く。
俺は独りやから自分で対処せなアカンのに。自分を抑えるくらい簡単に出来なくちゃアカンのに。
再度顔を上げると、もう衝撃は来なかった。

此処では殺人は容認されとるから、と自分を落ち着かせようとして矛盾に気付く。
殺人を容認して率先する人間から自分は逃げてきたはずなのに。
考えるほど泥沼に嵌まっていく心地がする。逃げようと思っても足を掴まれて道連れにされているような。
もしかしたら既に無限の回廊の中にいるのかもしれない。
そう考えから、無駄なことを考えたと自分を哄笑する。
目がどうしようもなく乾き、思い切り目を瞑った。
暫くして目を開けると壊れた意識が侵蝕して、視界まで混濁するような錯覚。
しかしそれはあくまでも錯覚にしか過ぎず、すぐに現実は元の姿を取り戻した。

35 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/22(水) 18:57:27
いくつかの建物の位置関係を参考にしながら、少しずつ禁止エリアに近付いていく。
あと数メートルは平気だろう、と自分の判断だけを信じてジリジリと歩みを進めた。
失敗すれば命を失う賭けに、心なしか息が詰まる思いがする。
汗で湿り、張り付くTシャツに新たに脂汗が染み込んでいく。
おおよそギリギリと思うラインで立ち止まると、
近くにあったアトラクションの管理小屋に人影がないのを確認して扉を開けると、蒸すような熱気に襲われた。
備品は跡形もなく片付けられていて、2人もいれば一杯になってしまうであろう小屋も、
椅子と机が一脚しかないせいで身を潜めるには少し大き過ぎるように見える。
だが日陰になっているだけで贅沢だと思わなければならないことは承知していた。
さっと事務椅子の上の埃を拭って腰掛ける。緊張したいた筋肉が解れる心地がして、
ややもするとそのまま眠りについてしまいそうだった。眠いのだ。
先程まで炎天下にいたせいで、日陰というだけで心地良い。
だが眠ってしまえば隙だらけというのは分かっていて。
分かっていても身体はゆっくりと揺れる。
揺れるのが心地良くて、いつのまにか緊張の糸は切れてしまっていた。

次に目を開けた時も、まだ太陽は中天に駆け上がる最中だった。
あまり時間は経っていなさそうだとはいえ、迂闊にも寝てしまった自分の愚かさに嫌気がさす。
独りで生き残る為には、気を強く持つことは不可欠なのに。

ガシガシと髪を掻き毟りながら顔を上げると、独り辺りを見回しながらを進める人影が見えた。
丸々とした顔の下には同じく弾力の良さそうな胴体が繋がっている。
ピチピチの黒いTシャツは硝子越しにでもはっきり分かるほどに汗で濡れていた。
よろけるような足取りは、熱に魘されているのか水の巡りが悪いのか。
暑ければせめて真っ黒なそのTシャツだけでも脱げば良いのに、と思うがそんなことは思いつかないだろうな、と
彼の思考の程度を知っている立場から考える。
何と言うか…色々とモノを知らな過ぎるのだ。
声を掛けるべきか、掛けないべきか。

36 : ◆pwreCH/PO6 :2007/08/22(水) 18:59:01
判断を下すべき瞬間は刻一刻と迫っていた。
黒いTシャツを着た男、りあるキッズの長田は一歩一歩近付く死の影に気付いているのか気付いていないのか、
禁止エリアへと淀みなく歩いていたからである。
声を掛ければ命の恩人、声を掛けなければライバルが一人減る。

さぁ、進むべき道はどっちだ?
Show me the way.

ザ・プラン9 ヤナギブソン
【所持品:照明弾(4/5) ジッポライター 斧
第一行動方針:ゆうきに声を掛けるべきか否か
基本行動方針:とにかく生き残りたい
最終行動方針:生存】
【現在位置:遊園地内(C3)】
【8/16 10:30】
【投下番号:247】


37 :名無し草:2007/08/22(水) 21:38:49
>>36
投下乙です。
ギブソンに危険臭が!
独りで居ると選択したことがどう転ぶのか……楽しみです。

38 :名無し草:2007/08/22(水) 21:54:18
プラン編連投ktkr
ギブソンが1番感情移入しやすいから、登場心待ちにしてました。
りあるキッズが絡むのか・・・どうなることやら。

39 :名無し草:2007/08/23(木) 23:30:50
しばらく来てない内にこんなに投下されてるとは

書き手さん乙です

40 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/24(金) 00:31:48
前スレッド、>>520の続き


歩き続けること、1時間半。2人はどんどんと海辺の方へ歩いていくが、兵士と出会う気配は全く無い。
それどころか他の参加者たちと会うこともなかった。
禁止エリアには確実に近づいていると言うのに、何故兵士が一人も見えないのだろう・・・。
升野が禁止エリアとの境目に立ち、辺りを見回すが、兵士の居る気配は無い。
安田も探し回っているが、兵士どころか参加者すらも居る気配が無い。
集落ほど便利の良い場所は無いと思って、ここに最初に来たのだが、二人の予想ははずれていたようだ。
「誰も居ませんね」
「ってことは、ここはハズレエリアか」
地図とペンを取り出すと、『J6』に『ハズレ』と小さな文字で記した。
「他の場所にも誰も居ないみたいだし、別の場所に移るか」
必要事項だけ書いた地図をリュックにしまい、升野は再び安田の手をとった。
まだ完全に息が整っていない安田は、少し休憩をとりたかったが『ここで止まるのは危ない。ゆっくり歩くから』と言う言葉を受けて、再び歩き始めた。

その言葉通り、升野はかなり遅いペースで進んでくれた。
休憩は全く取らせてもらえなかったものの、ゆっくり進んでくれたおかげで、安田は息切れを起こすことはなかった。
「君にはこのペースが合うみたいだね。それじゃあ、少し時間はかかるけど、この速さで進んでいくことにするよ」
「あ・・・、ありがとうございます」
最初に罠に落とされたときはどうなるかと思ったが、こうやって自分に合わせてゆっくり歩いてくれたり、仲間を殺さないと言っているのを見ると、人間的には悪い人ではないようだ。
多少言葉は悪いし、やることも無茶苦茶なときがあるけど・・・、悪い人じゃない。
「(単にこの人は不器用なだけや。ホンマは凄い優しい人や)」
安田はいつしか、そう思うようになっていた。
この優しさの裏に隠された、升野の本当の企みに気付くこともなく。


41 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/24(金) 00:32:44
集落を抜けて30分。2人は山に向かう道を歩き続けていた。
次の目的地である『元町エリア』まで、ただひたすら歩いていった。
敵に見つかる可能性があるからと、休憩を取ることもなく。

安田は長田が心配であったけれど、升野が『兵士と主謀者を全員殺す』まで自分を解放しないことは分かっていたので、今は彼に従うしかなかった。
「(頼むから、無事でいてくれ。長田・・・)」
何処へ居るのか分からない相方の無事を、ただ祈ることしか出来ない安田。
一方の升野は、そんな安田の思いを知る由もなく、兵士を殺すための方法を考えていた。
「(後ろから刺し殺す方法もあるけど、やっぱり銃があった方が良いな。あいつらと戦うには短剣は不利だし)」
彼の武器は真新しい短剣2本なので、至近距離に居る人を殺すことは可能である。
しかし、離れた敵への攻撃が出来ないという致命的な欠点があるため、銃を武器とする兵士と戦うことは出来ない。
相手の銃を奪えば話は別だが、それをする前に殺されるのは目に見えている。
現時点での相方・安田の武器も相手にダメージを与えはするが、これも離れた場所に居る敵には、使用することの出来ない武器だった。
「(圧倒的にこっちが不利だ。どうすべきか)」
升野は頭の中にいくつかのアイディアを浮かべると、使えそうなものを選び、1つの計画として組み立て始めた。


「(まずは参加者――ターゲットはもう長くは持たない人間――を探す
『仲間を救いたいので手伝ってほしい』と相手を騙し、一緒に兵士の元へ向かう
兵士と出会ったらその場で俺らを守るように指示し、参加者と兵士と戦わせる
自分たちはその隙に遠くへ逃げる・・・・・・もちろん、騙した奴は置いて)」


参加者、兵士ともに殺すことが出来て、ある意味では一石二鳥の作戦だ。
問題はいかに安田に気付かれないように、作戦を実行するかと言うこと。
彼には最後の大仕事を任せるつもりでいるため、ここで逃げられては元も子もない。
どうすれば安田を騙しきれるか・・・。升野はそのことに考えを張り巡らせた――。


42 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/24(金) 00:36:02
【バカリズム 升野英知】
所持品:短剣2本。他は支給品以外、不明。
状態:生存。
第一行動方針:利用できる参加者と兵士を探す。
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバックのみ。詳細不明。
状態:生存。
第一行動方針:まずは升野に従う。
基本行動方針:長田を探す。
最終行動方針:長田と合流し、2人で最後まで残る。
【現在位置:集落〜林(J7〜H7付近)】
【8/16 12:00〜13:00】
【投下番号:248】


第2話投下です。短いけど今回はここまでで。
陣内・コバヤシ編はいきなり合流したところから始めます。合流前の様子はコバヤシさんの相方が少なからず絡んでくるので、今のところ投下予定はないです;
ある事情で升野さんの武器がスタンガンから、短剣に変わっています。混乱させてすみませんorz

43 :名無し草:2007/08/24(金) 00:50:05
>>42
新作乙です!
升野はやっぱ策略家かー!
誰が利用されてしまうのかwktk!

44 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/24(金) 15:41:44
短いですが投下番号184の続き、キングコング西野編いきます。

『取り戻す』


――運命を恨むより先に、打開策を探したい。
いつまでも悩み続けるぐらいなら闇雲にでも動いた方が良いと思っているから、そう考える事は当然だったのかもしれない。
ただ、行動に移すには少しだけ、否かなり出発時間が遅すぎた。彼が待機していた3時間、その間に失われた命は彼が想像していた以上に多い。

その光景が反抗は無意味だと告げているように思えて、彼は逃げるようにそこから離れた。
ショックを受けながらも冷静にそれが誰であったかを確かめられた自分は既に狂っているのだろうか?
――逃げた先にも面識のある人間の死体があったという事は、できるだけ思い出したくない。
そんなこんなでいっそ死んでしまおうかとまで思っていた彼に落ち着きをもたらしたのは支給品だった。
最初は仲間集めを目的としていた彼にとって最高と言ってもいい、簡易レーダー。誰が無事なのか、どこにいるのか分かる、その事実が彼の進むべき道を示しているような気がした。
(俺は仲間を探す、絶対に諦めたりなんかしない。せやから少しだけ待っててな、すぐ迎えに行くから)
死にたくないし殺したくもない、だから彼は殺す事でも死ぬ事でもない第三の選択肢を探す。
どんなに難しいと思われる事も実際にやってみなければわからない、ならばやってみようじゃないか。動かないものに待っているのは死だけなのだ。

時計を見ると既に4時を過ぎていた。我ながら立ち直るのにかなり時間がかかったと彼は思った。
レーダーは時々バグで表示が消えたり戻ったりを繰り返しながらもいくつかの番号を映し出している。
本当はすぐにでも相方の元に向かいたいのだが、学校であんな事を言ってしまったからには誰か連れて行きたい。



45 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/24(金) 15:43:20
「みんな大丈夫なんかな……とりあえず誰でもええから合流せな」

レーダーに表示されている数字のうち、幾つかは赤色で表示されていた。赤い数字の多さに驚きつつ、それでも名簿を見て誰か確かめようとは思わなかった。
結局は第三の選択肢を探すのも名簿を見ないのも傷付きたくないからなのだけど、どんなに傷付いたとしてもそれを諦めるつもりはない。
完全に元通りにはなれなくても、それでも取り戻したい物がある。それが彼を動かす原動力となっているのだ。
生きてみせる。そして絶対に元に近い生活を取り戻してみせる。その為にも仲間を探す。
他人を殺してまで生き残りたいと思う程自分は勝手ではないのだ……多分。だから、その為にも出来るだけ他者と接触したい。

「とりあえず北、がええかな。元町とかホテルとか人が集まりそうやし、学校周りは危なすぎるし」

決意を持って歩き出す。彼は確かな希望を持っていた。


――生きたいし生きてほしい、死にたくないし死なせたくない。
そう思う人はいるはずなのだ、彼がそういう人間に出会えるかどうかは別として。



46 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/24(金) 15:48:04
【キングコング 西野亮廣】
所持品:簡易レーダー
第一行動方針:人が集まりそうな北へ向かう
基本行動方針:出来るだけ多くの人と接触し、信頼できる人を集める
最終行動方針:出来るだけ大人数で生きて帰る

【現在位置:森(G5北・川の近く)】
【8/15 16:21】
【投下番号:249】

なんか次が読めそうな展開&支給品被りすみません。

47 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/24(金) 19:03:00
>>43
ありがとうございます! そう言って頂けると、書いた甲斐があります。
升野さんには、参加者たちをしっかり使ってもらう予定です。
最初のターゲットはあの方ですが、どう使われるかは投下まで内緒にします。

>>46
西野編、待ってました!
彼の本心が伝わってくる文章に、思わず引き込まれました。
どのように仲間を説得(?)するか、また仲間が彼の言動をどのように感じるか、とても楽しみです。

48 :名無し草:2007/08/24(金) 21:10:56
>>46
投下乙です!
どんな風に西野の希望が崩れるか(?)…楽しみにしてます。

49 :名無し草:2007/08/25(土) 01:54:25
>>46
投下乙です
西野の今後にwktk

50 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:46:46
前スレ>>503-512続き  太田編


『Someone Like You&The Third Man』


相変わらず空は晴れ渡っている。
もっとも他に何も入る余地も無い程に青で張り詰めていたはずの空は、徐々に橙に染められつつあったが。
尚も私は森の中を当てもなく歩き続けていた。
昼間よりは大分マシになっては来たものの、森の中は依然として濃密な熱気に包まれている。
しかも相変わらず蚊が縦横無尽に飛び回ってる。
しかし私の中に不快感は湧かなかった。
むしろ私の心は大好きな映画が始まるのを待つ時のように、期待を抱きつつ焦れていた。
歩けば歩くほどに好奇心が膨れ上がっていく。
誰かに出会った時、そいつはどのような負の感情を示し、どのような死に様を見せてくれるのか。
またそれを見て私は、どのような感情を得る事が出来るのか。本当に死の恍惚を得る事が出来るのか。
今までは知りたくても知る事ができなかった”死”の魅力。それを知るのが楽しみで仕方が無い。
余りにも魅力的な暇潰し。考えているだけで頬がだらしなく緩んでくる。
これ程濃厚な時を過ごすのは本当に久しぶりだ。
ここ数年あんなに進むのが早かったはずの時間が、こんなにも遅く感じる。
だからこそますます期待と焦燥が膨れ上がる。
猿橋を殺してから二時間以上経っているというのに、誰にも会えていない。
ああ、今生きている者共よ、私のところに早く来い。
もっと死が見たい。猿橋だけではサンプルが余りにも足りない。もっと死に様を見せてくれ。
子供の頃友達とイタズラを繰り返した時のように、中学の頃たけしさんのラジオを聞いていた時のように。
私の心はワクワクした感情で満ち溢れていた。

そんな時、私は足元の草むらに、何やら光るものを発見する。
注意深く周りを確認しつつ、その光に目を凝らす。
光の発生源は、火が消されないままに捨てられていたタバコの吸殻だった。銘柄はマルボロメンソールライト。
煙を燻らせ続けるそれを見て、私の心が一気に高揚する。
これはまさしく、人が居る証拠。

51 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:50:13
しかもまだ火が点いているところから見て、ごく直前まで居たに違いない。
顔を上げ、さらに目を凝らしながら周囲を見回す。
すると一点、そこだけ空気が凝縮された空間を発見した。
その空間の持ち主は、待ち侘びていた人間の後姿だった。

そいつはよどみなく歩いていた。
そいつが草を踏みしめる音が、小さく、でもはっきりと聞こえてくる。
ざっ、ざっ。
その音にまぎれて、私はゆっくりと忍び寄る。
そいつはどうやら私と同じように銃を持っているようだ。
反撃をさせないためにも、気づかれずに一撃で当てる必要がある。
両手で銃を構え、慎重に、慎重に私は歩を進める。
さて、どうしようか。一発で殺して早く解放してやるか。いや、それではやはりつまらない。
一撃で死ねず、瀕死になったそいつの死にゆくさまを観察する。これでよし。
ついにお待ちかねの瞬間が見れる。
興奮が限界まで高ぶりつつあったその時。


そいつがゆっくりと振り向いた。


しまった、と私は思った。慎重に、なりすぎたか。
そいつははっきりと銃を私に向けていた。そして同時に、吊り上がった目も真っ直ぐに向けていた。
見覚えのある顔だった。逆立てられた髪が、どことなく悪魔を連想させる男。
自分と同じ、ダーティーなボケを嗜む男。
銃を構えた私に向かい、そいつはゆっくりと言葉を吐き出す。
口の間から、彼特有のすきっ歯が覗いていた。


「子供の頃、カエルの解剖をした事がありました。その時です、覚醒が始まったのは。
 それから人の命も同じように価値が無いことを知り、今では人が死んでも何も思いません。
 そう、蚊を叩き潰しても何も感じないようにね」

52 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:52:00
そう言ってそいつは皮肉げに笑い、銃を持ってない方の手で体にまとわりつく蚊を叩き潰した。
それを見て、私は心中でくだらねえと一蹴した。その程度でびびるとでも思っているのか。
大層な事は言ってるが、何の事はない。こいつがコントの中で言っている台詞に過ぎない。


インパルスの、板倉俊之。


「何言ってんだテメエ」

特に動じる様子も見せずに返してみせる。
それに対し板倉は、一瞬当てが外れたかのように表情を固めたが、すぐにまたにやりと笑った。
それを見て私は気づく。
その目に示されていたのは、単なる警戒心だけではないようだった。
それは一種の、得体の知れない感覚的快楽。
もしかして、こいつも私の同類だというのか。
ざわりと木の枝がゆらめき、ますます我々の存在する世界が孤立していく。
くく、と気を引くように含み笑いをすると、さらりと板倉が答えた。

「ただの冗談ですよ。……誰かと思ったら太田さんでしたか。その様子だと殺し合いに乗っているようですね」

見抜いてやがったか。相変わらず食えない奴だ。
まあいい。答える義理はない。どちらにしろ、こいつはここで死ぬのだから。
ただ、それには向けられた銃が邪魔だ。

「そう言うテメエはどうなんだよ?テメエはこれまで何してたんだ?」

私は問いを返す。
質問によって隙を窺うのが目的だが、純粋に気になったというのもあった。
こうなったらこうなったで、じっくり聞き出してから殺すのも悪くはない。こいつなら面白い話が聞けそうだ。
広い額で木漏れ日を反射させつつ、板倉はあたかもそれ自体が別の生き物であるような口を開く。

53 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:53:39
「さあどうでしょうね。何してたと思います?」

とぼけた口調で奴は聞き返してきた。
その舐めたような口ぶりにますます私の知的好奇心がくすぐられる。

「……はぐらかすんじゃねえ」

わざと不機嫌っぽさを出して咎める。まあこの程度ではこいつは動じないだろうが。
奴は、くるりと銃を一回転させて答えた。

「この場において、一番の相方は誰だと思います?ピンでなければ、いつもなら相方っていうのはコンビとかを組む相手の事ですよね。
 太田さんにとっては、田中さん。僕にとっては、堤下。でもこの島では違う。
 この場における相方とは、武器の事です。スタートする時に支給された、武器。
 そして僕の相方が、このワルサーP99……だっけな、です」
「当たり前のことを言ってんじゃねえよ」

途中で茶々を入れてやる。しかし板倉は平然とした様子で続ける。

「この相方であり、しもべであるものと共に、僕らは何をすればいいと思います?
 忠実なる我がしもべよ、悪しき者を倒せとは言いますが、この場における悪しき者とは一体誰の事でしょうかね?
 たけしさん達の事でしょうかね?それとも、僕らが生きる事の障害になる、他の芸人の事でしょうか?
 太田さん、そこらへんどう思います?」

それは、まるでおもちゃで遊んでいるかのような、酷く楽しげな口調だった。
その言葉と共に映し出される表情には、相変わらず涼しげな笑顔が張り付いている。
その笑顔は、どう考えてもこの状況における普通の人間の表情とはかけ離れているものだった。
私はまたしても得体の知れない何かを感じた。
そうだ、私は最初に奴と共演した時から感じていたっけ。この奇妙な感触を。
軽い浮遊感、そして不快感が湧き上がってきた。板倉俊之、こいつはこのような男だったか。
またざわりと木の枝がゆらめいた。汗が額から目に入り込むのを感じる。
銃を向けたままなるべく早く目を擦ると、私は吐き捨てた。

54 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:55:11
「そんなもん知るか」

誰が悪しき者か、そんなのどうだっていい。
私はただ、思うがままにやりたい事をやって、そしてみっちゃんの元に帰る。それさえ出来ればいいのだから。
板倉はそれに対しこけた頬を膨らませてなるほど、とだけ呟く。
そして今度は、ふ、と笑った。
今度その笑みに込められたのは、悪意か、それとも侮蔑か。
何とでも思え。どのみちお前はここで私に殺されるのだから。そう思った時だった。
予想外の事を、板倉が口走った。

「……太田さん、あなたと僕って、どことなく似てるような気がしません?」

蝉と蚊の鳴く声が、一気に静まったような気がした。
こいつと私が似てる、だって?

「……ふざけんじゃねえぞ」
「結構共通点あるじゃないですか。同じ埼玉県出身だし、喫煙家だし……
 何より太田さんも僕も、結構芸風似てるじゃないですか。相方をいじって、社会をいじって、割とヤバいボケをして……」
「……黙れ」 

無性に不愉快だった。異常に不可解だった。
埼玉出身の喫煙家なんて掃いて捨てるほどいる。それを共通点に無理やり結びつけるのがちゃんちゃらおかしい。
強引な理屈に反吐が出る。
だが、何より苛立つのは。

「このバトルロワイヤルにしても、他のみんながタブーとしたり、精々ライブでこっそりやるのにとどめているのに、
 僕達くらいですよね?カットされる事がほとんどにしろ、テレビで堂々とネタを隠れ蓑にしておちょくってるのは。
 そのせいで、お互い政府からも散々睨まれたりして。
 今回のバトルロワイヤルも、案外太田さんや僕とかを抹殺するためだけに開かれたのかもしれませんよ?
 節目の回だというのに託けて、危険思想家を排除しようと政府が考えてもおかしくはないはずです」
「……五月蝿い」

55 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:56:23
その舐るような、弄ぶるような、老獪で、それでいてどこか子供じみた話法。
見事なトレース。
認めざるを得ない事実だった。
強引な理屈を引用するまでもない。
似ているとかそういうレベルじゃない。


私とこいつは、同類だ。


「太田さんだって、気づいてたんじゃないですか?」


板倉俊之は、不敵に嗤った。

 
不快感と比例するかのように、好奇心が異常な速さで増幅されてゆく。その奇妙な矛盾に打ち震えた。
こいつはいい。ぞくぞくしてきた。震えが止まらない。
面倒な野郎だが、この男は格好のサンプルになりそうだ。
この傲慢不遜な若造が自らの死に触れた瞬間、どのような顔を見せるか。
今すぐにでも鉛の塊を奴に味わせたい衝動に駆られる。
だが、ここはあえて我慢しなければならない。
ちょっとでも隙を見せれば、地に伏すのは自分なのかもしれないのだから。
木々が騒がしく律動する中、私は口を開く。

「つまり、お前は何が言いたいんだ?」

結局のところ板倉の目的は何なのか。
奴は私に何を期待しているのか。
それによって奴の生がどのように死に昇華されるのかが変わる。
板倉はまた、ふ、と笑った。
さて、板倉俊之は、どのような呪文を唱えるのだろうか?

56 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 19:57:39
横柄な笑顔と共に、板倉の口が静かに開こうとする。

その時。

突如、世界が破綻した。



「おっと、気まずいぞ気まずいぞ、二人で銃を突き付け合っててものすごーく気まずいぞ!」


いきなり響いてくるやけに早口の、テンポのいい掛け声。そしてそれとともに草木の派手に揺れる音。
思わず私はその音の方に目を向けてしまう。まずいと思ってすぐに板倉に目を戻したが、奴もまた音に目を奪われていたようだった。
とりあえず安心して私も用心深く横目でちらりと音の発生源を一瞥する。
捉えたのは、この場に集いし第三の男。
茶髪の大して見覚えのない若手芸人が草を掻き分けながら出てくる場面だった。

突然の場の空気の転換に板倉はやや眉を顰める。私だって似たような気分だ。
折角の愉しみを邪魔された怒りを込め、とりあえずぶっきらぼうに私は聞いてみる。

「……誰だテメエ」

するとそいつは、待ってましたと言いたげな表情をするとまたしても脳を掻き乱すようなマシンガントークで喋り出した。


「まさかの殺し合いで心臓バクバク、背筋がゾクゾク、この憎々しい状況が悲しくてシクシク、でもちょっとだけワクワク!
 マセキ所属の星野卓也、星野卓也、星野卓也でございます!」

やれやれ、また面倒な奴が出てきやがった。



57 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/25(土) 20:02:06
【爆笑問題 太田光
所持品:マイク、グロック17(15/17)・控え銃弾(34発)、煙草、ライター、結婚指輪
第一行動方針:人々に死を与える
基本行動方針:死の魅力を追及する
最終行動方針:最後の一人まで生き残る】


【インパルス 板倉俊之
所持品:ワルサーP99(?/16)他不明(煙草、ライター)
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明】


【星野卓也
所持品:不明
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明】

【現在位置:H9 森】
【8/15 17:03】
【投下番号:250】

>>46
新作乙です。
果たして西野が無事に頼れる人に合流できるかwktk

58 :名無し草:2007/08/25(土) 20:13:51
乙です!
ちょwwホシタクwww

59 :名無し草:2007/08/25(土) 21:30:53
乙です。緊迫が伝わってくる…と思ってたら星卓www
何つうか頑張って欲しいw

60 :名無し草:2007/08/25(土) 22:59:49
乙!
ホシタクの空気の読めなさに噴いたwww

61 :名無し草:2007/08/26(日) 00:12:58
江頭といいたむけんといいホシタクといい、ピン芸人はこんなのばっかかwww

62 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:27:15
ダブルブッキング編 まとめサイト243続き


『裏返る』


川元が去り、その場に取り残される形となった、黒田と出渕の2人。
草むらの中に身を潜めるように座り、川元の戻りを当てもなく、ひたすらに待つ。
黒田は普段通りの感覚で初対面である出渕に気を遣い、話題を探ってはぽつぽつと話し掛けた。
開始当初からの動揺がまだ治まり切っていなかった出渕は、会話を続ける内に何とか元の安定を取り戻してきたように見え、
少し安堵した。これで、前日のようなパニックを起こすことはないだろう、と。

しかし、そこへ例の本部放送が入り、しばらく緩やかに流れていた時間は一瞬で凍りつく。
次々に読み上げられる芸人の名。黒田の顔見知り達も、容赦なく「脱落」を告げられていく。
ライブで共演した者、オーディション先で会った者、あるいは打上げでよく一緒になって話した者……
それぞれの名前の持ち主の顔が、脳裏を幾つも通過する。―彼らはもう、この世にはいないのだ。
実感のしようもなく、余りにも現実味がなさ過ぎるのに、認めざるを得ない絶望感。
…この辛さをこれから一体何度味わわなければならないのか。
心に圧し掛かるような苦しみに伴って、頭がしくしくと締め付けられるように痛んだ。

出渕は、と見れば、地面の一点を見つめて固まっている。彼もまた相当に憔悴している様子だった。
同じ事務所の知人に、共演者…幾人も発表されていたに違いない。


やがて放送は終わる。
フェードインする蝉の声。森に響く音声は、再びそれのみとなった。

空虚感が精神を覆い尽くす。2人はただ、黙りこくった。


63 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:28:24
ふと黒田は顔を上げ、川元が去って行った方向へ視線を向ける。
どんなに目を凝らしても、暗く深い森の奥を探り見ることは出来はしないが。
川元がいなくなってから随分長い時が経った…ように感じられる。
彼は一体どうしただろうか。

無防備な状態で、たった一時の助けを求めてきている人間を、黒田はどうしても見捨てる気になれなかった。
それはやむを得なかったにせよ、人を殺してしまったことへの後ろめたさから来る、これ以上「罪」を重ねたくないという意識。
また、積極的に殺人を行っている人間が存在していることが見て取れたことで、自分は人間らしい感情を失いたくないと感じたこと
―そこから生じた、妙に強い感情であった。
しかし相方の川元は、その思いを理解しなかった。理解しようともせずあっさり突っぱねて、
しまいには1人で勝手に行ってしまった。それが黒田にはひたすら不満に思えて仕方がない。
(すぐに説明出来なかったのも悪いかもしんないけどさ、あんなに全否定することないじゃん。
ちょっとくらい話聞こうとしてくれたって…結局そんで離れ離れだしさ。本末転倒だっつうのよ)
文句を言おうにも、その相手は今ここにはいない。
今どの辺りにいるかも、知れない。

その事実を思った時、黒田の中に針で突いたような小さな不安の影が生じる。
それがじわじわと、染みこむように心の中にで拡大していった。


64 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:29:41
(ぶんちゃん、大丈夫かな。途中で誰かに襲われてやしないだろうか。
人を殺して回ってるのは磯山さん以外にも大分いる筈だ。だからこそあんなに人が死んでるんだろうし、もしそれに出会ってしまってたら…
…いや、ぶんちゃんは俺の拳銃を持ってる。そう簡単にはやられない筈だ。ああ見えて体力だってあるし。
あ、もし何かあったら銃声が聞こえてくるかも知れない。だから今のところは何もないんだ、きっと…)
空しく自問自答を繰り返し、付きまとう影を振り払おうとするものの、危惧は段々と大きくなっていく一方で。

(だけど離れてたら銃声が聞こえる保障もないし、何より不意打ちなんて食らったら拳銃使う暇もないだろうし。
どうしよう、何か起こっていたら。何かに巻き込まれていたら…そしたらぶんちゃんは……)
―放送で、嫌にのんびりとしたあの声で、相方の名が告げられる―
その場面が思い浮かび、背筋が寒くなった。
一旦思い至ってしまうと、どんなに抑えたくともネガティブな想像は次から次へと沸いてくる。
動悸が激しくなる。額に、暑さからではない汗がじわりと浮かんだ。



やっぱり、離れなければ良かった。
あの時、引き止めておけば良かった。
どうして自分が一番取るべき行動に気付くことが出来なかったのだろうか。
互いに余りにもむきになっていたから―そんな言い訳があっても、どうしようもない。


65 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:31:17

最初に誓った筈だった。「相方と身を守りあって行こう」と。それが果たされなければ何の意味もないのに。
例え他人を救うことが出来ようと、そのために相方を失ってしまっては、もうどうしようもない。
自分を支えてくれるものがなくなってしまう。そしてその先に待っているのは、暗闇しかない。

不安の次にやって来るのは、やるせなく深い後悔の念。
どんなに自分を責めたとしても既に遅い。―後悔とはどういう場合でも、そういうもの。
しかし「諦め」を選択することは、最悪の事態が想定出来ながらみすみすそれを見逃し、甘受してしまうことに繋がる。
そしてこの状況での最悪の事態とは、かけがえのない者の死なのだ。

(どうしよう。後を追ってみようかな。随分経っちゃったけど…だけど何もしないでいるより全然ましだ。
来た時と真逆の方向に行けば、お互いのルートがそう食い違うことはないだろうし。
そうだ、スターターでも使ったら、ぶんちゃんに音が届いて、上手く合流できるんじゃねえかなぁ。
…って、そうあっさりとはいかないか。でもここで手を拱いているのはもう耐えられない。取り敢えず行ってみよう。
―だけど、出渕さんに何て言おう。連れてったらぶんちゃんは嫌がるだろうなあ。
大体、付いて来てくんないかもしれないし。ここで1人で待ってろなんて、もっと了解してくれないだろうな。
だからってここで別れようなんて勝手も、この期に及んで言えるわけない。ああ、どうしたらいいんだろう…)

66 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:34:39
神妙な面持ちで頭を抱える黒田に気付かないまま、長く続いた沈黙を破るべく出渕がぽつりと問いかけた。
「…そう言や黒田さんが当たった武器って、一体何やったんですか?」
答えを見出せない自分に苛立って髪を掻き毟っていた黒田は、その声にやっと我に返り、慌てて平静を装う。
「あ、あぁあぁ!そっか、俺ら出渕さんの持ち物は見せて貰ったけど、自分達のは教えてなかったんですよね。
済みません何か、失礼なことしちゃってて…今のところ俺が持ってるのは、これです」
川元から受け取ってポケットに突っ込んでいたスターターを取り出して見せた。
「けっ…拳銃っ!?」出渕は思わず身を竦める。
無理もない、少しでも離れた位置からでは、拳銃を見たこともない人間の目には
見た目を銃に似せた仕様になっているスターターと本物の拳銃との区別は付け辛い。
その上凶器に対する警戒心が増幅されている状況となれば尚更であろう。黒田は慌てて手に持ったそれを指先で軽く叩いた。
「違いますよ!ほら見てください、金属じゃないでしょ?プラスチック製なの。これ、スターターなんです。
あのほら、陸上競技でスタートん時鳴らすやつ。だから攻撃なんて無理、ハズレ武器なんです」

カツカツと乾いた音を立てるスターターを見て、ようやく「本物」ではないと納得した出渕は肩を撫で下ろす。
「あっ、ああ、そうだったんですか…済んません勘違いして…」
頭を掻く相手に黒田は人の好い笑顔を向けた。
「いやぁ、こっちこそびっくりさせちゃって…だけど恐がらなくても大丈夫ですよ。
例え武器を持ってたって、積極的に攻撃する気なんかないんです。…人殺しはこりごりですしね…」
一瞬、磯山の背を弾丸で貫いたあの光景が脳裏を掠めたが、無理に打ち消した。
「そうそう、で俺ら一応、本物の武器も持ってるんです。拳銃…今は川元…あ、うちの相方が持ってってますけど」


67 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:36:07
「…あ、銃、あるんですか…」出渕が少し目を見開く。黒田は頷き、更に続けた。
「元々は俺が当たった武器だったんですよ。んで、当面はそれで何とか敵追い払ったりしてしのいでいかなきゃなと。
僕らも色々ありまして…デイパック1つ余計に手に入る機会があったんですけど、でも武器は得られなかったんですよ。
今後2人分の身を守らないといけないし、武器も増えたらラッキーでしたけど…あの状況じゃ無理だったなあ」
黒田は自分達の現状について次々と話す。元々の、相方や先輩芸人達にも度重ねて注意を受けていた程の口の軽さに加え、
先刻自分の持ち物を全て曝け出した出渕との不公平が生じないよう、出来るだけ手の内を明かそうという気持ちがあった。


しかし黒田は、相手の目の奥に少しずつ暗いものが湛えられていくのに気付かない。
川元の考え通り、彼の思慮は甘過ぎた。殊、こんな凄惨なゲーム内に於いては。


黒田(―ダブルブッキングの2人、とも言えるが―)と、出渕が置かれた状況には、余りに遠い隔たりがある。
獲得した武器。例え拳銃1つでも、支給品の中では充分に一等と言えるもの。それに匹敵する品を持たない者の方が多い。
現に出渕の武器は、何の変哲もないボウル1個。これでは何の足しにもならない。襲われたら最後、あっさり命を奪われる他ない。
デイパックの余剰分―どうしてそんなものがあるのか出渕には思い当たりようがないが、つまりは食料も水も、他者より多く持つということ。
これから否が応にも参加者達に迫る食料困難から、少しばかりでも距離を置いていられること。片や出渕には現状水さえない。
そして、共に行動する者の存在。互いに身を守り合える人間がいるということ。
大人数が広範囲にばら撒かれた中で、それに出会うことが出来るのは奇跡に等しい。大方の場合皆、孤独を強いられるのに。


68 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:37:33
黒田の言葉が重なる毎に、出渕の精神を刺す不条理さ。
「アンフェア」。それは仕方がない。BRとはそういうゲームなのだ。生き残るために必要なのは、一重に自分自身の運。
それが、黒田にはあって、自分にはなかっただけのこと。
しかしそんな理屈で、整理がつくわけがない。

(何でこんなに差が出るんやろう。幾らなんでも、ここまで来るとおかしいんちゃうか。
こいつが持ってるものを、俺は何にも持ってない。しかもそれ全部、生き残るためには絶対必要なもんやのに。
どうして俺は、それを手に入れられんかったんやろう。一体俺の何が悪くて、こんなに状況になっとるんやろう…)
湧き出でる、回答の当てのない疑問符。
それらは次第に膨れ上がり、そして怪しげな色に染まっていく。

出渕の心が黒い屈辱感で埋め尽くされていった。
再び乱れ始める思考。しかしそれが今呼び起こすのは、先のような自我崩壊ではない。
制御が出来ない程の憎悪。そしてそれに連結する、強い殺意。


69 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:39:07
(何でこんなことになったんや。こいつは生き長らえて良くて、俺は駄目やとでも言うんか。
そんな筈ないやろ。俺やってずっとお笑い真剣にやってきたつもりやったんに、これからまだ、やっていかんとあかんのに…
どうしてこんな状態でおらなあかんねん。今恵まれているこいつに、劣ってるところなんか何もない筈やのに。
俺は死にたない!死にたないんや!!こんなに売れてもない、認知度も低いやつなんかには負けたくない!!)

瞬時に燃え上がった衝動にストップを掛けるものは何もない。
―自分を一時的にでも受け入れてくれたのに、相手は何もしていないのに、怨むことはないんじゃないか―
極当たり前で有る筈の、正常な考えをも簡単に打ち壊してしまう感情の波。

…ただその反面、暗い方向に動く理性が出渕の中で働いているのも事実だった。
―川元は片道3時間は掛かる地点に向かっている、しばらくは戻らない。ここで生存するための物資を手に入れることが出来る―
彼を突き動かしたものが果たして単なる衝動なのか、それとも計算込みなのか。それは本人にすら分からない。
何にしろ、それが間違っている等とは、この場に於いては誰も言うことが出来ないであろう。


『 BRとはそういうゲームなのだ 』


出渕は突然立ち上がった。
「うおああぁぁぁ!!」
猛然と、隣に座っていた黒田を突き倒す。
訳も分からず目を白黒させる黒田の首筋に、素早く両手を伸ばした。

70 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:40:23
ぎりぎりと締め上げてくる手。大きく見開かれ、壮絶な光を宿す目。
―冗談ではない、本気で殺しにかかってきている―
眼前に広がる信じられない光景。しかし自分の上に覆い被さる姿を見て、黒田はそう悟らざるを得なかった。
(何で、何で?どうして?!何で出渕さんが俺を襲ってるんだよ…何があったって言うんだよ!?)
心当たりが全く思い当たらないまま、混乱しながらも何とか逃れようと試みるも、完全にマウントを取られた状態ではままならない。
「死ねや、早よ死ねや…!!」
切迫した声で出渕が呟いている声だけが聞こえる。

指が気管を圧迫する。最早その衝動の理由を考えている余裕などなかった。
息をを吸うことも吐くことも許されない。喉からぐ、ぅ、と呻きが漏れる。
叫ぶことも出来ない。出そうとした言葉は掠れた小さな吐息となっただけだった。


意識が遠退いていく。



(ぶんちゃん……)



“何かあったら、こっちに向かって鳴らして下さい。運良く聞こえたら助けてあげますよ”


71 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/26(日) 02:41:55
未だ掌の中に納まっていたスターターを、力を振り絞って握り締めた。
震える腕でそれを顔の上に差し上げ、木の葉の間に割って入る空に向けて、引き金を引いた。

パアン、と乾いた音が上空に鳴り響く。
思っていた以上に音は大きい。かなり遠くまで届いたのでは…と、思いたい。
指から力が抜けてスターターが滑り落ちた。地面にぶつかり、転がって行く。

「何やそれ、脅しか?!アホかそんなんビビらへんわ、早よくたばれ!!」
攻撃的な言葉に反し、声音は恐怖さえ入り混じっているような、必死さが漂っていた。
しかし、締め付ける手に込められる力は更に強くなる。

やがて、黒田の口から一切の音が、消えた。



ああ、もう駄目みたいだ。
ごめん、ぶんちゃん。俺、結局ぶんちゃんのこと守るなんて出来ないまま、こんなことになって。
本当、中途半端だよなぁ。
…ごめんね。あの時引き止めないで、そのせいで別れ別れになっちゃって…
……ごめんね、ぶんちゃん……



視界が、真っ白になった。

72 :◇hfikNix9Dk氏代理投下:2007/08/26(日) 02:52:33
【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:陸上競技用スターター(紙雷管使用済)、控え銃弾(21発)
第一行動方針:川元を待ちたかった
基本行動方針:とにかく生き残る
最終行動方針:未定

【レイザーラモン 出渕誠】
所持品:ボウル(プラスチック製)
第一行動方針:黒田を殺害
基本行動方針:生き残る
最終行動方針:生き残る

【現在位置:森(E4)】
【8/16 14:48】
【投下番号:251】

73 :名無し草:2007/08/26(日) 13:08:50
>>72
乙です
スターターの音よ、川元に届いてくれー!!

74 :名無し草:2007/08/26(日) 14:43:02
>>57
乙です!
飄々としてる板倉が不気味だ…直前の話でのはねトび仲間西野が熱血系対主催だから余計に…
あとホシタク自重しろww

>>72
乙です!
ついにレイザーラモンが両方ともマーダー化か…
果たしてスターターの音は誰かに届くのだろうか

75 :名無し草:2007/08/27(月) 23:27:14
ほしゅ

76 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/28(火) 02:08:52
投下番号236の続き

『空と君のあいだに 3.』


―― 東京で売れてる芸人全員死ね! 東京で売れてる芸人みんなバトロワに参加させられてしまえ!


何時の事だっただろう。何処での事だっただろう。周りの色合いが鮮やかだったから、多分どこかのTV番組での事だ。
確かに獅子舞を翳して俺はそう叫んだ。そう叫んで笑いを得た。
スタッフにはちょっと怒られたけど、大爆笑やったんだから俺は間違いなく正しかったはずだったんだ。




「せやけど…ホンマに芸人でバトロワやる事ないやろがぁ。」
幾度目になるかわからない、気弱な声がたむらけんじの口からこぼれ落ちる。
全国放送の番組という事で、普段の慣れ親しんだ大阪のスタジオからではなく東京のスタジオでの収録と聞かされて。
それが為に褌に獅子舞、サングラスという珍妙な格好で楽屋でスタンバイしていたはずだったのだ。
しかし、大阪から東京に進出してきた他の芸人と団欒している内に眠気に襲われて、気がついたら見知らぬ島に連れ込まれ。
そして今現在、たむらは至近距離に死体が二つ転がる路上での正座を余儀なくされていた。

「何か、おっしゃいましたか?」
ルミネを活躍の場とする後輩に書いて貰った腹の文字は汗でとっくに流れて落ちてしまっている。
サングラスも外すよう命じられ、いろんな意味で哀れな中年男性といった様子で自然と俯かざるを得なくなる
たむらに、井戸田が冷ややかな口調で問うた。
「…芸人でバトロワをやる事はないやろ、と言いました。」
井戸田の手にはくまだの遺体の傍らに落ちていた彼のかつての所持品、Cz75が握られていて。
銃口がさりげなく向けられている事もあって、やむなくたむらは素直に井戸田に答えるけれど。
「それには俺も同感ですけどね……で、たむけんさんは何で俺らの様子を伺ってらしてたんですか?」
重ねて掛けられる後輩という立場と尋問者の立場から来る、微妙に敬語表現となる井戸田の問いかけに、
たむらは今度はしばしの間口を閉ざした。

77 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/28(火) 02:11:51
「答えませんか。でしたら、俺らの隙を見て殺そうとしていた…そう判断しますが宜しいですか?」
「……ち、ちゃうわっ! そんなんやない!」
黙って俯いているだけでも汗は滲んでだくだくとたむらの頬や首筋を流れ落ちていく。
同じように滴り落ちる汗を鬱陶しがるように手の甲で拭い、井戸田が僅かに苛立ちを帯びた声で問えば、
たむらは慌てて首を横に振って声を発した。
「ただ、ただな? 服が…そう、服が欲しかったンや。それで誰か脱ぎ捨てたりせぇへンやろかってじぃっと見ててん。
 ホンマや、ホンマやぞ!」
その勢いのまま白状すれば、井戸田は呆れたように肩をすくめ、木の根元に腰掛けたまま二人の様子を心配げに眺める
原田の顔には納得したような表情が浮かび上がるだろうか。
「…その格好で死にたくはないですもんね。」
「そうや。せやからせめてジャケットの一つでも羽織れたらって思て…」
捲し立てるそのたむらの言葉に、嘘はなかった。
しばらく辺りで鳴り響いていた銃声が止んだ事で、どこかに死体かそれに準ずる重傷人が出たはず…彼はそう考えて。
そいつの衣服が汚れていなければ、サイズが合うようならば、頂戴してやろう…そう思って敢えて銃声のした方向に駆け寄り、
その結果井戸田に見つかってしまったという顛末だった訳で。
「もし桜塚やっくんが倒れてたらどうするつもりだったんですか。」
「………着れそうやったら、着る。」
…何ですか、その間は。
たむらの返答に一つツッコミを内心で入れて、井戸田は原田の方へと視線をやる。

「……………。」
どうしますか、こいつ。そう問いかけるような井戸田の眼差しに、原田はまず鷹揚に頷いてみせた。
「えぇと…たむけんは、このバトルロワイアルを止めさせたいかい? 何とかして外に戻りたいかい?」
「当たり前やないですか!」
そのやり取りでたむらの視線が井戸田から己の方へ移ったのを確認してから、原田が問いかければ、
たむらは間髪入れずに返答する。
「何で俺らがこんな事せなアカンのですか! 厭ですよ、東京の売れてる芸人が一個もおらんようになるのも、
 何より俺がこんな所で死んでしまうのも!」

78 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/28(火) 02:13:25
口から唾…と言うよりも泡の欠片を発しながら訴えるたむらの表情や目を、樹により掛かりながらじっと見やって。
原田は不意にその顔にふわりと笑みを浮かべた。
「じゃあ、決まりだな。  …一緒に、行こう。」
「……原田さんっ?」
原田の言葉の意味が一瞬理解できず、ただそのつぶらな目を大きく見開くたむらの傍らで、井戸田が不服げに声を上げる。
「正気ですか? こんな胡散臭いのを信用してしまって……
「お、おおきに! ホンマありがとうございます! 不肖たむらけんじ、何処までも付いていかせてもらいます!」
良いのですか、と問おうとした井戸田のその言葉は、地面に額を擦りつけながら発されるたむらの声にかき消される。
「たむけんなら関西の芸人にも顔が広いだろうから…きっと役に立つと思うしね。」
「当たり前やないですか! 西の芸人で俺に従わん奴なんておる筈ない!」
即座に殺されてしまってもおかしくない状況からは確実に脱した…そう察せたと同時に自信たっぷりな態度へ変貌する
たむらの素直すぎる反応は、どこか微笑ましげですらあったけれども。

「……………。」
井戸田は跳ね上がるたむらのテンションとは正反対に、触れたモノを凍てつかせるかのような眼差しを彼に、
そして原田へと向けていた。
服が欲しかった。
たむらが口にした理由は、確かにその格好を思えばもっともではあったけれども。
だからといってたむらがこのバトルロワイアルという場で信用に値する人間かどうかまでは判断できない。
それなのに、原田はたむらを信用した。いや、そもそも疑う事すらしていなかったようにも井戸田には思える。
「まぁ、別に…あの人がどうなっても関係ないし。」
片っ端から誰彼構わず信用してまわって、その結果自滅する分には原田の勝手にすればいい。
たむらが自分にとっても即座に脅威にならなさそうだという事がわかった以上、これ以上深入りする必要はない。
…どうせ何をやっても無駄なのだから。
小さく呟いて、井戸田は土下座を解いて原田に縋りつこうとするたむらと困ったように笑う原田に背を向けた。


79 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/28(火) 02:15:15
しかし、最後に一度だけ、横たわる小沢に視線を向けたくなるのを我慢しながら井戸田が数歩、足を進めた所で。
「何処に行くんだ、井戸田くん?」
不思議そうな口調で原田が問う声が背後から聞こえてきて、井戸田の歩みを止めた。
「まだ、バトルロワイアルは止められる。井戸田くんも一緒に行くぞ。」
「せやぞ、泰造さんの言う通りや。」

「……………。」
だが断る。コンビ名にも関わりのある漫画のキャラクターのようにそう言い放ってしまえたらどれだけ痛快だろうか。
けれども、この場で生きている三人の中で一番年下で後輩…その事実がどうしても井戸田の口を閉ざさせる。

「厭なら最後まででなくて良い。健か名倉さんに会うまででも…せめてそこまででも一緒に来てくれないかな?」
改めて発された原田の頼み…先輩と後輩の立場からすれば命令と取る事も出来るだろうそれに、
井戸田はやむなくゆっくりと背後へと振り向いた。
「そりゃ…相方が死んだんだ。辛いだろう事はわかる。俺だって二人に何かあったら耐えられないかも知れない。」
でも。
たむらに肩を借りる形でよろよろと立ち上がりつつ、そう口にした所で原田は少し間をおいて。
それから井戸田の目を真っ直ぐに見据えると、キッパリと言い切ってみせた。


「…君が変われば、世界も変わる。」








80 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/28(火) 02:16:50
【スピードワゴン 井戸田 潤
所持品:結婚指輪・ダーツの矢 (20本)・Cz75 (9mmパラベラム弾 22/30)
状態:軽い疲労・自己嫌悪・やや自殺願望
基本行動方針:何をやっても無駄
第一行動方針:何をやっても無駄
最終行動方針:何をやっても無駄】

【ネプチューン 原田 泰造
所持品:ジェリコ941 (9mmパラベラム弾 39/40)
状態:右上腕に軽い銃創・腹部に銃創(共に手当て済)
基本行動方針:信じる
第一行動方針:堀内と名倉を捜す
最終行動方針:仲間を集めてこの島から脱出する】

【たむらけんじ
所持品:支給品不明 サングラス・獅子舞(共に舞台衣装)
状態:疲労・上機嫌
基本行動方針:生存優先・原田に従っておく
第一行動方針:服を着たい
最終行動方針:】


【H6・学校近くの森】
【15日 16:52】
【投下番号:252】

81 :名無し草:2007/08/28(火) 02:43:16
投下乙です
たむけん…w
そして泰造かっこよすぎw
井戸田の気持ちがこれからどう変化していくか楽しみだ

あ、間違ってたら申し訳ないですが、名倉は泰造に「潤ちゃん」て呼ばれてませんでした?
名倉さんになってたので…

82 :名無し草:2007/08/29(水) 00:29:10
ほしゅ

83 :名無し草:2007/08/30(木) 08:41:59
ほす

84 :名無し草:2007/08/30(木) 12:45:27
>>80
乙です!
たむけんの変わり身の早さに吹いたw
泰造かっこいいな。

>>81
泰造は「潤ちゃん」と「名倉さん」両方使ってた気がする。

85 :名無し草:2007/08/31(金) 20:39:47
ほっしゅほっしゅ

86 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/31(金) 23:12:04
前スレ>>492-500 松竹編第九話

 芸人魂〜ガチレース〜(後編) 森三中大島・ますだおかだ岡田・ななめ45°岡安


 その表情に、恐怖はなかった。
 前例を記すなら、大島に急所を頭突きされるその時の岡田の顔は、確かに恐怖を表していた。勿
論この地で頻繁に見られるような生命の危機を示すものとは違う。それでも生命の危機に値するほ
どの表情は見て取れた。
 なのに今はどうだ。
 カメラから視線を落とした今、岡田と同じように足元を取られた当の岡安は、まるで人事のよう
に、悠々とこちらを見ているではないか。見ているだけならいくらかマシだ。岡安は楽しそうだっ
た。少し笑っているように見えた。
 これは芸人同士の真剣勝負であるはずだった。誰が言ったわけでもない。暗黙の了解という曖昧
でも間違いようのないルールにのっとった”遊び”であるはずだった。台本はなくとも示し合わせ
たかのようにこの場を盛り上げる責務は負うべきである。本来なら鋭いビンタを受けた岡安は、驚
くだとか脅えるだとかのリアクションをとらなければならない。そして両足を掴まれた事に不安を
抱き、気の利いた一言くらいは発しなくてはならないだろうに。
 これらの事で大島のモチベーションが下がったのは言うまでもなく、更には岡安の芸人魂を疑い、
嘆く準備をした。


87 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/31(金) 23:13:31

 だがため息を吐くより早く、大島の視界は断絶された。ぐらりと揺れた反動で空の眩しさを感じ、
目を瞑る。そのまま尻餅をついたところで、ようやく顔面のヒリヒリした感覚に気付いた。岡安の
靴裏が、大島の顔を蹴り上げたのだ。
 大島は思った。きっと岡安は、言葉ではなく動きで笑いを生もうと試みているのだ。自分と同じ、
体を張る芸人なのだ、と。
 そうと解れば息吐く暇もなかった。岡安から乱暴に投げつけられた果たし状を全力で受けなけれ
ばならない。
 大島は片手をつき立ち上がった。しかしその時には既に、岡安の仰向けになっていた体は二本足
で大地を踏んでいた。そして何を考える暇もなく、右手から流れるデイパックが大島の頬に直撃し
た。その衝撃は尋常なものではなく、岡安のデイパックの中に殺傷能力のある何かが入っている事
は大島にもすぐに感知出来た。遊びの域を越えた痛みに、大島は岡安を強く睨んだ。だが威嚇する
には大島の目があまりにも小さすぎるためか、岡安は高らかに笑い、大島に向かって一言吐き捨て
た。
「これ、真剣勝負ですから」
 大島にこの言葉の意味は理解できなかった。なぜなら大島にとってこれが真剣勝負である事は解
りきった事実であったからだ。
 ちょっとした感覚のズレが今、大島を酷く混乱させようとしている。
「殺していいっすか?」
 軽薄だった。岡安の全てがあまりにも軽薄で、大島は身の危険を察知するのに時間がかかった。
実際大島が危険に気付いたのは、岡安がデイパックから支給武器である特大の花瓶を取り出し空高
く振り上げていた時で、当然大島はその危険から逃れる事が出来なかった。
 鈍い音が聞こえた。激痛が痺れと共に脳を駆け巡った。もたもたと傾く景色を視界に入れながら、
大島は自分の誤りを悔い、唇を噛んだ。


88 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/31(金) 23:14:50

 ”芸人同士の真剣勝負”この言葉に間違いはなかった。だが大島と岡安がそれぞれ唱える真剣勝
負には大きな隔たりがあり、言葉の表面上は同じであっても実情は全くかけ離れたものであった。
大島は笑いという観点での真剣勝負を示した。一方の岡安は芸人としてではなく、プログラム参加
者という観点での真剣勝負を示していた。バトルロワイアルというガチレースで殺人の道を選んだ
岡安は、少なくとも大島よりずっと正しい選択をしているだろう。芸人がカメラの前で笑いを取ろ
うとするように、バトルロワイアルで殺し合いを求められてる今、その参加者たちが殺しを行う事
に何ら不思議はないはずだ。
 それならば。
 大島のやるべき事は決まりきっていた。
 大島にはそれほど冷静に岡安の言動を分析する力はない。しかし感覚でそれを悟っていた。だか
ら瞬間的に、やるべき事を行動に移せたのだ。
 倒れそうになった体を片足で踏ん張り、揺れの治まらない頭を一振りした。目の前の岡安は尚も
攻撃を繰り出そうと花瓶を掲げている。窮地に陥っている大島は、ただ無我夢中に事を成した。
 振り落とされる腕を両手で掴み、岡安の顔面目掛けて頭突きした。歯が噛み合う音に短い唸り声
が混じる。遠退く岡安の顔を確認し、緩んだ手から花瓶を奪った。想像以上の重量感に慌てて空い
ていた片手を添え、花瓶を見る。深みのある茶褐色に染まったその花瓶は、胴の膨らみや肩の滑ら
かさはもちろんの事、すらりとした首や愛嬌のある口まで全て非の打ち所がないものだった。
 だが大島には関係のない事である。
 痛みからか倒れ込んで顔を抑えてる岡安に、大島は一振り、額の辺りに花瓶を叩きつけた。派手
さのないリアルな音が響いた後、岡安の手が額を覆い隠した。岡安は二度ほど寝返りを打つように
悶えると、今度は大島から逃れるため匍匐前進を始めた。逃げるのに必死な岡安はその後頭部が無
防備になっている事にも気付いていない。だから大島は全力でその後ろ頭に一撃を加えた。
 岡安の体がうつ伏せた。
 更に大島は叩いた。無意識に力の限り振り落とされた花瓶は、とうとう音を立てて破壊した。


89 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/31(金) 23:16:16

 ずっと遠くから、今日何度目かの銃声が聞こえた。その後は蝉の鳴く声が届き、辺りは平常に戻
る。僅かに揺れた葉の間から太陽の光が差し、一瞬だけ大島の目を刺激した。
 岡安は動かなかった。花瓶の破片にまみれた頭は、風に揺れる事すらなかった。
 大島は鼓動が急激に早まり呼吸が次第に乱れていくのを感じた。
 不安定な足取りで後ずさると、何かに踵が触れバランスを崩し後ろに倒れた。
 足元には斧があった。大島自身がデイパックから取り出しそこに置いた斧だ。恐る恐る手を伸ば
し柄を握った。何も切り倒していないその斧は、凛としていてとても美しかった。
 その時、大島は草の音を聞いた。ゆっくり視線を動かすと、木の陰に身を潜めている岡田と目が
合った。失礼ながら岡田の存在を忘れていた大島は、そういえばいつの間に岡田は起き上がってあ
そこまで移動したのだろうかと不思議に思う。そしてその疑問を口にするため立ち上がり話が出来
る距離まで詰めようとしたところで、岡田が動いた。
 正確に言うならば、岡田が逃げ出したのだ。
 凍りついた表情を見せてからしばらく、見た事もない全速力で岡田は去っていった。
 大島はただボーッと、その背中を見つめていた。
 どれくらいの時が経っただろう。
 大島の指が、腕が、足が、全身が突如震え始めた。岡安にしてしまった行為が今になって現実味
を帯び、大島の心に迫ってきたのだ。
 こんな事するつもりはなかった。どれだけそう自分に言い聞かせても許しを得る事は出来なかっ
た。脳内に未だ潜む理性も、自分を見て逃げ去った岡田の姿が全てを否定した。どう足掻いても、
既に自分は殺人鬼だった。
 クラクラした。きっと、頭を強く打ったせいだ。
 斧を持つ右手首を空いている左手で強く握った。それでも震えは止まらず、しかしながら目の前
の凶器から手を離す事も出来ずにいた。
 大島の心の中を、孤独と空虚が支配した。


90 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/31(金) 23:17:51

 震えを誤魔化すように額の汗を拭った。次いで手のひらで顔全体の汗をも拭う。閉じた目の中に、
汗がなだれ込んだ。
 痛かった。痛かったのは、汗が染みた瞳と、破綻した心である。
 助けを請うように見上げた。そこには相変わらずカメラがあった。
 今の大島には理解できた。あの小さなカメラは芸人たちの茶番劇を映すためのものではない。芸
人たちが殺し合いをする模様を一部始終映すためのものだ。スタッフや視聴者が求めているのは、
笑いではなかった。
 大島は知っていた。芸人には、絶対的なルールというものがある。例えばディレクターの指示は
至上命令であったり、視聴者のニーズに答えられなければ不要不急のお笑いタレントという烙印を
押されてしまう。そう、要求された事をやるのが芸人の務めなのだ。
 大島は歯を食いしばった。
 大丈夫だ。今までと何ら変わらない。酷な仕事も数多くやってきた。求められるがままこなして
きた。今回だって出来るはずだ。期待に答えなければ、自分の明日は、ない。
 体は尚も震えていた。だがそれは恐怖だけのものではない。言い様のない使命感に奮い立ってい
たのだ。
 斧を振った。
 空を切って、樹木に刺さった。力一杯引き抜いて、今度は逆の方向へ振った。
 そのまま歩いた。ふらりふらりと、体は左右に揺れていた。
 そして一層に斧を振り回した。威嚇のように見て取れるだろうか。それとも狂っているように映
るだろうか。
 大島にはわからなかった。ただ必死に斧を暴れさせ、繋がらない希望と現実の狭間をズタズタに
切り裂いた。

 それはこの物語が終わって数十分後、劇団ひとりと出会うまでずっと絶えず行われ、そしてその
間、大島が一度でも自らの夫を思い返す事はなかった。夫だけではない。友人知人、先輩後輩、相
方たちの事さえも、思い出せずにいたのだ。
 大島美幸は今、世の中から孤立した。


91 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/31(金) 23:19:23

【ななめ45° 岡安章介 死亡】

【森三中 大島美幸】
所持品:斧
第一行動方針:頑張って人を殺す
基本行動方針:頑張って人を殺す
最終行動方針:わからない

【ますだおかだ 岡田圭右】
所持品:ブラインド
第一行動方針:とにかく逃げる
基本行動方針:カメラに向かって一発ギャグ
最終行動方針:何も求めない


【現在位置:H5 森】
【8/15 15:05】
【投下番号:253】

※前作の位置情報に変更あり【J5→H5】


92 :名無し草:2007/09/01(土) 02:30:12
>>80
はっぱ隊懐かしいなwww

93 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/02(日) 06:34:10
前スレ>>487-490の続き



建物の中にも朝日が差し込んできた。
目が覚めたとき、広い部屋のソファに寝ているという状況に功太は一瞬戸惑った。
ぼんやりとした頭で辺りを見回し、近くのソファに座っている大悟を見て、やっとプログラムに放り込まれたことを思い出した。

「……おはようございます」
そう挨拶をすると、大悟は今功太が目覚めたことに気が付いたようだった。
「おお、早いの。まだ四時半やで」
「ほんまですか。むしろ寝る時間やないですか」
「お前今くらいに寝とるんか。不健康じゃのう」
「大悟さんも大して変わらんでしょ」
まだお互いに精神は安定している。大悟との会話で意識が明瞭になってきた。
夢じゃなかったのかという失望を押し込めて、これからのことを考える頭に切り替える。
「ほんまにまだ寝ててええで。放送まで時間あるしの」
「いえ、もう目ぇ覚めてもうたんで。それに、やりたいことあるし」
「やりたいことて?」
「探し物です。ここ売店とかあるでしょ。何か使えそうなもんあったら持ってこうかなと思いまして」


腹ごしらえに乾パンを2、3枚口にした後、二人は探索を開始した。
といっても、主に捜索をしているのは功太で大悟は功太が持ってきたものを眺めているだけだ。
功太は売店や事務室、カウンターなどから目に付いたものを片っ端から持ってきては、テーブルの上に積んでいく。
救急箱や懐中電灯のような必要となりそうなものから、衣類、ゴルフ用品、果てはグッズまで持ってくるので、
テーブルの上のスペースはあっという間に埋まっていった。


94 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/02(日) 06:35:18
「こんなんいらんやろ」
ゴルフ場のロゴ入り携帯ストラップをつまみ上げて大悟が言った。
功太は大悟に一瞬だけ目をやると、答えながら従業員スペースに入っていった。
「とりあえず置いといてください。全部持っていくわけやないですから」
「そら、わかるけどやあ」
ストラップを置いて、大悟はまたテーブルの上の山を眺める。
そして何気なく手に取った箱を開け、中を見てしばらく考えると、ゴルフボールを一つ出してポケットにしまった。投げつけたりして使えると考えたのだ。

