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お笑いロワイアルvol.7

1 :名無し草:2007/06/16(土) 22:34:51
お笑い芸人を題材としたバトルロワイヤルパロディスレッド
ローカルルールや過去ログ・関連スレッドは>>2以降

まとめ入口
ttp://karen.saiin.net/~owaraibr/


2 :名無し草:2007/06/16(土) 22:36:58
*共通ローカルルール

・死亡した芸人の復活は基本的に不可
・あくまでネタスレです。まったりどうぞ
・*書き手用ローカルルール

・投下する前に過去ログ、まとめwiki(特に必読項目)に目を通す
・投下時に明記すること
・どのレスの続きか(>>前回のレス番号)
・文中で芸人が死亡、同盟を組む、他、重要な出来事があった場合
・所持品、行動方針、現在位置、日付、時間帯、投下番号
・トリップ強制 付け方は名前欄に『#好きな言葉』
・書き手は一つの話に一人だが、以下の場合は引き継ぎ可
・書き手自身が執筆中止を告げた場合
・最終投下から3ヶ月以上経過した場合
・書いた話に不都合があった場合、番外編としても投下可
・2002年ver.の話を投下する場合は文章の最初でその旨明記する
 他、詳しくはまとめ参照


*読み手用ローカルルール

・書き手に過度な期待、無理な注文をしないようにする
・コメント、感想、要望などはアンカーがついているといいかもしれません
・本スレで言いにくいことはしたらばのチラシで

3 :名無し草:2007/06/16(土) 22:40:44
過去ログ
vol.11 http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1155627128/
vol.1 http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1157112615/
vol.2 http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1157808776/
vol.3 http://aa5.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1159607069/
vol.4 http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1164460385/
vol.5 http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1170929240/
vol.6http://ex20.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1171548439/

2002年Ver.まとめサイト・ミラー集(更新停止中)
http://www.geocities.jp/geinin_battle/
http://makimo.to/cgi-bin/search/search.cgi?q=%82%A8%8F%CE%82%A2%83o%83g%83%8B&andor=OR&sf=0&H=&D=geinin&shw=2000

9〜10スレ目・関連スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1095916149
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1114308019
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1114426574


↓こちらを使って見てください
2ch DAT落ちスレ ミラー変換機 ver.4
http://usamimi.info/~mirrorhenkan



4 :名無し草:2007/06/16(土) 22:41:39
乙です。

5 :名無しさん(まとめ”管理”人):2007/06/16(土) 22:49:41
>>1
乙です。まとめサイトはっていただいてありがとうございます。

6 :名無し草:2007/06/16(土) 22:53:17
>>1乙です!

7 :名無し草:2007/06/16(土) 22:57:53


8 :名無し草:2007/06/16(土) 22:58:05
>>1 まとめ管理人さん共に超乙!

9 :名無し草:2007/06/16(土) 23:01:18
>>1
乙です!
まとめとしたらば、ざっと見てきた。
あれだ、とりあえず編集してみるかw

10 :名無し草:2007/06/16(土) 23:17:40
>>1乙!
まとめいい感じですね。

編集先にやったほうがいいのか、投下を先にやった方がいいのか迷うw

11 :名無し草:2007/06/16(土) 23:27:10
>>10
同時進行だ!
投下の準備は出来てるw

12 :名無し草:2007/06/17(日) 00:51:14
投下ラッシュwktk

13 :名無し草:2007/06/17(日) 01:01:50
結構まとめサイト編集進んでるねえ。
みんな素早いな。すばらしい。

14 :名無し草:2007/06/17(日) 01:20:49
次の投下番号は206で合ってる?

15 :名無し草:2007/06/17(日) 01:39:05
>>14
合ってる。

16 :名無し草:2007/06/17(日) 02:23:58
携帯からまとめサイトは見れますか…?
パスとIDがわからないのでorz

17 :名無し草:2007/06/17(日) 02:56:26
>>16
さっきケータイから行ってみたけど、見れなくはないよ。
ただやっぱりちょっと見にくくはあるけど。
IDとパスは冷静になって考えたら分かるから頑張れ。

18 :名無し草:2007/06/17(日) 03:04:28
そういやIDとパスをテンプレに入れるって話はどうなった?

19 :名無し草:2007/06/17(日) 03:11:10
入れる必要ないと思う
少し考えれば分かる問題だから

20 :名無し草:2007/06/17(日) 03:19:35
ローマ字ですか?英語ですか?

21 :名無し草:2007/06/17(日) 13:00:22
ID パス分からない・・・


22 :名無し草:2007/06/17(日) 13:17:58
過去ログ見れば一発だよ

23 :名無し草:2007/06/17(日) 13:19:46
マジで分からない・・・困った


24 :名無し草:2007/06/17(日) 13:22:42
冷静に考えて分かった、スペルミスってた。
ありがとうございました

25 :名無し草:2007/06/17(日) 13:57:59
過去ログってどうやって見るの?

26 :名無し草:2007/06/17(日) 14:06:02
>>3

27 :名無し草:2007/06/17(日) 15:48:49
わからない・・orz

28 :名無し草:2007/06/17(日) 19:53:01
あわてずさわがずおちついて考えるんだ!

29 :名無し草:2007/06/17(日) 20:30:12
コーヒー飲んで旧まとめでも覗いてこい

30 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:35:42
ロンブー&くりぃむ編です。


「有田、起きろ」
上田の声と共に有田の肩が揺さぶられる。
薄目を開けてみれば周りはまだ深い闇の中で、こんな早起きをするなんて
今日は何のロケだったっけと、ぼんやりとした頭で考えていた。
全身のだるさも相まって、中々起きる気になれない有田の肩を上田が叩く。

「おい、起きろって!前髪引っこ抜くぞ!」
先ほどよりも幾らか不機嫌になった上田の声に、そろそろ狸寝入りは通用しないかと
諦めた有田がのそりと起き上がる。
「放送の前に起こせよ」
有田が起きたのを確認した上田は、それだけ言うと有田と入れ替わるように床に
転がって眠ってしまう。まだ現状を把握できていない有田が寝ぼけ眼で
畳に座り込んでいると、闇の中から咎めるような声がした。

「有田さん、二度寝しないで下さいよ」
声のしたほうに顔を向けると、小さいオレンジ色の光が揺れているのが見えた。
目を凝らしてみると光の傍に見知った男が座っているのが分かり
有田は膝立ちのままにじり寄る。

「あー……そっか、交代か」
ようやく今の状況を思い出した有田は、眠気を振り払うように腕や背中を伸ばす。
硬い畳の上で寝ていたせいか、それとも筋肉痛のせいか、体のあちこちから軋むような痛みが起こる。
うう、と情けない呻き声を上げながら関節を伸ばしている有田に、淳が数枚の紙を手渡してきた。
「大体こんな感じなんで」
淳はそれだけ言うと、下を向いて何かの作業を始める。何となく気になった有田が
目をこすって淳の手元を覗き込むと、スケッチブックに細かい文字がつらつらと
書き込まれているのが見えた。

31 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:37:00

「……そういや、お前は交代しないの」
こんな暗がりでよくあんな細かい文字が書けるもんだと感心した有田が
あくびを噛み殺して淳に問いかける。
「なんか、目が冴えちゃったんで」
「……意外とタフなんだな」

へへ、と笑って事も無げに答えた淳に有田は呆れた声を返し、手渡された紙に目を向ける。
何枚かある紙をぱらぱらと捲って見れば、見覚えのある字と見慣れない字が交互に
書き込まれたものと、首輪の絵に所々書き込みがなされたものがある。
ひとまず文字のみが書かれた紙の順番を斜め読みで確認すると、順を追って読み始める。
淳は文字を書く手を止めて、口に手を当てた姿で思案に暮れていた。

音の無くなった室内に、分厚い木戸をすり抜けた虫の音が響く。
有田は時折意識が飛びそうになるのを堪えながら、必死で文字を追った。
紙に書かれていたのは首輪の構造と、上田と淳の筆談だった。
しかし、解除コードの存在や内部構造が分かっていても、特に具体的な対策は立てていないようだ。

(まぁ、上田は仕方ないか)
ビデオやパソコンの配線を有田に丸投げるような男だ。
首輪の構造図を完璧に覚えていたとしても、それ以上のことは到底望めない。
有田はもどかしげに首を掻く。有田が見る限り、首輪の設計に隙はなかった。
配線を切ることが出来れば簡単なのだろうが、センサーが邪魔をしている。
起爆スイッチの解除コードは本部。本部にはこちらの位置が丸分かりで、こっそり忍び込むことは不可能。
だからといって真正面から向かっていっても、返り討ちにあうのがオチだ。

淳が何か考え込んでいる様子を見ると、何かしらの手はあるのだろう。
有田は考えを巡らせながらこめかみを揉む。
しつこく居座っている眠気のせいで、うまく思考が定まらない。

32 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:38:49

「……しかし、暗いな。これどうにかなんないのか」
暗闇は眠気を誘う。
文字が読める程度には目は慣れたが、蝋燭の優しい光は眠気を更に強めている気がする。
「仕方ないですよ。火を熾せば明るすぎますし、それに暑いでしょ」
「たしかに、暑いのはやだな」
僅かな光も漏らさぬように、室内の扉はぴったりと閉じてある。
唯一、二階の窓だけは開けたままにしてあるが、そこから風が入ってくる訳でもない。
夜になっていくらか涼しくなっているとはいえ、室内はじっとりと蒸し暑い。おまけに室内は埃臭い。

「電気がつけばいいんだけどな…っても、この家クーラーないのか」
ぼんやりと天井に浮かぶシルエットを見渡しながら有田が愚痴る。
森に囲まれたこの家は夏場であっても窓を開け放ってしまえば相当涼しいのだろう。
しかし今の状況ではそうする訳にもいかない。有田は今まであって当然のように感じていた
冷房器具の有難さを痛感した。

「そうそう、電気がつけばいいんですけどね」
有田の愚痴を黙って聞いていた淳が、それまで眺めていた紙を有田に差し出した。
紙を無言で受け取った有田はそれにざっと目を通す。
おそらく思いつくままに書いていったのだろう。
乱雑な文字で箇条書きに記されていたのは、首輪を外すためのいくつかの案だった。

有田は顔を上げて淳を見る。
淳は有田の反応を伺うような目をしていた。
有田は視線を紙に戻し、赤で丸を付けられている一文に目を向ける。

『・外からの破壊はほぼ不可能
 ・要は起爆スイッチが作動しなくなればOK
 ・制御装置を破壊した後なら首輪は切断可能か?』

33 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:40:55

有田は顎を揉んで考える。赤丸から伸びた矢印の先に、同じ赤色で「ショート」と書かれていた。
首輪内部に直接電気を流して、起爆装置や無線機の制御盤を機能させなくする狙いなのだろう。
しかし、危険も大きい。爆薬が誤爆する可能性もあるし、そもそも触覚センサーに守られている
配線にどうやって電気を流すつもりなのだろうか。
そして、基盤を破壊するほどの電気の当てもない。

(電気があれば、か)
有田は先ほど淳が漏らした言葉を思い出す。
淳自身も、この計画に必要な電気の当てがない事に気付いている。
しかし外側から壊すことが不可能な以上、内側から壊すしかない。
電気、電気、電気。
考えを巡らせながら、有田は再び喉になにかがつかえているような感覚を味わった。
何かあった気がする……と、必死で記憶を辿っていくと、不意に先ほど二階でみた光景を思い出した。

「そういや二階に上がったときに、学校のほうがやけに明るかったのを見たな」
「学校ですか。そりゃ、本部があるんですから明かりくらいは点いてるでしょう」
しかし、学校に電源があるとしても近づくことは出来ない。
有田もそれは理解していたが、依然それとは違う何かが引っかかっているのを感じていた。

「学校にだけ電気が通ってるのもおかしい話だと思うけど」
「発電機があるんじゃないですか?」
「ああ、上田もそう言ってた」
有田は二階でのやり取りを思い出す。二階の窓から本町をある程度眺めることができたが
家や街路灯のどこにも灯りは点いていないようだった。
ただ、学校の方向からだけ煌々とした光が放たれていた。

34 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:42:38

「それだけ明るかったんなら、学校はさぞかしクーラー効いてるんでしょうね」
盗聴器の事を気にしてか、淳が話題を微妙にずらした。
淳の真意に気付いた有田が片手を挙げて詫びる。
どうも真意を誤魔化しながらの会話は自分には向いていない、とでも言うように
有田はしばらく視線を天井に彷徨わせると、床に転がったままのペンに手を伸ばす。
『他に方法は?』
新たに書き込まれた文字を見て、淳は首を横に振った。そのまま、横線で消された一文を指す。

『偶然の故障の可能性』
有田はため息をついてペンを床に置いた。
四人の首輪が偶然故障した上に誤爆することも無く外せる可能性に賭けるより
工場か農家の倉庫にあるかもしれない発電機と燃料を探すほうが確実だろう。
その代わり他の参加者との鉢合わせや襲撃される危険性も高いが、どうしようかと
迷っている時間も無い。当てもなく島をさまようより幾らかマシだろうが
明日からの行動を考えただけで気が滅入るようだった。

「クーラーが恋しいよ」
汗が背中を伝い落ちていく感触に不快感を覚えながら、有田は呟いた。
淳はうんうんと頷いて答える。

「同感です。でも、今は現実を見ましょうよ」

35 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:45:31

発電機と燃料を探すというとりあえずの目標が決まったせいか
淳は少なからず気分が軽くなっているのを感じていた。
元々そんなに神経が太いわけではない。
得意の嘘とよく回る口で巧妙に隠してはいるが、実際の自分は小心そのものだ。
このゲームにしても、もし一人で行動しなければならなかったら
こんなにも冷静でいられたか分からない。
他に行動を共にする人間がいたから「ロンドンブーツの田村淳」らしい自分を保っていられるのだろう。
他人に対する見栄は、時と場合によっては大きな力になる。

淳が視線を暗がりに向けると、泥のように眠っている上田の向こうに金髪の頭だけが
ぼんやりと浮かび上がっているのが見えた。

「……目立つなぁ、あれ」
昼間はともかく夜間に行動する場合、光を反射しやすい金髪というのは問題だ。
だからといって今黒髪に染め直すというのも現実的ではない。
淳はすっかり短くなった蝋燭の乗っている皿を持ち上げると奥の座敷に向かった。
有田は何か気になる事があると言い、二階から外を見張ると上がって行ったきりだから
自分が下で探し物をしても問題ないだろう。
それに一階部分の戸は閉め切っているのだから見張りのしようもない。
せいぜい、物音に注意を払うくらいだ。


36 :名無し草:2007/06/17(日) 20:46:15
保守

37 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:46:33

奥座敷は先ほど亮が蝋燭を探し回ったままの姿で、見事に荒れていた。
きちんと閉められていない箪笥からは古い新聞紙の端が顔を覗かせ
半開きのままの引き出しもいくつかある。
ひっくり返されたダンボールから零れた布切れの束は、亮が足でどけたのか
不自然な形で隅に寄せられていた。
泥棒に入られた直後ってこんな感じなのかなと、妙な感想を持った淳だったが
構わず床に散乱している布を物色する。

炎が布切れに燃え移らないよう注意しつつ暫く探していると、やっと目当てのものが見つかった。
淳が探していたのは黒い――夜目のため実際の色は分からないが、とにかく濃い色の――風呂敷だった。
気休め程度だろうが、無いよりマシだろう。
淳は囲炉裏の傍に戻ると、時計を見た。

二十三時五十分。
そろそろ有田が二階から降りてくるだろう。
そして、ゲーム開始から二度目の放送も間もなく行われるはずだ。

「亮くん起こさなくっちゃな」
淳はそう呟くと、気持ちよさそうに眠る相方を起こしに向かった。

38 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:48:49

有田は自分の喉につかえているものの正体を探るため、人工的な光を放ち続けている
学校の方角を凝視していた。

ざわざわと木々を揺らす風は、夏であってもひんやりと冷たい。
一階で打ち合わせをしている時にかいた汗が冷たい風に晒されて冷えたのか、肌寒ささえ感じる。
二階に上がった直後はあまりの快適さに、皆まとめてここで寝たほうが良いのではと思ったが
こんなところで眠っては逆に風邪を引いてしまいそうだった。

(特に上田だよな。体力ないし体弱いし骨も弱いし)
淳と亮の健康面には詳しくないため、自然と上田の健康面に気が向かう。
多くの人間が持つ「自分だけは大丈夫」という思い込みは当然のように有田にも作用していたため
有田自身の心配は全くといっていいほど考えていなかった。

有田は学校の光に意識を戻す。
多少の現実逃避はあったものの、意識を集中させ続けたせいか、有田は喉に
つかえていたものの正体を掴みかけているという実感があった。
(そう、電気だ。何かがおかしいはずなんだ)
有田は学校の方角から放たれている光を見つめる。
学校の電力供給については、上田や淳が言ったように発電機を持ち込んでいると
考えれば説明がつく。この島のライフラインは寸断されているという話も
学校以外のどこにも――少なくとも本町一帯では――灯りが無いという事実を見れば納得できた。
しかし、違和感が拭えない。重要な何かを見逃しているぞと、脳の隅でその何かが声を上げている。

39 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:50:20
爪を噛んで考え込む有田の耳に、階下からがたがたという音が響いた。
有田は一瞬身を強張らせたが、よく聞けば人が争っているような感じの音ではない。
大方淳が家捜しでもしているのだろう。またしても気を削がれた格好の有田は、時計に目をやる。
二十三時半過ぎだった。

「そろそろ放送か……」
放送。そう呟いた自分の声に、有田ははっとした。
「そうだ、放送だ!」
有田は小さく叫んだ。途切れていた線がつながったのを確信し、脳に心地よいものが広がるのを感じる。
有田は自分の考えを確認するように、改めて学校から溢れている光を見渡した。
自家発電機。確かに学校はそれで説明が出来るだろう。
しかし、この島に点在するスピーカーは?あれも学校の自家発電機の電力で補っているのだろうか?

(それは多分ないな)
有田は学生時代に覚えた電気や電圧についての記憶を必死で辿る。
(確か、距離が長くなればなるほど送電には高い電圧が必要になるはずだ。日中、俺たちが
辿ってきた送電線は……どの位か分からないけど、かなりの高電圧のはず。
自家発電機でそれだけの電圧は出せない)
となるとライフラインのうち、電気は生きていると考えるのが自然だ。
学校以外の電気が落ちているのは、送電線と町の間にある変電所のどこかで電力が
カットされている為だろう。スピーカーは本来防災用として設置されている事を考えれば
独立した電力供給体制を持っていてもおかしくはない。
思わぬところで電気の問題が解決したことにも、有田は気付いた。
発電機と燃料を探し回る必要は無くなった。送電線近くの変電所を探して、そこから電気を拝借すればいい。
最終手段としてスピーカーを叩き壊して配線を剥き出しにすれば電気は手に入るだろう。
感電の危険と、厚さ数ミリはあるだろう鉄筒を破壊するのは容易ではないという事は
今は敢えて考えないことにした。

有田は、善は急げとばかりに一階に向かう。
夜風に冷えた体は、階下の熱気すら心地よかった。

40 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:53:41
淳が二度三度と肩を揺さぶっても、亮は目覚める気配が無かった。完全に熟睡している。
どうしたものかと悩む淳の耳に、階段が軋む音が聞こえた。有田が降りてきたのだろう。
暫くすると障子が開き、有田が部屋に入ってきた。
淳は有田の妙に嬉しそうな顔を見て怪訝な表情を浮かべる。

「あぁ、淳。ついでに上田も起こしといて」
有田は淳の表情を気にすることも無く、囲炉裏の傍に座り込むと紙に何かを書き始める。
何かを思いついた様子の有田に、淳は一旦亮を起こすのを諦めて上田の肩を揺する。
上田はひどく億劫な様子ではあったが、意外なほどあっさりと目を覚ました。
暗闇に目が慣れないのか、何度か目を擦って起き上がる。

「もうすぐ零時ですよ」
淳が上田にそう告げると、上田はああ、と言ってデイパックに手を伸ばす。
そのまま眠そうな様子で水の入ったペットボトルを取り出すと、僅かな量の水を口に含んだ。
淳は亮を優しく起こすのを諦めたのか、拳で亮の肩を叩いている。

「飲み水もどうにかしないといけませんね」
水を飲む上田を見て思ったのか、淳が困ったような声で呟く。夏場ということもあり
水分補給は食事以上に重要な問題だった。空腹はある程度我慢も出来るだろうが、飲み水は
十分に確保できなければ、即、脱水症状や熱中症を引き起こす危険がある。

「そうだな……湧き水を見つけられればいいんだけど」
ペットボトルを袋に詰め直した上田は、そのまま地図と筆記用具を取り出した。
「湧き水がだめでも川があるからそれを沸かせば飲めるだろ。なんか、適当な容器を探さなきゃいけないけど」
「大丈夫ですかね」
「田舎の川だから水質はいいと思うよ。上流に工場とかも無いみたいだし。
念のためゴルフ場より下流は、農薬とかの心配もあるから避けたほうがいいだろうけど」
あくびをしながらも上田が続ける。
「不安なら蒸留だな……って亮、まだ寝てんのか」
ようやく淳の方に視線を向けた上田が呆れた声を出す。
淳は苦笑いを返すと、亮の背中を殴りつけた。

41 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:54:45
起きたのか起きていないのかハッキリしないが、一応身体を起こした亮を確認した淳が
デイパックから地図と筆記用具を取り出した所で零時の放送が始まった。
前回と同様に、ノイズ交じりの音楽から始まり、六時間の間の死亡者が読み上げられる。
次いで禁止エリアの発表。それを書き漏らす事無く記録するのは大して難しいことではないが
精神的には厳しいものがあった。
放送が終わり、一通り記入ミスが無いかを確認し合うと、有田が上田と淳の前に一枚の紙を差し出した。
淳が箇条書きに書き連ねたアイデアの下に、有田の字でスピーカーと電力についての説明が書き加えられている。

淳は驚いたように目を見開き、すぐに満足そうな表情に変わる。
上田は有田と同じく誤爆の危険性を感じたのか、少し不安げな表情を浮かべた。
亮は三人と少し離れたところで舟を漕いでいる。

「これ、どうかな」
有田の提案に喜びを隠せないでいる淳は、すぐにでも出発したい様子だった。
デイパックに地図と筆記用具を入れなおすと、それを抱えたまま新しい紙にペンを走らせる。

『変電所ってこの辺りにありますかね?』
淳の書いた文字に、上田は首を傾げる。淳が上田を見ていたからだ。
「何で俺だよ」
「何でも知ってるじゃん、上田は」
有田がからかうように口を挟むが、上田はそんなことないよと頭を振って地図に目を向ける。
海岸近くの一点を除いて他に変電所らしき施設は見当たらない。島の規模からいって
大掛かりな変電施設は必要ないのだろう。その代わり送電線記号で囲まれたものがいくつかあるようだった。
おそらく小規模の変電施設だろう。上田は頭に溜め込んでいる知識の中から使えそうなものを引っ張り出す。

(確か、この手の変電所の多くは屋外設置のもののはず。そこまで電気が来ているとしても
最低でも六千ボルト以上はある。運悪く変電前のものに当たれば三万から八万弱か……
素人が触るのは危ないな。建物が併設されていればそこのコンセントが使えるだろうけど
建物がありそうなのはJ2の配電所くらいか?多分、海底ケーブルから送電線に上げるための変電所と
電圧監視のための施設があるはず。それに、ここまでは電気は確実に来ている)

42 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:55:46
全て一般的な事柄に合わせての推測でしかなかったが、この島が特殊な
電力供給形態をしているとも考えにくい。
上田は困ったように頭を掻くとペンを取る。
『電気が来ているとしても電圧が高くて扱えない。海岸の配電所まで行けば
多分管理施設がある。そこならコンセントくらいはあると思うけど』
書き終えた上田が申し訳なさそうに二人を見た。
海岸まで行くには日中歩いた道を戻って更に南下しなければならない。

「いいじゃないですか。行きましょうよ、海」
道のりを想像してか、どこかげんなりした表情になった有田を横目に
淳は海水浴にでも行くような気軽さでそう言うと荷物を持って立ち上がる。
さあ行きますよ、と言外に示された有田と上田はさすがに面食らう。

「お前、寝てないだろ。大丈夫か」
せめて夜が明けてからと提案する上田に、淳は首を横に振る。
「朝になれば他の参加者と鉢合わせする可能性が高くなるでしょ?
ま、夜でもその可能性はありますけど、闇に紛れられる分だけ安全です」
尤もらしく言う淳に、有田と上田は顔を見合わせる。
あまり乗り気ではなさそうなくりぃむしちゅーに、淳が畳み掛けるように続けた。

「それに、時間が勿体無いでしょ。今のところ禁止エリアには入っていませんけど
次もそうならないって保障はありません」
「……それもそうだな」
禁止エリアはこちらの都合などおかまいなしに、刻々とその面積を広げていく。
ここから配電所までの移動時間を考えると、もし次の放送で配電所が禁止エリアに
指定された場合、時間的な余裕は殆ど無くなる。
渋々、といった様子で出発の準備を始めるくりぃむしちゅーを横目に
淳は未だに眠そうにしている亮の方に歩み寄った。

43 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:56:49
「亮くん、もう出発するからちゃんと起きて」
「出発?」
亮はようやく目が覚めてきたのか、辺りをきょろきょろと見回しながら不思議そうな表情を浮かべている。

「まだ夜中やないか。もう出るんか?」
「そう、暗いうちにね。あと、これ」
首を傾げたままの亮に淳は地図と名簿を手渡す。亮は「あっ」という表情を浮かべた後
ばつが悪そうに頭を掻いた。淳はたいして気にしていない様子で説明を始める。

「禁止エリアと名簿のチェックはしておいたから。今から向かうのはここ」
淳はそう言いながら配電所を指した。亮は淳が指し示した部分をじっと見つめる。
「何があるんや?ここ」
「大事なものだよ」
亮が口にした疑問に淳はそれだけを答えたが、亮はなぜか満足げな様子で分かったと頷いた。
「あとコレ、頭に巻いて?金髪は目立つからさ」
「ん?おぉ」

淳は先ほど家捜しして手に入れた黒い風呂敷を差し出した。亮は風呂敷を受け取るなり
それを大きく広げたり裏返したりして何かを確認している。おそらく深い意味など無いのだろうが
何度かそれを繰り返した後、意外と器用な手つきで風呂敷を頭に巻きつけた。

「お前さ、疑問とか持たねぇの?」
淳と亮のやりとりを眺めていた有田が呆れた声を出す。
「疑問ですか?」
しかし亮は有田が何を指して言っているのか思い当たらない様子で、しばし考え込む。

「……そや、淳。これどっから持ってきたん?」
「……そこじゃないよ」
頭に巻いた風呂敷を指差して振り向いた亮に、淳はほとんど泣きそうな顔になる。
両手で顔を覆い項垂れる有田の横で、上田が声を殺して笑っていた。

44 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/06/17(日) 20:57:52
【くりぃむしちゅー 有田 哲平
状態:異常なし
所持品: ロープ・投網
第一行動方針:配電所に向かう
基本行動方針:首輪を外す
最終行動方針:生存 】
【くりぃむしちゅー 上田 晋也
状態:首に痣
所持品:サバイバルナイフ・ライター
第一行動方針:配電所に向かう
基本行動方針:首輪を外す
最終行動方針:島からの脱出 】

【ロンドンブーツ 田村 淳
状態:異常なし
所持品: 拳銃(コルト45 11/12)・携帯電話
第一行動方針:配電所に向かう
基本行動方針:首輪を外す
最終行動方針:生存 】
【ロンドンブーツ 田村 亮
状態:異常なし
所持品: 油性ペン12色セット・スケッチブック・黒い風呂敷・蝋燭2本
基本行動方針:淳の言うことをきく
最終行動方針:淳についていく 】

【現在位置:元町近くの民家】
【8/16 00:30】
【投下番号:206】

45 :名無し草:2007/06/17(日) 22:43:44
携帯からだと見づらいな、まとめ

46 :名無し草:2007/06/17(日) 23:00:14
>>44
乙です!
段々と目的に迫ってきましたね。
積極的に脱出狙ってる数少ない芸人だから頑張って欲しいです。

>>45
確かに見にくいかも。
つか、睡眠削ってちまちま移動してるが……終わる気がしないw

47 :名無し草:2007/06/18(月) 01:56:02
>>44
乙です。新スレ初投下はくりぃむ編でしたか…楽しみにしていたので嬉しいです。
あいかわらず室内の雰囲気の描写が巧みで、情景を頭に浮かべながら読めました。
ついに彼らの目的がはっきりしてきましたね。これからの展開が気になります。

>>45
それについては新しいしたらばの要望スレ行った方がいいかも。

48 :名無し草:2007/06/18(月) 05:41:41
未だにIDとPASSの分からない自分って…orz

49 :名無し草:2007/06/18(月) 06:23:50
>>48
取り合えずsageようか

50 :名無し草:2007/06/18(月) 07:41:44
まとめ管理人さんもくりぃむ編も乙ー!待ってたよ!!

51 :名無し草:2007/06/18(月) 07:58:33
くりぃむ編の亮が好きだw

52 :名無し草:2007/06/18(月) 08:19:50
IDPWはスレタイ

53 :名無し草:2007/06/18(月) 14:24:45
パスワードが分からん
スレタイって言われても分かりません

54 :53:2007/06/18(月) 14:25:55
過去スレ見てたら分かった
迷惑かけました

55 :名無し草:2007/06/18(月) 17:54:38
owaraiと2006?

56 :名無し草:2007/06/18(月) 19:52:03
違うよ

57 :名無し草:2007/06/18(月) 20:09:19
え?あってるだろ

58 :名無し草:2007/06/18(月) 20:39:11
聞く前に確かめろよ

59 :名無し草:2007/06/18(月) 23:10:09
柳生秀人の糞ブログかよw
どんだけ〜?ww

60 :まとめ”管理”人:2007/06/19(火) 00:19:20
>>45のように携帯からまとめを見て見にくいと感じる方で、
携帯で見られるデータの容量の関係などで、まとめにたどり着けても
新したらばに行けない方はいらっしゃいますか?
もしいらっしゃれば、対応策を考えますので名乗りを上げていただけますでしょうか。

また、したらばにも書きましたが、携帯からまとめを見た際に見にくいのが
「本文を横スクロールしないと読めない」という点である場合、
pukiwikiの仕様上改善方法がありません(詳細はしたらば要望スレにて)ので、どうぞご勘弁下さい。

61 :名無し草:2007/06/19(火) 21:52:06
保守

62 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:34:44
麒麟・ソラシド編です。
”それぞれの望”


「じゃあ、あきちゃんとは今朝まで一緒にいたん?」
「うん、最初から今日の6時までずっと。」
「何でなん?たむちゃん達寝てる間に出てってしもたとか?」
「いや・・・朝の放送、馬場ちゃんも聞いてたら知ってる思うけど・・・」
馬場園は6時の放送内容と、その後にあった出来事を思い出した。
「・・・坊ちゃんのこと?」
田村と町田は黙って頷いた。
「放送終わった瞬間、あいつ走って飛び出してどっか行きよってん。」
「ノブはどうしたん?」
「俺が置いてきた」
少し申し訳なさそうな面持ちで町田が手を上げた。
「置いてきたぁ?」
「いや、あん時の川島はほんま誰か殺しかねへん感じやったから・・・」
「川島はそんなんする奴と違うわ!!」
町田の言い訳を田村が力いっぱい否定した。
「ごめん・・・田村」
「ええよ・・・せやけど、もう2度と言いなや」
口ではそう言っているが、町田を見る田村の眼光は鋭い。
「それで今はあきちゃん探してる途中なんやね?」
「うん、レーダーは川島置いていきよったから」
そうこれこれ、と田村が町田の持っているレーダーの画面を見たその時である。
「何やねんこれ!?」
「どないしたん?」
レーダー初見の馬場園も画面を覗き込む。
「俺ら以外の番号あれへんやんけ・・・」
画面にあるのは田村と町田と馬場園の番号だけだ。先程まであれだけあった他参加者の番号が綺麗さっぱり無い。
「じゃあレーダーは・・・」
「何の役にも立たへん、て事やな」

63 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:35:48
眉間に皺を寄せて町田が呟いた。
「そんな・・・」
「くそっ!!」
田村は叩きつけるようにデイパックの底にレーダーを押し込んだ。
「こうなったら自力で川島探す。町田、馬場ちゃん、行こう!!」
デイパックのファスナーを締めながら歩き出した田村を馬場園が追った。だが、
「動くな!」
町田がそう叫んだ。だるまさんが転んだの状態で2人はピタッと止まる。
「何やねん、動くなて!」
「レーダーが無い以上、闇雲に動き回んのは危険や。」
「わかってるわそんなん!」
「どこに誰がいんのかわからん状態で動き回んのが、どんだけ危険なんかわかるやろ?」
「危険や言うたかて、川島が。・・・」
「今まで何人死んだかわかってんのか!?」
普段冷静である町田が思わず声を荒げた。
「これが始まってからもう丸1日経ってる。そんでこんだけ死んでるって事は、
 ”殺す気の奴”が何人かいるっていう事なんやで!」
町田が突きつける現実に、田村も馬場園も言葉を失う。
「俺らかてたまたま運が良かったから生きてるだけや。お前と川島はレーダー持ってたし、
 俺と馬場ちゃんは適当な所でじっとしてたら見つからんかった。でもな、1歩間違ったらここにはおらへん。」
「それはわかるけど・・・川島は1人でもっと危険やんか」
ようやく田村が反論する。
「けど、あいつが持ってんのはピストルやろ。俺らが持ってる武器は何や?・・・お前の鉄パイプと煙幕だけや」
再び田村は黙ってしまった。レーダーが役に立たない今戦闘を予め避ける事は出来ない。
「うちが持ってるのも、武器としては役に立たへんもんね」
「そう、でも俺のんに比べたら馬場ちゃんのは長期戦には持ってこいや。あと1日位で支給の食料は切れるしな。」
「ようそんな先の事まで考えてる余裕があんな・・・」
「・・・何かで聞いた事があんねや。バトルロワイアルで使ってるのは軍でも使ってるレーダーで、
 戦闘で使うからしょっちゅうバグるて。でも大体のは自己修復する機能が付いてるらしい。」
2人の顔に希望の光がさした。

64 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:37:24
「そ、それやったら・・・」
「ああ、放っといたら直る可能性が高いって。せやから動くな言うてんねや。」
「そういう事やったら・・・」
「早く直らへんかなこれ」
田村がデイパックからレーダーを取り出す。町田も自分のデイパックに手を突っ込んでいた。
底のデザートイーグルを確認していたのだ。
(”あいつが持ってんのはピストルやろ”?”武器はお前の鉄パイプと煙幕だけや”?
 何言うとんねん俺。自分かてご立派なピストル持ってるやんか。
 人のええ2人を騙して主導権握るやなんて、自分やなかったら即行ぶち殺したいわ。)
しかしそうやって自分を卑下しても、醜く生にしがみつくのを止められない。
自己嫌悪で町田は胸が痛かった。その町田に田村は声をかけた。
「町田、あのな・・・」
「何や、田村?」
「いや、ちゃんと俺らの事考えてくれてんのやな思て。さっき怒ったりしてごめんな。やっぱお前頼りになるわぁ。」
胸の痛みが増し、心臓がぎりぎりと締めつけられる感じがした。
そのまま破裂すればいい、と町田は少しだけ思った。

「あ、俺ら以外の番号!」
嬉しそうに田村はレーダーの画面を指差す。しかしすぐに表情が曇った。
「たむちゃん、どしたん?」
画面に表示された番号。それは、
「216番・・・」
「!・・・坊ちゃん?」