「あった!」
功太が倉庫から出てきた。パターという種類のゴルフクラブを握っている。いわゆるハズレを支給された功太が武器として使うつもりだ。
「もっと長いのもあったような気するけど、これでいいですわ」
これで功太の探索は終わりとなった。そのあと手分けして集めたものをディパックに詰めていった。
全部は入りきらないので、持っていく物は厳選しなければならない。
懐中電灯は功太が持ち、救急箱からは包帯、絆創膏、消毒液だけを大悟のディパックに詰め、タオルはそれぞれ1枚ずつ持つ。
残りのゴルフボールも箱ごと大悟のディパックにしまった。


タイミングを見計らったようにクラシック音楽が聞こえてきた。
「うわ、もうそんな時間か」と、功太が地図と名簿を取り出す。
前2回と同じように、死亡者の名前が読み上げられていった。やはり死者が増えていることに大悟は沈痛な面持ちになる。

と、放送が急に途切れた。機械の故障か? いや、何か話し声やざわつく音が聞こえる。学校で何かがあったのだろうか。
しばらくして放送が再開され、お友達とたけしに紹介された人物の声を聞いて、大悟と功太は同時に声を発した。
「本坊さん?」

95 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/02(日) 06:36:59
「え、なんであの人が放送なんかしてんの?」
大悟は功太に尋ねるが、功太だってわかるわけがない。
あの人なんで学校なんかに、そもそも学校って入れたんか? なんか、計画でもあるのか。複数の疑問が頭の中を回る。

「僕は、このプログラムを終わりにしたいのです。
 もう親しい先輩や後輩、もちろん知らない芸人の人達も。
 これ以上の殺し合いは嫌なのです。無意味だと思うんです。
 誰にも苦しい思いをしてほしくないのです。」

本坊の言葉に大悟が何度もうなずいた。功太もその言葉には共感できる。
だが、こんなプログラムを否定するような言葉を本部が止めないなんて有り得ない。ひどい胸騒ぎに苛まれながら功太は放送を聞いた。

「・・・だから、だからみなさん、
 みんなで一緒に、楽に死にましょう」

最後の台詞に意表を突かれる間もなく、スピーカーから銃声がした。

再びクラシック音楽が聞こえてくるなか、功太は動けなかった。
本坊が学校にいるという状況、放送に乗せた言葉、銃声。色々なことがいっぺんに起きて頭が処理しきれない。
しかし、大悟が立ち上がった気配で我に返った。

96 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/02(日) 06:39:33
「何しに行くんですか」
確信があったからどこへとは訊かなかった。大悟は足を止める。
「本坊さんが危ないっちゅうのに、じっとなんかしとれん」
やはり学校に向かうつもりだ。気持ちはわかるがそうさせるわけにはいかない。
「こっからどんだけ離れてると思うてるんですか!」
「見殺しにせえ言うんか!」
大悟に怒鳴られても功太は怯まなかった。
今は冷徹に、非情に徹しなければならないと思った。昨夜言われた自分の冷静さがきっと今求められている。
「そういうわけちゃいます。俺らが行ったところで何ができるんですか。その頃はもう、みんな終わってるんちゃいますか。
 第一、バットとパターで兵士と戦うつもりですか」

こんな言い方はしたくないが、おそらく本坊は助からない。
こちらが学校に行ったところで、警備は強化されるだろうし、わざわざ危険に身を投じることになる。確かに本坊も大事な先輩だが、今守るべきなのは一緒にいる人間だ。
大悟はもう足を進めはしなかったが、眼光は鋭いままで何か反論をしようとしていた。それを遮る。

「それにあの人、死にましょうて言うてたんですよ」
功太に言われ、大悟はあのときの違和感を思い出す。聞き間違えたのかと思ったが、功太も言っている以上本坊がそう言ったのは間違いなさそうだった。
「プログラム終わらせたいて、殺し合いなんて無意味やて、言うとったが」
さっきまでの勢いはすっかりなくなった声で大悟が言った。
自分と同じ思いを持っている。だから何かするなら喜んで協力するつもりだった。多くの仲間と生き残るために力を合わせよう。そう言いたいのだろうと思っていた。
「それがなんで死にましょうになるんな」
「わかりません、けど」
功太にも理解はできなかった。
元は同じ思いだったのに本坊はまったく違う結論を出した。他人の死を望むようになってしまった。そのことが重くのしかかる。
「ともかく、本坊さんはそうすることに決めて放送で言うてしもうたんです。そんな人を仲間に出来るんですか?」
大悟はゆるく頭を振った。生きるためには一緒にいることはできない。また、見捨てなければならないのか。

97 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/02(日) 06:42:04
クラシックが途切れた。何事もなかったように放送が再開される。
本坊はどうなったのか、このままなかったことにするつもりなのか。

『 あと、死亡者の方も1人、おまけでーす。

その意味を察知した功太は固く目を閉じた。
銃声が不規則に続いた。
功太は頭を抱え込むように耳を塞いだ。増幅された銃声はそれでも全身を震わせる。

『 216番  本坊 元児。 』

「糞が!」
バットを床に打ちつける音が響いた。功太は顔を上げた。
床に座り込んだ大悟の姿が涙で歪んで見えた。




【千鳥 大悟
所持品:煙草 ライター 木製バット タオル 包帯 絆創膏 消毒液 ゴルフボール(6/6)
第一行動方針:ノブと仲間を探す
基本行動方針:自分から攻撃はしない  襲われれば反撃
最終行動方針:できるだけ多くの仲間と生き残る】
【中山功太
所持品:ホワイトボード 専用マーカー(黒・赤・青) 懐中電灯 パター タオル
第一行動方針:仲間を探す
基本行動方針:大悟についていく 戦いは極力避ける
最終行動方針:できるだけ多くの仲間と生き残る】
【現在位置:D-7・ゴルフ場のクラブハウス】
【8/16 06:35】
【投下番号:254】


98 :名無し草:2007/09/02(日) 07:00:04
>>97
乙!!
例の放送を聞いたbase芸人の反応はどれも良いなぁ
続き楽しみに待ってます


99 :名無し草:2007/09/02(日) 19:42:34
>97
大悟も功太も好きなので、まさかリアルタイムで読めるなんて感激
続き楽しみに待ってます

100 :名無し草:2007/09/04(火) 01:07:13
ほしゅ

101 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:42:26
久々にさまぁ?ず・バナナマン設楽編いきます。

8月16日朝6時37分。洞窟の中で3人の男達は顔をつきあわせている。大竹、三村、設楽の3人。
彼らの視線の先にあるのは一枚の紙切れだ。乱雑な扱いに皺がよった紙。それは大竹に支給された参加者名簿だった。
もっと正確に言うならば、その地図の裏面に様々な方向から書かれた鉛筆の文字、それに彼らは視線を注いでいる。
そしてそこに文字を書き込みながららちもない会話をひたすらに続けているのであった。
彼らが何をしているのか。それを知るには少しばかり時間を巻きもどさねばならない。

それは今から52分ほど前のこと。つまりは放送の15分前に、大竹は、声を出さずに設楽をゆすり起こした。
そして、設楽が目を開けたのを確認してすぐに片手で設楽の口を塞いだ。
一瞬何が起きたのかと暴れかけた設楽だったが、目の前に突き出されたよれよれの紙に気づき動きを止める。
これは大竹に支給された参加者名簿の裏に、黒々と太く文字を書いたものだった。
鉛筆で大きく書かれた言葉を強調するように、大竹は設楽に紙をおしつける。

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 ちょっと事情あるから声出すな! とにかくしゃべんじゃねえ!
 音も出すな、静かにしてろ。 読んでほしいもんがある。

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そう書かれた乱雑な文字を読み、設楽はすぐに状況を理解する。そのへん、設楽は賢かった。
軽く頷くと、片手でOKサインを出して『喋りません』という意志を大竹に伝える。
そのサインを確認した大竹は設楽の口を塞いでいた手をはなし、自分の地図を裏にして設楽に渡す。
それを受けとった設楽は無言でそこに書かれたお世辞にもきれいとは言えない文字の羅列に目を通した。

102 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:43:44
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 夜中に上田と会った。上田もプログラムに乗らないらしい。有田とロンブー2人も乗らない。
 上田は3人と合流したが、どうやらはぐれたらしい。訳ありっぽかった。
 南西の海岸近くの配電所を目指してるって言ってた。一緒に動かねーか勧誘したがダメだった。

 んで、本題だが、上田から俺らについてる首輪の話を聞いた。
 どうやらコレは 盗聴器 と 発信器 が仕込まれてて、無理にはずそうとすると爆発するらしい。
 俺が「このプログラムのオチが気に入らねえ」っつったら上田がこのことを筆談で教えてくれた。
 上田も同じ考えで、プログラム自体をぶっ壊せないかと思ってるっぽかった。
 おそらく、そういう政府に都合の悪い内容をしゃべったら、首輪が爆発するんだと思う。
 だからあのタイミングで俺に上田はこの話をしたんだと俺は思ってる。

 上田を疑う理由はない。俺と上田はそこで座り込んで話したが、あいつはナイフと銃持ってた。
 あいつが殺し合いに乗ってたなら俺は殺されてたはずだ。寝てたお前らもそう。
 それにわざわざ嘘の情報を教える意味はなんもない。だからホントの話だと俺は思ってる。
 いちいち誰も彼も疑うとかはできるだけ俺はやりたくない。めんどくせーから。

 基本的に俺はこのプログラムから死なないで帰りたい。それもひとりでじゃねえ。
 俺も、三村も、設楽も、できるだけ大勢が笑えるように、帰れるようにしてぇんだ。
 だから、上田みてぇに、プログラムをぶっ壊すってことも考えようと思ってる。
 すげーめんどくせーけど、俺はそうしたい。お前らがどうかは知らねえから、判断はまかす。

 まあそういうわけで、これからプログラム自体に反対するような話んときは筆談な。
 それから上田は、たまに建物の中にカメラがあるっつー話もしてた。
 とりあえずこの洞窟は確認したが、カメラっぽいもんはなかった。声さえ出さなきゃいい。
 
 そんだけだから、この内容をとにかく頭に入れてくれ。頼んだ。

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103 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:45:15

以上のような内容を言われた通り頭に入れた後、設楽は顎に手を当てて少し物思いに耽った。
大竹の提示した情報から、さらに何か引っ張りだせることはないかと脳をフル回転させる。
設楽はそれなりに聡明で、目端のきく男だ。大竹の話を聞いてそのまま飲み込むよりもまず考える。
情報を鵜呑みにするよりは、自分なりに解釈して大事なところだけとり込もうと試みていた。

…上田さんの話した首輪の情報は確かに、大竹さんの言う通り本当なんだろう。
 嘘つくメリット何もないしね。そういう無駄なことする感じって上田さんにはないから。
 武器を2つ持ってたってのはちょっと気になるけどね。片方は誰かのでしょ。
 俺らを襲わずに、情報まで教えてくれたってことは少なくとも今、上田さんは殺しあいに乗ってない。
 そこは信じてもいいけど、その前に上田さんが誰かと争った可能性は否めないかな。
 まあでも、ある程度隠してることはあるかもしれないけど、大筋は信じていいでしょ。

 で、盗聴器と発信器がついてるとなると、首輪をはずさない限りこの島からは逃げようがないな。
 無理にはずそうとすると爆発するわけだし、何か別の方法がなけりゃこれははずせない。
 まず第一に首輪のはずし方考えた方がいいだろうね。そんな簡単にはいかないだろうけど。
 そう考えるとやっぱり、大竹さんが言うようなことをやるのはめちゃくちゃ難しい状況だ。
 よく面倒くさがりの大竹さんがやろうと思ったもんだ。よっぽど気に入らないんだなこの感じ。
 
 けど、俺もまあ、大竹さんにわりと賛成。殺し合いに乗るほどは人間捨ててないからさ。
 ただ、大勢生き残るってのは厳しいんじゃないかな。相当いろんな運がよくないと。
 だからせめて俺と日村さん、大竹さん、三村さんだけでも生き残れたらいい。

以上のように、分析の結果わりあい現実的な結論を導きだした設楽は、自分の荷物から鉛筆をとり出す。
そして大竹が最初に突き出してきた名簿の裏紙の端に、返事代わりの文章を書いた。


104 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:46:28
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 おれは大竹さんに賛成なんで、それでいいです。
 でも首輪がそういうものだとすると、はずし方考えた方がいいっすね。
 あと、三村さんそろそろ起こしません? 紙見せるならおれ、口押さえてますから。
 三村さん、びっくりして叫ぶとかしそうなんで、全部終わるまで口ふさいでたほうがいいですよね?

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それに深くうなずいて親指までたてた大竹は、設楽に三村の後ろに回るよう指示する。
設楽が三村を黙らせるためのスタンバイを完了すると、大竹が三村の体をゆすった。

「んん…モガッ! んんー!?」

設楽が口を押さえて早々に暴れだした三村に、大竹はまず名簿の裏紙を見せて落ち着かせる。
やっとのことで落ち着いた三村は、設楽に手をどけるようジェスチャーで指示した。
しかし設楽は手をはさない。大竹もそのままことを進めようとするので、仕方なく三村は従う。

目の前に大竹の乱雑な字がびっしり詰まった地図の裏紙が突き付けられ、三村は目をしばたかせた。
関東一のツッコミは、読みはじめたところでもう「め?!」やら「まみ?!」やら微妙な声をあげている。
設楽と大竹は、三村の口を封じたままにしておいてよかったと心から思ったが、声には出さない。
それからしばらくして全部読み終わると、三村は文の終わりを指してモガモガと話そうとする。
設楽に三村の口から手をはなさないよう指示したまま、大竹は名簿の裏紙を出してさらさらと文字を書く。

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 お前うるっせぇんだよ! 言いたいことはココに書け、口で言うんじゃねぇ!

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105 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:48:15

それでさすがに黙った三村は、うなずいて鉛筆を大竹からひったくった。
そして大竹が文字を書いた下に、癖のある字で何やら書きはじめる。

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 しゃべんねぇから手をはなせマジで! なんかしめって気持ちわりぃから!
 あと、おまえの言いたいことはわかったから、とにかくアレな!
 オレもおまえが言うとおりだと思うから、そんでいいからな。
 上田といっしょに動けねぇのは残念だけど、しょうがねえと思う。
 あと、コレにとーちょー器ついてるっつっても、オレ別に変なこと言わねーよ!
 口とかふさがれなくてもちゃんと考えてしゃべるっつーの!

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ところどころ漢字を書くのが面倒だったらしい、走り書きのような文を、三村は大竹に突き付ける。
それを見た大竹は何かしょっぱいものでもなめたような顔で紙の端に小さな文字を書きつらねた。

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 お前、自分のことぜんっっっぜん、わかってねぇから!
 バーカ! バーカ! カーバ! あいっかーらずカバみてぇなツラしやがって!

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ついでにカバの絵まで描き加える芸の細かさを見せる大竹は、もはや当初の目的を忘れたとしか思えない。
そのカバの絵に苛立たし気に眼鏡を描き加えて横に“オオタケ”と書く三村はもう完全に目的どころではない。
四十近い男二人の筆談での言い合いは、ほとんど子供の喧嘩の様相を呈している。
三村の背後から手を回して口をふさいだままだった設楽が我慢できず、ブッ、と吹き出して三村ににらまれた。
大竹はハァ、とため息をひとつついて、設楽に手をはなすように指示する。

106 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:52:56

「あー、ったく…寝覚めわりぃ…」

ブツブツ言いながらも三村はどうにか、状況の分かるような言葉を呟かないよう気を使う。
気を使ってさえいれば、確かに一応は関係のある単語を飛ばしながら話せるのが三村だった。
彼は決して頭が悪いわけではない。どちらかと言えば頭の回転は速い方なのだ。
問題は冷静さに欠ける点である。何といっても、頭に血が上りやすいのがよろしくない。
ひとたび興奮すると、盗聴器のことなど頭からスッポリ抜けてしまうのも三村だった。
何せ、収録中にゲストの名前が出てこなくなるような男である。大竹たちが気をもむのも当然だろう。
そのへんの自己認識が多少甘いらしい三村に、大竹と設楽は目を見合わせる。

三人はめいめい、自分のデイパックのそばにもどると、大竹以外は地図や名簿をひっぱりだす。
朝6時の放送が近かった。ペットボトルから水を飲みながら、設楽はふと思う。

…放送で死んだ人の名前が呼ばれるのって、ひょっとして首輪で判断してるんじゃないの?
 そう考えるとつじつまが合うんだよね。いちいち島中の死体を確認してるわけがない。
 首輪についてんのは盗聴器と発信器。発信器はつまり場所の特定ってことでしょ?
 盗聴器は会話の内容の検閲。これは謀反が起きた場合に対処できるようにってことだろうね。
 けど、多分盗聴器と発信器だけとして、そいつが「死にました」ってことはどうやってわかんの?
 発信器で生死情報まで送ってるってことなのかな? ずいぶん凝ってんなあ。

設楽のそこまで思考が飛んでいったところで、あの放送の無駄に明るい音楽が鳴り響いた。
いつも通り、気持ちも入れず投げ出すように読まれていく死者の名前。
つぶやきシロー、劇団ひとり、青木さやか、雨上がりの宮迫…。よく知った者たちが消えていく。
大竹と三村にとってつぶやきは可愛がってきた後輩だったし、青木もそうだ。二人は、つぶやきを教室で見かけたのに声をかけなかったことを、ひどく悔やんだ。
宮迫も仲良くやってきた中堅の芸人だった。昨日蛍原が呼ばれたときも、彼らは胸を痛めたものだ。
設楽にとって劇団ひとりは気心の知れた共演者だったし、宮迫も共演者の一人である。
特に劇団ひとりは、大竹が一度は命を助けた相手であると知っているだけに、皆たまらない思いだった。

107 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:54:35

しかも今回は妙な闖入者まで現れたのだ。放送の途中で話しはじめた、知らない芸人。
baseよしもと所属、と所属事務所と本拠地までご丁寧に自己紹介に組み込んだ、<ソラシド>の本坊元児。
その場の全員にとってなじみのない名前ではあったが、その人物の言葉には3人ともがぎょっとして顔を上げた。

“ みんなで一緒に、楽に死にましょう ”

その、完全にどこかが間違った、奇妙な台詞。そしてその直後の銃声。
ただ事ならぬ雰囲気がスピーカーから流れる声を通じて伝わって来たが、すぐにたけしの声で放送が打ち切られた。
洞窟の中に残ったのは、なんとも言いがたい沈黙。言葉をひねり出すものがいない時間がしばらく続く。
“みんなで死のう”、そんなことを考える人間がいること自体に、3人は少なからずダメージを受けていた。
それは彼らの考え、特に大竹と三村の考えとはむしろ真逆に近い発想であったからだ。

しかし、それでも今回の沈黙は決して長くはなかった。放送のたびに、それを聞いた後の彼らの沈黙は短くなっていく。
それはある種の慣れかもしれない。もしくは、この過酷な場所で生き残っていくための防衛本能の類であるかもしれなかった。

大竹は、先ほど設楽と三村につきつけた名簿の裏紙??まだ余白が少し残っている??を皆の前におく。
そして、関係のないことを話しながら、設楽と三村にむけて筆談をはじめた。ここで話は冒頭に戻る。


108 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:56:01
「…あれだな、今日も晴れてんな、結構」
 『まず、このあとどうするかちょっと考えねえか? 日村探しは続けるとして、それ以外』
「そうすね、昨日よりは雲も多いみたいですけど」
 『あ、思うんですけど、首輪はずす方法考えないとダメだと思うんですよおれ』
「何にしろ今日もあっちーよ!  …大竹、よく上着、着てんなあ」
 『けど、この首輪ってはずせんのか? 爆発するんだろ?』
「うっせ! 寝るときは、長袖じゃねーと、風邪ひいちゃうんだよ!」
 『無理にはずす他にも方法があるかもってことだろ? まああるのが普通だよな、修理とかできねえからむこうも困る』
「大竹さん、寒がりですよね」
 『そうなんです。だから何か方法があるはずでしょ』
「そーだよ、いっつもクーラつけると、寒い寒い言うんだよ、大竹は」
 『首輪のはずし方は俺らじゃちょっと考えるのキツくねーか?』
「お前が…暑がりなの、暑い暑い病なの」
 『俺らで考えるのはキツイってのはそうだと思うわ、ただ、それ考えねぇとどうにもなんねぇ』

やりはじめてみると案外、一番言葉に詰まるのは言い出した大竹で、三村もあまり頭の切り替えがうまくない。
設楽はここでも器用さを見せて、会話を短く済ませながら文字の方では問題提起までしてみせる。

「何すか暑い暑い病って…」
 『けど考えざるを得ないでしょ、とりあえずお互いの首輪を見てみるとか』
「大竹のが…寒い寒い病だっつーの」
 『見てどーすんだよ…それより誰か知ってる奴いるんじゃねーの、上田が盗聴器と発信器知ってたんだし』
「だからアレだろ、お前、俺着てんだろ、わざわざ、上着を…」
 『ああ、知ってるやつはいそうだな。とりあえず誰かに会って、話できそうなら聞いてみるか? 言うとも思えねーけど』
「まあ三村さんは汗かきすぎっすけど、にしても大竹さんは明らかに異常に寒がりっすよ」
 『盗聴器のこととか知ってる人なら、知ってる可能性高いと思うんすけど、どうですかね?』
「だろ! 俺もそう思う!」
 『あー、それはそうかもしんねぇ。筆談もちかけてみりゃわかるかもな』
「あー、もう、お前らが何、言おうと、俺は脱がねぇかんな」
 『おし、じゃあ話せそうな奴には筆談もちかけて首輪のこと聞いてみるってんで決まりな』


109 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 01:58:46

あいもかわらず、幾分暢気な結論に達してしまう3人だったが、とりあえずは今後の行動方針が決まったようだ。
つきあわせた頭をひいて、デイパックからめいめい乾パンをとりだして食べはじめる。
全員袋の中の乾パンはまだ6割ほど残っているが、こうして食事のたびに食料が底をつく日のことが頭に浮かぶのだった。

「…これ、なくなったらどうしろってんだろうな」
「俺ので鳥とか撃つんでいいんじゃねぇ?」
「あー、お前の武器か。パチンコのでっけぇやつ」
「おう、昨日の晩見張りのときにちょっと試しに木を撃ってみたんだけどよ、結構これ威力あるっぽいんだよ」
「そうなんすか? でも動いてるものって当てるの大変じゃありません?」
「んー、それは確かに結構キツいわ。ネズミ見たから撃ったけどやっぱだめだったし…まあでもどうにかなんじゃね?」
「じゃああれだ、お前暇があったらそれ練習な」
「うわっ、めんどくせっ!」
「頼みますよ、俺は車の鍵だし、大竹さん花火だし、とても飯は調達できないんすから」
「わーったよもう…他にやりようねーしよぉ」

自分で言い出しておきながら、少しばかりぶすくれた三村が尻のポケットのスリングショットを撫でる。
しばしの沈黙がその場を流れた後、大竹がゆっくりと口を開いた。

「…あー、アレだな、もう放送からだいぶ経ったしよ、そろそろ西目指すか?」

それに残り二人がうなずいて、荷物を背負って立ち上がる。大竹、三村、設楽の8月16日は、そうして始まった。




110 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/09/05(水) 02:00:34
【さまぁ?ず 三村マサカズ】
所持品:スリングショット(180/190)、鍵とキーホルダー・開封済煙草・ライター(私物)
第一行動方針:とりあえず西へ向かい日村を探す
第二行動方針:途中で会った話せる奴と筆談
基本行動方針:生存
最終行動方針:できるだけ大勢が生き残る方法を探す・大竹と一蓮托生
現在位置:山の尾根にある小さな洞窟(H4)
【さまぁ?ず 大竹一樹】
所持品:特選花火セット大(&輪ゴム)、ライターと伊達眼鏡(私物)
第一行動方針:とりあえず西へ向かい日村を探す
第二行動方針:途中で会った話せる奴と筆談
基本行動方針:できるだけ生存
最終行動方針:プログラムの変更、離脱
現在位置:山の尾根にある小さな洞窟(H4)
【バナナマン 設楽統】
所持品:車の鍵(スズキ)・ガムテープ・スズランテープ・小麦粉、ライター(私物)
第一行動方針:とりあえず西へ向かい日村を探す
第二行動方針:途中で会った話せる奴と筆談
基本行動方針:日村と合流したい・プログラムには乗らない
最終行動方針:日村と合流できたら考えるつもり
現在位置:山の尾根にある小さな洞窟(H4)
【8/16 06:39】
【投下番号:255】

111 :名無し草:2007/09/05(水) 05:35:18
>>101
待ってました!
なんかこの三人は安心感あるな。
設楽年下なのに一番しっかりしてるw

112 :名無し草:2007/09/05(水) 09:26:20
さまぁ〜ず+設楽編乙です!
筆談で喧嘩するさまぁ〜ずワロスw

113 :名無し草:2007/09/05(水) 19:23:02
>>101
投下乙です!
さまぁ〜ずと設楽の行動方針がはっきりしてきて
今後の展開が楽しみです。

114 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:21:21
>>19-25続き。麒麟・ソラシド編
”「いった、また殴られた」”


『芸人の諸君、頑張って殺しあってるかな?』
お決まりの最初の言葉がこれ。そして中学の授業なんかで聴いたメジャーなクラシック。
誰が亡くなったか、禁止エリアがどこかとか書かなくちゃいけないから早く紙とペンを用意しないといけない。

聞き覚えのある声がスピーカーから聴こえる。同期のあいつ。
また危ない事を言いやがった。また作家の人や相方に怒られるって・・・

止めたのはスタッフの声じゃなくて乱暴な銃声で。
”おまけ”扱いで死んだのだと、スピーカー越しにそう告げられた。

”おまけ”・・・?
そんな扱いで終わっていい命があるんか?
あってええ筈ない。最後の言葉が本当やったとしても。
そうやろ?


「 本坊 !!」
田村が飛び起きた。やる事がないので寝入っていたらしい。
「起きた?もうそろそろ6時やわ」
馬場園が汗を拭う田村にタオルを差し出す。
「6時・・・?」
町田を見ると、既に名簿とペンと私物のメモ帳をスタンバイさせていた。
「放送、か・・・」
程なく定時放送が開始された。
死亡者と呼ばれた名前に線を引いていく。慣れていくのが嫌だった。
『長引きすぎてだりぃなぁ。お前らとっとと死んでくれよな』という捨て台詞を最後に放送は終わった。
不遜なその物言いに町田は小さく舌打ちをした。
しかし、普段ならこういう場面で真っ先に怒り出す田村が珍しく無反応だった。

115 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:22:49
田村を見ると伏し目がちに何か考え事をしているようだ。
「あれから・・・ちょうど1日経ったんやな」
「・・・本坊が死んでから?」
馬場園は持っていた虫除けスプレーを落とし、田村は右手のタオルをきつく握り締めた。
「あんなっ・・・見せしめみたいなこと・・・!山田さんだけやなくて、本坊まで・・・くそっ!!」
タオルを持ったまま、田村は右手の拳で木を殴りつけた。
「俺らが、水口が、石田が・・・川島が!どんな気持ちやったかわかりもせんくせに!!」
田村は悔しそうに木を何度も殴りつける。
その擦り剥いた拳を痛ませないように、町田はそっと田村の右手を抑えた。
「やめた方がええ。そんな事しても、どうにもならへん」
それを聞いた田村は納得しながらも渋々右手を下ろす。
田村もわかってはいるのだ。ただ彼の正義感が現実に迎合していないだけで。

「・・・あれはあれでよかったんかもしれへん」

町田はぼそっとそう呟いていた。
頭の中の空耳に近い言葉を、無意識に口にしてしまっていたらしい。
この環境がそうさせるのだろうか、自分らしくないミスだと町田は思う。
せっかく丸く収まりそうだったのに、また田村の怒りを蒸し返してしまう。
きっと怒ってるんだろうと田村の表情を町田が見る前に、田村は町田の襟首を掴んでいた。

116 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:23:51
「今何て言うた!?もういっぺん言ってみろや!!」
「たむちゃん!」
馬場園が止めても今の田村には無意味だろうと、町田は原因を作った自分を棚に上げてそう思った。
「・・・本坊が死んだこと、あれはあれでよかったんかもしれへん」
「お前!!」
田村が襟首を持つ手にますます力を込めた。
「純粋に見すぎなんや、あいつは・・・そやからみんなで死にましょうとか言うた。
 あいつにとってはそれがハッピーエンドなんやろな」
「そんなことない!話したら・・・話したらきっとわかってくれたて、絶対!!」
「無理やな」
間髪入れず、町田は否定する。
「このプログラムの終わりは1人だけ生き残るか、全員死ぬか。それに合わせた答えを本坊は出した。
 真っ向から反対してるお前に比べたら、自然なんは本坊の方やわ。
 それにあいつは100%善意でそう言うてる。善意に歯止めは効かへんよ・・・」
「やからって、死んでよかったなんて言い方はないやろ!?」
「もうやめてぇや!!!」
馬場園が力いっぱい叫んだ。
田村は握力を徐々に弱め、町田の襟首から手を放した。
「もう、坊ちゃんはいいひんねんで・・・」
馬場園が俯いたまま声を絞り出す。
もういない人間の事で喧嘩するなんて事は、感情を抜きにすれば馬鹿らしい。
それ以前にどうにもならないというのは、町田本人が言った事だ。
「ごめん、色々言い過ぎた」
「いや、何かイライラしてるわ俺。掴みかかったりしてごめんやで」
 一応事態が片付いたのを見計らって、馬場園がレーダーを2人の間に突き出した。
「坊ちゃんの事は悲しいけど、今生きてる人大切にせなあかんよ。迎えに行こう、すぐに」
この馬場園の気丈さが精一杯の虚勢であるという事に、2人は気付かない。


117 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:25:32
「川島さん達、大丈夫かな・・・?」
心配しながら助けに行くという選択肢を選ばないのはいかにも山里らしい。
実際は助けに行ったところでギャラリーが1人増えるだけなので、彼の選択は正しいが。
暑さで髪の毛がぺったりした頭はむず痒い。掻き毟ろうとしたら、さっきぶつけた箇所に触ってしまって痛かった。
「いった!」
同時に本坊に蹴られた腹も痛み出して、山里はうずくまってしまった。
(生きてる、な・・・俺)
だんだんと意識がハッキリしてきた山里は、川島たちとの出会いもあって自分が生きているのを自覚していた。
死に損なった山里は、また今からどうするかを考えなければいけなかった。
誰かと行動を共にしたい。が、大悟の件が山里をより臆病にさせてそれに不安を抱かせるのだ。
教室の出来事を目の当たりにした人間とは行動出来ない。また、あの場にいなくとも
それを聞いた人間もいるだろう。もう丸2日近く経っているのだ。それが誰なのか予想もつかない。
1人で行動するのが吉だが、山里の精神はそれに耐えられない。
(どうすりゃいいんだよ・・・)

「・・・とー、山里ぉー」
声のする方を向くと、見覚えのある顔がいた。
「田村さん!」
山里はその人物のもとへ走り寄っていった。
「無事やったんやな、よかった!」
「田村さんも、お元気そうで!」
田村は山里を見て安心していた。山里は確信する、”アタリ”だと。
もし田村が自分のしでかした事を知っていれば、山里を呼び止めるなど有り得ない。
田村は正義感の強い頼りになる先輩だ。一緒にいて損はない。
打算的で卑小と考える人がいるかもしれない。だがこれは山里が無意識に発動している防衛本能なのだ。
「よかった、見つかったんや!」
程なく馬場園も姿を現す。
「馬場園さんもご一緒で・・・凄い偶然ですね!」
「あ、だってこれがあるもん」
田村はレーダーを取り出して山里に見せた。
「すっげー!これで馬場園さんとも会えたってわけですね」
「うん、あともう1人いるけどな。あ、来た来た。町田ぁー!」

118 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:26:34
その名前を聞いた山里は一瞬顔を曇らせたが、すぐに気付かれまいと思って直した。
教室の出来事を知ろうが知るまいが、その人物が1番会いたくない人間である事に変わりはない。
教室で死んだ・・・死なせてしまった和田の相方、町田は山里の目の前にいた。
「山里!久しぶり、無事やったか?」
「だっ、大丈夫です・・・町田さんも怪我とかありませんか?」
「何とか今んとこはな。お互い無事で何よりや」
「それは・・・よかった・・・」
3人は山里にレーダーを使って知り合い中心に声をかけ、仲間を集めているという事を伝えた。
山里は了解して共に行動した。その間中ずっと、町田とは目を合わせられなかった。
「それにしても暑いっすねー・・・」
「山ちゃんもふくだけコットン使う?」
「あ、僕似たようなの持ってるんですよ」
山里は自分のデイパックからさらさらパウダーシートの袋を取り出した。
「え、何それ化粧品やん?」
「ちょっとお前そっちの趣味あんの?」
ニヤニヤしながら田村がそれをいじった。
「なっ、違いますよ!私物じゃなくて、さっきもらったんです!!」
「誰に?女の子?」
「いえ、本坊さんです。今から1,2時間位前でしょうかね。本坊さんの支給品なんじゃないですか?」

空気が急激に凍りついた。

「え、いや、ちょっとみなさんどうし・・・」
慌てふためく山里の発言が終わる前に、田村が山里の頬を全力で殴った。
「ぐぅおえぇっ!!」
全く無防備だった山里は無様に倒れた。
「今何言うた!?ええかげんにせえや!!」
さっきまで山里に笑いかけていた人間とはとても思えない。
田村は倒れた山里の襟首を掴んで、鬼の形相で山里に迫っていた。
「やめろや田村!」
「うるさい!お前も山里もよってたかって本坊の事馬鹿にしやがって!!」

119 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:28:08
田村の発言には余裕がない。それ程激昂しているのだ。
「えぇ・・・何でそんな怒ってるんですか?僕何か怒るような事言ったんすか!?」
田村が真剣に怒れば怒るほど、山里にはますますわけがわからなくなる。
「お前っ・・・ふざけんなやーーー!!」
怒りが頂点に達した田村は、拳を振り上げた。
「待てや!!」
再び町田が田村の拳を押さえて止めた。田村は町田を見たが、町田が見ているのは明後日の方向だった。
「馬場ちゃん・・・何してんの?」
馬場園は山里が落としたパウダーシートの袋を見て何か考えているようだった。
「山ちゃん・・・もらった化粧品なんやけどさ、ちょっと見てもらってええ?」
「あ、はい!」
上に乗っていた田村は自然にどいていた。山里は自分のデイパックに手を伸ばす。
「化粧惑星のネイルカラー、ファンデ、日焼け止め、リップグロス、アイブロウとあと他・・・
 そうそう、ドクターシーラボのトライアルキットなんかも入ってへん?」
すらすらと化粧品の名称を言い、それの確認の為に本坊からコスメセットを出していく。
男性陣には化粧品の事はわかりにくいが、化粧品にはハッキリとブランド名が書いてあるので、
馬場園が言った化粧品名と山里のそれがおおよそ一致しているのだろうというのはわかった。
「馬場ちゃん・・・何で知ってんの?」
町田が男性陣を代表して質問した。
「うち、昨日の朝9時位に坊ちゃんに会うて・・・
 それくれるって坊ちゃん言うてくれたんやけど、怖なって突っ返してんや」
「9時・・・?だって本坊は昨日の6時の放送で・・・」
「うん。で、ついさっき会うたんよな?」
「は、はい!ついさっき!」
「まさか・・・」
町田と田村は息を飲んだ。
「さっき、うちは坊ちゃんはもういいひんて言うたけど・・・」


「うちらの見たんがほんまやったら、きっと坊ちゃんは生きてる!」



120 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:30:02
【麒麟田村・ヘッドライト町田・アジアン馬場園、南海キャンディーズ山里 合流】
【麒麟 田村 裕
所持品:煙草、簡易レーダー、鉄パイプ、煙幕×4、爪切り、ガム
基本行動方針:首輪の外し方を探す。攻撃してくる相手には反撃する
第一行動方針:相方捜索
第二行動方針:仲間を探す
最終行動方針:プログラムの中止】
【ヘッドライト 町田 星児
所持品:デザートイーグル、サザエさん 1,7,24,38,45巻
基本行動方針:自分の身は自分で守る
第一行動方針:川島捜索
第二行動方針:
最終行動方針:不明】
【アジアン  馬場園 梓
所持品:お菓子の詰め合わせ、生理用品(私物)、虫除けスプレー(私物)
基本行動方針:生存最優先
第一行動方針:とりあえず田村・町田と行動をともにする
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明】
【南海キャンディーズ 山里亮太
所持品:睡眠薬・コンビニコスメセット
第一行動方針:誰か頼りになりそうな人の仲間にしてもらう
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:不明】
【現在位置:G-6】
【8/17 07:08】
【投下番号:256】

121 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/06(木) 00:38:46
>>86
大島が女とは思えないです・・・
岡安の軽薄ぶりがギャップがあって怖い。だがそれがいい。
>>93
功太が冷静なのがいい意味で予想を裏切られた感じでいいですね。
放送使ってもらってて嬉しかったです。
>>101
独白とかでも思ったんですが、口調のトレースが完璧ですよね。
3人の行動が凄く気になります。

122 :名無し草:2007/09/06(木) 11:51:08
>>120
乙。
おぉー!町田と山里が会うとは…
続き待ってます

123 :名無し草:2007/09/06(木) 20:56:33
見たかったけど、見たくなかったかもしれない出会いかも

>町田と山里

これからがめっちゃ気になります。

124 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/07(金) 19:50:21
投下番号182、184の続き、ロザン宇治原編とキングコング梶原編いきます。

『苦労人の憂鬱/空虚』


「最悪や……」

森の中を男が1人、手に長い木の枝を持って歩いている。
それに気付けたという事は不幸中の幸いだったのかもしれない。今はそう思っている。
自分は元々運のないほうだと思うが、ここまでくるともはや次はこれ以上の不幸がやってくると予測できるということが唯一の救いになってしまいそうだ。

彼がそこを歩いていたのは午後3時半頃、休憩を終わらせて北に向かう途中。
暑さは止まることを知らず、鬱蒼と茂る森の中は蒸し暑い事この上なし。そんな気候に嫌気が差しながらも、それでも足を休めるつもりはなかった。
それは本当に偶然、直射日光に当たるのは流石に嫌で東に向かってしまったが故の物凄く嫌な偶然。

「猪注意、ね……」

切欠はそのひとつの看板。それがなければ彼がここまで神経を磨り減らす事もなかったし、それ以前に知らないうちに忍び寄る危険に気付くこともなかった。
看板だけでも充分にしていた危険臭を、直後に見付けたトラバサミが証明したのだ。
――猪注意でトラバサミがあるなら落とし穴や他の動物用トラップがあってもおかしくはない。
その考えに基づいて彼はずっと木の枝で地面の安全を確かめながら歩いている。
そして、つい先程見事に中に無数の竹槍がある落とし穴を見付けた。ここで冒頭に戻る。



125 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/07(金) 19:52:29
それによって彼が更に注意を地面に向けねばならない事が確定し、しかも元々周囲に注意を向けねばならない状況であるせいで短時間でどっと疲れた気分になる。
この状況で彼が選んだのは、休憩でも罠にかかって死ぬ事でもなく逃亡だった。

とりあえず北に抜ける、そこにも罠があったら諦めて休憩しよう。
その方向を決める前に、自分の相方はどっちに向かうだろうか。まず学校から離れるだろう、そこからどこに向かうか、それを読まなければならない。
まず、仲間を集めようとは思わないはずだ。なら元町や展望台辺りは避けられてもおかしくない。同じ理由で集落も除外すると、南側に目立ったメリットがなくなる。
身を隠す……ことを考えるかは怪しいが、もし考えるなら開けたゴルフ場は避けるかもしれない。岩場や別荘、海水浴場と隠れるのに不向きだったり目立ちすぎている場所も除外。
南下すれば相方が行く可能性が低い上に人が集まりやすいと思われる元町、西に戻っても人が集まりそうな病院、東か北に行くのが1番いいのだろう。そして東にはゴルフ場がある。そこで答えは出た。

「北や、とりあえずそっちに避ける」

歩き出す足取りは相変わらずどこか疲れているが、意思は揺るがず。
希望が見えているわけではないが、冷静に生き延びていく術を考える余裕は取り戻したのだ。



場所は変わってF8の森の中。ここでもまた1人の男が歩いていた。とりあえず探すと言ってはみたものの、当てなどないからただ彷徨うのみ。
デイパックの中身を気にする余裕などなかった。歩き続けるのは自分を保つためであって見付けるためではない。水を飲むということさえ考えられず喉が渇いても気付かぬ振り。
信じられる他人などいるはずない。生き残れるとも思えない。甘いと思って文句を言う気力さえもない。相方の考えは甘すぎる、と今も思っている。
それでも相方の意思に基づいた行動をとる理由は自分でも分かっていないし考えていられない。敢えて言うなら理不尽に反抗したかったのかもしれない。
気分は憂鬱そのもの。暑さも相俟ってどんどん溜まっていくフラストレーション。元凶とは程遠い存在が何故か憎々しく思える。衝動に任せて言葉に乗せるのは行き場と視点を間違えた文句。



126 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/07(金) 19:54:31
「西野のドアホーッ! さっさと迎えに来いやボケ、めちゃめちゃ暑いやんけ! このまま殺されたらどうしてくれんねん!」

暑い。背負った荷物が途轍もなく重く感じる。誰かに会うより先に暑さに殺されてしまいそうだとぼんやりと思う。それでも水の存在を思い出すことはない。
時計は見てない(そもそも彼は時計があることを知らない)が、もうかなり時間が経った気がする。考えの甘い相方はもう出発する頃だろうか。
ならば学校に戻れば会えるかもしれない。そうだ、そうしよう。確実に会える方に行く方が良い。それにあれが人を殺して回る事もないと思う。
彼が思っているよりずっと時間は経っていて、今からでは間に合わないのだけど彼はそれを知らない。その手掛かりさえも知らないのだ。

当てなどない。希望などない。進むべき道も分からない。足取りもさっきよりずっと重い気がする。それでも止まったら彼は崩れ落ちてしまう。
崩れる前に彼を救い出す者はいるだろうか。――もしかすると、誰にも救えないのかもしれない。



そうして2人の苦労人は相方から離れていく。それは間違っているのか、間違っていないのかも分からない。

【ロザン 宇治原史規】
所持品:水鉄砲、メス数本、消毒用ガーゼ
第一行動方針:隣接エリアの中でも最も人が集まらなさそうな北に向かう
基本行動方針:生存優先・出来るだけ罠に注意を払う
最終行動方針:

【現在位置:森(D6中央部)】

127 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/07(金) 19:57:03
【キングコング 梶原雄太】
所持品:不明
第一行動方針:相方に会うため学校に戻る
基本行動方針:
最終行動方針:

【現在位置:森(F8北東)】
【8/15 16:07】
【投下番号:257】

128 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:16:54
前スレ >>328-332 の続き

『Rise of the Morning Glory.』


「赤岡、起きろ。」

「起きろーって、なぁ、赤岡?」

遠くの方で、微かに声がする。
聞き覚えのあるその響きに応えたい…その一方で、まだ安寧とした眠りの中に留まっていたい思いもあって。
赤岡は軽く寝返りを打つにとどめる。けれど。


「起きなさい。起きなさい 私のかわいい典明や……。」

「……っ!」
耳元で猫なで声とも違う厭な声色で囁かれ、赤岡は思わず全身を震わせて目を覚ました。
同時にガバッと上半身を起こす、赤岡のその動きに巻き込まれまいと身体を反らせる野村の姿が
真っ先に彼の視界に飛び込んできて、その笑顔と背後に広がる青みがかった色合いに、赤岡はそれまで頭を占めていた
眠気が一気に醒めるのを感じつつ思わず息を呑んだ。

「野村…おはよう……ってか、どれだけ寝てた。俺。ってよりも気色悪い起こし方をするなって。」
「さぁーな。オレもさっき目が覚めたばかりだし、島秀もこの有様だし。」
先ほどまで眺めていたはずの満天の星々は何処へやら、空はすっかり夜明け間近といった様子。
まだ日が出る直前という事もあって、辺りを流れる湿った空気は微かに涼しく何とも心地良いけども。
赤岡が傍らに立つ野村に問えば、野村も首を横に振ってククッと苦笑いを浮かべて返してくる。
ちなみにこの有様と野村が口にした島田は、赤岡が身体の大半を投げ出しながら眠っていた展望台のベンチの横の
アスファルトに横たわってすやすやと寝息を立てているようで。

129 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:19:17
赤岡の予定では数時間ごとに島田と見張りを交替しながら眠る予定だったのだけれども、
どうやら合流できて安堵したために疲れが一気に押し寄せてきたのか、どちらも睡魔に負けてしまったのだろう。
「…誰も来なくて助かった、という事か。」
そういえば一度も交替していなかったと記憶を辿りながらボソッと呟いて、赤岡は頭を掻こうと左手をもたげようとした。
しかしその華奢な腕は半ばまで持ち上がった所で動きを止める。
「……………。」
「……どうした?」
同時に顔をしかめる赤岡の様子に野村がその表情からわずかに笑みを消して問うた。
「いや、ちょっと腕が痺れてる感じがして。多分変な姿勢で寝たからだと思うけど。」
右手を添えてゆっくりともたげた左腕を降ろしながらしばらくすれば治るだろうと赤岡は野村に答え、
「ところで」と小さく呟いて言葉を続ける。
「それよりもどうしたんだ? 何か、話でもあるのか?」

緊急時なら、まずこんな起こし方はしない。声を掛けるよりも先に手や足が出てしかるべきだろう。
普通に朝で6時の放送前だからと起こすのならば、島田を無視して赤岡だけ起こすのはどうにも不自然で。
それ故に問いかけた赤岡に、野村は「んー」と声にならない声を発しながら一度間を計るように空を見上げた。
そのまま赤岡から視線を逸らすように薄く充血した双眸はあらぬ方を見やったまま、しばしの間をおいて。
「あのさ、オレさ。お前らより先に山、降りようと思って。」
舞台上の強気な口ぶりからはうって変わった、探り探りと言った調子で野村はそう赤岡に告げた。
「どういう事……要は、こっからは単独行動したいって事か?」
寝起きと言う事を差し引いても野村の言葉の意味する所が瞬時に理解できず、確認のために問いかける
赤岡の言葉に野村はしっかりと頷いてみせて。
「あぁ。 オレなりに色々考えてさ、やっぱり磯山の事、捜しに行こうと思って。」
「えぇっ! 野村くん、行っちゃうの!?」
ほら…と説明に入ろうとした野村の言葉は素っ頓狂な島田の声で遮られた。

130 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:22:59
「……起きてたんだ。」
「いや、ほら…頭の上でゴチャゴチャ話されてたらさすがに起きるって。
 それより野村くん、本当に一人で行っちゃうの? 僕らと一緒じゃ駄目なの?」
てっきり寝入っているモノと思われた島田が不意に顔をもたげて乱入してくる自体に思わず目を丸くする赤岡だったが、
島田はそれどころではないと言わんばかりに野村に捲し立てる。
確かに、磯山を捜す…昨晩その死亡が放送された磯山の遺体を捜すという行動を野村が選択した気持ちは
島田や赤岡にもわからなくもない。
しかし、赤岡のマイクスタンドのような武器に転用できそうな道具すらない野村が一人で行動するのは
あまりにも危険すぎるように思えてならなくて。
けれども野村は既に己のデイパックを肩から提げていて、どこか吹っ切ったような表情からは
彼を引き留めるのは難しいだろう事が伺えるだろうか。
「これは、オレの問題だから。お前らを巻き込む訳には行かねぇし。
 それに…オレはオレ、お前らはお前らで動けば、オレが無理でもお前らの方があいつを見つけられるかも知れないだろ?」
「だけど……」
「悪ぃな。でもよ、もう決めたんだ。」
説明にもやはり納得いかない、という表情で見上げる島田に笑って言い切って見せた野村の顔に、不意に光が差した。
「……………。」
光源の方へ目をやれば、どうやら海の果てから太陽が昇って来つつあるようで。
東の海面や空が黄金色に淡く色を変え、キラキラと美しく煌めいている。
「昨日の夜、岡安の奴が死んで小沢さんが死んで…あいつまで……それでオレ、正直どうして良いかわからなくなってた。
 でもお前らと一緒に行動しててさ、あ、オレまだちょっと何かできるかもしれねー、そう思ったんだ。
 それで、何がやりたいかって考えて……やっぱり何オレに無断で先に死んでンだよ馬鹿ってあいつを殴りに行こう。
 それしかもう思い浮かばなかったんだ。」
「……………。」
その太陽を真っ正面から見やりながら半ば独り言といった調子で言葉を紡ぐ野村のどこか凛とした気配に、
島田はもうこれ以上何を言っても駄目だと察さざるを得なかった。

131 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:24:49
ここまでも決意を固くしている人間を引き留めるのは、野暮の極みでしかない。
しかし不安自体は拭いきる事ができぬまま、その表情にしっかりと浮かんでしまったようで。
島田に目線を向けた野村はハハ、と苦笑いを浮かべる。
「…そんな顔するなよ。運が良けりゃ、またどっかで逢えるだろうし。」
「……………。」

こうして同期の面々と逢えたのが一つの奇跡なら、二度目、三度目はあり得るのだろうか。
目元に浮かんだ涙を手の甲でごしごしと拭う島田の様子を見やりながら、赤岡はふと考える。
『絶対』というモノが存在しない事ぐらい、舞台の上での出来事を挙げるまでもなく理解しているつもりではある。
しかし時に奇跡を起こすのが芸人という生き物のサガならば。もしかすれば。
「……………。」
「しっかし、腹が立つほど綺麗な日の出だな。」
ふとした他愛もない考えにのめり込み掛かっていた赤岡の耳に、野村の呟きが届いて我に返させる。
元々景観を楽しめるように、と作られた展望台である。島を取り囲む海、そしてその向こうに昇りつつある太陽の姿は
島の何処よりも美しく眺める事が出来るに違いない。
「明日の朝日も、見られるかな。」
「バーカ、見られるに決まってるだろ?」
ポツリと漏れる不穏な島田の一言に、野村はクックッと口元に笑みを浮かべる。
けれども島田の言葉を耳にした瞬間、確かに野村の表情は不安に揺れていたように赤岡には思えた。
どんなに割り切ろうと試みても、気丈に振る舞おうとしても、不安と恐怖は拭いきれないに違いない。
それとどう折り合いを付けるか。それはもうこれからの野村次第だろう。

一つふぅと息をつき、赤岡は己のデイパックを漁ると指先に触れた硬い物体をそのまま取り出した。
「野村。」
「……何だ?」
呼びかければ、振り返る。その野村にポンと赤岡は手にした物体…古びた缶詰めを緩やかな軌道で投げて渡した。
突然物を投げつけられるとは思わなかったのだろう。戸惑いながらも、野村はそれでもしっかりと両手で受け止めて。
「…ミカン?」
「ここまで付いてきてくれたせめてのお礼。厭なら返して貰うけど。」
缶の表面に印刷された文字を声に出す野村に、赤岡は告げる。

132 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:27:52
「良いのか? じゃあありがたく受けとっとく。でも貰いっぱなしってのもアレだからな…」
元町の民家で赤岡達が手に入れた缶詰めの中では、かなりまともな部類に入るだろう小ぶりのミカンの缶詰に
野村は驚いたように瞬きをして。それから彼は缶詰めをしまいがてらに己のデイパックに手を突っ込む。
そのまま野村が引っ張り出したのは、浦安の夢の国のネズミの耳のカチューシャだった。
「………?」
「凹んだ時にそれ付けて元気になってくれ…ってのは冗談で、もしお前らがオレより先に磯山を見つけたら、
 目印代わりにそいつをあいつの頭に付けておいて欲しいんだ。
 まさか死んだ奴の荷物を漁る奴もそのカチューシャまで持ってくとは思えねぇし。」
その代わり、オレが先にあいつを見つけたら、お前らへの目印に手袋を填めさせるかキーホルダーを握らせとくから。
もしそれを見かけたら、オレすげーって思っといてくれ。
島田にカチューシャを握らせながら野村はそう口にして。一度支給された時計に目をやった。
「…急いでる、のか?」
「自分勝手で悪いけど、朝の放送までにはお前らと距離を置いておきたいんだ。
 下手に土谷とか知ってる奴の名前が出されたら……またお前らに頼ってしまいそうだから。」
まだ朝の放送を気にする時間ではないように思うけども、そんな赤岡の問いかけに苦笑混じりに野村はそう答え、
そのまま未練を振り払うかのように一歩、前へと足を進める。
「そういう事か…わかった。気をつけて、な。」

本当は、怖いのだ。今にも心が折れてしまいそうに、不安なのだ。
しかしこのバトルロワイアルという場では、他人に甘える訳にはいかない。
故に。
ゆっくりと、しかし確実に野村は二人から離れ、山の麓に向かうハイキングコースへと進んでいく。

「…ねぇ、野村くん。」
赤岡達ほどではないにせよ、去りゆく華奢な後ろ姿に島田は呼びかけた。
「もし……もし磯山くんが誰かに殺されたとして…その殺した人に遭っちゃったら、どうするの?」
島田としては単に疑問を口にしただけに違いない。
とはいえ、お笑いライブの中MCで、突然怖い話を始めては客席を凍り付かせる事がしばしばあるぐらいに
空気が読めない男……その本分をいかんなく発揮したかのような問いかけに、野村は立ち止まって二人の方へ振り向いた。

133 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:31:34


「         。」

朝日が逆光になってその表情は何ともわかりづらかったけれども。
口元の筋肉の動きから察するに、彼は笑ってみせたように赤岡には思えた。


それ以上は何も言葉を発せない二人を残して再び歩き出した野村の姿は、やがて木々の陰に隠れて見えなくなってしまう。
武器になるような道具も、空手や柔道と言った体術も持ち合わせない彼が、どれだけ己の道を歩めるか。
そしてその先にどんな結末が待ち受けているのか……それはいずれ明かされる事となるだろう。


赤岡達にとっても、そしてきっと野村にとっても、大切な意味を持つバトルロワイアルの二日目はこうして始まったのだった。



134 : ◆8eDEaGnM6s :2007/09/08(土) 02:34:07
【江戸むらさき野村・号泣から離別】

【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー(2回目の放送収録) マイクスタンド 缶詰1個 薬箱
状態:左腕に裂傷(手当て済)&軽い痺れ(自然治癒待ち)・右頬に軽い火傷・全身に強い打撲・眩暈
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし・でも殺さない
第一行動方針:今後の予定を話し合う
最終行動方針:悔いのないように行く】

【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛  (以下、水色のリュック内) 缶詰2個 シャツ ネズミのカチューシャ
状態:額に裂傷(手当て済)
基本行動方針:生存優先・赤岡を信じる
第一行動方針:今後の予定を話し合う
最終行動方針:不明】


【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ 缶詰1個
状態:喪失感・不安
基本行動方針:生存優先・磯山の遺体を捜して悪態をつく
第一行動方針:
最終行動方針:不明】

【C8・展望台】

【16日 05:20】
【投下番号:258】

135 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/08(土) 21:59:42
>>32-36
プラン編ホテル組

第一の天使がラッパを吹いた。人々は憎しみに犯され、血を求め殺し合いを始めた。
一羽の鷲が空高く飛びながら、大声でこう言うのが聞こえた。
「不幸だ、不幸だ、不幸だ、地上に住む者たち。」
神の被造物である一人が自らの身を捧げ、第一の災いが過ぎ去った。
見よ、この後、更に二つの災いがやって来る。
                 
「ゴエには関係ないやろ」
久馬は窓際に座り込んで右手に黒ずんだペンを持ち、窓枠にネタ帳と左肘を載せたまま言い放った。
噛み付かんばかりの浅越の剣幕に動じる様子は見せない。
見下ろす浅越の顔は怒りの中にもどこか淋しげな雰囲気が漂っていた。

全て手遅れ。ハイ、オシマイ。
浅越の中に何処からか告げる声がある。でも心残りなのは事実で。

静寂が場を支配する。灼き尽くすような直射日光は白い壁に阻まれて、部屋は真昼なのに薄暗かった。
表情から真意を読み取ることは出来ず、言葉だけでは足りなすぎるのに。

久馬と浅越の間の距離は2m強。立ったままの浅越の歩幅なら一瞬で駆け寄る事が可能だろう。
そして手の中には未だに銃が握られていた。一瞬で、命を奪うことの出来る道具が手の内にある。
咄嗟に危機感を覚えて鈴木は浅越の腕を握る力を強くするが、結果的にそれは徒労に終わった。
「…関係ない、ですか?」
予想外の言葉に逆に冷静になったのだろう、浅越は心配そうに浅越と久馬を見つめる鈴木を手で制すと、掴んだ腕を解かせる。
そして万が一不審人物が居たときのためにと引き金に掛けていた指も外すと、
傍らに緩慢な動作で銃をそっと置き、久馬にまた一歩近付いて詰め寄った。
「久馬さんにとって、プラン9はそれだけの存在だったって受け取って良いんですね?」
久馬が諾と言えば、直ぐにでも踵を返して部屋から出て行くであろう浅越の姿が鈴木には容易に想像出来て。
元々プラン9を立ち上げようと言い出したのは鈴木で、人一倍愛着もあり、だからこそ他人には酷薄になれる訳で。
鈴木は、浅越の斜め後ろでマシンガンを両手で抱えながら佇み、
この場がどうにか収束してくれないかと願うだけだった。

136 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/08(土) 22:01:12
「何があったんですか?」
「ゴエは、今何が望みや?」
問い掛ける浅越に久馬はすぐに答えを与える様子はない。
焦りを見せることもなく、熱の籠ったキャスケットを脱ぐとガシガシと頭皮を擦って熱を逃がし、もう一度被りなおす。
その態度はまるで普段と変わらなくて、鈴木の焦燥を煽った。
吹き込む風が止まり静寂が訪れる。浅越は圧し掛かるような熱と息苦しさを感じる。
久馬は自分の決めたことには案外と頑固で。
暫くは久馬のペースに巻き込まれておかねば何も進まなそうで、仕方なく回答を得ることを後回しにした。
望み。BRに参加させられたことを自覚して、久馬の脚本執筆が進んでいる事が分かって。
「5人で最後の公演、やるのが望みでしたけど」
5人で揃って。自分たちは最期まで芸人のままで。
然し久馬の質問に対する答えは過去形。
それは5人がもう揃わないからなのか、それともその行為自体に魅力がなくなったのかはまだ分からなかった。
久馬はそれを聞いて頷くと、右手のペンを浅越の目に向けて突きつけた。
「それを全員望んでたんかな?」
沈黙。浅越は虚をつかれたのかもしれなかったが、動揺する様子は見せない。
ただ、目の前の人物もメンバーとはいえ他人だという眼前の事実に今改めて気付かされる自らの愚かさ。

考えてみれば、久馬は一度として「全員で出来上がった脚本を演じる」とは言っていなかった。
たった一つ「脚本を書く」と言っていただけで。
嘘は言っていないが誤解させるような言動は久馬らしいと思う。
今はただ苦い思いしか湧き出る事はないが。
久馬にとって、結局プランはどうでも良かったのだ。
久馬が好きなことを最期に書ければ後はどうなろうが。
浅越は自分自身に嘲笑した。灘儀を失うまで気付かなかった阿呆さ加減を。
浅越が肩を微弱に震わせているのに気付き、鈴木が不安そうな顔で横から浅越の表情を窺おうとする。

137 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/08(土) 22:03:55
一瞬の静謐の刻が訪れ、遅れて喧しい笑い声と涙。
浅越は確かに嗤っていた。
自らの手を汚しながらもずっと守り抜こうと思っていたのに、砂粒のように掌から零れ落ちた命。
助け合い、最期に想い出を作りあって。そんな関係は幻でしかなかったことに気付いてしまった。
冷静沈着に。最善の行動を取っていたはずが、前提から覆された悲劇。
無粋な侵入者を止める出来るだけの装備は整えておいたつもりだった。
久馬の手元には自分も殺害に供した武器があり、ある程度までは悪意のある侵入者さえ防げるはずで。

神経を逆撫でするような引き攣った笑い声が途切れると、途端に場が静寂に包まれた。
浅越は地面に放っていたデイパックを拾い上げると、肩に掛けなおす。
ワイシャツにデイパックはやはりどう考えても不釣合いだった。

「ゴエ…何処行くん?」
鈴木にも話し合いが決裂したことは手に取るように分かった。
だが浅越に久馬を害そうという雰囲気がないことが何よりの幸いで。
何処かへ行こうという浅越を止める事は困難と思われても、
未だ築いてきた歴史の重みが辛うじて浅越の中に残っているのならば、もう一度会えると、
床に置かれたままの銃に希望を持って。

138 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/08(土) 22:05:11
「会場に放置された死体って、どう処理されるかご存知ですか?」
刺々しい言葉に、久馬は眉を顰めて首を傾げた。
浅越は久馬を一瞥すると、その態度に完全に呆れた溜息を吐く。
そして活かすつもりのなかった記憶から情報を取り出した。
「一箇所、通常は出発地点近くに収容して一緒くたにして焼くんです」
ただの厄介物として焼かれ、骨も遺品誰のものか分からないままに。
突然子供が殺し合いに参加させられ、その骨さえ拾うことの出来ない親の哀しみは如何ばかりだろう。
不条理に抗することも出来ず、思い出に浸ることすら出来ず。
「今回は舞台が広いですから、何箇所にか分けるかもしれませんけど」
それでも一個人として扱われないことには変わらない。
それが許せないのなら、きちんと埋めてしまえば。
その体が土壌に染みこんで、木を育み、鳥になることを祈って。
「火のあったところに煙がたってもおかしくないでしょう」
言い残された台詞。意味の分からなかった鈴木は思わず久馬と目を合わせようとするが、
久馬にゆっくりと微笑まれ、久馬が既にその言葉の意味を理解している事を悟って歯噛みした。

完全に2人無視する体勢に入った浅越は、
部屋の隅に放置された灘儀の持ち物だったデイパックに視線を向け、
悠然と歩いてデイパックの前にしゃがみ込み、中身を探る。
食料品や医療道具を一通り自分のバックに移し終えると、
デイパック本体から雑貨も全て取り出して空にし、丸めて中に押し込む。

139 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/08(土) 22:06:43
「下りる時は違う階段使った方がええのとちゃうかな」
久馬は、浅越の言葉は灘儀の遺体を火葬する、という宣言であることにすぐに気付いていた。
だが、それと同時に友近について全く2人が聞いてこなかったことにも勘付いた。
それはまだ灘儀の死体と2人は対面していないことを意味する。
ホテルには階段が2つある。2人はもう一方の階段を上ってきたのだろうと結論する。
それならば此れは無駄に周囲を探し回るという未来を避ける為に、浅越に告げることが必要な真実だった。
然し浅越はその言葉の意味する事に気付き、久馬に憎しみの籠った視線を向ける。
その気迫は人さえ殺せそうな程で、鈴木は目を伏せた。

浅越にとっては場所が分かったという嬉しさよりも、
場所まで分かっていながら見殺しにしたという憎しみが勝ってしまっているのだろうと思うと。
鈴木にとって、今なおその視界の中にライフルが含まれていないことだけが救いだった。
半日前までは皆で声を合わせて歌いながら笑っていたのに。
その大切な時間を、遮って止めさせてしまった自分を鈴木は今更ながら悔やむ。

「気ぃつけや」
去り行く後姿に久馬の掛けた言葉は、浅越に顧みられる事無く風に消えていった。

140 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/08(土) 22:07:53
ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 M24ライフル 5.56ライフル弾(30/30)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
ザ・プラン9 鈴木つかさ
【所持品:アーミーナイフ ハンマー MP5 9mmパラベラム(277/300) 他不明
第一行動方針:久馬に詳しく話を聞く
基本行動方針:メンバー生存最優先、積極的に邪魔者排除
最終行動方針:考え直し】
ザ・プラン9 浅越ゴエ
【所持品:救急セット ダイナマイト1本 他不明
第一行動方針:灘儀の死体を埋葬する
基本行動方針:考え中
最終行動方針:考え直し】
【現在位置:ホテル(C4)】
【8/16 12:40】
【投下番号:259】

141 :名無し草:2007/09/09(日) 09:19:25
>>127
>>134
>>140
皆さん乙!!
みんなバラバラになっていくな
何だか最期に近づいている気がする

142 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 19:54:09
ダブルブッキング編 まとめサイト251の続き


『青い再会』



真っ白だ。
何も見えない。
何も聞こえない。
もう、あんまり苦しくないし。
そろそろ限界か、な


ここへきて初めて実感する、自分自身の死。
こんなにも簡単に失ってしまうとは、何ともあっけない。
もしかしたら自分の命など、元々とてもくだらないものであったのではないかと思える程に。



『―黒田さん―』



…ぇ …




「黒田さん!!」


143 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 19:55:26
いよいよ完全に意識を手放そうとした時。薄らいだ聴覚を呼び覚ますような鋭い叫びが鼓膜を突く。
―聞き覚えのある声。いや、妙に耳に馴染んだ声。しかし、こんな大音量ではついぞ聞いたことがない―
同時に黒田の真上でバシン、という音と共に軽い衝撃があり、その瞬間身体から重圧が退いた。
首を締め付けていた指が外れ、気管に一気に酸素が入り込んで肺を満たす。
「ぐぇ…っ、がはっ!!げほっ……」
ほとんど無意識のまま必死で空気を吸い込む。白濁していた世界が急激に樹木の深緑色に染まっていった。

(助かった…!?)
仰向けのまま、未だ朦朧としたまま、それだけがはっきりと頭の中に浮かんだ。
(一体、何が……?)
激しく咳き込みながらぐらつく上体を起こし、目線が定まらず霞む視界で、ゆっくりと焦点を合わせた。
少しずつ鮮明になってくる目の前の光景。


そこには、

草の上に腰を付き、つい数秒前までの殺意を露にした表情がまるで嘘のように、怯えた様子でがたがたと震えている出渕。
そしてその出渕の前に、肩で息をしながら真っ青な顔で立ち尽くしている、相方の川元。
夏草の中、2人の人間の姿があった。
川元の真っ直ぐ伸びた手に握られた拳銃。銃口が出渕の額にぴたりと突きつけられている。
双方ともその姿勢のまま、凍り付いたように微動だにしない。


(  ぶんちゃん )


144 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 19:57:23
*****

あの疑念が生じてから、川元は考えあぐねた末に迂回することを決めた。
長らく1人歩いてきた道を戻る間にも、一層疑心と不安が募る。果ては身の危険を顧みず駆け出した。
(何が持ってってくれだよ。武器がなくて、力も弱いくせに、自分に何かあったらどうするつもりだったんだ、あのバカは…!)
別れた当初に思い至れなかったことが思考を巡る。―黒田もまた、そうであったように。

疲労をも忘れ、進み続けるその耳に、上空に響いたスターターの音は微かながら届いたのだ。
「……嘘だろ…」
思わず頭上を仰いだ。

危惧を抱きながらも、現実にはそうそう考えていたような事態は起こらない。自分だけのネガティブな想像に留まる筈だ。
頭の片隅ではそうも思っていた。いや、願っていた。なのに。
―まさか、本当に?

後のことは、川元自身にもあまり思い出せない。
ただ何かが弾けたような感覚が走り、まるでそれに押されるように、今まで生きてきてこれ以上はない程に早く走ったことだけは覚えている。
汗で滑り落ちそうになる方位磁針を固く握り締めて。
周囲の景色さえ視界に入らず、ただ最悪のシチュエーションだけが脳裏に貼り付けられていた。

145 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 19:58:47
組み敷かれた黒田と、必死の形相でその首を掴む出渕―その光景が目に飛び込んだ瞬間、
顔からさあっと血の気が引き、反して腹の中は煮えくり返るように熱くなった。怒りで半ば我を失いながら、喉一杯に叫び、
今にも自分の相方を絞め殺さんとしている男を渾身の力で突き飛ばした。無様に地に転がった相手に、抵抗する隙を与えないまま銃口を向ける。
起き上がろうと一瞬身構えた男は、それを見て動きを止めた。
見開かれた双眸に川元の青褪めた顔が鏡の如く写し出される。銃身を寄り目気味に見つめるその表情が、恐怖のために段々と歪んでいく。
川元の手は小さく震えていた。それが怒りのためなのか、これから自らが行おうとしている行為への恐ろしさのためなのか、川元自身にも分からない。

「やっぱり信じるべきじゃありませんでした。他人なんて」
声音は冷え切っていた。出渕の額に、一筋汗が流れる。その伝う速度が妙に遅く感じられた。
「…死ね」


*****

スターターとは比べ物にならない程、鋭く、小気味良くさえ感じられる音が木の間を抜けて響いた。
黒田が上体だけ起こした姿勢で口を開けて見つめる前で、同じように口を開け、目も見開いたままの出渕が、
眉間に赤黒い空洞を作って、ゆっくりを倒れ込む。流れ出る鮮血が顔を真っ赤に染め上げていた。


146 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 20:00:20
草に死体が倒れるどさり、という音を最後に再び人間の発する音が消えた。
先程までの騒ぎが嘘のように辺りは静寂に包まれ、不気味なくらいに落ち着いている。

川元が静かに腕を下ろす、そして自分で作った死体から目を背けた。突っ立ったまま、何も口にしない。
黒田の視界からも顔が隠されたために、表情を窺い知ることは出来なかった。

命を奪われそうになったことへの恐怖、またも眼前で人が死んだことへの恐怖、また自身のすぐ前にある出渕の死に顔の気味悪さが相俟って、
黒田の全身は硬直しなかなか立つことさえままならない。
しかしそれらの事柄以上に頭の中を支配するのは、今傍にいる相方のことについて。
―長らく戻らない筈だったのに、どうして彼はここに立っているのか―
糸が絡まり合うように雑然とした思考はどうしても解くことが出来ず、ただただ、彼が自分の元へ帰って来ていること、
そして自分を生命の危機から救い出してくれたという事実がここにある。2人の間で、しばらく時が止まってしまったようであった。
動くのは、微風に揺れる草と汗に濡れた川元のシャツだけ。

147 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 20:02:17
…何を言えばいいのだろう。
ここに至ったまでの経緯、助けてくれたことへの感謝、もしくは謝罪、この場所から逃げようという提案……
幾らでもきっかけはある。しかし今はじめに口にすることとしては、何故かどれもそぐわないような気がして、黒田は何も言葉が出せなかった。
それは沈黙を保ち続ける川元への不安―相方の気持ちを汲み取り難いことに起因していて、それには何とかして顔を見なければ
如何ともしようがなく、先刻潰されかかった喉からやっと掠れた声を絞り出した。
「ぶんちゃん……」
川元がゆっくりとこちらを向く。久方ぶりに見るような、相方の顔。
元々色の悪い顔から血の気が失せ、真夏の日に照らされて透けそうな程に蒼白であった。
色素の薄い目が真っ直ぐに黒田を捉える。その視線の冷たさに、寒気が走るような感を覚えて思わずびくついた。
―しかしその瞳がどこか揺らいでいるように見えたのは錯覚なのだろうか。
分からないまま、兎も角も何かしら話そうと言葉の当てもないまま口を開きかける。と、その前に川元はすっと死体に背を向け、
そのまま、ちょうど自らが走り出てきた薮の中へと早足で歩いて行く。その場に未だ立てないでいる黒田を残して。
「ちょっ、と…ちょっと待ってよ、ぶんちゃん…」
黒田は慌てふためき、情けない声で離れて行く背に向かって名前を呼びながら、固まった足を必死にばたつかせるのだった。


148 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/09(日) 20:03:28
【レイザーラモン 出渕誠 死亡】

【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:陸上競技用スターター(紙雷管使用済)、控え銃弾(21発)
第一行動方針:よく分からない
基本行動方針:とにかく生き残る
最終行動方針:未定


【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:ワルサーPPK(5/7)、眼鏡、紙雷管
第一行動方針:相方と身を守り合う
基本行動方針:できるだけ生き残る
最終行動方針:未定


【現在位置:森(F4)】
【8/16 14:25】
【投下番号:260】



>>134
乙です。哀しい別れ…。
赤岡は大丈夫なんだろうか。

>>140
乙です。遂にメンバーがバラバラに。
ゴエがどうなってしまうのかwktk。

149 :名無し草:2007/09/09(日) 21:37:17
>>127
冷静な宇治原と行き当たりばったりな梶原の対比が面白いですね。
二人とその相方の動向が禿しく気になります!

>>134
野村の「腹が立つほど綺麗な日の出〜」のセリフにグッときました。
物凄いしっとりしたシーンなのに…カチューシャwww

>>140
また一人離れていくんですね……。
微妙な距離感が見える会話が余計に緊張感を持たせてて素敵でした!

>>148
RGが!RGが!
あんなにウザかったのにこの切なさは一体…。
逃げるように歩いていった川元の真意が気になります。

150 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:16:03
>>50-57続きです。  爆笑問題太田・インパルス板倉・星野卓也


『Les Infortunes de la Vertu』


(ありえないんだけど!ありえないんだけど!もう三十路も近いのに今更殺し合いをさせられるのありえないんだけど!!)

バトルロワイヤルに参加させられたことを理解した時、僕――星野卓也はこう叫びたい気持ちでいっぱいになった。
滅多にない全国区でのテレビの仕事が入って喜んでたらこれである。正に天国から地獄である。
冗談じゃないと思った。何で僕達がこんなことをやらなくてはならないんだ。
僕達の仕事は人を笑わせることであって、人を殺すことなんかではないのに。マジでありえないんだけど。
でも落ち込んでばかりはいられない。
教室内を確認してみると、僕の周りには不安そうな様子、心細げな様子の芸人仲間が沢山居た。
その様子を見て、僕は心を決める。

誰が殺し合いなんかしてやるものか。

俳優をクビになった僕を救ってくれたのが、お笑いの世界だった。
この世界に飛び込んでからも色々苦労したし、オンバトでも連敗が続いて自暴自棄になった時期もあったけど、
それでも事務所の先輩などいろいろな人の助けがあって、僕はここまでやれた。
お世話になった人達には、本当に感謝している。
でもこのプログラムには、そのお世話になった人々まで沢山参加させられているのだ。
彼らと殺し合いなんて、僕にはできない。
その思いは、凄惨な死体が並ぶ学校を出てからも変わらなかった。
デイパックの中に入っていたのは、鈍く輝くマシンガンだった。
マシンガントークを武器にする僕にはお似合いだということだろうか。いずれにせよ間違いなく当たり武器である。
しかし、こんなものに惑わされる僕ではなかった。
デイパックを確認した僕は、真っ直ぐに海に向かう。
海に着くと、僕はマシンガンを説明書ごと思いっきり海に放り投げた。
人殺しに役立つようなものなんかいらない。
僕ら芸人の武器は銃や剣なんかではなく、言葉なのだから。

151 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:17:29
こうして決意を更に固めて歩き回っていた僕は、やがて銃を互いに向け合って対峙する二人の芸人の姿を見かけた。
短髪にスーツを着た大御所に近いベテランと、髪を逆立てている自分と同じくらいの年齢の若手のホープ。
二人ともオンバトに出るのがせいぜいの僕とは比べ物にならないくらいの人気と知名度を誇っている。
二人がそのまま潰し合ってくれれば僕みたいな売れてない芸人にもチャンスが回ってくるかもしれない。
でも、そんな邪な打算で動くくらいなら最初からマシンガンを放棄したりなんかしていない。
そう、僕は殺し合いなんかしない。芸人らしく、かっこよく言葉を駆使して殺し合いを止めさせてやる。
だが、それでも怖いものは怖い。二人のことも正直あまりよく知らないし、姿を現すなり撃たれたらおしまいだ。
現実的な理性が僕の心に若干のためらいを生じさせる。
その時、僕はある言葉を思い出した。
それは、僕の一番好きな言葉にして、座右の銘。

”やらないで後悔するよりも、やって後悔しろ”

そうだ、僕はいつもこの言葉に背中を押されてきたんだった。
今だってそうだ。このままうじうじしている内に二人のうちのどちらか、下手したら両方が死んだりしたら、僕はきっと後悔する。
そんな情けない後悔をするくらいなら、たとえ危険でも前向きな選択をするべきだ。
そう、あのぴりぴりした雰囲気から二人を解放するために、勇気を出して僕が出来ることをやるべきなんだ。
僕の芸人魂に火がついた。そうとも、やらないくらいならやってやる!
さあ、行け!
今こそ滑舌の魔術師、星野卓也の出番だ!






152 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:19:27
「星野卓也、だあ?」

軽く自己紹介をした僕に対し、短髪にスーツのベテランこと爆笑問題の太田さんが不機嫌そうな声色で返してきた。
髪を逆立てた若手ことインパルスの板倉さんは、試合でエラーした選手を見るかのような微妙な面持ちで僕を見ている。
しかしそんな中でも尚、お互いに相手に向けた銃を動かす様子はなかった。
二人ともまだ、気まずい空気から抜け出し切れていないようだ。
場の疑心暗鬼を和らげるべく、僕は更に見切り発車で言葉を続ける。

「さよう、お二人の気まずい雰囲気に導かれてついついやってまいりました、
 頭はボサボサ、ノリはボサノバ、しがない若手芸人こと星野卓也でございます!
 この島の気候はアツアツ、そんな中あちらこちらで芸人同士が一触即発、殺し合いが続発、
 こんな運命が私は憎々しくて堪らないのであります。
 そこで私は決めました。目の前に広がるバトルロワイヤルの世界でどうするべきかを。
 それはずばり、運命への反逆!殺し合いへの反発!非道なる政府に対する反乱!
 要するに殺し合いには乗らず、皆さんで一緒にこのプログラムを止めさせて脱出したいわけです!
 そのためにも私はこうして皆さんにラブ&ピースを説かせていただこうと思ったのであります!
 さて、そんなわけで、太田さん、板倉さん、お二人とも銃を下ろしましょう!
 平和が一番!殺し合いが生むのは悲劇ばかりです!
 みんなで脱出するためにも、お互い一致団結して、芸人魂見せ付けてやりましょう!」

自分を鼓舞するためにも、あえてネタをやる時のテンションのまま僕は喋りまくった。
喋っているうちに自分自身に励まされているような心持になってくる。
そうだ、きっと大丈夫だ。こうやって説得していけばきっとみんな分かってくれるに違いない!

「脱出だと?……テメエ、そんなこと本気でできると思ってるのかよ?」

しかし僕のエンジンが暖まっていくのとは裏腹に、太田さんは馬鹿にするかのような表情を浮かべて問い返してくる。
一方の板倉さんは、いつの間にか薄笑いを浮かべていて、何を考えているのか読めなかった。
僕が未熟なせいか、それともこのバトルロワイヤルという状況が異常なせいか、
二人ともそう簡単には僕のペースには乗ってくれないようだ。

153 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:20:43
しかし挫けるわけには行かない。
漫画の中の主人公キャラのように、僕は正義に満ちた言葉を吐き続ける。

「もちろんですとも!
 確かに皆さんで集まるまでは辛いかもしれません。
 でも私は、これまで色々な芸人と知り合いましたが殺し合いに乗るような人は誰一人として知りません。
 太田さんに板倉さんも含めてみんなきっとこの状況が怖いだけ、私はそう信じております。
 皆さんがこの恐怖、弱ささえ克服することができれば後はこっちのもの!
 みんなで集まれば現状を打破するのは簡単!脱出の準備は万端!脱出出来ればみんなランラン!殺し合いから解放されてみんな安心!
 このようにして、みんな元通りの生活を取り戻すことができる。私はそう信じております!
 だから大丈夫です。太田さん、板倉さん、銃を下ろしてください!」
 
言えば言うほどテンションが上がっていく。
面白いほどに口が回り続ける。

しかし、そんな風にしてノリにノッていた僕に対し、太田さんが告げたのは非情な現実だった。

「……俺がもう既に人を殺したと言ったら、どうする?」
「えっ?」

そんな、太田さんが、人殺し?
いや、きっと何かの間違いだろう。
元々太田さんにバトルロワイヤルを馬鹿にしている節があったことは僕でさえ知っている。
太田さんが殺し合いに乗るなんて、信じられない。
何か事情があったのだろうと僕は思った。誤解の末とかの、已むに已まれぬ事情が……

「お前と同じように、殺し合いを止めたいだの何だのといった御伽話ばっかり言ってたな。
 そんで平気で銃預けてきたから、その背中を打ち抜いてやった。
 昇っていく硝煙がすんげえ綺麗だったぜ」

まるで猥談を語るかのように、太田さんは自分の行った殺人について語った。
僕はそれにただショックを受けた。

154 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:21:48
みんなそう簡単によく見知った仲間を殺せるはずがない。そう思ってたのに。
太田さんほどの人が、こんなに堂々と殺人を受け入れているなんて。
ありえないんだけど。ありえないんだけど。
学校の死体の群れまで思い出してしまい、一気に僕の心に弱気がのぞき始める。顔が強張っていくのを感じる。
やはり殺し合いを止めることはできないんだろうか。
僕ももう、この場から逃げ出した方がいいのだろうか……

その時、僕の頭に、再びあの言葉が響く。

”やらないで後悔するよりも、やって後悔しろ”

……そうだ、今さら引いてたまるか。
ここで逃げ出すくらいなら、最初から芸人なんかにはなっていない。
やっぱり僕は諦めない。太田さんだって、四人を殺めてしまった人だって、単に気が迷ってしまっただけのことに違いない。
きっと説得出来るはずだ!
こうなったら僕のプライドにかけて、とことんやってやる!

「人を殺した、仕方がないで済ませられることではない。それはよく分かってます。
 でもだからと言ってやり直しがきかないわけではないのであります。
 太田さんだって、そんな風に言いながらも、本当は後悔してるんですよね?
 だったらまだやり直せます。
 きっとその殺してしまった人だって、これ以上太田さんが罪を重ねるのなんか望んでないと思うんです。
 太田さんほどの人が休戦を呼びかければ、きっと皆さんが納得するはず。
 そうやってみんなを脱出まで導くことができれば、その殺してしまった人も浮かばれるはずです。
 だからお願いです。太田さん、そして板倉さん、銃を下ろしてください!!」

僕はかっと目を開き、心から叫んだ。
森に風が吹き、葉が大きくざわめく。
僕はただひたすら、二人の良心を信じることを選択した。
二人を救うために。プログラムを止めるために。そして何より、僕が後悔することのないように。

155 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:22:59

僕の説得を聞いた二人は顔を見合わせる。
やがて二人はお互いに頷き合い、ゆっくり銃を下ろした。

その瞬間、僕の心が達成感でいっぱいになった。
僕の説得が効いたんだ。二人を解放することができたんだ。
自信が湧いて来るのを感じた。そうだ、僕はできるんだ!
この調子でいけば絶対にみんなでプログラムから脱出できる……


…………あれ?


二人とも、下ろしたはずの銃を、徐々にまた上げていて……


…………え?


ナンデ?





ナンデ、二人トモ銃口ヲ僕ノホウニ向ケテイルンダ?



156 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:24:06
        ■     ■     ■
        

二発の銃声と共に、煩いお喋り野郎が地に伏すのを確認した私は、すぐに板倉に銃を向け直す。
強かな事に、奴もまた同時に銃を向け直してきていた。
こうして、また二人きりの世界における牽制の応酬が再開されたわけだ。

「しかしそれにしてもやたら早口で騒がしい奴でしたね。その上話の中身もおめでたい夢物語だし。
 余りにも愚かでウザいもんだからつい僕まで撃っちゃいましたよ」

あっけらかんとした様子で板倉が言った。
確かにこの星野とかいう奴が愚かなのには同意できる。
あれだけ楽しそうに人を殺したと語ってやったにも拘らず、本当は後悔してるんだろうなどとのたまったのもそうだし、
盗聴器が仕掛けられている可能性も考えずに脱出脱出と連呼していたのにも呆れ返る。
放っておいてもいずれ死ぬに決まっているタイプと言えるだろう。
それより気になるのは板倉のスタンスだ。つい撃ってしまったと言えるとは、こいつも平気で殺せるタイプという事か。
やはり食えない奴だ。

「……ところで太田さん、さっき僕に質問してましたよね?お前は何が言いたいんだって」

……そういえばそんな事も言ってたな。
愚か者の乱入のせいでうっかり忘れていた。


「要するに僕は、太田さんと手を組みたいと思ったんですよ。似た者同士、協力し合おうとね」


木々が揺れ騒ぎ、蝉の声が煩く響く中、板倉は芝居がかった口調で言い放った。
それに対し私は、顔を流れる汗に不快感を感じつつ、じろりと板倉を睨み返す。
ふざけてるのだろうか。この太田光に、協力しろと持ちかけてくるとは。
何とも言えないいらつきに私の脳が支配される中、板倉は更に続けた。

157 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:25:37
「僕はね太田さん、……見てみたいんですよ。究極の恐怖、そして、究極の絶望をね。
 恐怖や絶望は、突き詰めるとどうなるか、それを知りたい。
 そして思ってたんです。太田さんと一緒に行動すれば、きっとそれを知る近道になるだろうと。
 太田さんなら、僕にそれを見せてくれるだろうと。
 このようにして会えたのもきっと何かの縁です。
 太田さん、手を組みましょう。こうして銃を突きつけあっていても時間の無駄だと思いますよ」

ふむ、と私は思った。
やはりこいつも私と同類だった。こいつもまた、負の道の探求者だとは。
縁なんて代物は信じないが、確かに興味深い出会いなのかもしれない。
私は軽く舌打ちをしただけにとどめた。
確かにこうして銃を突きつけあうだけの時間は非生産的だ。
このまま妥協がなければどちらかが死ぬのは確実だし、先程の愚か者とは違う強かな第三者が闖入して来れば共倒れにもなりかねない。
ここは一旦和解に持ち込むのが、物足りないが確実だと言えるだろう。
だが、こいつの勧誘にあっさり乗るのも癪だ。
それに何より、他人と共に行動するのが鬱陶しい。
そんな時、板倉が興味深い事を言い出した。


「そうだ、太田さんさっき、既に人を殺したと言ってましたよね。
 ……実は、僕もなんですよ。僕も既に人を殺してるんです。それも、太田さんにも結構馴染みのある人をね」


私と馴染みのある人間。それはそんなに多いものではない。
このプログラムに参加させられている分だけ考えると、さらに限られてくる。
田中の小僧か?いや、それとも……

「……嘘つけ」
「本当ですよ。何ならその人のところへ行ってみましょうか?」

158 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:29:06
挑発するように板倉は言ってのける。
その時、私は思い出した。
横目でちらりと見た、愚か者を撃つ瞬間の板倉の表情、そして目。
それまでずっと侮蔑を込めた笑みを浮かべていた板倉の顔は、引き金を引く瞬間だけ、能面のような無表情になっていた。
そしてその能面の中に潜む、鋭い双眸に、私は正直、ほんの、ほんの少しだけ、虞を抱いたのだった。
果たしてあの瞬間、奴は何を考えていたのか。
本当にただ殺すために撃っただけなのだろうか。

「誰を殺したんだ。田中か?」
「それはまあ、そん時までのお楽しみっていうことで。
 どうです?興味が出るでしょ?」

そう言って板倉はゆっくりと銃を下ろした。
今なら、今ならば、奴を撃てる。
しかし。
焦らす板倉に苛立ちを覚えながらも、こいつへの興味を捨て切れなくなった私は。

「……しゃーねーな……」

唇を噛みながらも、銃をゆっくりと下ろす。
結局、板倉の勧誘を受け入れる事にした。
といっても正式にではない。とりあえずあくまで奴が殺した人間を見てみるまでだ。
板倉という人間について、もう少し様子を見てみてもいいと思った。
奴は果たして本当のことを言っているのか。
本当なら、どのようにして殺したのか。
私に死体を見せて、何をするつもりなのか。
とりあえず今の時点では板倉は私に対して殺意を持っていないようだ。
それならすぐ始末する必要もないと私は判断した。
ふ、と板倉がさらに口元を吊り上げつつタバコを取り出す。
それを見て不意に私も、タバコが吸いたいと思った。
我々の滑稽なやり取りを楽しむかのように、森もまたざわざわと、騒がしく嗤っていた。

159 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/09(日) 23:30:25
        ■     ■     ■


おかしいなぁ……どうしちゃったのかな……
だってほら、さっきまで何の異常もなかった僕の胸に、風穴が二つも開いてるんだよ?
体から汗がダクダク、生暖かい血がドクドク流れ出ていくのを感じる。そのくせ体は微塵も動かない。
結局二人とも僕の説得を聞き入れるつもりは欠片もなかったということか。
僕の決意、頑張りは一体何だったんだろう。まるで心にぽっかり穴が開いたような気分だ。まあほとんどその通りなんだけど。

「チッ、マジかよぉ。こいつ武器持ってねえじゃん。使えねえなあ」

太田さんと協定を結んでから、勝手に僕のデイパックを漁っていた板倉さんが吐き捨てるように言った。
一方の太田さんはタバコを吸いながら、苦しんでる僕をまるで見世物を見るかのような目で観察している。
僕はそれがただ悲しかった。
信じたくなかった。僕と同じ芸人仲間が、ここまで冷酷になれるなんて。
やらないで後悔するよりも、やって後悔しろとは言う。
だが、二人は僕を撃つという作業をやったことに、何の後悔もしていないようで。
それがたまらなく寂しくて、辛くて、せつなかった。

「おい、そういやお前何か遺言とかあるか?あるなら聞いてやってもいいぞ」

唐突に軽い調子で太田さんが訊いてきた。
その表情はあたかも新しい遊びを思いついた子供のようだ。
どうせ何を言ってもロクに聞き入れてはもらえないだろうと悟る。
だから。

「……な、何で…………そんな簡単に、殺し合いが、出来るんですか……
 信じてたのに……みんなこんなことができるわけないって、信じてたのにぃっ……!」

二人の冷酷さ、そしてこのプログラムへ巻き込まれたという運命への怒りに、
誰も救えずに終わる自分自身の不甲斐なさも込めて、呪詛を掛けるかのように呻く。
それを聞くと太田さんは、煙を吹きつけながらこう答えた。

160 :名無し草:2007/09/09(日) 23:32:35
支援

161 :代理 ◇EeCmUBzmbs:2007/09/09(日) 23:41:07
「あのなあ、毎年毎年バトルロワイヤルが行われて、そんで誰も死なずに終わったことが一度でもあったか?
 いつもいつもテレビで放送される結果は、一人だけ優勝か、全滅かのどっちか。そういうこと。
 人間は醜い。日常の生活でも自分の利益のために平気で他人を裏切ったり、貶めたりする奴はそこら中にいる。
 ましてやこんな環境に置かれりゃ、殺し合いを肯定できる奴なんざいくらでもいるんだよ。
 そもそも偉い奴ら自体がこうやって殺し合いを奨励しているくらいだしな。
 それとも、あれか?そんな事も知らねえくらいテレビも新聞も見てないってのか?
 まあどっちにしろ、お前はほんと馬鹿だ。田中並みの馬鹿だな。ばぁーか」

違う、と叫びたかった。
確かに僕も、人間には醜い部分があるということは分かっている。
信じたくはなかったけど、平気で仲間を殺せる芸人がいるってことも、本当は薄々勘づいていた。
だが、それでも、僕はみんなと一緒に脱出したかった。
みんなで集まれば、きっと奇跡は起こせる。だって僕ら芸人は、笑いと感動、そして奇跡を生み出すのが仕事なのだから。
例え幻影に近い願いだとはいえ、それでもその願いを信じるのが、芸人なんだと思う。
なので、太田さん達の考えを受け入れるわけにはいかない。
でも、僕の喋る気力も、もうそろそろ尽きかけていて。
だから、せめてあと一言。

「……っ、こ、この、冷血漢めっ……」

せめて、僕を殺したことにほんの少しだけでも罪悪感を持って欲しい。後悔して欲しい。
それが少しでも、他の脱出を目指す人の助けになれば。そう願って。
でも届かない。届かない。圧倒的なまでに太田さんに届かない。
太田さんは堪え切れないといったように、ついに口元を歪め、クックッとせせら笑いだす。


162 :代理 ◇EeCmUBzmbs:2007/09/09(日) 23:42:25
「何とでも言えよ。俺何言われたって平気だもん」

そして太田さんは、最後にこう言い残して、僕のデイパックを漁り終えたらしい板倉さんとともに、去って行った。

「全く、それにしてもやっぱ、こういう馬鹿を見るのはつまんなくてしょうがねえや」



こうしてこの場には、もはや死を待つばかりの状態の僕が、一人取り残されたわけだ。
それにしても、何なんだ、これは。
いくら僕が速さが売りだからといって、この島でまで第一放送を待たずに、彗星のように早々と命を散らすなんて、洒落にもならない。
ああもう、どうせ死ぬならせめて、よく知った人に看取って欲しかったのに、結局一人さびしく野垂れ死にか……。
やけに熱を持つ僕の命の源が、尚もドロドロと流れ出ていくとともに、意識がどんどん遠くなっていくのを、感じる。

結局、僕はこの島で、殺される以外に、何も出来なかったと、言うのか。

この悲劇を止めるために、何も協力できなかったと、言うのか。

僕は、これほどまでに、無力だったと、言うのか。



ああ、もう本当に、こうとしか、言いようがない。

こんなの、ありえ、ないんだけど…………


163 :代理 ◇EeCmUBzmbs:2007/09/09(日) 23:44:26
【星野卓也 死亡】

【爆笑問題 太田光
所持品:マイク、グロック17(14/17)・控え銃弾(34発)、煙草、ライター、結婚指輪
第一行動方針:人々に死を与える
第二行動方針:板倉を見極める
基本行動方針:死の魅力を追及する
最終行動方針:最後の一人まで生き残る】

【インパルス 板倉俊之
所持品:ワルサーP99(?/16)他不明(煙草、ライター)
第一行動方針:太田を自分が殺した芸人のところに案内する?
第二行動方針:太田と手を組む?
基本行動方針:究極の恐怖・絶望を知る?
最終行動方針:不明】

【現在位置:H9 森】
【8/15 17:08】
【投下番号:261】

164 :名無し草:2007/09/10(月) 00:11:44
>>150
投下乙です!
ホシタクは撃たれてもお喋りだな…
太田と板倉のマーダーコンビは素直に怖いです。

165 :名無し草:2007/09/10(月) 19:27:28
>>148
乙!
川元の心境が気になる。どこへ行くんだ?

>>163
乙!
この2人の組み合わせは楽しみだ。

166 :名無し草:2007/09/11(火) 15:46:56
>>163
星野…男前だったなあ。
太田が殺した人間が猿橋だと知らずに死ねたのが唯一の救いだな。仲良いから。

板倉の行動方針のクエスチョンマークが気になる。

167 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:16:14
>>86-91 松竹編第十話

 原罪 ますだおかだ岡田・タカアンドトシ トシ


 潮の風は髪を、香りは鼻を、同時に擽った。
 目を閉じる。
 穏やかな波の音がこちらに語りかけてくるようで、心が和んだ。
 目を開く。
 飛び込んでくる星空はさほど美しくもないが、直向きだった。
 無意味な時間を消費した。
 今夜は、とめどなく静かである。

 岡田がこの海辺に辿り着いたのはまだ日暮れ前の事だった。海の向こうに広がる夕日は圧巻で、
岡田が思わずため息を漏らしたのは言うまでもないだろう。それから岡田は浜辺に寝そべり、燃え
るような赤い空が冷えていく様をじっと見守った。
 考える事は何もなかった。
 何か機械的な、しかしからくり人形ほどの陳腐さを抱えた物体にでもなったように思えるほど、
岡田は全てを排した。流れる時間、これはただ単にこの居場所が心地良かったからで、快い空間を
味わえば誰もが忘れるものである。空を見ながら聞いた放送は耳に入る名前の多さに驚きはしたも
のの、そこそこ長い芸歴だ。知っている芸人など山ほどいて、一々リアクションをとっていられる
余裕はなかった。それから昼に出会った大島や岡安の事は――。
 特に意味はない。恐らく、あまり深く考えたくなかっただけだ。
 なのでそれらを放り投げ、取りこぼしなく忘れた。面倒を払拭し、楽な道を選んだのだ。だから、
岡田はただ無心で空を見続けていた。


168 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:17:24

 それにしても今日は、まるで永遠とカメラの回るスタジオに閉じ込められていたかのような一日
だった。間隔は広いにしろ行く先々でカメラが構えている。もう1年分は働いただろう。今だって遠
くにある林からカメラがこちらを写しているのはわかっている。だがいい加減一人でこのテンショ
ンを保つ事にわずらわしさを感じ、気付かないフリをしているところなのだ。
 無性に喉が乾く。
 本番中の独特な緊張感は、何年経っても慣れないものだ。水が欲しい。岡田は、枕にしているデ
イパックを開くため、体を揺らした。
 すると、背後からなんとも文字にしがたい小さな声が聞こえた。上体を起こして振り向くと、暗
がりの林から人影が見え隠れしている。それはただの影でしかないのに、随分と特徴的で目が離せ
なかった。
「岡田さん?」
 月明かりを直に受けるこちらは相手に丸見えのようだ。だが岡田がいくら目を細めてみても相手
の顔はハッキリしない。ただなんとなくよく知っている人物のような気がしたのは、声に聞き覚え
があったという事だけだろうか。
 岡田は喉の乾きも忘れてしまうほど、その人影に興味を抱いた。しかし誰かわからない事に業を
煮やしたのも事実であり、そのため岡田は立ち上がり、咳払いをすると相手を牽制した。
「これが本当の閉店ガラガラ! って誰が歩く商店街や! 奥さん今日もええ魚入ってまっせー
 ってやかましいわ!」
 岡田のギャグが静寂を誘う。もちろん支給武器であるブラインドとのコラボレーションだ。一つ
間を置いて岡田は首を傾げた。今一歩、何かが足りない気がした。
 そのせいだろうか。
 林に潜む人影は、しばらくの間静止した後突然ふらついて、ど派手な音を残し倒れ込んだのだ。影
は地面に這ったまま、動かなくなってしまった。


169 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:18:29

 岡田は思った。自分のギャグは寒いだけでなく殺傷能力まで備えているのだろうか。いや、今ま
で「あなたのギャグのせいで人が死にました」なんて笑えない話は聞いた事がない。まさかこの島
に不思議な力が宿っていて、ひょんな事から急に超能力を手に入れてしまったのか。それとも単純
に寒すぎて、体が凍りついてしまったのか。
「……って、そんな訳あるか! わしゃ液体窒素か!」
 自虐的思考は気にも止めず、ファンタジーな仮定を大声で振り払った。そんな事はどうでもいい。
今は倒れた影の方が重要だ。
 伏せたままの影を見つめる。起き上がる気配がない事だけは充分に察知できた。一瞬躊躇いはし
たものの、意を決して近付いた。
 倒れた相手とほぼ同じ位置にあるカメラを見た。無意識に見てしまった。ああ、気付かないフリ
も限界だ。そう思い、バレない程度に項垂れた。既に尽きている引き出しをどう誤魔化せばいいか、
結局岡田は一番の面倒を払拭できなかった。
 そんな事を考えているうちに、相手との距離はかなり狭まった。人影が次第に色付くにつれ、岡
田は妙に確信を得た。影を見た時に抱いた興味も、声を聞いた時の感覚も、バラバラだった点が
一つに繋がったようで、納得した。
 岡田は足を止めた。じっと、その人物を見る。
 ほっそりとした体つき。お洒落な身のこなし。そして何より芸術的な坊主頭。
 うつ伏せに倒れているため顔は見えないが、この後頭部は間違いない。タカアンドトシのトシだ。
「トシ、何や。しっかりせえ」
 不規則に上下する背中をさすり、そう話しかけた。トシは何か伝えようと身動きするも黙ったま
まだった。
 岡田は全身をくまなく調べた。だがどこにも外傷が見受けられず、今度は体温を確認した。こち
らも平常のようで、とりあえず頭を掻いた。


170 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:19:42

 しかしながらよく見ると、この暗闇でもハッキリとわかるほどにトシの顔が青かった。なんとな
くやつれているような気もして、慌ててトシの右肩からデイパックを引き抜いた。
 目を閉じて息を切らすトシを横目に、デイパックから水を取り出す。そして岡田は迷う事なくト
シの口元に水を流し込んだ。
 それも、大量に。
「っ、ぐ、……ぶはぁっ!」
 含んだ水を吹き出しながら物凄い勢いで起き上がったトシは、物凄い激しく咳き込んだ。薄っす
らと涙目になるほどむせた後、トシは目を見開いてこちらを向き、怒涛の反撃をその口で行った。
「だっ、もう、なんのつもりですか! イタズラするか心配するかどっちかにしてくださいよ! 
 大体さっきの……ゴホゴホッ、さっきのアレ何なんですか! 今の状況わかってるんですか! 
 わしゃ液体窒素か! って、ふざけるのもいい加減にしてくださいよ!」
 一気にまくし立てたトシは荒い呼吸を繰り返し、そして呆れたように肩を落とした。
「意外と元気そうやな」
「岡田さんのせいですよ! もう、勘弁してくださいよ」
 心底うんざりした様子で突っかかったトシは、胸を拳で軽く叩き呼吸を整えていた。それからふ
と強張っていた表情を崩し、小さく笑った。穏やかな笑みだった。何が可笑しかったのか岡田には
よくわからない。それよりも、まだトシの顔色は良くないように思え、そちらの方が気に掛かった。
「起きてて大丈夫か? 休んどいたらええのに」
「や、大丈夫ですよ。それよりあの、それって……」
 気丈に振る舞うトシが、ブラインドを指差した。


171 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:20:50

「これ、カバンの中入っててん。ええやろ、閉店ガラガラ! って」
「ああもう、一々やらなくていいですよ。まさかとは思いますけど、その支給武器だけでこんな、
こんな所で悠長に寝てたんですか?」
「あ? 武器? まあそうやけど」
「まあそうやけどって軽すぎますよ。命掛かってんですよ?」
「人の心配する前に自分の心配せえや。いきなり倒れんねんから、俺なんかしたか思うたわ」
「いや、してましたよ思いっきり。訳のわかんない一発ギャグ」
「せやからそのせいで死んでもうたんやないかって後悔してん」
「勝手に殺さないでくださいよ。大体ギャグかまされたぐらいで死なないでしょうが! ショック
 死するとでもいいたいんですか!」
「おお、それやそれ! ショック死が一番しっくりくるわ!」
「いや、岡田さん……」
「超能力でも使えるようになったんやろかとか、体凍るほど寒かったんやろかとか、いろいろ考え
 てんけどイマイチやって」
「まあただの体調不良ですから……」
「岡田のギャグに衝撃受けて、ショックのあまり死にました!」
「……」
「って、誰が笑いの殺人鬼やねん!」
「……」
「……」
「……」
「うん、不謹慎やな」
「わかってるならいいんですけどね」
「お蔵入りか」
「お蔵入りも何も、どこで使うんですか」
「せやな」


172 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:21:52

 ここで会話は途切れ、突然波の音が迫ってきた。たまに吹く微弱な風が、むせ返る空気を一掃し
てくれる。
 そういえばトシの体調不良の原因はなんだったのだろう。そんな事を一瞬でも考えはしたものの、
やはりそれも放り投げた。とりあえずすぐそこにあるカメラで一つ、トシの芸人力を試す事の方が
岡田にとっては最重点であった。
「なあ、そこにカメラあんの知ってるか?」
「は? え、カメラですか? ……カメラ?!」
 トシは軽い悲鳴のような声を上げ、慌てて岡田の指す方向へ顔を向けていた。
「やっぱ経験がモノを言うんやろな。こう、長い事芸人やってると自然に探してまうから。トシ
 も言うたかてもう……何年や。そのー、十年はとっくに経ってんやろ? 気付いてると思ってて
 んけどなあ」
「お、岡田さん岡田さん、カメラってのはいわゆる……」
「勿論小型よ? ほれ、あそこ。隠しカメラみたいな……あ、隠してんのやったら気付いてない
 フリせなあかんのか? それやと空気読めてない感じになってまう……最悪や! 大失態や! 
 あーもうええ、知らん!」
 仕舞いにはカメラとトシの存在すら放り投げ、岡田はその場に寝転がった。放置されたトシは坊
主頭を軽く撫で、小さくため息を漏らしていた。
「監視されてんですね」
「芸人のビビッてる姿見てケラケラ笑う番組ちゃう? あの、なんて言うんやっけ。ハッキリや
 なくてクッキリ……メッキリ? いや、ちょっぴり」
「ドッキリの事ですか」
「そんな普通に返してくんなやー」
「言っちゃ悪いですけどベタだしくだらないし酷すぎですよ」
「めった斬りやな」
「冗談言ってる余裕なんてないですよ。岡田さんは順番的に早かったからあれですけどね。ここ
 に来るまでどんだけ……その、色んな人が死んでたと思ってるんですか。もう、笑えないですよ」
「……」
「普通じゃないですよ。こんなの」
「……」
「なんでこんなとこにいるんでしょうね……こんなの俺、嫌ですよ」


173 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:22:54

 トシの震える声を聞いて、例えようのない温度差を感じた。
 岡田には恐怖という感覚もなければ絶望という高級な感情もない。それは人が死んでいるという
事実を受け止められないでいるせいだと、今は単純にそう思っていた。
 ふと、放送で名前を呼ばれた芸人たちの事を思い起こす。皆、何の別れの言葉もなくこの世を
去ってしまった。勿論言葉をかけられたところでそう上手く返す事なんて、岡田には出来ないのだ
けれど。
「どうするんですか、これから」
「なんとかなるやろ。そない難しい事ようわからん」
 突然投げかけられた質問に、あくまで本音で答えた。岡田にとって、そんな先の事を急に考えろ
と言われてもわからない。とりあえず面倒な事は避け、平穏に過ごしていたかった。無欲のようだ
がこの状況では参加者の誰もが願う最高の贅沢だ。しかし岡田にとって『普通の生活に戻りたい』と
いうそれとは何かが違う。
「探さないんですか? 増田さんとか」
「探してどないすんの?」
「そりゃまあ、心配でしょうに。無事なのかどうかとか」
「あいつは大丈夫やろ」
 正直相方の事などすっかり忘れていて、探すなんて考えてもみなかったし言われてみてもいまい
ちピンとこなかった。それに残念ながら生まれてこの方、人の心配なんて一度もした覚えがない。
「それに頼りになるんじゃないですか? 色々と」
「ああ……そうやったな」
 トシの言わんとしてる事を汲んで、しかし汲むに留まらせた。トシは更に言葉を続けようとして
いたが、すぐに飲み込んだようだった。
 また潮の香りを感じた。継続的に触れたいと思う、優しい香りである。


174 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:24:02

「そろそろ、行きますね」
 波が数度往復したのを聞いた後、その声が届いた。トシは長い時間座っていたせいで汚れてしまっ
た服を払い、立ち上がっていた。顔色は随分よくなっただろうか。引き止める理由はなさそうだ。
「本当は一人じゃ心細いし、岡田さんがいてくれると安心なんですけどね」
「動きたないねん」
「でしょうね」
 やっぱり、と笑ってそれ以上誘いはしなかった。
「相方、探したいんでね」
 ああ、と頷いてもう一度トシの顔を見た。
「まだ暗いんやから、気いつけて」
「母親か!」
 頭を叩く真似だけをして、ニヤッと笑い合った。
「なんか、色々とありがとうございました」
「なんもしてないけどな」
 深々とお辞儀するトシの姿が、なぜか永遠の別れを演出しているかのようで少し悲しかった。

 一人になると眠れぬ夜を仕掛ける時間がゆっくりと訪れる。
 穏やかな波の音は不気味なほどに無口で、漆黒に広がる星空はこちらを嘲笑うかのように輝き続
ける。
 芸人たちがここにいる意味なんて、恐らく何もない。
 岡田はじっと黙り込んで、フェードアウトしていくトシの背中を、見えなくなってもずっと目で
追っていた。
 まるで心に焼き付けるかのように、ただひたすらに。


175 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/13(木) 01:25:09

【ますだおかだ 岡田圭右】
所持品:ブラインド
第一行動方針:動きたくない
基本行動方針:カメラに向かって一発ギャグ
最終行動方針:何も求めない


【タカアンドトシ 三浦敏和(トシ)】
所持品:不明
第一行動方針:相方を探す
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明

【現在位置:K5 浜辺と林の境】
【8/15 22:30】
【投下番号:262】


176 :名無し草:2007/09/13(木) 04:00:24
>>175
新作乙です。
岡田……相変わらずの芸術的な滑りっぷり乙w
トシに何があったのかが気になります。

177 :名無し草:2007/09/13(木) 19:27:50
乙です。
永遠の別れになっちゃうのかな…。
切ない〜……

178 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/13(木) 22:32:28
>>40>>42の続き



元町エリアへ向かうため、林の中を歩いていく升野と安田。
だが、林の中には道らしい道はなく、2人にとってはかなり歩きづらいものだった。
次第に安田の足が遅くなっていき、ついにはその場で止まってしまう。
「ま、升野さ・・・・・・っ」
升野の方へと何とか歩こうとするが、それは叶うことなく、安田は地面にへたり込んだ。
「もう疲れたのか? 体力無いなぁ。まだ町までかなりの距離あるんだぞ?」
「待ってください。足が痛くて、動けないんです」
「捻挫でもしたのか? ちょっと待ってろ、今から応急処置するから」
右足を押さえたまま蹲っている安田を治療しようと、升野は一瞬だけ警戒を解いてしまった。
背後からの気配に気付き、慌てて気を引き締めたものの、直ぐ近くまで迫っている『敵』は、確実に今の気の緩みを感じ取っていた。
草を踏む音がどんどん近づいてくる。このままでは、2人とも――。

「(くそっ、こんなところで・・・)」

何とか身を守ろうと、武器である短剣を握り締め、気配のする方角へと向ける。
そして、今までに見せたこともないような鋭い視線で、『敵』を睨みつけた。
「誰だ、出てこい!!」
升野の大声に、安田も敵も心臓が飛び出るのではないか、と思うほどの衝撃を受けた。
だが、升野はそんなことには全く気付いておらず、更に強い調子で怒鳴り続ける。
「出てこいって言ってんだろ! 殺されたいのか!?」
「・・・・・・・・・」
茂みに隠れているであろう敵は、一向に動く気配を見せない。
いや、動いてはいたのだが、升野も安田もそれに気付くことが出来なかった。

特徴的な迷彩服が、2人の視界へ入るまでは・・・。

179 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/13(木) 22:33:57
「おい、足を止めな。そこの馬鹿2人組み!」
その声に、迷彩服の2人組みはピタリと足を止める。
「1つ聞く。お前ら、兵士だな?」
迷彩柄の服を着ている2人組み――それだけでも兵士であることは明確だが、
その2人が升野の問いかけに首を縦に振ったことで、それは更なる確信となる。

「(やっと見つけたぞ、『裏切り者』たちを!)」

升野の表情が、殺し合いと言う場に似合わないと思うほど、明るくなった。
そしてすぐさま短剣を持ち直すと、安田を兵士たちが居る茂みとは反対の茂みへと、乱暴に放り投げた。
安田は2回も地面に身体を叩きつけられることになり、そのためか身体を思うように動かすことが出来なくなってしまった。
何とかして相棒の元へと行こうと、足を懸命に動かすのだが、全ての動きが無駄に終わる。
そこで、自分自身の声で戦いを止めるように、彼を説得しようとした。
「升野さん、その人たちに手を出さないで!! その人たちは俺の先輩なんです!」
咽喉が潰れるのではないかと思うくらい、声を張り上げる。
しかし、『裏切り者を殺す』と言う意識しか無い升野には、安田の言葉は届かなかった。

「松下だったら痛めつけて殺すんだけど、お前らは面白くなさそうだから、一発で殺してやるよ」
升野は笑顔を崩すことなく、目の前に居る兵士に武器を向け、
短髪の兵士目掛けて、勢いよく飛び掛っていった――。

「全員死んでしまえ!!」

安田の悲鳴と兵士の放った銃声、升野が短剣で人体を突き破る音が森に響くのは、この少し後・・・
1時17分から1時20分頃の話である――。

180 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/13(木) 22:35:19
【バカリズム 升野英知】
所持品:短剣2本。他は支給品以外、不明。
状態:生存。良好。
第一行動方針:目の前に居る兵士を殺す。
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバックのみ。詳細不明。
状態:普通。右足に軽度の負傷。
第一行動方針:升野に従う。
基本行動方針:長田を探す。
最終行動方針:長田と合流し、2人で最後まで残る。
【現在位置:集落〜林(J7〜H7付近)】
【8/16 13:00〜13:15】
【投下番号:263】

181 :名無し草:2007/09/14(金) 00:31:36
>>180
投下乙です。
升野の非常っぷりが怖い…。

182 :名無し草:2007/09/15(土) 01:57:19
ほっしゅほっしゅ

183 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/16(日) 06:21:18
>>93-97の続き トータルテンボス編です。



周囲に広げた地図や名簿もそのままに、トータルテンボス大村はしばらくただ呆然としていた。
ついさっき終わった放送のせいだ。
大きく息をつくと、顔を上げて天井の隅に目をやる。そして、

「おやおや、穏やかじゃないねえ」
舞台の上のような顔と口調を作ってこう言った。
「すごかったですね。まさか放送を使う参加者がいるとは」
天井の一角に備え付けられた監視カメラは、待合室全体を映し出せるようになっているようだった。
大村はちょうどその中央に写るあたりに陣取っていた。
「正直、その手があったかと思いましたよ」
渋い顔で大村は小さく首を振る。その表情は、人の死を悼むものとは少し違っていた。
「彼、本坊君は僕も知ってますけど、正直そんなに有名ではないですよね。今回のこれでかなり名前が知れ渡りましたね。ちょっとこれは焦ります」

大村はこの参加者の中では恵まれていた。
他の人間に襲われることも、戦闘に遭遇したこともまだない。人が死ぬところは教室で見たが、それだって遠くてはっきり見たわけでもない。
だから大村は恐怖や絶望に囚われることも狂気に染まることもなく今まで過ごしてこられた。

184 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/16(日) 06:23:22
この幸運は、大村から警戒心を奪い、間違った認識へと導いた。
これはプログラムの形を借りた大型バラエティなのだと。
まず、山田は仕掛け人だったのだろう。放送が3回あったが、所詮はただの音声情報だ。名前を呼ばれた人間が本当に
死んだと証明するものは何もない。ネタばらしされて、今頃こちらの様子をモニタリングでもしているのかもしれない。

だとすれば、まだ「生きている」自分がすることは決まっている。
出来るだけ長く参加し続け、注目されるような行動をとる。
中堅と呼ばれるような芸人や売れっ子は最初から注目されているだろうから、それをこっちに引き寄せるにはよっぽど
派手な行動をとらなくてはいけないだろう。
 
「早く相方と合流したいんですけどね。ちょっと打ち合わせしたんですよ。島らしいってことはわかりましたので、なら港があるはずだと。
 出発したらすぐ地図を見て港に来いって言ったんです」
それを告げたのは、山田が撃たれた後だった。そのときの藤田は血の気が失せた顔で今にも叫びだしそうに見えた。だから安心させて
落ち着かせなければと思ったのである。
「そしたら藤田、相方が『港が二つ三つあったらどうすんだよ』と、珍しくまともなことを言いまして。なら西の港から回るってことになりました。
 日が沈むほうだから解りやすいだろうって。西になかったら北、そっちにもなかったら南、最後に東を探せといいました」
大村は地図をカメラに向かって広げ、指差しながら合流の説明をした。
「まあ、それで僕のほうが先に出発しまして、地図を見て、北の港に向かい、今に至るというわけです。
 藤田、遅いですね。西から回ってくるつもりなんでしょうか。地図見ろって言ったんですけどね」
例え放送で名前が呼ばれていなくても、怪我や不測の事態に遭遇して動けないという可能性もある。しかし、大村はそんな想定など浮かばず、
ただ夜が明けても現れない藤田に若干の苛立ちを覚えるだけであった。

185 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/16(日) 06:25:20
「そうだ。昨日渡されたディパックの中身ですけど、水と乾パンこれだけなんですか? 絶対足りないでしょう」
暇を持て余す大村は、昨日見つけたカメラにこんな風にたびたび話しかけていた。
初めこそ不安の滲む口調でぽつぽつとコメントをしていたものの、危機感のなくなった今ではすっかりドキュメントバラエティのノリである。
一口分程度の水しか残っていないペットボトルをカメラの前で振って見せる。
「暑いんで、もう1本なくなりそうです。どうしましょう、井戸とかあるんですかね」
食料だって底を尽きるのは目に見えている。やはり貝や木の実を取ったり、釣りなどをして食糧確保をしなければならなくなるのだろうか。
そういう某番組のような要素も加えたいとは、随分欲張りな企画だ。

支給品を片付けた後、大村はディパックに手を突っ込んだままカメラを見上げた。
「そういえば武器って一人一人違うんでしたっけ。僕のはこれです。結構良い物引いたと思いません?」
大村がカメラに見せたのは、小型の拳銃だった。
大村はそれを両手で構え、「ではちょっと威力を見てみたいと思います」と言うと、カメラに向かって引き金を引いた。
銃声、にしては間の抜けた人工的な音がし、銃口から飛び出したのは赤い旗だった。
カメラの向こうで呆気にとられた顔をしている人々を思い浮かべ、大村は笑顔になる。
「ね? いいでしょ。ぱっと見は本物っぽいですからね」
満足げな顔で旗に書かれた『BANG!』という黄色い字をカメラに見せた。

もし大村に支給された武器が多少なりとも殺傷力のあるものだったら、大村の認識は少し改まっていたのかもしれない。
他の参加者に支給されたのも、自分と同じおもちゃや何の役にも立たないものだろうと思い込んで、やっぱりバラエティだという思い込みを
決定付けたりはしなかっただろう。

大村は幸運だった。この島で起こっている惨劇をまだ知らないから。
大村は不幸でもあった。その幸運が遠くない未来に悲劇を生むと気づいていないから。


186 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/16(日) 06:27:25
「さて、それではちょっと外の様子をみてきたいと思います。藤田は来るのでしょうか」

待ちくたびれたのと、カメラの前に姿を晒し続ける緊張感から開放されたくなり、大村はそう言い残して待合室を出た。
桟橋やその周りには当たり前だが船は一隻も見当たらず、港としては違和感のある光景だった。
遠くに浮かぶのは監視のための船だろうか。本当に大掛かりな企画なんだなあと思い、大村は海に背を向けた。

土産物店などが並ぶ道を見渡せる場所に立ち、しばし考える。
おそらく、今まで自分がカメラに向かって話してきた映像は全部使われない。
カメラのあった場所から考えるに、あれは隠しカメラで本来は気づかれないことを想定しているのだろう。だから大村のこの行動は主催者側には都合が悪い。
それは大村も最初からわかっていた。それでもそうしたかったのだ。
大村にとって、ドッキリは引っかかるものではなく仕掛けるものだ。だから、騙されてこんな企画に参加されられたとは思いたくなかった。
自分はこれが企画だと気づいている、騙されてなんかいない。そんな主張をしておくことが、大村のプライドから来るささやかな抵抗だった。


道の向こうから誰かが近づいてきた。
大村は目を凝らして、その頭の大きさを確認した。

187 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/16(日) 06:28:28
【トータルテンボス 大村朋宏
 所持品:おもちゃの拳銃
 第一行動方針:藤田と合流する
 基本行動方針:「プログラム」という企画で目立つ行動をとる
 最終行動方針:なりゆきまかせ】
【現在位置:B-3・北の港 観光船待合室】
【08/16 07:30】
【投下番号:264】

188 :名無し草:2007/09/17(月) 00:16:15
>>187
投下乙。
大村の芸人らしい勘違いにハッとさせられた……
誰が来たのかwktk

189 :名無し草:2007/09/17(月) 00:44:47
久しぶりに見たらまとめサイトが変わってる・・・
IDとPASSは自分で考えるしかないよね。

190 :名無し草:2007/09/17(月) 12:09:47
>>189
過去スレ読んだらわかるんだが
そこら辺調べてから書き込め
いい加減ウザイ

191 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/17(月) 14:24:18
>>178-180の続きです。升野・安田編。


「死んでしまえ! この島に居る全員!」
「升野さん、お願いします! 殺さないで――!」

だが、時は既に遅かった。
升野の放った短剣は兵士の右脇腹を貫通し、そこから大量の血が噴き出す。
ドサッと言う音と共に、その場に崩れ落ちる迷彩服の男・・・。
それは、少し離れた位置に居る安田の耳にも、ハッキリと届いていた。
「・・・・・・嘘や、嘘や!! 絶対に嫌や!!」
叫びながら身体を動かそうとするが、打撲のためか思うように動かせない。
それでもありったけの力を振り絞って身体を起こし、ふらつきながらも升野の元へと向かった。
「・・・・・・・・・!!?」
彼の足元には、血を流しながら倒れている兵士が居た。
体格のいい兵士――恐らく、最初に動きを見せた人間だろう。外見である程度の察しはついた。
もう1人の細身の兵士も追い詰められており、何時殺されてもおかしくない状況だった。
「もう逃げられないぞ、覚悟しろ!」
「何やってんねん! ええ加減にせぇや、升野!!」
安田は自分のリュックを投げつけ、升野の後頭部にそれを直撃させた。
「っ、安田・・・おま・・・・・・」
「先輩は殺させませんよ。暫くおとなしくしていてください」
再び地面に人間が崩れ落ちる音が響く。
升野が気絶したことを確認すると、リュックと彼を抱えて兵士の元へと駆け寄った。
「さっきはすみませんでした、うちの相棒が・・・」
頭を下げる安田に、兵士は『別に気にしてない。覚悟してた』とだけ告げると、気絶した兵士を抱えてその場を立ち去ろうとした。
兵士の出血量はかなりのもので、応急処置をしなければ持たないだろう、そう判断した安田は、持ち場へ向かおうとする彼らに声をかけた。

「――ちょっと待ってください」

突然の呼びかけに、兵士は立ち止まり安田の方を見た。

192 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/17(月) 14:25:37
「応急処置をしますから、こちらに来てください」
自分の傍にあった木の根元を叩き、小さく手招きをする。
だが、兵士は規則上、あまり参加者たちと接点を持つことが出来ない。
こんなところで参加者と接点を持ったと知られたら、担任に何と言われるか・・・。
うろたえている兵士を見て、安田は『早く!!』と声を張り上げた。
「・・・わ、分かった・・・」
その強い口調に兵士は逆らうことが出来ず、木の根元にそっと相棒を横たわらせた。
深く抉られた傷に消毒液をかけると、すぐさま自分の上着で傷口を強く縛り上げる。
そして、タオルをペットボトルに入っていた水で濡らすと、額の上にのせた。

「これでよし、と・・・」

明らかに、素人が治療をやったと言う雰囲気が漂う傷口。
ネタであれば笑われることは確実だったが、状況が状況なだけにやらないよりはマシである。
とは言え、兵士と参加者があまり関わってはいけないことは、安田自身もよく分かっていたので、彼らの邪魔にならない場所に移ることにした。
「これで少しは持つ筈です。あとは他の人に頼んで、休ませてもらってください」
「ああ、ありがとう。ホンマに助かったよ」
「いえ・・・お役に立ててよかったです。それじゃ、俺たちはここで」
升野の身体を抱えると、2人分のリュックを持ち、足を引き摺りながら去る安田。
その姿が完全に見えなくなったことを確認すると、兵士も自分たちの行く場所に向けて歩き始めた。

その途中、兵士は自分がこの戦いの推奨者に組み込まれたこと、それに反論できなかったことへの後悔に苛まれ、涙が出そうになるのを必死で堪えた。
か細く悲痛な声が、この2人の去った後、林の中に木霊した――。

193 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/17(月) 14:27:08
「ここまで来れば、大丈夫やね・・・」
足の痛みを堪えながら、やっとのことである程度の場所までやってきた安田。
右足は先ほどの1.5倍ほどの大きさに腫れ上がっており、自力で歩ける状態ではなくなっていた。
升野を支えていることも難しくなったため、一時的にこの付近で休むことにした。
「すみません、ちょっとだけ休ませてください」
小声で言うと、彼の身体を支えたまま、ゆっくりと地面に腰を下ろす。
そして、右足に温くなった水をかけ、自分の怪我の治療を始めた。
「さっきより腫れが酷くなってる・・・。でも骨折やないよなぁ、歩けるし」
ぶつぶつと独り言を言いながら、右足を湿らせたハンカチで縛る。
氷が何処にも無い今は、こうするしか捻挫の痛みを抑える方法は無い。
『不便やなぁ・・・ホンマに』と呟くと、自分の鞄の中をあさり、使えそうなものを探し出した。

ガサガサと音を立てながら荷物をあさっていると、気絶している筈の升野が、突然自分の腕をとって、更に強く握り締めてきた。
まさか起きたのか・・・? と一瞬だけ焦ったが、意識自体はまだ戻っていないようだ。
頭を打った衝撃で、嫌な過去を夢として見ているのだろう。
眉間にしわを寄せて、辛そうな表情で何かを呟いている。
その表情は恐らく、彼をよく知る人間でさえも、見たことがないものだと思う。
安田はどうしたら良いものかと、頭を悩ませた。

もし長田がここに居たら、『大丈夫ですか?』と気の利く言葉でもかけられるのだろう。
しかし、自分にはそんなことが出来るだけの勇気も頭も無い。
「ホンマどうしたらええねん。長田ぁ、マジで助けてくれ〜」
何処に居るのかも分からない相方に助け、安田は声をあげた。
非常に弱弱しく情けないその声が、偶然にも傍を通りかかったあの2人の耳に入り、後に散々からかわれる原因となることを、この時の安田はまだ知らない・・・。

194 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/17(月) 14:28:30
【バカリズム 升野英知】
所持品:短剣2本。他は支給品以外、不明。
状態:生存。意識混乱中。
第一行動方針:(松下を引き止めたい/夢の話)
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバック、水(支給品)・消毒液、ハンカチ(私物)。
状態:普通。右足負傷及び、全身打撲(どちらも軽症)。
第一行動方針:升野をどうするか考える。
基本行動方針:升野に従いながら、長田を探す。
最終行動方針:長田と合流し、2人で最後まで残る。
【現在位置:林(H7付近)】
【8/16 13:20〜13:50】
【投下番号:265】



※この作品の裏設定※
松下さんから『バカリズムを脱退したい』と言うことを告げた設定で書いています。升野さんが苦しんでいるのは、それが理由ということで。
それから、最後に出てきた『あの2人』とは、陣内さんと小林さんのことです。
今回〜次回は合流しませんが、この発言を聞いた設定で第7話の合流シーンを書いているので、ここで登場してもらいました。