65 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:38:30
「あーゲホゲホっ・・・僕昨日と今日で死にかけたん4回目やわ。」
「・・・うち2回は俺か。」
「半分も川島や、会ってまだ2,3時間しか立ってへんのに。このペースで行くと今日中に20は堅いげ?」
「・・・・・・・・」
「?・・・あっ、冗談やで!もちろん冗談!!ごめん!」
本坊は川島が怒っているのだと思い、慌てて謝った。
だがそれは本坊の誤解だ。川島は短時間の内に2回も本坊を殺しかけた。
気心の知れた親友ですらこんな状態では、いつか自滅してしまうのではないだろうかと考えていた。
そう思いながら、まだ真新しい本坊の首輪の跡が残る両手を見つめる。
その首輪の跡に、川島は違和感を感じた。
「本坊、お前学校出て来たん何時位やった?」
「え、そうやね〜・・・大体9時頃やったかな?」

今朝の放送ではこう言っていた。
 『あと、今回はおまけにもう1つ禁止エリアがついてきまーす。 そこはスタート地点の学校でーす。
  みんな気をつけろ〜。ふざけて学校に入ったら撃ち殺しまーす。 』

(学校が禁止エリアの筈やったら、首輪をしている本坊が生きてるのはおかしい。)
「でも、それがどないしたん?」
「学校・・・禁止エリアになったんや。」
「え、でも僕通ってきたのに。」
「せやけど、たけしさんそう言うてた・・・」
川島は本坊の頭からつま先にかけてを訝しげに見た。
「え、何?」
「お前・・・ほんまに生きてるやんな?」
「・・・2回も殺しかけた奴の言う台詞やあらへん。」
「・・・ごめん」
冷静に本坊が返し、川島は反省した。

66 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:39:38
「それやったら、いっぺん行ってみる?」
「行くって、学校に?」
「そ、論より証拠ってやつやん?」
「それはそうやけど・・・」
「そうと決まったら早よ行こうげ。」
「・・・田村!」
「田村が何?」
「言うてたやろ?田村達はレーダー持ってるから、すぐ追いつくて。やから待っとけ。」
「あ、そっか。みんなで行動した方が楽しいやんな!」
「ようこの状況で楽しんでられるわ・・・」
「どれ位で追いつくやろね?」
「さあ、俺もどこら辺にいるんか全然わからへんからな。本坊はここがどの位置かわかるか?」
「わからへんよ、僕適当に歩いてきただけやもん。」
「じゃあじっとしとくしかないか・・・」
「大体どれ位までここにいる?僕も早く水口の所行きたいしさ。」
「早よ来ると思うけど・・・遅くても夜には来よるよ。」
「じゃあ日付が変わるまで待つ。17日になったら行こう。」
「あと12時間・・・よし、そうしよ。」
2人の会話に、間の抜けた腹の虫の音が割って入った。
「・・・川島、朝ごはんまだやない?」
「まだやけど、お前もやろ。」
「うん、ごはん食べようや。そろそろお昼時やし。」

支給されたカンパンをかじる。お世辞にも美味しいとは言えないが空腹だからまあいい。
問題は水の方だ。季節柄すぐ喉が乾くし、その上食べてる物がカンパンなんて嫌がらせか。
カンパンじゃなくて米なら喉が乾くのも多少マシになるのに、と川島は思う。
「あ〜、米食いたいわぁ。」
「川島米好きやもんな。」
川島は米をおかずに米を食べる事が出来る程の米好きだ。それがもう丸1日も米を口にしていない。
「おにぎり持って来たかったね〜」
「おにぎりは好きやけどお前の嫌やな。お前米炊くの下手くそやもん、仏壇の米みたいになってる。」

67 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:41:01
「なんかどんだけ炊いても硬いんよね、じゃあお前米炊いて。僕カレー作るし。」
「カレーかぁ。カレーええなぁ。」
「キャンプっていったらやっぱカレーやんな〜」
あまりにも馬鹿馬鹿しい会話だが、川島は楽しかった。ずっとこんな話を続けたかった。
だが、スピーカーから出るクラシックがそれを拒絶した。
「放送・・・もう12時か」
6時の放送での影響なのか、今回は至って模範的で必要事項を伝えただけの放送だった。
たけしが軽口を叩く事もなく、段々音楽がフェードアウトしていき放送は終了した。
「シューベルトの”ます”やんな、今の。」
「そういえばそんな曲やっけ、中学ん時習ったけど。」
「こないだの単独で使ったからね。」

ソラシドの単独ライブ名はある法則がある。
第7章サティ、第8章シューベルトというように
「第○章(回数)☆☆☆☆(クラシックの作曲者名)」というタイトルを毎回付けている。
そしてその時のタイトルの作曲家の楽曲をライブ中に使用しているのだ。

「次の単独はな、もう決めてあるんよ。」
「第9章・・・誰?」
「第九って言うたらベートーヴェンに決まってるやん!」
ああ〜、と川島は納得して頷いた。
「せっかく漫才もコントも考えてたのになぁ。」
本坊はまた過去形の口調になった。
「出来るよ・・・お前らの単独も、俺らの卒業ライブも。」
弱々しい呟きだが、これでも精一杯の希望だ。
「・・・そうやね、出来たらええね。」
本坊が共感した事が、川島にとっては意外だった。やはり本坊は変わっていないと川島は安心した。
「早く田村来るとええのにな・・・」



68 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:42:01
「・・・もう暗なってきたな。」
「たむちゃん、まだレーダーは変化なし?」
「うん、相変わらず4つだけや・・・くそっ!」
悔しそうに田村は吐き捨てる。
「私らのと・・・坊ちゃんのと。」
「本坊の番号だけいつまで経っても消えへん、何やねん人の気も知らんと!」
田村は苛立ちを隠さず、近くの木を思いっきり殴りつけた。
「バトルロワイアルで・・・死人に支給するもんなんか、粗悪品でええて事か?」
苛々しているのは田村だけではない。町田も同じだ。性格の違いからか、町田は溜め息をつくだけだが。
「いっ、イライラしてる時にはカルシウムやで!!」
馬場園は声を裏返させながら、”1日に必要なカルシウム入ってます!”と書かれたビスケットを差し出した。
ピリピリした空気の中にいきなりお菓子を差し出されたので、2人は呆気にとられている。
「あ、ありがとう馬場ちゃん・・・」
「しかしこんな支給品もあんのやな。」
差し出されたビスケットをかじりながら、町田は言う。
「あ、それは支給品と違うよ。」
「へ?じゃあこれどっから・・・」
ばらばらばら、と馬場園はデイパックをひっくり返して、中に入ってる物を全部出した。
「こっちがうちの持ってきたお菓子。支給品のがこっち。で、虫除けスプレーやろ、これが全部化粧品、
 ちなみにこっちも化粧ポーチな。あとUNOと、それから着替えのTシャツ・・・」
「遠足みたいやな・・・ってこれほんまに俺らとおんなじカバンか!?」
「ドラえもんのポケットか!」
「あ、ふくだけコットン箱で持ってきたから2人とも使ってかまへんよ。拭いたらさっぱりするし。」
馬場園は蓋をぺりぺりと開けてシートをごしごしと腕に擦り付けた。

69 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:43:02
「じゃあちょっともらうわ。・・・あれ、馬場ちゃん同じの2つも持ってきたん?」
「何のこと?」
「いや、同じ箱もう1つあるから。ほら、こっちのローソンのシール貼ってあるヤツ。」
田村がひょいっとそれを拾い上げた。

”「それなぁ、死んだ隅ちゃんに使うたやつやねん。」”
それは今朝本坊から手渡されたものの1つだった。
突き飛ばしてバラバラに散らばった筈だったが、そのうちの1つが馬場園のデイパックに紛れ込んだのだろう。

「いやっっ!!!」
忘れていた恐怖が背筋を電撃のように駆け抜け、気付くと馬場園は田村の持っていた箱を叩き落としていた。
「いったぁ・・・馬場ちゃんどないしたん?」
はっと我に返る。自分が叩いた田村の手は赤くなっていた。
「ごっ、ごめん・・・あれや、ちっさい虫がおってん!」
「えぇっ虫!?」
「田村虫大っ嫌いやからな。」
「つい反射的にやってしもて。えと、2つあるんはあれや。うち汗っかきやからいっぱいあった方がええなって!」
「実際こんな事になってしもたし、持ってきてくれて助かったわ、ありがとうな。」
「う、うん。どういたしまして・・・」
馬場園は高鳴る心臓を抑えるのに必死で生返事しか返せなかった。





70 :名無し草:2007/06/20(水) 10:44:03
19時ごろまで明るい夏の空が紺碧に塗られている。時計の針はもう23時半を指していた。
川島と本坊は無言のまま座っている。本坊は何回か話しかけようとしたが、
川島の焦りが時とともに酷くなっていくのを見て、その気をなくした。
(・・・おい、何しとんねん田村、町田、ノブ。もう夜やぞ、俺は動いてへんねんから簡単に見つかるやろ?)
”もうこの世にいないのかもしれない”という絶望が何度も頭をちらつくが、その度に否定する。
しかし、無事であるならば来ないのは辻褄が合わない。時間の経過とともに、そのズレは大きくなる。
(動かんでただ待ってるのが、こんなしんどいて思わへんかった・・・・不安に潰されそうや。
 大体何でこんな目にあわなあかんねや。何基準で選んだんや、選ばれてへん芸人かてぎょうさん・・・)
「川島、1つ言っときたいんやけどさ。」
「ん、ああ・・・何や?」
「何で俺が?とか考えたり、誰かのせいにしたりしたらあかんよ。」
冷静に本坊はたしなめる。図星だった川島は心の中を見透かされていると思って慌てた。
「考えるのは・・・そう考えるのは当たり前と違うんか?間違いなんか?」
「間違いとか正解とかやない。無駄やって言うてんねや。」
「無駄・・・?」
そうかもしれない。何で自分が?という疑問はここの誰に聞いてもわからない。
仮にわかった所で、じゃあ真面目に殺しあってきますなんて言わない。
じゃあ誰のせいにすればいい?政府のせいか?戦う相手は同じ立場の芸人であるというのに。
「無駄な事考えんとさ、自分らの出来る事を精一杯やってこれを終わらせればええんとちゃうかな?」
「これを”終わらせる”? ”抜け出す”の間違いちゃうの?」
「いいや、終わらせる。まあ具体的には何も決まってへんのやけどね。」
「終わらせる・・・ってどうすんのやな?」

「みんないっぺんに死んでもらう。」

71 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:45:49
聞き間違いかと思い、川島は耳の穴に小指を入れてひねった。
「あ、もちろん水口以外な。」
聞き間違いではなかった。
「放送で言った事は・・・そういう事なんか?」
「ああ、そこまでは聞こえてたんや。よかったぁ。」
「マジで言うてる?」
「マジやって。いくら僕でもこんな不謹慎な冗談言わへんよ。」
「お前みんな死ねばええって言うてんのやろが!!」
「そうやで。」
それがどうかしたのかと言う様に本坊は平然としている。
「おかしいわお前・・・さっきから言うてる事むちゃくちゃや・・・」
「どこが?わかりやすいやん。どうせみんな殺しあって死ぬんやから、恨んだり悲しんだりする前に
 いっぺんに終わらせようって言うてるだけで。簡単な理由やげ?」
「納得・・・出来る訳ないやろ。」
「それは、心のどっかで助かるって思てるからそうなるんやろ。そういうのも無駄や思うわ。」
「今俺が惜しんでる命も、無駄やって言いたいんか?」
「命やなくて、そのネガティブな考え方があかんのやって!仕方ないやん、俺らは巻き込まれて
 もう何人かは死んでる。死んだ人を放っとくのは、俺は嫌や!!」
「生きてたいって思うんはそんなあかんのか?」
「あかんとは言わへんよ・・・でも生きる為には他人を殺して生き残れっていうんがバトロワやろ。
 生き残る為には他の人を殺してもいいやなんて、それは間違いやない?」
「それやったら水口は?何であいつだけ例外なん?」
「水口は別やねん。あいつは死んだ人の事考えてくれるから。きっと自分以外の参加者を弔ってくれる。」
「何で・・・お前は何で生き残りたいって思わへんねや?水口がどうしたかて・・・お前も死ぬねんで?」
「かまへんよ。死んだ後で誰か俺の事思い出してくれる人がいるんやったら、俺は死んでもええ。」
わからない。本坊の考えている事が欠片も。いや、理屈はわかっても感覚で理解出来ない。
命を惜しむ事は人が持つ必然である筈なのに、どうしてそれがわかってもらえないのか?

72 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:47:01
その時、森のどこかにあるスピーカーがブツッと鳴った。日付変更の放送が開始されるのだ。
「17日・・・約束の時間やな。」
「水口が・・・」
「ん?」
「水口がもし死んでたら・・・そん時お前はどうすんのや?」
首を傾げて本坊は考えた。そして、にっこり笑ってこう言った。
「そん時は、川島が殺してくれる?」
川島は絶句して、今朝本坊の首を絞めた掌を見る。跡はすっかり消えて元通りになっていた。
「じゃあ放送聞いとこうや・・・今から死亡者言わはるから。」

たけしのあくび混じりの放送が終わった。
「良かったやん。田村とか呼ばれてへんわ、水口も。」
「あ、ああ・・・」
「ほな行くで。もう17日やし。」
「本坊!死んでへんて事は、もしかしたら追いつくかもしれへんやろ!もうちょっと待ってくれへんか!?」
本坊は立ち止まった。そして振り返る事無く言い放った。
「川島。約束したやろ?もうじゅうぶん待ったわ。行くで。」
「でも、レーダーあったら水口も探しやすくなるし・・・」
「12時間も動かへんかったのに来ぇへんかってんで。生きてるにしたかて来れる状況ちゃうんやろ。
 ・・・今はあきらめ、川島。」
再び本坊は歩き出した。川島は追いすがって止める。
「待ってや、本坊!!」
「・・・川島。昼言うてた事やけど、あれ訂正するわ。」
「訂正?」
「麒麟の卒業ライブも、俺らの単独も・・・もう出来ひん。」
決定的な意志の違いだった。自分ではもう、本坊を止める事が出来ない。
(誰か、誰でもええから止めて欲しい。水口でも誰でも。
 ・・・・田村。助けて、田村・・・)

73 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:48:33
「復活したぁ!!」
レーダーをたかいたかいの状態で持ち上げ、田村は歓喜した。
「長かったな!」
「うちにもちょっと見して」
3人ともこぞって画面を覗く。
「良かった・・・川島無事や。」
安心した後少しだけ表情が曇った。理由はすぐにわかった。本坊の番号は消えていない。
「ここだけ直ってへんやんけ・・・」
「しかも川島の横か・・・まあええ。まだ近くにいるみたいやし、急ごう。」
暇な時間を利用して交代で寝ていた為、体力は温存している。
本坊の番号を見て、2人とは全く別の感情を抱く馬場園は画面に釘付けになっていた。
「坊ちゃんは・・・死んだ、んよな?」
2人は黙って、しばらく経って無言で頷いた。
「気持ちはわかるけど・・・」
「俺らも嫌やわ。馬鹿にされてるみたいで。」
田村と町田には本坊を失った悲しみと、その本坊を生存者側に表示する機械の無神経な間違いに対する怒りがあった。
だが馬場園はその2つとは全く違う、安堵の感情を抱いていた。
(坊ちゃんはやっぱり死んだんや・・・)
だがすぐに、矛盾が生じる。
(やとしたら・・・坊ちゃんにもらったあれは何?)
田村はレーダーを持ち、町田がコンパスで方向を確認する。
「良かった。これで川島に会えるわ。」
「・・・やっぱ嬉しそうやな、田村。」
「うん、でも川島だけと違うよ。俺はやっぱりみんなと生き残りたいもん。
 川島も町田も馬場ちゃんも、他の人らもみんな。」


田村の希望、本坊の絶望、川島・町田の生への渇望。どれが正しいのかは、わからない。
・・・いや、本坊の言葉を借りるなら正しいとかそういう事を考える事自体”無駄”な事なのかもしれない。
 

74 :名無し草:2007/06/20(水) 10:50:58
麒麟 田村 裕
所持品:ライター、煙草、簡易レーダー、鉄パイプ、煙幕×4、爪切り
基本行動方針:首輪の外し方を探す。攻撃してくる相手には反撃する
第一行動方針:相方捜索
第二行動方針:仲間を探す
最終行動方針:ゲームの中止】
【ヘッドライト 町田
所持品:デザートイーグル、サザエさん 1,7,24,38,45巻
基本行動方針:自分の身は自分で守る
第一行動方針:川島捜索
第二行動方針:
最終行動方針:不明】
【アジアン  馬場園 梓
所持品:お菓子の詰め合わせ、生理用品(私物)、虫除けスプレー(私物)
基本行動方針:生存最優先
第一行動方針:とりあえず田村・町田と行動をともにする
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明】

【現在位置:F-6 】



75 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 10:55:30
【ソラシド 本坊 元児
所持品:コンビニコスメセット
基本行動方針:水口を捜す
第一行動方針:学校へ向かってみる
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】


【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:自分の精神を保つ
第一行動方針:混乱している為考えられない
第二行動方針:上に同じ
最終行動方針:上に同じ】


【現在位置:G-6】
【8/17 00:09】
【投下番号:207】



>>30
ロンブー・くりぃむ編乙です!
真面目に脱出の段取りしてる話なのに、クーラーが恋しいとか、
(特に上田だよな。体力ないし体弱いし骨も弱いし)のとことか、亮の呑気さとか
ほっこりする箇所多くて良かったです。次回も楽しみにしてます。

76 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 11:51:11
訂正。
>>74も現在位置もG-6です。

77 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/20(水) 11:52:38
>>76
×>>74
>>74の、です。gdgdだ・・・

78 :名無し草:2007/06/20(水) 15:03:04
オツカレチャ━━━━( ´∀`)━━━━ン!!!!
投下待ってたよ

79 :名無し草:2007/06/20(水) 15:34:40
>>75
乙です!
本坊の暴走も怖いが川島・町田・馬場園辺りも不安定だな。
先のことを考えると……(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

80 :名無し草:2007/06/20(水) 21:47:45
>>62-77
乙です
この調子で書き手さんにはどんどん投下していただきたい

81 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:01:08
前スレ>>505-509  松竹本編第二話

 NEW GAME  アメリカザリガニ



 時は2006年8月15日、沸き上がる欲望がこの島を揺らした

 奔走する若者達の集う様は、忌々しい底なしの闇に覆い隠される

 情熱の矛先は溢れる憤りと共に見知らぬ地へと向けられた


 『偉大なる人』はさらなる高みを求めていた。そのため人々は新たな皇道を模索した。
 そして選ばれた一部のエンターティナー。大人達は、ただ黙示した。

 ――これは法律であり、我々の日常である。

 限りあるフィールド。降り立った狩人達。時に獲物へと成り代わる。
 死闘の果てに、一体何を見るのか。

 残される事の憎しみを、
 朽ち果てる事の喜びを、

 舞台は整った。さぁ。我等が偉大なる人へ、その全てを奉げろ。


  GAME START !

82 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:02:30

「はぁっ、はぁ、っ……」
足場の悪い森の中を全速力で走り抜ける。辺りは薄暗くなり始め余計に足元が取られやすい。
喉は痛くなるほど乾ききって、微量な唾を飲み込むとほのかに血の味がした。
途切れる呼吸を無理矢理繋ぎとめるため、少し多めに息を吸いこむ。
すると欲張りすぎた反動かゴホゴホとむせてしまった。
その間も足を緩める事はなく、とりつかれているかのように地面を蹴った。
太陽が沈みかけても流れる汗の量は変わらない。
昼の干乾びるような暑さとは違う、ジメジメとした息苦しい暑さが全身を襲う。
まとわりつくシャツを疎ましく思いながら、尚も力を振り絞り走り続けた。

『観覧車まで走れ』

その言葉を聞いたのは夢から醒めた直後、教室内でのこと。
頭も視界もボンヤリとしているのに、その言葉は素直に耳に響いた。
しかし言葉の意味より真っ先に気になったのは、何故か真隣に座っている声の主、相方平井善之の事だった。
ついさっきまでいつものように他の芸人達とくだらない話で盛り上がっており、その輪の中に平井はいなかった。
まるで相方が瞬間移動でもしてきたかのようで、全身に鳥肌が立つ。
それが思い違いだと気付くのは、完全に体を起こして辺りを見回した時だ。
先ほど目にした楽屋とは似ても似つかない風景がそこにはあった。
そして不思議と途切れている頭の中の記憶……寝起き特有の気だるい身体がそれらの矛盾と繋がった。
いつの間に眠ってしまったのか。いつの間にこんなところに移動してきたのか。
答えを求めるように平井の顔を見やると、もう一度小さな声で囁いてきた。
「観覧車まで走れ。1秒でも早く」
あまりにも小さな声で聞き取るのが大変だった。しかし間違いなくそう言った。

83 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:03:51

どういう事なのか。観覧車とは何の事だ。
そう問いたかったが、室内を取り巻くピリピリとした空気に声を出すのを躊躇った。
ウルサイと評判の高音ボイスはこの空間ではあまりにも不釣合い。
声にはせず目で訴えては見たものの、平井はそれ以降、一言も言葉を発することはなかった。

『えー、今日は君達に、ちょっと殺し合いをしてもらいます』

相方の言葉は、ビートたけしの登場によって次第に謎解きされていった。

『お前らも、大人なら知ってるよな?』


つい遮った真新しい記憶に、発熱する目頭を押さえた。
全てが始まったあの教室で見た。
いつもここから山田の死。そしてヘッドライト和田の『孤独』な死。
目の前で目撃した二人の死が、頭にこびりついて離れない。
間違いなく迫りくる恐怖を味わったのは当人のはずなのに、残された者が被害者意識に刈られてしまうのは否めなかった。
何とも後味の悪い死を目の当たりにして、自分の命の存在意義に不安を抱かずにはいられない。
思い出すのは撃ち抜かれた体と半分にちぎれた首、そして校舎前で泣き崩れる一人の男の姿だった。
どの記憶もあまりに鮮明で立体的だ。
何が起こっても傍観者でしかいられなかった。自分を守るのに必死だった。
血の味がする唾をもう一度飲みこむ。
動いた喉が首輪の締め付けをよりリアルに感じさせた。
右手でそっと首輪に触れると、途端に、胸が早鐘を撞くように高鳴る。
自分の運命は、こんな小さな鉄の塊に握られているのか。
ぐっと唇を噛んだ、その時だった。

84 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:05:05

「ぉわっ!」
突然視界が激しく揺れ、鈍い音を響かせた。
視線が瞬時に低くなった。もつれた脚のせいで勢いよく転んでしまったのだ。
右膝がじんじんと痛む。手のひらと右肘にも同じ感覚があった。
「なんで、こんなん……」
体は地を這っている。それを元に戻す気力が、どうしても見つからない。
こんな思いをしてまでこのプログラムに参加する意義とは一体なんだ。
太陽の光を遮断した湿った土の匂いも、大地にたくましく生い茂る草木の青さも、
この光景は普段の生活と何も変わらないはずなのに。
起き上がる事も出来ず、右に握り拳を作った。
ただそれをぶつける相手が見つからず、目の前にある大地に打ちつけた。
固く乾ききった土は、無言で拳を受け止めるだけだった。
とうに限界を超えてしまった心身が諦めにも似た表情をこちらに見せる。
これまでの運動量と精神的なダメージのせいで、激しく咳き込み嗚咽を漏らした。

『観覧車まで走れ』

助けを求めるように空を仰いだが、木々に遮られ照らすものもないこの森の中から、観覧車は見えなかった。
辿りつけない。
そう思った瞬間闇が辺りを覆うような感覚に陥り、身震いをした。
死んでしまうのだろうか。このまま、ここで。

85 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:07:06

自分の事ばかり考えていた、その報いかもしれない。
死に逝く人に、泣き暮れる人に、もっと優しくなりたかった。
例えばあの時、大量の死体を目の前にして涙していたあの男を――ザ・プラン9のヤナギブソンを、少しでも勇気付けて元気付ける事が出来たなら。
例えばあの時、一人死の恐怖に追いこまれたヘッドライト和田に、助ける事は出来ずとも手を差し伸べる事くらい出来たなら。
例えばあの時……。

今更、遅いだろうか。

「観覧車まで走れ、観覧車まで走れ、観覧車まで……」
堅く目を閉じ呪文のように数度繰り返し呟くと、もう一度力強く拳を地に突きつけ、立ち上がる。
そして軽く辺りを見まわし、汚れた服を払うことなく走り出した。
今更遅いかもしれない。ただ、今死ぬわけにはいかなかった。
平井がわざわざ声をかけてきたのには、きっと何か深い意味がある。何か考えがある。
教室で顔色一つ変えずにビートたけしの話を聞いていたのも、何か策があるからだ。
この状況を脱する策を持っているからだ。
それが確認できれば、なれる気がする。
死に逝く人に、泣き暮れる人に、そして全ての参加者たちに。

必ず、平井は自分を正しい場所へと導いてくれる。


86 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:08:22

森を抜けると目の前に大きな門構えが飛びこんできた。奥には更に巨大な観覧車が聳え立つ。
重苦しい空気が不穏に流れる。目に見えるものではないのだが、殺気立ったものを感じた。
この場所は、何か良からぬことを生み出す気がする。
ぼんやりとそんな事を考えたが、すぐに忘れた。
とにかく平井と会う事、それしか頭になかったからだ。

『1秒でも早く』

園内に響く足音が鼓動と共に加速する。
動かない遊具の不気味さも、静まり返る遊園地の悲壮さも、染まり狂った青のペンキも、気に留める暇はなかった。
目指すは観覧車、ただ一つ。

観覧車の前まで来ると、中までくまなく探した。
遊具の中、更にはそばにあった管理室のような小部屋も、当然確認した。
しかし、平井の姿はなかった。
スタートしたのは平井のほうがずっと先である。
自分より断然体力のない相方は、どこかでへばっているのかもしれない。
それならいいのだが、万が一誰かに襲われてしまったのだとしたら……。
ゾッと悪寒が走り、頭を振るいその悪い考えを消し去る。
わずかな希望に託し、目に付いた建物を手当たり次第確かめていった。
アトラクションは時が止まったかのように薄暗い景色の中に佇む。

ここにも、ここにも――。


87 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:09:41

次に辿りついたのはゲームセンターらしき建物だった。
錆びれてしまったその外観ではもはや見る影もない。
誘い込むかのようにドアが開け放たれている。
自然と脚が、そちらに向かった。
入り口の前で立ち止まると、その薄暗がりの中から足音が響いた。
まだ整わない呼吸を何とか落ちつかせようと、目を閉じて深呼吸する。
どうか。恐ろしい殺人鬼ではありませんように。出来る事なら、探している相方でありますように。
漠然とした不安が襲いかかる。生命の危機とは違うそれは、ただ漠然と「嫌な予感」であった。
ゆっくり目を開くと直線上に人の影が止まる。
飲みこんだ唾は、やはり血の味だった。

「ようこそ。我が砦へ」

妖しげな台詞とは裏腹に、聞こえてくる声は穏やかだった。
のほほんとした口調は間違いなく、探していたその人のものである。
暗闇の中に立つのは、手招きしてこちらを歓迎してくる平井であった。
相方と出会えた喜びなのか、はたまた何か胸踊る出来事でもあったのか、嬉しそうな表情を貼り付けていた。
その瞬間、今まで感じていた殺気や不安、「嫌な予感」なんてものは完全に姿を消した。
いや、少なくとも、完全に忘れた。
思わず胸を撫で下ろし、つられるように笑みをこぼす。

「砦て……なんのことやねん!」

よく通る甲高い突っ込みが、飛び跳ねるようにこの島に響いた。

88 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:10:54

 《主人公の設定をしてください》

  名前: 柳原 哲也

  性別: 男

  職業: 芸人


   この設定でよろしいですか?

    →はい   いいえ
                                  ......Now Loading


89 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:12:10

 設定完了。
 最後の一人に残れるよう、頑張ってください。

  → BATTLE ROYALE 50  START




【アメリカザリガニ 合流】
【アメリカザリガニ 柳原哲也】
所持品:不明
第一行動方針:平井の計画を聞く
基本行動方針:優しくなりたい
最終行動方針:ゲーム終了

【アメリカザリガニ 平井善之】
所持品:不明
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明
【現在位置:E1 アミューズメントパーク内ゲームセンター】
【8/15 18:25】
【投下番号:208】


90 :名無し草:2007/06/21(木) 00:17:39
リアル投下ktkr
乙です!!
どうなるのか楽しみだ

91 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/21(木) 00:20:13
遅くなりましたが……。

>>30
乙です!
やっと脱出の糸口が!
お得意の頭脳プレーでどう行動していくのか、とても楽しみです。

>>62
乙です!
本坊って狂っているようで一番冷静に現実を見ているような……。
彼らが無事再会できるのか、ハラハラしながら続編を待ちたいと思います。

92 :名無し草:2007/06/21(木) 11:42:04
松竹編乙です!

93 :名無し草:2007/06/22(金) 00:52:30
>>89
乙です!

そのゲームはどこで購入できますか?w

94 :名無し草:2007/06/23(土) 13:31:59
ほす

95 :名無し草:2007/06/23(土) 18:25:35


96 :名無し草:2007/06/23(土) 21:10:43


97 :名無し草:2007/06/24(日) 01:02:20
マジでパスわからん、携帯で過去見れないし、\(^o^)/オワタ 保守

98 :名無し草:2007/06/24(日) 01:31:44
IDもPassも冷静になってこのスレ読み返せばわかるとおも(´・ω・`)

99 :名無し草:2007/06/24(日) 02:15:58
通勤ブラウザ使ってみるとたまに正しいIDとパス入れても弾かれるのは気のせいだろうか。
そのせいで携帯住民がまとめ見れないってことは……ないよな?

100 :名無し草:2007/06/24(日) 03:31:21
BASIC認証がそもそも携帯向きの機能じゃないからね。

101 :名無し草:2007/06/24(日) 11:36:33
携帯ユーザーです。
ページが長すぎて下まで表示されないところがいっぱい
あと注意書き、白で書いてあるんだろうけど
携帯では背景白になるから読めないところがあった

102 :名無し草:2007/06/24(日) 12:45:52
>>101
自分も携帯だけど、途中で切れてる時は2ページに分けて表示されてるよ
数字の8ボタン押したら次のページ行ける

103 :名無し草:2007/06/24(日) 15:11:55
>>101
>>102ですが自分で読んでてわかりにくいので補足

まとめの上部には常に

0.Top|1.New|2.Edit|3.Unfreeze|4.Menu|5.Recent

↑これが表示されてると思うんだけど、例えば文字数や改行の多いページを開いたら(例:芸人データベースのページ)

0.Top|1.New|2.Edit|3.Freeze|4.Menu|5.Recent|1/4|8.Next

↑こういう風に表示されるはずなんで、「8.Next」をクリックする、もしくは8ボタンを押すと次のページに進むと思います
>|1/4|
ここの部分はそのページの文字数などの量によってそのつど1/2になったり1/3になったり…あまり意味はない情報ですが

携帯の機種やメーカー、文字の大きさによって違うかもしれませんが多分これできちんと操作できると思います
(ちなみに自分はauのWINで文字サイズは極小に設定してあります)

ってしたらばに書けばよかったかな…

104 :名無し草:2007/06/24(日) 15:29:49
owaraiと2006

105 :まとめ”管理”人:2007/06/25(月) 00:09:59
>>99
BASIC認証を普通にかける以外のことはしてないんですが…。申し訳ありません。
>>100の方の言われるように、BASIC認証自体携帯向きでないのは確かです。

>>101
ページが長過ぎるという指摘ですが、それをなおすにはページ自体が多すぎます。
申し訳ありませんが、>>103のような(>>103の方説明ありがとうございます)やり方を参考にして下さい。
また、注意書きに関しては携帯用にページを設けるか、何か方法を考えたいと思います。

106 :名無し草:2007/06/25(月) 01:11:53
携帯だけど、ここ使って見てる
http://mobazilla.ax-m.jp/

107 :名無し草:2007/06/25(月) 05:54:14
>>102->>106
ありがとう、無事見れました。
俺が無知なだけだった…
それと文字色の件、管理人さん手数かけて申し訳無い。

108 :まとめ”管理”人:2007/06/25(月) 15:55:23
>>107
携帯用トップページを試作してみました。
普通にindexから入ったPC用のトップページの上部にリンクしてあるので、確認してみて下さい。
pukiwikiのメニューバーと単語検索のページに直接行けると便利かなーと思ったので、
携帯用トップの上のところにリンクしてみました。もし見づらいとか何かあればまたご連絡下さい。

109 :名無し草:2007/06/26(火) 16:08:37
ほしゅ
投下まだー?

110 :名無し草:2007/06/26(火) 17:48:33
うっせ、黙ってまってろカスが

111 :名無し草:2007/06/26(火) 19:09:06
しね

112 : ◆1ugJis83q2 :2007/06/27(水) 02:12:30
山根と小林行きます


夏休みの朝は、確かに暑いが爽やかだった。
1日中何もしなくてもいい、ただ、遊んでいれば良いだけの日々の始まりは、少年の心を浮き上がらせる。
山根はそんなことを考えていた。
先程から小林は何も言わない。手元にある、びっしりと乱雑な字の書かれた紙をながめていた。
山根が、その紙がコントの原稿だと気づいたのは、それから眼を離した直後のことだった。
「図書館の三原則を知っているか」
突然小林が、口を開いた。
「いいえ」
「ふむ」
会話はするが、小林の視線が山根に向くことはない。
「まず、図書館という施設がいるな。それがないと何も展示できない。
 そして次に資料がある。主に本だな。最近はマイクロフィルムや電子資料などもあるが、これらがないと意味がない。
 最後に来るのが職員だ。職員がしっかりしていないといい図書館にはならない」
「はあ」
小林が言っている事は理解できるが、小林が何を言いたいのか山根には理解できない。潮風にのどがひりつく。
「しかし、だ。近年ここに新しい概念が生まれた。利用者の存在だ。彼らがいないと、いくら資料があったってどうにもならないじゃないか…コントだって、そうだ」
微かに呻いて、小林はうつむいた。髭が伸び、垢にまみれ、やつれきった頬は奇妙に歪んでいた。
「だれも演じない、だれも観ない…そんなコントに意味があるのか?しかも完成すらしていない。
 これは、コントじゃないよ。だから、こうする」
その言葉の直後、小林の手元にあったコントは彼によって引き裂かれ、空を舞う。
「これでいいんだよ…観ている人に笑ってもらえないコントなんて意味がない。
 笑ってもらえるコントが書けなければ…だから、僕にはもう何もないんだよ」
「え?」
山根が省みた時、小林は笑っていた。笑いながら、コントを引き裂いては風に散らしていた。
「何でそんなことを言うんですか!」
山根は1人で叫んだ。小林の笑顔があまりにも無邪気だったからだ。そこに自嘲や嘲笑の色はまるでなかった。
いっそ、小林が泣いたり悔やんだりしてくれていた方が、山根はどれだけ彼に同情できたろうか。
嘘が多いといわれている小林だが、その笑顔にはあまりにも裏がなさ過ぎる。

113 : ◆1ugJis83q2 :2007/06/27(水) 02:13:45
「じゃあ、君は」
小林は言う
「人殺しの書いたコントで笑えるのかい?」
山根は黙り込んだ。「人殺し」という言葉の生々しさが、彼をして黙らせたのだ。
そして、まだ小林は笑っている。彼の周りには、コントの残骸が散らばって、空に吸い込まれるのを待っている。
生々しいのは言葉のみで、その場の情景は生きているものの気配を感じさせない、乾いた清涼に充ちている。
こんなときは、どこからかバッハのチェロ無伴奏が流れてきそうなものだが、彼らの耳に絶えずささやきかけるのは、絶え間のない波の音だけだった。
そうして山根はある言葉を思い出す。

『死に至る病とは絶望のことである』キルケゴール


【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:今立の手伝い
基本行動方針:怪我をした人を助ける
最終行動方針:死は覚悟している
現在位置:崖】

【ラーメンズ 小林賢太郎
所持品:フェンシングの剣
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:
現在位置:崖】

【8/16 07:45頃】
【投下番号:209】

114 :名無し草:2007/06/27(水) 09:54:29
>>113
乙!
うわーコントがー!!