195 :名無し草:2007/09/17(月) 17:17:48
イタイ

196 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:19:09
前スレ435-438、雨上がり編の続きです。




森の中は思っていたよりも進みやすかった。

先に出発した誰かが進んだ道なのだろう、一人ではない人数に踏締められた下草や藪は
足が山に慣れてくると小走り程度の速さで進むことができた。
蛍原は手に持ったコンパスを確認した。針は出発した時と同じ方向を向いている。

「ホトちゃん、この道で合ってるの?」
蛍原のすぐ後ろを進んでいる堀内が少し不安そうな声で訊いてくる。
森に入ってからは休みを取らず、ほぼ走り詰めで進んでいるため声には疲労の色が滲んでいる。

「多分な。そのうち山裾に出ると思うねんけど、そっからなら目印が見えるはずやから。
とにかく森を抜けんことにはなぁ」
話をするだけでも息苦しいが、蛍原に休憩をとる気は無かった。
後ろから付いてきている堀内も置いて行かれたくない一心なのか、文句を言う気配もない。
蛍原は少し申し訳ないものを感じながら、言い訳じみた口調で続ける。


197 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:20:11

「それにな、ここ誰かが通ったみたいなんや。もしかしたら淳たちかもしれへんし
追いつけそうなら追いついときたいんや。ごめんなぁ」
「謝んないで。早く合流できれば安心だもんね」
蛍原の謝罪に、デイパックを背負い直した堀内が明るい声で答える。
堀内の言葉に蛍原は少し振り返り笑顔で応じた。

「そういえば、宮っちも後から来るんだよね?けっこう大人数になるんだ」
最初に会ったときにした会話を覚えていたのか、堀内が何気ない口調で呟きながら指折り数える。
蛍原はそうやねぇと軽く返した。

「宮迫が先行けって言うたんやけど、大丈夫か心配やわ」
「宮っちって方向音痴なの?」
「そういう訳やないんやけどな。案外小心なんよ。
怖がってパニックにならへんとええけどなって思ってなぁ」

そんな他愛のない会話を交わしながら進んでいると、木々の隙間から覗いていた空の中に
目指す山の姿がはっきりと見え始めていた。


198 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:21:13

山裾の少し拓けた場所に出た蛍原と堀内は、そこで少し休憩を取ることにした。
拓けていると言っても、森の中の巨木が倒れて出来た空間、といった方が正しいかもしれない。
地面に横たわり既に半分ほどがぼろぼろに腐っている幹は、それでも大人の腕に余る程の太さがあった。
二人はその幹に背中を預ける格好で地面に腰掛ける。
時計を見ると、四時十五分前後という所だった。

獣道らしきものが出来ていたせいか、思っていたよりも早く進んだようだ。
これなら、少々休んでも問題ないだろう。なにより、山を登る前に少しだけでも体力を回復させる必要がある。
デイパックの中から水を取り出そうとした所で、蛍原は鞄から突き出きている黒く大きな細長い箱に改めて驚いた。

「そういや、これって支給品なんかなぁ? えらい重たかったけど」
「中、見てみたら? そういえば、俺もまだ中身確認してないや」
水を一口飲んだ堀内がペットボトルをしまうと、そう言ってデイパックの中を探り始める。
蛍原はデイパックから箱を引っ張り出すと、地面に置いて慎重に蓋を開けた。
ケースの中には異様な存在感を持った銃が収められていた。
拳銃ではない。
ソ連製のAKM――カラシニコフ自動小銃だった。

思わず、蛍原はケースの蓋を閉めた。重火器に詳しくない蛍原でさえ、名前を聞いたことのある銃だ。
今まで誰かと戦うことなど微塵も考えていなかったが、武器を目にした途端に『殺し合い』という現実が
どろりと纏わり付く。

「ホトちゃん? どしたの」
「ん? あ、ああ、何でもあらへん」
蛍原は戸惑いながら再び蓋を開けた。
隣に座る堀内がうわ、と小さく声を上げたが、その声色から察するに堀内も蛍原と似たような心持だったのだろう。
蛍原は説明書を取り出すと、ちらりと見て顔を顰めた。

199 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:22:20
「なんやこれ、読めへんやんか」
「どれどれ?」
不満げな蛍原の声に興味を持ったのか、堀内が好奇心旺盛な顔で蛍原を見る。
蛍原から説明書を受け取った堀内は、ああ、と納得した声を漏らした。

旧ソ連製の銃なだけあって、説明書はロシア語と英語で書かれているようだった。
もちろん内容は全く読み取れない。所々に描かれている図だけで判断しろと言うのだろうか。

「日本語にしておいてくれへんと困るよなぁ」
ため息をついて蛍原は銃をケースの中から取り出した。弾倉と銃を両手に持ち、交互に見比べる。
漠然とした完成形のイメージはあるものの、どうしたらいいのかまるで分からない。
銃をあちこち触りながら思案していると、偶然に弾倉をセットすることが出来た。
弾丸が装填された銃に恐怖を感じたのか、不安そうな表情で堀内が問いかける。

「あんまり触ると危なくない?」
「引き金引かへんかったら大丈夫なんやないの? 」
銃については漠然とした知識しかない蛍原が自信のない声で答える。
そうなのかなぁと、こちらも自信の無さそうな様子の堀内が困ったように呟く。

「安全装置ってのがあるって、何かで聞いたような気がするんやけどなぁ……どれやろ」
蛍原はそう言って、銃口を藪に向けて見知らぬ安全装置を探し始めた。
暫くして弾倉の少し上にボタンを見つけ、何気なくそれを押してみると、ガチャリという音と共に
弾倉が外れて地面に落ちた。

「……取れちゃったね」
「……もぉ、訳がわからへんわ」
笑いを堪えている堀内の横でがっくりと項垂れた蛍原は、銃を肩に立て掛け転がり落ちた弾倉を拾い上げる。

「使い方分からへんかったら、ただの鉄の塊やもんなぁ。重たいだけやんか」
ぶつぶつと文句を言いながら、蛍原は再び弾倉を銃に差し込んだ。
そして再び説明書を見ようと身を屈めてケースに手を伸ばした瞬間、ぱぁん、と軽い音が森に響いた。

200 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:23:22
耳元で急に打ち鳴らされた音に、堀内は身を竦ませた。と、同時に頬に生暖かい何かが貼り付く感触がした。
銃声に驚いた鳥達が一斉に木から飛び立ち、木の葉や細かい羽が頭上に降り注ぐ。
濃い硝煙の臭いの中、堀内が恐る恐る目を開けると蛍原が倒れているのが見えた。

「ホ……ホトちゃん……? 」
沸き起こる不吉な予感に怯えながら、堀内は蛍原の肩を軽く揺する。硝煙に混じってかすかに漂う血の臭い。
最悪の事態が否応なしに堀内の脳裏に浮かぶが、蛍原が小さく呻いたのを聞いてホッとした表情になる。

「ホトちゃん大丈夫? 」
大方、耳元で爆音がしたせいで目でも回したのだろう――そう思った堀内が蛍原の体を引き起こす。
今まで地面に触れて見えていなかった側頭部にぽっかりと大きな穴が開いていた。
その穴から、とめどなく血が溢れ出している。
砕けた頭蓋の下からは幾分抉られて形を崩した、薄い肉色の脳が覗いていた。

「……ひッ!」
咄嗟に堀内は蛍原の頭を抱きかかえるように傷口を両手で押さえた。掌にぬめった感触が伝わる。

「ほ、ホトちゃん!? ホトちゃん!! 嫌だよ死なないでぇっ!!」
蛍原は意識があるのか無いのか、ただ虚空を見上げているだけで何の反応も返さない。
しかし浅い呼吸を忙しなく繰り返しているのを見る限り、まだ確実に生きている。

「きゅ、救急車……! 」
突然の事に混乱しきっている堀内が、救急車を呼ぼうと辺りを見回す。
当然森の中には電話ボックスも、代わりに電話をかけてくれる人間の姿も見当たらない。
そうこうしている間にも、堀内の腕と洋服に血が染み込んでいく。
不安と恐怖と混乱とで、堀内の目に涙が浮かぶ。もう、どうすればいいのか分からなかった。

「泰造! 潤ちゃん! どこに居るんだよ! 」
逼迫する感情に耐え切れず、堀内が叫ぶ。
するとそれに答えるように、蛍原が堀内の腕を掴んだ。

201 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:24:24
蛍原は空を見上げていた。

赤い空を鳥が飛んでいる。中天の太陽もまるで夕日のような赤い色をしている。
しかし穏やかな夕焼けとは違う、禍々しいまでの赤だった。
頭上で騒がしく自分の名前が叫ばれていたが、蛍原には空の不自然な赤さの方が気になっていた。

(何や?)
夕焼けにはまだ早い時間のはずなのにと、蛍原は上手く回らない頭で考える。
夜通しの収録終わりの時のようなひどい倦怠感と共に、溶け出すように体から力が抜けていく。
起き上がろうという気にもなれないほどの眠気に襲われ、ちょっと寝ようかなどと
ぼんやり考えた蛍原の脳裏に僅かに何かが引っかかる。

(何か忘れとるような……そや、宮迫)
既に理由は思い出せなくなっていたが、確か宮迫と待ち合わせをしていたはずだった。
宮迫が来た時に自分が寝ていては、手荒く怒られるか拗ねられるかのどちらかだろう。

(でも、眠たいなぁ)
引き込まれるような睡魔に、つい身を委ねてしまいたくなる。
しかし、年上ゆえの見栄だろうか。
何となく寝転がったままというのは格好が悪い気がして、蛍原は重い体を起こそうとした。
誰かに抱えられていると気付いたのはその時だった。
腕をどかして貰おうと、蛍原の肩を支えている腕を掴んだ。
すると、弾かれたように腕が離れ、どすりと蛍原の体が地面に落ちる。

(乱暴やなぁ)
体中が悴んでいるのかと思うほどの不明瞭な感覚に首をひねりながらも、やっとの思いで身を起こす。
不意に目に水が入った感覚がして、それを拭った。
拭った手に目をやると、大量の赤い液体と何だかよく分からないぐにゃぐにゃとしたものが
地面に散らばっているのが見えた。

202 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:25:29

(なんや、これ)
蛍原はじっとそれを見つめる。
(なんやった、っけ)

ぼんやりとしている間にも、上から何かが滴り落ちてくる。
空から水が落ちてきているのだろうかと、視線を僅かに上げると視界の端に何かが動くのを感じた。
動いたものを目で追うと、それは騒がしい音を立てながらばたばたと動いている。
なぜか蛍原にはそれがよく知っているもののような気がして、思い出そうとにじり寄ると
それは絶叫しながら強い力で蛍原を突き飛ばした。

全身に衝撃が走り、一瞬地面が視界に入ったがそれもすぐに見えなくなった。
夏の熱い日差しと、蝉の大合唱だけが蛍原に降り注ぐ。

(まっ……て、な……)
待ち合わせの約束をしていたのだ。待つ?何を?誰を?それはもう分からない。
今の蛍原に思考能力はほとんど残っていなかった。
だが、何かを待たなければいけないという事だけは不思議と覚えていた。
何かという重要な部分が思い出せなくなっていたが、多分とても大事な事なのだろう。

「――や……」
蛍原は考えることを止め、既に見えなくなった目をゆっくりと閉じた。





じっと、じっとここで待っていればいい。
そうすれば、きっと。

203 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/09/17(月) 18:27:52

【雨上がり決死隊 蛍原 徹
状態:頭部に被弾
所持品:ソ連製AKM(29/30)+予備弾薬30×3
基本行動方針:宮迫を待つ
最終行動方針:島からの脱出 】

【ネプチューン 堀内 健
状態:恐慌状態
所持品:未確認
第一行動方針:名倉潤と原田泰造を探す
基本行動方針:1人になりたくない
最終行動方針:生存 】

【現在位置:森の中】
【8/15 16:20】
【投下番号:266】

204 :名無しさん:2007/09/17(月) 20:08:42
>>203
投稿お疲れ様です!
蛍原さんの人柄がひしひしと伝わってきて、何度も読み返してしまいました。
今後どうなるのか・・・楽しみです!



205 :名無し草:2007/09/17(月) 21:54:54
書き手さん、乙です!


>>191-194
升野の捨て鉢な行動に振り回される安田…これから更に
どの様に展開していくのか、wktkです。

>>196-203
いつもながらのリアルな情景描写に、一気に引き込まれました。
蛍ちゃん…ただただ涙です。

206 :名無し草:2007/09/18(火) 07:34:13
>>203
投下乙です。
ホトちゃああああああん!!
ネプは泰造もホリケンも受難が続くな……

207 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:21:27
麒麟・ソラシド編
”精神攻撃”


「本坊が・・・生きてる!?」

田村は信じられないという表情をしている。
それは町田も同様だった。
「ほんまなんか、馬場ちゃん?」
ゆっくりと馬場園が頷く。
「悪い夢やと思っててんや。でも、あれは夢やない。確かにうちは坊ちゃんに会うた」
それはコスメセットの内容を言い当てた事からも見てとれる。
「あいつ・・・何ともなかったか?撃たれたもんやとばっかり・・・」
「うちん時は全然無傷。山ちゃん時は?」
「えっ、ああ・・・僕の時も元気ハツラツで!ていうか飛び蹴り喰らわされました」
「・・・飛び蹴り?お前何かしたん?」
「なっ、何にもしてないですよ!あの人のいつものノリで!!」
堪え切れず、田村は笑ってしまう。
「ちょ、田村さん濡れ衣で僕殴っといて何笑ってんすか!?」
「はは・・・・ごめんごめん」
いきなり大声で笑い始めた田村に山里が不服をとなえる。
「ははは・・・・・・・よかったぁ、あいつ、生きてた・・・」
顔から滴り落ちているのは汗でなく涙なのだとわかる。
「うん・・・会いに行こう」
馬場園ももらい泣きしそうになりながら、田村にそう告げた。
「でもそう上手くはいかへんみたいやな」
町田は至って冷静にそう言った。
「どういうこと?」
馬場園が表情を曇らせて尋ねる。
「本坊の番号は表示されへんままなんや・・・川島のも一緒に」
レーダーの画面を見せながら町田は険しい顔をしている。

208 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:22:29
「川島・・・」
田村は飛び出していった相方の後ろ姿を思い出していた。
「でもさっき山ちゃん会うたって」
「何時間前やっけ?」
「あっ、はい・・・2時間以上前、です」
「結構経ってんな・・・」
所在がわかればどうということはないのだが、闇雲に探すのは骨が折れる。
「それでも追いかける!たかが2時間やろ!?」
かまわないと言う田村を心配そうに馬場園が見やる。
「・・・やったら、うちらはどうしたら・・・」

「・・・先に水口に会いに行こう」
町田は静かに、だがはっきりとそう言った。
「水口に?」
「うん、あいつが何て言ったか覚えてるか?」
町田の問いに、田村と馬場園が頭を捻った。
「本坊と石田を、殺した、って・・・」
すべてを否定し絶望しているような水口が、確かにそう言っていた。
「でも、坊ちゃんは生きてる・・・やったら」
「”嘘”やったんちゃうかな。少なくとも、本坊については」
「何でまたそんなん・・・」
一同はしばらく沈黙する。
「・・・何で向こうが生かしたんかはわからん。誰もあれ聞いて生きてるとは思わへんと思う。
 俺らかて馬場ちゃんと山里から聞くまでは本坊が生きてるやなんて、想像も出来ひんかった。
 水口はあの放送を学校の近くで聞いてた。そん時あいつがどんだけ傷ついたかはわからへん」
”水口は本坊が死ぬのを見ていたのかもしれない”と、かつて田村は町田に言った事がある。
「だからあんな風に変わってしもた。
 そんであいつは傷ついたまま石田も失った。
 あいつが手を下したか、そうやないかはわからんけど・・・」
「そんなわけないやろ!!」
水口と対峙してる時よりも強く田村は否定する。あの時よりは確信が持てるからだ。

209 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:23:31
「うちもそう思うよ・・・水ちゃんは一緒にいた石井さんも、うちらも殺そうとせえへんかった。
 あんなんやったんは、きっと理由があるからやわ」
馬場園も同調する。
「そうやな・・・あん時は事情がわからんくてどうにも出来ひんかった。
 でも、今なら水口を助けられるかもしれへん」
「坊ちゃんも?」
「あと川島も、やな」
「そうと決まったら、早よ行こう!!」
「・・・・・・・・・あの」
か細い声が遠慮がちに割り込んだ。
「山里?どした?」
「僕だけ事情がわかんなくて置いてけぼりなんですけど・・・あと殴られ損確定っぽいですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「山里、まだショック受けてんの?」
「だって、信じられませんよ・・・昨日の朝の放送で死んだ事にされてた、なんて」
昨日の放送の経緯を話すと、山里は森中の木が揺れるような大声で驚いた後、殆ど喋らなくなった。
本坊の事だけではない、次に自分に来るであろう質問がすぐ予想出来たからだ。
”「聞いてない?昨日の放送の時どうしてたん?」”
その質問を浴びせたのは、よりにもよって1番接したくない相手である町田。
寝ていて聞き逃したと、山里はさもショックを受けている中搾り出したという声で言った。
前日の取材やら営業やらのスケジュールが祟って疲れが出てしまったと理由付けして、
意外と僕図太いんですね〜、なんて余計な文句も付け足してしまっていた。
で、またも予想出来た次の質問。
”「そういえば、お前支給品何?」”
出来れば嘘をつきたかったが、偽る武器も山里は持っていなかった。
正直に睡眠薬を取り出した。少し減っているのは好奇心で開けたらぶちまけてしまったと言っておいた。
やや苦しい言い訳かなと山里は思っていたが、3人ともそれ以上は追求しなかった。
町田がやや不審がっていたのに気付かなかったのは、山里が町田と目を合わせるのを避けていたからだろう。

210 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:24:33
「相変わらず武器はこの鉄パイプだけかぁ・・・」
「4人もおんのにうちら運ないなぁ」
「鉄パイプとか煙幕があるだけまだマシかもしれんけどな」
こうして、4人は水口と合流すべく歩き出した。

水口は時々足を止めていた様なので、合流は容易いと思えた。だが、
「何でまたバグんねん!」
水口の番号は点滅して消失したかと思えば、バラバラの位置に表示され始めた。
どうやら水口の番号だけでなく、他の参加者の番号にも同様の事が起きている。
「肝心な時に・・・!」
以前ならおろおろするだけの馬場園が、今度は悔しそうに吐き捨てる。
(おろおろする役割は山里が引き受けているからかもしれないが)
相変わらず本坊と川島の番号も表示されていない。
「この役立たず!!」
田村が思いっきり地面にレーダーを叩きつける。
山里が反射的に肩を震わせるが、癇に障ると思い声までは出さなかった。
「ど、どうしたらいいんだよ・・・」
「・・・水口が駄目なら井上がいる」
町田が田村の投げたレーダーを見つめてそう言った。
「井上?」
全員の視線が町田に集約された。
「うん、もしかしたら井上はもう水口に会うた後かもしれへん」
「そうか、あん時お前井上の居場所言うてたもんな」
状況が掴めない山里に、横の馬場園が順を追って説明をした。
「会うたなら次にどこ行ったか知ってるかもしれへんし、
 会うてへんなら会うてへんで連れてってやったらええ」
「井上、今どこにいよる?」
「F-6。ここからずっと動いてへんみたいやわ」
田村達はF-4と5の間位まで来ていた。対して井上がいるのはF-6のエリアでもかなり7よりの方。
水口から離れる事に田村は正直納得出来ない様子だったが、居場所がわからないのだからどうしようもない。
川島と本坊がもしかしたらそっちにいるかもしれないと、無責任とも言える希望を上乗せして田村を納得させた。


211 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:25:41
井上はずっとF-6の建物から動かない様だったので、疲れも溜まってきた4人は
川の上流でペットボトルの水を補充するなどして休息を取っていた。
曇りとはいえ、8月の半ばはまだまだ暑いので、川の存在はありがたかった。
川の水で絞ったシャツを岩に引っ付けて、上半身裸のまま男性陣は昼食を取った。
「山里また太ったんちゃう?」
「あ、田村さんわかります?いや〜、最近酒の飲み過ぎが祟っちゃって・・・」
「田村はスタイルええからなぁ。俺も最近太ったから何とかせなな〜」
「「「(それで・・・?)」」」
「うちの肉15キロくらいあげたいわ・・・」
「ああ山ちゃん、コスメセットどうする?うちが持っててええの?」
「ええ、女性の馬場園さんが持ってるのが妥当かと・・・」
「しずちゃんに会った時用に持ってたら?」
「そうですね・・・じゃあ、半分ずつしましょうか」
「うん、半分ずつな」

馬場園の持っている食糧があるとはいえ、支給された2日分の食糧は残り少ない。
とりあえず空腹は満たしたという所で止め、早めに再出発しようとしていた。
さあ出発という所で、馬場園が町田の方へ寄ってきた。
「どないしたん馬場ちゃん?」
意を決したかのような馬場園に町田は尋ねた。
「今朝話してた事の・・・続き、聞かせて欲しいなぁって」
「今朝の事ってどの?水口の事か?」
「ううん、うちが聞きたいのは坊ちゃんの事」
「本坊の?」
「・・・坊ちゃんは死んだ方がよかったんかもしれへんていうた事、ちゃんと説明して欲しい」
町田の表情が曇り、周囲の空気が少し冷たくなった様に感じた。
「あん時は止めてしもたけど、今もう1度ちゃんと聞いときたいんやわ」
町田は後ろの2人を見る。
田村は無言で自分を見つめる。馬場園に同調しているのだろう。
山里はまたも事情がわからず置いてけぼり。わからないが2人に調子を合わせている。
「そやな。あんな事言うたからにはきちんと説明しなあかん」
町田は暗く内包している本坊への想いを打ち明けた。

212 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:26:54
「教室で山田さんが撃たれる直前、本坊は何か言おうとしてたんやけどみんなは気付いてたか?」
3人は首を振る。あの時は大抵の参加者が自分の事で手一杯だった。
「俺も横におったからたまたま気付いただけやった。山田さんが死んだら、あいつ手を下ろして座ったんや」
「坊ちゃんは何を言おうとしてたん?」
「聞いたら”みんなで生き残りたいからやめましょう”って言おうとしてたんやと」
「放送の時とは真逆の事やんか!」
田村は驚き声を荒げる。
「そうや。でも何でやめたんか気になって俺はすぐに本坊に聞いた」
「そしたら本坊さん何て言ったんですか?」

『 一人にするのはかわいそうやから、もうやめた 』

「・・・どういう意味や?」
「放送の時あいつが言うてたの、もっかい思い出してみ」
田村と馬場園は首を捻るが、山里はまた取り残されていて町田はいたたまれない気持ちになった。
「”殺し合いは嫌”、”プログラムを終わりにしたい”・・・」
「”誰にも苦しい思いをしてほしくない”・・・”みんなと一緒。みんなで終わらせたい”・・・最後に」
「”だから、みなさん。みんなで一緒に、楽に死にましょう。”」
最後の台詞は町田が言った。
「途中までわかるのに・・・何で最後がそれなんですか?」
「わからへんよ・・・」
田村は思い出してみた所で何もわからないのが歯痒かった。
「山田さんが死ぬ前と死んだ後で、本坊の結論は180度変わった。
 それまでの主張は変わらず”みんな一緒”・・・」
「それが何だって言うんですか?」
「うちと会った時、坊ちゃんが言うてた事思い出した・・・」
「本坊は何て?」
「・・・”死んだ人は寂しいから、それならみんなで迎えに行こう”って・・・」
(死に取り憑かれている)と町田は言いかけたが言葉を呑んだ。
「何であいつ、死ぬ事ばっかり考えてんねや!?」
「死んだ人がかわいそうやと思ってるからと違うかな?」
繋がりがわからず、町田以外の3人は困惑する。

213 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:27:55
「山田さんが死んだ以上、”みんなで生き残る”事は不可能や・・・
 それが出来ひん以上、”みんな一緒”になるのは全員が死ぬ事しかあらへん」
「そんな、死ぬしかないなんて!」
「でもそれがあいつなりに考えた、最善の方法。
 ”かわいそうな”死んだ人が救える、唯一の・・・」
「坊ちゃんは自分を数に入れてんのかな?それとも自分が優勝するつもりで?」
「わからへん。でも死にたくないって考えてる奴があんなん堂々と言えるとは思えへん」
「自分を数に入れてないとなると・・・全滅?」
「ここにいる芸人を全員殺して・・・」
「”みんな一緒に”平等にして、”かわいそうな”人を無くす・・・」
「そんなん、あいつが勝手に決めていい事ちゃうやろ!?」
全滅という最悪の結末に、田村の正義感が激発する。
「だから、本坊はあの時死ぬべきやったかもしれへんと思った。
 勿論今はそうは思わへん。ただ俺らが思てるとおりやとしたら、それは危険や・・・」
「今一緒にいてるあきちゃんは・・・どうしてるんやろ?」
「止めとるよ!川島やったら絶対・・・」
当然の事を聞くなと言う様に田村が叫ぶ。
「・・・川島1人に負わせるには辛いと思う。止める為には俺らの力が必要なんや。
 でも1番大きいのは水口の存在やと思う」
「そっか。水口はあの放送の直前まで本坊といたんやもんな」
「ああ。きっと水口も俺らの考えに賛同してくれる筈やわ」
「それが水ちゃんを助ける事にもつながるかもしれへんのやね」
「そう、水口には本坊が生きてる事だけでも伝えなあかん。それだけでも状況は良くなると思う」
その言葉に決意を固め、一同は井上のいる建物を目指した。
遠回りで時間を大幅ロスしてしまっている。見出した希望を失わない為には一刻の猶予も許されないのだ。

雲はどんどん色濃くなってゆき、小雨がぱらついてきた。
目指す建物が近くなってきたのは4人にとって幸運だった。
1番体力のある田村は気持ちが逸っているのもあって、4,50メートル先を行っていた。
手元のレーダーと現在位置を照らし合わせる。
当て嵌めただけという感じのボロいドアをノックすると、しばらくした後ゆっくり開いた。

214 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:28:59
「田村さん・・・!」
「井上、元気そうやな」
「大丈夫ですか?あ、タオルありますからどうぞ中へ!」
井上は躊躇なく田村を招き入れる。
「あ、ドア閉めんでええよ。後から何人か来るから」
「ええそうなんですか!?みんな無事で?」
ドアを閉めようとしていた手を止めたまま、井上は驚いている。
「うん。あ、なあ井上。お前、水口には会うたか?」
「水口さん?いいえ」
「そっか・・・あれ、お前の武器凄いやん!ええなぁそれ」
「ああ、これですか?」
井上はドアの側に立て掛けてあったオフェンスキープを、田村によく見える様に差し出した。
「実はね、これ僕の武器じゃないんです。石田のなんですよ」
「石田の?」
そういえば井上の右腕に巻かれているのは石田のネクタイだ、と田村が視認した刹那、部屋中に光が発した。

「何やの今の音!?」
静電気が走る音を数倍にした様な寒気のするそれに、馬場園が声を荒げた。
「馬場園さぁーん!」
山里も馬場園に追いつき、建物に入った。
「たむちゃ・・・」
中の様子を見た2人は絶句する。
田村は仰向けに倒れてぴくりとも動かず、井上は冷たくそれを見下ろしていた。
「田村さん!返事して下さい!!」
山里が駆け寄った。呼吸をしている。気絶しているだけのようだ。
「何や、気絶モードの方にしてたんか。あーあ、ドジやなぁ・・・」
井上は低く笑うが、狂気による危うさがあった。その視線が天井から山里に向けられる。
「馬場園さんも山里も丸腰ですか・・・餌場に飛び込んでくれたっちゅうわけですね」
じりじりと山里と田村に寄る。山里は勿論、馬場園も怯えて動けなかった。
「まずは2人・・・いっぺんにイきますか」

215 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:30:00
「井上ぇええっ!!」
叫びが聞こえたのとは別方向、部屋の右隅にデイパックが叩きつけられる音がした。
視覚と聴覚が一致しない井上に、鉄パイプの一撃が入った。
「町田さん!」
「山里、馬場ちゃん!田村連れて逃げろ!ここは俺がやる!!」
「でも武器それしか・・・」
「ええから早く!」
山里が田村に肩を貸し、馬場園が田村の分のデイパックを持って走った。
「・・・山里ぉ!」
町田は井上の方を向いたまま叫んだ。
「何です、町田さん!?」
「お前もしずちゃんに、相方に会うんやで!・・・それだけや、行け!!」
町田のその言葉に、山里は胸が痛んだ。そしてそれから逃げたくて必死に走った。
背中の足音が遠くなっていくのを感じた町田は少し安心した。
「かっこええやないですか・・・町田さんには、似合いませんけどねぇ・・・」
そう言いながら井上はゆらりと立ち上がる。眼光だけが殺意に輝いてた。
「お前のイキリ程やないけどなぁ」
町田は目を背けず井上を挑発する。
「鉄パイプなんかでどうする言うんですか?」
「やってみなわからんやろっ!?」
町田が鉄パイプを振り上げた。井上がオフェンスキープの鞘のスタンガンで応戦する。
井上は即死モードに切り替えたスタンガンの電流を町田に放った。
「っ・・・くそっ!!」
町田は間一髪避けたつもりだったが、掠っただけでも意識が飛びそうになった。
(こんなにキツいんか・・・!)
「よう避けましたね?でも息上がってますよ?」
「・・・はっ、余計なお世話や!」
「やったら今度はこっちから行きます」
井上が攻勢に出た。だが町田は度々意識を手放しそうになりながらも、何とか避けた。
オフェンスキープは重量級の武器だ。素人の井上が一朝一夕で扱える物ではない。
「ははっ・・・全然当たらんやんけ、ヘタクソ」
「ええ・・・どうもあかんみたいですねぇ。やったら、こうします」

216 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/09/19(水) 01:31:01
不気味な笑みに町田は鉄パイプを構えた。
井上がマシンガンを携える様にして鞘のグリップを握った瞬間、鞘が町田めがけて飛び出てきた。
咄嗟に町田が鞘を避けたが、その時はもう元の場所に井上はいなかった。
どこに、と思った瞬間刃の光が飛び込んできた。その次の瞬間にはしてやったりという笑顔の井上がいた。
しまった、と思った時にはもう遅かったのだ。
オフェンスキープの剣が町田の脇腹を抉った。
「・・・・・・・・っ!!」
井上は町田の心臓を狙ったのだが、反射的に身を仰け反って回避した。
町田が脇腹に最初に感じたのは恐ろしい程の冷たさで、その時感じる震えに連動する様に痛み
じわじわと傷口が熱くなっていった。血が流れる感覚は1番最後だった。
「あああっ・・・・・あ・・・」
町田は壁に叩きつけられうずくまっている。壁にぶつかった瞬間血が吹き出して、
自分の内臓の感覚を鮮明に伝えてきた。
「一撃で仕留めるつもりやったんですけど・・・案外タフなんですね」
刃に付いた血を汚物の様に振り払い、侮蔑の目で井上は町田を見下している。
「しんどそうやから、トドメはさっさと刺しますよ」
「はは・・・余裕かましてんな、随分・・・」
出血が治まらないまま寝そべっている町田が嘲笑する。
「・・・そっくりそのままお返ししますよ」
笑みさえ浮かべていた井上が不快そうに言う。
「・・・横に何があんのか気付かへんか?」
井上がそれを町田が最初に投げつけたデイパックだと気付いた時は遅かった。

   ダ  ン   ッ  !!

「なっ・・・!」
「ちぃ・・・・・っ」
井上の右肩を銃弾が貫き、その弾に引っ張られる様に後ろに倒れ込みオフェンスキープは投げ出された。
撃った町田も衝撃に脇腹がまた血を吹いており、歯を食い縛って痛みに耐えていた。
「がっ・・・ああああ!!」
井上は何が起こったかわからず、初めて受ける銃弾に悶えるだけだった。
「形成逆転・・・いや、引き分けか。うっ・・・」

217 :代理@731 ◇p8HfIT7pnU:2007/09/19(水) 01:39:59
傷口から血を滴らせながらも、町田は鉄パイプを杖に何とか立ち上がった。
「あんた・・・武器はその鉄パイプちゃうんか?」
「俺の支給武器はこれや・・・”デザートイーグル”」
町田は左手で脇腹を押さえ、右手で銃を構えた。
「トドメ刺すんやったら・・・早よしはったらどうです?」
「それも出来る・・・けどなぁ」
町田はゆっくりと銃を下ろす。
「お前・・・水口には会うたんか?」
「・・・いいえ」
「・・・やったら俺には、お前を水口と会わせなあかん」
「どうしてです?」
「・・・そうしたいからそうする。それだけや」
「っふふ、ははは・・・」
「・・・?何がおかしいねや?」
「お人好しですよね・・・人の事かまってはる場合ですか?」
満身創痍の町田を、同じく怪我人の井上が笑った。
「しゃあないやろ・・・こういう性分なんや」
「お人好しついでに、手ぇ貸してもらえません?」
「お前・・・片腕だけやろ?俺の方が重症や」
「ええやないですか、撃ったんは町田さんなんやから」
俺に怪我さしたんもお前やろ、と言いながら町田は手を貸して井上を立たせた。
傷は痛むが、お互い立っていられないという程ではない。
「これでええやろ・・・?しかし凄いな、お前の武器・・・」
「ああ、あれはね。僕の武器やないんです。石田のですよ」
「石田の?・・・お前ら合流出来たんか?」
「いいえ、水口さんが届けに来てくれはったんです。これも一緒に」
井上は右腕に巻かれた白いネクタイを指差す。
「お前さっき水口には会うてへんて・・・」
「そうそう、町田さん。これがおれの武器です」

218 :代理@731 ◇p8HfIT7pnU:2007/09/19(水) 01:41:27
井上がそう言うと、町田の視界が急に震えた。
視界の揺れが治まり、井上を見ると先程までなかった返り血があった。
自分の口から吐き出したものだと知ったのはその直後だった。
「え・・・?」
町田のみぞおちに深々と矢が突き刺さっている。
何故と考える間も無く目は霞んでゆき、バランスが保てなくなった町田は膝をついた。
膝にはもう感覚がなく、自分はもう2度と立つ事は無いと瞬時に悟った。
「また・・・心臓外してる。どうしょうもないなぁ」
井上の表情はもうよくわからなくなっていた。
シュルシュルと右手に巻いたネクタイを取る音が微かに聞こえる。
「”袖箭(ちゅうせん)”っていうらしいんですよ、これ」
井上が見せたのは重めのリストバンドといった感じのものだった。
町田に刺さっている矢を納めていたのであろう穴があいている。
「ネクタイで隠しといて良かったですよ・・・水口さんには感謝せぇへんとね」
井上はネクタイを見たまま包帯にして巻きつける。
「水口・・・に、会って・・・どう言うたんや?」
吐血しながら町田は声を絞り出す。
「ええ、あまりにもかわいそうオーラ出してたもんやから、おもっくそ拒絶してやりましたよ!
 石田を死なせたからって、俺に殺られれば全部済むと思いやがって!!」
「死なせた・・・?殺した、と違って・・・?」
「お墓作って回ってたらしいっすよ?それに付き合わされた石田は、あの人のせいで死んだんです」
「やっぱ・・・水口が殺したわけとは、違うねんな・・・」
「あの人が殺したも同然でしょ!?あの人が1人で勝手にやってたら石田は・・・」
「っくく、は、はは・・・」
呼吸が途切れてしまっているようだが、町田は笑っていた。
「何です?何がおかしいんです?」
「全力で、人の武器使ってまで殺そうとしてるクセして・・・被害者面とか、アホちゃうか・・・」
「何やと!?」
死ぬのを待つだけの身の町田が自分を卑下している事に、井上は憤った。
「・・・悲劇ぶってる、ナルシストが・・・そうしてたら、同情してもらえるとでも、思たんか・・・?」

219 :代理@731 ◇p8HfIT7pnU:2007/09/19(水) 01:43:47
”可哀想な自分を哀れんで、悲劇ぶってたんでしょ?
 そういうナルシストな所、前から大っ嫌いやったんですよ!”

かつて井上が水口を詰った言葉を、町田はそのまま口にしていた。
当然、町田がそれを真似ている筈はない。井上はその偶然に困惑し、右肩のネクタイを握りしめていた。
「・・・”かわいそうな”やっちゃ・・・」
町田の視力はもう無い。だから井上と目を合わせたつもりはないのだが、
井上は町田が哀れみの目で自分の目を見ていると錯覚してしまった。
「黙れ・・・だまれぇえええ!!」
井上はオフェンスキープの刃を振り下ろした。

小雨はいつの間にか大雨になり、島中をずぶ濡れにしていた。
馬場園、山里は気絶したままの田村を連れて、あばら家という表現しか当て嵌まらない様な小屋に入った。
「あんな鉄パイプで・・・何が出来るっていうんやろか・・・?」
タオルで田村の体を拭いながら、心配そうに馬場園が呟く。
「・・・馬場園さん、田村さんをお願いします」
神妙な表情で山里はデイパックを担いだ。
「山ちゃん!?どこ行くん?」
「町田さんを助けに行ってきます」
山里はドアを開くと、雨粒が勢いよく跳ね返っていた。
「山ちゃんが行ったかて・・・!」
「僕が!僕が行かなきゃいけないんです!!
 あんな事して、町田さんに守られっぱなしなんて嫌なんです!」
そう言うと山里は駆け出していった。
「山ちゃん!・・・山ちゃーーーーん!!」
馬場園の叫びを、雨音が掻き消していった。

「くっそ・・・俺どっから来たんだっけ!?」
必死に走る山里は、コンパスも支給品の睡眠薬も落としてしまっていたが、気付いていなかった。
「間に合って下さい!町田さん・・・!!」
勘だけを頼りに、山里は雨が降りしきる森を駆けていった。

220 :代理@731 ◇p8HfIT7pnU:2007/09/19(水) 01:45:12
井上はオフェンスキープの剣で、幾度も町田の体を突き刺していた。
町田の命を自分が奪ったと、それを幾度も確認しているのだ。
本当の所、町田は最期の言葉を呟いてすぐに絶命しているので井上が命を奪ったわけではないのだが、
その真相は誰も知る事はないし、明かされる事も無い。
顔を刺そうとした時、右肩のネクタイがほどけた。
はらりと落ちたネクタイを拾い上げ、井上は独り言を言う。
「石田・・・俺は、間違ってないやんな?」
ネクタイに付いたのは井上の血、剣に付いているのは町田の血だ。
井上は血をすべて洗えば無かった事に出来るかもしれないと思い、オフェンスキープを雨に晒した。
だが、雨に濡れたむせかえる草の臭いも強烈な血の臭いを隠せないのだと、町田の無残な遺体を見て思った。
そして自分の体の返り血がひどくおぞましいものに見えた井上は、自らの体も雨に晒した。

【ヘッドライト町田 死亡】
【麒麟田村・アジアン馬場園、南海キャンディーズ山里 離散】

【麒麟 田村 裕
所持品:煙草、簡易レーダー、鉄パイプ、煙幕×4、爪切り、ガム
基本行動方針:首輪の外し方を探す。攻撃してくる相手には反撃する
第一行動方針:相方捜索
第二行動方針:仲間を探す
最終行動方針:プログラムの中止】
【アジアン  馬場園 梓
所持品:コンビニコスメセット(半分)、お菓子の詰め合わせ、生理用品(私物)、虫除けスプレー(私物)
基本行動方針:生存最優先
第一行動方針:田村が目覚めるまで見守る
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明】
【南海キャンディーズ 山里亮太
所持品:コンビニコスメセット(半分)
第一行動方針:町田救出
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:不明】

221 :代理@731 ◇p8HfIT7pnU:2007/09/19(水) 01:49:43
【NONSTYLE 井上 祐介
所持品:袖箭、オフェンスキープ、デザートイーグル
基本行動方針:割に積極的に殺害
第一行動方針:
最終行動方針:
【現在位置:F-6】
【8/17 15:06】

>>191
兵士との絡みは珍しいので興味深々です。
陣内とケンコバの登場に期待。

>>196
結構グロい場面なのにそう感じないのは文章がやさしいからでしょうね。
宮迫の反応が気になります。

222 :名無し草:2007/09/19(水) 02:21:04
>>221
投下乙です!
各々の交錯する思考がなんとも素敵。
キャラ一人一人に感想つけたいくらい魅力的な展開でした!

223 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/20(木) 00:11:01
投下番号241、ロザン菅編の続きいきます。


『堕ちた天使、今も消えぬその輝き』


――それは突然だった。きっと彼女の性格からして思いついた事をそのまま口にしただけだったのかもしれないし、色々と考えているように見えて実は殆んど何も考えていなかったから、それはこの島での自分のスタンスを見直すいい機会だったのかもしれない。
その後延々と続く自問自答の発端は学校に向かう途中での一言。

「ねえ、ここで何したい? 私、自分が何をしたいのかよく分からないんだ」
「えっと、それって……」
「例えば死にたくないとか殺したくないとかさ、色々と考える事ってあるでしょ? 何がしたいと思う?」

そういえばそれを真剣に考えたことはなかったと、僅かに間が空く。自分は生きたいのか、それとも逝きたいのか。答えは限りなく曖昧で不確かな思考そのものだった。

「死にたくないとも殺したくないとも生き残れるとも思わないんです。せやから今は相方に会いたいって、それだけで」
「じゃあ、もし先に死なれちゃったらどうするの?」
「分かりませんよそんなの。でももし会えたら僕は絶対に守ります。盾になってでもあいつを生かします。そうしたいんです、死んで欲しくないから」

どこかがおかしい答え。それを聞いて微笑む。含まれた違和感など彼女は気にしない。
何一つ歪んではいない純粋。それはそこにある歪みさえも捻じ曲げるレンズ。それを通して見える世界が光だけなら、全ての人にその世界が見えればこの島で起きた惨劇のいくつかは起こらなかっただろうか。
彼女だけにそれを見せる世界はきっと残酷で不平等だ。
自己犠牲的になるのはその絶望からか、彼は遠い目で語り続ける。

「僕ね、どうなってもいいんですよ。誰が死のうがそれは当たり前のことで、人を殺すことになればそれも当たり前のことで。平気なんですよ、なんでか分からないけど」



224 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/20(木) 00:13:32
彼女は黙って聞いていて、傍から見ればそれは恐ろしいのかもしれない。1人の人間が死んだところで、それが面識のない人間なら受けるダメージも少ないのだ。
彼はどこまでも現実に基づいた考えを持ち、彼女はそれを普通に受け入れる。正常なはずなのに正常には見えないのは何故だろうか。

「ねえ、それってさ、本当は」
「どう思います? これから、どうしたいと思います? それさえ分かれば後は早いと思うんですよね。でもどうなってもいいんです、そう言ってる僕は。凄い矛盾ですよね」
「でも、それは悪いことじゃな――」
「人が死ぬことは当たり前のことで、ただそれが早まっただけでしかない。なのになんで生きることに執着するんでしょうね。もう充分生きたっていってもおかしくないはずなのに。痛いのが嫌なら自分の額撃ち抜けば、それが無理なら
心臓を一突きすれば絶対死ねる。なのに死なないなんて……あ、皆銃やナイフ支給されるわけやないんか。なら仕方ないけど、それなら誰かに殺してもらえばええのに。この期に及んでまだ生きたいって思う人はきっと殺してくれるのに」
「ねえ、」
「なんで、皆揃って生きようとするんですか? そんなに生きるっていいことですか? この見る人によっては理不尽な世界に逆らって、追われて、苦しんでも生きるメリットなんてひとつもない。あったとしてもデメリットの方がめちゃめちゃ大きいのに」

どこかから見れば、それは彼なりに感じる苦痛を吐き出しているようにも見えたのかもしれない。少なくとも彼女にはそう見えていた、それが真実なのかはともかく。聞いている方が耐えられなくなりそうな言葉の羅列。

「それは、やっぱり失くしたくないからじゃないかな」
「……どうして」
「家族とか、きっと失くしたくなくて、1番大事なものを失くさないために生きようとするんじゃないかな。きっと、家族のところに生きて帰りたいから。相方も大事な人なら、相方も一緒に生きて帰ろうって。きっとそうなんだよ。ほら、失うって、嫌な響きだと思わない?」
「確かにそうですけど、結局死にたくなくてそれだけで人を殺す人だっているんですよ。もしかしたら死にたくないからって相方も殺す人がいるかもしれへん。ここにいる人の中では、きっと生きようとする人が圧倒的に多い。なら、」



225 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/20(木) 00:15:20
彼は確かに笑った。
そこにゾッとするほどの冷たさと自嘲のようなものを籠めて、確かに笑っていた。

「生きていたくないって、死ぬのも怖くないって思う人間は、異常なんですかね?」

すぐに否定することはできなかった。そのように考えるのがきっと異端な方に入るであろうことは想像がついた。それでも何故か「異常」だとは思えなかった。ある意味当然だとさえ思ったのだ。
他者を犠牲にしてまで生きる、それが容認されている世界で進んで犠牲になろうとする人間は少ないだろう。それでも、他者を犠牲に生きるなど問題外だった。
――勿論、彼女は進んで失おうとするわけではない。その代わり奪うこともしない。だからただ意思とは関係ないところで失っていくのみ。進めば進むほど何も残らない道程。その果てに残るものなどほんの僅か。何も残らない確率さえある。

「そんなことない、そう思う人だってきっと何人かいるはずだよ。だから大丈夫、だと思う」
「本当にそうとは限りませんけどね。――早く学校に戻りましょうか。時間を無駄に使ってる場合じゃないと思いますし。この状況で誰かに狙われたらどうしようもないですから」
「そうだね。どうなってるか、見に行かなきゃ」

そして2人は歩みを速める。彼は歩きながらも1人考えていた。
(いざという時は盾にしてでも、見捨ててでも逃げなアカン。そんな簡単に殺されるなんて嫌やし)
自問自答、答えはすぐには見つからない。見つかるはずがなかった。
(死にたくないわけない、出来ればさっさと楽になりたい。でも、)
段々「その時」が近付いてくる。
(でも――まだ、死ぬわけにはいかないから。もう少しだけ生きなきゃならないから)



226 : ◆0M.qupOW5Y :2007/09/20(木) 00:17:07
【ロザン 菅広文】
所持品:バタフライナイフ、他不明
第一行動方針:とりあえず学校へ
基本行動方針:生存優先(その為なら他人を利用しても構わない?)
最終行動方針:生き残るつもりはない
【北陽 伊藤さおり】
所持品:コルトガバメント(8/9)、替え弾倉×2
第一行動方針:とりあえず学校へ
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:

【現在位置:森(F5南西)】
【8/15 16:31】
【投下番号:268】

227 :名無し草:2007/09/21(金) 11:06:45
>>221
新作乙です。
まさか井上がゲームに乗るとは……!
井上と町田のバトルが見ごたえがあって良かったです。

>>226
新作乙です。
菅がいい感じで不気味だ……
果たして彼は無事に相方に会えるのだろうか?

228 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:23:46
>>32-36
ザ・プラン9 ヤナギブソン編

【赤口】
六曜の一。凶日。ただし、正午のみ吉。

僕の。イメージカラーでもある赤が付く日。
今日のこの日が凶日というのは最早疑いようはなくって、
せめて正午には良い知らせがあることを祈るだけやった。
…祈っとった、のに。

長田の進む先には只死という結果しか用意されていなかった。
飽くまでも目測に過ぎなくても、生と死の境界線は直ぐ目の前に存在している。
その光景は見る者に恐怖を誘って余りあるものだった。
少なくとも通常の精神状態であれば。
だが柳谷は一部始終を目の当たりにしながらも、只自らの身を案じるだけだった。
最期まで見届けて、境界線を見極める事によって自らの安全を更に確たるものにするか、
それとも声を掛けて助けるべきか。
声を掛けなくても自分の責任ではないと、そう思いながらも柳谷の心中には引っ掛かる物があった。

229 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:25:17
和田、が。
和田の死に様を柳谷は直接見た訳ではなかった。
理不尽な仕打ちに怒りを表すよりも先に、恐怖心が先立ってしまって完全に見捨てて。
壁一枚隔てた場所で爆発音を聞いた。
自分の眼で見ていないからこそ、何度も脳内で鮮明な妄想が繰り返される。

大勢の芸人が和田を取り囲みながら、近寄る気配はなく。
和田は首元から規則正しい音を発しながら独り世界から隔絶されたように立ち竦んだ。
見放されたと知り、絶望の面持ちで空を仰いだ和田は、
ふと気付いたように遠巻きにしていた柳谷を見付け、
一歩が踏み出せないのを口の端で笑っていて。

そして和田の濁った瞳と柳谷が向き合った瞬間、和田の首が宙を舞った。
頭に置き去りにされて、胴体は頚動脈から烈しく血を噴出させながら
噂の中だけで聞いた砂漠の地に住む異教徒が祈りを捧げるように、
ゆっくりと膝から前のめりに倒れていった。
火薬の威力で引き千切られ鮮血を撒き散らしながら、和田の首は柳谷の目の前に落下する。
その視線は、結局救いの手を差し伸べなかった柳谷を睨みつけるようで。

其の死を直視して出来ていたならば、
此の悪夢が何度も再生されるようなことはなかったのだろうけれども。
其れが和田に絶望を味合わせた代償であるならば、受けて然るべき罰だった。
だが当然の代償であっても、耐えられるか否かは全く別次元の話として存在していた。
悪夢が蘇る度に、何度も和田の視線は柳谷を射抜き、肝を冷えさせる。
暫くすると其れは宙を彷徨う兼光の瞳とすり替わり、血の涙を流した。
恨みを買う覚えがないのならどんなに心安らかに眠りにつけるのか。
寧ろ心安らかに眠りに落ちることはもう許されないのか。
目の前で長田の首が弾け飛んた時には、次こそ憑り殺されそうな恐怖が、
柳谷を侵蝕していた。
耐えられる限界は、遥か前に超越している。

230 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:26:26
柳谷は机に飛び乗って錆び付いた窓の錠を力任せにこじ開けると、喉がはち切れそうな程叫んでいた。
「ゆうき!そっちは禁止エリアやから!」
忽然と背後に浴びせられた大声に長田は大袈裟に仰け反ると、尻餅をつく。
振り返ると柳谷の顔を発見して、事の重大さに慌てつつも笑みを浮かべた。
「マジッすか!?」
「ホンマやて!こっち来!」
余裕さえ見て取れるような長田の雰囲気に異様なものを感じながらも、
柳谷は机の上に座り込み、片方の手で窓枠に体重を預けながら、もう一方の手で大きく手招きをする。
飼い主に呼ばれた犬のように尻尾を振る勢いで長田は柳谷の前に駆け寄った。
そのまま窓枠から小屋に入ろうとする長田を、柳谷は慌てて押し留めると背後の扉を指し示す。
「あっちに扉あるわ」
「うわ、見えてませんでした」
窓枠に掛けていた両手と片足を外すと、外周を回って扉の前に立った。
「空いてませんよギブソンさーん!」
柳谷はすっかり閂を掛けていたのを忘れていて。
長田は小声でも聞こえるのに大声で叫びながら扉を叩く。
柳谷は弾かれるように机から下りて、閂に手を掛けた。

りあるキッズの長田融季は柳谷の1年程度先輩にあたる。
しかしうめだ花月に所属する芸人の中では圧倒的に年下になり、
そして長田自身が余り芸歴の上下を気にすることはないので、
10年前後年上になるプラン9については全員に敬語を使っていた。
他人は勉強している時期に漫才師になったため、芸歴が上の芸人に馬鹿扱いされても
笑って受け止める長田は、半ばマスコット扱いされていて。

柳谷は複雑な演技が出来る相手ではないと思いつつも、長田への疑念が浮上してしまった。
声を掛けた時点で、責任は果たしたと心の中で囁く存在が跋扈する。
それでも。
閂を外すと扉を開けて、笑顔で長田を迎え入れる。
「暑くて嫌なりますね」
扉の向こう側に立つ長田もやはり、笑顔のままだった。

231 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:28:06

2畳ほどの空間に大の男が2人も居ると、蒸し暑くて仕方がない。
それでも万が一を考えて再度柳谷は机の上に座ると窓を閉めた。
「ホンマギブソンさんが居てくれはったお陰で助かりましたわ」
長田は床に胡座をかいて、Tシャツの裾で汗を拭いながら笑う。
屈託のない笑顔は、柳谷を心の底から信頼しているようで、少し良心が痛んだ。
「…アホちゃうか」
柳谷が苦笑する素振りを見せると、長田は恥しそうに後頭部を掻く。
「禁止エリア、全然別方向やと思っとったんで」

長田は自分のデイパックから地図を取り出した。
違うと思いながらも武器を取り出すのではないかと思うと、柳谷は激しい胸の動悸を感じる。
「…まあ今居るところもよく分かってへんのですけど。不親切な地図やと思いません?」
長田の発言に机の上に座っている柳谷は眉を顰めた。
「訳の分からん記号ばっかで」
長田は地図を膝の上で広げる。何も書き込みされていない地図はえらく殺風景だった。
「…大抵の人は分かっとると思うよ。これが病院で方角がこっち。やから俺らは今ここら辺」
机から下り、長田と同じように床に座ると
地図記号を指でなぞりながら長田に諭すように現在地を教える。
柳谷の簡潔な説明に長田は感嘆の声をあげた。
「今僕こっちに向かってたんですね!」
無邪気に喜ぶ長田を柳谷は驚愕の思いで見つめる。まさか。
「…お前南がどっちか分かるか?」
柳谷の問いに、え?と戸惑いながらも長田は適当な方向を指差す。
指し示した方向は北西寄りの方向で。
予想の範疇といえども、常識がないという範囲を通り越した長田に思わず脱力した。

232 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:30:06
「今の時間やったら太陽の方向は南南東。やから影の方向は北北西。
影の方向に太陽がある訳ないやろ?」
「そういう方法があるんですね!」
爛々と目を輝かせる長田に、柳谷はこれが演技だったら脱帽するしかないと思い定める。
長田の地図を借りると、禁止エリアの桝目を書き入れていった。
着色された地図をいそいそとデイパックに戻すと、長田は柳谷に向き直る。
「あの、うちの相方は見てへんですか?」
「や…」
逸らした視線で長田は理解したようだった。
「ぎょーさん芸人が居る中で見てはる方が…」
長田の慰めの言葉は途切れる。
柳谷の中に潜んだ陰の存在に気付いてしまって。
その原因は、長田が引き起こしたものではないと。

「なんか、あったんとちゃいますか?」
長田の声のトーンが一気に下がったことに気付いて、慌てて柳谷は取り繕うとした。
「や、何でもあらへん。ゴメンな、役に立てんくて」
「ギブソンさん何かおかし…」
「それより武器はなんやった?」
有無を言わせない雰囲気で柳谷は問う。
睨みつけているような顔は、それ以上の干渉を拒んでいた。
「…これ…」
渋々ながら長田がデイパックから取り出したのは、紛れもなく3個パックのプリンだった。

233 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:31:38
プリンは鶏卵と牛乳の自給率の高さもあって、甘味の中では手に入りやすい部類に入る。
「…武器、ちゃうやんなぁ」
今まで見てきた支給品が威力の差は当然あるとしても、
武器としての形を成しているものだったために、柳谷は酷く戸惑った。
「ギブソンさんのは武器っぽいですもんね」
長田の視線の先には机の下の柳谷のデイパックに無造作に放り込まれた斧があった。
飛び出した木の柄は、確かに武器で間違いなく。
「うん、斧」
そう言って視線を外すと、柳谷は自分のデイパックを部屋の隅に追いやった。
忌まわしい記憶が未だにフラッシュバックする柳谷は
出来るだけ視界に入らないようにとの思いだったが、
長田は単純に、2人ともすぐに届かないところに置いて安心させようという心遣いだと思って。
其のお礼として柳谷にビニルで包装されたプラスチックの小さなスプーンを手渡した。
「…は?」
素直に受け取ってしまって、柳谷は呆けた声を出す。
「疲れてる時には甘いものってよく言うやないですか」
笑顔の長田に、多少の空腹感を覚えていた柳谷は大人しく次に手渡されたプリンを受け取った。

234 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:32:46
お互い無言でプリンを口に運ぶ。生温かいのには閉口しても、
それでも支給品の金平糖の単純な甘さとは異なった自然な甘さが心地良く。
この際少し早い昼食も一緒に済ませてしまおうと、食べ終わったプリンを床に置き、
柳谷がデイパックを手繰り寄せた時に、長田の遠慮がち声が後ろから掛けられた。
「ギブソンさんは、何で独りなんですか?」
柳谷の動きが一瞬止まり、そして何事もなかったかのように
片手で器用にデイパックを開け閉めして乾パンと水を取り出した。
「何でて、何で?」
柳谷は生温い水を一口含む。
渇きを癒すのに水温は関係ないのかもしれないが、冷えた水が飲みたいと思った。
尋ね返された長田は何でって、と戸惑いながらも筋道を立てるように話し始める。
「プランさんって始まる前の教室で話してはったやないですか。
それに、僕に見てへんかって聞いてきはることもないですし。
やから…もう既に会うてはるんやないのかなって」
ただの想像ですけど、と長田は付け足すが、実際其の洞察は間違っていなかった。
知識面では他人に劣っていても、野生の勘が働くのかと柳谷はふと考える。
嘘を言っても差し支えはないのに、その気になれずにそのまま答えた。
「うん、会うとるよ」
そして別れたとは、言わなくても長田には伝わっている。
相方を未だに探している長田には、柳谷の行動が信じられないのだろうか、
柳谷に詰め寄ろうとして柳谷が食べ終えた空のプラスチックを倒してしまった。
「危ないがな。そんなに近寄らんでも言うわ、全部」
異様な空気を持つ舞台では、独りで決心することは容易くない。
柳谷は、只誰かに聞いてもらって自分の考えに同意してもらいたかった。

235 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:34:02
「昨日の夜5人で集まってな、皆の考え話し合って。
…付いていかれへんって思ったんや」
正確に言うなれば、戸惑いを感じたのは皆で落ち合った頃から。
自分を騙せなくなったのが、それぞれの目的を聞いてから。
「みんな優勝したいとは言わんかったけど、それ以上に大事なもんがあるんやて
…とてもやないけど、俺は生き残って帰りたいなんて言える雰囲気やなかった」
柳谷を彩る陰は段々濃くなっていく。
閉鎖された空間で、ふと長田は酸素不足に陥るような感覚に見舞われた。
「俺が生き残るっちゅーのは、誰にも求められてへんかった。邪魔な存在でしかなかったんや。
…やから俺は逃げた。障害やって排除されてまう前に」
空気が途端に重くなる。この場に煙草が存在してないのがやけに不釣合いだった。
自嘲の笑みを浮かべたまま、柳谷は床に両手をついて天井を見上げる。
先程柳谷が声を掛けた時の長田の姿と重なるが、柳谷の目に光るのは涙だった。
「誰にも、大事に思われてへん。誰にも必要とされてへん。
結構長いこと一緒にやっとったのにな。
逃げる以外にどうしようもなかったんや」
涙目の柳谷に同意を求められても、長田は何も返すことも出来なかった。
それでも、その考えが間違っている事だけは分かる。
「皆さんには必要とされてはると思いますし、間違ってはるのはギブソンさんやないんですか?」
長田の強張った声に、柳谷の涙は一瞬行き場を無くした。

236 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:35:13
「自分で今言うてはったやないですか。生き残って帰りたいって。
それやったら何で僕を助けてくれはったんですか!?
見殺しにせえへんかったんですか?」
柳谷は狭い空間で迫り来る長田の気迫に押されそうになる。
まさか助けた相手に、説教されるとは思いも寄らずに。
「プランの皆さんやってそうですよ。大事な目的を持ってはったとしても、
…ギブソンさんを傷つけようとは思ってへんはずです」
其れは的を射ていないとは言えなかった。
誰もお互いが傷付けあうなんて思いもせず、最終目標が異なっていると分かっていても、
下らない話題で盛り上がった。
突き詰めて考えすぎて、何も周囲が見えなくなっていた、只の自分の勘違いだと。そう思えた。
すると一気に心に余裕が出来て、ゆうきの滅多に見せない真剣な顔に、逆に笑いが漏れる。
泣いた直後で鼻が詰まっていたのか、咳き込みながらまた笑った。
「めっちゃ真剣に言うとるんですけど!」
「分かっとる、分かっとるって」
ぺしぺしと肩を叩く長田に、柳谷は笑いながらひらひらと手を動かして了解を示す。
「ホンマ、ゆうき助けて良かったわ」
「…ギブソンさんは、僕の命の恩人ですし」
長田が叩く手を止めると、クスクスと2人は笑い声を上げた。

237 : ◆pwreCH/PO6 :2007/09/22(土) 01:36:17
長田に怒られる度に自分の心の中の重石が無くなっていくようで、
たどたどしくも真剣な言葉に、本当にそうなんじゃないかと思わされて。
…独りが心細くて、まだ未練があって。
グルグルと心の中を巡っていた迷いが、一気に解決した気がした。
柳谷は心の中から長田に感謝を示す。
「有難う。俺、やっぱプラン好きやった。ホテルにまだ皆居るやろうから、戻るわ。
…戻ったら、今まで安田見いひんかったか皆に聞いてみよか。
もう会うてるかもしれん」
柳谷は勢いよく立ち上がると、デイパックを引っつかむ。
突然立ち上がった柳谷を長田は驚いた顔で見上げながら、微笑むと柳谷に右手を伸ばした。
柳谷はその手を掴んで引っ張り上げる。
柳谷の涙の跡はまだ消えていなくても、心の中は完全に晴れ渡っていた。
閂を開けて小さな小屋から飛び出し、
広く澄み渡った外の世界で、プラン9の一員としての続きを演じるはずだった。
「めっちゃ暑いけど、近くやし頑張ろうな」
また笑顔でメンバーと会えるはずだったのに。

238 :◇pwreCH/PO6氏代理:2007/09/22(土) 01:43:10
運良く誰とも遭遇せずに、ホテルの前まで到着する。
あと少し、と思ったところで聞き覚えのある音楽と共に放送が始まった。
長田と柳谷はデイパックを顔を見合わせる。ホテルは目の前で、如何すべきかと。
「上で誰か聞いてはるんやないですか?目の前なんですし、ええやないですか」
柳谷が如何しようかと聴こうとする前に、長田は他人任せな発言を行った。
長田に如何しましょうか、と聞かれたら上ろうか、と言うつもりではあったが、
上ろうかと言われてしまうと、これは拙いと柳谷は思った。
このままでは禁止エリアを確認せずに長田がまた危険な目に合うかもしれないと思うと、
放送を聞き漏らす訳にはいられない。
「他人任せにしたらアカンの!地図と筆記用具!出して!」
柳谷はその場に座り込むと、デイパックから自分の地図と名簿、筆記用具を出した。
放送で長田の相方である安田の名前が呼ばれないようにと、
ただその心配をしながら放送に耳を欹てた。
自分のユニットのことは、銃を2つも持ちながら立て篭もっているとそう思い込んでいて。
心配などしていなかった。
だから安田の名前が呼ばれなかった時に心から安心して笑いあって。
長田が無事に地図に禁止エリアを書き入れた時には、柳谷は大袈裟に誉めて。
その和やかなやり取りは、しかし長くは続かなかった。

「お、あと滑り込みか。175番 灘儀武」

太陽が真南にある中、齎された凶報。
正午までに、自らの運を使い果たしてしまった代償。
柳谷は自らの耳を疑ったが、長田と顔を向き合わせて、それが真実であることを知った。

戻ろうとした場所はもう残されていなかった。有るのは煉獄の舞台だけ。
赤く赤く燃え盛る炎に焼き尽くされるような苦しみの中、一人彷徨い歩くしか、
既に柳谷に残された道はなかった。

239 :◇pwreCH/PO6氏代理:2007/09/22(土) 01:45:46
ザ・プラン9 ヤナギブソン
【所持品:照明弾(4/5) ジッポライター 斧
第一行動方針:ホテルに戻って皆に謝るつもりだった
基本行動方針:自分の目標を持ちつつも、プラン9の一員として行動するつもりだった
最終行動方針:優勝したいけど悩んでいた】
【現在位置:ホテル(C4)】

りあるキッズ 長田 融季
【所持品:プリン 他支給品のみ
第一行動方針:どうしていいか分からない
基本行動方針:相方の安田と合流
最終行動方針:相方と話し合って決める】
【現在位置:ホテル(C4)】

【8/16 12:03】
【投下番号:269】


240 :名無し草:2007/09/22(土) 02:21:06
>>239
投下乙です!
ギブソンが長田を見捨てなかったことにホッとして、
プリンに笑って、
再合流にwktkして、
最後に突き落とされた……orz
長田がどう出るのか期待!

241 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/22(土) 10:55:29
>>191-194の続き。升野・安田編、一部陣内・小林編。



休憩を取り始めて、約10分ほどが経過した。
足の調子は相変わらずだったが、身体の痛みはある程度取れ、
体力自体も休憩を取りながらであれば、目的地まで歩けるほどに回復していた。
しかし、升野は一向に目覚める様子が無く、ずっと魘され続けている。
何度も『松下、行くな』と呟きながら、自分の腕を握り締める彼を、
安田はなす術もなく、ただ黙って見ているだけだった。
自分の力ではどうしようもないことは、よく分かっていたから・・・。
「暫く、様子を見よう」
小さく溜め息を吐くと、木の幹に身体を預けた・・・・・・つもりだったが、
1週間ほどまともな食事をしていない安田は、軽い栄養失調と貧血を起こしていたようで
本来なら後ろにいく筈が、バランスを取れずにそのまま転んでしまった。
「痛っ! ・・・何で俺ばっかりー!!」
頭を押さえながら大声で叫ぶと、転んだ反動で膝から落ちたリュックを拾う。
そして、中身がこぼれていないことを確認してから、リュックが落ちないようにしっかりと持つ。
安田も升野も武器や食料などは、全て鞄に入れていたため、
これをなくしてしまうと餓死、または誰かに殺害される可能性があるのだ。
升野は松下と言う人物に逢いたいと願っているようだし、
自分だって長田と合流して最後まで残りたいと思っている。
最後まで残って、また2人で舞台に立ちたい―――それだけではなく、大好きな仲間たちと一緒に、舞台に立ちたい!
だから、まだ死ぬわけにはいかないのだ。仲間をみんな集めるまでは、絶対に!
「よし、頑張ろ」
安田は何とかして、『仲間をみんな東京、大阪へ戻してやりたい』と思い、
その方法を考えることだけに集中し始めたのだった。


242 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/22(土) 10:56:46
地図とペンを取り出すと、誰かと連絡を取ろうと携帯を探し始めるが、
携帯電話は没収されていたのだとポケットに触れた時点で思い出し、肩を落とした。
「そうや、あれ取られとった・・・そんなら」
自分のリュックと升野のリュック、両方の中身をあさる。
もしかしたら、探知機のように居場所を教えてくれるものがあるかも知れない――そう思ったからだ。
だが、どちらの鞄にもそのようなものは入っておらず、
升野の鞄には短剣が2本、安田の鞄には黒い四角い箱のようなものが1つ入っているだけだった。
あとは全く同じものが入っていて、安田は酷く落ち込んでいた。
「レーダーないんかい。これでどうやって人探せ言うんや、アホ」
担任への恨み言を呟くと、再び溜め息を吐いた。
「確実に居そうな場所を探そ・・・」
安田は地図とにらみ合いをしながら、他の参加者たちが集まりそうな場所をマークしていった。
黒ペンでマークしている禁止エリアとの区別をつけるため、赤ペンでマークをつけた。
全員で戻るんだと言う強い決意の元、これまでにないほど必死になって・・・。
「ホテルに病院、小屋。あとは展望台、灯台が怪しいな。ここは優先的に足を運ぶ必要ありやね。
よし、升野さんが起きたら作戦開始や」
真っ赤になった地図を手にして、誇らしげに笑っている安田。
升野はまだ起きる気配を見せていないが、先ほどよりも落ち着いてきているので、
目が覚めるのはそんなに遠いことではないだろう。
彼が起きたら自分の考えを話して、まずは理解してもらわないといけないが、それにそんなに時間を取るとは考えられない。
升野だってゲームを止めたい人間なのだから、きっと分かってくれる筈だ。
安田は強い期待を抱いて、升野が目覚めるのを今か今かと待つことにした。

プログラム開始から、既に2日。
このプログラムに積極的に参加している人間が、既に複数人出ていることも、
その人物の1人が、後に自分と行動を共にすることも気付かずに・・・。

243 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/22(土) 10:58:08
「(やっと殺せそうな人間を見つけた・・・)」
茂みに隠れるようにして、安田と升野の様子を眺めているのは、
嘘吐きが十八番の芸人、ケンドーコバヤシこと小林友治であった。
隣では陣内智則が、『やっと仲間を見つけた』と嬉しそうな表情を浮かべている。
その表情は子供のように無邪気なもので、陣内が本気で喜んでいることを表していた。
小林はそれを上手く利用して、あの2人を早く殺してしまおうと考えた。
「陣内、あいつらと合流しようか。2人よりは4人のほうが心強いやろ?」
「うん!」
いつもと同じ口調、いつもと同じ表情で言うと、陣内は首を縦に振った。
その反応を見て、小林は満足そうな笑みを浮かべた。
「(そう余裕をかませるのも今のうちや。
・・・陣内。お前の大事な後輩は、跡形も残らずに殺してやるよ。もちろん、お前も・・・)」
これから始まるであろう殺し合いの風景を思い浮かべて、全身が興奮で身震いを起こす。
陣内が大好きな人間全員を自分の手にかけ、更に陣内自身もこの手で殺す。

自分を信頼している人間を殺し、彼らが最期の瞬間に見せるであろう憎しみの眼差し。
それを全身で受けることほど、楽しいことはない。
小林は陣内に聞こえぬよう、声を殺しながら笑い始めた。
その目に、異常なまでの狂気を宿して―――。

244 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/22(土) 10:59:46
【バカリズム 升野英知】
所持品:短剣2本。他は支給品以外、不明。
状態:生存。意識混乱中。
第一行動方針:(松下を引き止めたい/夢の話)
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバック、水(支給品)・消毒液、ハンカチ(私物)。
状態:生存。右足負傷及び、全身打撲(どちらも軽症)。
第一行動方針:升野の様子を見る/仲間を集める
基本行動方針:升野に従いながら、長田を探し合流したい。
最終行動方針:生き残って、みんなと一緒に舞台に立ちたい。
【現在位置:林(H7付近)】
【8/16 14:00】

245 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/22(土) 11:01:15
【陣内智則】
所持品:現時点では不明。
状態:生存。
第一行動方針:升野、安田と合流したい。
基本行動方針:不明。
最終行動方針:不明。
【ケンドーコバヤシ(小林友治)】
所持品:現時点では不明。
状態:生存。精神狂乱状態。
第一行動方針:升野、安田と合流して、2人を殺す。
基本行動方針:生存最優先。そのためなら人を利用しても良い。
最終行動方針:優勝狙い。
【現在位置:林(H7付近)】
【8/16 14:00】
【投下番号:270】


途中でパソコンの規制が入ったので、中途半端ですが一旦切りました。
陣内・小林の合流前の様子は、後日補足を入れます。

246 :名無しさん:2007/09/22(土) 11:38:57
書き手の皆さん、お疲れ様です!


>>221
井上さんがマーダーになるとは・・・予想外の展開にビックリしつつも、
彼が積極的に殺しをすることで、どのように田村さんたちが動くのか、そんな楽しみも出来ました。

>>226
人を利用しても・・・ってところが、小悪魔な菅さんらしいなと思ってしまいました。
伊藤さんが菅さんに振り回されそうな予感がする。次回も期待します!

>>239
長田さん、死ぬかと思って凄いハラハラしてたので、安心しました。
灘儀さんの死を知った柳谷さんが切ないー。どうなるんだ、プラン9!?

247 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/22(土) 13:48:24
>>243
訂正です。
『跡形もなく』ではなく、『全員残らず』の間違いでしたorz
まとめサイトの方も訂正しました。本当にすみませんでした。

248 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/23(日) 20:25:59
ダブルブッキング編番外


『白紙委任状1.』


BR開始を告げられた瞬間からすぐに機転を利かせ、心を許せる仲間と合流の約束を交わす者がいる反面で、
気が回らなかったために、誰と行動を共にする当てもなくただ彷徨い歩く羽目になる者も多数存在する。
ななめ45°の土谷隼人もまた、そんな大勢の中の1人であった。


トリオのメンバーである土谷には相方が2人いる。そのため彼らと上手く連絡を取り合えば、3人で一致団結して生き抜くことが出来る
…筈だった。しかし不運にも、何も知らされないままに何気なく座ったその席は、後の2人からは離れ過ぎた位置にあったのだ。
それでも何とかして意思の疎通を図ろうとは思った。しかしこのBRの趣旨が発表されてから、明らかに相方達―岡安も下池も、
普段の穏やかな表情を一変させ、どこか気味の悪い様相を浮かべ始めたのだ。
急なショックがその人格にひびを入れてしまったことが見て取れた。思いもよらなかった、崩壊という事象。
その異様な雰囲気に呑まれ、土谷は彼らに何とも声を掛けられなかった。
加えて2人とも、こちらを伺う素振りすら見せなかったのだ。
更に悪いことには、3人の間にはそれぞれ50人ほどの間があり、土谷はその一番最後であった。待つことも追いつくことも出来ない。

そんなわけで彼は仕方なく1人きり、取り敢えず森を歩き出したものの、行動方針も何も見出すことなく途方に暮れていた。
薮の中で支給されたデイパックをすぐに開封してはみたが、中に入っていたのは武器でも何でもない、
学習ノート1冊、筆箱に綺麗に収められた筆記用具、小さな鉛筆削り、そして一式揃った三角定規のセット。
「…小学生か何かの勉強道具セットみたいな?こんなんじゃ身も守れねえじゃん…。
ななめ45°だから1角45度の三角定規が入ってるとか…そんなことはないわな」
自分自身に軽く突っ込みを入れた後、思わずがっくり項垂れたのだった。


249 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/23(日) 20:27:49
例え恐ろしくとも、思い切ってメンバーに言葉を掛けて見るべきだったかも知れない。
取り戻すことが不可能になってからはじめて生じる後悔。もう彼らの姿は、いつも立っている舞台の上のように自分の横にはない。
「くっそお、どうしたらいいんだよ…何もやることとか思いつかねえ。皆いたら相談のしようもあったんだけど…」
情けなくも半ば泣きそうになりながら、それでもいきなり誰かに見つかって襲われるのだけは避けたくて、必死で歩を進める。
「…2人とも正気じゃねえみたいだったけど、大丈夫なのかな。本当はあんな感じだったからこそ声掛けなきゃいけなかったんだろうな。
俺これでも一応リーダーなんだしさ。何でこういう時に何も出来ないかなあ。一番何とかしなきゃいけない時だろうが、ここが!」
自棄になって自分を叱咤する。実際は怒りの表現とも言えず、ただ頭に浮かぶ恐怖を掻き消すための逃避手段に過ぎないことは
自覚しているが、そうでもしていないと孤独に押し潰され、本格的に心が折れてしまいそうなのだ。
「―くそ、心が折れるのは舞台で失敗した時だけでいいっての。それにさ、そういうのはあいつらが一発ギャグで滑った時の話だろ。
俺はそれを突っ込んでフォローしないといけねえし。考えてみりゃ本当荷が重いよなあ、2人も支えていかなきゃいけねえんだから」

ぶつぶつ喋り続けている内、ふと、毎月何度となく出ていたライブでの光景が頭に蘇って来た。
たくさんの笑い顔、声。歓声、カメラのフラッシュ。
―それは今日になっていきなり失われた、本来の芸人としての自分達の日常。
出演となれば毎度毎度、ネタ作りなり稽古なりが重なって、大変なことにはこの上なかった。時にメンバー同士で気まずくなることもあった。
それをまとめていかなければならない気苦労は、いつか内臓に穴でも開くのではないかと思えるくらいで。
けれどもやり遂げた後の達成感と言えば格別で、それまでにあった苦しさも全て報われた上で霧消するように感じられたものだ。

250 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/23(日) 20:29:07
「…そうだよ、俺ら年始あたりには単独やる筈だったんじゃん。スピワさんとダブルさんと、それにオキシジェンと俺らでさ。
すげえ豪華な4本立てになるっつって、ファンも喜ぶっつって、皆で騒いだんだっけ。
忙しくなるから絶対痩せるわ、なんてパンさん愚痴っててさ…。でもすっごく楽しみだったんだ。
それがこんなことで駄目になっちゃうなんて…考えられねえよ。嘘だよなあ…嘘だと思いてえ…」
遂に堪え切れなくなった涙が瞼に滲んできた。誰に見られるわけでもない、しかし弱さを曝け出していることが恥ずかしくて、
土谷は座り込み、顔を膝に埋めた。どんなに嘆いても、奪われてしまった未来は取り戻せはしないが。それでも、身体が動かなかった。


長い長い、やるせない時間は容赦なく過ぎた。
このまま泣き続けて、状況がどう変わるわけでもない。土谷は顔を上げた。何とか少しでも気を入れて、行動を起こさなくては。
でも、何を?

「…そうだな、岡安と下池探しに行くか。どうせあいつらのことだから、最初はあんな感じでも結局路頭に迷ってんだろ。
俺がまとめに行かないとどうにもならねえし…まともなのは俺だけだと思っていいだろうからな。
島広いみたいだけど、その内見つかるだろ。会えてから、それからのことを考えりゃいいや」
赤くなった目をこすり、ようやく立ち上がった。


251 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/23(日) 20:30:31
それからのこと―
…実のところ、メンバーに会えた上で、3人で生還するというシーンを土谷は思い描いていた。そしてそれが実現しそうにも思えていた。
しかし、この過酷な殺人ゲームの舞台となった広大な島で、2人の人間を見つけ出すことからして、既にほぼ成し得ないことなのだ。
その上に複数人数の生還などという奇跡の重ね合わせが、まず起こるわけがない。単なる考えの浅い者の夢物語に過ぎない。
当然ながら、彼が自らそれに気付く術はない。


彼が現実を知るのは、
それからたったの数分後のことだった。


島中に緊張感のないクラシック音楽が鳴り響き、思わずぎょっとする土谷の耳に立て続けに、教室でも聞いたやる気のなさげな、
それでも威圧感のある男の声が飛び込んできた。第一回の定例放送。それが一体何を意味するのか、土谷には分からない。
『さて、これが最初の放送だ。これから今までに死んだ奴を発表していく』

(死んだ奴…死んだ奴だって?どういうことだよ、もう誰か死んでるってことか?そんな、まさか…)


「えー次、49番、岡安章介」

おか …

……え?


夕暮れに赤く染まった光が頭上から落ちてきて、土谷の顔を照らす。
それが眩しくてたまらないのに、どうしても、そこから動くことが出来なかった。

252 : ◆hfikNix9Dk :2007/09/23(日) 20:31:38
【ななめ45° 土谷隼人】
所持品:勉強道具セット一式
第一行動方針:メンバーを探したかったが…
基本行動方針:生き残る
最終行動方針:メンバー全員で生還したかったが…


【現在位置:森(G8)】
【8/15 18:01】
【投下番号:271】

253 :名無し草:2007/09/25(火) 14:25:40
>>252
投下乙です!
いきなり行動方針打ち砕かれた土谷切ない…。
こちらの動向も楽しみです!

254 :名無し草:2007/09/25(火) 19:41:24
保守age

255 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:15:37
>>167-175 松竹編第十一話

 孤高の漫才師 ますだおかだ


 遠回りし過ぎたようだ。
 ここに辿り着くまでの道のりも、芸人としての人生そのものも。どこかで妥協していればもっと楽
に生きられただろうに。いつも、選ぶ道は効率の悪いものばかりだった。
 とはいえ苦難の道をあえて進んでいく事は、自らが求めたものであるため後悔はない。その理由
は極めて単純だ。果たしてこれまでの自分はどうしようもなく不幸だったのか。増田は一人、首を
横に振った。
 しかしこれからの自分はどうだ。増田の首は縦にも横にも動かない。
 人は意図も簡単に狂う。それを知っていたのは幸か不幸か。ここにいる芸人たちは強い絆で結ば
れた仲間同士でもなければ、日々繋がりのあるクラスメイトでもない。例えばそのどちらかならば、
いつかの全滅プログラムのように美しい結末を迎える事も、更なる希望を見出す事も出来たかもし
れない。されど結束するにはあまりにも準備不足であり、また、参加者数が多すぎた。
 だがその異常なまでの人数の多さは、この島の広さも相俟って増田を酷く安堵させていた。なぜ
なら増田は、通常のプログラムよりもはるかに、危険人物との遭遇率が低くなるであろう事を悟っ
ていたからだ。島の広さに関しては当然であるが、参加者数が多いとなると必然的にプログラムの
終了は長期化する。生き延びたい参加者たちは必ず施設や建物を探し、居場所を求めるはずだ。
なので、人が集まりやすい施設や建物のあるエリアを避けていけば、ある程度の時間は稼げると
踏んでいた。
 実際これまでの増田と他参加者との遭遇率を振り返ってみれば、それは証明される。なるべく道
なき道を選び、建物から距離を置き、何の目印もないエリアを目指し続けて既に十数時間経過して
いる。増田がこれまで出会った人物は入り口の死体の群れ、ただそれだけだった。これは運ではな
い。当然の結果である。
 だが一つ問題がある。探している相手はこの人気のないコースをわざわざ選んでいるのか。面倒
臭がりの奴の事だ。そう遠くには行っていないだろうが。


256 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:20:21

 増田は僅かに首を捻った。
 こんなはずじゃなかった。
 増田は改めて左手に広がる海と、その先見つめた。相変わらず空には月が浮かび、小さな増田
の影を薄く象っている。
 夜が明ければあの月だって消え失せる。そんな風に自分の命も瞬きする間に消えていくのか。
そして何事もなかったかのように、そこには太陽が浮かび上がるのだろう。
 どれほどプログラムを憎んでいても、どれほどバトルロワイアルの知識も得ていても、結局はこ
うして逃げ惑うばかりだ。本来なら率先してこのバトルロワイアルを破壊するよう動くべきなのかも
しれない。過去反対勢力との活動で、自分がプログラムを崩壊する図を思い描く事だって多々あっ
た。こんな非道なプログラム、自分の力でなくしてみせる。そう強く願っていたはずだった。
 それなのに、今の自分の姿はなんとも惨めだ。逃げるように歩き回り、他人との遭遇を過剰なほ
どに拒んでいる。何もせずにただ鬱々とつまらない考えを巡らせているだけだ。
 生きるという強い意思はなかった。かと言って生きる事を諦めきれずにもいた。明確なプランなど
一つもない。この歯痒い思いを吐き出す事さえ出来ず、ただ拳を握り締めているだけなのだ。
 もしも普段の自分を失う事が現状で言う「呑み込まれる」というものならば、既に自分は呑まれ
ている。しかしそれは、普段の自分が本来の姿であるという前提のもとで始めて成り立つ。もしか
したら今の情けない自分の姿こそが、本性なのかもしれない。
 これまで叱咤しながら避けてきた逃げの姿勢は、この人生の価値を酷く暴落させる許されざる
行為である。それでも自分に甘くなってしまうのは、もう、この手からこぼれた未来を拾う必要がな
いからなのかもしれない。どうせこのまま捨てるのなら、いくら汚してしまっても問題はないだろ
う。先のない人生にどんな理想を描けというのだ。体は間違いなくここに存在しても、心はとうの
昔に死んでいるというのに。
 増田は恐ろしいほどの絶望を感じた。バトルロワイアルに参加している事に対してではなく、自
分自信の愚かさに対してだ。希望の持てない人間が、報われる事などないだろう。増田は慌てて
前を向き、漂う負の思考を振り払った。


257 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:22:09

 景色はゆっくりと移り変わる。
 左手の海は相変わらずだったが、浜辺の広がる右手は次第に木々が迫ってくる。また足場の悪い
林の中へ進まなくてはならないみたいだ。しかしその方が安全かもしれない。それとも、危険を承知
でこの心地よい海沿いを歩いていくべきか。
 増田はふらりと進路を変えた。身の安全を優先するため、遠くに広がる林へと向かう。
 その時だった。
 増田の背中にひやりと、一筋の汗が伝う。
 闇に包まれたこの空間に、ぼんやりと浮かぶ何かがあった。
 月明かりは申し訳程度に照らしている。もどかしく浮かび上がるのは明らかに人間の形であった。
少しもぶれる事のない人間は、ただ仰向けに横たわっていた。生死の確認は、この距離からは不可
能だ。
 足が自然と迂回した。やはりここでも、逃げる事を選択するのだ。増田は慎重に様子を伺いながら、
その人間の命と、それから自分の命の無事を祈った。
 そのまま通り過ぎるつもりだった。それが叶わなかったのは勝手に動いた足のせいだとしよう。では
なぜ、この足は動いたのか。その横顔が、あまりにもよく似ていたからだ。
 閉じた瞳に、たまに吹く緩い潮風が髪を揺らす。動いているような、止まっているような。うるさく体中
に響き渡る鼓動が、その判断を鈍らせた。
 手を伸ばせば届く所まで来て、ようやく増田は立ち止まる。罠かもしれないという選択肢はなかった。
なぜならここにいるのは、探し求めていた相方、岡田圭右だったからだ。


258 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:26:56

 死んでいるのだろうか。それにしてはこれといった外傷はない。服も整っているし、争った様子も
なさそうだ。それとこの格好。足は投げ出され完全に無防備だが、両手は後頭部に組んで枕にし
ている。死んだ人間としては少し違和感のある上半身の体勢だ。TIMのネタを拝借するならば『祝』
の人文字の『兄』、言うならばゴルゴ松本の方である。

 ちっともめでたくない。

 突如沸いた怒りにも似た感覚に、増田の眉間に皺が寄る。そして増田は肩に担いでいたデイパッ
クを勢い良く落下させた。落ちる先は気の緩んだ腹の上。
「ぐぁっ!」
 ガッと開かれた目がおろおろと宙をさ迷う。慌てて起き上がり軽く咳き込むその姿に、不謹慎なが
らも「ナイスリアクション!」と心で叫んだ。
「だっ……なんやなんや!」
「何こんな所で寝てんねん」
「寝てへんわ! こう、波の音を聞いてたんです! ロマンチックボーイや!」
「なんやテンション高いな」
「あんたのせいや!」
 ほんの僅かな悪い予感、死んでいるかもしれないという思いを物凄い勢いで掻き消した自称ロマ
ンチックボーイ。本当に自分が探していたのはこの人なのだろうか。何かの間違いであって欲しい
と増田は切に願った。
 とはいえ張り詰めていた緊張感から解き放たれ、増田の体を支えていた足は突然ガクッと折れて
へたり込んだ。長い時間歩き続けてきたのが祟ったようだ。休む事も許されなかった体が、ようやく
休息の時に入る。


259 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:28:54

「疲れとんのか? 酷い顔してるわ」
 そう言う岡田の顔は、まるで普段通りだった。
「自分は元気そうやな」
「休んどきなさい。朝になってまうで」
 親に寝かしつけられる子供のような扱いだ。もちろん増田の癇に障った。
「寝られるかこんな所で」
「そうか?」
 長身が転がる。「お前が寝たいんかい」と小さくぼやく。あまりにもリラックスした様子の相方に、
自分の置かれている立場を忘れそうになった。
 少しだけ、横になってみた。
 空は黒かった。それだけじゃない。どんな黒にも表現できない奇怪さも持ち合わせていた。静
かだと思った。海も空も、とても無口だ。誰かに似ているような気がした。それが誰なのか考え
あぐねるうちに、全身の力が抜けていくのを感じた。このまま眠れるかもしれない。折角だから、
少し眠ろうか。
「ちょっとだけ、寝るわ」
「……」
 肯定の沈黙だと思い、そのまま目を閉じる。潮の香りが心地よい。小さく響く波の音は、とても
静かでいて、でもどこか情熱的にも感じた。先ほどまで見ていた月を思い出す。やはり誰かに似
ていた。太陽とは違う、静かな炎で辺りを照らす、どこか儚げで消えてなくなりそうな何か。


260 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:31:25

 眠りに引き摺られていく。このまま眠りについて、一体どんな夢を見るのだろう。とても幸福
すぎる夢か、はたまた残酷な生の終わりか。
 朝は来るだろうか。来ないかもしれない。しかし、このまま眠り続けているのも悪くないと思
った。悲しいばかりの現実で迷い続けるよりも、空想の夢の中で永遠に過ごしたい。どんな
悲惨な夢でもいい。夢ならこのやり切れない思いも、少しくらいは緩和されるような気がする。
それとも今日あった出来事が全て、夢だったというオチにどうか辿り着いて欲しい。目覚めた
頃にはまた平凡な、出来る事ならバトルロワイアルなど存在しない、平和な世界で漫才をさ
せてはもらえないだろうか。センターマイク一つだけでいい。衣装も舞台も自らで用意しよう。
ただ漫才を、もう一度、舞台で漫才を……。
「ぐぅ……」
「!!」
 思惟全てを投げ捨てて、増田は瞬時に飛び起きた。隣を見やると例の『兄』状態ですやすや
寝息を立てている岡田がいた。一気に冷や汗が湧き出るのを感じる。
 寝られないと言っておいて意見を翻した自分にも確かに落ち度はあるだろう。それは認めよう。
しかしここは普通「いや、疲れてんのやから眠れんくても寝たほうがええ」といったコンビ間の暗
黙の了解があるのではないのか。大体岡田はちっとも疲れた素振りもなくどちらかというとふざ
ける余裕さえあるほど体力も残っていて――。
「あーもう……」
 考えるだけ無駄だと、増田は諦めの声を上げた。ぐっすりと眠りについた大きな体を憎らしく思
いながら、人に薦めておいて自分が寝るというある意味ベタなマジボケを繰り出してきた岡田に
敬意を評する。


261 : ◆//Muo9c4XE :2007/09/26(水) 01:34:39

 しばらく呆気に取られながらもすっかり眠気も去り手持ち無沙汰になってしまった増田は、おも
むろにデイパックを引き寄せた。中から水と食料を取り出す。ここに来て初めての食事だった。じ
っと果てしなく続く海を見つめながら無機的な食事をとる。空腹だったからなんて事ではない。義
務感に苛まれた、とでも言おうか。こうしなければならないと上から抑えつけられているような気
分だった。それに従っているのもまた、自分の心が他の何かに作り上げられたものだからなのだ
と言われてるようにさえ感じる。
 やはり自分は生きたいのだろうか。こんなまずい食事で命を繋ぎ止めたいほどに。
 その問いに答える者はいない。

 力強く噛み砕いた。喉を通る乾パンが痛い。
 死んでいった芸人たちの無念を食わされているかのようで、飲み込んでしまうのが辛かった。



【ますだおかだ 合流】

【ますだおかだ 増田英彦】
所持品:ルガーP08 9mmパラベラム弾(8/8) ・控え弾丸(16)
第一行動方針:疲れた体を休める
基本行動方針:最高の理想を見出す
最終行動方針:理想を現実にする

【ますだおかだ 岡田圭右】
所持品: ブラインド
第一行動方針:動きたくない
基本行動方針:カメラに向かって一発ギャグ
最終行動方針:何も求めない
【現在位置:K5 海辺】
【8/16 02:40】
【投下番号:272】


262 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:33:27
>>183-187の続き



間違いない。あのボリュームのある頭はアフロヘアだ。
向こうも大村の存在に気づいた。恐る恐るといった足取りで大村が何者か確認しようとしている。
「大村?」
その声で相手が相方の藤田だとはっきりした。
遅いという意思を込めて大村が苦笑を浮かべると、藤田の表情が明るくなり、小走りで近づいてきた。
「ああー、やっと見つかった」
大村の前まで来ると膝に手をつき、大きく息を吐いた。大村はそれに声を掛ける。

「あの、スキマスイッチの人ですよね?」
藤田は一瞬きょとんとした後、勢いよく反論した。
「ちげーよ! 藤田だよ! お前の相方!」
大村は吹き出す。つられて藤田も少し笑った。
「おせーよ。何時間待ったと思ってんだよ」
「いや、港の場所わかんなくてさ。さては、一人じゃ怖くて今まで震えてたな?」
「何を馬鹿なことを言っているのかね。それはそっちの台詞だよ」
「……だから今俺が言ったろ!」

思ったよりも藤田は落ち着いているようだ。おそらくまだ「騙されている」だろうが、それでパニックに陥って自滅しなかっただけでもよかった。
藤田と軽口を叩き合うことによって、大村は完全に普段の調子を取り戻した。
ここからが本番だ。藤田の情報を得て、作戦を練らなければならない。待合室の中に招きいれ、状況を尋ねることにした。

263 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:34:55
「本当に観光地だったんだな」
藤田は遊園地のポスターや観光船の発着表が貼ってある壁を見回す。カメラに気づかれないかと思い、大村は藤田に質問した。
「何入ってた?」
そう尋ねると、藤田は大村のほうに向き直って、ディパックを開けた。カメラに気づいた様子はない。
「見てくれよ、ひどいから」

藤田が取り出したのはいわゆるヘアアイロンだ。コードがないところを見ると電池式らしい。
「おお、やったな」
「どこが!?」
おいしい、という点でだ。こういう日用品は下手なジョークグッズよりも出落ちのインパクトと脱力感は大きい。
出来ればもっと期待感をあおる前振りが欲しかったのだが、企画だとわかるようなことは口に出せないので、代わりの理由を答える。
「アフロが乱れても直せるじゃん」
「そんな暇なくねえ? これでどうやって戦えっつうんだよ」
ヘアアイロンを両手で持ったままうなだれる藤田の横で、大村はその使い道を考える。

棒状だから振り回せばそれなりに戦えそうだ。スイッチを入れておけば当たったときに熱い。
その熱がるリアクションを見たいからこれを武器として支給したのだろう。
あとは、電気製品だから分解してサバイバル時に役立つ何かが作れそうだが、あいにく大村にその方面の知識はない。
結局、本来の使い道か熱い棒として使うしかなさそうだ。
まあ、ヘアアイロンで格闘する姿は面白い絵になってくれそうだから、そんなに悪いものではない。

264 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:36:23
「大村?」
黙り込んだ大村の顔を藤田が心配そうに覗き込む。
「たとえばさ、お前のそのアフロをこれで全部ストレートにしちゃえば、誰かわかんなくなったりしねえ?」
「おお、この島にいないはずの謎の参加者、誰だお前は! って馬鹿!」
予想外のノリツッコミに大村は反応が遅れた。藤田は気まずそうな顔になる。
「なんだよ、急に黙ったからどうしたのかと思ったら、そんなこと考えてたのかよ」
「だってお前どうやって戦えっつうんだよって言うからさ、使い道考えてた」
大村がそう答えると、藤田は少し神妙な顔になった。
「それを武器として使いたいわけじゃねえよ。自衛のためには不安だなあ、って思っただけで、殺し、とかそんな事出来ねえししたくねえから」
やっぱりな、と大村は思った。曲がったことが嫌いな藤田だ、殺し合いなんていわれてもまず受け入れることはないだろうと思っていた。
となると、自分たちのスタンスは藤田に乗って戦いを止める側、ということになるだろうか。確かに格好良いが、正統派過ぎて面白みに欠ける感じもする。

「そうだ、お前は何だった? 使えそう?」
そんな考えにふけっていたら藤田に逆に質問された。我に返って大村はディパックに手を入れる。
そういえばこれも出落ちのインパクトは大きいなと思い、ちょっともったいぶってみせた。

「俺はねー、じゃーん」
「え、まじで?」
大村が取り出した銃に藤田は目を丸くし、首を色々な角度に傾けながら興味深そうに見ている。
「すげえな、大当たりじゃん」

何事にも素直に反応するその顔を見ているうちに、大村の悪戯心が刺激される。
カメラの位置は自分の背中、つまり向かい合った藤田の顔はバッチリ撮れる。
いい表情、リアクションを期待しよう。
「まあな、これさえあれば怖いもん無しだ。というわけで、」
大村は銃口を藤田に向けた。

「死んでくんない?」

265 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:39:13
「は……?」
藤田の顔が引きつった。
銃口が自分の胸の辺りを狙っているのを見て、大村の顔を見る。その表情を見て、大村は笑いをこらえるのに必死だった。
「嘘だろ……?」
絞り出したような声に大村はますます満足する。

相方の裏切りという展開は使える映像になってくれそうだ。自分を信じている藤田に申し訳ない気持ちはあるが、これも自分たちが注目されるためだ。
それに、毎度ながらこの騙され具合を見るのは面白い。
そんな内心を悟られないように、大村は薄笑いを浮かべて”殺し合いに乗った者”のふりを続ける。

「残念ながら本気。俺は生き残る」
「だ、だからって、他の人間殺してもいいのかよ!」
「いいんだろ? ここでは」
藤田の額に浮かんだ汗はきっと暑さのせいではない。言葉も出なくなった藤田は、一瞬後に腰を浮かせた。
「おっと、逃げられると思ってんの?」
これ見よがしに引き金にかけた指を動かしてみせると、藤田は息を飲んで、腰を下ろした。血の気の失せた顔はもう表情も作れないようだった。
少し追い詰めすぎたかもしれない。そろそろ終わりにする頃か。

「じゃあ、悪いな」

藤田が目を閉じた。
大村は引き金に指をかけ、引いた。


266 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:41:04
銃声、は鳴らなかった。

代わりに響いたのは銃声に似せた電子音と装置が動く軽い音だった。
藤田が目を開ける。
視界に映ったのは銃口から飛び出た赤い旗だった。それは飛び出た衝撃で少し揺れていたが、『BANG!』と書かれた黄色い文字ははっきり読めた。
大村が吹き出す。

「テッテレー!」
お馴染みの効果音を自分で言い、呆気にとられた藤田の表情を見てより一層笑った。
「いやー、きれいに騙されてくれるよな」
少しずつ状況を理解するにつれ、藤田の顔が強張っていく。
「なんだよ、それ」
「面白いだろ。見た目は本物そっくりなんだよな。殺傷力ないけど」
「お前、ふざけんなよ」
藤田は怒鳴り散らしたりはしなかった。本気で怒っている。それは大村にもわかったが気にしなかった。
過去にも大掛かりなドッキリを仕掛けて激怒されたことが何度もあったからだ。
「今の状況わかってんのか。よくそんなことできるな」
強い口調でそう言われても、大村は笑い続けていた。
「そんなマジになんなって。なに、俺がお前を本当に殺すと思った?」

「わかんねえだろ」

「え?」
予想外の言葉に大村の笑みが固まる。

267 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:42:31
「よく一緒に遊んでたとか飲みに行ってたとかもう関係ねえんだよ。先輩だろうが相方だろうが殺したり殺されたりしてんだよ。
ここにいる奴みんな知ってる人間じゃなくなってんだよ!」
何かに取り憑かれたようにまくし立てる藤田に、今度は大村が唖然とする番だった。
これはバラエティだ。ちょっと規模が大きくて、ちょっと不謹慎な題材だけど、視聴者を笑わせるための企画のはずだ。
「殺したり殺されたりしてる」って、それじゃまるで本物の、毎年中学生がやっているプログラムみたいじゃないか。

そこで突然、大村にある感覚が蘇る。
山田が撃たれてからずっと教室の中に広がっていた臭いを思い出したのだ。
むせ返るような血の臭いだけだったのが、時間が経つにつれて胃を押し上げるような臭いも混じって具合が悪くなりそうだった。
そう、小道具の血糊にそんな臭いが付いているなんて聞いたことがない。
あれは、本物の血と死体の臭いだ。
今まで築いてきた前提が崩れた瞬間だった。

藤田は一息つくと、改めて大村を見た。
「頼りにしてたんだよ。合流しようって言われたときはめちゃくちゃ救われた気分になった。お前についてけば大丈夫だって思ったんだよ」
泣き出しそうだった表情が瞬時に冷たくなる。
「けど、お前全然状況わかってねえじゃんか。こんなときまでドッキリ考えて」
そして立ち上がるとディパックを担いで歩き出した。つられて大村も立ち上がる。
「おい、どこ行くんだよ」
「お前と一緒にいたくねえんだよ」

大村が言葉を失った。いつものようになだめることも言い返すことも出来ない。
命が掛かっているこの状況では、些細なことでも元には戻らない亀裂を生む。
「信じてたし信じたかった。けど、もう、無理」
静かに告げられた拒絶の言葉だった。しかし、それでも十分な効果はあった。
大村は自分がとんでもないことをやらかしたと気づいた。
「ふじ……」
「ついて来んな!」
そう言い捨てて、藤田は駆け出した。土産物屋の脇を抜け、すぐにその姿は見えなくなった。
大村は足を踏み出すことさえ出来なかった。


268 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:43:41
藤田がここに来るまでに何を見て、聞いて、感じてきたのかはわからない。
ただ、大村よりはるかに「現実」をわかっているのは確かだ。
いつも通りに見えて、藤田はやはりどこか怯えていた。それに気づいていたら、ドッキリなんて仕掛けようとは思わなかった。
やっとわかった。自分が築き上げた世界はただの現実逃避のための思い込みだったのだ。

遠くで悲鳴らしき声がした。また一人、脱落者が生まれるところだろうか。この企画の上のではなく、この世からの脱落者。
今更ながら怒りがこみ上げてきた。
なんて性質の悪い企画だ。芸人がカメラの前で面白いこともせず殺しあうなんて、悪質なドッキリのほうが何十倍もましじゃないか。

「ああ、くそ、許せねえ」
主催者と自分、両方にこの言葉を叩きつけ、大村はディパックを担いだ。
檄の意味も込めて両手で頬を強く打つ。同時に頭を切り替えた。
本当に人殺しなんて出来ないし、したくない。死にたくはないが、他の人間が死んでいいとも思わない。こんな楽しくない企画には乗ってやらない。
急に藤田が心配になってきた。闇雲に走って、自分から危険に突っ込んでいやしないだろうか。
足を踏み出す。早くしなければ追いつけなくなる。

今まで何度も喧嘩と仲直りを繰り返してきた。ちゃんと話せばきっとまた一緒にいられる。だが、この島ではいつ何が起こるかわからない。
これを永遠の別れにするわけにはいかないのだ。


269 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/09/29(土) 07:45:16
【トータルテンボス 大村朋宏
 所持品:おもちゃの拳銃
 状態:外傷なし 状況をやっと理解
 第一行動方針:藤田を追いかけて仲直りする
 基本行動方針:プログラムには乗らない 危険はごまかして回避する
 最終行動方針:できれば生存】
【トータルテンボス 藤田憲右
 所持品:ヘアアイロン
 状態:外傷なし 疑心暗鬼状態
 第一行動方針:大村から離れる
 基本行動方針:プログラムには乗らない
 最終行動方針:考えられない】
【現在位置:B-3・北の港】
【8/16 07:50】
【投下番号:273】

270 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/29(土) 12:28:40
一方の安田は、先輩を殺した『殺人鬼』が自分たちの傍に居ることも知らず、
升野が目覚めるのをただ待ち続けていた。
彼が起きた時に言わなければならない計画、そして謝罪を頭の中でまとめながら。
「(いくら兵士を守るためとは言え、あれはやりすぎやったからね・・・)」
「ううっ・・・・・・」
安田の腕の中で目を固く閉じていた升野が、呻き声と共に薄っすらと瞼を開く。
そして数回辺りを見回し、その視界に安田の姿をハッキリと捉えた。
「・・・や、すだ・・・?」
咽喉から絞り出すような声に、安田はピクッと小さく震えた。
怒られる!! 咄嗟にそう思ったため、謝るよりも先に身体が動いたようだ。
「あ、あのっ・・・さっきは、すみませんでした!」
「本当だよ。あともう少しで、あの世に行ってたかも知れないんだぞ?」
本気で怒っている升野に、胸倉を掴まれ目を白黒させる安田。
自分よりも10センチ以上背の低い彼だが、力はずっと強く、少しでも逆らえば骨が折れてしまいそうだった。
「く・・・首が、絞まる・・・!! 死ぬ・・・!!」
「勝手に死んどけ! この馬鹿!」
胸を捕まれたままの状態で激しく身体を前後に揺すられ、安田は意識を失いかけた。



271 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/29(土) 12:29:46
「――お前、りあるキッズの安田と違うか?」

低い特徴的な声が、升野と安田、2人の耳へと入った。
「誰だ、お前」
升野は警戒心を露にして、その声の主が居るほうを見る。
突き抜けるような強い視線だったが、声の主――小林は全く動じる様子もなく、
『そんな顔をしないで下さい』といつもの笑顔、口調で言い放った。
「小林さん、無事やったんですか?」
「俺がそんな簡単にやられるわけないわ。陣内も居るで」
そう言って、ビクビク震えている陣内を指差す小林。
その様子に一瞬だけ違和感を感じた安田だが、いつも通りの笑顔で自分をからかってくる小林を見て、
優しい彼が変わるはずが無い、小林はいつもと変わっていないと思おうとした。
けれど・・・・・・、一度浮かび上がった考えは、なかなか消えてくれないもので。
『おかしい。絶対に何かが違う』と、安田は小林を見ながらずっと考えていた。
ただの悪い予感だ、外れてくれと願いながら・・・。


272 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/29(土) 12:31:15
合流して少し時間が経った頃、升野が大儀そうに口を動かした。

「・・・・・・ところで、お前らは俺らと合流して、何をしたいんだ?」

升野の問いかけに小林、陣内はどちらも自分たちと合流して、少しでも多くの仲間を集めたい、
みんなでまた本土へ戻って、舞台に立ちたいのだということを、升野と安田に話した。
安田も同じ考えであることを告白する。
ただ、自分は兵士も連れて帰りたいと思っているけれど、と付け足して。
「安田もそう思ってたのか・・・・・・と言うことは、
『みんなで帰りたい』と思ってるのが、ここだけで4人も居るってことか」
「そういうことになるな」
升野が腕を組み木にもたれかかるようにして言うと、小林が頷いた。
「ま、あれは俺が許せないから駄目だけど、参加者に関しては何とかしてやるよ」
あれとは兵士及び担任のことである。
升野は兵士や担任のことを、『あれ』、『それ』などの指示語で言うことが多かった。
本部に分からないようにする作戦だろうが、安田には理解が出来ないものだった。
「あれとかそれとか言うの、止めませんか?
どのような形で参加していようと、仲間であることは変わりないんですから」
すると、升野は先ほどまでとは打って変わって冷たい表情となり、安田を睨みつけた。
「あれがどう言う立場か、お前、分かってないだろ。
 あいつらは戦いを『推奨』する側。つまり、俺らにとっては『敵』の存在。
 例え過去に舞台なんかで共演していても、プライベートで交流があってもな」
その言葉を受け、陣内は小林との合流前、品川庄司の2人と行動を共にしていた時に、
彼らから聞いた言葉を思い出していた。
「そういや・・・・・・品川庄司の2人も、同じことを言っとったわ。
 でも、望んでもいない形で兵士となってしまった彼らに、非はないと思うんやけどな」
「非の有無の問題じゃない。こっちがそれを許せないんだ」
どんなに兵士に非が無いことを、陣内と安田が訴えても、
兵士は裏切り者だと思っている升野には、彼らの想いは届かなかった。

273 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/29(土) 12:32:23
それもそのはずだ。
升野は安田と合流前の8月15日にも、兵士4人――自分の先輩や後輩たち――と遭遇していて、
そこで銃を向けられたり、撃たれかけたりと散々な目に遭わされていたのだから・・・。

過去にそんなことがあったからこそ、
『兵士だけは、絶対に許さない。追い詰めた上で殺す』
その考えだけは、絶対に譲らなかった。譲れなかったのだ。
安田が頭を下げてお願いしても、陣内が何を言っても、『それだけは出来ない』と首を横に振り続けた。

小林自身も兵士――自分の元相方――に陣内と合流する前に出逢って、
久しぶりの会話をしかけたにも関わらず、他の兵士に邪魔をされてしまい、
それ以降、兵士にはそれなりの恨みを持ってはいた。
参加者への恨みもあるが、兵士への憎しみも同じくらい強い。
でも兵士に単独で向かっても勝ち目が無いのは分かりきっているので、
同じ考えを持っている人間を利用するのが早いだろう。
小林は2人と合流する前に考えていた計画を、
『安田だけを殺し、升野は殺さずに行動を共にする』と変更して、
安田の殺害もある程度の信頼が得られるまで、暫く待つということにしたのだった。


274 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/09/29(土) 12:33:25
【バカリズム升野、りあるキッズ安田組・ケンドーコバヤシ、陣内智則組 合流】

【バカリズム 升野英知】
所持品:短剣2本。他は支給品以外、不明。
状態:生存。
第一行動方針:(表面上)兵士と主催者を探す/参加者を出来るだけ多く殺す
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバック、水(支給品)・消毒液、ハンカチ(私物)。
状態:生存。右足負傷及び、全身打撲(どちらも軽症)。
第一行動方針:一人でも多くの仲間を集める。
基本行動方針:升野に従いながら、長田を探し合流したい。
最終行動方針:生き残って、みんなと一緒に舞台に立ちたい。
【陣内智則】
所持品:支給品、ゲーム機本体(形状不明/武器)
状態:生存。
第一行動方針:升野、安田と合流したい。
基本行動方針:一人でも多くの仲間を集める。
最終行動方針:みんなで東京へ帰りたい。
【ケンドーコバヤシ(小林友治)】
所持品:現時点では不明。
状態:生存。精神狂乱状態。
第一行動方針:安田だけを殺し、升野とは暫く行動を共にする。
基本行動方針:生存最優先。そのためなら人を利用しても良い。
最終行動方針:優勝狙い。
【現在位置:林(H7付近)】
【8/16 14:03】
【投下番号:274】

この作品は>>241-245(投下番号270)の続きです。
書き忘れてました; すみませんorz

275 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/29(土) 12:58:18
投下番号237続き 田中編です。


『田中の憤慨』


一面が橙で染められた空に、薄暮がゆっくりと近づいてくる。
だが真夏の太陽は依然手加減を知らないようで、容赦なく木々を通して二人の田中を苦しめる。
滴り落ちてくる汗を拭いながらも、彼らは鬱蒼と茂る森の中を気丈に歩いていた。

「それにしても、なかなか仲間が見つかりませんね……」
「そうだな……」

卓志のついたちょっとした嘆きに、疲弊の混じった声で裕二が答える。
彼らが合流して三時間以上経ったものの、未だに彼らは自分達以外の生きた人間に出会えていなかった。
森独特の清澄な空気とは異なる臭いにつられて人間らしきものをいくらかは発見したものの、いずれも既に物言わぬ骸となっていた。
そのような亡骸を見つけるたびに、彼らと生きて出会えなかった事を残念に思い、冥福を祈った。

「やっぱり、ただ森の中を歩き回るだけじゃ仲間を見つけるのは難しいみたいですね〜」
「そうみてえだな……それによく考えたら、お前のその血のついたシャツがみんなを遠ざけてるのかも知れねえな」
「あっ、そう言われるとそうかも知れませんね」

考えてみたら、あれだけ校舎前で田中さんを震え上がらせたぐらいだ。
ひょっとしたら、せっかく近づいてきてくれたのに、血まみれの自分の姿を見て敬遠した人もいるかもしれない。
今になって仲間を増やすチャンスを見逃していたのかもしれない事に気づき、卓志は少し後悔する。

「とりあえず、街でも目指しますか? 街なら代わりの服とか調達できるかもしれませんし」
「そうだな……それに街の方が仲間を見つけやすくなるかも知れねえしな。そうするか」
「そうしましょう。ここから近いのは……集落の方でしたっけ?」
「確かそうじゃねえかな。ちょっと待て、今地図確認するから」

そう言って、裕二はきょろきょろと地面を見回しながらデイパックを下ろし、チャックを開ける。

276 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/29(土) 12:59:56
中から地図とコンパスを取り出し、にらめっこを始めて数十秒が経ち。
ようやく当りをつけてあっちだ、と集落のあるであろう方向を指し示したその時。

血生臭いこの舞台にそぐわない、やけに格調高い音楽が二人の鼓膜を震わせた。

放送だと直感した二人は急いでデイパックから鉛筆と名簿、それに地図を準備する。
もっとも、裕二の方は最後の一つは既に取り出していたので、準備の必要はなかったが。

『さて、これが最初の放送だ。これから今までに死んだ奴を発表していく。
最後に禁止エリアの発表もあるからな、ちゃんと聞いとけよ。』

よどみない口調で、たけしが放送の開始を宣告し、そして死者を発表しだす。
知らない芸人とよく知る芸人の区別なく一人、また一人と告げられる死者の名前を、卓志は顔を歪ませて聞いた。
やがて、死者の発表が終わる。
次に発表された禁止エリアを書き込みつつ、卓志はため息をついた。
発表された死者の数は、自らの予想をはるかに上回っていた。
いくらか死体を見て覚悟していたとはいえ、まさかこれだけ死んでいるとは。
しかもその中には自ら死を確認した鈴木をはじめ、見知った名前もいくらか混じっていて、その事実が卓志の悔恨を増幅する。
しかし、それでも救いはあった。
菊地秀規と太田光。二人の探し人はともに名前を呼ばれなかった。これは安堵すべき事だ。
特に菊地の場合はいつ殺されてもおかしくないくらいの憔悴ぶりを見せていただけに尚更だ。
この様子だと誰か優しい人物に庇護してもらえてるのかもしれない。そう思うと安心できる。
よし、がんばろう。確かに多くの芸人が死んだのはショックだが、それでもまだ生きている芸人の方がはるかに多い。
気持ちを切り替えて、少しでも多くの人を助けられるように努力する。それでいい。
そう決意して卓志は顔を上げ、裕二に声を掛ける。

「結構名前呼ばれましたね〜。まあ太田さんが呼ばれなかった分だけまだ良かったですね……」

その時、卓志は気づいた。
裕二の地図に何も書き込まれていない事、そして裕二の眼から透明の液体が流れ始めていると言う事に。

277 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/29(土) 13:01:47
「田中さん……田中さん?」
「……猿…………潤……!」

それを聞いて、卓志はハッとした。
猿、そして潤。先程の放送で、確かに呼ばれていた名前を思い出す。

”104番、猿橋英之”
”174番、名倉潤”

「何で……こんな早く死んじゃうんだよ……!」
「…………」

卓志は言葉を失った。
5番6番の猿橋英之。そしてネプチューンの名倉潤。
裕二の事務所の後輩と、裕二の長年の親友かつ卓志の事務所の先輩。
彼らの仲の良さに関しては、バク天で共演してた卓志も知っていた。
その彼らが死んで、裕二が平静でいられるはずがないのである。
不用意な事を言ったと卓志は後悔した。
太田さんが呼ばれなかったからと言って良いはずがなかった。最初の放送で一気にかわいい後輩と親友を失ったのだ。
田中さんの今の悲しみは、もしかしたら立て続けに山田さんと鈴木さんの死を知った時の自分に匹敵するかもしれない。

「田中さん……何ていうか、その、すいません……」
「……ちくしょう……猿橋も潤も、こんなところで殺されていいはずなんかないのに……!」

尚も洟をぐずらせ涙を流しながら裕二が吐き捨てる。
自分達の無力さを裕二は実感していた。
自分がもっと頭がよければ。自分達がもっと効率のいい人集めが出来ていれば。
猿橋も潤も死なずに済んだかもしれないのに。
抑えきれない後悔と憤怒が押し寄せる。

「ちくしょう……ちくしょう……!」


278 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/29(土) 13:04:08
そのまま嗚咽が数分間続いた。
今はそっとしてあげよう。そう判断した卓志は、ただ黙って唇を噛み続けるだけにとどめた。
裕二と同じように、自分達にバトルロワイヤルをさせる存在に強い怒りを覚えながら。



やがて、ひとしきり泣き終わった裕二は鼻汁を啜ると名簿等をデイパックにしまい始める。
涙で滲んだ名簿に目をやりながら卓志が恐る恐る話しかける。

「あの、田中さん……」
「……分かってる。もう大丈夫だから。もう泣かない。
 いつまでも泣いてばかりでうじうじしてたら猿橋にも潤にも申し訳が立たないもんな。
 あいつらの無念を晴らすためにも、俺達ががんばらなきゃいけないんだ」

そう言って裕二は笑ってみせる。
その幾分か無理に作ったような、だけど決意の込められた笑顔を見て、ようやく卓志も胸を撫で下ろす。

大丈夫。俺達は決して挫けない。必ずこの殺し合いを止めてみせる。

「とりあえず集落を目指す。着いたら、状況に応じて体制を整えたり仲間を探したり、俺たちに出来る事をしよう。
 まあもう夜になるからどこまでやれるかはわかんねえけどな。とりあえずやれるだけの事はやろうぜ」
「……はい!」
「……絶対に、脱出しような。俺らの意地、見せてやろうぜ」
「はい!」

裕二の提言に卓志が力強く同意し、名簿等を片付ける。
そして二人は立ち上がり、再び揃って一歩を踏み出した。
これ以上の無駄な犠牲を出さずに、バトルロワイヤルを止めるために――


「それにしても、集落にいるといいなあ、太田さんと菊地さん……」


279 : ◆EeCmUBzmbs :2007/09/29(土) 13:06:54
歩き出すとほぼ同時に、不意に卓志が呟いた。
それに裕二が素早く反応して、明朗に答える。

「大丈夫だって。絶対会えるから。賭けてもいいぜ」
「え〜大丈夫ですか、賭けてもいいなんて言って。外したら俺怒りますよ〜?」

自信を取り戻した裕二の顔に安心感を覚えながらも、軽口めいた調子で卓志が返す。
裕二はにやりと笑うと、蝉の煩さにも負けないはっきりとした声で、こう言った。


「俺はな、この手のギャンブルには強いんだよ」


【アンガールズ 田中卓志
状態:服が血まみれ
所持品:カツオ(高知産。凍っている)
第一行動方針:菊地と太田を探す
第二行動方針:集落で代えの服を探す
基本行動方針:人殺しはしない
最終行動方針:心が傷ついた人を一人でも多く助ける】

【爆笑問題 田中裕二
所持品:画鋲一箱分
第一行動方針:太田と菊地を探す
第二行動方針:集落に行く
基本行動方針:人殺しはしない
最終行動方針:みんなで一緒にこのゲームから脱出する】

【現在位置:I5 森】  
【8/15 18:09】
【投下番号:275】

280 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 19:56:00
初投下、よろしくお願いします。
サバンナ高橋編。ちなみに番外編です。





「おー、これええなぁ」
都会では見られないような広々とした青空の下、男が立っていた。
男――サバンナ・高橋茂雄は、片手に持った小太刀を眺め、さながら初めて玩具を貰った子供の様に嬉しそうにしていた。
刀身は昼間の明々とした陽の光を鈍く反射し、何処か妖しさを感じさせる。
「ありがとうなぁ、てつじ」
高橋は笑顔で足元のシャンプーハット宮田だったものに語りかける。
彼の目線の先に横たわる宮田の顔は紫に変色し、閉じている瞼は二度と開かれる事は無い。
顔を川に浸しているもう動かない男を見て高橋は僅かに目を細めた。



『或る晴れた空の下で』





281 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 19:57:51


それはほんの数十分前の事。
ゲームが始まってからただふらふらと歩いていた高橋は、馴染みの顔が川辺に座っているのを発見する。シャンプーハットの宮田であった。
相手がこちらに気付いていないことを確認した後、足を止め顎に手を当て、何かを思案しているのかそのまま数分「んー」とか「あー」とか小声で呟きながら迷っている様子でいた。
そして、小さく「よし」と呟いて何を思ったかわざわざ宮田の背後に忍び寄り、いたずらっ子の様な笑顔でおもいっきり背中をどついた。

ドン、『てーつーじ!!』
『うわあああ!高橋さん!?ちょお、驚かさんといて下さいよ!』
『何やねん、そない怒らんといてもええやん』
『何やねんや無いですよ!何考えとるんですか!!』

高橋の予想通り、宮田は物凄い勢いで飛び上がって情けない顔で叫び声を上げる。
それを見て高橋はけらけらと愉快そうに笑ったが、宮田は普段のノリさえ持ち出す軽い様子に怒りさえ覚えた。
無論この場では宮田の反応は正しいだろう。いつ見知らぬ顔――あるいは見知った――に殺されるともわからない状況の中で、普段通りに振る舞う高橋こそおかしかった。
そう、異常な事の筈だったが、高橋が“普段通り”であった事が宮田の感覚を少し狂わせた。
仕事で一緒になる事も多い親しい先輩が、いつもの日常と全く変わらずにいた異常さに、慌てきった状態で気がつける訳も無かった。


282 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 19:59:15

『まぁまぁ落ち着いてホメイニさん』
『それイラン人の名前や!、てサンサンテレビのノリ止めて下さい!』
『まぁそれは置いといて』
『始めたん高橋さんですやんか!』

『てつじ武器何やってん?俺こんなやで最悪や〜』
そう言って取り出したのはサングラス――高橋にとっては見慣れた物だ。
『うわー全然武器とちゃいますやん』
『せやねん…むしろ視界悪なるだけやで?』
不満そうな顔をする高橋に宮田が少し笑う。
『俺、これでした』
宮田がデイパックを開けて出したのは鞘に収まった刀(正確には刀でなく小太刀である)だった。
『おー!凄いやん!うわー俺初めてやわ見るの』

興味深々といった様子でしげしげとそれを眺める高橋とは対照的に宮田の表情は暗い。

『でも俺、…正直使いたくないっすわ』
『まぁな、そりゃ…』
『…あの、高橋さんは、これから』
『あ!!!』



283 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 20:00:33

言葉の途中、高橋は急に間抜けな叫び声を上げ、宮田の後方を指差す。
驚いた宮田は誰か知り合いでも近付いて来たのかと思い振り向いた――振り向いて、しまった。
直後、首に何かが巻き付く感触がしたと同時に、首が一気に絞め上げられる。
何が何だか理解出来ない宮田は思わず柄から手を放しもがくがどうにもならない。
どさ、と小太刀が落ちる音が僅かに耳に届いた。

『ぐ、が、………が!』

声にならない声が僅かに宮田の喉の奥から響く。それは高橋の行動に何の影響も及ぼさなかった。
宮田は苦しさと混乱の中、何とかしなければと後方に向かって足を蹴り上げる。
後ろの高橋がそれをとっさに避けたのか、漸く首が解放された。

―――助かった!
『げほっ!がは、はぁっ…』

暫く呼吸が遮断されていた為、急に入ってきた酸素にむせてしまう。その隙に体勢を整えた高橋に再び襲われた。
うつ伏せになった状態の宮田にのしかかり、頭を川の中へ押し込む。
再度襲いくる息苦しさ。抵抗しようにも背中に乗られていては何も出来ない。


284 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 20:01:47

苦しい、苦しい!!
必死でもがく。状況は変わらない。
体から段々と力が抜けていく。意識が遠のく。
真っ白になる。
――そして、動かなくなった。

高橋の武器は本当はレイ――バラエティ番組で良く見る、クイズに正解した時に貰える花飾り――だった。
サングラスは自前の、いつも『犬井ヒロシ』として付けている物だ。
流石にレイでの絞殺は無理だったが、結果オーライ、思ったよりあっさり殺せて良かった。
そう思い宮田が落とした小太刀を拾い上げた。
がさり、足音がした。



「…やって、しゃあないやん」

どこまでも広がる青空の下、高橋は、片手に握った小太刀をどこか冷ややかに感じられる目で眺めていた。
刀身は赤い体液で染まっており、昼間の陽の光を鈍く反射している。

「ごめんな、こいちゃん」

高橋は何処か悲しそうに、足元のもう一つの死体――シャンプーハット小出水に語りかけた。
悲しげな目線の先に横たわる男は胴体に大きな斬り傷を負い、そこから大量の血液が流れ出ている。
小出水の死体は、すぐ側の宮田の死体にすがる様に手を伸ばしていた。


285 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 20:03:48



『え、何で、え、てつじ?』

何の因果か、高橋が宮田を殺した直後に小出水は現れた。
目の前の光景を信じられないのか、彼はひたすら同じ言葉を繰り返していた。

『え、てつじ、高橋さんが、何で、え、え?』
『………』

――あー、待ち合わせとかしとったんかな、こいつら。
――ひょっとしたら合流しとったんか?んでちょっとトイレか何かで離れてた、とか。
――あかんなぁ、今度からはそんなんも気ぃ付けななぁ。

高橋はそんな事を考えながら、混乱しきっている彼に向かってゆっくり歩み寄ると、小太刀を振りかざした。
小出水は一瞬ひるみ、しかし間一髪の所で後ろに退き何とか攻撃を避ける。
高橋が宮田を殺したとはっきり認識したのか、悲しむような、怒っているような、やりきれなさそうな顔をしていた。
ぐ、と小出水のデイパックを握る手に力が篭る。

286 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 20:05:40

高橋はもう一度、今度は横に小太刀をなぎ払う。
小出水はそれもギリギリ避け、重心移動を利用し自分のデイパックを思いっきり高橋の頭目掛けて振った。
反撃を予想していなかった高橋は避ける事が出来ずに攻撃を喰らう。
鈍い感触。確かな手応え。
しかし次の瞬間、呆気無く振り払われ体勢を崩す。
確かに高橋の頭に命中した筈のデイパックはどうやら刀身でガードされていたらしい。振り払われた際、デイパックが破れ中身が全て溢れ落ちる。
小出水は何とか持ち直そうと数歩下がると、――世界が回転した。
何かを踏んで転倒したのだと気付き足元を見ると、転がっていたのは支給品であったテニスボール。
しまった、と思った時にはもう遅い。高橋が小太刀を振り下ろした瞬間、踏み出した足で踏んでサングラスが割れる音が響く。

『何で、』

鈍い感触。確かな手応え。


小出水の体が倒れ、そこの辺り一面が赤く汚れていく。いつも被っている帽子がふわりと風に乗って少し離れた所に落ちた。
余程痛いのか、小出水はうぅ、とかあー、とかしきりにうめいている。哀れに思った高橋は、その背中に向けてもう一度小太刀を振りかぶる。
小出水は宮田の死体が目に入ったのか、そちらへ必死に腕を伸ばす。

『てつ、じ』



最期の言葉だった。




287 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 20:07:30


「しゃあないやん」

高橋はぽつりと呟く。それは小出水への答えでもあった。

『え、何で、高橋さんが、てつじを、』


「…殺さな殺されるんやもん、しゃあないやん」
ぶつぶつと呟きながら、二人の荷物を物色し、食糧等を自分のデイパックに移して行く。
小出水の武器だったテニスボールも少し迷ったが持って行く事にした。きっと何かには役立つだろう。
もう何も無いかと辺りを見渡した時、先程踏んでしまったサングラスが目に入った。