115 :名無し草:2007/06/27(水) 15:51:42
>>113
乙!
ついに本格的な死亡フラグが…(((( ;゚Д゚)))
一時でもコント書いてた小林がコントを捨てる時が来るとは。

116 :名無し草:2007/06/27(水) 17:41:30
>>113 乙!

いやああああああああ
あまりにも悲しすぎる・・・

117 :名無し草:2007/06/28(木) 01:26:38
>>113
乙!
小林のメンタルの弱さを思うと先が恐いんだよな…

118 :名無し草:2007/06/28(木) 07:51:29
>>113乙!
コント………(つд`)

119 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:01:59
>>81-89 松竹本編第三話

 初期装備 アメリカザリガニ


 カツ、カツ、カツ、カツ――。

 無事に平井と合流を果たした柳原は、ゲームセンターに散乱している椅子に腰掛け、上半身をゲー
ム台に預けるようにして伏せていた。手入れの行き届いていない森を駆け抜けるのは想像以上に体力
を消耗したため、この建物に辿りついてしばらくは何も考えずにじっと回復を待っている……という
のが現状である。
 太陽はとうに沈んでいた。そのため室内は不気味なほど暗い。おまけに入り口を閉ざしているせい
か、夜になったとはいえ空気が篭って暑苦しい。何もしなくても汗が流れ落ちるほどで、その暑さは
尋常ではなかった。
 息苦しさをを紛らわすかのように、柳原は室内を見渡した。冷たいゲーム台に密着した上体はその
ままに、目だけをぐるりと動かした。
 だだっ広いこの空間には、数えるのも億劫なほどのゲーム台が並んでいる。入り口近くにはクレー
ンゲームや音楽ゲームがひっそりと出迎え、車を見立てたレースものの機械は居心地悪そうに整列し、
アクションゲームやパズルゲームの類は部屋の半分近くのスペースを埋め尽くし、今座っている奥ま
った場所にはパチンコ台やスロット台が無言で陣取る。
 当然ゲームセンター本来の賑やかさはそこにはなく、あるのは先ほどから鳴っている、平井の爪と
ゲーム画面が衝突して共鳴する音だった。
 次いで視線を落とし、柳原はテーブル代わりに体を預けている小さなクレーンゲームに目をやった。
腰下程度の高さのゲーム台は、カプセルに入った景品をクレーンで拾うタイプのものだった。そうい
えばこの手のゲームで景品を入手した経験がない事を、柳原はぼんやりと思い返す。過去何度かやっ
てはみたものの、アームを閉じてクレーンを持ち上げる瞬間、毎度のようにカプセルがすべりアーム
からすり抜けてしまうのがどうにも納得いかないのだ。ゲーム台の前で「こんなん取れる訳ないやろ」
と毒づいた経験は数知れない。

120 :名無し草:2007/06/29(金) 01:02:10
保守

121 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:07:14

 クレーンゲームもコツさえ掴めば簡単に景品を手に入れられるらしい。柳原は睨み付けるようにガ
ラスの箱を凝視した。それはコツを掴むヒントを得るための行為だったのだが、思いもよらない事に
気付いてしまい慌ててそのゲーム台から目を逸らした。
 柳原は手で口元を覆った。ついニヤけてしまう口元を隠すためだった。口元がニヤけてしまうのは
大笑いしたいのを必死に我慢しているから、なんて理由ではない。背徳行為で得られる喜びのた
め――そう例えるのが一番適当である。
 景品として転がっているカプセルの中に入っていたのは、色とりどりの女性用下着だった。窮屈そ
うに閉じ込められた布地に粗いレースが見え隠れしている。パステル調の爽やかなものから黒や赤と
いった妖艶さを備えたものまで、多彩な品揃えであった。それらを凝視していた自分が急に恥ずかし
くなり、ふわふわと視線を漂わせ斜め向かいに座っている平井を見た。平井はこちらの事など気にも
止めていない様子で、アクションゲームか何かの台に頬杖をつき、一定間隔で鋭い音を生み続けていた。

 ここに辿り着いてから、柳原はずっと違和感を覚えていた。全てが平井に対しての違和感なのだが、
その違和感が何を意味するのかまではわからなかった。いくらスタートの時間が違うとはいえ、急い
で走れば追いつけると思っていた。スポーツに無縁な平井の事だ。走り続けるほどの体力もないだろ
うし、ましてや、全力疾走している平井の姿など想像もつかなかった。
 しかし蓋を開けてみれば、平井は柳原よりもずっと早くこの場所に辿り着いていた。入り口で対面
した時も、長い道のりを駆けて来た割には疲れた素振りも見られなかったし、今だって息苦しいほど
暑いこの空間で、文句の一つも言わず涼しげな顔をしているのがどうにも不思議で仕方ない。
 改めて平井の様子を眺める。宙に浮いていた平井の視線はこちらへと向かい、そうかと思えば、周
囲の暗闇と共にニヤッと笑った。
「自分どう思う?」
 鳴り続けていた不快なBGMは途切れ、突然喋り掛けられた。

122 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:08:38

 柳原は考えた。平井はバトルロワイアルについて聞いているのだろうか。どうと言うのは、その言
葉通り。
「そんなもん早よ終わらせな。平井かてそうなんやろ?」
 同意を求めるつもりではなかったが、同じ答えが返ってくると疑いはしなかった。心なしか、平井
の顔は驚いているようだった。
「そや、早よう終わらせんとな」
 平井はまたニヤついて、今度は腕組みを始めた。
「何か、考えてんねやろ?」
 その問いかけに平井が小さく目を見開いた。やっぱり、平井はこのバトルロワイアルを打破する策
を何か持っている。そう思わずにはいられない反応だった。
「平井、聞きたい事あんねんけど」
「何?」
「その、どないして終わらせるつもりか知らんけどやな、俺にしか声かけてないん?」
「いや」
「他には、誰?」
「松竹の芸人何人か」
「みんな?」
「……」
 突然平井は黙り込んだ。しばらく答えを待ってみたが、返ってくる言葉はなかった。
 今更遅いのだろうか。
 柳原は思い出していた。ここに来るまでに見た全ての事を。
 そして言い訳をした。どれも仕方のない事だったのだ、と。
 銃で撃たれた体と、千切れた首と、泣いている男が同化してこちらを見ているようだった。形のな
いものを見ているようで、しかし、確実にそれは実体であった。

123 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:10:08

 居た堪れなくなった柳原は慌てて声を上げた。
「おい、何とか言えやこら」
 気持ちが焦る。
 のろのろと、同化したモンスターが近づいてきた。
「出来る事と出来ん事があるわ」
 否定的な平井の言葉に、モンスターは大きく口を開けた。
「自分らだけ助かるわけにはいかんやろ」
 鋭い牙を見せつけ直進してくる。それは重力に従って落下する一切のものよりも早く感じた。
「みんなや、みんな。今生きてるみんな!」
 (助けてくれ!)
「それがアカンのやったら出来る限り大勢、助けられるだけ!」
 (平井!)
「自分らだけ助かっても嫌や!」
 (死にたないねん!)
 同化したモンスターは目前まで迫っていた。ついに柳原はその存在を直視出来なくなり、固く目を
閉じた。
 (おい俺。死にたないって、なんやねん)

「なぁ」
 心臓が飛び上がった。
 ただ呼びかけられただけの事なのに、その声は非難を含んでいるかのようだった。
 ゆっくり目を開くと、先ほどまで見ていたモンスターは姿を消し、代わりに相変わらず腕組みをし
ながらスカしている平井の姿があった。だが、ぶつかり合った平井の視線が、ついさっきこちらを向
いていたあのモンスターの視線とリンクして、柳原は思わず身震いをした。

124 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:12:13
 本当はわかっていた。
 平井が言おうとしている事は。
 そして、その言葉に従うしかない事も。
「それは欲や」
 ただ表現が、柳原の想像していたものより少し難しいだけで。
「欲深いんよ、おまえ」
 少し、ひねくれた言い回しをするというだけで。
「大切なもんはたくさん持ち過ぎたらどれが本当に必要なもんか、忘れてまうって」
「……」
「本当に大切なもんって、1人につき1つや思うわ」
 平井の指す「1つ」が「自らの命」と聞こえてしまうのは気のせいだろうか。いや、疑いようもな
い。このプログラムの中で守るべきものは、やはり自分の命なのだから。
 それでも――。
 一度決めた事をそう簡単に曲げる訳にはいかなかった。
 全ての参加者たちに、そう決めたのだから。
 もう傍観者でいるのは嫌だと。
 柳原は急速に考えを練った。自らが決めた目的を果たすべく、ひたすら思案した。
 叶わない事かもしれない。それでも同じ事務所のしかもごく一部の人間しか助けられないなんて、
あまりにも悲しい。少しでも多くの人を助けたい、そう思った。
「わかった」
 平井の言葉を受け止めた。そんな風に柳原は呟いた。
 その返事に平井は満足げに笑った。ほんの一瞬だけ。
「平井にとって大事なもんが俺。で、俺にとって大事なもんが……せやな、後輩も大事やけど、岡
田さんやろな」
 柳原は咄嗟に事務所の特別お世話になっている先輩の名を出した。確かに岡田は柳原にとって尊敬
している人ではあるが、この場合は単なる思い付きでしかなかった。誰でもよかったとまでは言わな
いが、その岡田から1人、また1人と所謂芋蔓式に人を集めようと考えたのだ。これでまず平井の理
論は崩せる。平井の思い描くプログラム終了計画がどんなものかはわからない。それでも一度集まっ
てしまえば追い返す事も出来ないだろうし、平井も最終的にはその行為を容認してくれると思った。
彼がそんな無慈悲な性格ではない事を、柳原はよく知っている。

125 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:13:34

 しかし当の平井は、仮面のように笑っていた表情を崩し、明らかに不快感を示していた。やや厳し
い顔つきをしながら、全てを受け付けないとでも言うような声色で、簡潔に答えた。
「あかん」
 こちらの考えを読まれているのかもしれないと考えたが、それでもいいと柳原は思った。たった一
つの大切なものよりも、少しでも幸福に近いプログラムの結末を望んだ。
「岡田さんには声かけてないん?」
「かけてない。見つからんかったし」
「それやったら追加せい」
「どこに居るかもわからんのに、どないすんの。それに……」
「それに?」
「いや……」
 平井は表情を曇らせて、組んでいた腕を解きまた頬杖をつく。それからは窓の外に目をやったきり、
投げ出した言葉の続きを教えてはくれなかった。
 柳原は少しだけ苛々していた。答えを急いでいたのだ。
「探してきたらええねやろ? 俺探して連れて来るわ」
「それはあかん」
「なんでや」
「そんなんできるわけないやろ」
「勝手に決めんなや、やってみんことにはわからへんやろが」
「岡田さん見つける前に死ぬかもしれんのやで?」
「ここに居ったかて死ぬかもしれへんのは一緒やんけ」
「外うろつくよりかマシやろ」
「それでも連れて来る! 出来んねんて!」
「出来ん」
「出来るわ!」
「出来ません」
「出来る!」
「ムリや」
「あーもう、頼むわ、この通り!」
 次第にこのやり取りが面倒になった柳原は、仕方なく立ち上がって頭を下げた。まるで命乞いでも
するかのようで、その光景は自分でも可笑しいと思った。

126 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:14:49

 声をかけられてもひたすらに頭を下げ続けていると、平井はしばらく考えこんで小さくため息をつ
くとこう言った。
「日没までや」
「にちぼつ?」
「明日の日没までにここに連れてき。それが出来ひんかったら、素直に戻ってくる。ええか?」
「明日の、日没……」
「それが嫌やったらこの話は終いな」
「ま、待てって。わかった、わかったから」
 急かされて深く考える間もなく条件を飲んだ。多少無茶な条件だとは思ったが、そんなにのんびり
している暇はないというのが現実なのだろう。当然といえば当然だった。
「その代わり、変なんまで連れてくんなや?」
「変なん?」
「面倒はゴメンやからな」
 平井は笑っていた。意図するものが何なのかわからないが、とても楽しそうだった。
 続けて平井は急かした。
「さっさと探しに行った方がええんとちゃうの? 時間あんまないし」
 もうちょっと言い方あるやろ。そう心の中で不満を洩らし、柳原はまだ疲れの取れない身体を伸ば
して奮い立たせる。入り口を横目で確認したところで、またも平井に声をかけられた。
「カバン、確認したん?」
 その言葉を聞くまで、柳原はデイパックを背負っていた事など忘れていた。当然中身は確認してい
ない。
 平井は小さく笑い、柳原の背中に回ると、背負っているデイパックに手を伸ばした。ファスナーの
エレメントが噛み合う音が背後から流れ、一拍おいた後、平井の唸り声が部屋に響いた。
「おまえー、えらいもん担いできよったな」
 何が入っているのか想像もつかなかった柳原は首だけ後ろに振り返る。

127 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:16:10

「な、何やってん」
「えらい高級なもんや」
「ライフルとか?」
「もっと、こう、黒くて重宝されるもんや」
「……ボウガン?」
「ちゃうわ、もっと軽くて薄っぺらいねんて」
「薄っぺらい?」
「薄っぺらいねんけど、深みがあんねん」
「何やねん、もったいぶらんと早よ教ええや!」
 平井の曖昧なヒントでは思い浮かぶはずもなく、耐えきれなくなった柳原は身体ごと振り返った。
平井は大きい画用紙のような黒い物体を手に持って「急に動くなや」とぼやいた。
 黒い物体は平井の上半身を覆い隠せそうなほど巨大だった。いくらわからない振りをしてみても、
柳原はそれがとても身近なものである事も、固そうに見えるが素手で簡単に真っ二つに裂かれてしま
う事もよく知り得ていた。なぜならその物体のど真ん中には、立派な毛筆書体でこう書かれていたの
だから。
「真昆布……」
「ええダシとれるわ」
「どないせいっちゅうねん」
「ま、海にでも帰したったらええやん」
「ダシばら撒くだけやないかい」
 項垂れる柳原をよそに、平井は真昆布をデイパックに戻した。口を閉じたデイパックを背負い直し、
柳原は「そういえば」と言葉を繋げる。
「平井は何やったん? 武器」
「ある意味ビックリすんで」
 待ってましたと言わんばかりに平井は無造作に置かれたデイパックを引き寄せた。真昆布より驚く
代物などそうそうないだろうと思いながらも、柳原は平井の動作を目で追った。

128 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:17:43

 例のクレーンゲーム台にそれらは並べられた。真っ黒な四角い塊とインカムが二組整列した。真昆
布と違って身近なものではないはずなのに、一瞬でそれが何なのか理解できた。
「もしかしてこれ……」
 一つ手に取ってじっくりと眺める。
 片手に収まるサイズの四角い図体からは本体より長いアンテナが伸び、真ん中には小さなディスプ
レーがある。上半身にはスピーカーのようなものが点々と穴を開け、下半身には複数のボタンが並ん
でいる。柳原が思い描いていたそれのイメージよりもずっとコンパクトでスタイリッシュなデザイン
だった。
「トランシーバー?」
「もちろん」
「おお! せやったら俺が片方……」
「やらん」
 手の中にある無線機を意図も簡単に取り上げられた。思いもよらぬ出来事に柳原は声を荒げる。
「なっ、なななななんでや!」
「なんちゅうリアクションすんねん。渡す必要ないやろ?お前とは明日の日没また会うんに」
「あー……」
「それに期待してるほど遠くまで電波とばへんって」
 それでも諦めきれない柳原は「でも折角やし」とか「どこまで飛ぶか試さへん?」などと説得して
みたが、平井はちっとも相手にしてくれなかった。他に何か使い道を考えてあるような口ぶりだった。

129 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:18:57

「もうええわ、行ってくる」
 とうとう諦めた柳原は、軽く拗ねる形になりながら仕方なく入り口に振り向き歩き出す。
 正直、一度でいいからあんなワクワクするオモチャを扱ってみたかった。少年時代に憧れる叶いそ
うで叶わない小さな夢の一つである。
「あ、ついでに何か武器になりそうなもんあったら持って帰る事」
「そんなん知るか!」
 正面を向いたまま背後の声を突っぱねる。別に命令された事に腹を立てているのではない。オモ
チャの恨みは怖い。柳原は胸の奥でひっそりと、平井に復讐を誓った。
「じゃあ気いつけてな、転ばんように」
 腕の傷を見ての発言だろうか。クスクスと響く平井の笑い声が少しだけむかついた。

「家帰ったら覚えとけや! 平井のゲーム全部売り飛ばしてやんぞ!」

 柳原は自分でもくだらないと思うほど幼稚な捨て台詞を吐き、ゲームセンターを飛び出した。
 墨で塗りつぶしたように広がる闇の中を走り抜ける。入園ゲートをくぐり、不気味に広がる森の中
へ何の躊躇いもなく突っ込む事が出来たのは、プログラムに参加させられている恐怖心よりもあの無
線機を扱う事が出来なかった悔しさの方が勝っているからだろうか。
「ったく……あほんだらーっ!」
 特徴のありすぎるその声は、島全体にこだました。柳原を狙うモンスターも、今は静かに影を潜め
るだけだった。

130 : ◆//Muo9c4XE :2007/06/29(金) 01:25:16

【アメリカザリガニ 柳原哲也】
所持品:真昆布
第一行動方針:岡田を探す
基本行動方針:芋蔓式に人を集める
最終行動方針:ゲームの終了
【現在位置:F2】

【アメリカザリガニ 平井善之】
所持品:無線機DJ-R100D(Lタイプ)×2 インカムEME-19A×2
第一行動方針:柳原を待つ
基本行動方針:ゲーム終了のために行動
最終行動方針:ゲームの終了
【現在位置:E1 アミューズメントパーク内ゲームセンター】

【8/15 20:30】
【投下番号:210】


>>113
あぁ……小林が壊れていく……。

131 :名無し草:2007/06/29(金) 07:45:15
松竹編乙です。
平井の行動凄い気になります。

132 :名無し草:2007/06/29(金) 12:51:54
乙!
柳原、ちゃんと生きて帰ってこいよ…

133 :名無し草:2007/06/29(金) 18:30:43
松竹編乙です!
いや、コンブだけで帰って来たら奇跡だなw

134 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:18:43
麒麟・ソラシド編>>62-75続き

「死んだ方がマシ」という言葉はよく聞くが、実際にそう思った事はなかった。
そしてそれが自分の成すべき事を示してくれる言葉だという事も、あの時までは気付かなかった。


”相思相殺”


「ほら早う!町田、馬場ちゃん!!」
「まっ、待ってぇな・・・」
駆け足の田村に町田、馬場園と続いていく。
「そんなん急かさんでも、十分近づいてるやろ?」
馬場園を気遣いながら、町田はレーダーの画面を見る。
徐々に距離は詰め寄っている。・・・相変わらず本坊の番号は消えていないが。
「ちゃんと近づいてる・・・あいつもじっとしてくれてたみたいやな」
そのままじっとしてくれればすぐ合流出来るのに、と田村は思っていたが
彼は川島が日付変更と共に移動を始めた事など知る由もない。それよりも徐々に近づきつつある事が嬉しかった。
居所も生死もわからなかったあの12時間に比べればと思うと、希望が満ち溢れてくる。
「待ってろや川島・・・1人になんてさせへんからな!」

事前に交代して睡眠を取り体力を温存していたにしても、素人が真っ暗闇の森を駆け抜けるのは容易ではない。
元々体力に自信がある田村はともかく、女性の馬場園はもちろん、痩身の町田にはきつかった。
急かす田村を10分限定で、という条件で町田は休憩させてくれと頼んだ。
馬場園はそれを頼み込む余力もなくへたりこんだ。その馬場園の姿を見て、田村は渋々了承した。
「うちが・・・もっとマラソンとか得意な子やったらなぁ・・・」
ゼェゼェと苦しそうに馬場園が声を絞り出す。
「気にせんときぃや。近づいていってんのやし、まだ完全にバグってへんとも限らへんのやから」
町田は再三慎重に動く様に田村に言ったのだが、浮かれている田村は聞く耳を持たなかった。
自分が疲れたと言った所で田村はお構いなしだったろうが、流石に馬場園にはそうは出来なかったらしい。
「もうええかげんバグらへんって。町田も川島と一緒で根暗でマイナス志向なんやから・・・」

135 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:20:18
レーダーを空高く掲げて、つまらなさそうに田村が呟いた。
「あのなぁ、命かかってんねんから慎重になんのは当然やろ!考えなしに動くのは危険てさっきから・・・」
田村の無神経な物言いに町田は食って掛かったが途中でやめた。田村の表情が画面を見たまま固まっていたからだ。
「・・・田村?」
「消えた」
「え?」
「川島と本坊の番号が、パッ、って・・・」
「消えたってどういうこと!?」
3人がいっせいに画面を凝視する。
確かに先程まであった川島の番号と、それにくっついていた本坊の番号が無いのだ。
「今、たった今まで、確かにあってんで?それやのにパッて・・・」
「まさか、死・・・」
「いや、それはないわ」
田村も考えた馬場園の疑問を、間髪入れず町田が打ち消す。
「でも消えたってことは」
「それやったら”消える”だけっていうのはおかしい。それやったら・・・」
突然レーダー画面の16番が点滅して赤色に変わった。
「ほら、こういう風に赤に変わる筈やろ?」
「ほんまや・・・」
16番、という番号が町田にひっかかっていた。誰だ・・・?
「石田や・・・」
田村が声を押し殺してその番号の人物を指した。
「石田が・・・横のは水口か」
町田と田村が悲嘆にくれる横で、馬場園だけは事情がわからずオロオロしていた。
「どういうこと?石田って、まさか・・・」
町田が無言で頷き、馬場園は両手で顔を覆った。彼女から目を離し、町田は水口の側の番号を名簿と照らし合わせる。
「15・・・って石井さん?アリキリの・・・」
喋っているのは町田だけだ。馬場園は泣いているし、田村は画面を見つめたまま動かない。

136 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:21:41
(石田を殺したのは、石井さんかもしれない)
画面からわかる事は誰がどこにいて、誰が死んだか。結果だけはわかるが、過程がわからない。
誰がどう殺されたか。複数いる場合は誰が殺したのかもわからない。
それに生存者側にいる参加者だって、どういう状況にいるのか画面ではわからない。
自分達のようにケガひとつない者も、致命傷を負って死ぬのを待つだけの者も、
この画面では同じ”生存者”として表示される。
石田がどう死に、水口がどんな状況で、石井がどう対峙しているのか、考えれば考える程わからなくなる。
水口が死ぬのではないか、或いは石井が死ぬのか、いやそもそも石田は誰に殺されたのか?
そんな事を考えながら、画面に張り付いていた。
30分ほど経っただろうか。馬場園はいつのまにか泣き止んで同じ様にレーダーを見ていた。
水口と石井は・・・生存者側のままだ。どの様な状況なのかはわからないが、殺しあっているなら既に決着が付いている筈だ。
「まだ生きてる・・・こんだけ時間経ってどっちも死んでへんのやから、水ちゃんは無事よな?」
不安げに馬場園が町田に尋ねる。
「そうやと思う・・・けど」
町田としては安易に大丈夫とは言えないと考えている。傷心の時ほど付け入られやすいタイミングはないから、
ある程度まで味方のフリをして油断したところを・・・なんていうのはよくある話だ。
しかし馬場園のすがるような顔の前でそんな事は言いたくなかった。
「水口がどないなってんのかも、川島がどこにいんのかもわからへんのか・・・」
失望の目で田村は吐き捨てた。相変わらず川島の番号は消失したままだ。
「うちの時かて、急に番号パッて出て来たんやろ?また出て来るよ」
馬場園はそう言って田村を元気付けた。彼女の言い分は尤もである。石田の番号は変色したのだから、
順当に考えれば死んでいるよりか誤作動と考えるのが普通だ。
「そうやで田村。待ってたらまた直るわ」
「また、待つんやな・・・」
田村は空を仰いで、右腕で両目を隠した。空気がまた重たくなった。

また終わりの見えない待ち時間が始まった。
睡眠をとっているからか寝られる様な心境ではないのかは知らないが、数時間に渡って誰も口を開かなかった。
ふと気が付くと夜が明け、周囲は明るくなっていた。

137 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:23:01
「水口・・・こっち来てるみたいやわ」
田村が重い口を開き、そう言うとおもむろに立ち上がった。
「たむちゃん!どこ行くん?」
「水口に会う」
「ええ!?」
馬場園が思わず素っ頓狂な声を出し、町田は呆気に取られていた。
「待てや田村!会うてどうなんねや!?」
「お前の時みたいに、会うて仲間にする」
唐突な田村の申し出に、町田はますます困惑する。
「素直に応じてくれるとは限らへんやろ!」
「お前かてわかってくれたやんか・・・いや、たとえわかってくれへんでも俺は会いに行く」
「だから会いに行ってどうなんねんって」
「助けたいんや・・・会って、話して、1人になったあいつを助けたい」
やはりそうだった。田村の正義感の強い性格を知っていれば辿り着く答えだった。
「川島は?あいつの事はいいんか?」
田村の眉がピクっと動き、しばらく画面を見つめた後思い詰めた表情で言った。
「・・・心配やで?でも、何もせんとただ待ってるだけやなんてもう嫌や!」
川島の事を後回しにしたのは彼の事を気にかけなくなったからではない。ただ待つのに疲れ果てたのだ。
「うちもそう思う。・・・会いに行こう、水ちゃんに」
馬場園は田村に同調した。
「2人とも・・・そんなんでええんか!?」
「たむちゃんの言うとおりやと思う。うちら、もう十分待ったわ」
そう言って馬場園が町田の腕を引っ張り上げた。無理矢理にでも連れて行こうというのだ。
(俺は、お前らを完璧に信用して一緒にいる訳と違うんやで・・・)
町田のデイパックの底のデザートイーグルが、嘲笑する様に小さくカタカタと鳴っていた。

大荷物に引き摺られた、絶望に満ちた表情の男がそこにはいた。
パンパンに膨らんだデイパックがしょっちゅう肩からずり落ちていたが、彼はそれに一瞥もくれず紐を握り締めた。
眼の下にある隈が、表情の暗さに拍車をかけていた。
1人になってから彼の表情に変化はない。涙を流したのはほんの数時間前なのに、今となってはそれが
本当に自分がした事なのかどうかも疑わしかった。それからの彼の顔の感覚は、呼吸をしている鼻穴が規則的に動くのを伝えるのみで、
それがなくなれば人形となんら変わらない位に急速に表情というものを失くしていったからだ。

138 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:24:09
「水口!」
懐かしい声がした。涙が出る程嬉しい筈なのに、水口はわずかに目を見開いただけだった。
「田村・・・・か?」
「水ちゃん!」
馬場園と、少し遅れて町田が続いた。
その2人を見上げた水口に、田村が抱きついてきた。
「ケガとかないな?お前・・・よく、無事で・・・」
「心配してんで、うちら。水ちゃん死んだかも、って・・・」
泣き崩れる田村と馬場園とは対照的に、水口の表情は死んだままだ。それに町田だけが気付いていた。
「お前・・・大丈夫か?」
当然、町田が聞いたのは体の方でなく精神の方である。
「・・・・・・・」
水口は答えない。町田はその表情の暗さにぞっとしたが、2人は気付いていない。
「無事で・・・無事でほんまよかった!もう、もう大丈夫!!俺ら一緒にいるからな!」
「もう安心やで、水ちゃん」
再会を喜ぶ2人は気分が高揚してしまっていて、水口を置き去りにしている事がわからない。
「もう誰も・・・お前を1人にさせへんからな!」
田村は満足そうに言った。だが、
「・・・いい」
それだけ言って、水口は田村をゆっくり押して離した。
「へ?」
「いい、1人でいい・・・誰とも一緒にいたくない」
恐ろしい程静かに、水口は否定した。
喜びに満ちた空気はその一言で、水を打った様に静まり返った。
「なんで・・・何でそんなん言うん?」
泣きそうな顔で馬場園は尋ねた。
「本坊と石田の事気にしてんのか?」
馬場園にかぶさって、田村は質問した。
無神経な質問だと町田は思ったが、そんなのを考えている余裕は田村にはない事もすぐわかった。
「・・・・・・・・」

139 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:25:21
水口は答えない。田村は答えが無いにもかかわらず続ける。
「心配すんなや!悲しかったと思う。でも、だからこそ俺らはお前と一緒にいたい。
 傷ついてるお前を1人になんて絶対にさせへんからな!」
水口の答えがどうあれ、田村の主張が変わる事は無い様だった。

「・・・・・俺が本坊と石田を殺したって言うても?」

そう言った後、ごく自然に水口の口角が上がった。その水口に田村は無意識に後ずさった。
「ほら、やっぱりひいた」
水口は口角を上げていたが、それは田村を馬鹿にした笑いでも自虐な笑いでもなかった。
ただ、微笑んでいるというだけの得体の知れない笑いだった。
「・・・嘘や」
田村はようやく祈りの様な声を絞り出した。
「嘘ちゃうよ」
「嘘や、絶対に嘘や!」
「信じたくなくても、ほんまの事や」
「嘘や・・・お前、傷ついてるやないか!悲しんでるやんか!殺したんやったら、そんなん出来へん!!」
うっ、と一瞬水口は言葉を詰まらせた。
「でも、事実や。俺は嘘ついてない。・・・俺は井上に会いに行かなあかんから、そろそろ行くで。」
「井上・・・?」
水口は田村達に背を向けた。だが、田村は水口のデイパックを掴んで止めた。
「頼む・・・頼むから嘘や言うてくれ。何でも、何でもするから・・・」
泣きながら田村は追いすがる。水口がしばらく考えた後、口を開いた。
「田村。ライターある?」
予想外の質問が飛び出した。田村は慌てて自分のデイパックを探った。
「ああ・・・これでええの?」
「ありがと、じゃこれ」
水口はポケットに入っていたガムをポンと田村に投げた。
「それと交換、ガム好きやろ?」
呆気に取られた一同に、水口は再び背を向ける。

140 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:26:22
「それじゃあ」
やや大袈裟に、水口は右手を振り上げた。
「水口!お前の言う事がほんまなんやったら、何で俺らを殺さへんのや!?」
叫んだのは、今まで無言で注意深く様子を見ていた町田だった。
「お前が2人を殺したのが優勝目的やとしたら、俺らは邪魔者なんやから殺した方がええ筈やろ?
 正直言うて、俺らは丸腰やで。・・・何で殺さへんのや?」
水口は何も答えず、ゆっくり右手を下ろした。
「水ちゃん・・・?」
「やっぱり、やっぱりそうや!嘘なんやろ!?」
田村は水口に駆け寄って、両肩を掴んだ。
「・・・離してや」
「お前が人殺しなんてする筈あれへんやんな・・・俺らを巻き込みたくないからそんな嘘・・・」
「離せって言うてるやろ!!」
水口は激昂して、思いっきり田村を突き飛ばした。体格差が相当あるが、格闘技の覚えのある水口には問題ではない。
「たむちゃん、大丈夫!?」
馬場園が田村に駆け寄った。咄嗟に受身が取れなかった田村は相当痛い様だ。
「嘘と違う・・・俺はもう、誰も死なせたくないだけや・・・」
決意を秘めたというには頼りない表情で、水口は言った。
「・・・F-6」
いつのまにか田村のレーダーを握った町田がそう呟いた。
「F-6?」
「そう、そこの、ここの建物に井上がいる」
町田は水口にレーダーを差し出し、指で井上の位置を示す。
「ここに、井上が・・・?」
「ああ、ここから動いてへんみたいや。俺らの位置からも近いから、すぐに会いにいける」
「・・・ありがとう、まっちー」
位置を確認した後、水口は町田に礼を述べた。
「・・・水口。ひとつだけ言うてもええか」
本当はすぐにでも立ち去りたい水口だったが、井上の居場所を教えてもらった以上、そうしたくはなかった。

141 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:27:23
「ええよ・・・どうしたん?」
「井上に会って、もしお前の心境に変化があったら・・・その時は俺らを受け入れて欲しい」
思いがけない町田の申し出に水口は困惑するが、実はこれに1番驚いているのは町田本人だったりする。
町田は自分でも、何故こんな事を言ってるのか理解出来ないのだ。
「今、無理矢理お前を引き入れた所で・・・お互いええ結果になるとは思えへん。
 だから、井上の場所を教える。会ったらどうなるかはわからへん。
 でも、もし会った後俺らを受け入れる余裕があるなら・・・俺らはまたお前に会いに行くから、そん時は・・・」
まっすぐに自分を見つめる町田から目をそらし、水口は言う。
「・・・まっちー、俺もまっちーに教えたい事あんねや」
「俺に?」
「和田は学校で死んだ。たけしさ・・・あいつに、首輪を爆発させられて」
水口以外の一同は驚愕する。その間に、水口は走り去った。
「教えてくれてありがとう・・・ほなな!」
それだけ言い残して。
「水ちゃん!」
「待てや、おい、水口!」
追いかけようとする田村を町田は牽制する。
「止めんなや町田!!」
「・・・後で会いに行こう」
「今、今やなかったらあかんねん!」
言い争っている間に、水口の姿は小さくなっていく。
「くそっ・・・逃げんなや水口!お前質問答えてへんやんけ!
 あとこんなガムなんていらへんねん、勝手にライター持ってくなや!
 アホ、チビ、バカ水口!!戻ってこいやボケーーーー!!」
駄々っ子の様な暴言を田村は叫び、その声は森中に木魂した。

142 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:28:49
「田村てアホのくせに痛いとこ突いてくるんやもんなぁ・・・」
水口はぼそっと久々の独り言を呟いた。
(馬場ちゃんずっと泣いてたな・・・まっちーにも、あれ教えて良かったんかな)
コンパスに従って、教えられた通りに進んでいくとそれらしい建物に辿り着いた。
カーテンを開けたその人物に向かって、水口は大きく手を振った。
水口と目が合うと、その人物はサッとカーテンを引き、すぐに階段を駆け下りた。
朽ちたボロボロのドアが、勢い良く開いた。
「水口さん・・・無事やったんですね!」
NONSTYLE井上は、心から嬉しそうだった。
水口はそれをどこかで見た。ああ、石田だ。本坊に会った時の。
「どっこも怪我とかしてはらへんみたいで・・・良かった、ほんまに!」
「井上・・・俺、お前に伝えたい事あんねや」

ブツッとスピーカーが鳴って、ひび割れたクラシックが流れた。6時の放送だ。
『おはよーございまーす』と、やる気のないたけしの声がスピーカー越しに聞こえる。
「音うるさいな・・・水口さん、放送終わってからでもいいですか?」

『それでは、死亡者の発表でーす』

水口は左肩に担いでる方のデイパックをごそごそと開け始めた。
井上は頭にはてなマークを浮かべて見ていた。
そして、水口はあるものを取り出した。

『16番 石田明』
「これ、石田の遺品・・・」
デイパックから取り出されたのは、石田のネクタイが結ばれたオフェンスキープだった。

井上はへたりこんだ。
たけしと水口、2人の人間から同時に石田の死を告げられたのだ。

143 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 22:29:54
「・・・嘘でしょ?」
田村と全く同じ反応だった。人は理解しがたい現実に直面した時は、素直に信じられないものだ。
ただ、田村の時と違うのは水口の言葉以外にもそれを証明するものがある事。
たけしが放送で嘘を言う必要はないし、柄に結ばれたネクタイを井上はよく知っている。
「あいつが・・・あいつが死ぬ筈ないやないですか」
「死んだんや。石田は死んだ」
「水口さんが・・・水口さんが何知ってはるんですか?何でそのネクタイ持ってるんですか?」
「・・・石田を殺したのは俺やから」