――いつもいつも、「自由だ」なんて叫んでいた。けど最早こんな状況で叫べる自由なんてある筈が無い。
選択肢なんて「殺す側に回る」か「殺さないで殺される」か、それ位だ。
生き残りたいから前者を選んだ。ただそれだけだった。
幸い自分は先輩や後輩との交流関係は広いし、上手く取り入っていけば何とかなる。そう、決めた。

荷物の整理を済ませ立ち上がると、シャンプーハットに別れを告げる。痛んだ良心は無視した。
そして歩き始めた。目的地も何も決めずに、ふらふらと。


此処には自由なんて無い。



288 : ◆CrdchzRUy. :2007/09/30(日) 20:08:34

【シャンプーハット小出水・宮田 死亡】
【サバンナ 高橋茂雄
 所持品:小太刀、テニスボール×3
 第一行動方針:とりあえず移動
 基本行動方針:上手く取り入ってやっていく
 最終行動方針:生き残る】
【現在位置:G4 川付近】
【8/15 16:20】
【投下番号:276】


289 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:25:46
>>255-261 松竹編第十ニ話

 懐疑的漫才師 ますだおかだ


 すぅっと音をたてて吸い込む空気が驚くほど澄んでいた。それは朝が来た事を知らせる合図である。
 とうとう太陽が昇った。まさかこんな所で日の出を見る事になるとは思いもしなかった。
 思えば全ての出来事が予想外に進んでいる。自分がバトルロワイアルに参加している事も、本当
に人が次々と死んでいる事も、憎きプログラムに手も足も出ないでいる事も。唯一増田の予想通り
だったのは、この空にはもう光る月が消え失せたという、ただそれだけだ。
 睡眠を忘れた体は反抗的で思うように動かない。今誰かに襲われたらひとたまりもないなと、増田
はポケットの銃を布越しに確認した。次いで増田は隣で暢気に眠っている岡田を見た。寝相はいい
のか相変わらず『兄』という人文字を作ったままだった。
 もしも今ここに誰かが現れたら、自分はこの銃で人を殺すのだろうか。それから「これは正当防衛
だから」と言い聞かせ、また命乞いの放浪を続けるのか。
 増田は明らかに嫌悪感を示した。紛れもなく自分自身に、はっきりと示した。
 しかしそれ以外に解決策が見当たらない。相手も飛び道具を持っていたら尚更、嫌でもこの銃を
握らなくてはならないだろう。それとも腹を括って相手の好きなようにさせてみようか。精神的には
その方が楽かもしれない。だがそれを実行できる自信がない。黙って殺されるだなんて、死に急ぐ
つもりなど毛頭ないのだ。
 波が押し寄せる。しぶき一つ一つを余す事なく把握できるほど、既に視界は明るい。バトルロワイ
アル2日目の朝は、驚くほど静かだった。
 しかし増田が大きな欠伸を漏らした時、静寂は打ち破られた。全島放送の始まりを知らせる音楽
が騒々しく鳴り響いたのだ。
『芸人の諸君、頑張って殺しあってるかな?』
 恒例の声はやけに活き活きと、お決まりの台詞を吐いていた。


290 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:27:56

「6時か……」
 増田は2度ほど目を擦り、眠り続ける岡田の体を揺らした。
 特に声をかけるまでもなく、岡田は身動きをした。それを確認した増田は、デイパックの中から急
いで地図と参加者名簿を取り出した。それから先の丸くなった鉛筆を握り、これまでと同じように駆
け足で通り過ぎる芸人たちの名前を消していった。
 その頃岡田はというと、ムクッと起き上がったまでは良かったのだが、そのまま何をするでもなく
ボーッと正面の海を眺めていた。
 チェックしとけ。
 そんな言葉が頭に浮かんだが、すぐに飲み込んだ。いい加減に流されるまま生きてるような奴だ
が、あれで根は頑固なのだ。自分だって死者の名前を打ち消していくなんて作業、本来ならばやり
たくない。
 禁止エリア発表の時、その放送は途切れた。増田はふいに顔を上げたのだが、当然様子はわか
らなかった。機械トラブルか何かだろうと大して気にも止めず、地図を見ながら現在位置の確認を
した。
 中々いい場所取りをしたかもしれない。辺りは驚くほど何もない。おまけにここから西は広大な岩
場が続くばかりで、そうそう人が踏み込む事もないだろう。しばらくここに腰を落ちつけるのもいいか
もしれない。それかこのまま海沿いを歩き、山脈辺りを拠点にするのも安全そうだ。
 今後の行動を思案しているうちに、放送は再開された。だがそれは増田の予想をはるかに越えた、
驚きの内容であった。律儀に挨拶をする新しい声は、ソラシドの本坊元児、確かにそう名乗ってい
た。
 波乱のプログラムは過去に何度もあった。しかし今はまだ2日目、プログラムが開始して24時間
も経っていない。波風をたてるにはまだ早すぎる。それから増田は本坊の行く末を悟った。当然そ
の先は死であった。命を犠牲にしてまでもやりたかった事とは何なのか。増田は耳を傾けた。
『誰かのせいにして生きるのも、誰かの為に死ぬのも見たくありません』
 誰かのせいにして生きる。誰かのせいにして生きるとは、どういう意味なのだろう。生きる事も死ぬ
事も選べずにいる自分は、一体どちらなのだろう。
 どちらでもない。そうでありたかった。


291 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:30:08

 増田は強く目を閉じた。突如目の前に現れたその言葉に、金縛りのような感覚が全身を襲う。
 自分でも分かっていた。誰とも遭遇しないよう慎重に動いていたのは、異常なまでの死に対する
恐怖心からだ。死を受け入れられずに逃げる、臆病で卑怯な行動だ。誰かのために死ぬなんて、
そんなご立派な事はできない。こんな世の中といくら強がってみたところで、生きていたいという欲
は消せないのだ。
 誰かのせいにして生きる。
 全て世の中やプログラムのせいにしてそれでも生きたいと縋りついている、情けない自分のようだ。
 誰かのせいにして生きる。
 握っていた鉛筆が、地図の上に転がって地面に落ちた。


『     ド  ン   ッ  !!!!     』


 心臓を撃ち抜かれた。まるでその銃口はこちらを向いていたかのように。
 呼吸が難しくなる。流れるクラシックを完全に無視した不規則なリズムで、空気を吸い込み延命
を願う。自分自身がとても、汚いもののように思えた。
 自分勝手な政府と何ら変わりのない、身勝手な自分がそこにいた。
 何が反対勢力だ。何が反バトルロワイアルだ。正義の仮面を被るだけなら誰にだってできる。人
殺しは悪い事なんて世間が作り出した先入観をさも自分が考えましたとでも言うように、正義を振
り翳し反バトルロワイアルを唱えていただけではないか。
 ここに来て一度でも涙を流したのか。これだけ多くの芸人たちが死んでいるのに、死んでいった
芸人たちに似合う分悲しんでいたのか。
 自分はまだ生きているというのに。
 誰かのせいにして生きるのも、誰かのために死ぬのも見たくありません。
 その言葉が重く圧し掛かる。バトルロワイアルに毒されてからならまだしも、それ以前からずっ
と、自分は誰かのせいにして生きていた。
 努力しても報われない事を世の中のせいにして、今まさにこの場にいる事を政府のせいにして、
人が死んでいくのを他人のせいにして。自分は何もしないまま、誰かのせいにして生きている。
 生まれた時から自分は、独裁的な偽善者だったのだ。
 撃ち抜かれた心臓が他人の手で抉り取られるかの如く、痛みは体中を駆け巡る。

292 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:32:43

 実際の増田は当然何事もない、紛れもなく無傷だった。ただ増田の脳内が造り上げた架空の銃が、
増田自身を戒めただけの事である。しかし戒めるだけにしては負担が大きすぎた。再開される放送
に気付く余裕もないほど、増田は追い込まれていた。増田の耳に届くのは無秩序に続く銃声と、プ
ログラムの悲惨さを物語る一人の男の名前だけだった。
『     216番    本坊 元児     』



 静寂は再び訪れた。これがつまらない日常ならば、目を閉じるだけで眠りにつける至福の時を演出
してくれるのだろう。
 照らす太陽の光が体に染みた。だがそれよりも体に染みる大きな痛みが、小さな背中から響いて
くるのを感じた。増田を現実に戻すには余りあるくらいの、激痛である。
「起きなさい、朝やぞー」
 その能天気な声の主は改めてもう一度、恐らく渾身の力を込めて増田の背中を強く叩いた。
「ったぁ! アホか! 起きてるわ! もっとまともに慰められんのかいっ!」
 叫びながら右の手の平で地面を数度叩き、怒りを表現した。が、どうにも浜辺の砂が力を吸収して
しまうらしく、バタバタと手を上下するだけの何とも間抜けな、駄々っ子のような姿になってしまった。
増田は何度目かのため息をついて項垂れた。調子を狂わせる岡田の存在に、酷く不安を覚えた瞬
間だった。
「まあそんなカリカリせんでもええやんか。これでも心配してんねん」
「自分心配すんの下手すぎやろ」
「ほう、それはクリビツテンギョウやな」
「……」
「出ました! お得意のスルー!」
「……アホらし」
 岡田に聞こえるようはっきりと呟いて、増田は両手で頭を抱えた。それからグイッと顔を上げ、眩し
く光る太陽を見た。瞬きを繰り返しそのまま目を閉じる。そして深呼吸を一つし、心を落ちつかせた。
 バトルロワイアルで冷静さを失う事は死に直結する。増田は何としてもそれを避けたいと思った。
生きたいという欲ではない。なぜか、生きなければならない気がしたのだ。


293 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:34:07

 広げたままで皺の寄った地図を綺麗に伸ばし、落ちた鉛筆を拾う。
 ここで増田は重大な過失に気付いた。
「あ……禁止エリア、どこやったっけ」
 増田は思考に捕らわれ過ぎて、禁止エリアの確認を怠っていた。遠くで聞いた放送を思い起こし
てみたが、よほど深く思慮に耽っていたみたいだ。その片鱗も思い出せなかった。
 そんな時、岡田が一言だけ口を挟んだ。
「J-5やて」
 一瞬ぼんやりとその顔を見るも、増田はすぐに視線を地図へと戻した。J-5エリアに印をする。
ここからすぐ北のエリアだった。
 増田は方角だけ確認すると、参加者名簿・地図・鉛筆をデイパックにしまい、すぐさま立ち上がっ
た。その時感じた筋肉痛に顔を顰めたが、この短時間に筋肉痛が出るという若さの証明を少しだ
け嬉しく思った。
「こっから移動すんで」
「なんでや」
「とりあえず禁止エリアから離れんと」
「……なんて?」
「禁止エリアから離れんねん」
「……あ?」
「どこの年寄りや、補聴器付けんかい」
「花の働き盛りに何て事言うねん」
 増田はまたもため息を吐き、再び地図を取り出した。その地図を岡田の顔の前に広げ、捲くし
立てるように説明する。


294 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:40:34

「今から3時間後に、こっからすぐ北のエリア、ここが禁止エリアになんねん。このエリアに居る
モンが死なんよう違うエリアに移るやろ? こない近くに居ったら、そういう芸人と鉢合わせにな
るかもしれん。相手が殺す側の人間やったら危ないやんか。せやからこっから離れんと」
「おお、なるほど」
「ちっとは自分で考えろや」
「バトルロワイアルと笑いは苦手です」
「いらん事言うな。ほら、立たんかい」
「もうちょっとここに居ったら「アカン」
「あ、そうですか」
 一瞬の抵抗もむなしく、渋々といった様子で岡田は重い腰を上げた。生きたいという意志は、岡
田にもあるのだろうか。そして本当にここに、自分が求める理想はあるのか。増田は遠くを見つめ、
見えない近い未来を探した。


 太陽は既に強い光を放ち、気温の上昇は恐ろしく早い。明るくなったこの時間帯に見通しのいい
海沿いを歩いていくのは、ある意味賭けだった。海が運ぶ微弱な風がつい癖になってしまい、林の
中へ入っていくのが躊躇われるのだ。増田は意味もなく薄い雲を見つめ、岡田の少し前を歩いて
いた。
 歩きながら、増田は今後の身の振り方について改めて真剣に考えた。しかしいくら考えてもまと
まらず、結局はこうして逃げている自分に腹を立てるだけだった。
 キリのない思考に蹴りをつけたいと思いはしたが、特に答えを望んでいたのではない。ただの自
分への問いかけであり、少しだけ脳を休めたいという思惑もあった。そのつもりで、ぼやいたはず
だった。


295 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:42:53

「何のために生きてんのやろな」
 こんな思いをしてまで、なぜ生きようとするのか。
「今まで生きてきたんは何やったんやろ」
 未来があるから、生きていたのではないのか。
「意味なかったんやろな。俺がやってきた事なんて」
 これまで抱えてきた小さな拘りなんて、バトルロワイアルの前では石ころ同然だ。漫才にかけて
きた情熱も、反対勢力として費やした日々も、何もかも握り潰されてしまう。
 人生の答えなんて無いのかもしれない。理想が何なのかすら、今では全く分からないのだから。
「間違うてたんやな。俺はいっつも」
 自分でも女々しい言葉だと思った。この満たされない思いは、抽象的過ぎる。
 生温い風が吹き抜けた。こんな不快な風を感じるために、自分は生きてきたのか。
 声に出してみて思う。やはり愚痴るのは間違いだった。改めて口にしてみると、行き場のないそ
の感情が余計混迷していくのがわかる。この迷路に出口はない。そう気付いた瞬間、増田は前を
向くのを止め俯いた。
 しかし長い沈黙の後に、その声は届いた。

「増田は間違うてない」

 それが唯一の希望だった。
 もしかしたらこの言葉を聞くために、ここに来たのかもしれない。
「無駄な事なんてないねんて」
 無駄な事なんてない。今こうして思い悩んでいる時間も、意味のある事なのか。このバトルロワ
イアルが終わって全てを失った後でも、そう思い続ける事が出来るのだろうか。それならば報われ
る。芸人としても、一人の人間としても、そう信じていいのだろうか。
 見上げた空があまりにも平和そうで、増田はほんの少し肩の力を抜いた。
 自分自身を否定し続ける孤独な時間は通り過ぎた。正しい事の証明は、岡田一人で充分だった。


296 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:45:01

 長すぎるトンネルを抜けた。その先にはきっと、探し求める理想があるのだろう。真っ白な雲に語
りかけた。天から伸びる光が肯定しているようで、胸を締めつけた。
 今きっと情けない顔をしているだろう。増田は思わず歩くペースを速めた。そして滲んできた視界
を誤魔化すように、思い付きの言葉で会話を繋げる。
「そんな事より自分、禁止エリアの把握くらいちゃんとせえ。アホみたいな死に方すんで」
 死ぬな、という意味もその言葉に含めていた。
 それなのに、岡田はこんな時に限って真面目に答えるのだ。適当に流してくれた方がどれだけよ
かった事か。
「せやけど」
「ん?」
「どこに居っても死ぬ時は死ぬやろ」
 そう言った岡田の見ている近い未来は、生ではなく死なのだろうか。返す言葉もなく黙っている
と、更に岡田は続けた。
「みんな半分死んだようなもんや」
 どんな顔してその台詞を言ったのか、気にはなったが振り返る事は出来なかった。声のトーンで
わかる、冷静な真顔が脳裏に浮かんだ。
 確かにその通りだと思った。この地に立ったその瞬間、犠牲にしたものはあまりにも大きくて多す
ぎた。しかし岡田からその言葉を聞きたくなかったというのが正直なところであり、増田はそれ以上
会話を続けるのを諦めた。

 波が大きく揺れる。
 太陽が海面を明るく照らす。
 空は勿論晴れ渡っている。
 穏やかな景色であるはずなのに心の奥底で燻る小さな火種が少しずつ広がっているようで、沸き
上がる不安を拭う事は出来なかった。


297 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/03(水) 00:47:11

【ますだおかだ 増田英彦】
所持品:ルガーP08 9mmパラベラム弾(8/8) ・控え弾丸(16)
第一行動方針:禁止エリアから離れる
基本行動方針:最高の理想を見出す
最終行動方針:理想を現実にする

【ますだおかだ 岡田圭右】
所持品: ブラインド
第一行動方針:とりあえず増田についていく
基本行動方針:カメラに向かって一発ギャグ
最終行動方針:何も求めない

【現在位置:K5 海辺】
【8/16 06:50】
【投下番号:277】


298 :名無し草:2007/10/03(水) 19:53:34
>>296
投下乙です!増田の静かな迷走が切ない…。
そして岡田が何だかカコイイ。今までとのギャップがw
2人の行く末、楽しみです。

299 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/03(水) 22:06:37
お久しぶりです。まとめサイト159話(◆a6395KBpd2さん執筆)のつづきで、つぶやきシローの話いきます。


つぶやきシローはよろよろとした足どりで森を進んでいく。中空でもがき彷徨う手。
背中と脇腹からひっきりなしに噴き出す血が、彼の歩いた後を示すように点々と落ちていた。
もはや彼の命の時間はほとんど残っていない。もうすぐ天からの迎えがやってくるに違いなかった。
流れ落ちる涙と鼻水がつぶやきの顔を濡らしている。見苦しい姿を晒して彼は、それでも残った生にしがみつく。

少しばかり前、彼は森の中で出会った中川を巻き添えにして、刹那的に全部を終わりにしようとした。
世界の全てに怯えねばならないなら、何もかもが怖いなら、誰かを道連れにして死ぬ方がマシだと思ったからだ。
が、結局藤森に矢で撃たれ、首を絞めて反撃したもののドライバーで刺され、命からがらその場から逃げ出したのだった。
脇腹にはまだドライバーが突き立てられたままで、その緑の柄はまるで玩具のネジを巻くつまみのように見える。
もっとも、本当にそのつまみをひねりあげてネジを巻こうとすれば、すぐさまつぶやきは命を失うだろう。
すでに、その歩みは止まりかけのネジ式玩具のように頼りない。ジジ…と鈍くなっていくゼンマイの音とともに止まるあの玩具。
つぶやきもそれに似た、ジ…ジ…という断続的な音を聞いていた。森に鳴く蝉の声がとぎれとぎれに彼の耳を犯しているのだ。
降り注ぐその鳴き声と、近くを流れる川の音がいつしか混じりあい、つぶやきの耳の奥でグワグワと歪みながら響きだす。
地獄の底から聞こえてくる歌声のような、いびつなその音に怯えながら、それでも彼は足を前へと出していた。

 …こ、こわい、こわ、い、な。

藤森からは何とか逃れたものの、独りになればまた、独りであることが彼を苛む。
傷ついた身体で歩く森の道は心細く、一度は終わろうとしたにも関わらず、彼はすり寄ってくる死にひどく怯えた。
孤独で痛々しく、どうにも辛い死は、彼のすぐそばまでやってきていた。今にも冷たい鎌で首を落とそうとしている。
追いかけてくる死の血腥い匂いに呼吸を奪われながら、それでもつぶやきは力の限りもがいていた。
死にたくなかった。これほどまでに死が近づいた今、彼の願いはただ、その恐ろしいものからの逃避だけだった。


300 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/03(水) 22:08:08

 …あ、ああ、さ、さむ、い。

血液が流れすぎた身体は、体温を静かに失いつつあった。この暑い夏のさなか、つぶやきは寒さを覚える。
危険な状態だった。彼がとてつもなく深く、暗く、黒いものに攫われる瞬間は刻々と近づいている。
そのとき、のどの奥からせり上がってくる何かを感じて、つぶやきは首の皮を掻きむしった。

 …な、なんか、の、ど…!

急にひどく咳きこんだ彼は、ごぼり、と口から真っ赤な血を吐き、体勢を崩した。
容赦のない闇が、ついにつぶやきの背中をとらえる。終末へのカウントダウンはもう、始まってしまった。
彼は地面に両膝をつく。膝から上は硬直しているのか、まっすぐ伸ばされたままで、奇妙にゆらゆらと揺れている。

 …あ、ひ…ひか、り…。

痛ましい死への下り坂を転げ落ちる姿を哀れんだのだろうか、死神の偽りの優しさに満ちた手が彼の目を塞いだ。
それは柔らかく幸せな幻覚をつぶやきに与える。曇天を透かす陽光のような、淡い光を彼は見ていた。

 …き、れい。

彼の脳裡を占めるのはもはや怯えや恐怖ではなかった。遠くから聞こえてくる、明るい笑い声。
どこかで聞いた、いや、何度も聞いたあの声が、とても楽しそうに笑っている。
近くなる声。続くとりとめのない会話。ごく当たり前の、だが光に満ちた、二度と返らぬ日常の光景が、彼の前に広がる。


301 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/03(水) 22:11:15

『…ハハ、ったく、お前はまた、足の裏みてーな顔しやがって』
『アハ、何かもう、ボクの顔足の裏ってゆうの、もう、あれですネ、恒例にネ、なってますよネ』
『お前アレだろ、ギャグだと思ってんだろ、お前、ほんとに足の裏みてーな面してっからな』
『えぇ、えー、そうですか?』
『そーだよ、このアレだ、カカトんとことか、アゴそっくりだかんな、なあ大竹』
『おー、ほら、ここんとこ、ちょっとヒゲはやしたらアレだ、お前だかんな』

彼が最後に見たのは、誰より可愛がってくれた先輩コンビとの、幾度となく繰り返された戯れだった。
楽屋、車、飲み屋、時にはラジオのブース、舞台、カメラの前。彼らは何度も何度もこんな会話をした。まるで子供のように。
その命の尽きるとき、つぶやきシローは、そのたわいもないやりとりを追体験して、回らぬ舌で呟いた。

「…ア、ハ…、ちょ…、とぉ、お、たけ、さ…、足、机、あげ、な、で、くだ、さ…よ、し、かも、裸足、て、ぇ…」

彼の手が、宙で何かをつかもうとする。しかしそれは何もつかむことなく、一瞬びくりと硬直したあと、静かに力を失った。
刹那、つぶやきの身体は小刻みに揺れ、そしてとてもゆっくりと前方に倒れ伏し、全ての活動を止める。

…それが、つぶやきシローこと、永塚勤の最期だった。



【つぶやきシロー(永塚勤) 死亡】
【8/16 0:12】
現在位置:森の中(G5の北、川の近く)


302 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/03(水) 22:12:52
投下番号は278です。失礼しました。

303 :名無し草:2007/10/06(土) 23:34:41
ほしゅ

304 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:45:13
ダブルブッキング編 まとめサイト260の続き

『再びのふたり』


よろめく脚で辛うじて立ち上がり、先を進む川元に何とか追いすがった。

しかし近付いてすぐ背中越しに「あいつのデイパックも取って来て下さい」と呟くのが微かに聞こえ、慌てて言われるままに踵を返した。
声は聞き取り難い程小さくトーンも低い。その心を計る手段としては余りに心許ない。
それでも指示内容は極めて冷静なもので、磯山を殺した際の自分と比べ全く取り乱した様子を見せない相方に内心舌を巻く。
死体から目を逸らしつつ、持ち主のなくなった、大分重量の減っているデイパックを素早く掴み取り、来た方角へ戻ると
川元はその場に止まって黒田を待っていた。一切こちらを向かず、先刻の一言の他は何も口にしない。
気配を察知したのか、川元は再び歩き始める。黒田も黙ったままその後に続いた。

草を踏む音が妙に耳に付く。
俯いた視線の先にあるのは、単調に続く深い緑色だけ。

とっくに南中時刻は過ぎたが真夏の太陽はまだ高く、木漏れ日が森の中に熱を誘う。汗が止め処なく流れた。
前を行く川元の横面をそっと伺うと、水を浴びたように濡れた頬には相変わらず色がなく、
それを見るとまた不安が掻き立てられ、何とか捻り出したいと考える言葉のきっかけも全て失われてしまうのだった

305 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:47:11
黒田の心を知ってか知らずか、長く続いた沈黙を破ったのは川元の方だった。ぼそぼそとした、普段通りの声音で。
「……何となく、ああなるんじゃないかって思ったんです」
前置きもなく急に本論に入った彼に黒田は意味もなく焦りを覚えながら、絡まる思考が解けないままに返す。
「え、ああなるんじゃないかって…?」
「…何もなさそうな奴が、急に人を襲い出したりするんじゃないかって。まあ、気付いたのは川へ行き始めてから大分後ですけどね」
「ぇえあ、そうなんです。本当急に襲い掛かられて、どうしてだったのか俺には全然分からなくて…」
先の状況に当てはまり過ぎた発言に驚いたあまり、語頭が少し裏返る。
「どうしてかは分かりません。…相手も死んでしまったことですし」
トーンが一段低くなった。表情は未だ見えない。
「だけど、何となく考えてたのは、結局皆自分が大事で、参加者のほとんどは自分のためだけに行動しているだろうなってこと。
だから何かのきっかけで枷が外れたりしたら簡単に人を襲ったりするし、殺しだってすぐにやってのける…そうなんじゃないかと思うんです」
「…そ、な」
「確信はありませんでしたよ。結局元は1人になった不安から来た疑心暗鬼でしょうし。だけど放送…聞いたでしょう?」


306 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:48:30

黒田が漏れ出るような声で、ん、と返事をすると、川元は少し間を置いてから続けた。
「―あんなに人が死んでるんです。恐らくこれまでずっと同じペースで…や、段々早くなっているのかもしれませんが。
どちらにしろ、着実に殺されていってるんですよ。人を殺している奴がそれだけいるってこと」
「……それは、俺も思ってました。だから、それ途中で気付いてぶんちゃんのこと、心配で」
「だけど、自分と一緒にいたやつまでそうなるとは思ってなかったでしょう?」
出損なった言葉が詰まって、喉がぐっと鳴る。川元の発言は全く的を射ている。
実際に、黒田も川元と全く同じ心配をしながら、それに当てはまるのは『自分達には手の届かないところにいる者である』という認識を
無意識の内にしてしまっていた。現実逃避とも言えるだろう。
危険に遭う可能性があるという実感が足りないことで生じた油断。
「僕はそこに考えが至ったんです。だから川へ行くのをやめて戻って来た。その結果があれです。何よりの証拠になりました」
語気が段々と強くなっている。黒田が反論する暇も、そのし様もない。
「これまでも、磯山さんが僕を殺そうとしていたんでしょう。同じことです。元々知人同士だったとしても、そうなるんです。
まして面識のない奴なんか。一見したくらいじゃ、その後のことなんて測りようがない、だからこそ、さっきみたいなことになったんですよ。
……僕が戻ることがなければ、今頃あそこで倒れているのは黒田さんだったんです。死んでいたのは―」
不意に川元が足を止め、黒田は思わず前につんのめりそうになりながらも辛うじて停止する。


307 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:49:59

「黒田さん、この際だから改めて訊きます。黒田さんはこの先、どうしたいですか。
ああやって寄ってくる人を助けるお人好しを徹底するんですか。
そのせいでさっきみたいなことになって命を落とす羽目になるんだとしても。
それとも、最初に2人で話したことを……
―僕らで生きていくことを選ぶんですか。その代わり、他の誰のことも気に掛けずに…」
投げ掛けられる言葉は、いつもの川元の口調らしからぬ強さを持って響く。
「僕は…、僕だけの考えですが、前者を選ぶのは嫌です。
他人なんか信じてたらとても生きていけないです。さっきみたいなことになんて絶対なりたくないですから。
それにね、それに正直他人のことなんて、どうでもいいと思ってるんですよ。どうなろうが自分には関係ないって。
まぁそれが僕なりの、自分ことだけ考えたところ、って言えるんでしょうけど。
…黒田さんは違うんでしょうけどね。だからどうしてもさっきのようにしたいのなら、僕を突き放したらいいです。
ただ僕にとっては自分達以外の人間のことなんて考える内にも入らないんですよ、僕は、 僕は…」

一旦言葉を切る。次の句を継ぐべきかどうか、迷っているらしい。
遠くで、蝉がけたたましく鳴きながら飛んで行くのが聞こえた。


「―コンビで生きていたいんです」


黒田はただひたすらに、川元の心なしか落ちた肩を見つめていた。


308 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:51:04

「…僕は最初、早く誰かに殺されてここから抜け出したいと思っていました。でも黒田さんが来て、死に損なって。
それから全然死ぬ気になれないんですよ。1度助かったことで、まだ生きていたいと思ってしまってる。
でもそれはまず無理じゃないですか、現実的な話として。たった1人しか生き残れないルールの中で、ずっと生きていられるわけがない」

“生きていられるわけがない”
―最初に突き付けられながら目を向けることを避けていたその事実が黒田の心に焦げ付く。

「だけど、僕は出来る長く限り『芸人として』この世にいたいんです。もう先が長くないのならせめてそのくらいは全うしたいじゃないですか。
何しろお笑いしかやれることがない、他に何の取り柄もない人間でしたからね。
……芸人でいるには、どうしてもコンビでいなきゃいけないんです。コンビじゃないと僕が作ったネタは出来ないから。
だからコンビで生きていたいって思って。他人のことなんてどうでもよくて。それで、黒田さんに死なれたら困るんです。
自分だけいても、黒田さんがいないと意味がないんですよ。今まで8年間ずっとそうだったみたいに。
僕は、これから死ぬまで出来るだけ長い間コンビで、『ダブルブッキング』でいたいんです」

本来口数の少ない川元が饒舌なまでに話すのを、黒田はどこかぼんやりとした気持ちで聞いていた。
思考の糸はめちゃくちゃに絡まったまま、頭の中に不気味に横たわっている。
何か答えなければと、思ってはいる。それでも、上手く言うことがまとまらないのだ。
仕方なく、沈黙を保ち続ける。


309 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:52:16

川元が首だけで少し振り向いた。
苦笑のようにも見える癖の有る笑みを、柔らかく浮かべて、
「分からないか」
ぽつりと言った。
開け放して乾き切った相方の口が動かないのを見て取ると、再び前に向き直り、
「出来たら、考えて下さい」
付け加えるように呟いてから、再び歩き出した。
返答を急かされなかったことに内心ほっとしながら、黒田もまたそれに続いて行った。

方位磁針の示しだけが頼りの、人を幻惑するような森の中で、
相方と自分だけが存在する時間はどうしてか夢の中の出来事のように、黒田には感じられた。


結局川辺に戻ってきたのは、1人でも3人でもなく、ふたりだった。

水面に小さく光が反射し、ゆらゆら揺れる。優しげな流れだけは凄惨な時間がどれだけ過ぎても全く変わることはない。


310 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:55:49

( … )


「―ぶんちゃん」
畔まで真っ直ぐ歩いて行こうとする相方に声を掛ける。やっと捻り出せた声は若干嗄れていた。
怪訝そうな顔で振り向く彼にいきなり自分の持っていたデイパックを手渡す。
「ちょっとここで待っといてもらえませんか。俺ちょっと1人で考えたいんです、さっきの返事のこと。
今ちょっとまだ考えがまとまんなくて、これじゃちゃんと思ったこと言えないから。帰ったら、ちゃんと話をしましょう。
だからそれまで、しばらくでいいんでここで隠れてて下さい。絶対帰ってきますから、絶対に」
川元の眉間が歪む。
「また何かあったらどうするんですか。もう1人にならない方がいいです、ここで考えるんじゃ駄目なんですか」
「どうしても1人がいいんです、済みません。絶対に大丈夫ですから…あ、拳銃は持って行きますし」
「どうしてまた……」
「信じて下さいよ」
口をへの字に曲げた川元に向かって底抜けに明るい笑顔を作り、肩を軽く叩いた。
よく機嫌を損ねた相方に対し、半ばふざけながらそうしていたように。
「そんな顔しないで!ね!ちょっとの間ですから!」
「だけど……」
「ぶんちゃんはちゃんと誰にも見つからないように隠れてて下さいね!夜までにはきっと帰ってきますから、それまで待っててね!」
極力いつも通りの明快さを保とうと懸命になっていた。それで相手が安心してくれるわけでもないのに。


311 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/06(土) 23:58:01

「…心配掛けてごめんね」
去り際に呟き、拳銃と僅かな銃弾だけを携えて再び森の奥の方を向いた。
振り返り様の一瞬の表情が川元の目に焼き付く。
笑いながらも、どこか哀しそうな、寂しそうな、崩れてしまいそうな儚さが確かに湛えられていて、
しかし何故か、何となくそれ以上止めることが出来ずに、
自分から離れ、少しずつ見えなくなっていく後姿を呆然と眺めていた。


或る予感がある。胸に纏わり付くような、重苦しい予感。
去り行く彼がもう、二度と戻って来ないような気がして。



―その予感は、   …



312 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/07(日) 00:00:07

【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:ワルサーPPK(5/7)、控え銃弾(5発)
第一行動方針:考える
基本行動方針:考える
最終行動方針:未定

【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:眼鏡、陸上競技用スターター、紙雷管、+デイパック2個
第一行動方針:相方の帰りを待つ
基本行動方針:相方と最大限生き残る
最終行動方針:未定

【現在位置:森・川辺(F5)】
【8/16 17:07】
【投下番号:279】


>>302
新作乙です。つぶやき遂に来た!
孤独な最期がひたすら哀しい。


313 :名無し草:2007/10/07(日) 11:36:35
「ぶんちゃん」「黒田さん」と呼んでるのにお互い敬語という不思議さに
和みつつ、「コンビで生きていたい」という一言に泣きそうになり、
黒田さん無事に戻ってきてね、と祈った。

川元のいやな予感が杞憂であってほしい。

314 :名無し草:2007/10/07(日) 13:22:00
>>302
乙です。
つぶやき…
そんなに好きな芸人さんじゃなかったけど悲しい。
死ぬ瞬間が酷いものじゃなくてよかった。


315 :◇8wwdPoYeY2さん代理:2007/10/08(月) 00:22:27
【陣内・小林編 第1話】
8月16日、午前9時のこと。

「・・・何や、これ・・・」

無残な姿で転がっている、後輩のレギュラー・松本の死体を見て、
思わずその場に蹲るのは、吉本一の紳士と言われるケンドーコバヤシだ。
「松本・・・なあ、答えろや! なあ!」
死後何時間と経過しているであろう松本は、何度揺さぶっても返事をしない。
冷たくなった身体は何も返すことなく、ただそこに横たわっているだけだった。
「お前奥さん居るんやろ!? 奥さんのためにも、生きて帰らんとあかんがな!!
 起きろや・・・!! なあ、起きろって・・・、松本っ!!」
大声で呼べば、『人が寝てるのに、邪魔しないで下さいよ』と言って、また起きてくる。
これは彼の演技だ。自分たちを心配させるための・・・。
「死んだふりなんてしても無駄や。俺には分かってるんやから」
頼むから、頼むから起きてくれ!
目を覚まして『心配させてすみません。本当は生きてます。今のは周りを騙すための演技です』と、そう言ってくれ!
それだけを強く願って、20分近く声をかけ続けたのだが―――、



松本は目を固く閉じたまま、小林の呼びかけに応えることも、動くこともなかった。

316 :◇8wwdPoYeY2さん代理:2007/10/08(月) 00:24:42
「嘘や・・・・・・こんなん絶対に嘘や!!!!」
受け入れられない心と、これが現実だと囁く心が葛藤を起こす。
小林は現実から逃れようと、これは嘘だと言い聞かせ続けるが、現実は変わらなかった。
松本は紛れもなくそこで『死んで』いて、口や足には死因となったであろう火傷の痕が残っている。
目を背けたくなるほど、悲惨なその姿、形・・・。
それを見ているうちに、小林は次第に自分を見失っていき、理性までも失ってしまった。
ずっと人を殺さない、みんなで集まって逃げると強く誓ったはずなのに、
理性を失った心は『参加者全員を殺してしまえ』と、小さな声で小林に告げる。
それに逆らう術は残っておらず、小林は、自らの欲望の赴くままに
参加者を殺す以外の手段は、考えられないほどに追い詰められていた。

自らの武器を誰にも分からないよう鞄に隠すと、
敵の居るであろう場所に向かって、静かに歩き始めた。
その目には以前までの優しさはなく、憎しみや哀しみの入り混じった狂気だけがあるのだった――。

317 :◇8wwdPoYeY2さん代理:2007/10/08(月) 00:27:48
その頃、小林の唯一無二の相棒・陣内はというと・・・、

「お前ら、兵士に会ったんよね?」
「会ったには、会ったんですけどね・・・」
兵士に会ったという品川庄司の2人と合流して、彼らから兵士の話を聞いている真っ最中であった。
陣内は別に兵士に用事があるわけでもないが、どうも見覚えのある人間が居る気がして、
15日の出発以降、ずっと彼らのことが気になっていたのだ。
そこで、偶然近くを通りかかり、尚且つ兵士を見たと言う品川庄司から
兵士に関する話を聞きだしていたのである。
「で、兵士の正体は分かったん?」
「兵士の正体は芸人です。この目で見て確かめました」
品川の言葉を聞いて、『やっぱりそうだったのか』と、陣内は衝撃を受けた。
ある程度の覚悟は出来ていたが、やはりショックは隠せない。
庄司はあまりこのことには触れたくないのか、膝を抱えて拒絶するかのような態度を取っている。
陣内はそんな彼を気遣って、それ以上のことは聞かなかった。
「そっか。ありがとな、教えてくれて」
兵士の正体は芸人である―――そうと分かれば、話は早い。
彼らだって鬼ではないのだから、こっちが一生懸命説得をすれば、動いてくれるはずだ。
「俺、兵士を説得してくるわ。直ぐに戻るから、ここで待っといて!」
「ええっ!? 陣内さん、ちょっと・・・」
「大丈夫やて。俺はそう簡単に死なんから!」
「そういう問題じゃなくて・・・・・・あっ!」
殺される可能性があるから、止めてくれと言おうとしたのだが、
陣内は品川の言葉を聞こうともせず、そのまま奥へと進んでいった。
「(やばい・・・。このままだと、陣内さんが・・・! でも、庄司を置いていけないし)」
品川は陣内を追いかけるべきか、庄司を見ておくべきが悩んだ。
ポテト少年団3人の様子を見ていると、兵士は参加者とあまり話せないと思われる。
もし説得などしようものなら、殺されてしまうのは間違いない。しかし、庄司の容態も心配である。

陣内を追いかけて連れ戻すか、庄司の容態を見張っておくか・・・。
人生最大の決断となろう選択に、品川はずっと頭を悩ませることになってしまった――。

318 :◇8wwdPoYeY2さん代理:2007/10/08(月) 00:29:13
【ケンドーコバヤシ(小林友治)】
所持品:現時点では不明。
状態:生存。精神狂乱状態。
第一行動方針:見境なく人を殺していく。
基本行動方針:生存最優先。そのためなら人を利用しても良い。
最終行動方針:優勝狙い。
【現在位置:森(D8付近)】

【品川庄司 品川祐】
所持品:折りたたみ式釣り竿(餌) 、刺身包丁。
状況:生存。
第一行動方針:考え中。
基本行動方針:人はむやみに殺さない。
最終行動方針:ゲームの停止。
【品川庄司 庄司智春】
所持品:防弾チョッキ、フリスク。
状況:生存。精神状態悪。
第一行動方針:???
基本行動方針:人はむやみに殺さない?
最終行動方針:ゲームの停止。

319 :◇8wwdPoYeY2さん代理:2007/10/08(月) 00:32:13
【陣内智則】
所持品:支給品、ゲーム機本体(形状不明/武器)
状態:生存。
第一行動方針:芸人兵士を説得する。
基本行動方針:一人でも多くの仲間を集める。
最終行動方針:みんなで東京へ帰りたい。
【現在位置:森(E9付近)】
【8/16 9:00】
【投下番号:280】


>投下番号:278
つぶやきさんが切なすぎる・・・!
大竹さんや三村さんが彼が死んだことを知ったとき、どう感じるのかが気になります。

>投下番号:279
仲良くなるとタメ口となる芸人さんが多いので、敬語と言うのは逆に新鮮ですね。
黒田さんには無事に帰ってきてほしいですが・・・。

320 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/10/09(火) 01:00:30
連続投下になってしまいますが、明日から11月上旬頃までパソコンに触れないので、投下させて頂きます。
>>270-274の続き。升野・安田編。


「安田のさっきの言葉面白かったわー。『長田ぁ、マジで助けてくれ〜』って」
「その話、長田の前では絶対にしないでくださいよ」
「俺、口が軽いからなぁ〜。長田にはしっかり伝えさせてもらうわ」
陣内たちと合流してから、1時間ほど経過した。
安田は升野が気絶している時に行った、相方への発言を小林にからかわれており、
今までの強がりは何処へやら、すっかり半泣きに近い状態となっていた。
そのあまりにも情けない安田の姿に、升野は腹を抱えて笑い出してしまい、
陣内も笑うのを必死に堪えているありさまだった。
「ちょっと、2人とも、笑わないで下さいっ!」
「だって、お前半泣き・・・・・・あはははっ、おかしすぎる・・・腹痛い」
升野の大笑いには流石の安田も傷ついたらしく、『もう勝手にしてください!』と怒鳴り散らすと、
自分のバックを升野に投げつけて、足を引き摺りながら何処かへ行ってしまった。
「あ・・・、おい、安田・・・」
「仕方ない奴やな、冗談やってのに。直ぐに本気にするのが、あいつの悪い癖や」
小林は呆れ返ったように言うと、安田の消えた方を見つめて舌打ちをした。



321 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/10/09(火) 01:02:00
そして、升野と陣内に先にH8へ向かうようにだけ告げ、
小林自身も安田の後を追いかけるように森の奥へと消えていった。
「あっ、コバ、待って!」
陣内は追いかけようとしたが、升野がそれを止めた。
「陣内、焦るな。近くに禁止エリアがあるから、下手に動かない方が良い。
ここは小林に従って、俺らはH8エリアへ行こう」
「禁止エリア!? ・・・って、何?」
「入ったらこれが爆発して、首がぶっ飛ぶエリアのこと。
昨日の午後9時からG8が禁止エリアだから・・・・・・」
実際は、G8は禁止エリアではない。
しかし、小林と安田だけではなく、陣内にまで下手に動かれては困るため、
升野はあえてG8は禁止エリアであると嘘を吐いた。
陣内はその嘘を鵜呑みにしてしまったようで、『やばい、どうしよう』と慌てふためいている。
「だから慌てるなって。俺がちゃんと禁止エリアを避けて案内するから」
升野の言葉に、陣内は『お願いします』と涙声で呟いて、彼の後をついていくしかなかった。



その頃、安田はとある地点で一人、膝を抱えてしゃがみ込んでいた。
「小林さんの意地悪。俺がどんな気持ちで・・・・・・」
先ほどから口をついて出るのは、小林への悪口ばかり。
悪口しか言えない自分に苛立ちを覚えたが、それよりもショックの方が大きかった。
『俺、口が軽いからなぁ〜。長田にはしっかり伝えさせてもらうわ』
『(この分からずや芸人め・・・!!)』
小林が長田に助けを求めたあの発言を、長田本人に告げると言ったとき、
長年必死で隠し続けたことを、全て曝されてしまいそうな予感がして・・・。
それに言い知れぬ恐怖を覚えてしまい、仲間の輪から外れてしまった。
おまけに離れる直前に、升野目掛けて本気で怒鳴っているので、
再び戻りたいと思っていても、なかなか戻りにくい状況に置かれていた。
「はぁ・・・。これから俺、どうしたらええんやろ・・・」
とことんネガティブな性格のためか、一度落ち込んだ思考はそう簡単に元へは戻らない。
安田は全ての物事に嫌気を覚えたようで、膝を抱えたまま動かなくなった。

322 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/10/09(火) 01:04:44
「もうええわ。長田探さずにここで死んでしまおう。
 あいつに相応しい相手は、いくらでも居るんやから・・・」
ポツリと小さく呟いて、膝に顔を埋める安田。
その姿はかなり痛々しいものだったが、バトルロワイアルと言う戦いの中では、
『死にたい』と言った弱気な発言、及び態度は、
ゲームに乗った参加者に殺される危険があるため、基本的には厳禁な筈だった。
だが・・・・・・、安田は精神的に弱っていたために、うっかりその言葉を放ってしまった。

我に返って後悔した時には既に遅く、慌ててその場から逃げようと頭を上げた時には
迷彩服に身を包んで武器を構えている男が、冷たい表情を浮かべながら立っていたのだ。
安田は背筋に寒気が走るのを感じて、急いでその場から逃げようとした。
男はライフルを構えると、安田が逃げられないように何発か発射した。
間一髪のところでそれを避けたが、捻挫による傷が邪魔をして、思うように動けない。
ふらつきながら逃げ惑う安田に、男は信じられない一言を発した。
「りあるキッズ・安田を確保、殺害する・・・」
聞き覚えのある低い声が耳についたと思う間もなく、男はライフルを安田の頭目掛けて振りかざした。
金属が頭に落ちる音がしたかと思うと、安田は急激に意識が薄れていくのを感じた。
そう。まるで、升野に最初に捕まった時みたいに・・・。

323 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/10/09(火) 01:05:59
「な・・・・・・が、た・・・・・・」
安田はついに意識を失い、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。
男はこみ上げてくる笑いを堪えながら、意識のない安田を抱きかかえて、
森と海の2つのエリアを持っている、I8の方へ向かって歩き出した。
海はスタート時からの禁止エリアのため、そこへ安田を投げることで首輪を爆発させ、
そして殺そうという考え方のようだ。
「普通なら悲鳴を聞きたいから、そのまま連れていくんだけど・・・
 お前は早く捕まってくれたし、お礼に痛みを感じないようにして殺してやるよ」
くくっ・・・と咽喉から絞り出すような笑い声を出すと、男は軽やかな足取りで走り出し、
その場からあっという間に消え去っていた。



安田が謎の男に捕らえられ、間もなく殺されるという危機的状況の中で、
陣内と升野はH8エリアとの境目までやってきていた。
あまり遠くへ行ってしまうと、小林たちが道に迷う可能性があるので、
升野はここで一旦休憩を取ろう、と陣内に言った。
「――陣内、ここで休もう。安田と小林を待たなきゃいけないし」
「そうやね・・・・・・じゃあ、ちょっと失礼して・・・」
陣内がその場に腰を下ろし、手足を思いっきり伸ばした。
升野は周囲の様子を窺いながら、小林たちの帰りを待っていた・・・のだが、
10数分待って帰ってきたのは、腕に重度の傷を負った小林、ただ1人だけだった。
安田の姿は何処にもなく、また彼と一緒に行動した痕さえも、
ぼんやりと立ち尽くしている小林には残っていなかった。
「コバ、無事でよかった!! ・・・安田は?」
きょろきょろと辺りを見回す陣内に、小林は震える声で告げた。

324 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/10/09(火) 01:07:21


「―――殺されんよ、俺の目の前で。迷彩服の男に・・・」


「え・・・・・・?」

やっとのことでそれだけ言うと、小林の目から涙が零れた。
陣内は笑顔のまま固まり、升野も信じられないという表情で、小林の側にやってくる。
「おい、それどう言うことだよ・・・嘘だろ、小林・・・」
「嘘やない! ホンマやねん! 俺の目の前で血を流して、倒れてそのまま・・・っ」
そこで彼は泣き崩れてしまい、それ以上は何も言えない状態だった。
2人は信じたくない、受け入れられないといった様子だったが、
泣きじゃくっている小林の姿や、彼の腕から流れ続ける血を見て、
『これは現実なのだ。もう安田は居ないのだ』と言う現実を、受け入れざるを得なくなった。
升野は悔しさを隠せない表情で、じっと小林のきた方向を見つめた。
「本当に死んだのなら、長田って子にそれを伝えないとね」
「でも・・・長田が何処に居るかなんて、俺ら分からんで? どうするん?」
陣内が不安そうに問いかけると、升野は全く問題ないと言いたげな顔で2人の腕を引っ張った。
「俺について来いよ。適当なエリアをあたっていけば、いずれ見つかるさ。
 迷彩服の馬鹿どもは俺が殺してやるから、お前らは俺から離れるな」
あまりにも無責任な発言だったが、今は彼に従うしかない。
陣内も小林も強く頷くと、升野の指示に従い、彼から離れないように歩き続けた――。

325 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/10/09(火) 01:08:37
【バカリズム 升野英知】
所持品:短剣2本。他は支給品以外、不明。
状態:生存。
第一行動方針:(表面上)長田を探して、安田の死を告げる。
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバック、水(支給品)・消毒液、ハンカチ(私物)。
状態:???
第一行動方針:
基本行動方針:(升野に従いながら、長田を探し合流したい)
最終行動方針:(生き残って、みんなと一緒に舞台に立ちたい)
【陣内智則】
所持品:支給品、ゲーム機本体(形状不明/武器)
状態:生存。
第一行動方針:長田を探して、安田の死を告げる。
基本行動方針:一人でも多くの仲間を集める。
最終行動方針:みんなで東京へ帰りたい。
【ケンドーコバヤシ(小林友治)】
所持品:現時点では不明。
状態:生存。精神狂乱状態。
第一行動方針:安田の死を告げる?
基本行動方針:生存最優先。そのためなら人を利用しても良い。
最終行動方針:優勝狙い。
【現在位置:林(H8〜I8付近)】
【8/16 15:10〜15:30】
【投下番号:281】

326 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:34:39
>>150-163続きです。  爆笑問題太田・インパルス板倉


『THE DEVIL&MONSTER』


暗い闇の中、一つの影があった。それは悪魔だった。
悪魔は悪戯好きだった。そして孤独だった。悪魔は長い間ずっと誰にも会えずにいた。
最後に人と会ったのはいつだったか。そいつにはどんな悪戯をしたか。
その前は。そのまた前は。どんな悪戯をしたのだったか。
そしてそのたびに、どんな反応をされたのだったか。
思い出せない。考えても仕方がなかった。
だから悪魔は踊っていた。一人で踊り続けていた。
踊りながら、悪魔は考えていた。
どうして誰も来てくれないのだろうか。寂しい。淋しい。
自分が悪戯をしたせいなのだろうか。自分はただ、みんなと仲良くなりたかっただけなのに。
サビシイ。誰カニ会イタイ。独リハ嫌ダ。

そんな中、突然闇が薄くなり、白い像がぼわ、と浮かび上がった。
像の正体は人間だった。それは踊り子の姿をしていた。
悪魔は悪戯をしてやろうと思った。今度はどんな悪戯をしてやろうか。
悪戯をしたら、今度こそ自分を好きになってくれるだろうか。
悪魔がゆっくりと踊り子に近寄り、悪戯をしようと、指を動かそうとする。
だが、そんな悪魔の手を優しく掴むと、踊り子はこう言った。

“一緒に、踊りましょう”

悪魔は目を瞬かせた。こんな自分に、そんな事を持ちかけてくる人間がいるなんて。
この踊り子は何なんだ? どうしてこんなにも優しいのだろうか?
やがて、何処とも知れぬ空間から優雅なクラシックが流れ始める。
とりあえず踊ろう。悪魔はそう思った。
二人で踊れば、きっと何かが分かる筈だ。

327 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:35:39
        ■     ■     ■


「おいこらテメエ、本当にこの道で合ってんだろうな」

奇妙なまでに揺れ動く森の中、私は悪態じみた疑問を板倉にぶつけた。
板倉と出会ってから一時間近くが経過したが、未だに奴の言う『殺した人間』に出会うことはなかった。
板倉は私の顔を見ると、目を見開き、大げさに耳に手を添えて、は? と聞き返してきた。
周りでがなりたてるひぐらしの煩さに得心が行く。そこで私は今度は微妙にニュアンスを変えて言ってやった。

「テメエ俺に嘘ついてんじゃねえだろうな」
「まさか、そんなわけないじゃないですか」

今度の板倉は即座にきっぱりと、馬鹿にするような口調で答えてきた。
テメエさっきのも本当は聞こえてただろ。そう言ってやりたい衝動に駆られる。
しかし私はしっかりと不快感を抑えた。こいつのペースに乗せられるわけにはいかない。
こんな奴に優位を、私の愉しみを明け渡すわけにはいかないのだ。

「ただちょっと、道に迷っただけですよ。そう、ほんのちょっとだけ、ね」

そう言うと板倉はまたふ、と笑った。
読めないな、と私は思った。
私は人間を見抜く能力には昔から自信があった。バカ発見器と呼ばれた事さえあったくらいだ。
その私でも、こいつの本心が読めない。こいつを測る事が出来ない。
砂浜に波が押し寄せるかのように、苛立ちが心に押し寄せる。
もういっその事さっさと撃ち殺してやろうか。
そんなもったいない、でも強ち冗談でもない衝動にとらわれそうになったその時。
すっと板倉が俯き、言う。

「おや……どうやらもうそろそろ放送の時間のようですね」

その言葉とほぼ同時に、この場において無駄に上等なクラシックのメロディが森閑に響き渡った。

328 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:37:44
『芸人の諸君、頑張って殺しあってるかな?』
「ほら、太田さん名簿とか出しときましょうよ。一応書いておいた方がいいですよ」
「んなこた分かってるよ。うるせえな」

クラシックが終わった直後、たけしさんの声に被せるようにご丁寧な忠告をしてくる板倉に対し私は吐き捨て、名簿等を取り出す。
地図も忘れてはなるまい。禁止エリアに侵入して死亡、なんて馬鹿な死に方をするつもりはさらさらない。
座り込むとともに流れてきた独特の東京弁が混じったハスキーボイスに、私は静かに耳を傾けた。
目の前にはたけしさんはいない。ただたけしさんの声のみが耳に届いてくる。
このシチュエーションに、私は再び思い出す。『ビートたけしのオールナイトニッポン』を。
もし万が一、私が死ぬような事があったら、たけしさんは言ってくれるだろうか。
『太田は風邪をこじらせて死にました』と。
そのようなふざけた考えを浮かべたりしながら、私は流れてくるたけしさんの声に昔を懐かしみ、少しだけ笑った。
恐らくこのプログラムの参加者の中で、この放送を聴いて笑っているのは自分くらいしかいないだろうなと思った。
だが、その考えはすぐに撤回される。
何故なら、私の目の前に座る男もまた薄笑いを浮かべていたのだから。
たけしさんはゆっくりと、死んでいった芸人の名を読み上げている。
読み上げられる名前はどれも異なっていたが、どの名前においてもこの男は薄笑いを崩さなかった。
例えどんなに親しい人間が死んだとしても変わり様がない、そんなイメージを抱かせる微笑だ。
そう感想を持ったその時、そいつの吊り上がった口が、不意に開かれた。

「おや、ところで太田さん、あれは何なんでしょうかね」

その言葉とともに板倉はあさっての方向に向かって指を向ける。
それに私はまた腹立たしさを覚えた。
まだ放送は終わっていない。余計なものに気を使っている余裕はない。
それでもわざわざ途中で話しかけてくるからにはそれ相応の理由があるのだろう。
私はそう判断して、板倉の指差す方向に向かい、顔を上げる。

顔を上げ、目をやったその先には何かが倒れていて。
何かの予感を感じ十分に目を凝らし、それが何なのかを理解すると、同時に。

『……次、174番、名倉潤』

329 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:38:46
たけしさんの声が頭の中に響いてきた。


倒れている物体の正体を認識してからも、私の手が止まる事はなかった。
たけしさんの放送が終わるまで、ずっとただ機械的に記入を続けていた。
放送が終わったその時、ようやく気づいた。
板倉が感情のない目で私の顔を覗き込み続けていた事に。
私は名簿等を片付け、立ち上がると、その物体の元へ歩み寄る。
その物体はよく見慣れた人間の筈だった。だが、湧き上がったのはただのジャメヴだった。
その人間は大きく目を剥いて虚空を睨んでいた。その東南アジア系の特徴的な顔立ちには、何故と言いたげな驚愕が浮かんでいた。
その人間はすでに血の気を失っていた。色黒だった顔は、既に蒼褪め始めていた。
その人間は胸に開いた穴から血を流していた。流れ出たワインレッドの血が、花のように広がっていた。

その人間は、紛れもなく名倉潤だった。


「太田さん。どうですか今の気分は?」

後ろからの声に振り返ると、いつの間にか相変わらずの薄笑いを貼りつけた板倉が立っていた。
ひぐらしの鳴き声が煩さを増した気がした。ひぐらしが私達を孤立に導いた、そんな感触がした。
私はゆっくりと板倉に振り向き、そして一言一言を押し出すように、言った。

「お前が殺したのは、潤なんだな?」

場の空気が、蝋で塗り固められたかのように止まった。
私にとっては慣れっこの、凍りついた時間。
それは何秒、いや何十秒だったか。
そんな中、不意に。
“ぴーちゃん”
潤の声が聞こえたような気がした。
板倉は私の顔を笑わない眼で正面から見返すと、あっさりと言った。

330 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:40:19
「ええ、その通りですよ」

世界が歯車を軋ませて、大きく歪んでいく音を聴いた気がした。
今の私の心境を表すとどんな言葉になるのか。
例えそう訊かれたとしても、どのような言葉を使っても正鵠を失わずに表現する自信がなかった。

「やっぱ結構冷静ですね。潤のことかーって叫んだりする可能性もあるかなとは思ってたんですが。
 いやむしろ太田さんがこのゲームに乗っている以上、死んでもらって有難かったりしますか?」

愉しげにそう続ける板倉の声をうっすらと聞き流しながら、私は低く囁く。

「何のつもりだ」
「え?」
「とぼけんなよ。狙ってただろ。この状況。このタイミングをよお」

ははっ。
私の問いに、板倉は口を開けて笑う。
そして言う。当たり前の事だと言わんばかりに。

「何って、言ったでしょ。究極の恐怖と絶望を見てみたいって。
 だから手始めに太田さんの恐怖と絶望が見れるか試してみよう。そう思っただけです。
 まあこっちだってそう簡単に見れるわけがないとは思っていましたけどね。
 粋な演出だったでしょ?」

板倉はまた無邪気に笑った。蟻が潰される過程を見て面白がる子供のように。

「何故殺した」

拙い演出に興味は湧かなかった。
私はテーマを変え、板倉にぶつける。
負の感情、“死”の魅力。それらへの興味が、決して消えたわけではなかったから。
そう、潤もまた、サンプルの一人に過ぎないのだ。

331 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:41:22
私と同じようにこの島に来た以上。私が最後の一人まで生き残らねばならない以上。
その質問が意外だったのか板倉は若干目を見開き笑みを消したが、すぐに流暢に語り始める。

「何故って、太田さんだって分かってるでしょ? この島の現実に。
 僕らは人を殺すためにこの場にいるんだ。だったら出会った相手は殺すのが当たり前です。
 ましてや、相手から襲い掛かってきたのなら尚更です」

風が急に吹き止んだ、ようだった。
板倉はデイパックを下ろして、中から灰皿を取り出す。

「見てくださいよ。名倉さん、こんなもので殴りかかってきたんですよ? 大人しく本来の用途で使っておけば良かったのに。
 まあこっちには銃があったから退けるのは簡単でしたけどね。
 それにしても名倉さんがあんなに短絡的な人だとは知らなかったな……」


「嘘つけ」
「え?」

私は思わず、声に出して言っていた。
自分でもゾッとするくらい、恐ろしく低く。

「潤はそんな奴じゃねえ」


        *     *     *


暗い部屋の中。
その中には、楽しそうに談笑する集団と、その群れから離れて、ぽつりと意味不明な動きをして佇む一人の男。
その男は私だった。
私はただ、壊れたようにボケ続けていた。
誰も私に振り向いてくれない。どんなにボケてもツッコんでくれない。

332 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:42:51
こうやって部屋の電気を消しても、誰も反応してくれない。
孤独には十分すぎるほど慣れていた。慣れているつもりだった。
でもやはり、寂しい。一人で道化師の真似事をするのも楽しいけど、寂しい。
なあお前ら、何で無視するんだよ。お前ら芸人だろ。
ボケにはツッコめよ。ぼーっとしてんじゃねえよ。お前らがツッコんでくれればもっと楽しくなるのに。
なあ何か言えよ。なあ!

「ええかげんにせえや」
「そうですよ太田さん。何やってるんですか」

不意に声が聞こえてくるとともに頭を軽く叩かれる感触がして、私はつい顔を上げる。
そこに立っていたのは男二人。名前は、名倉潤と上田晋也。
二人の顔はしょうがねえなこいつはと言いたげな表情ながらも、どんなボケでも受け止めてもらえるという安心感があって。
私は顔を輝かせ、新たなるボケを繰り出すために再び口を開いた。
暗闇の部屋の中、彼ら二人の姿だけが仄かに光っているのを感じた。


        *     *     *


「潤は人殺しなんかできる奴じゃねえ」

自分でも何故こんな事を言っているのか分からなかった。
私が最後の一人まで生き残らねばならない以上、潤もまた、サンプルの一人でなければならない。
潤がどう死のうが私には関係ない。そして生きた潤に会ってたら私は躊躇いなく潤を殺してた。それは間違いない。
だが、何なんだろう。どうして私は、こうも潤の名誉を守りたいのだろう?