しん、と辺りが静まり返った。
放送は変わらずうるさく響いていたので、静まり返ったという表現は正しくないが。
寧ろうるさい放送に反して重い空気で沈黙する2人の周りはさぞ異様な空気であっただろう。
「何で・・・石田を殺したんですか?」
水口はもう片方のデイパックからスコップを取り出した。
「・・・俺はこれで、亡くなった人のお墓作ってた。石田はそれを手伝ってくれてたんや」
「・・・それで何で?」
「手伝ってもらってるうちに・・・あいつ熱出して倒れた。死体を素手で触ったりしたから、感染症、になってんや。
 必死で看病してんけど、薬もあらへんかって。自分が感染症って聞いたあいつは、死ぬのはこわない、
 自分が死なへんと俺が死ぬからって、それの鞘に付いてるスタンガンで・・・自殺した」
石田の死の過程は、相方の井上は勿論説明する水口にも辛い事だった。
「石田は、あんたの巻き添え喰らったんですね?」
「そうや。俺に会わへんんかったら・・・石田は死なへんかった」
井上は水口が持つオフェンスキープを見つめていた。
「・・・あと、お前にはしてもらいたい事がある」
水口はオフェンスキープの柄を井上に差し出した。
「俺を、これで刺し殺して欲しい」
昨夜の石井の真似だ。驚く井上を見て、水口は自分はこんな顔をしたのかと思った。
水口と井上では置かれている状況が全く違うのだが。

144 :731 ◇p8HfIT7pnU代理投下:2007/06/29(金) 22:47:52
(これでええ。今なら死ぬのこわないわ。ごめんな、みんな。俺、ここでリタイアする。)
水口は目を閉じて覚悟を決めた。清々しい気分だった。
「・・・・です」
井上はぼそぼそと呟いた。よく聞こえなかった水口が聞き返した。
「え?」
「・・・結構です」
既に死ぬ為の心の準備をしていた水口に、井上の拒絶が鋭く突き刺さった。
「今ここであんたを殺したら、石田の死が無駄になります。」
「でも、俺は石田を・・・井上は、俺が憎くないんか?」
「憎いですよ・・・殺したいに決まってるやないですか」
初めて向けられた純粋な殺意に、水口は怯んでしまう。
「あんた、どうせ俺に殺される事で全部チャラになる思たんでしょ?
 可哀想な自分を哀れんで、悲劇ぶってたんでしょ?そういうナルシストな所、前から大っ嫌いやったんですよ!」
オフェンスキープを強く握り締めながら、井上は水口を責めたてた。
柄に結ばれた石田のネクタイがちらつき、水口は石田も自分を責めているという錯覚に囚われた。
「お墓?そんなあんたの好きな猫が死んだ時みたいな事して、石田は死んだんですか?そんなあんたの為に、石田は・・・」
井上の言葉を否定する事は水口には出来なかった。その通りだと思ったからだ。
「・・・殺す価値も、ない?」
水口が無意識に口をついて出た言葉がそれだった。
「ははっ・・・ようわかってはるやないですか」
嘲笑している筈なのに、井上の表情は悲壮でありすぎた。
「ええ、そうですよ!あんたなんか殺す価値もないんですよ!!
 わかったら・・・わかったら消えて下さい。」
水口はただ立ち尽くしていた。
「消えて・・・もう2度と、俺の目の前に現れないで下さい」

145 :731 ◇p8HfIT7pnU代理投下:2007/06/29(金) 22:50:57
先程の張り付いた笑顔が固まって戻らないまま、水口は歩いていた。
それが解けたのは、自分の頬に涙が伝っているのだとわかった時だった。
「あはっ・・・はははは・・・」
泣くか笑うのかどっちやねん、と自然につっこみが出て来て水口はまた声を上げて笑った。
これだけ馬鹿みたいに笑っているのに、涙は溢れて止まらない。
”ついに人間としてまともに機能出来なくなった、流石は殺す価値もないと言われただけの事はある”
自分の事のくせにやけに他人事のように自分を評した水口は、ますます激しく笑い、そして泣いた。
(”死んだ方がマシ”って今みたいな時言うんやろうな)
これもまた客観的に、水口は思った。他人だと思いたいのだ、自分の事を。
だが、馬鹿笑いする声も、垂れ流している涙も、地を踏みしめる足も、腹を抱える手も、
水口の全ての感覚が脳に向かって伝えてくれている。ただ脳だけが、それを拒絶しているのだ。
「でも・・・井上にはほんまにありがとうやったな」
井上がもし自分の申し出を受け入れてくれていたとしたら、自分は満足して死ねたのだろう。
でも、そんな安息は自分には許されない。石田や、石井のやさしさに甘えきっていたのだ。
井上はそんな自分の目を覚まさせてくれた。・・・本当に馬鹿だ。言われるまで気付かないなんて。

「ごめんな井上・・・自分の好きな様に死ねるなんて、もう思わへんから」
井上は教えてくれたのだ、自分の生きる道を。殺す価値もない自分は、自分の命を自由に出来るなど許されない。
石田や石井の言う事に従い死者を弔う事だけ考えていればいい。自分の命なんて気にとめなくていい。
弔った命の苦しみや悲しみが全部、自分にくればいい。自分が背負っていければいい。
全部背負ったって・・・自分の罪はきっと償いきれない。


146 :731 ◇p8HfIT7pnU代理投下:2007/06/29(金) 22:52:54
(同時刻、学校付近にて)
「それって、水口が1番辛いんと違うかな?」
「そっかー、やっぱりそうなんかな。・・・やったらさ、川島」
「ん?」
「やっぱり水口も、死んだ方がええんかなあ?」


「みなさん、僕は死にたいです。でも、生きます。生きなきゃいけないんです!!」
舞台でやるように、水口はおもいっきり声を張り上げて叫んだ。
叫んだ後、また狂った様に笑い、そして泣いた。



これが、水口の流した最後の涙だった。


【ソラシド 水口 靖一郎
所持品:スコップ、?(詳細不明)、ライター
基本行動方針:遺体を発見時、埋葬し弔う。
第一行動方針:より多くの遺体を埋葬
最終行動方針:
【NONSTYLE 井上 祐介
所持品:
基本行動方針:
第一行動方針:
最終行動方針:


147 :731 ◇p8HfIT7pnU代理投下:2007/06/29(金) 22:55:22
【ヘッドライト 町田
所持品:デザートイーグル、サザエさん 1,7,24,38,45巻
基本行動方針:自分の身は自分で守る
第一行動方針:川島捜索
第二行動方針:
最終行動方針:不明】
【アジアン  馬場園 梓
所持品:お菓子の詰め合わせ、生理用品(私物)、虫除けスプレー(私物)
基本行動方針:生存最優先
第一行動方針:とりあえず田村・町田と行動をともにする
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明】

【現在位置:F-6】
【8/17 06:07】
【投下番号:211】

今回は以上です。ご迷惑おかけします。
後今回の感想文。
>>113
乙です。コントが・・・新妻はどう思うんだろう。小林もだけど、山根がどうするかも気になる。
>>119
平井の行動方針が気になります。平井の優しさがどう影響するのか・・・気になります。


148 :名無し草:2007/06/29(金) 23:24:47
>>147
水口ぃぃぃぃぃ!
だめだ、全てが悲しすぎる(´;ω;`)

149 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/06/29(金) 23:42:35
すいません、一部抜け落ちてました。>>144-145の間にこれが入ります。


「はっ・・・・あはははははは!!」
突然堰を切った様に水口はケタケタと笑い出した。
井上は気でも狂ったかと後ずさって警戒した。
「ははははは・・・井上、あのさぁ」
水口が自分を見た瞬間、井上は身の危険を感じ鞘に手をかけていた。
「あのさぁ・・・ありがとうな」
張り付いた様な笑顔で水口は感謝した。その笑顔に、井上は恐怖した。
「何言ってるんすか・・・気持ち悪い」
そう吐き捨てる井上に、水口はゆっくりと背を向けて歩き出した。
水口の背中を、井上は見えなくなるまで睨みつけていた。
(今この刀を抜けば、俺はこの人を殺せる)と、何度も殺意が井上の頭をちらついた。


重ね重ねすいません。代理投下してくださった方にも申し訳ありませんでした。

150 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:22:47
熱を孕んだ眩しい光は、眩暈を誘うほど燦燦と輝いていた。
巡り巡って廻り続ける血飛沫と死の循環を殊更に衆目に晒すように。

対照的に濃く沈む黒に彩られた木陰で
土と砂埃に汚れて煤けたシャツと、よれて皺に泥を付着させたズボンを履いた人物は、
ペンを片手に名簿を眺めて座り込んでいた。
木々の間を縫うように吹く風は、清涼感と砂塵を運んでいるため、
海の近くで湿り気を含んだ空気のせいでその砂がレンズに付着するのを感じ、浅越は小さく溜息を吐いた。
浅越の傍らには胡座をかきながら銃を両手に抱え、
銃身を解体しつつ息を吹きかけて機構に潜り込んだ砂を吹き飛ばしている鈴木の姿がある。
先程竹永を撃った時銃身に宿った熱が未だに引かないらしく、時折顔を顰めながら作業を進めていた。



「見つからんなぁ」
独りごちるように鈴木は呟く。視線は銃身から離すことはなく。
返事を期待するよりも、言葉と共に熔けそうな体に溜め込まれた熱を放出するかのような仕草。
「そうですね」
浅越には返す言葉はなく。
柳谷を見つけられないことで目の前の目的が消えないままである安心感と、
貴重な時間を空費しているかもしれないという焦燥感。
遣る瀬無い気持ちだけが心の奥に膨張して蝕んでいく。
「そろそろ放送ですから、誰の名前も呼ばれないと良いんですけど」
『自分達に関係する誰かの名前』という限定条件が文頭につくのは暗黙の了解か否か。

151 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:23:48
一息吐く程の瞬間が過ぎると場違いな程華やいだクラシックが喧しく流れ、共鳴するように蝉が泣き叫んだ。

あ行、か行。死を宣告されたヒトの羅列も、死者に対し無礼ともいえる朗読者の態度も相まって、
浅越の心が揺り動かされることは殆んど無いといってよい。
死者が感じたであろう生への執念も、死の恐怖もその人物を知らなければ同情は出来ないのだ。
は行、ま行。着実に死霊の列は続き、や行を過ぎたところで鈴木と視線がかち合った。

柳谷学。二人の目的の人物はまだ生きている。
実際分かってみると浅越にとって手間を感じるよりも余程安堵感の方が強かった。
与えられた情況に悩み逡巡する、むしろ真っ当な心を持った後輩はまだ生きているのだ。
だが振り子がもう片方に揺れるように、新たな錘を乗せられた天秤が揺れ動くように、現実は突然に動き始める。

「お、あと滑り込みか。175番 灘儀武」

世界が、表情を変えた。

152 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:27:21
如何程の驚愕で此の様な表情が出来るのか。
瞳孔を見開いて身体の動作の一斉停止させた浅越に、鈴木は単純に拙いと思った。
瞬きだけが何度も繰り返されると、脳内では微かに残された理性が現実を見定めるという答えを導き出したのであろう、
一筋の泪が左目から零れ落ちる。
痙攣するように震える手を隠そうともせず、浅越は息を荒くした。

「灘儀さんが…?」
鈴木の反応を窺うように緩慢に視線が向けられる。
答えは決まっていても、口に出すのは憚られて視線を只受け止めた。
自らの頬を爪を立てて掻き毟る様な仕草に、鈴木は慌てて浅越の両手首を持つ。
「灘…儀…」
後に言葉は続かず、押し潰された叫び声が漏れた。

「ゴエ!」
我を失う浅越に、周囲の心配をする余裕もなく鈴木は叫んだ。
手首に纏わりつく鈴木の手を振り払うように体を左右に揺らす浅越をどうにか制止しようと、
鈴木は手首を離した右手でそのまま浅越の頬を強く打つ。
突然の衝撃に浅越は抵抗する様子もなくそのまま上半身を地面へ横たえた。
右頬を下草に付着させながら判然としない表情で真っ直ぐ前を見る。
「嘘ですよ、有り得ない。あんな優しい人が…」
どれだけの死体を見ても、どれだけ自らの手で人を殺めていても、
灘儀の死だけは考えられなかった。
「誰があの人に殺意を抱くって言うんですか…」
はらはらと。
朝露のように緑に涙の粒が零れ落ちていく。
口では否定の言葉を述べていても、実際には死んでないなんで有り得ない、と分かっていて。
喪失感だけが吹きすさぶ嵐のように荒れ狂った。

153 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:29:56
「中継なんてエグいことするもんやな」
月が煌々と辺りを照らす夜闇の中。ホテルの冷えた白壁に背中を凭れかけ、灘儀はそう呟く。
「何でですか?」
同じく見張りをしていた浅越は相槌を打つ。けれども答えは"優しい"何かであることは明確だと感じていた。
「どうせ、皆見るやろ?…関西芸人が陣内とか殺してみ、家族関西には絶対住めんようなるで」
ああ、と得心がいった。また。
また灘儀は人を殺せない理由が出来てしまって。
「そういうの考えてる余裕有りませんて」
笑い種にしか思えない。次々と参加者が命を失くしていく中で。
「死なんか一瞬や。でも家族は一生苦しみ続けるんやぞ」
その表情は死への憂いはもうどこかに捨て去ってしまったように、
ただ殺人者を身内に持ってしまう家族の不幸を嘆いていた。

154 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:32:24
地に伏せる浅越を見下ろす鈴木は、浅越が灘儀の死を受け入れてしまっただろうことに、逆に同情していた。
狂うことも、一縷の望みを抱く事も出来ずに認識出来てしまう不幸。
そして、灘儀の死をその死自体の事実より演者が一人欠けてしまったという事実の方に
心を痛めている自らの嫌悪感も同時に感じていた。
久馬の脚本を………

久馬。

「久さんが危ない……?」
雷に射抜かれるような衝撃が脳裏に撃ちつけられる。
気付いてみると逆に何故今まで気付かなかったのかという盲点。
灘儀の死は、誰かに襲われたものでしか有り得ない。
ならば灘儀がたった今死んだのであれば、同じ場所にいるのであろう久馬にも生命の危機が迫っている可能性は高く。
鈴木は弾かれるように名簿をデイパックに押し込め、銃を握ると弾倉に弾丸を装填した。
突然動きを速めた鈴木に気付いた浅越は、緩慢に上半身を起こすとその動きを眼球の動きだけで追う。
「ゴエ、はよ行かんと。襲われとるんやったら…!」
息継ぐ余裕もなく捲くし立てる鈴木を、浅越は悄然と見据えたままで。
その態度に苛立ちを隠せなくなった鈴木は強引に手を引っ張り浅越を立たせようとした。
然し体重の違いは呆気ないほど単純に現れて、腰を持ち上げることすら出来ない鈴木を
浅越は幽かに笑うと自らの意思で立ち上がる。
虚構を求めて足掻くことすら許さない浅越の理性は、鈴木の言葉を受け入れたようだった。
「分かりました、急ぎましょうか」
それは嗚咽の残滓が宿る声で。

155 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:34:44
見上げれば建築途中というよりは崩落寸前のような風情のホテル。
その階段を一心不乱に駆け上がると、最上階には執筆を続ける久馬の姿があった。
2人はその部屋に勢い飛び込んだものの、息を完全に切らしてしまって肩を激しく揺らす。
久馬はゆっくりと顔を上げると2人を見つめた。
暫く息を整えると、鈴木は沈黙を破るように話し始める。
「良かった、無事やったん…」
「何で、平然としてるんですか」
鈴木が言い終えるよりも前に。浅越は耐え切れないように久馬を詰り始めた。
「何で、何にもなかったように居られるんですか!?」
詰め寄ろうとする浅越の腕を鈴木は掴んで押し留める。
しかし。

「ゴエには関係ないやろ」
久馬から放たれた言葉は、場を凍りつかせるには十分だった。

156 : ◆pwreCH/PO6 :2007/06/30(土) 14:36:12
ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 吹き矢(9/10)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
ザ・プラン9 鈴木つかさ
【所持品:アーミーナイフ ハンマー MP5 9mmパラベラム(277/300) 他不明
第一行動方針:状況確認
基本行動方針:メンバー生存最優先、積極的に邪魔者排除
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
ザ・プラン9 浅越ゴエ
【所持品:救急セット M24ライフル 5.56ライフル弾(30/30) 他不明
第一行動方針:久馬を問い詰める
基本行動方針:メンバーの生存最優先
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
【現在位置:ホテル(C4)】

【8/16 12:32】
【投下番号:212】

157 :名無し草:2007/06/30(土) 14:42:43
プラン偏待ってました!
本当に怖いのは久馬だったか…

158 :名無し草:2007/06/30(土) 23:40:29
ソラシド編・プラン9編乙です!

いい感じに絶望が漂ってきたなぁ。

159 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:06:53
前スレ>>282-286 の続き

『幼馴染みたちの溜息』


「……………。」 
ハイキングコースから道なき道を適度に山の中に入り、目に付いた木の根元に腰を下ろしたままで。
赤岡は薬箱の中に入っていたスプレー型の鎮痛消炎剤をスーツの内側に適当に吹き込ませつつ
同じく側の木の根元に座り込んで、島田の額の傷を手当てしている野村の様子をぼんやりと眺めていた。
傷口を水で洗い、薬箱の中の消毒液を拭きかけた後はガーゼをあてて包帯を巻く…ただでさえ手間取る作業を
目が慣れているとはいえ、明かりのない暗闇の中で行うのだ。
「あっ」とか「わっ」とか小さな野村の声がひっきりなしに聞こえてくるけれども、それを静かにしろと
咎める事など誰にも出来ないだろう。
「っと、これで大丈夫かな?」
刃物がないため、野村に与えられた武器である浦安の夢の国土産の一つ、灰被り姫の城のキーホルダーの尖塔部分を用いて
強引に包帯を引き裂き、キュッと結びつけて。
野村がそんな安堵を含んだ声を漏らしたのをしっかりと聞き届けるなり、赤岡ははぁと溜息をついた。

「明るい所でちゃんと見てみねーとわかんねーけど、傷自体は浅い感じだった。」
手当てのために顔をもたげている必要が無くなったためか、力尽きたようにくてりと俯く島田を視界の隅に入れつつ
赤岡の方を向き、野村は小声でそう報告する。
「でもちょっと幅が長ぇし、何せデコのど真ん中だからな…傷跡、目立っちまうかも。」
野村が付け足したように、島田の額を縦に裂いた傷はちょうど眉間の上の辺り。
まがりなりにも人前に出る職業の人間にとって、めだつ位置にそれとわかる傷があるのは余り褒められた状況ではないだろう。
かつて、高校の部活の際に負った怪我で出来た左目の下の痣を隠すべく悪戦苦闘した経験がある以上、
野村の懸念も決してわからなくない。
しかし。
「ありがとう。でも、今は傷跡は気にする事じゃない。」
一度島田の方をちらっと見やってから小声で赤岡は野村にそう答え、手にしていたスプレー型の鎮痛消炎剤を野村に手渡した。

160 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:08:08
「赤岡……?」
「まぁ、もしも万が一って時があったら、その時はアッコさんが何とかしてくれるでしょうし。」
その余りのあっさりした赤岡の態度に、相方がそんなんで良いのかよでも言おうとしたのだろうか。
差し出されたスプレーに気付かず言葉を紡ごうとする野村を制し、赤岡は先にそう告げる。
ド天然の筈なのに、何故か『気が利く子』として事務所の先輩であり、芸能界のドンでもある紅白常連歌手に
やたらと気に入られている島田ならば、確かにそんなわかりやすい傷跡は放ってはおけないと医者を紹介したり、
何ならその治療費も出そうではないかなどと彼女に工面して貰えるに違いない。


その様子を想像する一方で、野村はハ、と呼気を吐いて呆れたような表情を浮かべた。
「…もしも万が一、なぁ。」
赤岡が仮定に用いた単語に、この現実…最後の一人だけが生きて帰れるというバトルロワイアルのルールを
今更ながらに突きつけられたような気がしたのだ。
そうだ。そもそもこの島から生きて出られるかもわからない以上、顔に傷を負ったからといちいち騒いでいても仕方がない。
そう言う意味では赤岡の言う「気にする事じゃない」というのも正しいのだろうけども。
「随分とあっさりしてやがンな。」
「頭の中がまだグルグルしてて…余計な事が考えられないだけだ。」
何か面白くねぇ、と意図して棘のある口ぶりで野村が発した言葉に、赤岡はぼそりとそう返した。
「……………。」
素人目に見ても身体への影響が大きいだろうと察せる山の斜面の転落を持ち出されてしまえば、野村にはもう次の言葉は発せない。
やむなく口をつぐんでスプレーを受け取る様子を傍らで見ながら、赤岡は小さく息を吐いた。


勿論、実際に頭が痛んで思考がまとまらないというのはある。
しかし、それ以上に赤岡を悩ませるのは先ほど大滝から知らされた情報だった。

菊地が島田に殺された、という事。
学校付近で自分達が佐田を結果的に煽ってしまったせいで鈴木の面々が殺されてしまった、という事。

その言葉が発された状況から、大滝の戯言と片付ける事は簡単である。
しかし、赤岡の知る大滝という人間は、こんな所で嘘をつくような人間ではない。

161 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:09:22
……ならば、本当という事だ。信じたくはないけれども。
だとすれば。一体自分はどうすればいい?
情報を共有する意味でも素直に喋ればいいのか? それとも己の胸の内に全てしまい込んでおけばいいのか?
この騒動の原因になった島田との口論もそうであるが、このバトロワでは些細な判断ミスが致命的な自体に繋がりかねない。
そう思うと赤岡としても色々と決断を下す事に躊躇してしまい、そんな中で野村に話を振られた所で
素っ気ない返答になってしまうのも野村にとっては申し訳ない話ではあるが、やむを得ないだろう。


「ったく、せっかく逢えたンだから素直に喜べばいいのによ」
その一方で、赤岡の内心など察せる筈もない野村は、赤岡が構ってくれないとなれば、と自然に島田の方に視線を向けるけども、
島田は島田で力なく俯いたままで野村と絡めるような状態ではない。
せっかく手当てした功労者であるはずなのに、一人だけポツンと放っておかれたような疎外感をにわかに味わいながら、
小さく野村はそう呟いて。赤岡から手渡されたスプレーを上下にカシャカシャと振った。
普段から運動をしている訳でない人間が、いきなり山を登れば翌日どうなるかは目に見えている。
筋肉痛で動けない所を他のマーダーに狙われました、なんてショートコントでも見ないオチはゴメン被りたい。
故に、野村は軽くめくり上げたボトムの裾から臑にかけてにスプレーを噴射し、その脚をケアしてやる。
「……島秀。」
「……………。」
薬剤が皮膚に浸透していく心地よい感触に一瞬ほころぶ顔を真面目なそれに引き締めて、野村は島田の名を呼んだ。
島田の耳にその野村の声は届いたようで、ぴくりとその細い身体が震えたようだったけれども、顔は俯いたままで動こうとはしない。
「…赤岡から聞いたぞ。お前、赤岡がゲームに乗ったって、そんな奴に武器になるモンを持たせちゃ駄目だって、
 そう思ったんだってな?」
「野村……っ?」
てっきり他愛もない話を始めるのかと思っていた所での野村のその発言に、赤岡は慌てる。
島田の誤解を解く、というのも赤岡を悩ませる要因で、慎重にやらねばと考えていたモノ。
そこを野村が無造作に攻めていったら、またややこしい事になるのではないか、それとも彼に任せた方が良いのか。

162 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:10:27
やはり決断できないまま、その口から発されたのは野村の名前のみ。
「いついかなる時でも暴力はいけません、人を傷つけるようなモノは持たないようにしましょう………馬鹿か、お前。」
赤岡から強い制止がないのを良い事に野村はスプレーを止め、傍らの地面に置いて。
空いた手で島田のアゴを掴んで強引にその顔をもたげさせる。

「だったらお前は片方の頬を打つ者には、ほかの頬をも向けられるのか? 上着を奪い取る者に、下着も拒まずにいられるのか?
 すべて求める者には与えられるのか? 奪い取る者からは取り戻さずにいられるのか?
 ………お前を殺そうとする奴に対して無防備に両腕を広げられンのか?」
自然と目と目を合わせる形になり、詰問するというよりも幼子に確認するかのようなゆっくりとした口調で野村は言葉を続け、
島田の返答を待った。
「……………。」
なまじ勢いよく捲し立てられれば、怯えて己の殻に閉じこもるというリアクションも取れようが。
問いかけてくる野村に対して逃れられないと察した島田は声にならない音をその口からこぼす。
「確かにそいつは理想だよ、でも現実はどうだ? 目の前に銃口突きつけられて、はいどうぞなんて言えるか?
 俺達は聖人君子なんかじゃねぇ。芸人だ。面白可笑しい事とオイシイ事が大好きな、俗物の固まりだ。」
「でも……」
「でもじゃねぇよ。
 誰かを殺すためでなく、さっきの赤岡みたいに自分達を守るための武器を持つのもゲームに乗ったっつーんだったらな。」
ようやく意味のある言葉が島田から発されたのを機に、先ほどより少し口調を早めて野村は島田に告げる。
「そもそも昼間にデイパックを受け取った時点でゲームに乗ったっつー事だろ? 山田さんやその後の多分西の方の奴みたいに
 デイパックを受け取る前に死なねーでここにいる事自体がゲームに乗っているって証拠だろ?
 それすら厭なら…認められねーんなら、ここに包帯の残りがあるからそれで今ぐす首を吊って死ね。」
「野村…さすがにそれは言い過ぎだ。」
どんどん熱を帯びてくる野村の言葉に島田が怯えているのが傍目からも見て取れて、赤岡は一旦場を遮ろうと口を開く。

163 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:11:35
「ていうか、噛んだな。最後。」
確かに説得のためとはいえ、長い言葉を延々口にしていたのだ。気の緩みが出ても仕方のない所だったかも知れないが。
芸人としても人としても格好悪い以外の何物でもない失態に、野村の顔がカァっと赤く染まった。

「……あいつならスルーしてくれるのに。」
「いやぁ、磯山でも指摘してたと思うが。」
島田から手を離して唇を尖らせる野村に対し、赤岡は肩をすくめて見せながら島田の方を見やる。
全身を小刻みに震わせて怯えを見せながら、恐る恐ると言った様子でこちらに視線を向けていて、
赤岡の目と目があうなり、彼は更にビクリと身体を震わせて。
その怯えを少しでもぬぐえれば、と赤岡は何とかその顔に微笑みを作ろうとする。
「…正直な所、僕も野村と同じ意見だ。デイパックを受け取ってしまったからには、このゲームに従うしかない。
 でも。このゲームは自由度が高いって言うのかな、指示された『殺し合う』以外にも色々な選択肢がある、と僕は思う。」
まったく予定外ではあるが、せっかくの野村が作ってくれた好機を逃す手はない。
重い身体を引きずって島田の方へ近づいて、赤岡は頭の中の言葉をつなぎ合わせて島田に話しかける。
「勿論、既に死者が出ている以上、『殺し合う』事を選んだ奴がいるのは事実だし、首輪によって生殺与奪権を
 向こうに握られているのも事実だ。でも、僕らには『これ以上殺し合わない』という選択肢を選ぶ事も出来る。
 少なくとも…僕はここまでずっとそれを選んできたつもりだし、今後もそれを続ける筈だ。」
選択肢を敢えて『これ以上殺し合わない』事にしたのは、一応大滝の話をふまえての事。
それに、実際に赤岡が人に向けてマイクスタンドを振り回した理由はいずれも相手を殺すためではなく、島田を守るため。
そこの所を理解して貰える事を祈りながら、くらっとする頭を何とか支えて赤岡は十秒ほど待って、言葉を続ける。
「まぁ、そもそも学校でお前に声を掛けたのも、全く知らない関西の奴とかと成り行き上組むよりは
 お前と一緒の方が気心が知れてる分気が楽だろうって思ったからだし、そのお前が僕を信じられないなら
 島田、僕はお前に無理強いは出来ないよ。今はまだ危険だから…朝までに頃合いを見て山を下りればいい。」

164 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:13:29
とりあえず、あの元町の民家では告げられなかった言葉を島田に告げて、赤岡は島田の肩に手をやった。
大きく、しかし華奢な赤岡の掌が触れる感触に島田は身体を震わせ、そして、唇を微かに上下に動かす。
「……意地悪だ、赤岡は。」
先ほどまでとは質の異なる震えに身を任せながら、島田ははっきりとそう言葉を発して赤岡を睨みつけた。
「そーいう言い方されたら、はいわかりましたって言える筈ないだろ。」
「…一応、考えてるからね。」
身体の震え同様、島田の思考のベクトルが変わった事が如実に伺える言葉、そして涙を湛えた双眸に
赤岡の顔には自然と安堵の笑みが浮かぶ。
「ちぇ、噛まなかったでやんの。」
憮然とした口調でぼそりと呟く野村の表情も、赤岡と同じモノ。

「そこは、ほら、漫才師ですから。」
「漫才師でもカツゼツ悪い奴いるぜ? なぁ、島秀。」
「……意地悪だ、野村くんも。」
島田が少し心を開いた事で、場の空気は一気に色を変える。
野村が地面に置いたスプレーを島田も用いるようにと手渡し、赤岡は肺の底からの溜息をついた。
勿論、山頂の辺りにいるだろう18KINの二人や菊地の事を思うと手放しでは喜んではならないだろうけども
それでもここまで無茶をした価値はあった。報いはあった。
そう思うと身体の疲労や痛みが少し薄れていくような気がして。
――あぁ、そう言えば昔バスケットの試合中に足首を捻っても、その試合に勝てたら結構痛くないと思ったモノだ。
だったら、そういう事なのだろう。



165 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:15:12
赤岡が使っていた時点で結構軽い印象があったため、今はどれだけ中身が残っているかはわからないけども。
鎮痛消炎剤のスプレーを脚に吹きかけるにあたって上下に振り出した島田の奏でるカシャカシャという音に被さるように
どこからともなくクラシックの荘厳とも滑稽ともいえないノイズが聞こえてきた。

『芸人の諸君、頑張って殺しあってるかな?』

「やべぇ、地図と鉛筆……っ!」
いつの間にか放送の流れる時刻になっていたらしい。
島中に仕掛けられたスピーカーから発せられるアナウンスに、野村が寸前まで浮かべていた笑みを消して声を上げる。
ここで禁止区域などを聞き逃すと、今後色々と厄介な事になりかねない。
慌てて己のデイパックを漁り出す野村の傍らで、赤岡は彼の私物であるMP3プレイヤーを取り出すと電源を入れて操作した。
「何やってんだよ、今更ヘヴィメタルか? 赤岡!」
「違う…録音モード。放送を、録音する。」
当然のようにその行動の意図がつかめない野村が声を荒げる一方で、赤岡は平然とそう答えてRECORDINGモードに切り替えた
MP3プレイヤーを天に翳した。
確かに放送を録音しておけば、後から何度でも聞き直してチェックする事も可能だろう。
いきなりの赤岡の奇行の理由がわかってホッとすると同時に、考えたな、と野村は口の端を笑みの形に歪めた。

しかし。


『……20番、磯山 良司。』

さらりと告げられたその固有名詞に、明るい色を帯びたばかりの周囲の空気は再び凍てついた。
しかも、最初以上の居たたまれなさと共に。




166 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/01(日) 00:20:56
【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー マイクスタンド
状態:左腕に裂傷・右頬に軽い火傷・全身に強い打撲・疲労・朦朧
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし・でも殺さない
第一行動方針:放送を録音し続ける
最終行動方針:悔いのないように行く】

【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛  (以下、水色のリュック内) 缶詰2個 シャツ
状態:額に裂傷(手当て済)・呆然
基本行動方針:生存優先・赤岡達を信じる
第一行動方針:……………。
最終行動方針:不明】

【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ 缶詰2個 薬箱
状態:ややバテ気味・呆然
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:……………。
最終行動方針:不明】

【C8・山中】


【16日 00:03】
【投下番号:213】




色々とお騒がせしてしまい申し訳ありません。もうしばらく投下します。

167 :名無し草:2007/07/01(日) 16:22:53
号泣編乙です!
磯山の死を知った3人のリアクションが・・・
切り方が絶妙過ぎです。次回も楽しみにしてます!!

168 :名無し草:2007/07/02(月) 18:12:02
プラン編ドロドロしてきたーvv
ギブソンはよ帰ってこい!
あんだけ躊躇いなく人殺してる鈴木が何か健気に見える不思議。

169 :名無し草:2007/07/02(月) 19:40:16
号泣編乙ですー
続きが気になる…!
号泣も江戸むらさきもよく知らないけど、読んでいくうちに
引き込まれていつの間にか読み終わっています。
続き楽しみにしてます

170 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/02(月) 19:50:59
>>119-130 松竹本編第四話

 生涯プレイヤー アメリカザリガニ平井


 ゲームの序盤はストレスなく進行するのが筋である。

 アミューズメントパーク内に設置されているゲームセンターは、入り口と入り口に接する一つの側
面がほぼガラス張りになっている。そのガラス越しに差し込む月明かりが、真っ暗な室内と園内を見
渡す平井義之の姿をぼんやりと照らしていた。
 闇には溢れ返る遊具すらも飲み込んでしまいそうな迫力があった。空に浮かぶ星たちも霞んで見え
るほど、圧倒的な存在だった。
 平井はこのバトルロワイアルに欠けている重要なあるものをまず求めた。そして手に入れた重要な
あるものに触れた。触れた先は紛れもなく、ガラス張りの壁である。
 平井はその大きな窓を一見した。過去出会った事のない、巨大なゲーム画面であった。それから嬉
しさをこらえきれず笑った。声には出さず、密やかに。
 長い時間そうしていた。平井は次第にうんざりした。バトルロワイアルという甘美な響きとは裏腹
に、静かで刺激のない時間が過ぎていく。カボチャの馬車も特大観覧車も、ライトアップなしではメ
ルヘンの欠片もない。変わり映えのない景色が平井を飽きさせたのだ。
 それでもつい先ほどまでは出入りする人の姿が見られた。しかし遠目で何者なのか確認できない上
に、こちらを尋ねてくる様子もなく、平井は苛立っていた。何も起こらないバトルロワイアルで暇を
持て余しているのだ。一向に進む気配のないゲーム画面は、まるでバグにでも見舞われたかのように
静止していた。

171 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/02(月) 19:52:07

 とうとう本格的に飽きてしまった平井は、一面に広がるゲーム画面を背に部屋の中心部へと向かっ
た。行儀よく整列したアクション系のゲーム台へと飛び乗り、散乱している椅子に両足を置く。そば
に放置してあるデイパックを引き寄せると、中から支給武器である無線機を取り出し、柳原にして見
せたようにゲーム台の上へと並べ始めた。小柄な無線機とインカムが二組、それから何故かもう一機、
形の違う無線機が横に並んだ。他よりも更にコンパクトで、超薄型のものだった。
 平井は時間を潰すかのように一つだけ形の違う無線機を手に取った。あるスイッチを入れると警告
音のようなものがけたたましく鳴り響き、すぐにスイッチを切った。小さくため息をつく。
「あー暇や……」
 わざとらしく、声を上げて伸びをする。ついでに欠伸も漏らしてしまうが、眠気など少しも感じて
いなかった。手に持っていた無線機を放って、何かする事はないかと脳を動かした。
 こんなに暇を持て余しているとはいえ、平井はこれまでの間全く何もしていなかったわけではない。
 柳原が去ってから……いや、それ以前から。着実に『準備』をしていた。今こうしてじっとしてい
る間にも平井の計画は進んでいる。目に見えない計画の進行を想像すると、平井はどうしても顔が綻
んでしまう。しかし、その様子をこの目で確認できない憤りと、思いのほか自由に動きすぎる柳原の
存在から、気が立っていたのも事実である。
 平井は思い返していた。「みんな一緒に」なんて、いい歳して随分可愛い事を言うものだ。顔も知
らないような芸人いくらでもいるくせに。柳原が異常なまでに慕う事務所の先輩芸人、ますだおかだ
の岡田圭右を連れて来ると言い出した時、正直戸惑いを隠せなかった。岡田には何の恨みもないのだ
が、自分の計画が崩れていくのは嫌だった。柳原にはまず他に、重要な役目を果たしてもらう予定だ
ったのに。
 それに――。

172 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/02(月) 19:53:24

 岡田を連れて来る場合、もしかしたらどこかで落ち合った彼の相方増田とまで顔を合わせる事にな
るかもしれない。増田が反バトルロワイアルを唱えている事は、一般的には伏せてあったとはいえ、
そこそこ親しい芸人の間では有名な話だった。
 平井はバトルロワイアルを否定しない。だからこそ、生真面目で頑固な増田には会いたくなかった。
柳原を行かせたのは失敗だったかもしれない。
 今更ながら平井は軽率だった自分の行為を悔いた。
 どうしたものかと顔を上げた。そしてあの壮大なゲーム画面へ目をやった時、平井はふとその違和
感に気づいた。そこには先ほど見ていた景色と明らかに違うものがあったのだ。まるで天から光が差
すように神々しく、酷く眼球を刺激した。数度瞬きを繰り返すと、燃える火の先が揺らめきたってい
るのがわかった。建物に隠れその全貌までは確認できなかったが、何かが燃えていることは確かだっ
た。火元はさほど近距離ではないが恐らく敷地内。それも相当大きなものが燃えているらしく、劫火
の如く、夜を支配していた。
「これはこれは」
 平井は思わず身を乗り出した。天を突き刺すほどの猛火を眺め、まるで夕焼けでも見るかのように、
うっとりとした表情をあらわにした。
 人間の欲深さを映し出すかのような灼熱の夜だった。火の粉は欲望に塗れ消えていった、悲しき理
性のよう。
「粋な演出、なんやけど」
 火はやがて消える。その生命力は幼く、人の力を借りなくてはすぐに途絶えてしまう。炎を上げた
ところでそれは何の象徴にもならず、この世界は愚かこの島すら征服できない。

173 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/02(月) 19:55:42

 平井は口元を歪ませ、そばにある椅子を掴んだ。そしてその椅子をおもむろに入り口付近にあるク
レーンゲームのガラス枠へ向かって投げつけた。鋭い音を立てて飛び散ったガラスの破片を踏みつけ
て、割れた空間から悪趣味なクマのぬいぐるみを取り出す。

「これはゲームやのになあ。勘違いしたどこぞのアホが……でしゃばりよって」

 そのクマの顔が潰れるくらい力を込めて握った。平井は苛立ちを隠す事なくまた部屋の中央へと向
かいゲーム台に飛び乗る。月明かりはもうこちらを照らす事はなく、変わりに届くのは必死に燃え盛
る炎の明かり。平井の不服そうな顔がハッキリと浮かび上がる。しかし、彼の心の底までは照らして
くれないようだ。
「このゲームは不完全や」
 だがこれまで、完全なるゲームなど存在しただろうか。するはずがない。存在してはならない。バ
グは全て摘み取っては面白くない。バグはプレイヤーを楽しませる一つのサプライズであり、初心者
には真似できない最高の攻略法を生むきっかけになり得るからだ。
 そしてこのバトルロワイアルでエンディングを迎えられるのはただ一人。多くのプレイヤーが同時
プレイできるオンラインゲームであっても、エンディングは各々に用意されている。このゲームに求
められているのは「一番」になることだ。いかに素早く、いかに効率よく、いかに泥臭く……全く新
しい概念のようで、しかしどのゲームとも変わらない。ようは他のプレイヤーよりも早く「攻略」す
れば良いわけだ。
「いつもやっとることと変わらへんやんけ」
 世のゲーマーたちのほとんどは、エンディングを見るためにゲームをするのではない。ゲームを完
全に攻略しその限界を追求する事で味わえる、例え様のない快感と達成感を得る為だ。エンディング
とはそのおまけにしか過ぎない。それが彼らの『ステータス』である。
 たかがゲーム、コツさえ掴んでしまえば勝ちは見えてくる。

174 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/02(月) 19:56:56

 平井は一通り思考を巡らせた後、おもむろに参加者名簿を取り出した。火影に照らされたその名簿
には、放送で流れた死者の名前に薄く打ち消し線が引いてある。
 ――半日で死んだ芸人はまだ少ない。このペースやとゲームは成り立たん。
 平井はじっとその名簿を眺め、自分自身に言い訳をした。まだ始めたばかりなのだから仕方ない。
どんなゲームも最初の1、2回は標準以下の記録しか出せないものなのだ、と。
 平井の頭の中では300近い数の駒が我先にと倒れ込んでいく。
 問題は数じゃない。多人数のボス戦ならやっかいな敵から倒していくのが鉄則であるように、どん
な時も戦略が明暗をわける。わずか1ターンでも無駄にした者が日の目を見る事はないだろう。
 「焦らんかて、最初は雑魚で様子見やな」
 ゲームの基本である。最初の敵が攻略のためのヒントを必ず抱えている。いや、攻略するための糸
口は、最初の敵から探るのが一番手っ取り早いのだ。
 平井はその記念すべき一番最初の標的を思い起こし、より効率のいい殺し方を模索した。
 遠くから伸びる火柱が更に勢いを増し、平井の表情は鮮明に浮かび上がる。
 その顔は、玩具を手に入れた子供のように美しく笑っていた。

175 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/02(月) 19:58:33

【アメリカザリガニ 平井善之】
所持品:無線機DJ-R100D(Lタイプ)×2 無線機DJ-X7×1 インカムEME-19A×2 クマのぬいぐるみ
第一行動方針:雑魚の倒し方を考える
基本行動方針:プログラムをゲームとして楽しむ
最終行動方針:ゲームの完全攻略
【現在位置:E1 アミューズメントパーク内ゲームセンター】

【8/15 23:56】
【投下番号:214】


>>149
とうとう水口まで崩壊!
731◆p8HfIT7pnUさんの作品は危ういキャラまみれですねw
展開が予想不可能です。

>>156
誤解フラグktkr
単体でも戦闘力……というか迫力のある三人なので、この展開は震えてきます。

>>166
野村の噛みにほっこりして、最後の放送で凍りつきました。
放送を録音するって発想は面白いですね。

176 :名無し:2007/07/02(月) 20:00:48
こんにちは、初めてカキコします。
リアルタイム更新乙です!!

うわぁ、平井さんが狂気に・・・続き、楽しみです!!
ひそかに応援してますね!!

177 :名無し草:2007/07/02(月) 20:21:27
あげんなボケ

178 :名無し草:2007/07/02(月) 21:13:28
ちょvv平井怖ぇ!
前回正統派対主催とか思ってたのに見事に騙された。
面白かったです、次回もよろしくお願いします!

179 :名無し草:2007/07/02(月) 21:47:11
松竹編乙!!
2002年verは良い奴だったから意外だ。
平井は何を企んでいるんだ?気になる!

180 :名無し草:2007/07/04(水) 01:35:04
松竹編乙です!
平井コワス(((;゚A゚)))
続き楽しみにしてます!

181 :名無し草:2007/07/05(木) 02:41:15
保守

182 :名無し草:2007/07/06(金) 00:03:53
ほしゅん

183 :名無し草:2007/07/06(金) 12:59:32
ほしゅ

184 :名無し草:2007/07/07(土) 02:42:14
ぽす

185 :名無し草:2007/07/07(土) 14:22:03
ほっしゅ

186 :名無し草:2007/07/08(日) 03:00:46
ほすん

187 :名無し草:2007/07/08(日) 17:25:09
ほっしゃん

188 :名無し草:2007/07/09(月) 00:37:24
すみません!!
2002verッて携帯でみれますか??

189 :名無し草:2007/07/09(月) 02:12:17
自分で試してみて

190 :名無し草:2007/07/09(月) 05:08:34
やってみましたが本編までいけませんでした。

すみません誰か教えていただけませんか(>_<)

191 :名無し草:2007/07/09(月) 17:02:08
前の方のレス見れば?

192 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 17:59:52
雨上がり編です。



いくら声を殺して話していても、全くの無音にはできない。
教壇に立って一分ごとに名簿を読み上げているたけしには、教室のいたる所から聞こえてくる
ひそひそ声に気付かないはずはないのだが、それを特に咎める様子はない。
何を話し合ったところで無駄、とでも言っているようなたけしの態度に、宮迫は若干の不快感を覚えていた。

雨上がり決死隊の二人が運良くコンビ揃って座らされた場所は廊下側の一番後ろの席だった。
教室を見渡せるその場所は、他の芸人達や兵士の様子を伺うにはもってこいの位置と言えるだろう。

「どういう基準で選らんでんねやろ」
教室内の面子を確認していた蛍原が、納得いかないといった様子で呟いた。
「何がや」
「参加者や」
何の気なしに聞き返した宮迫の言葉を待っていたかのように蛍原が話し出す。

「事務所も芸暦も年齢もバラバラやんか。駆け出しみたいな若手がいるかと思えば
ホンジャマカみたいなベテランもおるやろ」
「どうでもええやん、そんな事」
ゲームに強制参加させられたという現実を前に、参加者の面子などは気にも留めていなかった宮迫は
蛍原の疑問に呆れたような声で答えた。

「どうでもええ事とちゃうやろ。ワンナイのメンバーで参加してるの、俺らだけやで」
「まじで?」
予想外の蛍原の言葉に、宮迫が慌てて教室内のメンバーを確認する。一番後ろの席のため
顔を直接確認する事はできないが、そこは長いつきあいだ。
「ほんまや。ドンドコもガレッジもペナもおらへんな……」
少なからず衝撃を受けた様子の宮迫が、愕然とした様子で机の上に突っ伏す。

193 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:00:32

参加者から外されているという事は、彼らに身の危険は無いという事だ。喜ばしいような悔しいような
複雑な感情が宮迫の胸の中を駆け巡る。どうして自分達だけ、と思ってしまうのも仕方のないことだろう。
「納得いかへんやろ? どうせなら俺らも外してくれればええのに」
「それにしてもお前、よう気付いたな」
憮然とした様子の蛍原の言葉を受け流し、宮迫が疑問を口にする。
「ああ、淳と上田君が何か合図しとったからな。俺らも仲間内で集まったほうがええと思って探したんやけど」
でも皆おらへんねん。と、どこか寂しそうな口調で呟く蛍原の胸倉を宮迫が突然引っ掴む。
そのまま前の席の人陰に隠れるように身を低くし、頭を突き合わせて蛍原に問いただす。

「ちょい待ち。……合図しとったってぇのはホンマか?淳と上田が?」
「ああ、確かそんな感じやったよ。上田君がちょっと振り返ったから何やろと思ったら
淳が何かこそこそしとったわ。大竹さんも見とったみたいやな」
「マジか。……あいつら合流する気なんか?」
「そこまでは分からんけど、多分そうやろ」

蛍原に言われるまで誰かと待ち合わせをしようなどとは考えてもいなかった宮迫には、目の覚めるような思いだった。
そう、ルールに従って殺し合いをするだけが全てではない。
淳と上田、そして大竹の誰が最初にコンタクトを取ったのかは分からないが、上田と大竹の番号は
かなり早いはずだ。たちの悪いドッキリのように始まったゲーム開始から、そんな短時間で何らかの
手を打った三人に、宮迫は軽い嫉妬を覚えていた。

実際のところ大竹は蛍原と同じように、淳と上田のコンタクトに気付いただけで接触を図れたわけではないのだが
宮迫や蛍原にそうと気付ける術は無い。

「あいつら……」
宮迫は舌打ちをして蛍原から手を離す。苛立たしそうに眉間にしわを寄せる宮迫の様子に
近くにいた芸人たちが恐ろしげに視線を外した。聞き取ることが困難な小声の会話だったせいか
宮迫が急に不機嫌になったように見えたのかもしれない。
一方の蛍原はというと、何事もなかったように服の皴を伸ばしていた。
機嫌の悪そうな宮迫を気にするそぶりも見せず、蛍原が小声で話しかけてくる。

194 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:01:14

「で、どうする? 俺らも待ち合わせするか?」
宮迫は教室内を改めて見回した。後頭部や横顔しか見えないため細かな面子は分からないが
ベテラン・中堅よりも若手がかなり多い印象だ。宮迫と仲のいい若手も何人かいるようだが
この状況下で以前と同じように自分に付いてきてくれるかどうかは分からない。
それに若手時代というのは良くも悪くも血気盛んで、隙さえあれば上にいる人間を蹴散らして
のしあがってやろうと思うものだ。昨日までの"正常な"生活の中では暖かく迎えられるその熱気も
今の状況では危険極まりないものでしかない。

宮迫は視線を蛍原に戻した。結局、一番信頼できるのは相方なのだろう。
「そうしよか」
「場所はどうしよ」
宮迫の言葉に、蛍原は待っていましたとばかりに食いつく。
教壇をちらりと盗み見た宮迫が再び机にへばりつくように身を屈めると、蛍原も同じように
身を屈めて頭を突き合わせる。

「場所なぁ……校舎の入り口辺りは危ないか?」
「人は多いかもしれへんな」
「なら他に良さそうな所ないか? ……そや、淳たちがどこで合流するか、わかるか」
「山を見とったみたいやけど、どこかまでは分からんなぁ」

窓の外をちらりと見た蛍原が申し訳なさそうに呟いた後、不思議そうに首を傾げる。
蛍原自慢の髪がさらりと揺れた。

「俺らもあいつらと合流するんか?」
「できるんなら、そうした方がええやろ。どう考えてもゲームに乗らなさそうなメンバーやし」
そう言うと、宮迫は顔の前で組んだ指をじっと見つめた。蛍原も思案顔で押し黙る。
「でもな、どうやって合流するん? 場所も分からへんし、いきなり行って警戒されへんやろか」

暫く考え込んだ蛍原が不安げな声色で言う。
蛍原の不安は尤もだった。宮迫は小さく呻いて、何かを探るように教室を見渡す。

195 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:01:46
「そんなんいうてもな、どうにかせえへんと。俺ら二人だけで勝ち残れるとも思えへんし」
「なんや、めっちゃ他力本願やん」
「他力本願というか、現実やん。策なんか思いつかへんで」

だらけきっているようにしか見えない姿勢で教室内を見る宮迫に、蛍原が呆れた口調で言う。
再び黙り込んでしまった宮迫を困り果てた目で見た後、蛍原は同じように教室内を眺める。
教壇ではたけしが次々と芸人の名前を読み上げていた。


完全に行き詰ってしまった雨上がり決死隊の二人は、思考を巡らせながらも教壇を見つめていた。
と言うより、何となく視線がそちらに向いていただけかもしれない。
既に半数以上の芸人が教室から出て行ったため、所々に空席が目立つ。
宮迫が漫然と空席の数を数えていると、先ほどまで話題に上げていた男の名前が呼ばれた。

「145番。田村淳」
たけしの声につられるようにして宮迫が淳の方に目を向けると、淳は立ち上がりざまに軽く亮に
耳打ちをしたようだった。淳が亮に何を言ったのか聞き取ることは出来なかったが
亮の落ち着き払った様子を見る限り暗い話題でないことは確かだろう。

視線を動かさなくても見える程近い位置に、さまぁ〜ずの三村が座っている。
横顔が僅かに確認できる程度だが、こちらも落ち着いているようだった。
(確か、三村さんは大竹さんのすぐ後ろやったよなぁ。……くそ。どこで待ち合わせしとるんか、めっちゃ聞きたいわ)

三村や亮の座っている位置は宮迫と蛍原の席から三メートルほどしか離れていない。
こういった状況でなければ、声を張らなくても十分に会話の出来る距離だ。
しかし、この状況でそんな事が出来るはずもない。
変に目立つ行動を取れば危険だと、山田が教室の床で警告を発している。

(三村さん、こっち見ぃへんかな)
僅かな期待を胸に抱いた宮迫が三村の頭をじっと見つめるが、三村は前を向いておとなしく座っている。
普段はもうちょっと落ち着きのない人なのに、と宮迫は小さなため息をついた。

196 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:03:03
「148番。田村亮」
宮迫があれこれ考えているうちに、亮の名前が呼ばれる。
亮は荷物を受け取ると、急ぎ足で教室を出て行った。
教室を出る直前に亮の横顔がちらりと見えたが、不安げな様子は特に感じられなかった。
おそらく淳が校舎の外か、近い場所で待っているのだろう。

(まぁ、あの二人は番号近かったしな……ん? 番号? 三村さんと俺ってもしかして近いんとちゃうか? )
ふとそんな事を思いついた宮迫が、「三村」と「宮迫」の間にあるだろうと思う名前を指折り数えだす。
急に何かを数えだした宮迫に、蛍原が不思議そうな眼差しを向けた。
「何してん」
「ちょっとな」
「ふぅん」
適当に言葉を返されるのを何とも思わないのか、それ以上突っ込むことなく蛍原は再び視線を教壇に戻した。
(みむ……め――も――は、無いか。みや――あ――い、う、え、お。みや――か――宮川はおるな。
参加しとるかは知らんけど。みや――き――宮北?って芸人おったかな? みや――く、け――三宅……か。
んで、みやさ――宮崎、位か。本名で呼ばれとるみたいやから、おってもこの辺りやろな)

「三村」と「宮迫」の間はざっと思いついたものだけだが、おそらく多くて四人前後。
運がよければ三村の次という事も十分にありえる。
宮迫は折った指を見て考える。
大目に見ても五分差。三村の足の悪さと目的地が山の方向だという事を考えると、追いつけない距離ではない。
宮迫は蛍原の脇を肘でつついた。なんやねん、と言いながらこちらを向いた蛍原に宮迫が小さく手招きをする。

「あんな。俺と三村さんの番号、かなり近いと思うねん」
再び頭をつき合わせるような格好になった蛍原に宮迫が小声で話す。
「せやな。あいうえお順やし」
「ああ。多分、おっても二・三人やわ。やったら、俺追いつけそうやん?」
宮迫が何を言いたいのか察した蛍原は、しかし渋い表情を浮かべる。
「いうても、場所分からへんのに大丈夫なんか?」
「他に方法あるか?山の方って事はわかっとるんや。
目印っぽいものなんか送電線くらいしかあらへんし、多分その辺りやろ」
「大雑把やなぁ」

197 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:03:35
困惑した表情で答えた蛍原は、宮迫の提案について少し考え込む。
合流ポイントが分からない以上、確実に知っているだろう人間を捕まえるというのは確かに良い方法だろう。
「でも、俺のが出んの早いやんか。お前が追いかけるより、俺が外で待っといて捕まえる方がええんとちゃうか?」

当然とも言える蛍原の提案に、宮迫は頭を振る。

「順番が離れすぎとるやろ。校舎近くは人多いから危ないって、さっきお前が言うたやん」
「じゃあ、俺どこ目指したらええねん」

少し拗ねたような口ぶりの蛍原に、宮迫は窓の外に目を向けた。
青々とした木々に覆われた山の中で目印になりそうなものは一つしか見つからない。
「送電線の鉄塔があるやろ。山の、右から二番目。あそこにしよ」
「あそこに行けばええんやな」

確認するように蛍原が反芻するが、宮迫はふと何かを思いついた様子でそれを阻む。
「いや、どうせ先行くんなら淳達探しといてくれへんか? お前やったらそんな警戒されへんやろ」
「警戒されへんかなぁ。いつもとは事情がちゃうで」
自信がなさそうな蛍原に、宮迫はわかっとるよと短く呟く。
「あかんかったら無理せんでもええ。俺は三村さんに追いついたら、合流場所聞いて
伝言頼んでからそっち行くわ。追いつかれへんかっても、そこ向かうから待っとって」

宮迫の突然の思いつきを、蛍原が即座に修正する。
「それやと、入れ違いにならへんか?待ち合わせの時間決めといた方がええかもな」
「やったら……放送は六時やったか。そのくらいの時間におって」
「分かったわ。でもほんまに大丈夫か?」

心配げな表情の蛍原に、宮迫は苦笑する。
蛍原の声色に、三村をちゃんと捕まえられるかという事ではなく、一人で大丈夫かという
意図を察してしまったため、どこかこそばゆい感じを覚える。
「大丈夫やって。任せといてや」
わざとぶっきらぼうに呟いて、宮迫は机に突っ伏した。

198 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:04:09

一人目の名前が呼ばれてから三時間半が過ぎようとしていた。
まもなく蛍原の名前が呼ばれる筈だ。一旦教室を出てしまえば再開するまでは連絡も取り合えない。
上手く合流できるかどうかの確証は無いが、やれるだけの事はしなければ。

「頼むで」
だいぶ人数が減ったせいか、しんと静まりかえった教室内に響かないよう宮迫が
極力声を抑えて言うと、蛍原は、うん、と声を出さずに頷いた。

「お前も道に迷わんと来いよ。あと、三村さんの方も」
「わかっとる。合流さえ出来ればちょっとは希望も持てるからな」

小声でやり取りをしながら、宮迫は考える。
合流さえ出来れば、後は何とかなりそうな気がした。
他力本願でも何でも、無事に家に帰れるならそれが一番いい。
始まる前から暗くもなっていられないと、出来るだけポジティブな思考で自分の行動の
シュミレーションをしていると、蛍原の名前が呼ばれた。

「212番。蛍原徹」
すっかり人の少なくなった教室では、たけしの声がやけに大きく聞こえた。

「じゃあ、後でな」
「おう、後で」
席を立つ直前に掛けられた蛍原の言葉に、宮迫は短く応じた。



199 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/07/09(月) 18:04:41
【雨上がり決死隊 宮迫 博之
状態:異常なし
所持品:未配給
第一行動方針: 三村を追いかけて合流
基本行動方針: 仲間を集める
最終行動方針:生存 】
【雨上がり決死隊 蛍原 徹
状態:異常なし
所持品:ガンケース
第一行動方針:ロンブー・くりぃむ・大竹のいずれかを探して合流
基本行動方針:怪我をしない
最終行動方針:生存 】

【現在位置:教室】
【8/15 15:32】
【投下番号:215】

200 :名無し草:2007/07/09(月) 19:16:07
>>199
新作乙!
久しぶりに教室を出る場面だったから、三村が出て行くところも読み返した。
どう絡むのか楽しみだ!

201 :名無し草:2007/07/09(月) 20:37:26
投下乙です

202 :名無し草:2007/07/09(月) 21:03:46
>>199
おお!新作乙
これからどういう展開になっていくのか楽しみ

203 :名無し草:2007/07/09(月) 21:26:26
おお、ついに雨上がりキタ!
新作乙です

204 :名無し草:2007/07/09(月) 23:49:15
新作乙!
最後の「後で」が何かグッときた

205 :名無し草:2007/07/11(水) 06:29:12
ほす

206 :名無し草:2007/07/11(水) 20:50:19
干す柿

207 :名無し草:2007/07/12(木) 05:03:04
>>198
再開→再会?

208 :名無し草:2007/07/12(木) 17:13:29
>>207d。
まとめの方は直しときました。

209 :名無し草:2007/07/12(木) 22:48:02
干す柿

210 :名無し草:2007/07/13(金) 17:42:31
干す柿

211 :名無し草:2007/07/14(土) 17:44:54
干す柿

212 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:41:04
長編いきます。まとめサイト投下番号199の続き、玉袋筋太郎編の挿入で東京03の豊本の話です。



8月16日、午前8時22分。

江頭が元町をふらふらと南下していくのとは対照的に、玉袋筋太郎は、ひとり北東へと森を歩いている。
その足どりは慎重そのものだ。少しでものびた草があればその根元をかきわけ、地面をよく見てから歩く。
なぜなら彼は、この付近に動物を狩るための罠がたくさん仕掛けてあることを知っているからだ。

ではなぜそれを知っているのか? 昨日、元町で江頭と出会う前にあるものを見たから。
彼が見たあるものとは何か? それは死体だ。とても不幸で、悲惨な死体。

これはその死体にまつわる話だ。
玉袋は、その死体の持ち物であったと思われる、あるものを求めている。

江頭2:50と別れた玉袋筋太郎は、いったい何を探して森へと歩き出したのか?
その問いに答えるためにはまず、ある男の人生の顛末を知らねばならない。


***


ここからの話は、ある男が気づかぬうちに立たされたある舞台で上演される、出来の悪い喜劇。
会場はどこかの島の、森の中の建設中のホテル。開場は8月15日の午後7時。開演はその30分後。
上演時間はそう、だいたい3時間といったところ。みなさまお誘い合わせの上、ご来場下さい。


***

213 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:42:30
15日午後7時。暑苦しさと飛びまわる蚊に閉口しながら、豊本明長はひとり、ソファに寝転がっていた。

建設中のホテルに入って中を確認していたとき、彼がロビーの奥で見つけたのは、梱包されたよくわからない塊。
塊をくるんでいる半透明のビニールをびりびりと剥がしたら、悪趣味な臙脂色の合成皮革のソファが現れた。
入口を確認できる位置に置きたかったので、それをずるずると引っぱって受付らしきカウンターの裏まで運んだ。
カウンターの高さは成人男性の胸の下あたりまでで、ソファをぴたりと寄せれば死角ができる。
今の豊本のようにここに寝転んでいれば、ソファから入口は見えないが、入口からもこちらは見えない。
起き上がってちょっと身体を乗り出せば入口を確認できるし、攻撃してきたらカウンターに隠れることができる。
それなりの防衛策をとって、スプリングのいいソファの上、豊本はゆったりと休息をとっていた。
新品だからさぞ寝心地が良かろうと思ったのだが、暑い日に汗を吸わない合皮はどうも具合が良くない。
何となく皮膚がぬめるような感覚はあまりいいものではなかったが、それでも豊本はすこぶる上機嫌だった。

…本物って、あんな感じなんだな。固まった血とか黒いし。こびりついてる感じだった。
 何よりあの臭い。夏だからかな…何か腐りかけみたいな臭いがしてた。

豊本はにんまりと笑みながら、ポケットからライターをとり出し、カウンターの上の灯油ランプに火を入れる。
これはカウンターの裏に置かれた、段ボール箱の中から見つけた。風情あるガラス製のスタンドランプ。
新品の状態で数個が段ボールに詰められていたところからして、ホテルの備品だ。
おそらく雰囲気を出す小道具として用意されたのだろうが、このホテルの現代風の建築とはあまり合わない。
とはいえ、今の豊本にとってはありがたい品だ。幸い、燃料の灯油もタンクごと見つかったので補充には困らない。
むしろ目下の問題は武器だ。豊本に支給されたのは何に使えばいいのか分からない、白い拡声器だった。
これで闘う方法など豊本にはさっぱり思いあたらなかったが、一応すぐに持てるよう、手元に置くことにする。
人を殴ることくらいはできるかもしれないと、いいほうに考えて拡声器のグリップのあたりを軽く撫でた。

214 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:45:42
グリップから離れた豊本の手は、ポロシャツの胸ポケットから血のしみのある布を引っぱり出す。
それはもともと、青みがかった灰色の生地で作られたスカートの切れ端だった。
この森の中のホテルに来るまでの道で、彼の見つけた女芸人の死体から、こっそり失敬してきたものだ。
1時間ほど前の放送で死者の名が読み上げられたのを聞いて、彼はその死体の名前をやっと思い出した。
赤いプルトニウム。そんな名前だった死体は、腹から血を流して森の中に転がっていた。

その死体と豊本の出会いは、今から3時間ほど前、つまり8月15日の午後3時半ごろのことだった。
行くあても決めず、何となく森の木々をかきわけて進んでいた豊本の爪先に触れた、女物のサンダル。
拾い上げて近くを見回すと、そこにはひとりの女が仰向けに身体を横たえていた。
そばに寄ってみると、その女がすでに死んでいるとわかり、豊本はごくりと唾をのみこんだ。

…本物の死体だ!

高鳴る胸の鼓動を抑えながら、豊本は長くのびた森の下草を踏み分けて、その死体のすぐ横に立つ。
出発前、教室の後方にいた豊本は、たけしに殺された山田の死体をきちんと見ることができなかった。
彼の視界にその死体が入ったのは、教室を出る直前、教壇の付近でデイパックを渡された瞬間だけだ。
だから実質、豊本はこのとき初めて本物の死体を目にしたことになる。
命を失った身体に興味津々の彼は、できるだけよく見ようとして傍らにしゃがみこんだ。

だが、服の上からでは血のあとは見えても傷が見えなかった。たわんだ布のつくる皺と襞が邪魔をする。
苛ついた彼は、死体のウエストのホックを外してスカートをずりおろし、キャミソールをまくり上げた。
夏服の中に隠されていた傷は銃創。その生々しく抉られたへその下の傷跡の凹凸は不思議な触り心地だった。
そのまま豊本は、ゆるやかな曲線を描く腹部に触れてみる。まだ生暖かかったので驚いた。
死体は氷のように冷たいものなのだ、と勝手に思い込んでいたからだ。
彼がそれまでに見てきた、紙の上やパソコンの中のそれは、いつも冷たそうだったから。


215 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:47:25

…外気温が高すぎたんだろうか。
 それとも、まだ死んだばかりの死体だったからか。

あのときの微妙なぬくもりが手のひらに蘇ってきて、豊本はうっとりと目をつぶる。
腹部の皮膚は滑らかだった。ちょっと持ち上げて裏を見たら背中にはうっすらと紫赤色の死斑があった。
硬直の始まりかけた顎はかたくなって動かしづらかったし、唇は乾燥して口紅が浮いた感じだった。

…何か、興奮するなあ。
 こんな場所でもなければ、一発抜いてもいいくらい…おっと、それじゃ変態だ…やばいやばい。

うっかりすると頭をもたげてくる異様な性欲にブレーキをかけながら、もう一度豊本は目をあける。
初めて本物の死体にたっぷり触れた記念に、少しだけ裂いてもらってきたスカートの布を指に巻きつけてみた。
その行為自体がひどくエロティックに感じられて、豊本はぶんぶんと頭を振って耐える。

…いけないいけない、これじゃホントに変態の道まっしぐらだ。写真で見るだけで満足してたのに。

彼はかつて、人に言うのが憚られる類の趣味――つまりは死体写真の鑑賞――に夜な夜な興じていたことがある。
とはいえもちろん、誰かを殺したいとか、死姦したいとか、そういう望みがあったわけではない。
豊本の写真鑑賞は単なる人聞きの悪い趣味で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
多少周りから白い目で見られる可能性はあるものの、別に他人に迷惑をかけるようなことでもない。
単なる趣味だからこそ、最近では飽きてきて、あまり見ることもなくなっていた。
“飽きる”というところからして、それは性癖ではない。精神に根付いている類のものではないのだ。
だから豊本自身の性的嗜好はごくノーマルなものだったはず…、だった。
だが、今こうして本物の死体を目にしてしまうと、ひどく高揚する気持ちはどうにも抑えがたい。


216 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:48:53
手に入らないと分かっているからこそ初めから諦めていたものが、手に入るかもしれない、という可能性。
それはひどく甘美な姿で現れて、豊本の中に眠っている、危ういものを呼び覚ましかけていた。
起こさないよう、理性がそれをなだめすかし、寝かしつけているものの、目覚めるのは時間の問題かもしれない。
豊本自身、今自分の中で起ころうとしている本質的な“何か”の変化に、怯えながらも惹かれているのだ。
汚れた布を指に巻きつけては外し、外しては巻きつける。なぜか止めることができずに彼はそれをくりかえした。
ずっとそれをくりかえしながら、豊本がぼんやりと考えたのは、自分とともに舞台に立つ二人のこと。

…飯塚と角田はどうしているだろう。どちらも自分より随分前に教室を出ていった。
 どこで会おうとか、そういう約束もできなかったし、もう会えないかもしれない。
 いや、会わないほうがいいのかもしれない。
 結局ひとりしか生き残れないなら、出会ったところで同じことなんだし。

このプログラムが始まった瞬間から、豊本はすでに、ある種の諦めの境地に達していた。
こんな状況で、最後まで生き残れるとはとても思えなかった。そのために誰かを殺す気もない。
かといって自分で死ぬのも何だかしゃくだと感じたし、できれば少しでも長く生きたいというのが本音だ。
あまり積極的に生きようとしているわけではないが、積極的に死ぬ気もない豊本が望むのはただひとつ。

…せっかくこんなところに放り込まれたんだから、見られるだけ死体を見たいなあ。

それだけだった。


***


開演は午後7時半。場内に携帯電話等の通信機器はお持ち込みいただけません。
お手洗いなどの施設は備えておりませんので、各自の判断でお済ませ下さいますようお願いいたします。
なお、上演中客席に流れ弾の飛び込む場合がございます。くれぐれもご注意下さい。


***

217 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:50:40
それからちょうど30分後の、午後7時半のこと。
何やら不穏な雰囲気をはらんだ打撃音と言い合いの声が混じりあい、豊本の耳を襲った。
ソファの上でスカートの切れ端をもてあそんでいた豊本は、バッと起き上がって入口付近をうかがう。
すぐにランプの火を始末し、人がいる気配を消してからもう一度、四角い入口の穴を通して外を見た。
電気が通っていないため、ガラスの自動ドアは開きっぱなしのままで意味を失っている。
要するにこのホテルは森の中に向かってぽっかりと口を開けているのだ。音がよく聞こえるのも道理だった。

「…おい、荷物返せよ!」
「何でお前のだけ銃なんだよ!」
「仕方ないだろ、お前の運が悪かったんだから!」
「お前な、いちおう俺のが兄貴なんだぞ、交換しろよ!」
「何でだよ! …って、痛ぇな! ふざけんな!」
「いっ…! てめ、殴ったな! この!」

カウンター越しに外をうかがう豊本の目に映ったのは、よく似た背格好の二人の言い争いの図。
いや、言い争いを超えてもはや殴り合いに発展していた。暗いので、豊本にはまだはっきり誰かわからない。
しかし、声からしてどちらも男なのに随分小柄だ。むしろ平均的な女性よりも背が低いように豊本には見える。
誰なのか目星を付けようと彼が目を細めたそのとき、一人がホテルに走り込んで入口の横にはりついた。
デイパックが二つ、どさりと床に投げ出される。走り込んできた男は二人分の荷物を持っていたらしい。
それを追ってそっくりなもう一人が入ってきたところで、豊本はその二人が誰なのかやっと理解する。

…あ。そうか。ザ・たっちだ。

そして豊本がそう理解したその瞬間、入口横にはりついていたほうが追ってきたもう一人を棒状のもので殴った。
先に入ってきて殴ったのがたくやで、後からきて殴られたのがかずやなのだが、豊本にはわからない。
殴られたかずやはなぜか素手で反撃していたが、たくやは握った武器を放そうとしなかった。
区別がつかないほどよく似た二人の殴り合いはその後もひたすら続き、まったく決着を見る様子がない。
そのうち豊本は、二人の言い争いの内容から、たくやの武器がすりこぎらしいと気づいて拍子抜けした。

218 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:52:20
だが、それからの数秒で事態は大きく変化する。

この場所が二人の育った実家の一室だったら、きっとそんな悲劇は起こらなかっただろう。
不幸なことに、ここはどことも知れぬ島の森の中で、彼らは残酷なゲームの登場人物だった。
突然こんなところにつれてこられた二人は、どちらも精神を消耗してひどく不安定な状態にあったのだ。
普段ならば、暴力に走ろうとする怒りにブレーキをかけるべき理性は、とても脆弱になっていた。
誰も彼らを責めることはできない。なぜならここは、精神に異常をきたすのが当たり前の世界なのだから。