「こんな話が在るんですよ太田さん。極限状態に陥った人間はたった一枚のチョコレートでも殺し合うようになる。
 名倉さんがどんな人間かは太田さん程には知りませんが、こんな状況ではどんな人が殺し合いに乗っても不思議ではないですよ」

灰皿を玩びながら板倉が言う。
詭弁だった。証拠は呆れるほどに明白だった。

333 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:45:21
「とぼけんな。じゃあ何なんだ、この傷は」

そう言って私は指差した。
指先の光景は、死体の額。生え際間際にぎりぎり残る、殴打の痕。

「潤が一方的に殴りかかってきたのなら、こんな所に傷があるわけないだろ?
 殺してからわざわざ殴る必要もねえだろうしな」

んな事どうでもいいじゃねえか。頭の中でもう一人の私が言う。
しかし、私は言わなければならない気がした。
潤のためなのか、それとも、私自身のためなのか。
板倉は表情を変えることはなかった。決定的な矛盾を突かれても、予定通りだと言いたげに涼しげなままだった。
そして板倉は言う。

「まあいいじゃないですか。信じるか信じないかは太田さん次第って事で。
 とりあえず名倉さんが襲い掛かって僕が返り討ちにした。そういう事にしときましょうよ。
 でなきゃ名倉さんがただの馬鹿って事になっちゃうし」

その言葉とともに私は、再び銃を板倉に向ける。
そうなのだ。この会場ではもはや潤は馬鹿にしかなれないはずなのだ。
先程の騒音野郎のように。そして恐らく間違いなく、田中のように。
私みたいな人間失格者とは違うのだから。

「敵討ち……、ですか。おすすめしませんよ。ここで僕を殺しても意味がない。
 殺すだけならいつでもできる。でも真実を知りたかったりするなら尚更僕と手を組んだほうがいい」

そんな事は言われなくても分かっていた。
復讐なんて無駄で意味の無い感情を持つつもりもなかった。
そもそも自分の手で殺す事も有り得ただけに、そんなものあるわけが無い。
ただ、板倉への恐れと言っても良い程の不快感が頂点近くまでに上りかけていただけだ。


334 :名無し草:2007/10/09(火) 01:45:37
支援

335 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:47:01
「ただ純粋に生き残りを目指すためにも、一人で戦うよりは僕と組むほうがずっと効率がいい。
 一人で戦ってて、疲れたところを狙われたらどうするつもりですか?
 多人数で襲われたらどうするつもりですか?
 最初から複数で組めば、これらのデメリットは解決されます。
 まあ、もちろんいつかはお互いに殺し合わなければならないわけですが、それでも長期的に見ればどちらが得かは明らかでしょう。
 このゲームにおける勝者の資格を得るには、感情に流されずに冷静な判断を行うべきですよ」

憎らしいほど冷静に返される。
銃を向けられても尚、板倉の顔に焦りが生まれる事はなかった。
この程度の修羅場は大した事じゃない。そう勝ち誇っているようだった。
しかし私は、奴の主張自体はどうでもよかった。
奴の言う事が正しいのは言うまでもないとは当然理解している。
それでも受け入れ難い。太田光はあくまで、太田光のペースで動いてこそ太田光で在り得るのだ。
他人と徒党を組んで生きるのは、私の一般的なスタイルではない。
だから、私は賭ける事にした。
果たして板倉はこれ以上私にとって興味深い存在と為り得るか。不快感以上の好奇心を持たせてくれるか。
それを見極めて、奴をどうするか決める。

「ある年に、誰も殺し合わないまま初日の夜に首輪爆破による全滅で終わったプログラムがあり、世間の物笑いの種になった。
 何故こんな事態になったのか。それは、その学級全員が、こう取り決めていたからだった。
 『自分達はバトルロワイアルに参加する事になっても絶対にクラスメートを殺さない』と。
 そしてそいつらは、プログラムが始まっても本当に誰一人殺し合う事のないまま、時間切れで首輪を爆破された。
 その間そいつらはカレー作ったり、キャンプファイヤーまでしていやがった」

これは、当時ネタ作りのためにバトルロワイヤルの情報を集めた時、たまたま知った情報だった。
これは所詮公にでる事はなかった裏情報。
しかし私は、この奇異なエピソードに、強い興味を抱いたものだった。
奴はこの話から、何を練成出来るか。

「どう思う?」


336 : ◆EeCmUBzmbs :2007/10/09(火) 01:48:53
森はとうの昔に孤立していた。
今この異次元に存在するのは、私と板倉と潤、そしてひぐらしのなく声のみ。
存外のはずの質問に、意外な程簡単に板倉は答えを出した。

「面白いと思いますよ」

そしてまた笑う。
今度の笑みは思い出し笑いに似ていた。やはり知ってたか。

「戦いを拒む、それはそれで結構な事だと思いますよ。殺すも殺さないも個人の自由ですからね。
 ただ……僕がいたならば勿論そんな事はさせない。もっと面白い選択肢を選びますね」

向けた拳銃がぴくりと揺れる。私は確信に近い予感を覚えた。

「絶対に殺し合いをしないという誓約に参加する、そこまではいい。前フリとしてはこれ以上ないくらいの素材ですからね」

言葉を区切ると、天空に唾を吐きかけるかのように仰向く。

「そしてみんなで遊ぶ、キャンプファイヤーもする、でも僕はその途中で抜けるんですよ。トイレに行くとでも言ってね」

子供のように、ケラケラと笑う。

「みんなから離れたら、手榴弾を誰かのデイパックからこっそり抜き取って、
 そんであるだけ投げ込んで一網打尽にするんですよ、みんなでキャンプファイヤーやって固まってる時に。
 手榴弾を支給されるのも一人くらいいるでしょうしね」

演説をするかのように両手を広げて、心底から楽しそうに笑う。

「色々面白いし儲けものでしょ? みんなを裏切って無傷でゲームに勝つ。総統に喜ばれる事間違いなしです。
 ……でもね、一番面白いのはやっぱり投げ込んだ時ですね。
 暗闇の中爆風とともに、みんなの裏切りを知らない純粋な想いが、炎と絶望に巻き込まれて空に昇っていくんです。
 そして僕は、無数の人体がバラバラにちぎれ飛んで炎とともに空を舞う様子を見てこう言うんですよ。

337 :◇EeCmUBzmbs さん代理:2007/10/09(火) 02:02:45
 『……ああ、これこそホントの人間キャンプファイヤーだなぁ』って。
 アハハハ、何か言ってるうちに本当に見てみたくなってきましたよ」

ついに哄笑に変わった。

「最高でしょ!」

怪物の笑いだった。


太陽は既に傾き、黒くシルエットになった木々の間から鋭い光が差し込んできている。
昔観た映画の中にもこのような光景があったような気がする。取り留めもないデジャヴだろうと決め付けて汗を拭う。
頭の中で板倉の言い放った台詞が四方八方に跳ね回る。
拭った手とともに、私は銃を下ろして。

「……くくっ、よし、お前の言い分は分かった。手を組んでやるよ」

そう言うと私はその場にしゃがみ込む。
そして、板倉の返事を聞くのも待たずに、潤の目を閉じさせながら続ける。

「ただし、もしお前がピンチになっても俺はお前を助けねえ。そして二人揃ってピンチになったら、状況次第でお前を捨て駒にしてやる。
 これはお前のためじゃなくて俺のためなんだからな。当然だろ?」
「ええ、勿論ですよ。というかそれが推奨ですね。ホントに太田さんが僕を見捨てられるかも試してみたいし」

一拍置いて板倉はそう不敵に言うと、これまで通りの微笑を浮かべる。
その中にぽつんと浮かぶ笑わない目を見つめながら、私はタバコを取り出した。
板倉の出した答えに、私は満足していた。含み笑いさえ浮かんだくらいだ。
人間キャンプファイヤー。実は、何を隠そう私もこの発想にたどり着いた事があったのだ。
バトルロワイヤル、しかもその中でも公にされてない情報をネタにするのは流石にまずいという事で結局お蔵入りになったネタだった。
確かに最高だ。伊達に私に共闘を持ちかけてくるだけの事はある。
これで踏ん切りがついた。こうなったらとことんこいつを見極めてやる。
どのようにして潤を殺したか。そしてこいつの発する得体の知れない臭いの正体は何か。

338 :◇EeCmUBzmbs さん代理:2007/10/09(火) 02:04:06
「で、これから何処へ行くんだ?」
「これから、ですか……そういえば名倉さんが言ってたんですよ。校舎の出入り口辺りに死体の群れがあったって。
 それで混乱してたからかな。僕に襲い掛かってきたのは」

私の眉がピクリと動く。
まだ言うかという苛立ちと面白い事を聞いたという好奇心が頭の中でミキシングされる。

「いい加減にしとけよテメエ」
「信じるかどうかは太田さんの勝手ですよ……で、どうです? 行ってみませんか、学校に。
 今ならひょっとしたら死んだ人達の武器とかが残っているかもしれませんよ。
 もっとも、太田さんが既に持って行ってたりするなら話は別ですが」
「…………」

板倉の論理に私は食指を動かされる。
学校に残っている武器を回収するとは中々見事な着眼である。
同じような事を考える奴もいるかもしれないが、少なくとも行って損は無さそうだ。
だが、私の興味を引いたのはその事だけではなかった。
残っている死体の群れ。実に興味深い。
既に命を失ってはいるものの、それでも死の魅力を知るには良いサンプルになるかも知れぬ。
それが確実にあるだろうという事になると、十分行く価値はある。

「……行ってみるか」
「そうこなくっちゃ。んじゃ早速行きましょう。大分時間消費しちゃったし」

そう言って板倉はデイパックを持ち上げ灰皿を押し込んだ。
私もひぐらしの声が少し静まったのを感じながら、辺りを見回しながら立ち上がる。
ふと俯くと、再び潤の亡骸が目に入った。
茜色の空から降り注ぐ光に射抜かれ、眠るように横たわる潤の容貌は、先程よりはいくらかマシになったようにも思えた。
そんな潤に向かって、私は呟く。

「じゃあな、潤、いや……日本一のツッコミさんよ。
 万が一あの世で会えたらまたメシ食いにいこうぜ。まあ会えねえだろうけどな」

339 :◇EeCmUBzmbs さん代理:2007/10/09(火) 02:06:04
        ■     ■     ■


暗い闇の中、二つの影があった。それは悪魔と踊り子だった。
悪魔と踊り子は踊り続けていた。時が経つのも忘れ、無我夢中で踊っていた。
悪魔は心地よい充足感に打ち震えていた。
これだけ楽しい気分になったのは本当に久しぶりだ。孤独からの解放は、こんなにも心を蕩かすものだったのか。
悪魔は踊り子に感謝した。踊り子は正に悪魔が長年の間求めてた最高の理想だった。
もう悪戯をする必要もない。この踊り子とずっと踊り続けていられればそれで十分だ。悪魔はそう思った。
だがその時、突然クラシックが止まり、悪魔は立ち尽くす。
何故止める? 邪魔をするな。誰にも自分達を止める権利はない。
だがその時、不意に気付く。踊り子がいつの間にかいなくなっていることに。
どういう事だ。自分を見捨てたのか? そんな馬鹿な。自分は彼女のおかげで何かを知る事が出来かけていたのに。
余りにも酷い仕打ちではないか。

“どこだ、どこに消えた!”

堪らず悪魔は叫んだ。言いようのない焦りに駆られながら。
だが、闇の世界は、変わらず残酷だった。
突然闇が濃くなる。そして闇よりも尚どす黒い、巨大な像が浮かび上がる。
そこに現れたのは、血濡れの踊り子を銜えた、禍々しき怪物だった。

悪魔は言葉を失った。
体が金縛りに遭ったかのように動かなかった。
そのまま、名前のない怪物は絶対零度の眼で悪魔を見下ろすと、背を向ける。
そして怪物が姿を消すまで、悪魔は動けないままだった。

こうして悪魔は、再び孤独となった。
一人ぼっちの悪魔は叫んだ。声の限りに叫んだ。
やがて悪魔は駆け出した。怪物の消えていった方向へ。
悪魔はただ、訳も無くひたすらにこう誓っていた。
何としてでも、自分を再び孤独に陥れた、あの名前のない怪物の正体を暴いてやると。

340 :◇EeCmUBzmbs さん代理:2007/10/09(火) 02:07:31
【ネプチューン 名倉潤 死亡】

【爆笑問題 太田光
所持品:マイク、グロック17(14/17)・控え銃弾(34発)、煙草、ライター、結婚指輪
第一行動方針:人々に死を与える
第二行動方針:板倉を見極める
第三行動方針:学校へ向かう
基本行動方針:死の魅力を追及する
最終行動方針:最後の一人まで生き残る】

【インパルス 板倉俊之
所持品:ワルサーP99(?/16)、灰皿、煙草、ライター
第一行動方針:太田と手を組んで人を減らす
第二行動方針:学校へ向かう
基本行動方針:究極の恐怖・絶望を知る
最終行動方針:不明】

【現在位置:F10 森】
【8/15 18:17】
【投下番号:282】

341 :名無し草:2007/10/09(火) 14:41:26
>>340
乙です!
太田さんの行動方針に変化が起こるかと、一瞬思ったが…!

342 :名無し草:2007/10/09(火) 17:29:08
>>340
投下乙です。
最高でしょ!って笑う板倉に鳥肌たった。
続きも楽しみにしてます。

343 : ◆ubzm3HLCPI :2007/10/10(水) 01:41:02
オヒサシブリデス。
ラー小林、アンガ山根編いきます。最終話です。

人は死んだらどうなるのか、幼い山根の脳にふとひらめく疑問だった。
無になる、幽霊になる、生まれ変わる、死後の世界にいく。どの答えもピンとは来ない。
成長と同時に、生きてるものに死後のことなんてわかるわけがないという、当たり前な答えに集約され
ていったこの疑問が、今また彼の中に蘇る。
人は死んだらどうなる?
考えてみる。やはりわからない。わからないがゆえに、怖い。
何もない平穏な日常の中ならば、わからないから精一杯生を全うしたほうが良いと思えた。
人が死ぬのを見るのも、もちろん嫌だった。その死者の中身がどこに行ったのかわからない恐怖に捕ら
われるのが嫌だった。
山根は自嘲してかすかに笑った。死の覚悟?そんなものできてないじゃないか。
もし、覚悟が出来ているならば、自ら死に行く人間をどうしてとめようとするのか。
「小林さん」
静かな表情で海を眺める小林に、山根は声をかける。
「あなたは、死ぬ気ですか?」
小林は少し思案するようだった。が、彼の顔に迷いの表情はなく、ただ単に自分の気持ちを言語化でき
ないだけのように見える。
「僕はもう、ほとんど死んでいるよ」
柔らかい声で答える小林の顔は、少し微笑んでいるようにさえ見える。しかしその目に光はなく、海の
深い底を映したかのように暗かった。
白い鳥がやかましく鳴きながら、一斉に岩場から飛び立つと、青い下草は風にあおられて金に光る。水
平線の上を小さな船がゆっくりと横切っていく。鳥達は雲の中に次々と吸い込まれていった。
「今のは鴎じゃない、ウミネコさ」
小林は鳥の影を目で追いながら言った。
「僕の故郷にはね、ウミネコが沢山いるんだ。帷子川の傍とかは凄いもんだよ。あんな都会のドブ川に
。なんであんなところに生きてるんだかわからないけど」
ウミネコはもうどこかへ飛び去っていってしまった。山根は適当な相槌しか打てずに、小林の故郷の話
を聞いている。

344 : ◆1ugJis83q2 :2007/10/10(水) 01:43:28
「海、海はいいね。僕は海の傍で育ったんだ。汚い海さ。観光客だけは多いがね」
小林は立ち上がった。そしてゆっくりと崖のそばに近づいた。山根も後ろからゆっくりとついていく。
「この海は、僕の故郷にも繋がっているんだ」
彼は海を見下ろした。砕ける波があった。貿易港として発達した、彼の地元ではあまり見られないよう
な荒々しい海だった。しかし、遥か水平線の辺りには懐かしい景色が広がっているようにも思われた。
それは、幼い頃両親に連れられていった海。学校の遠足で見た光景。
まぶしく光る水平線を小林はしばらく見つめ、呟いた。
「もう、帰りたい。疲れたよ」
死のような沈黙が、2人の間に流れた。
山根には、小林の背中にひとりでは背負いきれないくらい、重く暗いものがのしかかっているように見
えた。しかし、今その呪縛は消えようとしている。過去からの解放への期待が、彼の背中を軽くする。
やおら、小林は山根に向き直った。
「君を巻き込むつもりはなかった。これは僕らの問題だったから。すまなかった」
表情は逆光になっていて見えない。
「そうだ、海の底には片桐たちもいるんだ」
崖に向かってさらに歩く。その足取りは軽く、鬼籍に片足を入れているようにはとても思えない。
「…小林さん!」
山根は死へ行進していく小林の背中に声をぶつける。
「僕は忘れません、あなたの絶望を、僕は覚えていようと思います…だから、僕はもう、止めません」
小林は足を止めてその言葉を聞いていた。死を選んだ者を見送る勇気、それを山根は身につけている。
死後の世界?無になる?そんな些細な恐怖で、この地上の地獄から救われるのならば喜んで死んでいこ
うとする人たちがいる。そういう人たちを簡単に引きとめてはいけない、と山根は考える。
小林はもう振り返らなかった。ただ、後ろで立ち尽くす山根に一言
「ありがとう」
そう言って、また歩みだす。

345 : ◆1ugJis83q2 :2007/10/10(水) 01:45:33
どこからか風に乗ってカノンが流れてくるようだった。もちろん、こんな島でカノンが聞えるはずはな
いのだが、これが自分にとってのレクイエムになるのなら、自分の人生は幸せだったのだと小林は思う
。ふと、友人の水野の顔を思い出す。両親の顔、弟の顔、ニイルセン、枡野、エレキコミック、そして
最高の相方の片桐の顔。最後に、妻の顔が彼の心に浮んだ。その瞬間、彼の体は真っ直ぐに暗い海へと
落ちて行き、意識は中有の闇の中に溶けていった。
山根は耳の中でなり続けるカノンを聴いた。それはまるで脳を溶かすような音色だった。その旋律に耐
えかねて、彼はその場にうずくまる。彼の頬を涙が伝った。何故泣いているのか、彼自身にもわからな
かったがただ無性に泣きたかった。
雲の端がぼんやりと光り、ゆったりと風が流れるそれはそれは美しい夏の日のことだった。

【ラーメンズ 小林賢太郎 死亡】


【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:
現在位置:崖】


【8/16 08:00頃】

山根はここで解放します。使いたい方はご自由にお使い下さい。
本日を持ちまして、名無しのROMに戻ります。
今まで読んでくださって本当に有難うございました。

346 : ◆1ugJis83q2 :2007/10/10(水) 01:48:29
最初だけコテハン間違えてる/(^o^)\ナンテコッタイ

347 : ◆1ugJis83q2 :2007/10/10(水) 01:56:01
かき忘れ
【投下番号:283】

348 :名無し草:2007/10/10(水) 02:23:41
>>345
相変わらずの詩を詠んでいるかのような世界観、素敵でした。
儚くも散った小林を思うと切なくなります。

今までお疲れさまでした!
そして素敵な作品を投下し続けてくださって本当にありがとうございました!

349 :名無し草:2007/10/10(水) 02:28:38
>>345
お疲れさまでした。あなたの作品が大好きでした。
最後まで切なくてたまらなかったです。
今までありがとうございました。

350 :名無し草:2007/10/10(水) 15:04:48
>>340
最初と最後の悪魔のくだりがセンス抜群。
板倉の狂いっぷりも太田に負けず劣らず…

>>345
小林の最期が穏やかなものでよかった。
山根が生き残っている事が何らかの救いになればいいと思う。
そしてお疲れ様でした、本当にありがとうございました。

351 :名無し草:2007/10/10(水) 18:47:02
>>345
ラー編一番好きでした。
お疲れ様でした!

352 :名無し草:2007/10/10(水) 22:29:07
>>345
◆1ugJis83q2 さんの作品はいつも情景が浮かんできて
映画を見ているかのようで、心が動かされます。
本当にお疲れ様でした。

353 :名無し草:2007/10/10(水) 23:58:36
>>345
お疲れ様でした。
最後までとても綺麗な言葉の流れと、どこか心地良い切なさ。
最後に浮かんだ顔があったのならなぜ…!と思ってしまう自分もいましたが、
小林を思うととてもしっくりくる終わり方でした。
本当に楽しませてもらいました、ありがとうございました!

354 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/11(木) 21:37:47
>>262-269の続き


放送を聞いてすぐ出発の予定が、思わぬ事態により1時間ほど遅れてしまった。
先程からずっと一言も発しない様子を見ると、大悟はまだショックを引きずっているようだ。
功太も気分は沈んでいる。正しい判断をしたという自負はあるが、それでも心は痛む。
人を見捨てるとはこういうことなのか。

気分が沈んでいる理由はこれだけではない。これから向かう予定地についてだ。
その場所、元町は昨日功太が初めに向かおうとした所だ。
しかし、どういうわけかたどり着いたのがゴルフ場だったのだ。
休める建物を探していたためクラブハウスでも問題なかったのだが、あとで地図を確認したら反対の
ほうに向かっていたと気づき、功太は軽くショックを受けたのだった。
もちろん今回も事前に地図と方位磁針で進行方向を決めた。しかし、出発してからずっと木しか見て
いないので、正しい道を進んでいるという自信が持てないでいた。


「今どこや?」
大悟が不意に口を開いた。変わらない景色にうんざりしていたのは大悟も同じだったようだ。
「えっと、たぶん、このあたりじゃないかと」
慌てて地図を広げ、元町とゴルフ場の中間あたりを指差す。改めて見ると歩いた距離と見合って
いないような気がして、功太の不安はますます増大する。
大悟は納得したのかしていないのかよくわからない様子で、ふうんとうなずいた。
「人、おるよな」
しばらくして大悟がまた口を開く。
「集まってると思います。学校からも近いし、家がたくさんあるところやし。何か調達したいとか、
隠れる場所が欲しいとか、仲間が欲しいとか考えている人たちが来てるんやないでしょうか」
「そうか、わしら以外にもおるかもしれんな。仲間集めたい人が」
大悟の顔が少し明るくなる。
「ええ、そういう人たちと協力できればいいですね」
「大丈夫じゃろ。ほんまは誰も殺し合いなんてしたないんじゃ」
功太は大悟ほど楽観的にはなれない。しかし、少し不安が払われた。

355 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/11(木) 21:39:54
これからのことを考える。
仲間にする人物として一番重要なのは、自分たちの考えを理解し、協力してくれる人物であることだ。
脱出やプログラム破壊に役立つ知識を持つ人なら自分たちと同じ方針で動いているだろうし、日頃から
親しいbaseよしもとの芸人なら人となりも知っているし一緒に生き残りたいと思ってくれるだろう。
大悟はプログラムに乗る気のない人間なら誰でも受け入れるつもりのようだが、功太はこの先会う
人間がこのどちらかであることを願っていた。

不意に、少し先の木の間から人が現れた。
唐突過ぎて武器を構える間もなかった。向こうも近くに人がいたとは思っていなかったようで、驚いたように足を止める。
「大悟と、中山功太?」
「大村さん!」
確認するように声を掛けた大村に、大悟は表情を明るくした。
活動拠点は東京・大阪と離れているが、トータルテンボスは共演も多い先輩だ。もちろん仲間として一緒に生き残りたい。
大悟は早速仲間にしたい旨を話そうとする。しかし、大村のほうが先に口を開いた。
「藤田見てないか?」
二人は顔を見合わせ、首を横に振った。アフロ、もしくはそれに類似するものはこの日は一度も見ていない。
「そっか。サンキュ」
その反応を確認すると、大村はすぐに立ち去ろうとした。大悟があわてて引き止める。
「はぐれたんですか」
大村が渋い顔になる。引き止められた苛立ちというよりは、痛いところを突かれたという表情だった。
「ちょっと、喧嘩して」
正確には大村が藤田を怒らせたのだが、わざわざ自分を悪く言うこともない。大悟たちはやはり呆れた顔をした。
「こんなときまでせんでもええやろ」
「いや、おっしゃる通りで」
あまりおしゃべりに興じているわけにもいかない。苦笑いでその場を流し、急いでるからと立ち去ろうとしたが、大悟も引き下がらない。
「わしらも一緒に探します」
しかし、大村は首を振った。
「あんま大勢でいくとややこしいことになりそうだし、一人で大丈夫だって」

356 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/11(木) 21:42:15
元はといえば大村の軽率さが引き起こした事態だ。第三者を巻き込みたくはない、1対1で言い合うのが自分たちのやり方だ。
大悟もそこは譲るしかない。しかし仲間にすることは諦めない。
「じゃあ、藤田さんと仲直りしたら一緒に行動しましょう。それなら構わんでしょ」

大村はしばし考えた。大悟は見た目の柄は悪いが根は実直だ。プログラムに乗っていないのは
見れば解る。自分じゃあるまいし、油断させる演技をするような人間ではない。同行している功太は
何を考えているのかわからない部分もあるが、日頃から大悟を慕っているのは知っている。大悟を
裏切るような真似はしないだろう。
考え込むまでもない、二人とも信頼に足る人物だ。それに藤田も自分と二人だけよりは大勢で行動するほうが安心するだろう。

「わかった。絶対連れてきてやるから待ってろよ。で、お前らどこで待ってるつもり?」
「えっと、元町のほうに向かう途中なんですけど」
「元町? それってもっと森の中のほうじゃねえの? この先もうちょっと行くと海に出るぞ」
「え?」
功太は驚くと同時にやっぱりと思った。
「町に行きたいんだろ? 砂浜から西に行くと土産物屋とか食堂とか並んでる所があるから、そっちでもよくねえか」
「そう、ですね」
大村の言葉に功太はうなずくしかない。大悟は訝しげな顔で黙っている。
「じゃ、そこに連れてくから。もう行くわ、またな」
「気をつけて!」
大悟の言葉に手を上げて答え、大村は木の間に消えていった。

「全然違うじゃろうが」
「……すいません」
またしても、功太は目的地に行けなかったのであった。
「まあ、大村さんの言うてたとこも町みたいなとこらしいしな。誰かおるやろ」
「そうですね」
大悟は前向きに考えることにしたらしい。あまり叱られずに済んで、功太はそっと安堵の息を吐いた。

357 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/11(木) 21:44:07
しばらく歩き、やっと木の並びが途切れた。
「海や……」
大悟は足を止めた。潮風を吸い込み、不意に自分の生まれ育った島を思い出す。
いったいここからどれくらい離れているのだろうか。何もない島だった。ここみたいに遊園地も
ゴルフ場もない。けどこんなに血生臭くも恐怖と悲しみだらけでもなかった。
水平線を見遣った。帰りたい。いや、帰る。

「あ、あれやないですか。建物が並んでますよ」
功太の指差すほうを見ると、確かに建物の並ぶ一帯がある。きっとあそこに仲間となる誰かがいる。
「よっしゃ、行こか」
再び、歩き出した。

大村が藤田を説得できないという心配はしていなかった。あのコンビの喧嘩の多さはよく知っている。
こんな状況だから多少は苦労するだろうが、きっと大村は藤田を連れて戻ってくる。
大村は頭の回転が速いから、脱出のために頭を働かせてくれるだろうし、藤田も正義感が強いから、皆で生き残るために力になってくれる。
希望はまだ潰えていない。

358 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/11(木) 21:45:56

―――
―――――

本当はすぐにでも駆け出したいくらいなのだが、道と言えるようなもののない森の中では全力疾走なんて
]出来ないし、水分と体力を無駄に消費するだけなのでやめておいた。
蝉の合唱の合間に混じる音が藤田の立てたものかもしれない。息を殺し、余計な音は立てないよう、
しかしなるべく急いで大村は進んだ。
それにしても、この道をずっと進んだら藤田がいるのか、もうそれすらも怪しくなってきた。
せめてあの縮れた髪の毛が点々と落ちていたらわかりやすいのに、と思うが、例え落ちていたとしても
こんな薄暗い森の中で見つけられるかどうか怪しいものだった。

ふと、自分以外の足音がした。こちらに近づいてくるようだ。
相手の前にいきなり姿を見せては危ない。さっきのように自分に友好的な人物とは限らないのだ。大村は
傍にあった木の陰に隠れ、足跡のするほうをうかがう。

人影が大村の視界に入る。相手は一人、大村のよく知る人物だった。
大村は木の陰から出て、相手に一歩近づいた。向こうが気づいたのを見計らって声を掛ける。


「哲夫さん、藤田見てませんか?」

359 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/11(木) 21:55:35
【千鳥 大悟
所持品:煙草 ライター 木製バット タオル 包帯 絆創膏 消毒液 ゴルフボール(6/6)
第一行動方針:ノブと仲間を探す
基本行動方針:自分から攻撃はしない  襲われれば反撃
最終行動方針:できるだけ多くの仲間と生き残る】
【中山功太
所持品:ホワイトボード 専用マーカー(黒・赤・青) 懐中電灯 パター タオル
第一行動方針:仲間を探す
基本行動方針:大悟についていく 戦いは極力避ける
最終行動方針:できるだけ多くの仲間と生き残る】
【現在位置:C-5・林の終わり】

【トータルテンボス 大村朋宏
 所持品:おもちゃの拳銃
 第一行動方針:藤田を追いかけて仲直りする
 基本行動方針:プログラムには乗らない 危険はごまかして回避する
 最終行動方針:出来れば生存】
【笑い飯 哲夫
 所持品:ペーパーナイフ 千枚通し 煙草 ライター
 第一行動方針:もっといい武器を探す
 基本行動方針:生存優先  殺せる相手は殺す
 最終行動方針:優勝】
【現在位置:C-7・森】

【8/16 09:30】
【投下番号:284】


>>345
悲しくも綺麗な話でした。余韻が静かに残っているような終わり方も素敵です。
これでラーメンズの話は終わってしまったんだなあと思うと少し寂しいですが、
最後まで読めて幸せでした。今までお疲れ様でした。

360 :名無し草:2007/10/12(金) 05:32:57
>>359
新作乙。
マーダー哲夫と遭遇か…
大村どうなる?

361 : ◆0M.qupOW5Y :2007/10/12(金) 19:26:48
投下番号268、ロザン菅編の続きいきます。久々に凄くまともなs(ry

『あなたの手なしでも歩いていく』

風が吹いていることは有難い、と彼は思った。燃えるような暑さを忘れられる、数十分前から喉の渇きも感じない。食糧はともかく水が少ないことが深刻な問題であることは彼にだって分かっているから、出来るだけ節約したいと思った。

「なんか、来た時よりも移動するの遅いですよね。やっぱりどこか疲れてるのかな」
「……やっぱりそうなのかな。早く行きたいんだけどね」

日はどんどん暮れていき、空はもうすぐ赤みを失っていくのだろう。ここがどの地方なのかは知らないが、綺麗過ぎて心が痛い、と彼は思う。

「もうすぐG5に入りますかね? まあ日が暮れるまでに着けばいいんですけど……」
「そうだねー。早歩きしようか、もう少し」

そこに希望というものはなく、あるのは漠然とした絶望のみで、緩やかに死へと向かっていることには変わりなくて、ただ現状を受け入れることしか出来ない。
ゆっくりと、ゆっくりと進んでいく。その先に何も見えない気がして、彼女は下を向いた。
(……退屈)
先を歩く彼の気分はいつまで経っても晴れない。自分を責めていた自分が嫌で、結局は自分を責めていることが憂鬱だった。
景色は大して変化せず、たまに聞こえる銃声に馳せる思いなどない。話題にも詰まって退屈は益々彼の気分を曇らせる。空はあんなに晴れているのに、何の感慨も湧かなくなってきて。
(俺は、結局どうすればええんやろ……なあ、教えて宇治原)
当然の如く出てくる相方の名前。普段から頼っている自分が弱く思えてきて。
(俺、は……)
思考停止。このまま崩れ落ちてしまいそうで、足を止めた。それを彼女が見逃さないはずはなくて。

「……大丈夫? なんか顔色悪いけど、もしかして熱中症とか……」
「大丈夫ですよ。それに熱中症だったら俺よりそっちが危ないでしょ?」
「確かにそうだね! あーあ、なんか疲れちゃったみたい」
「休みますか?」
「いいよ、まだ大丈夫だと思うから。……ねえ、あそこ誰かいない?」

遠くに見えるのは、確かに人影。

362 : ◆0M.qupOW5Y :2007/10/12(金) 19:28:23
中身が半分程減ったペットボトルを空に透かして男は思う。この先何があっても耐えられるのか、と。
目標のためなら自分に出来ることは何でもしよう。しかしそれは本当に報われるのだろうか?
報われないはずがないとは思うが、ふと浮かんだ疑問をどう打ち消そうかと立ち止まる。

(大丈夫、俺なら絶対やれる)

男が自信家なのは昔からである。故にネタでナルシストを装ったのを本気に思われたことも度々あったり、というか実際少しばかり自信過剰と思われる言動があったり……おっと、話が逸れた。
絶大なる自信は彼に強さを与えていた。少なくとも、今の状況では諦めない強さを。
だから天は彼に味方したのかもしれない。今の彼は、確かに恵まれていたのだ。

――遠くの人影に彼が気付くまで、あと十秒。
――それより先に向こうが気付いて声を掛けるまで、あと八秒。
――五、四、三、二、……。

「にーしのー!」

声の主は容易に想像できた。多分……いや絶対に大阪にいた頃から親しくしていた先輩のものだろう。
ああ、順調だ。怖くなるほどに。

「菅さん! それに伊藤ちゃんも……うわー、こんな一気に知り合いに会えるなんて思いませんでしたよ!」
「それはこっちの台詞や! 人がいるからそっち見たら西野やし。俺めっちゃ退屈やったから有難いわほんとー」
「私もまさか西野くんに会えるなんて思ってなかったからさ、物凄く驚いたよ」
「……ところで、なんで二人が一緒にいるんですか?」

それは普通真っ先に浮かぶはずの疑問。レーダーの電源は早々に切っていたので、予期せぬ再開に色々考えるのが遅れていた。
この二人に何か接点はあっただろうか、と思い返す。

「……成り行き?」「だねー」
「成り行きで一緒に行動できるんですかあんたら……」
「大丈夫やんなあ? 人殺すなんて覚悟、そんな簡単に出来るわけないし」

そう返ってきて改めて安心できた気がした。この二人もこのプログラムに従う気はないのだと、そう思うことができるように思えたのだ。

363 : ◆0M.qupOW5Y :2007/10/12(金) 19:30:34
(知り合いだったらええな、とは思ってたけど本当に知り合い、しかも後輩やったなんて)
いっそ自分ではなく彼女の知り合いなら良かったと、彼の中に残る良心が語りかけてくる。
出会ってしまったものは仕方がないのだ、それが誰であっても暫くの間は利用しなければ生きていられない。そう割り切ろうと思って、それでいいのか疑問に思う。
自分の頭ではそれ位しか方法が浮かばなかったし、襲われたら誰かが囮にでもならない限り自分が逃げられると思えなかった。

「なあ、西野。おま「そういえば、二人はどこに行くつもりだったんですか?」
「学校の方に戻ろうかって歩いてたんだよね?」
「で、いい加減暇だなーって思ってたらお前が来てラッキー、って感じで」

その途端、男の表情が曇っていったように見えた。
男にとってのそれはもう思い出したくない光景を思い出させるキーワードで、しかし彼らはそれを知らなくて。
あの場に倒れていた一人の名前から大体の事情を察した男には、その表情を誤魔化すための苦し紛れの話題転換しか出来ない。

「とりあえず行きましょか、虻ちゃんや宇治原さん探さなアカンでしょう」

それは別の意味で逆効果。

「なあ、自分は? 放っといてええんか、お前がここに連れて来られた奴らの中では一番あいつのことよく知ってるはずやろ?」
「あ、」
「あいつなら大丈夫なんてこの期に及んでまだ思ってる? ここに安全なんてない。誰かと一緒に行動するとかで限りなく近付くことは出来るけど、でも、」

その後の言葉は男の思考をやけにクリアにして、同時にどこか曇っていた彼の気分を晴らした。

「――あいつは、一人で放っといたら危なすぎるやんか!」

ああ、どうして忘れていたのだろう。そういう危うさは自分がよく知っていたのに、と男は後悔する。
格好悪いとかそんなの考える前に相方を探していれば良かった。今更後悔しても遅いのに、それでも後悔してしまう。
(でも、まだ遅くないはずやから。今からでもきっと間に合うから)

「……でも心配なんでしょ? 俺を優先していいんですか」
「当たり前やんか。精神が崩壊したかなーってなる前に探す方が後々楽やし」
「なら行きましょうか。俺の支給品これだから、すぐ合流できるはずやし……でも本当に「だからええって言ってるやろ!」

364 : ◆0M.qupOW5Y :2007/10/12(金) 19:32:39
彼がため息をついたのを見て、ほんの少しだけ表情が明るくなった気がした。
男は結局前向きで、故に立ち直りも早いのだ。

「とりあえず武器は俺か西野が持ってた方が安全やろ」
「そうだねー、私もう撃ちたくないし」
「何撃ったことあるみたいな感じで言うてるんですか……」
「いや、えーっと、それは気のせいだと思うよ?」
「変なとこ気にしてたらあかんよ西野。で、どうする? どっちが持つ?」
「俺は多分撃てへんと思います。せやから菅さん持っててくださいよ」
「えー、でも俺も撃ちたないから持て! もうこれ命令や!」
「命令って…分かりましたよ、でも襲われた時に撃てなくてピンチなんてことになっても俺知りませんよ? いいんですね?」
「万が一そんなことになったら俺が奪って撃つから撃つんやで? 絶対撃つんやで?」

結局彼女の銃は男に移動し、男が持っていたレーダーは彼が持つことになった。

(俺、お前なしでもなんとかやっていけるんやで。なあ宇治原、せやからもう少しだけ待ってて)
彼は渋々銃を受け取る男を冷めた目で見つめ、一人思う。
本当は撃てる自信があった。人を殺す覚悟もある程度出来ていた。
しかし今重要なのは保身。守る側になるということは自らを危険に晒すということで、ならば誰かに守ってもらうのが一番手っ取り早い。
だからこれでいいのだ、これが最善の行動なのだ、そう信じようと――。

【ロザン菅・北陽伊藤、キングコング西野 合流】
【ロザン 菅広文】
所持品:バタフライナイフ、簡易レーダー、他不明
第一行動方針:暫くは西野と行動して守ってもらいたい
基本行動方針:生存優先(その為なら他人を利用しても構わない?)
最終行動方針:生き残るつもりはない
【キングコング 西野亮廣】
所持品:コルトガバメント(8/9)、替え弾倉×2
第一行動方針:相方を探す
基本行動方針:出来るだけ多くの人と接触し信頼できる人を集める、マーダーは説得したい
最終行動方針:出来るだけ大人数で生きて帰る

365 : ◆0M.qupOW5Y :2007/10/12(金) 19:34:26
【北陽 伊藤さおり】
所持品:なし
第一行動方針:とりあえず西野と行動する
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:

【現在位置:森(F5とG5の境界・ややF5寄り)】
【8/15 17:05】
【投下番号:285】

366 :名無し草:2007/10/14(日) 23:10:03
ほす

367 :名無し草:2007/10/16(火) 18:14:38
age

368 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:32:24
ダブルブッキング編番外 まとめサイト258&271の続き



『Wataridori1.』


「マージであっちい…こんな中捜さなきゃいけないんだもんなぁ…」
熱る顔を手で扇ぎつつ、日が落ちかけた森の中1人ごちている痩身の男がいた。
夜近いとは言ってもまだまだ気温は高く、熱によって容赦なく体力が奪われる。
それに閉口しながら、少しずつ草を掻き分け道なき道を進んで行く。


―男の名は、江戸むらさき・野村浩二。

彼はこの日の朝方、1日目に行動を共にしていた号泣の2人と別れ、相方・磯山を捜すべく単身森へと踏み込んでいた。
が、その別れ際に見せた威勢はどこへやら、漏れる声音はどうにも情けない上、
細身の身体は度々長く伸びた藪にぶつかってよろよろする。
コンパスを手に持ってはいるが、行き先が定まっていないから特に意味は成していない。
何しろ磯山の居場所の手掛りとなるものは何一つないのだから。
「何の当てもねぇんだもんなー…参ったな。本当雲掴むみたいなもんじゃんよ…」
やるせなさに、深いため息をついた。


369 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:34:10

こんな調子とは言え、決して意思が弱まってしまっているわけではない。
むしろ。1人となり、他に気を回す先がなくなったことで、行動の支えとなるものは目指している
相方―既に死んでしまってはいるのだが―との再会のみとなった。
そのため、目的を果たすためならどんな苦難をも厭わないという思いは更に強くなっている。
それでもこれまでずっと3人でいたところを急に単独行動に切り替えると、孤独感や寂しさは抑え難く、
殊辺りが暗くなってくるに連れ、静寂が耐え切れずについ独り言を漏らしてしまうのだった。

しかし木が四方に生い茂る森では周囲を見通すことが困難となり、
いつ何時、潜んでいた敵といきなり出食わしてしまうかも知れない。
突然そこへ考えが至って思わず口に手を当てる。声をそういった連中に聞かれてしまったらことだ。
もしも敵に感付かれて襲われたとして、彼は何の対抗手段も持たない。
体術を心得ているわけでもないし、逃げ果せられると確信できる程体力にも自信がない。
その上持ち物は、どれもこれも武器どころか身を守る道具にも転用出来ない品ばかり。
そんな中で生き残るには、極力『敵らしき人間』との接触を避けて行く他ない。
―本当は、また知っている誰かと会って、互いに励まし合ったりしたい気持ちは山々だけれども。

(取り敢えずは危ないものには近寄らない方が得策だよなー…あんま人疑うとか、性に合わないんだけどなぁ)
人間の気配はとにかく即座に察知するに如くはない。全神経を研ぎ澄ます。


370 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:35:15

…先刻、夕方の定例放送が流れたばかりだ。
毎回のことながら、よく知った芸人の名が、野村の祈りを嘲笑うかのように読み上げられていた。
その度に堪えられず涙が零れて、また精神が沈み込んでしまいそうになる自分に嫌気が差す。
いい加減、慣れてしまいたいのに、と。
それでもまだ、号泣をはじめ、特に仲良くしていた人物が幾人か残っていることは、野村にとって希望ではあるのだが。
けれどそれも一体いつまでか―ぼんやりと不安の霧が掛かる頭を大きく振り、更に前へ進むべく足を踏み出した。

と、ふと、自然物とは捉え難い黒いものが、前方を見渡した目の端にちらりと映った。
それは野村のいる位置から少しばかり離れた所、伸び掛けの若木が固まっているところで、
どうやら見え隠れしているのは人間の頭髪。  即ち、誰かが隠れているらしい。
(やばっ……)
用心が功を奏したか―しかし、咄嗟では対する手段が何も思い浮かばない。
取るものも取り敢えず、隠れるべく慌てて身を縮める。
 途端、肩にぶつかった藪ががさり、と派手に音を立てた。
(ぉわっ…!) 野村の心臓が跳ね上がる。
まさかこんな場面でドジを踏むとは。情けな過ぎて泣けてくる。
これであちら側にいる人間に存在を勘付かれてしまったことは明白。
もしもあれが人を殺す側に回った者ならば、恰好の獲物に気付いて必ずこちらに向かってくるだろう。


371 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:38:14

心拍が苦しいくらいに早さを増していく。
(くそ…!こんなとこでやられるようなことがあったらマジで洒落になんねえって…)
胸元を震える手で押さえながら、そうっと葉の上から顔を出し、あちらの様子を伺った。

すると意外にも、あちら側も同様に野村の方を覗き込もうとしていたらしい。
一瞬出ていた顔は、視線を感じて驚いたのかすぐに隠れてしまった。

その1秒にも満たない時間でも、野村には分かった。見たことがある、どころではない。よく馴染んだ顔だ。
あの狐目。まず間違いはない。

「土谷?土谷だろ!?」
思いがけず投げ掛けられた素っ頓狂な声に、相手は恐る恐る姿を見せた。
細い目が段々と見開かれ、ぽかんと開いた口から、同じく間の抜けた声が上がる。
「あ…、野村さん……!」
「やっぱそうじゃん!土谷ぁ!!」
用心も何もかなぐり捨て、野村は後輩芸人―ななめ45°の土谷の元へと走った。


372 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:39:54

「野村さん…良かった無事で…」
「お前こそ!心配してたんだぞ本当に!ああ、怪我も何にもねぇみたいだな、良かったぁ!」
互いに、まさか再会が叶うとは思っても見なかった相手。
とても仲が良かったが故にずっと心に引っ掛かっていた存在だ。
思わず手を握り合い、飛び跳ねんばかりの勢いで2人は喜びを噛み締め合った。


しかし。それから間もなくどちらも、継ぐ言葉が浮かばなくなる。

磯山。岡安。そして下池。
それぞれにとって、大事な相方。更にプライベートでもしばしば一緒になって遊び回っていた仲間。
彼らが早々に死んでしまったことは、当然ながら放送によってどちらも知っている。

―一体、何をどう口にしたらいいのか。

考えあぐねた2人の間が、冷たく重い空気に包まれる。やるせなく俯いたまま、沈黙の時が流れた。



373 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:41:02

「腹減らねえ?奢ってやるよ…なんてこの状況じゃ言えねえけどさ。俺缶詰持ってんだよ。
食わねえ?ずっと味気ないもん食ってたからこんなもんでも上等だろ」
野村はデイパックから缶詰を取り出し、プルトップを引いた。薄黄色の液体が軽く散る。
大きな木の根元、野村の隣に座っている土谷は、思いがけない品に目を見張った。
「うわ、ありがとうございます…だけどこれ、どうしたんすか?」
「分かんねぇけど、号泣の赤岡がくれたんだ。腹の足しになるかっつったら、微妙だけどな」
言いつつも、野村は楽しげに笑う。
「あ、赤岡さんと一緒にいたんですか?」 ミカンを摘みながら土谷が尋ねる。
「や、号泣2人とも。昨日はずっと一緒にいたよ。今日の朝方に別れてさ、今は1人なんだけど。お前は?」
「あぁ、俺は今まで誰とも会えずで、適当に動いてましたね。さっきは休みながら隠れてたんすけど」
応える声のトーンは低い。視線が宙を泳ぐ。
肉体的にも精神的にも、随分疲労の色が濃いことが明確に見て取れた。

「でもどうして号泣さんと別れたんですか?ずっと一緒に行動してても良かっただろうに」
「あー…それはな…」
野村は後頭部を掻いた。その理由を説明するとなると、どうしても失った者達について言及しなければならない。
下手に口にして土谷を憔悴させてもいけないと、ここまでそのことについて語るのを避けてきたのだが。
…しかしいずれは、どうせ多少なりとも話に出さないといけないことだろう。
心の奥から言葉を探りながら、野村はゆっくりと口を開いた。


374 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:42:12

「俺さ、磯山捜そうと思ってんだ」
真っ直ぐ前を見据えながら語り出す。
土谷の顔は視界に入っていないけれども、大いに驚いていることは確かに感じ取れた。
「磯山さんを…?…でも…」返す言葉が途中で詰まる。
出掛けた一言の意味するところを知りつつ、野村は構わずに続けた。
「あいつさ、本当いきなり勝手に死にやがったんだよ。幼馴染の、
しかもずーっと一緒にやってきた相方である俺に無断でだぞ?
有り得ないと思わねえ?―俺さ、最後の最後にそんな自分勝手やりやがったやつのこと、
このままじゃ許す気になれねぇんだよ。 だからさ、何としてでもあいつのこと捜し出して、
怒って悪口言って、ボコボコに殴ってやろうって考えてんだ。
それが何つうか、『江戸むらさき』っていうコンビとしてのケジメみたいなもんに思えててさ」
明快な口調ながら、内に込めた強さを押し出すように一句一句を連ねていく。
「これは俺の都合だしさ、あいつらを巻き込むわけにはいかねえじゃん?だから別れて1人で来たんだ。
まあ、相方のことは相方が責任持って何とかしなきゃいけねぇし。
それにまたさ、運が良きゃあいつらとも再会出来るだろうしさ…」

どうしてこの人はこんなに晴れ晴れと話すことが出来るのだろう。
普段は少し頼りなげであった筈の先輩の横顔を、土谷は何とも言えない心持で見つめていた。
彼にとって、人生を長らく共に歩んできた、相方であり親友でもある磯山。
その死が彼にどれ程の衝撃と絶望をもたらしたか。土谷には見当も付かない。
恐らく泣いて、悔やんで、とても再び立ち上がることは出来ない程、どん底に突き落とされたに違いないのだ。
しかし今、とても吹っ切れた様子で思いを語る野村。
きっと考えに考え、悩み抜いた末に決断を下したからこそ、こうしていられるのだろう。
ただその姿は、哀しみや寂しさを、意志によって必死に包み隠そうとしているようで、
どこか痛々しいことに、きっと本人が気付くことはないだろうが。


375 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:43:16

「土谷はさ…これからどうするの?」
話の矛先が唐突に自分へ向き、慌てて知らず知らずの内に目尻に溜まっていた涙を指で拭い取った。
「そう、ですね……」

―が、何か言おうにも、言うことが見付からない。
何しろ土谷は、これから自分がどうすべきかを1つも考え当てられてはいなかった。

いや正確には、考えてはいたもののあっけなく潰えてしまったのだ。―相方達を見つけ出すという方針。
事もあろうに一番最初の放送で岡安の死を告げられてしまった。
その時点で彼の最大にして唯一の希望、トリオでの生還という夢は儚く散り失せたのだ。
それでもその時点ではまだ、もう1人のメンバー・下池が残っていた。長い間ふやけるくらいに泣いた後、
ようやくどうにか思い直し、下池だけでも捜し当てようと考えていた最中で、先刻の放送。
列挙される名前の中には、その下池が混じっていた。

あまりに唐突な、全ての終わり。
耳に入った瞬間、世界が暗転した。
哀しみ以上に土谷を襲ったのは虚無感。もう自分は何も出来ることがない。
トリオのメンバーでなくなってしまった自分は最早存在価値をも失ってしまったも同然、
しかし本当に死んでしまうこともままならず、先が何も見えなくなり、
打ちひしがれ蹲っていたところに、現れたのが野村だったのだ。
よって尋ねられている今、土谷は完膚なきまでにのめされた空っぽの状態。答えが思い浮かぶ筈もなかった。


376 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:45:25

しばらく黙り込んだ後、ようやく重い口を開く。

「―岡安も下池も死んじゃいました。俺が全然知らない間に。
俺ね、ななめのリーダーとして、あいつらのこと捜し出して、引っ張ってやんなきゃと思ってたんです。
だからこれから、何とかして2人のことを見つけ出そうと考えてました。だけど、それが駄目になっちゃって。
結局何にも出来なかったし、あいつらに何にもしてやれなかった。
本当駄目なやつですよね…リーダーらしくなんかまるでない、駄目な人間だなって。
そう自覚したら俺、もうどうしようもなくなっちゃったんすよ。
だからこれからどうしていいかなんて、全然分からない。やるべきこともやりたいこともないし。
―もう自分が生きてるべきなのか、死ぬべきなのかだって、…」

自分でも言っていることが支離滅裂だなと思う。けれどこれ以上、まとまらないのだ。
話す内に再び浮かんできた涙を、歯を食いしばりながら懸命に耐える。
野村は苦痛を乗り越えようと懸命なのに、やるべきことを見出したのに、
相反してその手段が思いつかない自分がひたすらに情けなくて。
それ以上、続けることが出来なかった。


377 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/17(水) 22:46:56


「…捜してやれよ」
黙って聞いていた野村が、不意にぽつりと呟いた。
「え…?」
「捜してやれよ。岡安と下池のこと」
真剣な瞳が土谷を見据える。
「あいつらも、お前に何も言わずに逝っちまったんだろ?リーダーであるお前の言うことを聞かずに勝手やった連中なんだぞ?
そんなやつ、こっちから出向いて行ってぶん殴ってやれよ!何無断で死んでんだよーっつってさ!」
聞き慣れた明るく軽快な声音が、不思議な程に真っ直ぐに響いてくる。
「……」
「…きっとさ、あいつらも今頃罪悪感感じてるよ。お前に申し訳ないって思ってるよ。
だからさ、会いに行ってやったら、きっと喜ぶんじゃねぇかと思うんだよ。お前が怒ることで、
あ、やっぱりちゃんと リーダーは考えてくれてたんだなーって、改めて感謝もすんじゃねえかな。だからさ…」
肩に熱い掌が置かれる。
「死ぬべきなんて言うなよ。お前がななめの引っ張り役として出来ることがまだあるってことだよ。
何せ2人も捜さなきゃいけないんだから、大変だぞ!これからが長いんだからな!
…だからさ、それを達成するためにも、死ぬんじゃねえよ。何が何でも生きろよ… な?」

直向で強い声。萎れていた心を力強く支えてくれるような。
こんな状況でも、後輩達から慕われていたムードメーカーらしいところは、全く変わらないままだ。

今度は、こみ上げてくる涙を堪えられなかった。嗚咽を漏らす土谷の背を、野村は優しく撫でていた。


378 :◇hfikNix9Dk さん代理投下:2007/10/17(水) 22:53:28
「じゃあ、頑張れよ」
「野村さんこそ、頑張って下さいよ。ミカンご馳走様でした」
辺りがすっかり闇に包まれた頃、再び2人は別れることとなった。
共に行動しようという提案は、どちらの口からも出なかった。
それぞれに、今まで自分達が担ってきたものに対する責任を負うために。 誰にも頼らないように。
離れていても意志を共にする人間が存在することで、常に自分を奮い立たせていられるように。
「安心しろよ、もし岡安と下池見つけたら、何か目印になるように細工しとくからな。そっちも磯山見つけたら、何かしといてくれよ」
「勿論です、任せてください」
「ああ、お前の相方を捜し当てられた時も目印つけといてよ。俺それ見て、ちゃんと見つかったんだな良かったーって思えるから」
「分かりました。じゃあ鼻に鉛筆でも挿しときますよ、筆箱にいっぱい入ってるから」
野村は大笑いをし、すぐにバツが悪そうに自分の口に人差し指を当てた。
「―さて、じゃあな。気をつけろよ」
「野村さんも。またお会い出来たら!」
「おう!またな!」
「それじゃあ!」
いつも通りの―例えばライブ後の打ち上げが終わった時のような、ちょうどそんな別れ方だった。
互いに背を向け、それぞれの前へ向かって歩き始める。
相方との再会と言う、小さな希望に向かって。

要は、死体を捜すだけ。それが終わった先に何があるわけでもない。
それが滑稽な程不毛であることに、2人共気付かないふりをしたまま。


―渡り鳥は飛び続ける。時に志を同じくする仲間と出会い、そして別れを繰り返しながら。
  たったひとつ胸に抱いた終着地へ向かい、ひたすらに。飛ぶ。飛ぶ。―

379 :◇hfikNix9Dk さん代理投下:2007/10/17(水) 22:54:30
【江戸むらさき 野村 浩二】
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ
基本行動方針:生存優先・磯山の遺体を捜して悪態をつく
第一行動方針:磯山を捜す
最終行動方針:未定

【ななめ45° 土谷隼人】
所持品:勉強道具セット一式
第一行動方針:生存優先・メンバーの遺体を捜して文句を言う
基本行動方針:岡安と下池を捜す
最終行動方針:未定

【現在位置:森(E7)】
【8/16 20:02】
【投下番号:286】

380 :名無し草:2007/10/18(木) 01:00:14
>>379
投下乙です。
野村相変わらず熱い!
土谷が少しでも救われたようで安心しました。

381 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:41:01
 投下番号091 ◆AX43sysEckさんの作品、パペマペ編の続きです。

 必要性と相当性の要件 パペットマペット


 いくらマペットを操って素性を誤魔化したところで、結局自分は生身の人間なのだ。
 パペットマペットは不安定に動く扉を見つめながら、そんなことを考えていた。
 死にたくないのだ。だから武器や食料を手に入れるため民家を訪れ、奇襲された時に備えて武器
を握っている。そして少なからず動揺していた。バトルロワイアルという戦場に投げ出され、何も感
じずにいられるほど神経は図太くない。一つ歩を進めるごとに不安は増すし、一つの扉を開くだけ
で相当な勇気を振り絞らなければならない。今だって心臓は狂ったように早鐘を打ち、その恐怖を
ありのまま心音で伝えている。
 ゆっくりと動いていた扉はあるところでピタリと止まり、ドアが軋む不快な音は途端に消えた。かえ
るのマペットがオーバーアクションでぐるりと中を見回し、小さな胸を撫で下ろす。うしのマペットは
幾分不安そうに、かえるのマペットに話しかけた。

 誰も、いないね。

 そんな保証などどこにもない。パペットマペットは自らが語らせたうしの台詞を意図も簡単に否定
した。そして尚も加速する鼓動を落ちつかせようと、これまでと同じように、誰にも見せる事のない
喜劇を脳内で演じた。

 うしくん、安心するのはまだ早いよ。もしかしたらどこかに潜んでるかもしれないしね。
 え、怖い事言わないで。どうしよう、襲われたらどうしよう。
 大丈夫、その気があったらすぐにでも襲いかかってくるさ。こないって事はその気がないんだよ。

 頼りない推論だ。自分の推理には淡い期待が含まれているように感じた。それはもはや推理とも
言えない。出来れば自分に都合のいいように、出来れば自分の望むように、先読みするフリをしな
がら願掛けしているだけなのだ。


382 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:42:49

 パペットマペットは少量の唾を飲み込んで、民家に足を踏み入れた。狭い玄関はこちらに二歩進
む事さえも許さず、目の前には短い廊下が伸びていた。その突き当りには壁しか見えない。一見す
るだけで間取りを完全に把握する事は不可能だった。

 まずは武器を探さなくちゃ。草刈鎌だけじゃ不安だしね。
 でもかえるくん、僕武器なんて持ちたくないよ。
 だから殺さなかったらいいんでしょ? 威嚇するだけの武器は必要だよ。
 威嚇するだけなら草刈鎌だけで充分だと思うんだけど。
 うしくん、あんまり口答えするとこの草刈鎌でカルビを……。
 うわぁぁ! 探すよ! 武器探すからっ!

 玄関を越える時、一瞬戸惑いながらも土足のまま廊下を踏んだ。わざわざ礼儀正しくする必要な
どないのに、少し居た堪れない気分になった。この気持ちをマペットたちに代弁させようとしたが、
すぐに思い直す。マペットたちは靴など履いていない。宙を浮いて歩いているのだから、そもそも
そんな事を気にするのは可笑しな話なのだ。

 かえるくん、武器を探すならやっぱり台所かな?
 そうだね、包丁とかナイフとか、あぁ、あと食料なんかも探さなきゃ。
 でも腐ってないかな? 食あたりとかになったらヤダよ。
 缶詰とかの保存食なら大丈夫でしょ? まあうしくんは干草でも食べてりゃいいだろうけどさ。
 そんな事言ったらかえるくんだって虫食べてれば大丈夫でしょ。
 コラうし! そこら辺のかえると一緒にするなよ。僕は肉食なんだから。
 それ間違いなく僕を狙ってるよね? ね?

 パペットマペットはうしのマペットに震え戸惑うリアクションまで律儀にとらせ、改めて辺りを見回
した。長い間換気のなされなかった室内は、埃っぽさ以上に息苦しさが際立つ不快な空間だった。
もしかしたら覆面を被っているせいかと思いはしたが、かといって素顔を晒すつもりはなかった。
パペットマペットというキャラクターを捨てたら最後、たとえ再びうしとかえるを両手に嵌めたとして
も、今の落ち付きを取り戻す事は出来ないような気がする。そうなったら一体自分がどんな行動を
起こしてしまうのか、少しだけ、想像出来てしまうのだ。


383 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:44:57

 廊下の左右の壁には合計3つの引き戸と1つの開き戸があり、どれもまるで示し合わせたかのよ
うに閉まっている。右手手前にある開き戸は恐らくトイレだろう。パペットマペットはゆっくりとその開
き戸に歩み寄った。

 うしくん、僕が扉を開けるから、草刈鎌持ってて。
 え、なんで! なんで僕に持たせるの?
 だって、うし利きじゃん。
 そんな後ろの人の事情なんて知らないよっ。

 それは言わない約束だろう。そう突っ込んで、パペットマペットは目を細めた。そしてうしのマペット
に草刈鎌を押し付け、かえるのマペットでドアノブを握る。もちろんトイレに行きたい訳ではない。誰
かが潜んでいないか確認するためである。生き残りたい。自分自身に何度も言い聞かせた、たった
一つの小さな目標だった。

 か、かえるくん! 人がいたらどうしよう!
 今更なに慌ててんだよ。ほら、早く武器構えて。
 やだよ、殺したくないよ! 死にたくもない!
 うしくんが死んだらバーベキューして手厚く弔ってやるから。
 こんな時に冗談言わないで! それに僕が死んだらきっとかえるくんだって……。

 かえるのマペットは黙り込んだ。それはパペットマペットが冷静さを失う第一段階であるのだが、
気にしない。ただ単にパペットマペットはうしに同調していた。同調しているつもりだった。理性の中
では確かに、うしに共感していた。

 やるの? やらないの?

 マペットは動いていない。だが間違いなくかえるの台詞のように思えた。だからパペットマペットは
うしのマペットを動かしながら、その問いに答えた。


384 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:47:46


 やらないよ。できないよ! それにもしよく知ってる人だったら……。

 背丈に不釣合いな草刈鎌が、うしのマペットと共に揺れた。かえるのマペットはドアノブを握った
まま、ピクリとも動かない。
 こんなタイミングで手の平に湧き出る大量の汗が気にかかった。もういっその事脱いでしまおう
か。一瞬でもそんな事を考え、慌ててその誘惑を押し殺した。

 知らない人だったらやるの?

 パペットマペット自身、黙り込んだ。答えはあえて見つけないように、かえるのマペットが飾られ
た左手に力を込めた。思い切り捻って、力任せに引き寄せた。激しい音を立てた扉を無視して、
その先を見据える。同時に、草刈鎌を振り上げた。
 肩で呼吸をした。ゆらゆらと、居場所を無くした扉がさ迷っている。限りなく狭い部屋は洗面所
だった。その左右に、トイレと風呂場へ繋がる扉がそれぞれ開け放たれていた。人気はない。な
のに安堵はしなかった。
 草刈鎌を振り上げた体勢で、パペットマペットは固まっていた。目の前にはくすんだ鏡がある。
凶器を掲げている自分の姿は、言い訳のしようもない程殺意を示しているように思えた。答えを
見つけてしまった気がした。覆面の隙間に見える肌色と目が合った。ただ生き残りたいと願った
だけなのに。自分の姿は醜かった。
 長い時間そうしていた。そして右腕が疲労に耐えかね降りた頃、パペットマペットはふらりと動
いた。今度はためらいもせず、振り返って向かいの引き戸を開けた。
 マペットは既にぶら下がっている。だがうしは相変わらず草刈鎌を握っていた。マペットはただ
暑苦しいだけの手袋になってしまった。


385 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:51:03

 引き戸の先は簡素な部屋が広がっていた。生活感のない室内だったが、奥に並ぶガス栓や蛇口
から考えるに間違いなく台所だろう。しかし本来あるべきはずのガスコンロやテーブル、家電製品の
類いは一切見当たらない。あるのは成人男性ほどの背丈のくたびれた食器棚一つ、それだけだった。
 棚の前まで早歩きした。心許ないと思った。もっとたくさん、物に溢れていると予測していた。嫌な予
感は拭えなかった。
 自分を守る武器が欲しい。生き延びるための食料も欲しい。それはうしとかえるが先ほどしていた
会話とリンクする。当然だ。うしくんなどいない。かえるくんなどいない。いるのは自分自身だけなの
だ。
 上段の扉を開く。そこには木目しかなかった。
 下段の引き出しを一つずつ確認する。目当てのものは愚か、何の物体すら現れなかった。
 慌てて他の部屋へ駆けた。今思えばここへ来る前に起こった、コンパスの北と南を間違える程度
のハプニング、随分とくだらない事のように感じる。それ以上の遠回りやハプニングなど、この状況
ではきっと日常のように起こるのだ。こんな簡単な事に気付かなかったなんて、バトルロワイアルを
楽観視しすぎていたのかもしれない。
 パペットマペットは数十分、思い悩みながら決して広くもない民家を何周も駆けずり回った。参加
者との遭遇もなければ得るものすら一つもなかった。パペットマペットは何もない居間でとうとう座
り込んだ。布の隙間から畳目を睨む。とにかく全身が暑い。覆面も手袋も、必要ないように思えた。

 人を、殺すかもしれない。

 畳に触れたくて草刈鎌を置き右の手袋を外した。空気はひやりと手の平にまとわりついた。畳目
に沿って指でひと撫でし、グッと爪を立てる。メリメリと音を鳴らしいくつかの目が列を乱した。更に
力を込め、畳は美しさを失った。


386 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:54:41

 常識の範囲内にいる事が本当に正しいのか。列を離れるのは本当に非難されるべき事なのか。
 くだらない自問自答だった。
 生き残るという最終目的に陰りが見えた。この民家には武器や食料だけではない、生活用品の
類い一切なかった。そうなると他の民家も同様、求めるものはないと考えるのが自然だろう。だが
それよりも――。
 その時、パペットマペットはドアの軋む音を背後に聞いた。瞬時に顔を上げ振り向いたが、ここ
からでは壁しか見えない。無意識に、草刈鎌を握った。うしの飾られていない右手に、その柄は
酷く馴染んだ。
 殺しにくる。
 井戸田さんが? いや、他の誰かかもしれない。
 パペットマペットはつい一時間程前の自分を、まるで昔を懐かしむかのように思い出した。
『殺されそうになったら反撃すればいいんだ! 正当防衛だ! 殺しじゃない! 正当防衛だ! 』
 かえるのマペットに言わせた、自分への言い訳だった。ついでに支給武器を確認する時、銃を
欲していた事も思い出す。誰も殺さないから威嚇するためだけの銃が欲しいと、そう切に願ってい
た時期があった。もしも支給されたものが草刈鎌ではなく銃だったならば、自分は人を殺していた
だろうか。それとも実直に、威嚇だけで済ませていたのだろうか。
 パペットマペットは立ち上がり、摺り足で中途半端に開いたままである引き戸に近付いた。随分
と警戒しているのか、ゆっくりと近付く足音が聞こえる。
 広い居間に忘れ去られたうしのマペットは、これから起こるであろう惨劇を見たくないとでも言う
かのようにうつ伏せている。それに気付く余裕もないパペットマペットは、意を決したように小さく呟
き、草刈鎌を握る右手を掲げた。

「生き残ろう」

 生き残るために人を殺そう。
 これは、正当防衛なのだ。


387 : ◆//Muo9c4XE :2007/10/18(木) 21:55:55

【パペットマペット】
所持品:マペット1体(かえる)、草刈鎌
第一行動方針:生き残るために訪問者を殺す
基本行動方針:生き残るために人を殺す
最終行動方針:生き残る
【現在位置:I6 集落の民家】
【8/15 16:50】
【投下番号:287】


388 :名無し草:2007/10/18(木) 22:36:47
GJ!!
マペットを「手袋」と呼んだ所で鳥肌たった!