だからそれはきっと、仕方のないこと。
仕方がない、けれども、とりかえしのつかないこと。

いつまでもつまらない殴り合いを続ける二人の行く末を決めたのは、たくやのすりこぎの一撃だった。
たくやが渾身の力をこめてふり下ろしたすりこぎが、凄まじい音とともにかずやの脳天を直撃する。
それは明らかに、“兄弟喧嘩”の領域を超えた一撃だった。その瞬間、二人の間の目に見えない糸がぷつりと切れる。
一瞬ふらついたかずやは、顔を上げてぐいっと兄の胸ぐらをつかみ、ポケットから何かとり出した。
それは小さな拳銃だった。銃口がさしこむ星明かりに反射してギラッと光るのを見て、豊本の背に戦慄が走る。
ガチリ、という小さな音がして、かずやの拳銃の銃口がたくやの額に押し付けられた。
そのとたん、たくやの身体の動きがピタリと止まる。恐怖のためだったかもしれない。
しばらくのあいだ、二人は固まっていた。薄暗い中でも闇の濃いシルエットが綺麗に浮かび上がる。
豊本はまばたきすら忘れてそのシルエットを見つめていた。動き出すときを今か今かと待ちながら。
光る銃口はたくやの額をぐりぐりと押した。まるでスイッチが入ったように、たくやが暴れだす。
たくやの右腕のすりこぎが、かずやの頭部を狙ってくりだされた。かずやは首をひねってそれを避ける。
空を切ったすりこぎをたくやは自分に引きよせながら、今度は拳銃を握るかずやの左手の甲を強く打った。
肉厚の手の甲にわずかに浮いた骨を激しく打たれたかずやは、痛みに思わず力が入り、引き金を引く。

それから、パァン、というとてもあっさりとした銃声があたりに響いた。

219 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:53:46
急速に力を失ったたくやの身体が崩れ、かずやにもたれ掛かるように倒れ込む。
目の前で、新しい死体がひとつ増えた。それに豊本が歓喜を覚えたのもつかの間、今度はかずやが悲鳴をあげる。

「うあ、ああああ…あ、た、たくや、たくやぁあああ!」

まるで気でも違ったように、かずやはたくやという名前の死体を揺すぶってわめいた。
そこで初めて、豊本は生きているのがかずやなのだと気づいたが、彼にとってそれはどうでもいいことだ。

…あの死体、もっとよく見たいな。

その思考自体がもはや、豊本の完全なる精神的な破綻を示していたのだが、それに本人が気づくはずもない。
豊本が崩壊していくそのさなかにも、たくやという名前の死体は、がくんがくんと揺さぶられ続けている。

…その無茶苦茶な腕の動きが、『殺すつもりなんてなかった』っていう弁明にでもなると思ってるんだろうか。
 そんなのどうだっていいじゃないか、お前が撃って死んだんだ、それだけだろ。
 それより早くその腕を放してどっかに行ってくれないか。俺は生きてる奴に用なんかないんだ。
 そこで頭から血を流してる、できたての死体をじっくり観察したいんだから、さっさとどいてくれ。

次第に迷走していく豊本の思考は、危険な匂いを漂わせはじめる。それをかずやが知ることはない。
泣きわめくかずやはただ、自分が選んでしまった、この残酷な結果に打ちのめされているだけだ。
デイパックから出てきた武器の強さの違いに端を発する些細な言い争いから始まった、くだらない兄弟喧嘩。
その結末は、喧嘩の発端となったかずやの武器によって、とてもとても馬鹿げた痛ましいものになった。

「あ、あああ、ああ…」

すでに意味をなさない音を喉から発しながら、呆然とかずやは座り込んだ。
やっとのことでたくやの身体からかずやの手が放され、頭から血を流した死体はぐったりと床に伏す。
しばらくのあいだかずやはたくやの傍を動かなかったが、数十分ほどするとのそりと立ち上がった。
その様子に豊本はほっと溜息をつく。豊本の心臓は、喜びにバクバクと早鐘を打っていた。

220 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:55:14

…これであの死体の近くに行ける。

それが嬉しくて嬉しくてたまらない豊本は、まるで身体の奥から突き上げるような興奮に満たされていた。
かずやは立ったまま何かぶつぶつ言っているようだったが、その内容までは豊本には聞こえない。
今すぐカウンターを乗り越えて、死体に駆けよりたい衝動を必死で抑えて、豊本はかずやが去るのを待った。
その時間は実質5分ほどだったが、彼には1秒がまるで1時間にも値するほど長く待ち遠しく感じられた。
入口をふらふらと出て行ったかずやの背中を見届けると、豊本はランプにもう一度火を入れる。
それを右手に持って、左手に鈍器代わりの拡声器を握ると、横から回ってカウンターの外に出た。

足早にたくやという名前の死体に近づくと、豊本はその顔をランプの灯りで照らしてみる。
柔らかなオレンジ色の光の中、とても生々しい赤色の血液を額の真ん中から流す丸い顔が浮かび上がった。
恐怖のためか見開かれたままの両眼は血走っているようだ。おかしな形に口元が歪んでいる。
その奇妙で不気味な表情を舐めるように見回すと、豊本はそうっと額にあいた穴に触れた。
そこから流れている血はまだ固まっておらず、生暖かいというよりも熱い。
銃弾の摩擦熱が傷跡に残っているのかもしれなかったが、然程の知識を持たない豊本には判断できかねた。

…ああ、やっぱり死体って、できたてはちゃんと温度があるんだなあ。
 次はもっと時間が経ったやつがいいな、ホントに冷たいやつ。死んでますって感じのやつ。
 でもこんな気候で置きっぱなしにしたら腐っちゃうかな。肉とか夏は即冷蔵庫入れるもんなあ。
 さすがに完璧腐ったのとかはやだな、臭いし。

そんなふうに思考を巡らせながら、豊本は死体の頬を撫でる。まるで愛でるように。
余分に肉がついて丸く膨れたその頬はまだ、生前の弾力を保っていた。
楽しくなってその肉を引っぱったり、人差し指をずぶっと埋めてみたり、弄りまわす。
気持ちのいい肉の感触をたっぷりと堪能していたら、突然豊本の頭の上から影がさした。

221 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 19:56:40

…何だよ、よく見えないじゃないか。

苛立って見上げたところにあったのは、豊本の弄りまわしていた死体と同じ顔だった。
いや、作りは同じでも表情が違う。頭上にあるその顔は、まるで鬼のような形相だった。

「…たくやに、何、してるんですか」

地の底から這い上がってくるような低い声でそう言われ、豊本は目をしばたかせる。
何をしているのか、という質問に面食らったのだ。どう答えればいいのかよくわからなかったから。
豊本自身にも、自分のやっていることが一体何なのか、どうもはっきりとつかめていなかったのだ。
ただ彼は本能のままに死体に触れ、その感触や温度を楽しんでいただけなのだから。

「何、って言われても…」

困った顔をして豊本はそう答えた。そしてその態度にかずやの表情はさらに険しくなる。
いくら自分が殺害したとはいえ、兄の死体を楽しそうに弄りまわす男を見て愉快なわけがない。
右手に、せめて兄に供えようと摘んできた小さな白い花を握ったまま、かずやは叫んだ。

「…何やってんのかってきいてんだよお!」

その怒声にびくりと豊本は肩を震わせる。頭の上から怒鳴らないで欲しい、とぼんやり思った。
仕方なく、ぼそぼそと話しはじめる豊本。その内容がかずやの神経を逆撫ですると気づけないままに。

「えーと、死体に触りたくて…ホントにできたての死体ってどんななのかなって」



222 :名無し草:2007/07/14(土) 20:01:33
 

223 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:13:28
その言葉が耳にすべりこむのにあわせるように、かずやの顔は怒りにどす黒くなっていった。
ポケットの中の拳銃に利き手の左手をのばす。はっきりとした殺意がかずやの脳裡を塗りつぶしていく。
素早く銃口を目の前の無礼な男の額に向けようとしたところで、かずやは足に強い衝撃を感じた。
身の危険を感じた豊本が、咄嗟に拡声器でかずやの足を力一杯ぶち叩いたのだ。
痛みに体勢を崩しかけたかずやの隙をついて、豊本は素早く立ち上がると、ホテルの外へ走り出る。
かずやはその背中に向けて銃を撃ったが、それはホテルの天井に食い込む。
ふりむいた豊本が、かずやに向けて火のついたランプを投げるほうが一瞬早かったのだ。
かずやは、目の前に飛んできたそれを思わず左手でなぎ払い、そのはずみに銃を手放してしまった。
割れたランプの中からあふれた灯油がかずやに降り注ぎ、容赦のない速さでそれに火が燃え移る。
炎の中、かずやの右手の白い花が黒く萎れていくのと、宙を舞った銃が豊本の足下に転がるのは同時だった。

…これで焼死体も見られるなあ。

すっかり浮かれ気分の豊本は、ゆったりとした動作で足下の銃を拾い上げ、ポケットにつっこんだ。
図らずも彼は、自分の力で新しい死体を手に入れられるのだと気づくことになったのだった。


***


ここで一旦、休憩をはさませていただきます。
なお、この休憩の間にロビーで灯油のサービスがございます。
くれぐれも失火にご注意の上、お愉しみ下さい。


***

224 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:14:54
身体に巻き付く炎の中、うめき声を上げながらかずやは地面で暴れていた。
豊本は、ホテルの入口を抜けてすぐ横の、役に立たないガラス扉に身体をあずけてそれを見ている。
早くかずやの動きが止まらないかと、それだけを望みながらじっと見つめている。

そのとき豊本は、ふと、右足に何か触れているのに気づいた。二人分のデイパックだ。
たくやがホテルに走り込んできたとき、ここに放り投げたものだった。
かずやが燃え尽きるまですることのない豊本は、二つのデイパックの中を物色しはじめる。
幸い、のたうち回るかずやを焼く炎はランプの灯りよりよほど明るく、手元もそれなりによく見えた。
食料と水、そして銃の説明書。それだけとり出すと、さっさと彼はカウンターの方へと向かった。
カウンターの裏に置いたままだった段ボールの中から、残りのスタンドランプをとり出す。
それに灯油を注いでライターで火を入れると、デイパックに戦利品を全て詰めて置いた。
右手にランプ、左手に拡声器という二度目の出立ちで、豊本はまた入口付近へと歩き出そうとする。

豊本が再び目をやったそのとき、かずやの動きはすでに止まっていた。
双子は寄り添うように、横に並んで倒れている。左の男は黒く焦げ、右の男は額から血を流していた。
恍惚の表情で豊本は焼けこげたかずやに近づく。初めての焼死体に彼は心躍らせている。
くすぶる黒っぽい塊に、触れられるくらい近くまで寄ると、右側にしゃがみこんで顔をランプで照らした。

かずやの顔は、そこに跳ねとんだ灯油が燃えたのか、左半分だけが焼けただれていた。
ところどころ黒く炭化した皮膚の下に、生々しい赤色がのぞいている。
皮だけが黒く焦げて、その下の肉はまだ生焼けの状態の、鶏の胸肉をぼんやりと豊本は思う。
その生焼けの部分を指先で軽く押してみると、ひどく熱くて湿った感じがして、彼は思わず指をひいた。

…そうだ、まだ焼きたてだった。

225 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:16:34
大切な事実を忘れていたと気づき、熱いものに触れた人さし指にふぅふぅと息を吹きかけて冷ます。
火傷はどうやら負っていないようだ。豊本は、肉に触れるために床に置いた拡声器を再び持ち上げた。
そのまま、ランプを持った手を少し動かして、首元から上肢を照らしだす。
炎の直撃を受けた左腕はやはり皮膚が炭化していたが、衣服があったぶん、肩はまだ肌の色が見えた。
右側はあまり灯油をかぶらなかったのか、火傷もなく無傷で残っている部分がいくらかある。
触れても熱くなさそうな、燃え残った右腕に触れると、通常よりも体温が高いように思えた。

「やっぱり、次の死体は冷たいのがいいなあ…」

豊本はひとりごちると、胸のあたりを見るために手に持ったランプの位置を動かそうとする。
その瞬間、拡声器を握っていた左手首に嫌な感触を覚えた。火傷するほどではないが、熱い。
慌てて豊本はそちらに目をやる。かずやの右手が豊本の左手首をつかんでいた。

「ひっ…!」

そう、豊本が観察していたかずやはまだ、死体ではなかった。生きていたのだ。
思わず声をあげた豊本がかずやの顔を見ると、焼け残った右の目が血走って爛々と輝いている。
かずやは起き上がろうとしてもがいているが、さすがにその力はもはやないようだった。
ただ、豊本の左腕だけは放すまいと、最期に残された力で必死につかんでいる。
そのかずやの右手をどうにか外そうと、豊本はランプを乱暴に床に置いてかずやの指を力ずくで引っぱる。
だが、かずやの執念はその程度では振り払えなかった。豊本の右手の爪がかずやの右手の甲にくい込む。
その痛みをきっかけに、豊本の手首をつかんで少し地面から浮いていたかずやの腕は、完全に地面に落ちる。
それははっきりと、かずやの生命の終わりを意味したかのように豊本には見えた。
なのにかずやの右手は、豊本を決して放そうとしない。何とかかずやを引き離そうと手に力を込める豊本。
むしろ、手首を握る力は強くなっていっているようにすら豊本には思えた。


226 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:20:31

…実際、その豊本の感覚は正しい。

かずやは手の甲に爪を立てられたときすでに絶命していたが、それは逆に豊本の状況を悪化させている。
『死んでも放すまい』と誓ってかずやは死んだのだ。その決意によって体中にこめられた力と緊張。
それらによってかずやの死んだ肉体は、強行性の死後硬直を起こしていた。
本来なら死後2時間程度経たなければ始まらない硬直が、即時に全身で始まっていたのだ。
まさしく、かずやは豊本を『死んでも』放そうとしなかった。それは豊本の悲劇的な喜劇の始まりだ。

…ま、まずい、このままこいつが死んだらそのうち硬直が始まる…!

豊本は焦る。さすがに強行性死後硬直にまでは思い至らなかったが、死後硬直のことは知っていた。
もはや焦っても無駄、というかすでに彼は死後硬直が起こった身体に捕らえられているのだが。
もちろんそんなことはつゆ知らず、豊本は必死でかずやの手を外そうとしている。
けれども、彼の右手の力だけではもはやかずやの執念が起こした死後硬直から逃れることは不可能だった。
豊本は何か使えるものはないかとあたりを見回す。視界にキラリと光るものが映る。
かずやが割ったランプの破片だった。それに手を伸ばすと、豊本は力一杯かずやの手に突き刺す。
だが、死んだかずやは痛みなど感じない。手首を握る力はまったく衰えはしなかった。

…くそ、こいつの手首ごと切りとるしかないじゃないか。

豊本はガラスの破片を今度はかずやの手首に突き刺し、手首を落とそうとするがそれはかなわない。
ガラスの破片程度で人間の手首を落とすこと自体が不可能なのだ。諦めかけて豊本は、天を仰ぐ。
もうこのままこいつと仲良く手を繋いでいるしかないのか、そう思ったとき。

豊本は、天井にくい込む弾丸の跡を見つけた。

227 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:24:17
それは、ホテルを走り出ようとする豊本に向けてかずやが撃った弾だ。
ランプの直撃のために銃口が上にずれて、天井にむけて発射されたのだった。

…そうだ、銃があった!

自分が手に入れた新しい武器のことを思い出して、豊本は嬉々としてポケットに手を入れる。
幸いにして豊本の利き手は右だ。捕らえられている左手を避けてかずやの手首を撃つのは簡単に思えた。
豊本はかずやの右手首の上に銃口を定めると、力一杯引き金を引いた。

パァン、という軽い音が豊本の鼓膜を傷めた直後、耳に障る重い音がして、床に弾痕が刻まれる。
豊本が撃った一発目の銃弾は、かずやの手首の肉を抉って床に突き刺さった。
だが、撃った瞬間の予想以上の衝撃のため、銃口がぶれて骨を砕くに至らなかったようだ。
しかたなく、豊本はもう一度かずやの手首に銃口を当てる。今度は衝撃に耐えるためにかなりの力を入れて。
パァン、二回目の音のあと、骨を砕く鈍い音を傷んだ鼓膜がとらえた。
わずかに残った肉で繋がるかずやの手首を力の限り引っぱると、ブチリともげる。

…やった、外れた!

身体から切り離され、腱の切れたかずやの手の指は、すでにしめつける力を緩めていた。
豊本はその指を一本一本のばして自分の左手首からはがすと、そっとかずやの胸の上に置く。


228 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:26:01

「…なあ、死体は動いちゃダメだろ、やっぱり」

ぼそりと呟くと、豊本は銃をポケットにしまい、ランプと拡声器を持って立ち上がった。
さすがにこれ以上かずやの死体を眺める気にもなれず、自分の荷物のあるカウンターへと向かう。
置きっぱなしになっていたデイパックを背負うと、彼はホテルの外へ向かって歩き出そうとした。
しかし、そこで彼はふと立ち止まり、灯油のタンクをとりに戻ると、また死体に近づく。
そしてタンクの中身を双子の死骸にどぼどぼと注ぎ、軽くなったタンクをカウンターの裏に投げる。
それから豊本は再びホテルの入口まで歩き、おもむろにランプと拡声器を地面に置いた。
ポケットからとり出したライターに火をつけ、厳かに両手で捧げ持つ。まるで何かの儀式のようだった。
ゆっくりとした動作で、豊本はそれを双子の死骸に向かって投げた。
ライターはかずやとたくやのあいだの地面に落ち、並んだ二人の死骸が燃え上がる。

…双子だから、死体も似てるほうがいい。

ホテルの中の火柱を眺めながら笑う豊本の顔は、炎に照らしだされて真っ赤だった。




229 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:28:02





それから10分ほどがすぎた、午後8時15分。
ホテルを出た豊本は、ランプの火と星や月の明かりを頼りに森の中に踏み出していた。
灯油で死体を燃やした焦げ臭い中に一晩中いるのはごめんだったからだ。
とはいえ、あてもなく歩いていては夜中森をさまようことになりかねない。
豊本は、建物のあるところを目指すために一旦立ち止まって、地図を出して検討することにした。

両手の荷物を置き、デイパックをおろして口を開けようとしたところで豊本は右手に痛みを感じる。
見れば、手のひらに深い切り傷ができていた。血も流れている。見つめているうちに強くなってくる痛み。
とにかくかずやから逃れることに集中していたせいか、怪我を負っていたことにも気づかなかった。
どうやら、かずやの手首をガラスの破片で切り落とそうとしたときに負ったもののようだ。
力を入れすぎた豊本は、自分自身の手のひらを傷つけてしまったらしい。
間抜けな話だったが、こうして見てみると結構な重傷だ。そのままにしておくわけにもいかない。
ハンカチでも巻こうかと思ったが、残念ながら手持ちがなかった。
そこで豊本はふと、地図に病院の印があったのを思い出す。シャツで血を拭いながらカバンを開けた。
彼の記憶の通り、地図上には病院の印がある。彼の出てきたホテルから見て北西の方角だ。

…よし、病院行くか。

そう決めて豊本はコンパスで方位を確認しながら地図を見て、もう一度歩き出した。

230 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:29:59
***


これより、セット転換のための休憩をはさみまして、終演まで休みなしで上演いたします。
皆様、この休憩の間にご用は済ませていただきますようお願いいたします。


***


2時間と少し歩いたところで、豊本は疲労で息を吐いた。荷物が重い。
たくやとかずやの食料と水を奪ってきたのだから、当たり前といえば当たり前だった。
どうせなら先ほど通り過ぎた元町の民家で休めばよかったのだが、病院も近づいていたので無理をしたのだ。
結局休まずにそのまま歩きつめてしまった。もう今はまた、森の中にふみこんで小道を歩いている。
戻るのも馬鹿げているが、ここから病院まで休みなしというのは少々辛い気がした。
しかたなく、豊本は道を少し外れた木の陰に腰をおろして休むことにする。
太い根をはる木の下の地面は盛り上がって斜めになっており、不安定なので荷物の置き場に苦労した。
どうにかバランスをとってデイパックとランプ、拡声器を置く。デイパックから水を出して飲んだ。

やっと一息ついた豊本は、ホテルで焼いた二つの死体のことを思い出す。
さすがにもう鎮火しているだろうが、二人の身体はきっと消し炭のようになっているに違いなかった。

…明日になったらもう一回見に行こうかな。さすがにもう生きてたりしないだろうし。

消し炭になっていれば反撃してくることもないだろう。さすがに今度こそ完全に死んだはずだ。
くすくすと笑いながら、豊本は胸のポケットに手をやる。例のスカートの切れ端をとり出した。
彼を狂った世界へと誘った、あの最初の死体の思いでの品。もう一度それをひろげてうっとりと見つめる。
片手でひらひらと布を風に遊ばせながら、荷物の中の乾パンに手を突っ込んで口に放り込んだ。

231 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:33:06
そのとき、豊本は小さな鳴き声を聞き逃した。チ、とか、キィ、といったとても小さな鳴き声。
銃弾の音に鼓膜を傷めていた彼には聞き取りにくいものだったが、それでも聞き逃すべきではなかった。
それは豊本を、死者の世界へと導く使者の声だったからだ。気づけなかった彼の運命は、そこで決まる。

しばらくして豊本はもう一度、デイパックに片手を突っ込んで乾パンをつかもうとした。
そのとき、奇妙な感触が指先に触れる。何か、毛の生えた温かいものの感触。
思わずバッと手を引いた豊本は、20センチほどの、無数の褐色の塊がうごめいているのを目にする。

…ネズミだ!

そう、それは大変な数のネズミだった。木の上から降りてきた大群のクマネズミ。
気味の悪い光景に、豊本は後ずさる。無数のネズミたちは、この木の上に巣をかけていたのだ。
慌ててポケットの銃をかまえてはみたものの、こんな数のネズミを相手に銃で闘えるはずもない。
あまりのことに呆然とした豊本だったが、これはもう荷物を捨てて別の場所にむかうしかないと諦めた。
銃を持ったままランプと拡声器に手を伸ばし、先を急ごうとしたそのとき、豊本はあるものがないことに気づく。

…あれ? あのスカートの布…。

ネズミに驚いて銃をかまえたときに、思わず落としてしまった例の布を見失ったのだ。
慌てて豊本はランプを置いてあたりを照らす。少しはなれたところに落ちているのに気づいて安堵した。

…良かった。


232 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:49:06
銃を持ったままの右手をさしのべてそれを拾おうとしたとき、豊本の足下が崩れた。
ザアッと靴の下の土が流れて足場がなくなる。そう、そこには巨大な落とし穴があったのだ。
落下するのに気づいた豊本は、手をのばした。左手に持っていた拡声器が、たまたまガツンと何かにあたる。
そのまま拡声器のラッパ状の部分が穴のふちにかかって豊本を支える格好で、彼の身体は宙づりになった。
グリップを握る手のひらが汗をかいている。ずるずると滑り落ちそうで豊本は恐怖した。
下を見れば削られた竹の槍が何本も突き出ている。豊本が落ちたのは猪か何かのための穴のようだった。

…串刺しなんて冗談じゃない!

ゾッとしてどうにか身体を持ち上げようとするが、いかんせん彼を支えるのは頼りない拡声器のグリップのみ。
せめて右手もグリップをつかもうとするが、のび切った自分の左手首をつかむのが精一杯だった。
すでに右手の拳銃はどこにもない。足場が崩れたときに手を離してしまったようだ。
とはいえ今、ここに拳銃があったところで何の役にも立たない。今彼に必要なのは誰かの助けだった。

「…だ、誰か、たすけて!」

その悲痛な叫びを聞くものなど誰もいない。ただ、ネズミの鳴く声が聞こえるだけだ。
それでも何とかして助かりたい豊本は、拡声器のグリップを握る手に力をこめたが、余計に汗で滑る。
目に涙を浮かべながら、彼は自重に耐えていた。だが、限界が来るのは時間の問題だ。
滑る指が必死でグリップを締め上げているそのとき、豊本は不穏な音を聞く。

ズズ…ズ…キィ、キィ、キィ…ズズズズ…

何かがこちらに向かって滑ってくる音。そしてネズミたちの鳴き声。
豊本は背筋に冷たいものが走るのを感じた。この音と声が意味すること、それは。

233 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:50:07
ズザザザザザ…

食料をあさるネズミたちがデイパックを動かしたせいで、傾斜した地面をデイパックは滑り落ちた。
そしてそのデイパックは、豊本を支える拡声器めがけて落下していった。

ドッ

デイパックの重量で、かろうじて穴のふちに引っかかっていた拡声器が押される。
それでも拡声器はどうにか引っかかっていたが、豊本の左手は振動でグリップを放してしまった。
そのまま豊本の身体は宙へ投げ出され、静かに落下し、そして串刺しのもの言わぬ死体となった。
まるで百舌の早贄となったトカゲのように、腹部と胸部、そして首を突き抜けた竹槍に縫いとめられて。

8月15日、午後10時半。
死体を愛した豊本明長は、凄惨な死体となってその短い人生を終えたのだった。


***


これにて本日は終演でございます。皆様ご笑覧ありがとうございました。
お帰りの際は、足場が悪くなっておりますので、十分ご注意下さいませ。


***


234 :114 ◇4kk7S4ZGb. 代理投下:2007/07/14(土) 20:51:08
玉袋筋太郎は、江頭に出会う前の15日午後11時前にこの豊本の死体を一旦見ていた。
そして、落とし穴の近くにあった拳銃と、ネズミに荒らされたデイパックの中の説明書を失敬していた。
それから9時間ほどがたった今、もう一度彼は豊本の死体のあった落とし穴の前にいる。
彼が求めていたのは、穴のふちに引っかかったままの、白い拡声器。

8月16日、午前8時30分。
豊本の支給武器だった拡声器は、玉袋筋太郎の手に渡ることとなった。



【豊本明長(東京03) 死亡】
【たくや(ザ・たっち) 死亡】
【かずや(ザ・たっち) 死亡】
【玉袋筋太郎(浅草キッド)】
所持品:ボイスレコーダー、S&W M3613LS(4/8)、ガーゼ、包帯、傷薬、消毒薬、メス、ピンセット(数不明)
第一行動方針:拡声器の回収
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明
現在位置:森の中、落とし穴の近く(D6)


235 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/14(土) 21:01:42
代理投下ありがとうございました!
廃棄スレにはるとき、玉袋の所持品に拡声器入れ忘れました。
あと、投下番号は216です。ミス多くてすみません。

236 :名無し草:2007/07/14(土) 21:14:20
大作乙です!
劇場アナウンスの台詞回しが好きです。センスを感じます。
死後硬直とかが生々しくって素敵。

237 :名無し草:2007/07/14(土) 23:07:44
おお〜、凄い大作。投下乙です。
玉袋の行動が楽しみですね!

238 :名無し草:2007/07/14(土) 23:17:18
乙です
グロイわw

239 :名無し草:2007/07/15(日) 00:53:56
乙!
アナウンスいい!
拡声器をどうするのか楽しみだ。

240 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/15(日) 01:32:42
随分久しぶりの投下となります。
ホリプロコム・ダブルブッキング編、まとめサイト投下番号161の続き。




2日目の朝。ダブルブッキングの黒田と川元は森の中を歩き続けていた。
とりあえず一所に留まらず、移動しながら状況を読もう、と提案したのは黒田だった。
特に反対する理由も無かったので、川元はそれに同意した。
はっきり言って、どうすることがベストなのか今は判らない。ただ、相方の発案に賭けてみるしかない。

1つ前日までとは違い、地図を見つつ方位磁針で位置を確認しながら進んでゆく。
「方向、見失ってません?大丈夫ですか?」
「大丈夫!しっかり見てますから」

出発するにあたり、昨日行き着いた川の辺を中心に行動すること、
何か起こってはぐれるようなことがあれば、そこで落ち合うことを決めた。
川の位置さえ把握しておけばとりあえず水に困ることはないし、離れ離れになってしまうこともないだろう。


241 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/15(日) 01:37:05
「はぁ…?」「え?」
川元はあからさまに眉を歪め、一方の黒田は疑問そうに首を傾げる。
二様の反応にめげず、出渕は続けた。
「あの俺、連絡に失敗してもうて、誰とも落ち合えんかったんです…相方さえもどこいるか判らんし…
でも、多分その内同じ事務所のやつと会えると思うんです!あ、それまでとは言いません、
しばらく、ほんの少しだけでいいんです!一緒におったら駄目ですか!?」
「そう、言いましても」川元の言葉が濁る。
「お願いします!俺さっきから死体いくつも見てきててっ…もう1人でおるの限界なんです!お願いします!」
次第に涙声になり、草の中に頭を押し付け出した。余りに哀れすぎる様子に、黒田は同情し始める。
「ぶんちゃん、ちょっとくらいいいんじゃないですか?」
「黒田さん」声を落としながらも、鋭い口調でたしなめる。
「でもこんな時ですし…まず嘘をついている感じじゃないじゃないですか」
…確かに、この様子が演技であるとは思えない。殺意は感じられない。それでも…
「…武器は、持っていないんですか」ぶっきらぼうに川元は尋ねた。
「持ってませんよ、ほら!」必死の態でデイパックを逆さにし、中味を全部ぶちまけた。
地面にばら撒かれたのは食料と、調理に使うプラスチック製のボウルが1つ。
このボウルが、出渕の当てた武器なのだろう。どう使っても人を殺すことはおろか、傷つけることもできそうにない。
しまいにポケットまで全部引っくり返したが、どこにも武器となるようなものは存在しなかった。
「…ねぇ、いいじゃないですか。長くても今日中くらいですよ。別に何もなったりしませんでしょうし」
柔らかい口調で黒田は言った。川元は内心不満と怒りが渦巻いたが、それを表立たせるとまた面倒なことになりそうで、
不貞腐れて黙っていた。半ば、もう勝手にしろ、と思いながら。

242 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/15(日) 01:39:10
投下間違い。>>241よりこちらが先になります。


「あ、っ、ちょっと待ってくれ…!」
薮の中で不意に声を掛けられ、2人はぎょっとして足を止めた。
声の聞こえた方向を見ると、見慣れない顔の男が草むらに蹲っている。
薄暗い森の中でも、怯えた様子が容易に見て取れた。
「…誰でしょう?」
黒田より先に口を開いたのは川元だった。
相手から敵意は感じられないが、顔見知りでない者は容易には信用できない。
「あ、俺、レイザーラモンの出渕です…」
「…レイザーラモン…」
「あ、RGさん!?」黒田が素っ頓狂な声を上げた。
一世を風靡したHGの相方、RGこと出渕であった。
バトルロワイアルに駆り出される口実となったネタ番組には
普通の漫才で出ようとしていたからであろうが、RGの格好ではなく極普通の服装をしている。
「済みません、分からなくて…」
「い、いや、あの失礼ですけど、そちらは…」
「あ、僕らはダブルブッキングっていいます。ホリプロコム所属で…」
2組は共演したことがない。顔を合わせるのは初めてであった。
若干場違いな自己紹介を交わした後、出渕が唐突に切り出す。
「あの、…済みませんお願いです、しばらくの間でいいんです、僕と一緒に行動してくれませんか…」

243 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/15(日) 01:40:49
「はぁ…?」「え?」
川元はあからさまに眉を歪め、一方の黒田は疑問そうに首を傾げる。
二様の反応にめげず、出渕は続けた。
「あの俺、連絡に失敗してもうて、誰とも落ち合えんかったんです…相方さえもどこいるか判らんし…
でも、多分その内同じ事務所のやつと会えると思うんです!あ、それまでとは言いません、
しばらく、ほんの少しだけでいいんです!一緒におったら駄目ですか!?」
「そう、言いましても」川元の言葉が濁る。
「お願いします!俺さっきから死体いくつも見てきててっ…もう1人でおるの限界なんです!お願いします!」
次第に涙声になり、草の中に頭を押し付け出した。余りに哀れすぎる様子に、黒田は同情し始める。
「ぶんちゃん、ちょっとくらいいいんじゃないですか?」
「黒田さん」声を落としながらも、鋭い口調でたしなめる。
「でもこんな時ですし…まず嘘をついている感じじゃないじゃないですか」
…確かに、この様子が演技であるとは思えない。殺意は感じられない。それでも…
「…武器は、持っていないんですか」ぶっきらぼうに川元は尋ねた。
「持ってませんよ、ほら!」必死の態でデイパックを逆さにし、中味を全部ぶちまけた。
地面にばら撒かれたのは食料と、調理に使うプラスチック製のボウルが1つ。
このボウルが、出渕の当てた武器なのだろう。どう使っても人を殺すことはおろか、傷つけることもできそうにない。
しまいにポケットまで全部引っくり返したが、どこにも武器となるようなものは存在しなかった。
「…ねぇ、いいじゃないですか。長くても今日中くらいですよ。別に何もなったりしませんでしょうし」
柔らかい口調で黒田は言った。川元は内心不満と怒りが渦巻いたが、それを表立たせるとまた面倒なことになりそうで、
不貞腐れて黙っていた。半ば、もう勝手にしろ、と思いながら。


244 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/15(日) 01:42:52
人を殺すという、(普通の思考に於いては)重大な罪を犯してしまった黒田が、
その反動から今はより他人に情けをかけたいと思ってしまうことは、理解はできる。
しかし、どう考えても黒田は甘い。二人で生き残るためには、それは重大な足枷になる。
川元にはそれがもどかしかった。
(せめて、しばらくの間何もなければいいけど)
出渕を睨みながら、そう願うしかできなかった。

245 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/15(日) 01:44:02

【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:ワルサーPPK(6/7)・控え銃弾(21発)
第一行動方針:相方と身を守りあう
基本行動方針:とにかく生き残る
最終行動方針:未定

【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:眼鏡、陸上競技用スターター、紙雷管
第一行動方針:相方と身を守りあう
基本行動方針:できるだけ生き残る
最終行動方針:未定

【レイザーラモン 出渕誠】
所持品:ボウル(プラスチック製)
第一行動方針:ダブルブッキングと共に行動する
基本行動方針:生き残る
最終行動方針:親しい誰かと合流する

【現在位置:森(F5)】
【8/16 9:00】
【投下番号:217】


久しぶりにして凡ミス。順序間違い大変失礼しました。

246 :名無し草:2007/07/15(日) 02:23:32
>>245
久しぶりの投下 乙!
疑心暗鬼の塊・川元の動向気になっていたので嬉しいです。
次回も楽しみにしてます!