389 :名無し草:2007/10/19(金) 17:37:15
新作乙です。
久々にパペマペキター!
前から不安定だったがついに本格的にマーダー化か……

390 :名無し草:2007/10/19(金) 22:12:54
新作乙です。パペマペ編楽しみにしてたので嬉しいっす。
うしくん置いてかれた…(´・ω・`)

391 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/21(日) 00:49:42
お久しぶりです。バナナマン日村編です。>>299-301の続きでもあります。


真っ赤な太陽が沈もうとしている。日村にとって、この島についてから二度目の夕陽だ。
赤褐色の陽光が木の葉の間からこぼれ落ちてくる。まるで血の色のように思えて、日村は背筋を寒くした。
深く暗い森を一人で歩くのは心細いものだ。やがて夜がやってくれば、余計にあたりは気味の悪さを増す。
かといって今、森の中で誰かに出会うというのも、あまり良いことだとは思えない日村だった。
何しろ、彼はつい2時間ほど前、長年のつきあいである土田に危うく殺されかけるところだったのだから。
幸い、思いもよらぬ江頭の登場で日村の命は救われたが、あの一件は彼の心に暗い陰を残していた。
この場ではよく知った友人にすら、殺される可能性がある。その事実は、日村の胸を深く抉っていた。

とはいえ、人の好い日村のことだ。不安な思いを募らせながらも、疑心暗鬼には陥らなかった。
自分を殺めようとした土田すら、「何かの間違い」でそうしたのだ、と彼は信じている。
いや、土田を“信じている”と言うより“信じたい”のかもしれない。可能性に縋っているのかもしれなかった。
誰だって、十数年来の友人が自分を傷つけるような、殺そうとするような人間だとは思いたくない。
それでもあのような目に遭えば考えを変えざるを得ないのが普通だろうが、日村は違っていた。
全く疑っていないわけではないが、何か理由があるのだと思うことで、彼はまだ土田を信じようとしている。
信じるための可能性が何もかも奪われてしまうまで、日村は土田を信じていたかったのだ。

愚かな考えかもしれなかった。友とはいえ、命を狙われた相手を信じるなど、甘すぎるのかもしれなかった。

だが、その甘さは、日村勇紀の真に愛すべき美点だ。そしてその美点こそ、来るべき未来の扉を開く鍵だった。
甘く、愚かで、下らない、だがあまりに美しい他者への信頼が、神に見放されたこの島で、人々の運命を変える。
それはまだ、遥か先の出来事であったが、このときすでに種は蒔かれていたのだった。



392 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/21(日) 00:52:19

もちろん、日村自身は自らの行く先など知る由もなく、ただ怖々と森の中を歩いているだけにすぎない。
彼の目下の望みといえば、早々に設楽と合流したいという、ごくごく単純なものだった。
日村が今歩いているのはG5の森の中で、いまだ学校から真西と言える方角まで戻れてはいない。
先は長そうだったが、所詮は小さな島の中だ。命さえあれば、いずれ出会える可能性は低くなかった。
別れる前、混乱した状況の中で、せめて方角だけでも言いおいた設楽は慧眼だったと言えるだろう。
冷静で聡い日村の相方は、少なくとも昼12時の放送ではまだ、死者の列に加わっていなかった。

 …設楽さん、いま何してんだろう。

日村はぼんやりと、設楽のことを思う。もうあと1時間半ほどで18時の放送が流れる時刻だった。
その放送で設楽の名が呼ばれる可能性もある。けれども、日村はその名を聞く未来など微塵も想像していない。
一瞬でも、「死んでいるかもしれない」などと考えることは禁忌だった。間違ってもあってはいけないことだ。
自分の命が危険に晒されるという経験をへて、日村は設楽の生に関するネガティヴな発想を自らに禁じていた。

 …設楽さんもどっか歩いてんのかな。それとももう西の端まで着いてるとか?
  俺のこと待っててくれてるかな。なんだかんだ言って待っててくれるって信じてるけど。

ひとつ年下の彼の相方は、ときに笑って日村をけなしたりもするが、していいことと悪いことは心得ている。
真剣に話そうとしても、のらりくらりと躱しながら本心を隠すことも多いが、大事なことははずさない。
そんな設楽だからこそ、日村はいま、こんな状況にあっても信じることができるのだった。

 …設楽さんで、よかった。

芸人のコンビには互いの仲が芳しくないものも多い。にもかかわらず、幸いにして彼らの関係は良好だった。
この状況下において、たった一人でも公私をこえた信頼に結ばれている相手がいることは、とても幸福なことだ。


393 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/21(日) 00:53:44

そんな幸福をかみしめていたそのとき、足下を見ずに右足を踏み出した日村は、うっかり大きめの石を踏んだ。
ありがたいことに足首をひねったりはしなかったが、足裏にできていたマメに直撃したのが問題だった。
あまりの痛さに思わず、荷物の穴を塞いでいた手をはなして、右足の甲をつかんで片足立ちになる。
そのままバランスを崩して数歩、けんけんをしながら前へ危なっかしく進んだあと、日村は前のめりに倒れた。
あいた穴を手でおさえるために前に背負っていたカバンがクッションになり、多少転倒の衝撃は和らいでいる。
しかし、とにかく足の裏の痛みが強烈で、日村はしばし地面の上で転げまわった。

 …いてえええええええええ!

声は出さず、目に涙をにじませながら、カバンを腹に抱えてごろごろと左右に転がる姿は、実に滑稽だ。
が、残念ながらそれを映すテレビカメラは存在せず、その笑いを誘う動きは誰にも知られず終わった。
痛みと自分でした回転運動にいくぶん息を切らしながら、日村は何とか立ち上がろうとする。
見れば、回転の衝撃でデイパックの穴からバラバラとこぼれ落ちたBB弾が、そこらに点々と散っていた。
穴を再びおさえつつ、少し弾を拾おうかと日村は腰を屈める。そのとき、彼の視界に何か茶色いものが映った。

 …なんだ、コレ。

手を伸ばして拾い上げてみれば、それは紙の巻かれた筒状のもので、わりあいに柔らかく重みがあった。
羊羹か外郎のような質感が奇妙で、ちょっと不安を感じながらも一応その物体を調べてみる。
茶褐色のしぶきのようなものが、巻かれた紙にうっすらと散っているのを見つけて、日村はぎょっとした。
が、『これは血などではなく泥ハネなんだ、きっとそうだ』と信じることにして、またその物体を弄りはじめる。
そのうち、内部に挿しこまれた細い紐のようなものが先から出ているのに気づいて、彼はそれをつまんでみた。
触っているうちにそれがどうやら導火線らしいとわかって、日村はようやくその筒の正体に思い至る。
推測が正しくないことを祈りつつ、周囲に巻かれた紙を再び見た彼の目に、予想通りの商品名が飛び込んできた。


394 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/21(日) 00:55:43

 …えぇー…。設楽さーん、俺、ダイナマイト拾っちゃったんですけど…。

とんでもない拾得物にくらりとしながらも、脳内のもう一人の日村は慌てるよりむしろコミカルな反応を返す。
彼は、この非日常的な状況と非日常的な拾い物を深刻に受けとめるより、逆に茶化してしまいたくなったのだった。
それは非常に芸人らしい反応といえば反応なのだが、そんなことでこの状況を打開できるはずもない。
握りしめたダイナマイトをどうしたものかと思案した日村だったが、もう一度そこに捨てる気は起きなかった。

彼には無論、それを武器にするつもりなどない。だが、持っていれば騙しや威しには使えると考えたのだ。
土田と対峙してなお、彼が友への猜疑心を抱くことはなかった。が、保身の手段の必要性は存分に思い知らされた。
確かに、撃っても痛いだけのガスガンでブラフをかけるより、使う気のないダイナマイトで脅す方が真実味はある。
本当に殺せる武器を使用するのとしないのとでは、演技の緊迫感に差が出るという日村なりの考えがそこにあった。
舞台に立つ者らしい結論で、日村は、ダイナマイトをいざというときの演技の小道具のひとつとして手に入れる。
夏の気候のおかげですっかり乾いたカバンに、拾ったダイナマイトをそっとしまうと、彼はまたせっせと歩き出した。
…そこからしばらく進んだところで、日村はできれば見たくなかったものを目にすることになる。

片手を伸ばしてうつぶせに倒れた、血まみれの死体。周囲を蠅が飛び回りはじめている。

あまりのことに日村は、頭の中でナムアミダブツ、ナムアミダブツ、と漢字表記すら記憶にない念仏を唱えた。
恐ろしさに彼はその死体を正視できず、そうっと避けて脇を通りながら、先を急ごうとする。
途中、下を向いた死体の顔で唯一確認できる、右耳から頬にかけてのラインが一瞬、日村の目に入った。
そのラインはひどく特徴的なものというわけではなかったが、彼の記憶の中のある人物のものと一致する。
思わず足をとめ、おそるおそるのぞき込んだ死体の顔はやはり、日村の知人のそれだった。

永塚勤こと、つぶやきシロー。
日村個人の芸歴から見れば後輩で、バナナマンとしては同期のピン芸人が、そこで息絶えていた。



395 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/21(日) 01:00:16
つぶやきは、日村にとってそれほど関係の深い人物ではなかったが、同じ事務所の芸人だ。
仕事で顔をあわせることもそれなりにあったし、まったく知らない相手ではなかった。日村はぐっ、と唇を噛む。
小沢の死を放送で知ったときとはまた違う衝撃が、彼を襲った。今度は目の前に、知人の遺体があるのだ。
しかもそれは、どう見ても安らかなものとは言いがたい死を迎えたように思われるものだった。
血まみれの背中は、見れば何かで刺されたような穴があいていたし、左の脇腹にはドライバーが刺さったままだ。

 …せめて、ドライバー、抜いてあげよう…。

脇腹からドライバーの突き出す姿があまりにも痛々しくて、日村はおずおずとその緑の柄に片手を伸ばす。
引っぱると、握った柄から手のひらに伝わる、絡みつく肉の抵抗感が生々しくて、彼は吐き気を催した。
それでも日村は、かたく目をつぶって喉元まできた胃液を無理に飲み込みながら、必死で耐える。
ずるりと抜きとったドライバーは脂と血にぬめっていて、よけいに日村の胃の内容物を食道へと逆流させた。
せり上がってくる、苦いような酸っぱいような液体を、何とか吐き出さずにやりすごして、彼は溜息をつく。
ドライバーをそっと遺体のそばに置いた日村は、その場にしゃがみ込むと、しばしの黙祷をつぶやきに捧げた。

日村は知らない。そのドライバーが藤森の手でつぶやきの脇腹に刺されたものであったことを。
日村は知らない。自分が拾ったダイナマイトが、本来はつぶやきに支給された武器であったことを。

つぶやきが藤森を殺そうと首を締め上げ、逆にドライバーで刺されて命からがら逃げ出したあのとき。
つまずきそうになりながらその場を離れようとしたつぶやきの前に落ちていた、支給武器のダイナマイト。
咄嗟につぶやきはそれを拾い、そのままひたすら逃げる最中、握力を失って気づかぬうちにまた落としていた。
そして十数時間後、たまたま日村が最後につぶやきの歩いた道を通り、ダイナマイトを発見したのだ。
今、日村のカバンの中にあるダイナマイトは、つぶやきシローの形見ともいえる品だった。

黙祷を終えた日村は、立ち上がると小さくつぶやきに会釈をして、その場を去る。
彼のめざすH5の小屋まではまだ、しばらくかかりそうだった。




396 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/10/21(日) 01:02:24
【日村勇紀(バナナマン)】
所持品:ガスリボルバーM19コンバットマグナム4インチ(24連射・24/24)
BB弾控え(1809)、ガスガン用ガスボトル(1)、ダイナマイト(1)
水なし、食料半分粉々
第一行動方針:設楽との合流
基本行動方針:設楽との合流
最終行動方針:設楽と合流してから考える
現在位置:川(用水路)の近くの森(G5)
【8/16 16:47】
【投下番号:288 】


397 :名無し草:2007/10/21(日) 03:27:48
>>391
日村編乙!
相変わらずホンワリな雰囲気で安心した
不幸になってほしくないキャラだー

398 :名無し草:2007/10/21(日) 21:45:02
>>396
乙です!
つぶやきの遺品ダイナマイトがどう絡むのか、
というか日村の癒し(?)キャラに影響してしまうのかガクブル…

399 :名無し草:2007/10/24(水) 18:29:10
ほす

400 :名無し草:2007/10/25(木) 08:03:30
ほしゅ

401 :名無し草:2007/10/27(土) 02:03:39
ほしゅん

402 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 19:52:05
>>354-359の続き


「藤田? お前ら一緒やったん?」
哲夫はいきなり声をかけられて驚いた様子だったが、それでも大村の問いにこう返した。
「はい、今朝はぐれちゃいまして」
「そうか、大変やなあ」
哲夫は普段の仕事場で会ったときのように話をしてくる。その態度に安心しながら、あまり時間をとるわけにもいかず、
また質問しようとした。
「あの、」
そこで不意に気付く。哲夫の左肩にネクタイが巻かれている。なぜ首じゃなくてそこに? と思うまでもなかった。肩に
巻かれた部分がどす黒く変色していたのだ。
「怪我、大丈夫なんですか?」
質問を変更する。よく見ると、スーツのあちこちが破け、傷口が見えていた。
小さな裂傷なら木の枝に引っ掛けた可能性もある。しかし、あれほどの出血は、故意に傷つけられない限り見られない。
大村は殺し合いという事実を初めて目の前に突きつけられ、表情を曇らせる。裏腹に、哲夫は特に痛がる素振りも見せ
ず答えた。
「ああ、血は止まったみたいやし、平気やで」
「そうですか。いったい誰が」
「んー、誰でもええやん」

よくないですよ、という言葉を飲み込んだ。
これから警戒するためにも襲撃した人物は知っておきたいのだが、哲夫が言葉を濁すということは哲夫に近しい人物
なのだろうか。自分に襲い掛かったことを信じたくないほどに。
近しい人物といえば、確か哲夫の相方の西田は真夜中の放送で名前を呼ばれていた。あの時は信じていなかったが、
もうこの世にはいないということになる。もしかしたらその傷は西田の死と関係があるのかもしれない。だから多くを語り
たくはないということか。

403 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 19:54:13

大村は無理に聞きだすのをやめ、当初の質問をもう一度する。
「それで、藤田のこと、見てないんですか?」
「見たよ」
「どこで!?」
「この島の一番西の、なんか岩がごつごつしたとこで」
「はい?」

ここは島のどちらかといえば東側だ。大村が北の港からここに来るまでに、哲夫が西の外れで藤田と会って、
ここまで来るのはほぼ不可能だ。
「あの、それいつのことですか?」
「昨日の、最初の放送の後くらいやったかな」
「それ俺と会う前じゃないですか。俺は今日の、俺とはぐれた後のことを聞いてるんです」

いつもならこんなくだらない遠回りなやり取りもそれなりに楽しめる。しかし、今こんなことをしている間にも自分
と藤田の差がどんどん開いていると思うと、哲夫のノリはただ苛つくだけだ。
自分が言えた立場じゃないが、この人はこの状況がわかっているのだろうか。人の邪魔をして面白がっている
場合じゃないだろう。殺す側に回った人がいるってことはこの人がよくわかっているはずなのに。

おそらく哲夫からは何の手がかりも得られない。それを確認したら、会話に付き合わずに立ち去ろう。そう決意
して、大村が口を開こうとした矢先、哲夫から逆に質問された。
「お前、武器持っとらんでええの? ハズレやったん?」
「いえ、むしろ当たりのほうですけど、」

とっさに口をついて出た嘘だった。
いくら苛つくからって、嘘をつくことはないだろう。頭の一方でそう言う自分がいる。もう一方では絶えず鳴り響く警報。
急いでいることは伝わっているはずだが、それでも引き止めたいかのようにだらだらと話を続けようとする。それが
哲夫が何らかの思惑を持っているように見えてならない。
哲夫を露骨に警戒するつもりはないが、今は藤田の捜索が最優先だ。相方を優先するのは不自然でもなんでもない。
あと二言三言会話したらもう行こう。そう頭を切り替えた。

404 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 19:56:12
哲夫は出来の悪い生徒に説教をする教師のように大村に言った。

「あかんやん。すぐ使えるようにしとかんと」

それはわかるんですけど、使いたくないんです。
哲夫の言葉を受けて、大村はそう返そうと思った。
しかし、声が出ない。胸の辺りが熱い。

「俺みたいなんに急に襲われんで」

哲夫の顔がやけに近くにあった。さっきと同じ、少し呆れたような表情だった。
大村はその言葉の意味がよくわからないまま、視線を下に移す。哲夫の右手が大村の胸から生えているものを掴んでいる。
生えている?
哲夫がそれを引く。千枚通しだ。その尖った先端が引き抜かれるとともに、赤い滴が数滴飛び散る。
それを確認した途端、大村は全身から力が抜け、膝から地面に倒れた。

熱い胸を押さえても、血はどんどん流れ出し、痛みは一向に引かない。息をするたびに喉の奥のほうで泡立つような音がする。
不審な態度の理由がわかった。大村を殺す機会をうかがっていたからだったのだ。
甘く見ていた。知り合いを殺そうと思う人なんていないとまだ頭のどこかで思っていた。
こういうことか。藤田が言っていた、みんな知ってる人間じゃなくなってるっていうのは。

「ほんまに大当たりやな自分」
頭上で哲夫の声がした。見上げると、哲夫が大村のディパックの中から銃を取り出していた。
哲夫は銃口を大村に向ける。
「俺がちゃんと使ったるから、安心して死んどき」
薄く笑った哲夫を見て、大村は目を閉じた。
きっと自分は死を覚悟したように見えているだろう。そして、哲夫はそれを見てますます満足そうに笑っているのだろう。

405 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 19:58:17
一瞬の静寂、それを破る間抜けな電子音。

大村は目を開け、哲夫の表情を見た。
呆気にとられた顔で、銃口から旗の飛び出したおもちゃを構えたまま固まっている。

大村はこらえきれず笑い出した。傷口が激しく動き、痛みと苦しさで表情が歪む。それでも笑いは止まらない。
「哲夫さん、こそ」
引きつった呼吸で時々咳き込みながらも、笑顔で大村は言った。
「人の、言うこと、鵜呑みに、しないほうが、いいっすよ」
とっさについた嘘で哲夫のこんな顔を拝めるとは思わなかった。刺されて立ち上がれない状況なのに、大村は
自分が優位に立てたような気になる。
無論それは大村の気持ちの上だけでのことで、大村の命が哲夫に握られているのには変わりない。

「やってくれたな」
憮然とした表情で、哲夫が銃を投げ捨てた。地面に落ちた衝撃で、旗を支えていたプラスチックの棒が真っ二つに折れた。
哲夫が千枚通しを振りかざす。
大村は胸部を庇うように体を丸め、横に転がった。
そして寝転んだまま蹴りを入れる。哲夫のすねの辺りに当たったらしく、哲夫が後ずさるのが見えた。

目が回る。命に関わる傷だと頭では理解しているが、殺されるのをおとなしく待っていたくはない。
会わなければならないのだ。藤田にもう一度会って、今朝のことを謝って、今度こそはコンビとしてこんな馬鹿げたことに
惑わされずに生きたい。

膝をつき、体を起こした。視界に哲夫はいない。後ろか。振り返ろうとした。
左肩に鋭い痛みが走った。逃れようと体を振り、崩れた体制を腕で支えて前に進もうとする。
しかし、後頭部を押さえ付けられ、そのまま地面に倒された。
顔を強かに打つ。目を回している場合ではない。這ってでも逃れなければ。
腰に何か乗っている。動けない。
無防備にさらけ出された大村の背中に哲夫が千枚通しを突きたてた。一度では飽き足らず、突き刺してはすぐに抜き、
別の場所に突き刺すことを繰り返す。
大村に残された抵抗の手段は、歯を食いしばり、千枚通しの侵入を1ミリでも阻むかのように全身を緊張させることくらいだった。

406 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 20:02:47
硬いものに当たったような感触がして、哲夫は千枚通しを引き抜いた。
こびりついた血を指先で軽く拭い、先端をよく観察する。曲がったわけではなさそうだ。指で先端に触れて、
その鋭さが失われていないことも確認する。大村の武器がハズレだったので、これにはまだ活躍して
もらわなければならない。
そして、大村の様子も見た。全身が弛緩していて、動き出しそうな気配はない。これだけ背中に穴を開けて
やったのだから当たり前か。
大村の上から降り、投げ出していたデイパックを取る。そして大村の食料と水を自分の荷物に詰め替えた。
当たり前だが多少減っていた。それでも水がペットボトル1本分残っていたのはありがたい。

立ち去ろうとしたとき、あのおもちゃが目に入った。
大村の苦しそうで、それでも心底楽しそうな笑い声が耳の奥で鮮明に蘇る。
思わず大村を見た。さっきと同じ姿勢で倒れたまま、背中を震わせていることもなかった。
舌打ちを一つして、哲夫はその場を去った。
あの銃がおもちゃでなく、大村の大好きなドッキリに引っかかったりしなければ完璧やったのになあなどと考えながら。



407 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 20:03:56

始めのうちは鋭い痛みだったが、最後のほうは何かがぶつかってくるようにしか感じなかった。
その感覚も今はない。哲夫の気配は感じられず、大村はやっと解放されたかと思った。それが助かったことと
直結しないのはよくわかっているのだが。

もう目はほとんど見えないし、鼻も血の匂いで麻痺してしまったらしい。舌も鉄の味がかすかにわかる程度だ。
蝉の声を拾う耳だけが、まだ働いていた。しかしそれもやがて止まってしまうだろう。

もうすぐ自分は退場する。それはこのゲームフィールドだけではない。この世からだ。そうすればもう、この
世界に関わることは二度と出来ない。
まだこの世界にいるうちにやらなければならないことがある。

木の枝を踏んだような音が聞こえた。こちらに向かう人間がいる。
誰かなんて考えるまでもない。藤田でなければならない。
頭を持ち上げるのがこんなに重労働とは思わなかった。
視界には何も写らないから、音のほうに顔を向ける。
今言わなければ、二度と伝えられない。

「ごめん、な」


408 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 20:05:34
全ての息を吐き出すように言葉を発すると、大村は頭を地面に下ろし、それきり動かなくなった。

とろサーモン村田はその一部始終をただ見ているしかなかった。
「大村さん?」
返事はない。村田は傍に膝を付き、何度か揺さぶってみる。反応はない。
湿った感触に手を見ると、手のひら一面が真っ赤に染まっていた。
腰から力が抜ける。よく見ると背中の至るところに穴が開いている。
手で顔を覆おうとして、血の臭いを直に嗅いでしまい、思わずえづく。
生唾を飲み込み、地面に爪を立てて、胃を押し上げる不快感と押しつぶされそうな負の感情に耐えた。

目の前で人が死んだ。よく知る人が滅多刺しにされて、自分に向かってすがるように言葉を吐いて息絶えた。
今までの3回の放送でよく知る芸人の名前は何人も読まれていた。それだけでも気分は深く沈んでいったのに、
それよりも何倍も重い無力感が圧し掛かる。
傍らにおもちゃの銃が落ちていた。銃口から旗が飛び出したままで、軸が折れている。これで脅して相手に立ち
向かったのだろうか。それでも力及ばず殺されてしまったのだろうか。どんなにか無念だったろう。
ごめんなだなんて、こちらこそ助けられなくてごめんなさいだ。

そこで気付いた。どういうつもりで大村はそんなことを言ったのか。
村田には大村に謝られるようなことに心当たりはない。ということは、村田を誰かと間違えてそう言ったのだと
考えるのが自然だ。
そうなると真っ先に思い浮かぶのは相方の藤田だった。何かしたことについてのごめんなのか、先に逝ってしまって
ごめんなのか、どちらにしろ藤田には知らせておくべきだ。

体に力が戻ってくる。一度深呼吸をし、村田は腰を上げた。まず、おもちゃの銃を拾い、自分のディパックにしまう。
藤田に会えたら渡すつもりだった。それから大村の目を閉じさせ、姿勢を整えてやる。仰向けにしたときに胸にも
刺し傷があることに気付き、また胸が痛んだ。
手を合わせ、小さな声で告げる。
「藤田さんに会えたら、謝ってたって言うときますから」

探すべき人が一人増えたが、気にしないことにした。
大村の最期の言葉を伝えなければならない。あの言葉にはそれが自分の使命だと思わせる力があったのだ。

409 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/10/28(日) 20:07:19
【トータルテンボス 大村朋宏  死亡(失血死)】

【とろサーモン 村田秀亮
 所持品:おもちゃのピストル(破損) 他不明
 第一行動方針:相方や知り合いを探す
 第二行動方針:藤田を見つけて、大村の遺言を伝える
 基本行動方針:生存優先 戦いは避ける
 最終行動方針:未定】
【笑い飯 哲夫
 所持品:ペーパーナイフ 千枚通し 煙草 ライター
 状態:左肩に刺し傷 やや不機嫌
 第一行動方針:もっといい武器を探す
 基本行動方針:生存優先  殺せる相手は殺す
 最終行動方針:優勝】

【現在位置:C-7・森】
【08/16 10:00】
【投下番号:289】

410 :名無し草:2007/10/28(日) 20:21:31
投下乙です。
大村逝ったか……
村田が藤田に巡り会えるかに期待

411 :名無し草:2007/10/28(日) 21:56:24
乙です。
悪戯好きの大村さんらしさがよかったです。久保田さんが藤田さんに会えるのを願ってます。

412 :名無し草:2007/10/28(日) 21:59:43
間違えました。
久保田さんじゃなくて村田さんでした。
拙い感想の上に名前間違え、スレの消費すいませんでした。

413 :名無し草:2007/10/30(火) 05:05:27
>>409
新作乙です。
大村…………(´;ω;`)
哲夫と会った時点で嫌な予感はしてたけどやっぱり来たか……

>>412
いや、そのくらいのミスならそこまで気にしなくていいと思いますよ。
感想は書き手にとっての一番の励ましになると思うので、これからもどしどし感想お願いします。

414 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:10:49
ダブルブッキング編 まとめサイト279続き
『Cue.』


 ・・・Give me a Cue. i think i've nearly found you

再び黒田は1人となった。
前日も長らく単独行動はしていたが、相方と出会ってからは二度と1人で歩き回ることなどないと
思い込んでいたために、自分で選択した筈の、今ある現実はどこか幻のように感じられる。
島全体を覆う身を刺すような緊迫感に、纏わり付く熱気と湿気が伴い、
異様な不快感となって黒田を追い立てる。

彼の心は、空虚だった。

彼がどうして1人になって考えることを決めたのか。
考えること自体は、どこであっても出来る。川辺で川元と共にいながらでも、
模索しようとすることそのものは簡単だ。
しかしそれによって答えに辿り着けるかというと、話は別である。
勿論これまで自分達が存在していた日常の中で、
特に黒田にはありがちだったいい加減で妥協し切った回答を出すことと言えば可能であろう。
今はそれとは状況が違う。
浅はかな思いつきでの行動は取り返しようのない凄惨な未来へと繋がって行く。

それを拒むために必要なことはただ一つ。自らに重大な決断を課すこと。

そのためには近くに、心を許しつい甘えたくなるような人物がいてはいけない。
自然と厳しい決意をする気持ちが萎えてしまうから。
無意識の内に黒田はそれを悟った。だからこそ疲労の溜まった身体に鞭打ち、
半ば無理矢理に相方の元を離れたのだ。不安にさせてしまうことは分かっていたけれど。それでも。


415 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:11:58

 ・・・Give me a Cue. i can see clues all around me


 『コンビで生き残りたいんです』
鮮やかな程にはっきりと川元は言った。改めて知った相方の強い思い。
それは黒田もまた同じ。
…筈だった。
最初にそう思って、出発し、相方を捜し求め、苦心の末に出会い、共に生きて行こうと誓った―筈が。
それをぐらつかせたのは黒田自身による甘い考え。コンビでの生存を最優先するべきところに、
勝手に他人を介入させ、結果があれだ。
川元に迷惑を掛けただけではない、互いにとって唯一の希望を危うく潰してしまいそうになった。

「…俺は一体、何がしたかったんだよ」
自問自答を敢えて口に出してみる。鼻に掛かったその声は、今やいつもの明るさを失いあまりにも空ろだった。
「俺も元はぶんちゃんと同じだった筈なんだよ。ぶんちゃん以外の人間なんてどうでもいいって、
だから始めに磯山さんを殺したのだって後悔しなかった。
そんでコンビで出来るだけ生きてたいって、2人で話してて思ってたのに。なのに他人のことも考えようとしてて
…そんなの矛盾してるのに、コンビでだけ、って考えに…。俺は、何がしたかったんだろう?」

そうだ。『罪を重ねたくないという意識』も、『人間らしい感情』さえも、
2人で生きていくという方針に於いて何の役にも立たないではないか。

回想と思考が繰り返し回り続く。湧き出てくるのはやるせなさ、激しい自責の念。
「あんなんじゃないんだ、違う、俺が本当にやりたかったのは……やらなきゃいけないのは………」


416 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:13:09


やらなければいけないこと。

「考える」とは言い様、正確には、既に回答の目処は立っている。
自分がこの状況で何をすべきなのか。先刻の川元の言葉を聞き、また本来貫こうとしていた意思を取り戻し、
川辺へと歩く時間中考えに考えて、雑然とした思考から黒田なりに、「最良の道」を探り出したのだ。
それが、自らと川元のために出来ることとしての、最善の案であり限界点。そう確信している。
そして当然のことながら、それを川元に伝え、実行したいと思っては、いる。
しかし、考え当てることと実際にやれることとはまた別の話。例え他に選択肢がないとしても、
自分で見定めたその道は余りにも険しく、重い。

胸に重く重く圧し掛かる、未だ半端な決意の塊。
彼に巣食ったそれは足を進める毎に容赦なく膨れ上がり、
精神的な圧迫が巨大な万力のように脳を締め付ける。
苦悩が目眩を呼び起こした。目を何度も瞬かせながら耐え、歩く。歩き続ける。
辺りに生い茂る草木さえぼんやりと掠れてよく見えないまま。

ざわざわ、と木の葉が風に揺すられて不気味に騒ぎ、荒れた心を一層に掻き乱す。


417 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:14:22

「俺がバカだったよ、ごめん、本当にごめん、ぶんちゃん、ごめん……」
軋む音が反響する頭を抱え、うわ言のように呟き続ける。
「このままじゃコンビで生きてなんかいけない。このままじゃ全部俺が駄目にしちゃう。そんなのはもう嫌だ…
俺が…俺が何とかしないといけないんだ。2人で生き残りたい。2人でコンビとしていたい。それだけなんだから」
ひたすらに、自らに言い聞かせるために発する声。

「だから他のやつなんて、もうどうでもいい…そう思わないと、駄目だ」

30年間生きてきてずっと持ち続けていた『理性』を、彼は必死に棄てようともがいていた。
もうそれが通用する世界には帰れないのだ。失ったところで何の不都合もあるまい。
誰に咎められることも責められることもない。
けれども。それは自分自身をも棄て去ってしまうことにも似て。
ただ恐ろしかった。


 ・・・The Crying of the Air



418 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:15:29

と、
前方だけに目をやりながら動かしていた足に、突然何か硬いような、軟いような、
不思議な感触のものがぶつかって蹴躓いた。
「っ、ぅわ」
危うく倒れそうになり、蹈鞴を踏みながら何とか堪える。
障害物に当たった箇所は痛まないが、揺られた頭にぐわんと割鐘を叩くような音が響いた。
「…っう…」
鈍痛に耐えながら、何とはなしに自分の足を取ったものの方へと視線を動かす。


―そこにあったのは、人間であった。

否正しくは、元は人間であったもの。

足元に、1つの死体が転がっている。とは言っても、木の根元に丁寧に横たえられた姿勢で。
察するに、恐らく誰かしらがこの人間の死を悼みつつ、ここにそっと寝かせて置いたのだろう。
彼が躓いたのは、だらりと伸びたこの死体の脛。  
死後硬直を起こしているらしくがちがちに固まっており、
酷く蹴飛ばされたにも関わらず真っ直ぐなまま微動だにしていない。
黒田は死体につられるかのように、その場に固まり立ち尽くす。
彼が死後しばらく経った死体を見るのはこれが初めてであった。
視線を逸らしたいのに、どうしてか、逸らすことが出来ない。
見下ろした顔には覚えがあるような気がする。しかし霞んだ視界が、焦点を合わせてそれを確からしめることを拒む。
動けない身体に震えが生じて、動悸と共に段々段々激しくなっていく。


419 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:16:48

―死体は、今やその死を悼んだであろう人物の心を嘲笑うかのような様相を呈していた。
真夏の高温にすっかり傷め付けられ、全身から腐敗臭を放つ。鼻腔を突く臭いが辺りに漂っていた。
更にこの臭気に誘われて、群がって来ている無数の虫。
空中には太った蝿が狂い飛び、地では埋葬虫が行き来する横で蟻が行列を成す。
顔、腕に足など、露出した肌の上には所狭しと、黒光りする甲虫やらムカデやらが
触覚を忙しく動かしながら這い回っている。

彼らは特に人体の柔らかい部分を好んでたかり集い、浅ましく場を争い合っていた。
穴が開き、乾いた黒い血がべったりと張り付いた腹部から、忙しなく出入りしては肉片を切り取り奪い去って行く。
齧られ吸われしてぼろぼろになり、気味悪く変色した皮膚。
薄っすら見える体内にびっしりと蠢く白い糸―蝿が産み付けた卵が蛆となり、深部までを侵し尽くしているのだ。
破れてぐずぐすになった頬肉からも新たな蛆が次々に生まれ、無限に涌き出でて来るのが見える。
絶え間のない羽音は、悪魔か何かがさざめき笑う声の如く。

本格的に腐って溶け崩れ始めるのも時間の問題であろうが、
もう既にその身は、生前の容貌を保ってはいない。無残に変わり果てた姿。
小さな地獄の光景。

所々に空洞の出来た顔。よくよく見れば唇が薄っすらと開かれている。死ぬ間際に喘ぎ苦しんだためだろうか。
時折虫が迷い込み迷い出するその口は、目を離せないままでいる黒田に向かって、
醜い様を見てくれるなと訴えかけているようで。


420 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:18:00

戦慄が走り、肌が粟立った。

全身の震えは痙攣にも近い程に強くなる。
伝い落ちていく汗は大粒の雨にも似て。

「うわ、ぁ、あああ、うわあああああ!あああ…!!」

逃げ出した。
言葉にならない声を上げながら、足を縺れさせ、幾度も倒け転び、
こみ上げる猛烈な吐き気に喘ぎながら、走った。

「 ああぁぁ …!!」

逃げて、逃げて、逃げた。
死体は追っては来ない。虫達も生者を求めはしない。
それでも、あの光景は黒田を追って来る。執拗に。
脳裏にこびり付いて、決して離れない。
心に迫り来る形を成さないもの。
慄き、叫び、逃げ惑う。
どんなに走っても、振り切れないのに。


「     ――!!」

    やがて、歪む。 皹が入る。
  

   黒田に止めの一撃を加えたのは、あの定例の放送であった。


421 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:19:17


『諸君、頑張ってるね。また大勢死んでます。それじゃ発表いくぞー』


(  あ      )


『 ―番、――、えー次は、―番――、―番の――、―番… 』

次々に告げられるのは、死亡者の名。
やがて先刻の死体のように、無様に朽ち果てていく運命を辿る者達。


    フラッシュバックする映像―死体。血。銃声。肉体を貫く弾丸の手応え。虫。腐肉。
    そして何故か、小さく頼りなげな後姿。 揺らいでいた瞳。




(  わ あ   あ     あ     あ)


  ―――



422 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:20:25

  弾かれて、派手に音を立てて砕け散る。
  後にあるのは残骸。二度と元の形を成すことのない破片。


草むらに突っ掛かって、転んだ。冷たい土の上に倒れ伏した。
逃げ始めてからこれで何度目になるだろう。
しかし、今度は立ち上がれなかった。
うつ伏せた背の上にも未だ、スピーカーから流れる音声が雹のように降って来る。

「あああ、あ…うあ  …」
地を掻きながら、呻く。異常なまでの震えは止まらないままで。

(死んでいく。皆死ぬ。死んでる。
駄目だ。駄目だ、このままじゃ駄目だ。
このままじゃ、生き続けられない。放送で呼ばれた人達みたいに、
死ぬ。殺される。誰かに殺されてしまう。

もしぶんちゃんが、殺されてしまったら、死んでしまったら、

そうして、ぶんちゃんの名前が、ああして読み上げられて
 どこかでたったひとりで血を流して、
あんな風に、転がって腐っていって、 

ダブルブッキングは、永遠になくなって          )

“ 僕は、 僕は     コンビで生きていたいんです”


423 : ◆hfikNix9Dk :2007/10/31(水) 22:22:31

(嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ…そんなのは嫌だ
絶対に絶対に絶対に嫌だ
そんなのどうしても どうしても 駄目だ

だから、そうだ
俺が何とかしないと。俺がそうなるのを止めないと。拒まないと。
俺が変わらないと。変わって、それで     

ぶんちゃん、      
俺は、
          )

『―はい、今回の連絡は以上。引き続き皆頑張れよ。さっさと殺して人数減らしてくれよな』

ブツリ、と、音が切れた。
静寂を埋めるかのように、再び木々が揺れ騒ぎ始める。


―黒田は、まだ、立ち上がらない。


 ・・・Must be a way to get out of this Cul-de-sac



424 :◇hfikNix9Dkさん代理:2007/10/31(水) 22:39:22

【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:ワルサーPPK(5/7) 、控え銃弾(5発)
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:


【現在位置:森(F5)】
【8/16 18:12】
【投下番号:290】



425 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/11/01(木) 23:56:21
”鳥肌実『我が闘争』(1)”


ここからの文章は、本プログラムの参加者 番の提出物に記されたものである。
奇天烈な文章は偏見に満ち尚且つ稚拙で、正常な倫理観を持つ諸兄には読むに耐えないのは承知の上であるが
参加者本人が記録した貴重な資料として今回報告させていただく。
もちろん不愉快極まりない表現については削除したが、それ以外の文章については手を加えてはおらず
若干の不快感を覚えるであろう事は予想されるがどうかご容赦願いたい。
尚、( )内の文で無印は 番本人が書いたもの、※は委員会が補足に書き記したものである。

(2006年度BR委員会)

  ※※※※※※


バトルロワイアルに参加するにあたってのわたくしの任務は、この受信機で216番の行動を記録し
委員会に報告することでございます。何でわたくしがどこの馬の骨とも知れない輩の気持ちの悪い息遣いなんぞ
四六時中聴かねばならんのだと思いますが、敬愛する陛下のご命令とあらば従わぬわけには参りません。
早速首都に向かって敬礼でございます!

で、何ですかこいつは、ねえ?216番!
さっきからおそ松君の六つ子の名前が思い出せないとかほざいております。
全く赤塚不二夫先生の稀代のギャグ漫画の主人公も知らんとは。こんな奴がいるから若者は駄目なんだよ。
大体蝉の多い所を通るな煩いんだよ!わたくしの周りとこいつの周りで蝉100匹は超えとるんじゃないかと。
とか思ってたら今度は蝉の死体についてあーだこーだ言い出しました。
脈絡がなさすぎる、なんなんでしょうか×××でもやっとるんじゃないだろうかと。
しかもこいつはまだおそ松君の問題も解決してないんですけども。市松だよ市松、何でわからんのだ。
うわびっくりした!いきなり衣服のボサッていう巨大音が。何か知り合いに会ったみたいですよ。
あー答え(市松)言われた。わたくしの方が先だと。まあこれは後で委員会に報告してもらいましょう。
多分ね、この答えた奴この声の感じからして肥満体ですよ。体臭もね!きっついんですよこんなのは。
予想ですけど脇の下は腐った葱畑みたいな臭いがするんですよ絶対!
案の定このデブ殺す気満々みたいですよ。まあ早くぶち殺してくれた方がわたくしには都合がいいんですけどね。

426 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/11/01(木) 23:57:22

(2,3行何かが書かれていたが、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされており内容は不明)

奇声を発して逃げ出してゆきました。本当に使えないデブでございますね。
結局この216番、ピンピンしておるみたいです。
ああもう放送が始まってしまう。この受信機には録音機能はついてないようで、ちっ。
受信機の向こうでも放送は鳴り響いておりまして、しかしまったく無駄な二元中継です。耳が痛いったらありゃしない。
む、放送とこいつ(※216番の意)の声がシンクロ。どうやら知り合いが逝ったらしい、黙祷。
また意味のわからん世迷言をぶつぶつ言ってやがりますこいつ。もうどうしようもないですね。
え、連れてくの?
うわあああやめろ!衣服のガサガサが気持ち悪いんだよ!!
本当にね、こいつは×××ですよ。やばいクスリでもキメてるんじゃないかと。
一旦引き離して夕食をいただきます(もちろん食前に手を合わせて)。

まったくさっきからボトボトボトボト落としてんじゃないよ気になってご飯が食べられないだろうが!
友達を大事にしなさいと先生から教わっているだろうに何だこの有様は。
こういう役立たずは陛下の御ん為に突撃して玉砕する事で罪を贖うべきでございます!
今度は何ですか、化粧するとかなんとか。もうね、頭おかしいとかのレベルじゃないですよ。
×××だ×××。真性の。こんなのの事なんか考えたくもないわけですが、陛下の御ん為。
わたくしは日本人の耐え忍ぶ心をもって、任務を全う致します。
それにしてもこんな×××の使い道はどうしたらいいのでしょうか。
戦場の最前線で使おうにも、これでは傷ついた戦友を助け我が国を勝利に導くような事は到底出来ますまい。
突撃させようにもそんな気概ある人間でもなさそうです。本当に役立たずでございますね。
こんなのは戦死しても二階級特進なんぞ勿体無い!降格して三等兵の称号を墓前に刻み付けてやりましょう。
そもそも日本軍の竹槍スピリ(以下プログラムとは無関係な文章の羅列の為削除)

427 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/11/01(木) 23:58:24

ふう、やっと止まりやがった。何、観覧車?
化粧しとった事から考えてどうも相手(死体)は女みたいでございますけど、何だよ好きだったのかお前は。
観覧車で2人っきり、ベタですがよろしいですね。わたくしと夏江(※妻?)もそんな時期がございました
まあこいつは×××ですから、相手が死体でもかまわんみたいですがね。変質者が!
死体を前にまたも1人で世迷言をベラベラと。何々、「みんな一緒だったらいいね」?バカかこいつ。
勝手にわたくしまでお前のお友達にしてくれるなと。よくおりますよね、「みんなやってる」とかほざいて
×××とかやってしまう躾のなっとらん阿呆なガキが。あのパターンでございますよ。
ん、何だまた知り合いか。さっきから再会が多いなこいつは。こっちはずっと1人なんだよ畜生。
だから抱きつくなガサガサが気持ち悪いと何度言ったらわかるんだよコラ!
あ、こいつら観覧車の方に連れてくのか。あ〜あ、かわいそうに知らんぞわたくしは。
うわ引いてる。うんそりゃ引きますよね。こいつ×××ですから。
後ろの奴が耳障りな声で泣き喚きました。もう1人のガラガラ声の方は黙って突っ立ったまま。
冷静なのか、それともショックで失禁でもしてしまったのでしょうか。
ほらほら始まりましたよこいつの×××節が。
こいつを戦場に出したら死体を前に欲情して×××でもするんじゃないかと。
こりゃあ相手にせずに逃げた方がいいよ君達。こんな×××相手にしてもお国の為にならない。
あら説得始めておりますよこのガラガラ。やめときゃいいのにね。
なんだなんだこのうすら寒い青春ドラマは!お前らもういい年なんだからそんな暇あったら戦場へ行け!
結局3人で行動する?報告がややこしくなるだろうがふざけるな付き合ってられるか!

よし今日はここまで!健全な日本国民は早寝早起きが義務でございますからね。
いやあそれにしても暑い。陛下にわたくしの心が包み隠しのない純粋なものだと知ってもらう為にも、
生まれたままの姿で就寝する事に致します。就寝前に再び首都に向かって敬礼!

428 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/11/01(木) 23:59:34

銃声、何!?(※慌てて書き殴った様子の文字)

すっかり空は明るくなっております。気が付くと数箇所の虫さされが。
全くどこにもわたくしの忠誠心をわからぬ無粋な不届き者(虫)がおるものです。
特にここ、わたくしの下半身の刀が錆付いたらどうしてくれようか。
まあ予定が少し早まりましたが報告の続きを。これも陛下への忠誠の顕れです。
どうも216番他×××連中、兵士に囲まれておるようですね。何をしとるんだと。
む、この声…学校?本当に何しに来とるんだこいつらは。
それにしてもライフルで突付く音はまったくもって不愉快ですね。
まあ前線にも立たず参加者をいたぶるのだけが仕事の下っ端兵士ですから仕方がありませんが。
どうも見せしめに殺されたのは1人ではなかったようで。これは珍しい。
ああまた始まりましたよ三文青春ドラマの第2章が。何だよこいつら金○でも見とけ。
おおけたたましい軍靴の音、心地いい。何でしたか、オースト○アのウ○ーン合唱団?
軟弱なあいつらなんぞ軍靴で頬をグリグリと踏みつけながら君が代を高らかに歌って屈辱を与えてやりましょう。
そうか、もう放送の時間か。
何、こいつらが放送に?そんな、こいつらなんかよりわたくしの演説の方が100倍…
え〜、寄りにもよって1番×××な奴がきやがった。まあ予想出来るが黙って聴いといてやるか。

最悪。何だこの青臭いのは。まったくこい(※この行はここで途切れている)

やはりそうなのです。やはり陛下は、この国はわたくしの味方なのです。
○○党員が吐きそうな脳内お花畑の文句をほざいたと思ったらみんなで死ねだと。
真性の×××だと思っておりましたが遥かに予想の斜め下をいかれました。
わたくしはこんな輩は戦場で突撃し玉砕すべきと申し上げましたが、訂正いたします。
こんな奴は戦場に立たすべきではありません。誇り高き軍服が穢れます。

429 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/11/02(金) 00:04:56
ただ死ねばいい。それがお国の為なのです。それしかこいつには道はないのです。
生まれてきたのが間違いであったのです。一瞬で始末し、直ちになかった事にすべきなのです。
わたくしの考えは正しかった!この×××は撃たれてぽっくり逝ったようです。
一撃で逝かせたのは流石陛下、下っ端の兵士にまで慈悲の心を教育しているとは恐れ入ります。
鳥肌実42歳厄年、陛下に更なる忠誠を誓う事をここに約束いたします!

…あれ、生きてる?(※慌てて書き殴った様子の文字)

  ※※※※※※

【鳥肌 実
所持品:盗聴器受信機、レポート用紙
基本行動方針:陛下への忠誠を示す
第一行動方針:陛下のご命令に従い報告書作成
最終行動方針:陛下に表彰される

【現在位置:J-6】
【8/16 06:31】
【投下番号:291】

>>409
大村さんの最期が格好良い。藤田さんの事考えてくれてよかったです。
村田さんがどうなっていくのか期待大です。

>>424
黒田さんの追い詰められぶりが読み進む毎にグサグサくる感じで凄い文章だと思います。
所々英語が入ってるのもいいなあ。

430 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/11/02(金) 00:12:25
訂正。
>>425で鳥肌さんの番号が空白になってますが、159番と入ります。
まとめサイト掲載分は直してます。

431 :名無し草:2007/11/02(金) 00:52:41
新作乙!
鳥肌ジョーカー役でキタか!
てか何故に本坊ww

432 :名無し草:2007/11/02(金) 23:53:21
>>424
投下乙!
黒田どうなっちゃうんだ…切ないながらもwktkだ。
>>429
鳥肌乙!
すげーの出てきたなw

433 :名無し草:2007/11/03(土) 01:57:16
ちょ、鳥肌までカヴァーできるとは731さんは何者だw
とにかくGJでございますよ。敬礼!

434 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:46:55
>>196-203の続き、宮迫編です。


蛍原から遅れること二十数分。宮迫は三村の後を追って森の中を進んでいた。


教室に残った芸人の名前を覚えている限り照らし合わせると、三村の次は宮迫が呼ばれるはずだった。
しかし、芸名と本名が全く違うというのは良くあること。不幸にも三村と宮迫の間に、もう一人の
人間が存在していると知ったのは、三村の名前が呼ばれてから一分後だった。
それからの一分は宮迫にとってひどく長い時間だった。
合計二分。その間に三村はどれほどの距離を行けるのだろうか?
蛍原に計画を話していた時は、数分程度の差なら詰められるものだと考えていた。
しかし実際にその差を体感すると、到底詰められそうにないものに感じてくる。

(……アカン。できるかできんかやなくて、やらなアカンねん)
つい弱気な考えに向いてしまうのを何とか振り払う。
不運を嘆いた所でどうにかなるモノではないし、あらん限りの幸運を夢見るほど若くもない。
ひたすらに足掻いて、その中で何かを掴めれば幸運な方だろう。

宮迫は視界の悪い森の中を、三村の姿を探しながらひたすらに進む。
しかし最初に森に踏み込んだ時点で、三村と宮迫の進む方向が微妙に異なっていた。
二人の距離は進むほどに離れ、既に取り返しのつかない差が開いていることを宮迫は知らない。


435 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:48:28

一時間ほど進んだ所で、宮迫は大きな木の根に掴まれた岩を見つけ、その影で少しの休憩を
取ることにした。デイパックの中から水を取り出し、一気に飲む。
キャップを閉めてペットボトルに半分ほど残った水を眺めながら、飲み水もなんとかせぇへんとなぁ
と、心の中で呟いた。ペットボトルをデイパックに入れ直し地図を引っ張り出したところで
宮迫はふと教室を出て行く蛍原の姿を思い出した。
デイパックから突き出した大きなケース。あれは支給品なのだろうか?

「俺のは何やろ……使えるもんやとええけどなぁ」
過去のバトルロワイアルでは、悪い冗談としか言えないような支給品も多々あったと聞く。
主催者なりの趣味の悪い笑いのつもりなのだろうかと、芸人同士で話題にした事もあった。

「どうせなら笑えんくらい強力なの寄こしてくれればええねんけどな」
僅かな期待を抱きつつ、デイパックの中を探る。
ペットボトルに地図、名簿と筆記用具にコンパス、乾パンの袋に色つきタオルが三枚……。

「んん?」
宮迫は首を捻る。武器らしいものは何一つ入っていない上に、ハズレらしいハズレの品も見当たらない。

「まさか縫い針一本とかやあらへんやろな……」
使えないくらい小さな物というのも考えられる。
しらみつぶしにデイパックの中を探るが、やはりそれらしいものは見当たらなかった。

「まさか、支給品無しのハズレって事なんか? 」
そんなん何もボケられへんやん、と眉間に皺を寄せて呟く。
ボケるボケないは兎も角として、どうせハズレならとことん突き抜けたハズレを引きたいと思うのは
芸人の性だろう。


436 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:49:30

肩透かしを食らった気分の宮迫がデイパックに荷物を詰め直していると、三枚の色つきタオルを
束ねてある紙帯に目が留まる。安い贈答品にこういうのあるよなぁ、と、何気なく紙帯の表を見ると
達筆な楷書で「支給品」と書かれていた。

「…………お前かいッ!!」
思わず、押し殺した声で突っ込みを入れる。
あれ? ボケるはずやったのに。
という心の声はとりあえず無視して、改めて支給品のタオルをまじまじと眺める。

「アカン……微妙に便利やん……」
暑い盛りのこの時期に、タオルはある意味必需品だ。
武器としては使えないかもしれないが、少なくとも使い道に悩むようなことはない。
宮迫はおもむろに三枚あるうちの一枚を引き抜き、ごしごしと顔の汗を拭った。
それだけで随分とすっきりしたような気がする。

「蛍原さん、何もろたんやろうなぁ」
汗を拭ったタオルを首にひっかけ、荷物をデイパックに詰め直しながら呟く。
「でかい楽器とかやったりしてな。どないせぇっちゅーねん」
ケースを開けたときの蛍原の落胆した表情が容易に想像できて、宮迫は小さな笑いを漏らした。

『お前の武器なんやったん? 俺はトランペットやったわ』
『俺のはタオルやったわ』
『なんや、俺そっちの方がええわぁ……』
そんな会話までもが宮迫の脳裏に浮かぶ。蛍原の支給品が何かは分からないが
きっと似たような会話が交わされるのだろうと、宮迫は疑いもしない。

「早いとこ、合流せえへんとなぁ」
宮迫は地図だけをポケットにねじ込み、デイパック背負い直しながら立ち上がる。
正直なところもう暫く休憩していたかったが、三村と合流できなかった以上
一刻も早く蛍原と合流して辺りを捜索する必要がある。
宮迫は蛍原と待ち合わせをした送電線の下を目指し、暗い森の中を歩き始めた。

437 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:50:32

宮迫が目指していた送電線に辿り着いた時、森には鋭い西日が入り込み始めていた。
高いフェンスに囲まれコンクリートで固められた空間には、太い鉄骨がどっしりと
根を下ろしているだけで他の建物は一切見当たらない。
「高圧注意」「危険」「関係者以外立ち入り禁止」などと書かれたプラスチックのプレートだけが
すっかり錆付いた針金でフェンスに張り付けられている。
フェンスはよじ登れない高さではないが、中に入ってしまえば動物園の檻のようで隠れられる場所は
皆無だった。もし蛍原以外の人間が――それもゲームに乗り気の人間が――通りでもしたら
格好の餌食になってしまうだろう。

宮迫はぐるりと辺りを見回し、人影が無いことを確認すると手近な木の陰に隠れた。
隠れる、とはいっても、送電線の周りはかなり木が密集しているため、送電線のフェンスから
一歩下がって腰を下ろせばそれで十分だった。

「淳たちと合流できたんかな? 」
デイパックからペットボトルを取り出し、ひとくち水を含んで呟く。
蛍原のほうが出発した時間はかなり早い。
それなのにまだここに姿を見せないという事は、淳たちと合流できて何か話でもしているのかもしれない。
それとも、もうここに到着して宮迫と同じように隠れているのだろうか。
ふとそう思った宮迫が、送電線の周りを慎重に歩いて探ってみたが、やはり人影は見当たらなかった。

「合流できたんならええねんけどな」
最初に腰を下ろした場所に戻り、時計を見る。
「あと七分か……」
十七時五十三分。放送まであと十分も無いと分かると、宮迫はデイパックの中から
名簿と筆記用具を取り出して放送に備えた。

「蛍原さん、六時いうたのに」
辺りを見回して、未だ人の気配がしないことに若干の不安を覚える。
宮迫は名簿の余白にボールペンで試し書きをして、僅かに胸に芽生えた不安を誤魔化そうとしていた。

438 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:51:43

放送は遅れる事も早い事も無く、ぴったり十八時に始まった。
音質の悪いスピーカーから音楽が流れ、どこか楽しそうなたけしの声が森の中に響く。
次いで、今までの死亡者の発表が始まった。
宮迫は放送で呼ばれる名前や番号にチェックを入れるべきかどうか、一瞬迷った。
要不要ではなく、死という物に対しての恐怖感かもしれない。
そんな事は到底ありえないのだが、自分が死亡者のリストにチェックを入れることによって
その芸人の死が完成してしまうような錯覚を覚えていた。
しかしすぐに死亡者の名前の横に小さく線を書き入れ始める。

(……こんなん意味ないやん)
(死んだ人間のチェックしたって、もう死んでんねんから。悲しいだけやん)
そんな意識とは裏腹に、宮迫の右手は淀みなく印を書き入れている。
(ちゃうねん。これ書いてけば、誰が生きてるか分かるやん)
(誰が生きてるか分かったって……どうすねんやろ? )
機械的に印を書き入れていた宮迫が、ふとそんな疑問を抱いた。
生きている芸人が誰かと分かったところで、直接接触する機会がなければいないも同然なのだ。
もし、誰が誰に殺されました、などという放送をしてくれるのならチェックをする意味も
見出せるだろうが、そういった放送がされている訳でもない。
何とも言えない虚しさを感じた宮迫は、印を書き入れていたペンを名簿の上に置いた。

「禁止エリアだけでええか……」
宮迫が思っていたよりも名前を呼ばれる芸人は多かった。
そして、死亡者の印は放送毎に確実に増えていくのだろう。
宮迫は自分がその状況に耐えられるとは思わなかった。
名簿のチェックはしないでおこう。そう宮迫が決めたとき。

「212番、蛍原 徹」
蛍原の名前が、確かに呼ばれた。


439 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:52:47

「……へっ? 」
既に名簿は見ずに禁止エリアの発表に備えていた宮迫は、耳を疑った。
宮迫の動揺などお構い無しに放送は続いている。
いつしか死亡者の読み上げが終わり、禁止エリアの発表が始まっても宮迫は呆然と
スピーカーの方を見つめていた。

「……嘘やろ? 蛍原さんが、まさか」
やっとの事で否定の言葉を吐き出した宮迫だが、それは自分の不安を増長させただけだった。
肺が内側から圧迫されるような息苦しさと不快感が同時に宮迫を襲い、頭からすうっと
血の気が引いていく。禁止エリアの発表と放送の終わりを告げる音楽までもが終わり
森に静寂が戻っても宮迫はスピーカーを見詰めていた。
暫らくして宮迫の視界に数羽のカラスがギャアギャアと鳴きながら空を飛んでいくのが見えた。
これから塒に帰るのだろうか。カラスでさえ連れ立って飛ぶ相手がいるのに
自分はひとりになってしまった。

「蛍原さん、……何で? 」
言いようのない悲しみが宮迫の胸に広がる。信じたくはなかった。
しかし、放送で名前が呼ばれたのは紛れもない事実だった。
宮迫は学校での事を思い起こす。やはり多少危険でも、学校のすぐ傍で待っていて貰えば
良かったのだろうか?淳達と合流しようなどと考えるべきではなかったのだろうか?
悔やんでも悔やみきれないが、すでに起こってしまった事はどうにもできない。

くしゃりという音と共に、宮迫の震える手が名簿と地面を握り込んだ。
名簿を突き破った爪の間に土が入り込み、指先にひんやりとした感触が伝わる。

「また後でって、言うたのに」
宮迫の頬に一筋の涙が伝い落ちた。
蛍原の名前の横に、印はつけなかった。


440 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:53:51

オレンジ色の光に薄く青みが掛かる頃、ようやく宮迫はデイパックを背負って送電線の下を離れた。
行くあてがある訳ではない。淳達もこの近辺をいつまでもウロウロとはしていないだろうから
合流というのも現実的ではないように思えた。

「どこにおるんやろ……」
宮迫は蛍原を探す事にした。地図を片手に蛍原が通りそうな場所をあれこれ考えるが
この広い森の中で探し出す自信はなかった。しかし蛍原を見つけなければ、例え今後淳達と
合流できたとしても「まだ蛍原は生きているのではないか」という期待を捨てられないだろう。

適当に学校までの最短距離を確認して山を降り始める。不思議と進む事に迷いは無かった。
ぼんやりと、これからどうしたらいいんだろうかなどと考えてみるが、その考えも煙が空気に
溶けるように掴みどころ無く消えてしまう。
そして、脳裏に浮かぶのは針先程の希望と底の見えない後悔だけだった。

うっかりすると、また涙が零れそうになりそれを必死で堪える。
さすがに泣きながら相方を探す、という姿は想像しただけでもかなり恥ずかしかった。

彷徨うように森を下っていた宮迫が、辺りの異変に気付いたのは丁度地面の勾配が無くなった頃だった。
辺りはまだ色が識別できるほどの明るさはあったが、徐々に夜の闇がそこかしこに顔を出し始めている。
しっとりと忍び寄る夜の気配に、宮迫が囁くように呼びかける。

「蛍原さーん?どこにおるんや」
返事は無いと頭では分かっていたが、声を上げずにはいられなかった。
宮迫が期待していたような返事はなかった。
しかし、代わりにふわりと血の匂いが宮迫の鼻先を掠めた。


441 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:54:53

漠然とした予感を胸に、宮迫は匂いを辿る。
藪を掻き分け蔦をくぐりながら進むと、僅かに拓けた場所に出た。
空から未だ僅かに零れる光にぼんやりと誰かが横たわっているのが見えた。

「……ここにおったんか」
待ち合わせ場所とちゃうやろ、と軽口を叩きながら宮迫は人影の傍にしゃがみ込む。
顔を確認すると、それはやはり蛍原だった。
側頭部にぽっかりと穴が空いている以外、他に外傷らしい外傷もみられない。
傍には開いたままのケースと、その中身であろう銃が転がっていた。

「一発か」
蛍原の状態を確認した宮迫は、そう呟いて小さく笑った。
蛍原が苦しんで死んだような形跡が見られないのは、せめてもの救いだった。

「……ホンマに何しとんねん」
宮迫は傍に転がっていたままの銃を拾い上げた。銃身を握り締めた手の甲に
ぽたぽたと涙が零れ落ちるのを見て初めて、宮迫は自分がまた泣いている事に気付いた。
そう自覚すると余計に涙が溢れてくる。
手首を目に押し付けるようにして何とか堪えようとするものの、それも無駄な努力に終わった。

「なに、勝手に死んどんねん……っ」
震える声でそれだけ言うと、それきり宮迫は黙り込んだ。
自分が何を言っても、もう何も返してくれないのだという現実がひどく悲しかった。
夜に沈んだ森の中に、風が木の葉の間を通る音と小さな嗚咽が静かに響いていた。


442 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/11/05(月) 03:56:16

【雨上がり決死隊 宮迫 博之
状態:泣
所持品:色つきタオル3枚 / ソ連製AKM(29/30)+予備弾薬30×3
第一行動方針:ロンブー・くりぃむ・さまぁ〜ずのいずれかを探す
基本行動方針:不明
最終行動方針:生存 】

【雨上がり決死隊 蛍原 徹:死亡 】

【現在位置:森の中】
【8/15 20:25】
【投下番号:292】


443 :名無し草:2007/11/05(月) 23:46:56
>>442
久々の投下乙です!
死んだ蛍原を探す宮迫がなんというか不憫で…。
ここから宮迫がどう動いて行くのか気になります。

444 :名無し草:2007/11/06(火) 03:22:54
容量が少なくなったので新スレ立てました。
以降の投下はこちらにお願い致します。
お笑いロワイアルVol.9
http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1194286688/l50

445 :名無し草:2007/11/08(木) 01:52:36
>>444
乙です!

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