247 :名無し草:2007/07/15(日) 07:43:14
投下乙

248 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:19:29
>>159-165 の続き

『幼馴染たちの想い』


「……………。」
深夜の島中に鳴り響いた放送は終わり、大滝はまず一つ酷く苦々しげに舌打ちをした。
菊地の名が呼ばれたのはやむを得ないとしても、あの憎たらしい菜箸のような2人がまだ生きているのが腹立たしくて。
せめて転落していった赤岡の名前だけでも聞けないかと期待していただけに肩透かし感は否めない。
しかし、今回の放送でも先輩から後輩から、面識のある奴からない奴まで、結構な数の芸人の名が告げられた。
それだけ殺し合おうとしている人間がいるという事なのだろう。
本当に潰さなければならないのは、自分達にこんな事を強いている本部たった一つだけの筈なのに。
「…馬鹿じゃねーの。」
つい先ほどまで赤岡を殺そうとしていた事を思い出せば白々しい呟きではあるが、大滝は一時よりは勢いが衰えつつある
北西の炎を見やりながら小さく言葉を漏らして、何となく重く感じられるスコップを肩に担ぐと炎に背を向けてハイキングコースを歩き出す。
向かう先は山頂近くに置きっぱなしにしてきた今泉…そして菊地の元。



「……………。」
深夜の島中に鳴り響いた放送は終わり、今泉はまず一つ安堵したように溜息を漏らした。
菊地の名が無事呼ばれた事、そして大滝やあの華奢で運のない男がまだ生きている事が嬉しくて。
緊張から解き放たれ、筋肉が弛緩したかのように自然と形作られる今泉の表情は、彼の目の前で横たわる菊地の顔面に残った
微笑みに似ていたかも知れない。
ただし、その双眸からはいつしか昼間の彼にはあった力強い光は失われていて。
「…馬鹿、だよな。」
もう一度、肺の中の空気を吐き出して。今泉は小刻みに震える手で地面に落ちていた出刃包丁を拾い上げる。
刀身にべったりと血と土とが付着したそれをしばし眺めてから、今泉はおもむろに包丁の先端を己の喉に向けた。
カタカタ揺れる包丁の尖った先が喉の皮膚に触れるか触れないか…そこまでゆっくりとゆっくりと包丁を持って行くけれど。
「………っ!」
不意に視界の端に闇夜を切り裂くかのような白い光がちらつくのが見えて、今泉は慌てて包丁を地面に放り投げた。

249 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:20:36

「……悪ぃ、稔。仕留め損じた。」
間もなくガサガサと藪を突っ切って姿を現した大滝は、ハ、と呼気を吐いてからそれだけ今泉に告げる。
「良いよ、無事だったんなら。」
首を左右に小さく振って今泉は答えると大滝を見上げ、彼のヘルメットのライトの輝きに眩しそうに目を細めた。
「…で、これからどうするの? さすがにここで野宿って訳にもいかないし。」
「そうだな…疲れている所悪いけど、まずは菊地を連れて学校まで戻る。」
「えっ……?」
腰を下ろしたり樹に寄りかかったりせず、スコップを肩に担いだまま仁王立ち、という格好で佇む大滝に
今泉が問いかけると、大滝は少し考える仕草を見せてからそう答えた。
その返答に思わず声を上げる今泉のリアクションを意外だといったように一瞥してから、大滝は言葉を続ける。
「こうなっちまった以上は…後はせめて山田さんの近くに埋めてやる事ぐらいしかできねーからな。」
「でも…ここから学校までだいぶあるよ? それに狙われやすくなるし。」
「だから今夜中かけてやり遂げる。俺達みたいに明かりを持ってなければ、真夜中に動く奴はいねーだろうし。」
もし、学校の側で菊地と合流できていたら。もし、島田が佐田に殺されていれば。別の結末もあり得たかも知れない。
しかしタラレバに縋った所で現状を変える事はできない訳で。
苦々しげに大滝はそう今泉に説明するとこれ以上の反論を封じるかのように担いでいたスコップを足元の地面に突き刺し、
幅の広いストライドで菊地の側に歩み寄った。

「…まだ生きてるみたいだな。」
「……………。」
身をかがめ、色の白い腕を掴んだ所で、手の平に伝わってくる仄かな暖かさに大滝は顔をしかめる。
そのまま丁寧に菊地の体躯を持ち上げようとした所で、ふと大滝は違和感に気付いた。
「稔、包丁は?」
菊地の腹部に深々と刺さっていた筈の出刃包丁がいつの間にかなくなっているのだ。
「あまりに痛々しそうだったから…抜いた。」
まさか包丁が勝手に動いたなんて事はあり得ないため今泉が動かしたのだろうけども、念のために大滝が問えば
今泉は少し間をおいてからそう答え、勝手な事をしたようだったら悪いと付け足す。

250 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:23:50
「いや、だったら良いんだけどよ、一応一緒に埋めようと思ってるから…気分は悪いだろうけど持っといてくれ。」
「……わかった。」
もう一度、間をおいてから今泉は答え、菊地を背中に背負おうとする大滝から視線を逸らして先ほど放り投げた包丁を拾い上げる。
地面に触れた事で先ほどよりも一層木の葉や土が付着したそれを数秒じっと見やってから、今泉はボトムの右太股部分で刀身の汚れを拭った。
途端に露わになる鋼と刃は量産された品とはいえ、安易にはぶれない凛とした強さを秘めているように今泉には思える。
「…稔?」
「あぁ、今行く。」
どうやらしばし包丁に魅入っていたらしい。
頭上から降ってくる大滝の声で我に返った今泉は、「スコップも宜しく」と無造作に発された言葉に従って
地面に刺さっているスコップを抜くと、それも携えて早くも下山するべく歩き出す大滝の後を追った。






251 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:27:51
「野村…くん。」
ただ一言、相手の名を呼びかける…ただそれだけの事にここまで躊躇したのは初めてのように、赤岡は思う。
知り合ったばかりの頃、そうやって呼び止めようとした時でさえこうも緊張はしなかった筈だ。
「あ? 何ビクビクしてんだよ赤岡。」
しかしそんな赤岡の躊躇とは裏腹に、野村は軽いいつもの調子で赤岡に返してくる。
「オレは大丈夫……でもアレだな、今度のライブの合同コント、あれちょっと作り直さなきゃ駄目になっちまったな。」
大丈夫とは言っているが、大丈夫な筈がない。
現に、やや早い口調で言葉を連ねて捲し立てている野村の視線は不安定に泳いでいて。
「島秀が女役で、オレが婚約者役で…でも親父役がいねーと成立しねーから、赤岡を親父とライバルと兼任にしちゃう?」
「…野村。」
何とか大丈夫だと己に、そして周囲に言い聞かせるような野村の言葉を赤岡は改めて彼の名を呼んで遮る。
「無理するな。」
「無理してなんかいねーよ!」
「でも、そんな………」
「赤岡。」
そんな反応自体が無理やってる証拠じゃないのか、と告げようとした所で傍らの島田が赤岡を止めた。
「野村くんが大丈夫だって言っているんなら、信じてあげようよ。」
先ほどの放送で菊地の名が呼ばれた事もあってか、島田の表情や口ぶりは硬かったけれども、赤岡の二の腕を掴む
鶏の脚のような指には精一杯の力が込められていて。
打撲傷の上からの圧力が鈍い痛みを引き起こし、赤岡の思考を覚ます。
「……わかった。過敏になりすぎて悪かった。」
野村がこうも痛々しげに平然を装っているのは、彼自身の心の安定の為もあるだろうが、まずは自分達への配慮の為からだろう。
一人きりなら無理せず思い切り泣いて怒って嘆けばいいのだから。
ならば、その配慮を無視するのは野暮以外の何物でもない。故に、赤岡は素直に頭を下げた。


252 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:30:04
「わかったなら、宜しい。」
しかし笑おうとしているのだろうか、表情を歪める野村を見ていられず、どうしても視線は自然と逸れてしまう。
その拍子に、左腕の傷を覆う包帯が目に入って赤岡は更に眉を寄せた。
どうしても思い出すのは、傷を付けた相手の事。


『とりあえずさ。同期のよしみって奴で……ちょっと殺されてくれないかな。』

『生き残るには武器も、メシも、水もこんだけじゃ足りねぇんだ。だから殺して奪う。お前から。それだけだ。』

『人はあっさり死ぬよ。   山田さんみたいに。』


初めて会った頃のようなギラギラとした眼光を湛えてアイスピックを向けてきた彼。
「お前があっさり逝ってどうするんだよ……。」
声に出さずに呟いて、赤岡は右手を包帯の上に添える。
あの時の磯山の態度はどう考えても演技とは思えなかった。
しかし、何故だろう。今はあれが磯山の一世一代の演技に…少しでも長くこの島で生き延びられるよう
誰が相手でも油断せず気を引き締めるようにと赤岡に促すためのメッセージに思えて仕方がない。
「……………。」
じっと包帯とそれに添えた手を眺めていた赤岡は、不意に首を小さく横に振った。
いや、本人の真意はどうであれ、あれは間違いなくメッセージなのだ。そう思おう。
……それがきっと10年分の記憶の中の磯山の名誉を守る事にもなる筈だから。
己を納得させるように心を固め、赤岡はゆっくりと包帯から視線を外して顔をもたげた。
まず視界に入るのは当然のように野村と島田の姿であるが、それよりも彼らの向こうの先ほどまでいたハイキングコースの方で
ゆっくりと光が移動していくのが先に目に入り、赤岡の意識と視線は自然とそちらに釘付けになる。
最初の数秒は、疲れすぎて火の玉などという幻でも見てしまったのか、という思考で頭がいっぱいになったけれども、
幻覚にしては光がしっかりとしている事、光源の高さ、光が山の麓の方へ向かっている事、更にその速度がかなり遅々としている事。
続いて目に入る情報に、赤岡は一つの可能性に思い至っていたって息を殺す。

253 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:33:28
「どうしたの……って…。」
急に遠くに目をやったまま微動だにしなくなれば、さすがに島田達も赤岡の異変に気付くだろうか。
赤岡の視線の先を追うよう彼らも首を向けてゆき、やがて島田も何かに思い至ったか不意に口を押さえて身体を強張らせた。
「大滝さん達、か。」
小声で野村が呟くのが聞こえ、赤岡はコクリと頷く。
「多分…彼も一緒だと思う。」
「だな。2人だけにしては動きが遅い。」
一応隣に島田がいる事もあり、言葉を選んではいるものの、やはり先ほどの事を思い出してしまうのか
島田の強張った細い身体は震えだしてしまう。

さっき二の腕を掴まれたお返しにと赤岡が島田の手首を掴んでやれば、僅かに落ち着きを見せたようだけれども
それでもふるえと異常な動悸はなかなか収まらないようで。
「このままやり過ごせたら…山頂に行こう。」
過呼吸気味に深呼吸を繰り返す島田を横目で見やりながら、赤岡は2人に提案するように口を開いた。
「山登りは下山の方が危ないって言うし、僕らには向こうと違って明かりがないから、暗闇の中下山する愚は犯せない。
 山頂なら展望台とかもあるだろうからここよりは寝やすいだろうし…明日の行動に応じてハイキングコースも選べるし。
 何より、今更この時間に山を登ってくる酔狂な奴はいない…と思うから。」
「このままあの人達の後ろを下山するよりは、良い…と思う。」
最後の理由については他の芸人を信じるしかない以上、ちょっとトーンは落ちるものの。
赤岡が提案の理由を説明すると、深呼吸の合間を縫うようにしてか細い声で島田が同意の意を示した。
もしも大滝達が休憩を挟んでいる所に追いついてしまう…そんなシチュエーションになってしまえば、
大滝の事だ、またスコップを振り上げてくるに違いない。
「……しょうがねーな。寝る前にもう一疲れ、してやるか。」
赤岡と島田は負傷し、野村は平静を装っていてもどこか不安定…そんな今の状況で大滝から再び逃げきる事は出来ないだろう。
ならば、より危険を避けられそうな方を選ぶべき。
はぁ、と肩をすくめて野村も同意の言葉を発せば、赤岡は安堵に表情を綻ばせた。
「…ありがとう。」

254 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:37:50





昔は自分よりも小さかった幼馴染み。
いつしか彼の身長は己の背丈を抜いて今ではその顔は軽く見上げなければならないほどで。
己の前を行くその背中には今、スーツに身を包んだ色白の人の肢体が背負われている。
それは昨日の昼からずっと探し続けていた人物のなれの果て。
彼の首輪の下の白い皮膚に、索状痕がにじみ出つつある事を、それを背負う男はまだ知らない。





255 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:39:51
【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー(2回目の放送収録) マイクスタンド
状態:左腕に裂傷(手当て済)・右頬に軽い火傷・全身に強い打撲・疲労・朦朧
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし・でも殺さない
第一行動方針:山頂に向かう
最終行動方針:悔いのないように行く】

【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛  (以下、水色のリュック内) 缶詰2個 シャツ
状態:額に裂傷(手当て済)・恐怖
基本行動方針:生存優先・赤岡達を信じる
第一行動方針:山頂に向かう
最終行動方針:不明】

【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ 缶詰2個 薬箱
状態:ややバテ気味・呆然とするも平然を装っている
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:山頂に向かう
第二行動方針:赤岡達の前では泣かない
最終行動方針:不明】

【C8・山の中】


256 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/15(日) 12:41:19
【18KIN 今泉 稔
所持品:ライター 煙草 三味線の糸 スコップ 出刃包丁
状態:万全・精神的に不安定
基本行動方針:
第一行動方針:
最終行動方針:不明】

【18KIN 大滝 裕一
所持品:ライト付き工事用ヘルメット 菊地の遺体
状態:軽い打撲・疲労・憤怒
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:菊地を学校の側に埋めてやる
最終行動方針:ゲームの破壊もしくは主催の打倒】

【C8・ハイキングコース】

【16日 00:26】
【投下番号:218】

257 :名無し草:2007/07/15(日) 17:45:40
号泣編乙ー!
今泉の行動も気になってきたなぁ。
続き楽しみにしてるよ!

258 :名無し草:2007/07/15(日) 20:16:29
投下乙です

259 :名無し草:2007/07/15(日) 21:57:15
数日見ないうちに結構投下きてたて嬉しいね

>>235
新作乙です!
たっちが仲間割れで死んだというのが悲しい……
てか>>239よ、拡声器の使われ方はもう731氏が書いたぞw

>>245
新作乙です!
RG登場か……相方はマーダーになってしまったけど、頑張れ!

>>256
新作乙です!
あれ、菊池死んだの?
死んだんなら【菊地秀規(いつもここから) 死亡】ってのがいると思うが

260 :名無し草:2007/07/15(日) 23:55:36
>>259
菊地に関してはまとめサイトに書いてあったよ。
皆様投下乙!どれも今後の展開wktk

261 :名無し草:2007/07/16(月) 02:17:34
>>260
まとめサイトのどこ?
プログラム記録にも生死情報にも載ってないし……

262 :261:2007/07/16(月) 02:21:23
>>260
もう一度確認したら書き手紹介のところに載ってた。
上のはスルーして。ゴメン。

263 :名無し草:2007/07/17(火) 01:45:00
干す柿

264 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 22:57:34
久々に投下いきます。投下番号187番の続き、ロザン菅編です。


『心危ない者達の集い』


――世界が暗転していくような気さえした。

無音は、時に人の精神を追い詰める。精神的な部分からくる酷い頭痛は彼女――伊藤の意識を奪おうとした。
その場に蹲り、自らの犯したであろう罪を直視する事さえも恐れ、ただ何か変化が訪れるのを待つ。
だがそういう時に限って、静まり返ったその場には木の葉を揺らす風さえも吹かない。
そこに有るのは強すぎる夏の日差しのみだった。

「そろそろ日陰に入らないと、本当に熱中症になるよね…」
小声で呟き彼女が現実からの逃避を始めた時、僅かな風が吹き彼女の周囲は変化を始める。
風の音、木の葉が揺れる音、そして人の声。
音だけを聞いていれば、夏の日差しに包まれた公園の日陰で昼寝でもしているような気分になる。

そこで彼女は違和感に気付く。
確かに先程までここには誰かがいた、だが彼女は恐怖からその誰かに向けて発砲したはずで。
なら彼女が今聞いている声は何なのか。幻聴か、或いは。

次に彼女が聞いたのは、誰かの足音とそれを制止しているらしき声だった。
砂を蹴る音が近付いてくるのを感じ、自然と息が詰まる。
意を決して振り向いた、そこには。



265 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 22:58:56
それは彼が自分なりに考えて選んだ選択だった。
返り討ちに遭う確率も考えてみたが、未だに追撃をかけてこない辺りそれはないと思えた。

故に彼――菅は銃声をきっかけに再会できた知り合いと共に狙撃手と接触を図ろうとする。
…尤も、再会したばかりの男――須知は狙撃手が銃を持ってる事を考えて大いに反対していたのだが。
(その訴えに殆んど耳を貸さず、挙句の果てには1人で接触を図ろうとしている菅を見て男は心の中で菅の相方の身を案じたとか)

銃声の方向から相手の位置を推測し、近寄ればその推測が正しかった事がわかる。
声を掛けるより先に振り向かれたのは予想外だったが、すぐにいつも通りの笑顔を浮かべる事ができた。
近寄る途中、持っていたナイフを上着のポケットに隠していた時点で自分の思考が危うくなっていた事に菅は気付かない。

――それは悪夢の、確かな前兆だった。

「大丈夫ですか?」
「あ…とりあえず大丈夫だと思う。そっちこそ大丈夫?」
「僕は平気ですよ? 弾、外れたみたいで」
「あ…ごめん」
「別にいいですよ。皆怖いと思いますから」

その表情が安堵に緩むのを見て、菅は相手が安全だと確信する。



266 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 23:00:37
そして、自分が先程までいた辺りで座っているであろう男に声を掛けた。
いかにも恐る恐るといった風に近付いてくる男に、思わず菅は彼女と顔を見合わせて笑ってしまう。

「ほら、全然怖なかったやんか!」
「普通撃たれかけた方が怖がるもんとちゃうんか!」
「そういうもんなん? 俺全然怖なかったし、むしろ撃った方が怖がってたし」
「あんなぁ…」

明らかに呆れた表情を浮かべる男と、それを見て怪訝な表情を浮かべる菅と。
どちらも正しいといえば正しいのだけど、そのやりとりは何故かおかしくて。
それを見た彼女は微かに笑って、とりあえず浮かんだ疑問を口にした。

「ところで、あのナイフはどうしたの?」

それを聞いた菅の表情が一瞬だけ素に戻る。

「ああ、あれですか? あれは――」

内心慌てているのを見透かされないよう、最も警戒されなさそうな言葉を選んで声に出す。

「投げ捨てました。多分使う事もないと思うし」

その言葉を受けて、彼女は一瞬呆気にとられたような表情を浮かべる。
しかしすぐに笑顔を浮かべて、「そっか」と呟く。
それを聞いた男は、彼女が持っている銃に気をとられていて何ひとつ驚いた様子を見せなかった。
そして何かを決意したように口を開く。

「あの、こっちからも質問していいですか?」



267 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 23:01:55
「いいけど、何?」

彼女が返事をすると、男は僅かに逡巡し言葉を続けた。

「…いつ頃からここにいたんですか?」
「確か、1時間くらい前からだったと思う。
 探しても探しても知り合いとか見付からなくて、諦めてずっとここにいたから」
「そうですか…なら大丈夫、やな。菅ちゃんが出てきた時は学校の前に誰かおった?」
「当たり前やん、兵士の人がおったに決まっとるやろ?」
「いや、そういうんやなくて…誰か他の人とか」
「兵士の人以外はだぁれも、1人もおらんかったわ。もしかして死体にでも会った?」
「…菅ちゃん、まさにその通りなんやけど」

瞬間、辺りを不穏な沈黙が支配する。
空気を変えようと動いたのは彼女だった。

「あ、あのさ! 2人はこの先どうするつもり?」
「とりあえず相方探します。まだそんなに時間経ってないと思いますし」
「俺は…アイツもう出発してるから今から追い付くなんて無理やし、どうしよかな…」
「そっか…私もとりあえず探してみるかな、かなり時間経っちゃったけど」

2人が同じ目的を持っていると知り、再び菅は思考を巡らせる。
(ここで一緒に行動する事ができれば安全やけど――)



268 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:12:06
号泣編番外・スピードワゴン井戸田編  投下番号102 の続き

『空と君のあいだに 1.』


人の気配…そして銃口が向けられている気配は、確かにそこにあった。
しかし、その時を待ちわびるかのようにその場に佇む井戸田の身体が、希望通り弾丸によって爆ぜる事はなかった。
数秒、いや、数十秒…あるいは数分の後に。
井戸田に向けられていた銃口は、ゆっくりと地面へと下がっていったから。

「……何で、殺さないんですか?」
「今の君からは、生きようという意思が見られなかったからな。」
そちらの方を見なくても、状況が変わった事は気配と空気の変化でそれとなくはわかる。
俯いたまま井戸田が声を絞り出すようにして問いかければ、どこかで聞き覚えのあるハリのある声が返ってきた。
「生き残る意思がない奴は、もう死体と同じだろ。なら、死体相手に弾丸をぶち込むような馬鹿な真似はやらない、それだけだ。」
まぁ、無防備とかそういうの抜きで、人を撃つのって普通に気が引けるからね。
どこか芝居めかした調子で告げた後にそう本音なのだろう言葉を付け加え、苦笑いを浮かべるのはネプチューンの原田 泰造。
このバトルロワイアルに芸人達を集める名目となったウソ番組にて、ネプチューンはいくつかの企画コーナーの司会を任されていた事もあり、彼の格好は大人びたカジュアルなスーツ姿ではあったが、彼の武器にと与えられた
イスラエル製の自動拳銃、ジェリコ941を緩く握ったまま右手を腰にやって左手でぽりぽりと頭を掻くその様は
どこか悪戯を見咎められた少年の姿にも似ているかも知れない。
「あぁ、そうだ。井戸田くんは健と名倉さんを見なかったか?」
「……見てないです。でも、2人を捜してどうするんですか?」
どうやら原田の視界には小沢の姿は入っていないようだった。いつも通りの調子で呼びかけ、トリオの残り2人の安否を尋ねてくる原田に
井戸田はそれが先輩芸人への態度としては間違いと知りつつも俯いたままぶっきらぼうに答える。


269 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:15:48
> ◆0M.qupOW5Y さん
乱入して済みません、続けて投下してください。

270 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 23:17:20
その思考を断ったのは男の声。

「あー…俺、そろそろ行くわ」
「え? 3人でおった方が安全やのになんで?」
「思う所あって、な」

その表情に何か言いようのない物を感じ、説得は無駄だと思い知る。
次の言葉に悩んでいる隙に男は立ち上がり、

「じゃ、また会えたらええな」
そう言って、走り去って行った。

「なんか…置いてかれちゃったね」
「はい…まぁなんとかなるでしょ、武器ありますし」
「そうだよね! でもあの人何持ってたの?」
「…そういえば、まだ教えて貰ってなかったです」

その言葉に再び顔を見合わせて、今度は苦笑いを浮かべた。

(こんな簡単に信じてくれるとは思わんかったわ…)
ここまで簡単に相手の信用を得たのは、自分でも意外だと菅は思った。
言い替えれば操作しやすいとも言えるのだが、その疑いのなさに自分の打算が浮彫りにならないか不安にもなって。
何より、彼女の分まで周囲に警戒を張り巡らせなければならないと思うと目の前が真っ暗になるような気がした。



一方、微笑ましい光景から1人離脱した男は疑念と戦っていた。

「なんやねん…死にたないって思わへんのか?」

自分が悪い事は理解している。それでも信じる事など出来なかった。
思い出すのは凄惨な学校前。物言わぬ銃殺死体は見る者に警戒を促す。

271 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 23:22:52
2人と会話していても、あの虚ろに開かれた目と夥しい量の血のイメージを拭い去れなかった。

「ごめん、ほんまにごめん、」

それはある種のトラウマの如く彼を。

「…俺、銃持った奴を信じるなんてできへん」



自分を見失わない代わりに希望を捨てようとしている者、
知らず知らずのうちに他人を信じきってしまう者、
警戒のあまり、他者を信じる事さえも忘れていく者、

最も危ないのは誰なのか、その先に何があるのか、それは誰にもわからない。


【ロザン 菅広文】
所持品:バタフライナイフ、他未確認
状態:良好
第一行動方針:相方の捜索
基本行動方針:???
最終行動方針:生き残るつもりはない
【北陽 伊藤さおり】
所持品:コルトガバメント(8/9)、替え弾倉×2
状態:良好
第一行動方針:相方の捜索
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:

272 : ◆0M.qupOW5Y :2007/07/17(火) 23:25:04
【ビッキーズ 須知裕雅】
所持品:不明
状態:正常?
第一行動方針:相方の捜索
基本行動方針:生存優先、銃には最大限警戒する
最終行動方針:不明

【現在位置:森の北東(F4)】
【8/15 15:51】
【投下番号:219】

>>269
いえいえ、改行制限で投下にモタついた自分が悪いようなもんなのでお気になさらず…orz

273 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:27:51
改めて、号泣編番外・スピードワゴン井戸田編  投下番号102 の続き

『空と君のあいだに 1.』


人の気配…そして銃口が向けられている気配は、確かにそこにあった。
しかし、その時を待ちわびるかのようにその場に佇む井戸田の身体が、希望通り弾丸によって爆ぜる事はなかった。
数秒、いや、数十秒…あるいは数分の後に。
井戸田に向けられていた銃口は、ゆっくりと地面へと下がっていったから。

「……何で、殺さないんですか?」
「今の君からは、生きようという意思が見られなかったからな。」
そちらの方を見なくても、状況が変わった事は気配と空気の変化でそれとなくはわかる。
俯いたまま井戸田が声を絞り出すようにして問いかければ、どこかで聞き覚えのあるハリのある声が返ってきた。
「生き残る意思がない奴は、もう死体と同じだろ。なら、死体相手に弾丸をぶち込むような馬鹿な真似はやらない、それだけだ。」
まぁ、無防備とかそういうの抜きで、人を撃つのって普通に気が引けるからね。
どこか芝居めかした調子で告げた後にそう本音なのだろう言葉を付け加え、苦笑いを浮かべるのはネプチューンの原田 泰造。
このバトルロワイアルに芸人達を集める名目となったウソ番組にて、ネプチューンはいくつかの企画コーナーの司会を任されていた事もあり、
彼の格好は大人びたカジュアルなスーツ姿ではあったが、彼の武器にと与えられたイスラエル製の自動拳銃、ジェリコ941を
緩く握ったまま右手を腰にやって左手でぽりぽりと頭を掻くその様はどこか悪戯を見咎められた少年の姿にも似ているかも知れない。
「あぁ、そうだ。井戸田くんは健と名倉さんを見なかったか?」
「……見てないです。でも、2人を捜してどうするんですか?」
どうやら原田の視界には小沢の姿は入っていないようだった。いつも通りの調子で呼びかけ、トリオの残り2人の安否を尋ねてくる原田に
井戸田はそれが先輩芸人への態度としては間違いと知りつつも俯いたままぶっきらぼうに答える。

274 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:29:14
「決まってるだろ? 2人と合流して、他の連中も集めて…このゲームを止めさせて、外に戻る。」
さも当然のように返ってきた力強い原田の言葉に、井戸田は口の端を微かに吊り上げた。
今の原田はまるで数時間前の井戸田そのもの。しかし縋るべき希望の光は今の井戸田にはどうしても道化を照らすライトにしか思えない。
「…無駄ですよ。」
故に、力なく漏れ落ちる井戸田のその一言に、原田は怪訝そうに小首をかしげた。
「何でそう最初から無理だって決めつけるんだ?」
やや唇を尖らせたように問いかけつつ、原田は数歩ほど目の前の茶髪をトサカのように逆立てた男の方へ歩み寄って。
そしてようやく井戸田の目前に横たわっている人物の存在に気付き、息を呑んだ。
「殺した…違うな、間に合わなかったのか。」
井戸田の衣服に返り血がついてない事からそう判断し、眉を寄せて原田は呻くように呟く。
「だったら、何だって言うんです。」
これ以上誰かと話をする事自体が酷く億劫に思え、自然と素っ気なくなる口調で井戸田は言葉を吐き捨てた。
「俺だってバトルロワイアルなんて馬鹿な真似、止めさせたかった……でも、相方一人、止められなかったんですよ。」
「……………。」
俺が誰より馬鹿だったせいで。小さくそう付け加えて井戸田は傍らで立ち止まった原田を見上げる。
ちょうどその視界に入るのは、沈鬱げな面持ちで井戸田と小沢を見やる原田の眼差しで。
「…その目は何ですか? 可哀想にって同情でもしてるんですか?」
苛立ちを露骨に露わにしつつ、井戸田は原田に問うた。

殺されても構わない…いや、むしろ殺して欲しかったのに銃の引き金を引かなかった。
この期に及んでもまだ、ゲームを止めるなんて夢物語を平気で口にし、小沢に対し哀悼の表情を浮かべてみせる。
そんな原田の言動の一つ一つが、彼に非はないにせよ井戸田を刺激するのだ。
「そんな…同情するなら、今すぐこの人を生き返らせてくれよ!」
「悪いが、死んだ人間を生き返らせる事は、できない。」
周囲に己の声が響き渡るのも構わず思わず声を荒げてしまう井戸田に、原田はやけに冷静な口調で答えた。

275 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:31:36
「でも、その死を無駄にしない事は、心の中で生かし続ける事はできる。」
「……綺麗事を!」
言葉を重ねる原田に対し、ヒステリックに井戸田が口走ったその声に被さるように。
不意に二人のすぐ間近で一発の銃声が響き渡った。


「………っ!」
轟音で空気が震え、次の瞬間には赤い飛沫が井戸田の顔に降り注いでくる。
小沢の胸元に広がる赤と同じその飛沫の発生源は、原田の右腕。
「あんたか……さっきからパンパン撃ちまくってた野郎は。」
肩に近い箇所を掠めた弾丸によって身体の一部がえぐり取られる痛みと衝撃に顔を歪めながら、辛うじてそう言葉を絞り出し
原田は銃声の発生源の方へ身体を向けると傷ついた右腕をもたげ、ジェリコを構えた。
「まさか健や名倉さんに手ぇ、出してないだろうな!」
「……ひ、ひぃっ。」
ジェリコの銃口の先に立っている恰幅の良い人影が誰であるか井戸田が認識した時。
その人物…くまだまさしは原田の気迫に対し怯えたような声を上げ、構えていた拳銃Cz75の銃口が火を噴いて。
原田はビクリと身体を震わせ、左手で腹部を押さえると右手の銃を撃つ間もなく、苦悶の表情のままゆっくりとその場に崩れ落ちた。

二発目の弾丸は原田のジャケットをやすやすと貫通し、中のシャツは赤く染まりはじめている。
「何で……。」
井戸田は目の前の出来事が信じられないとったように言葉を漏らした。
もう頭がどうにかなりそうだった。
いや、井戸田の思考はどうにかなってしまっていたのかもしれない。

「何で……こうも何もかも上手くいかねぇんだよぉぉ!」
小沢を待たずに理想に先走ったせいで、小沢を失ってしまった。
いっその事殺して欲しかったのに、現れたのは井戸田と同じように脱出を夢見る原田だった。
その原田が、下手に井戸田に関わってしまったせいで、座り込んだままの井戸田の隣でぼさっと立っていたために。
井戸田よりも先にくまだに狙われ、撃たれてしまった。
もしも小沢を待ち続けていたなら、もしも小沢を見つけるより前に原田と出会っていたなら、
もしも原田ではなくくまだが先に銃口を突きつけてきてくれたなら。

276 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:35:33
一つ歯車のかみ合わせを修正したら、どれももっと良い展開に持ち込めたはずなのに。
……何でこんな事になってしまうんだ!

「こっから、失せろぉっ!」
吼えるように声を発し、井戸田は足元に伸びた原田の右手が握るジェリコを奪うようにして拾い上げ、
立ち上がると両手で銃を構える時間も惜しむかのように引き金を引く。
一度目は、銃口からは弾丸は放たれず、カチリという手応えが指先に伝わるのみ。
もう一度引き金を引ききると、セーフティが解除されたジェリコは轟音と共に9mmパラベラム弾を吐き出し、
弾丸は一直線にくまだの胸へと吸い込まれていく。

「……っ。」
発砲の衝撃により手首から伝わる鈍い痛みに顔を歪めて思わず俯いた井戸田が、しばしの時の後にはっと我に返った時。
くまだまさしは己の血で染まった地面に倒れ伏したまま、もう自慢の小道具を披露できるような状態ではなくなっていた。

「……………。」
その様子に、鼻をつく硝煙の臭いに、己が何をしでかしてしまったかを悟ると、井戸田はその手からカシャリとジェリコを取り落として
先ほどの激昂が嘘のようにへたりとその場に座り込む。
銃で威嚇して、くまだを追い払えればよいぐらいの気持ちだったのに。
殺されても構わない…何なら殺して欲しい。そう思っていた自分が、逆に人を殺してしまった。
しかも、よりによって小沢の目の前で。
お前は馬鹿か、井戸田 潤。

「井戸…田……くん。」
何とか即死は免れたらしい原田が上半身をもたげつつ井戸田を見上げ、彼の名を呼ぶけれど。
井戸田はそれには何の反応も見せず、ただ呆然とくまだの姿を眺め続けていた。



277 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/17(火) 23:42:26
【スピードワゴン 井戸田 潤
所持品:結婚指輪・ダーツの矢(20本)
状態:軽い疲労・放心状態・自己嫌悪
基本行動方針: 
第一行動方針: 
最終行動方針: 】

【ネプチューン 原田 泰造
所持品:ジェリコ941 (9mmパラベラム弾 39/40)
状態:右上腕に軽い銃創・腹部に銃創
基本行動方針:堀内と名倉を捜す
第一行動方針:傷を何とかしたい
最終行動方針:仲間を集めてこの島から脱出する】


【くまだまさし 死亡】
【15日 16:23】
【投下番号・220】


>>272
こちらこそ書き込み前に一度リロードすれば良かったモノを…申し訳ありませんでした。
そちらは皆さんが良い感じに歪みつつあるようで今後の話が楽しみです。

278 :名無し草:2007/07/17(火) 23:49:14
>>272
乙です!
菅の紙一重なキャラ作りがいいですね。
伊藤の素直さが不安を煽るなぁ……。

>>277
乙です!
ちょw タイトル! タイトルー!wwwww
井戸田が今後どう動くのか楽しみです。

279 :名無し草:2007/07/18(水) 02:50:43
二方とも投下乙です

280 :名無し草:2007/07/18(水) 17:34:21
>>272
新作乙です。
そういえば菅が鈴木大虐殺が起こる前に最後に学校を出た人物で、須知が大虐殺の跡の最初の目撃者なんだよな〜

>>277
新作乙です。
タイトル奥さんつながりですかいw
それにしても2002年版では妖刀掴まされるわ今回はいきなり被弾するわ
泰造ロクな目に遭わんなw

281 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/18(水) 22:37:25
>>170-175 松竹編第五話

 恨みの漫才師 ますだおかだ増田


 ずっと思い描いていた軸がぶれる事はなかった。芸人としてのプライドは人一倍高い。不本意な
仕事は出来る限り断り、事務所やスタッフに我が侭を言う事も多々あった。そのため多数のチャン
スを犠牲にしてきた。勿論やりたい事だけをやるのではない。ただ、譲れない拘りというのは持ち
続けていたかった。
 ますだおかだ増田英彦は、そんな自分を時折「路地裏の芸人」と比喩する。賑やかな表通り
――所謂全国ネットの番組を沸かせる芸人たちから一線を引き、ライブ活動を中心に励むローカル
な自分をそう卑下するのだ。ますだおかだもここ最近はテレビ等の露出が増えてきている。とはい
え増田が最終的に求めるものは、板一枚の舞台でしかなかった。
 水域に四方を囲まれた一枚の陸の上で、増田は地図とコンパスを照らし合わせながら現在位置を
確認していた。暗闇に目が慣れたとはいえ月明かりしかない夜の孤島では、自分の居場所を知ると
いう極めて単純な作業すら思い通りにいかなかった。増田はしばらく地図を睨み続けてみたが、
いっこうにハッキリしない視界にうんざりして閉じた瞼を指で軽く押さえた。
 プログラムがスタートして既に半日以上経過しているらしい。支給された時計をデイパックにし
まったままでいる、アクセサリー嫌いの増田が時間を知る術は一つだけ。全島放送は合計二度、こ
の耳を通り過ぎていった。よく知る人物から顔もよく知らぬ者まで、大勢の芸人の名が読み上げら
れていった。命を落としたとただそれだけ、お悔やみの言葉もなく。


282 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/18(水) 22:39:14

 ああ、死んでもうたんやな。そう簡単に済ませておけるならどんなに楽だったか。多くの才能を
摘み取ったバトルロワイアルは、数年後きっと後悔するだろう。これからもっと活躍するはずだっ
た芸人も、この先もっと評価されるべきはずだった芸人も、最後のチャンスすら与えられずこの世
を去った。バトルロワイアルに参加している芸人が全てだとは言わない。面白い芸人はまだまだ
燻っているはずだ。それでも――。

「この際、お笑いなんて文化……滅びてもうたらええねん」

 自分が携わる事の出来ないお笑いに興味はない。呟いた言葉は増田が現実を受け止めた上で出来
る、精一杯の強がりでもあった。だが、ますだおかだという漫才師が存在しなくても、お笑いの世
界が変わりなく続いていくとは考えたくなかったのも事実である。この場にいない後輩たちに全て
を託すきっかけになると思えるほど、増田は他人に献身的ではない。
 地図を丁寧に畳みコンパスと共にデイパックへ戻すと、増田は身体の向きを90度ずらし、南下
する方向へと進路を変えた。
 増田は以前からずっと、バトルロワイアルの廃止を切に願っていた。この国に住むほとんどの者
がバトルロワイアルを快く思っていないのだから当然とも言えるのだが、増田はそのほとんどの者
と同じようにただ憤りを隠しながらこれまで生きてきたわけではない。
 バトルロワイアルが50回目を向かえた今日でも、プログラムに対する反対勢力というものは存在
する。勿論大々的な活動は出来ないにしても、これだけ環境の整った世の中である。水面下で動く
事は充分に可能だった。増田はその反対勢力へ支援していた。もっと言うならば、積極的にプログ
ラム廃止に向けて尽力していた。増田は悔しかったのだ。国を造る者がプログラムと称して殺人を
容認するなんて。まるで生きるという事を、この世に生まれてきたという事を完全に否定されてい
る気分だった。これでは必死に生まれてきた我が子にどんな顔して、夢や希望を語ればいいものか
分からない。何より、お笑い芸人としての自分さえ否定されているようで歯痒かった。人を蹴落と
して生き残った者が甘い蜜を吸う。そんな事許されるはずがない。


283 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/18(水) 22:42:52

 しかし今、増田がずっと否定し続けてきたバトルロワイアルの舞台に立っているのは自分自身だ。
舞台に立ってしまった以上、どれだけこのプログラムの無意味さを唱えても、生きるか死ぬかの選
択肢しか残されていない。皮肉にも増田は反対活動で得た若干の知識から、どう足掻いてもこの状
況から回避するなど不可能である事を知っている。いや、端から諦めてその可能性を見出せずにい
ただけなのかもしれない。故に、増田は脱出を図るでもなく、本部のある学校に殴り込むわけでも
なく、残りわずかな命のために歩き続けていた。長くも短かった自らの人生を振り返りながら。
 増田は常に理想と現実の合間を行き来してきた。それは芸人になる前からずっと変わらずにして
きた事だった。しかし理想なんて永久に理想のままで現実になどなり得ない。それでもいつかは理
想という高い壁を壊せるのではないかと、苦し紛れに走り続けてきた。
 お笑いが中々受け入れられなかった時代も、小さなお笑いブームの波に乗れなかった時代も、
ただひたすらに漫才をやり続けたのは、何も粋がっていたわけではない。その地道な積み重ねが報
われる日が必ず来ると、そう、まさに理想が現実になる事を夢見ていたからだ。
 夢と理想は似ていて、どちらも手には届かない遠くにあるもののようだ。うかうかしていたらす
ぐに消えてしまう。
 見失わないように、増田は前を向いた。気がつけば目の前には果てしなく続く海があった。夜の
海は吸い込まれそうなくらいの漆黒で、あまり心穏やかなものではない。それでも増田は足を止め、
広がる海の、更に向こう側を見つめた。
 この海の先に、一体何があるのだろう。ついさっきまで生活していた平凡な街並みだろうか。そ
して家族が笑顔で出迎えて、この場にいない後輩たちが客を笑わせて……。


284 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/18(水) 22:44:20

 揺れる水面に歪んだ月が浮かぶ。
 人の心は歪である。自分の心もそうだ。心は、自らが作り出すものではない。世間や友人知人
家族、違う誰かが作ったものだ。花を見て美しいと思うのも、涙を流して悲しいと思うのも、自分
の意志であるのに所詮それは他の何かが創り上げた決まり事に過ぎない。自分の人生は最初から大
きく傾いていたのだろうか。違う何かに心を設計されてしまったその時から。それならば、自分が
生きてきた意味とはなんだ。一人の人間として。夢と理想ばかり追い求めてきた、一人の芸人とし
て。
 増田は空に構える月を睨んだ。
 この闇に塗れた海を越えていけるなんて思ってはいない。その先にある今までの生活へ戻れると
も思ってはいない。それでも増田は理想を求めた。昔からずっとそうしてきたように。だが増田に
は、今の自分にとって最高の理想が何なのかいくら考えても分からなかった。
 ズボンのポケットに忍ばせた塊に触れる。グリップを握ると人差し指でトリガーをなぞった。そ
の指は綺麗な三日月を描き元の位置へ帰る。スタートしてすぐに確認された代物は、遥か昔異国の
軍人たちが愛用した銃器である。世界は幾度巡れど、戦争を求めているのだ。
 増田には大切なものが二つある。長年連れ添ってきた家族と、何があっても手放さなかった漫才
だ。もしこのプログラムに乗って優勝すれば、その大切な家族とやらは守れるかもしれない。ただ
その他全てのものを捨てるほどに、守る事が意味を成すとは到底思えなかった。大切なものは人そ
れぞれ、必ずしも一つではないはずだ。
 増田はポケットから手を離し、ゆっくりとまた歩き始めた。黒々と光る海を横目に見ながら。
 悶々と過ごす時間は息苦しかった。増田は全ての答えを見出すため、捜していた。いつも増田の
道標となっていた一人の男を。
 そしてもう一度呟いた。届く事のない、叶う事のない、悲痛な願いを――。


285 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/18(水) 22:46:24


 この国のお偉い方々。
 漫才はお嫌いですか?
 それならいっその事、この世からお笑いという文化を消し去ってください。

 何も信じる事の出来ないこの俺が、
 一つの幸せを諦められるように。



【ますだおかだ 増田英彦】
所持品:ルガーP08 9mmパラベラム弾(8/8) ・控え弾丸(16)
第一行動方針:相方を探す
基本行動方針:最高の理想を見出す
最終行動方針:理想を現実にする

【現在位置:J7 海辺】
【8/16 0:55】
【投下番号:221】


286 :名無し草:2007/07/18(水) 23:03:55
>>285
投下乙です。
松竹編はなんというか、キャラが立ってて好きです。
増田が切ない…。

287 :名無し草:2007/07/19(木) 01:13:16
投下乙

288 :名無し草:2007/07/19(木) 03:19:49
>>285
乙です!
独特の暗さ……もとい鬱描写が増田っぽくていいなぁ。


289 :名無し草:2007/07/19(木) 13:52:52
>>285
乙ー
松竹編良い!

290 :名無し草:2007/07/20(金) 16:45:55
干す柿

291 :名無し草:2007/07/21(土) 02:28:33
干すアゲ

292 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:29:46
>>134-149続き
”精神安定”


”お前と一緒には行けん”
大悟の拒絶は、山里の意識を抉った。
予想していた言葉の筈なのに何でこんなに傷ついているのか、山里は理解できなかった。
「・・・どうせ傷つくだけなら、声かけなきゃよかったよ」
ぼそっと呟いた後、山里は大悟との会話を反芻し、自己嫌悪した。

大悟の苛つきを感じながら、拙い自己弁護をやめなかった。
そういう見苦しさは大悟の最も嫌う行動だと知っていた。
気が動転した自分は大悟にまで責任転嫁して、有耶無耶にしようとした。
大悟が何も出来なかった事は、原因を作った自分が責める権利は無いと今では思う。
挙句の果てには「許してくれなくてもいいから連れて行ってくれ」?
要するに大悟の意志とは無関係に自分の要求を押し通そうとした訳だ。

「そりゃ、大悟さんだってこんな奴連れてかないって」
山里は先程大悟に見せようとした支給品をまだ持ったままだった事に気付いた。
それは錠剤の瓶だ。ブロチゾラム(レンドルミン)、分類は睡眠薬とある。
睡眠薬というのを見て、山里にはあるシチュエーションが浮かぶ。
手の平いっぱいの錠剤を一気飲みして自殺するという、ドラマやコントでよくやるシーンだ。
(死ねるんじゃないの・・・これ?)
山里は死の誘惑に身を委ねたかった。
(支給品がこれで、学校で敵もいっぱい作っちゃった。
 大体それがなくたって、”こいつなんて死んでもいいよね”筆頭の俺だよ?
 もしかしたらこれって、神様が苦しまないようにって与えてくれたラッキーアイテムなんじゃないの?)
気が付くと山里は睡眠薬の瓶を開け、左手に流し込んでいた。
手の平いっぱいの錠剤を見た山里は、思わず固唾を飲んだ。
「いっ、いくらなんでもこれは多すぎだよね〜。10錠位で十分でしょ?」
そう独り言を呟いて、きっちり10錠だけとって、後は瓶に戻した。

293 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:31:02
「いや、流石に10は少ないな・・・あと5個だけ・・・」
5錠足した後も、中々山里は飲み込もうとはしなかった。
「おいおい俺、手汗で錠剤溶けるって・・・いや、その方が飲みやすいかなーなんて・・・」
山里は冗談を言いながらも、今まであった嫌な事を全力で思い出していた。
絶望で心を満たせば、勢いで睡眠薬を一気に飲み干せると思ったのだ。
TVでのどっきりで散々騙された事も、しずちゃん不在の時に行った営業先の観客の失望の目も、
インターネットの誹謗中傷も、教室で和田を死なせた事も、全部かきあつめた。
最後に横目で「山ちゃん一人でやってればええやん」と自分を突き放したしずちゃんの顔が浮かんだ後、
山里は睡眠薬を飲み干した。流石に15錠は多かったが、唾で一気に流し込んだ。
「・・・はっ、飲んだ!飲んだぞ!!はは、ざまーみろ!」
誰に対しての”ざまーみろ”なのかは山里にもわからない。勢いだけの言葉なのだろう。
「俺はもう死にますよ!無様な死体想像した人、残念でしたね〜、あははは!」
山里の気分は爽快だった。早く、このテンションのうちに、絶命したかった。
だが、10分経っても20分経っても、絶命どころか眠気すら襲ってこない。
爽快感は急速に無くなっていき、不安がまた精神を満たした。
遅効性なのかもと思い、時間が経過する。最初はいちいち時計を見ていたが、苛々するだけなのでやめた。
3時間ほど経ち辺りが暗くなった頃、山里は眠気で殆ど動けない状態になった。
緩やかな死へのカウントダウンは恐怖であろうが、眠気がそれを奪い取ってくれた。


294 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:32:05
眠いな・・・
このまま目ぇ閉じたらゴーゴーヘブンって奴?
うわ古いな俺・・・まぁ見た目が古いとか、散々弄られたっけ。
しずちゃん、俺が死んだら反動でイケメンと組むのかな・・・
それとももう女優転向して、ネタ合わせなんかやらないとか。最近ロクにしてなかったけどさ。
俺だって考えてるんだよ・・・新ネタ。同じネタばっかりとかネットで言われたもんだから、必死こいてさ・・・

「・・・いやだ」
山里が呟く。忘れた筈の恐怖が蘇っていた。

「嫌だ!まだあのネタも、あのネタも、あのネタも試してない!!
 あのTVのオンエアだって見てないし、雑誌のインタビューだってまだ・・・」
叫ぶ山里の意識を眠気が襲う。山里は自分の頬をひっぱたいて抵抗したが、効果はない。
「ちくしょう・・・死にたくないよ・・・
 このままじゃ、いいイメージひとつもなしで死んじゃうじゃんか・・・
 俺だって・・・しずちゃんの引き立て役って・・・だけじゃ、ないのに・・・しずちゃ・・・・・・」
その言葉を最後に、山里は意識を失った。



295 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:34:54




・・・あれ、何か痒い。
山里は10ヶ所以上蚊に刺されていた。
「うわ何これ、かゆっ!」
耐え切れずに体育座りの体勢で両足を掻き毟った。
「え、ていうかここって・・・林?」
意識がまだ朦朧としている山里は、状況を把握しようと辺りを見回す。
傍らに睡眠薬の瓶が転がっている。山里はようやく思い出した。
「ああそうか・・・死んじゃったんだ」
瓶をデイパックにしまいながらまた足を掻く。
「死んだっていうか・・・夢の続き、みたいな」
けだるい身体を圧して、山里は立ち上がった。
(俺は死んだのかな?それとも夢見てて、死んだ俺はまた別にいるのかな?)
1人でいるのに飽きた山里は当ても無く歩き出す。
足取りは不安定だったが、それはけだるさから来るもので恐怖ではない。自分を死人だと思っている山里にはもう恐怖はないからだ。
眠気が段々覚めてきた後、ふと尿意を覚えた。用を足しながら、山里は考える。
(これが夢だったら俺寝小便してんのかな?いや、死んだ人間が小便なんてしないか・・・)
何十分か歩いた後、ようやく林を抜けた。そこにはある建物が見えた。


296 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:35:55

「学校・・・?」
せっかく忘れていた事を思い出させられて、山里は顔をしかめた。
(死んで償ったんだから、何も今思い出させなくったって・・・)
だが、学校に立つ兵士の姿を見て人恋しくなったのも事実で、山里は自分でも気付かない内に学校に向かっていた。
兵士は自分達とはあきらかに違う服装の男を睨みつける。
5メートル程の距離まで迫った時、兵士は銃を構えた。
「何だお前は!ここは立ち入り禁止だ!」
「うわ怖っ・・・何で死んだ後もあんたらみたいなのに偉そうにされなきゃいけないんだよ・・・」
「何だと!?」
「まぁいいや。僕どっち行ったら・・・」
山里が喋っている途中だが、兵士はお構い無しにライフルを撃った。山里の態度が癇に障ったのだ。
「あひぃいいぃい!?」
警告の意味で撃ったので山里は怪我ひとつ負わなかったが、初めての銃声の衝撃に震えた。
「もう1度言う。ここは立ち入り禁止だ」
「わっ、わかりましたぁああ!!」
山里は全力で兵士から逃げた。
(何だよ・・・何で撃ってくるんだよ!これじゃまるで、まだプログラムが進んでるみたいじゃないか!)
再び林に戻り、兵士が追いかけてこない事を知っていながらも、銃弾に怯え逃げ惑う。
四方を見ながら逃げていた山里は、後ろを振り返ってすぐ前方の何かにぶつかった。
木だろうと思ったが、それにしては頼りなさすぎた。


297 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:36:56
「いったぁ・・・」
「痛てて・・・すっ、すいません・・・」
「・・・山里!?」
よく知っている低音の声が響いた。
「川島さん?」
「山ちゃんやん!元気やったぁ!?」
「ほ、本坊さんも!?」
山里がぶつかった相手は本坊だった。どうりで木にしては軽すぎる。
「えらい急いでたみたいやけど、どうしたん?」
「いや、さっき学校行ってたんですけど・・・ひどいんですよ!あいつら、僕なんにもしてないのに撃ってきやがって!」
「ああ、あいつら暴力的やもんね。災難やったね、山ちゃん」
「わかってくれます?本坊さん!」
川島は2人の光景を異様なものとして見ていた。
「山里・・・お前学校で何あったか知らんのか?」
「え・・・何かあったんですか?」
「結構色々あったんよ。今まで何してたん?」
本坊も不思議そうにそう尋ねた。
「あの、その・・・僕、睡眠薬飲んだんです」
「睡眠薬・・・やから、知らんかったんか」
「でも、おかしいんですよ!僕手の平いっぱいに飲んだから、死んでる筈なのに・・・
 蚊に刺されるし、小便はしたいし、撃たれるし!教えて下さい、僕死んでるんですか?そうじゃないんですか!?」
山里は取り乱して喚いた。川島の疑問は解消されたが、山里の疑問の答え方を川島は知らない。
「山ちゃん、ちょっとそこで止まってて」
「え、ああ、こうですか?」
山里は直立の体勢で固まった。
「そう、そのまま動かんとってね。あ、川島は僕とこっちね」
本坊は川島のシャツを引っ張って、山里から徐々に下がっていった。
何をするつもりなのかと山里と川島は思ったが、黙って本坊の指示通りにした。
「よし、ここ!川島、スタートお願い!」
「スタート?」
「よーい、ドン!って言ってくれたらいいから」
「・・・よーい、ドン」

298 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:37:58
本坊は全力で山里の方へ走った。
「えぇ、何!?」
怯えて逃げようとした山里に、本坊は走りながら注意する。
「動いたらあかん!」
「そ、そんな事言ったって・・・」
言い終わらないうちに本坊はジャンプして、山里のみぞおちに飛び蹴りを喰らわせていた。
「ぅおええぇっ!」
「山里!!」
蹴られた山里は思いっきり木に激突して、みぞおちと頭を抑えてうずくまった。
対する本坊はというと、自身も着地に失敗して背中を強打していた。
「何してんねん本坊!」
本坊を起き上がらせて、川島は問う。
「痛かったら生きてる。痛くなかったら死んでへん。山ちゃん、どう?痛かった?」
「凄く・・・痛いです・・・」
「やったぁ、山ちゃん!生きててよかったね〜!!」
「先に山里に謝れ!」
「あ、ごめんね。でもあれだけ必死やったから、俺も全力で相手せなあかんと思って」
激痛に耐えている山里は、本坊の言うとおり自分は生きているのだと思った。
死んでいるなら自分の感覚はリアルに痛みを伝えすぎだと思う。確かに自分はどMだが・・・

少々説明文になってしまうが、山里が生存している理由を述べておく。
「一気飲みすれば死ぬ」という睡眠薬は現在使用されている睡眠薬では不可能だ。
それが出来るのは60年代まで主流であったバルビツール系の睡眠薬で出来る事で、
現在主流のベンゾジアゼピン系等の睡眠薬は、極端な話100錠飲んでも死ねない。
もちろんアルコールと併用すれば死の危険もあるし、死なないまでも物によって依存性がある。
今回の山里の支給品のブロチゾラム(レンドルミン)は不眠症患者に処方する睡眠薬の中でも
最も初心者向けの効果の薄い物だった為、それが顕著にあらわれたという事である。


299 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/21(土) 14:41:05
「山ちゃん、学校ってどっちやった?」
「え、多分あっちの方ですけど・・・」
山里は自分が走ってきた方向を指差した。
「あっちかぁ。ありがと、ほなね。行こう、川島」
「ちょっと、待って下さいよ!」
あっさり別れを告げる本坊に、山里は叫んだ。
「1人になんの嫌なんですよ・・・お願いです、僕も連れてって下さい」
少し考えて川島は本坊に言った。
「本坊、山里連れてったらどうや?別にええやろ?」
「川島さん!」
「あかん。今から俺ら学校行くんやもん。もっかい山ちゃん連れてくなんてかわいそうやん」
「それは、そうやけど・・・」
「え・・・何だってあんなとこ自分から行くんですか!?」
山里は大声を出し過ぎて蹴られた腹が痛かった。
「今はまだ秘密。・・・それに、下手したら死ぬかもしれへん。山ちゃん、それでも行きたい?」
「・・・行きたく、ないです」
ね?と本坊は川島に自分の言ったとおりになったと得意気に笑った。
「そうや、山ちゃん。ええもんあげるわ」
本坊はごそごそとデイパックを探って、自分の支給品のコスメセットを渡した。
「何です、これ?」
「僕の支給品。必要ないから、しずちゃんに会ったらあげて」
「何で僕にくれるんですか?本坊さんが誰か他の女の人に・・・」
「あげたけど断られてん。それに、しずちゃんにこれあげたらちょっとは山ちゃんの事見直すかもしれへんよ」
コスメセットを渡した後、本坊と川島はさっさと行ってしまった。
1度だけ川島が振り返ったが、その顔は自分に助けを求めているように見えた。
(川島さん・・・?何で?)

再び、1人になった山里はぼそっと呟いた。
「死ぬつもりだったのに・・・何怖がってんだ、俺?」

300 :名無し草:2007/07/21(土) 14:48:26
【南海キャンディーズ 山里亮太
所持品:睡眠薬・コンビニコスメセット
第一行動方針:誰か頼りになりそうな人の仲間にしてもらう
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:不明 
【ソラシド 本坊 元児
所持品:
基本行動方針:水口を捜す
第一行動方針:学校へ向かってみる
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】
【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:自分の精神を保つ
第一行動方針:上に同じ
第二行動方針:上に同じ
最終行動方針:上に同じ】 

【現在位置:H-6】
【8/17 05:10】
【投下番号:222】

>>272
ちょっと策士な菅が素敵。須知がどう転ぶのかも気になります。
>>277
井戸田が悲劇に引きずり込まれそうでwktk
「同情するなら〜」の台詞でタイトルがテーマソングのドラマを思い出してしまった。いい演出。
>>285
キャラがこんだけ多くて、しかも独白なのに書き分け出来てるのが凄い。今回の増田もいいキャラですね。

301 :名無し草:2007/07/21(土) 16:10:30
>>300
新作乙です!
本坊ヒドスwww
生死に関わる話なのに思わず笑ってしまった。
山ちゃんの展開に期待!

302 :名無し草:2007/07/21(土) 16:45:09
投下乙

303 :名無し草:2007/07/21(土) 17:05:06
>>300
乙です!
山里の、腹を括れない感じが妙にリアルだなw

304 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:19:18
はじめまして。
アンガールズ田中編いきます。


『絆―今、俺たちにできること―』


ジジジジジジジジジジジジジジジ……


蝉の声が鳴り響いている。
人間よりもはるかに短い命を振り絞るかのように湧き出てくるその声は、真夏の太陽が放つ灼熱の光と相まって不快感を煽り立てる。
しかしそれはこの学校という名の要塞の中では些細な事だった。
そこでは、一人の男による何よりも忌まわしき宣告が行われていたから。
それはまさに地獄への召集令状。
宣告を受けたら最後、待ち受けているのは幾多にもなる殺戮者と屍が跋扈する戦場。
今も尚、呪わしき戦場に哀れなる芸人達が不変のリズムで一人、そしてまた一人と引きずり込まれている。


そんな中、忌むべきこの状況を無視するかのように会話を続けている二人の男がいた。
彼らの名前は田中卓志と山根良顕。その独特な肉体と芸風を武器にして人気を掴んだ男達である。

「ギリギリよりもスコスコでいたいから〜♪
 ギンギラギンに笑うタピオカ〜Ah〜〜♪
 ヴィーナスよりもメキョメキョに燃えるはず〜♪
 セロリをかじる きみはナマコさ〜♪」

彼らは歌っていた。もちろんあくまで兵士達の耳に障らない程度に声を抑えてだが。
まるでどこぞのアイドルグループのCDを繋ぎ合せた様な曲調に加え意味不明な歌詞。
知らない者がこれを聴いたら彼らが発狂してしまったと思うかもしれない。
だが、この歌はこれでも一応ある子供向け番組における彼らのテーマ曲なのである。
このゲームが開始された2006年8月15日。その『ある子供向け番組』に、彼らは出演するはずだった。

305 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:21:40
「……それにしてもさ、俺らがいなくなっちゃって大丈夫かなー。おはスタのスタッフの人達」

不意に歌うのをやめて山根が呟く。
ポーカーフェイスの持ち主ゆえか、口調の割にはそれほど気にしてないような素振りをしている。

「……まあ何とかなるでしょ。たけしさん達だって断りぐらい入れてから開催してるだろうし。山ちゃんとか大変だとは思うけどね〜」

顎に手をやりながら田中が返答する。
いきなり連れて来られただけに、この日まだ手入れしてなかった無精ひげが気になるらしい。

「山ちゃんか……そういえばさ、もし俺らの代わりにあの人達がバトルロワイヤルに参加してたらどうなってたんだろうねー」
「はぁ〜? なんでそんな事思いつくの〜? いくらなんでも失礼でしょ〜」
「いや、何か山ちゃんならこういうのでもカッコよく活躍しそうな気がするんだよね。あの人の演じるキャラカッコいいのが多いし……」
「ちょっ、そりゃ山ちゃんが声を当てるキャラならこんな状況でもすごい活躍しそうだけど……
 さすがに山ちゃん本人だときついでしょ〜」

いつものツッコミ通りの口調で田中は答える。
周りにはさまざまな芸人がいた。相談する者。絶望している者。決意を固める者。
しかしそんな中、彼らはずっと語り続けていた。
お互いに顔をつき合わせ、ただひたすら語り続けていた。
あたかも何かから逃れようとするかのように。

「そうか……それならカープの選手とかならどうだろうね……新井や前田さんとか」
「いや、だからそれ不謹慎でしょ〜」
「新井は絶対人殺しを避けるタイプだろうね。新井が人を殺す姿なんて絶対想像付かないもん」
「そ、そういわれると確かにそうだね。新井って人の良さそうな顔してるもんね〜」
「あと俺が思うにさ、倉さんなんか絶対殺し合いに乗るタイプだと思うね」
「ちょっ、お前まだあの時の事根に持ってるのかよ!? あれは別に倉さんのせいじゃないだろ!」

田中は一年前に地元の番組でやった企画を思い出す。
彼ら二人が2005年プロ野球シーズン最終戦までに広島東洋カープの開幕戦ベンチ入り選手全員のサインを集める事が出来れば、彼らの憧れである広島市民球場でのカープ戦の始球式の権利を得る事が出来るというものだった。

306 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:23:33
権利を得るため彼ら二人は必死に頑張った。しかし現実は非情であった。
結局彼らは倉義和選手のサインだけをどうしても見つけることが出来ず、念願の始球式のマウンドに立つことは出来なかったのである。

「倉さんのサインだけ見つからなかったってことはあの人がサインもろくに書かないくらい冷たい人ってことだろ。
 あんな冷たい人は人殺しぐらい平気に決まってるさ」
「無茶苦茶言うなよお〜。倉さんだって一緒にジャンガジャンガやってくれたじゃん。優しい人だよ倉さんは」
「あーもううるさいって! ほんとあの人のサインさえ見つかってれば俺もあのマウンドで投げれたのになあ……
 ずるいよ田中さんだけ……」

恨みがましそうな口調で山根が突っかかる。
結局その後別の企画により田中だけマウンドで投げる権利を得て、今年の四月についに始球式が出来たのだった。
山根もまた別の企画でリベンジの機会を得、あと少しで権利を得る事が出来るはずのところまで来ていた。
もう少しで夢が叶う。ちょうどそんなタイミングで参加させられる羽目になったのがバトルロワイヤル。
山根が倉選手にやつ当たりするのももっともな事かなと田中は思った。
落ち込みかけている山根の気を紛らわすため、田中は別の話題を振ろうとする。

「あ〜もう分かったから。ところでさ……」


ある時から今まで、彼らはずっと語り続けていた。
出会った頃の思い出話。家族の話。今月下旬に行われるはずだった24時間テレビでのマラソンの話。
その様子は彼らが行うトークライブと何ら変わりがなく。
他の芸人達が降りかかってきた災難に尚も右往左往する中、彼らは与えられた待ち時間というモラトリアムをゆったりと過ごす。
彼らが名前を呼ばれるその時まで、二人を包む空間はあくまでマイペースに展開されてゆく。

だが、そんなまったりとした時間も無事に過ごせるとは限らない。
語らいに集中しようとしている二人は気づかなかった。教室後方から聞こえてくる騒がしい足音に。
平穏は、乱される。

「うわっ!?」
「!?」


307 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:25:22
ドカッという音とともに田中は何かに突き飛ばされた。
鉛筆のように長く貧弱な体はあえなく吹っ飛び、山根に覆いかぶさるようにして倒れる。
慌てて田中が振り向くと、そこには整った顔立ちをした男が焦ったような表情で立ち止まっていた。

「ちょっとぉ〜、何するん」
「す、すいません! ちょっと急いでいたもので!」

田中の文句を遮るかのように、その男、流れ星の瀧上伸一郎は素直に謝る。
ちらちらと教卓の方に目をやりつつ頭を下げる瀧上。どうやら出発の時間になったため急いで教室を出ようとしていたようだ。
焦燥に駆られるその姿を見て田中は少しだけ彼に同情する。

「あ、別にいいですよ。俺らだって怪我したわけじゃないし」
「ほんっとすいませんでした! それではどうかご無事で!」

そう言い残すと瀧上は再びデイパックを受け取るべく駆け出していった。
その姿を見送りため息をつく田中。
その時、起き上がってきた山根が不意にあることに気づいた。

「あれ? 田中さん、その血どうしたの?」
「えっ? 血って一体……」

そこまで言った時、田中は気づいた。自身の左手がどす黒い血で汚れている事に。
何で血が? 怪我をした感触はなかったはずだ。そう思った田中は辺りを見回す。
答えはすぐに見つかった。


田中の視線の先、山根の座っているすぐ隣には、既に魂を失った先輩が数時間前と変わらぬ無残な姿で横たわっていた。


二人の間に沈黙が走る。
田中の脳裏に数時間前の悪夢が蘇る。
思い出したくもない光景。みんなの代わりに質問してくれた先輩、いつもここからの山田一成があっさりと床に崩れる姿。

308 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:26:52
田中は目の前の光景が信じられなかった。
なぜこんな不条理な事が起こりえるのか。
なぜ自分達は彼を助ける事が出来なかったのか。
ぶつけようのない憎しみと悲しみが復活し、田中は大きく顔を歪ませる。

「…………菊地さん大丈夫かなあ……山田さんがこんな事になっちゃったし……」

山田の相方の菊地秀規のことを思い出し、ぽつりと山根が呟く。
山田が凶弾に倒れてからというものの、田中と山根の二人は呆然とする菊地を心配し、あらゆる手段を用いて彼の心を開こうと努めた。
が、深海の底よりも深い絶望に包まれたかのような菊地は、結局彼自身の名が呼ばれるまで二人の慰めに耳を貸す素振りさえ見せなかったのであった。

「……俺らが話しかけても反応が無かったもんなあ……早まったことしてなきゃいいけどなあ……」

不可思議な臭いを発し始めつつある先輩を見て、絞り出すようにして田中も呟く。
山根も物憂そうに眉を寄せ顔を伏せた。
二人の間に、言い知れない悲しみと深い虚しさが広がっていく。
二人の周りの空間は、沈黙に支配された。

まるで呆けてしまった老人のように虚ろだった菊地の顔を田中は思い出す。
一緒に飲みに行ったり、わざわざたこ焼き食いに行ったりもした。
ドラマーのネタを一緒に編み出したりもした。
そういえば竹山さんも加えて一緒にCDまで出したんだった。
あん時は俺と山田さんがギターをやったんだったよな。
柄にも無くみんなでクールに決めて、結構冷やかされたっけ。いい思い出だった。
そんなこんなの四人の絆の成れの果てが、あの断絶なのだろうか。
今までの思い出は全て洗い流されてしまって、もう戻ってくることは無いのだろうか。
菊地さんはもう、救われることは無いのだろうか。
彼の心中を推し量ると、心臓を握り潰されているかのような悪寒が込み上がって来る。

失せ物に思いを馳せてもロクな事にならないものだ。
菊地が去った後、田中は山根に彼ら親友とはあまり関係の無い話題を振った。

309 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:28:14
田中は進んで喋った。ひたすら喋った。努めて山田と菊地のことを頭から消し去ろうとした。
親友である山田と菊地を思いやることを放棄することに、多少の後ろめたさは感じる。
でも、もう、これ以上胸の潰れるような思いはしたくなかったから。
最後の最後くらい、せめて晴れた気持ちで山根と別れたかったから。
さっきまではうまくいっていた。やっと手に入れる事が出来た二人だけの時間。つかの間の最後の幸せを享受していた。
なのに、瀧上に突き飛ばされ、血だまりの中に左手を突っ込んだ瞬間。
亡霊が、蘇ってしまった。

俯いた山根を横目で見て、田中は右手で髪の毛を掻き毟る。
学校を出たらもう二人が合流する事はないであろう。
二人の思い出で最後に有終の美を飾りたかったのに。
最後にもう一度、山根の笑顔が見たかったのに。
田中と瀧上の番号はかなり近い。瀧上が先程出て行ったという事は、田中が出て行くのももうすぐだという事だ。
もう、時間がない!

身も凍るような沈黙の後、ふと横を見ると、いつの間にか山根がこちらを向いていた。
じっとこちらを覗いてくる山根の視線に、恨みがましささえ感じたような気がし、目を伏せる。
一呼吸置いてから、何の用なのとばかり田中も山根の方を向き直ったその時、

突然山根がボディブローを打ってきた。

「ぐっ…………い、いきなり何すんだよ山根〜?」

まさかの不意打ちに思わず篭った呻き声を上げる田中。
確かにショートコントではこんな様なシチュエーションもあった。だが、何故こんな時にこんな事をされるのか。
いくらなんでもこんな時に俺の腹筋を試そうとしたわけじゃないよな。
困惑する田中に対し、山根は事も無げに答える。

「ほら、あるでしょ。野球でバッテリーがやったりするようなさ、お互いの健闘をたたえあうってやつ」

ああ、そういうわけか。田中は納得……できるわけが無い。


310 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:29:46
「……って違うでしょ〜! そうじゃなくて、互いの拳をコツンと合わせるってやつでしょ〜が〜。
 なにボクサーばりの強打かましてくれてんの〜殴り合いやってちゃ別れる前からお互いグロッキーだよ〜」
「ああ、そうだった、そうだった。ゴメン」
「そうだったじゃないでしょ〜が〜、ゴメンで済んだら警察いらないよ〜」

まるで悪びれてない様子の山根の態度に、人差し指を立てた右手を振って抗議する。
一気に力が抜けていくのが分かった。

「ったくグダグダじゃんかよ〜こんな時までコントみたいな事やってどうすんだよ俺ら〜」

何故最後の最後までコントの真似事をやる羽目になるのか。情けない思いに田中は囚われ――

「いいじゃん、俺ららしくてさ」

時が止まった、様な気がした。
田中は思わず山根の顔を見返す。
山根の顔にはいつの間にか穏やかな笑みが湛えられていて。
その顔はあたかも全てお見通しだよと語っているようで。
田中は、自分もまた声を立てて笑い出したい衝動に駆られた。

そうか、そうだったんだ。
おかしさがこみ上げてきた。
山根が顔を伏せ眉を寄せたのを見て、アイツもまた山田と菊池のことを思い出し、絶望しているのだと勝手に決め付けていた。
だが、違った。
考えてたんだ。俺を励ます方法を。
元々俺は山根と違って表情を保つのが苦手だ。
悲しみにとらわれていた俺は歪んだ泣き顔を周りに披露していた。
もちろん、山根にも。
山根は、拳を合わせることぐらい、本当は知っていたに違いない。
あのパンチは、くよくよ悩む自分への叱責、そして激励。
そして、作り上げた。即席のショートコントを。
あちゃ〜、何てこった。ネタ作りは俺の仕事だというのに、お株を奪われてしまった。

311 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:31:44
だが悔しさはこみ上げてこない。
山根の想いが、十分すぎるほど伝わってきたから。

「はは、まったくだよね」

このグダグダぶりが自分達の芸風ってのは正直少し情けないような気がするがまあいい。
最後の最後で山根と笑い合うことが出来た。
それは正しく、二人の絆の証明。
田中にとってはそれだけで十分だった。

(ありがとな、山根)


「140番、田中卓志」

そうこうしてたらついに名前を呼ばれた。
爽やかな気分に満たされた田中はゆっくりと立ち上がろうとする。
しかし、何かに半袖のシャツが引っ張られるような感触を受け、思わず田中は引っ張る物を見る。
視線の先にあったのは、長年のパートナー。

「あっそうそう、田中さん、言い忘れてたけど、今までありがとう」

その瞬間、田中は体内で電流が流れたかのような感慨が起きた。

ありがとう。それは五文字の単純な響き。
なのに、どうしてか、これほどまでにその言葉を受け入れられたことは今までに無かったのではないか。

(山根、お前何かカッコよすぎるよ……)
「お、俺の方こそ、今までありがとうな」
「おい!早くしろ!」

照れながらも田中が山根に感謝の気持ちを返すと同時に兵士の怒声が響く。

312 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:33:07
(なんだよ〜折角いいシーンだったのにさ〜水差すなよ〜)

心中で勝手な文句を言いつつ、今度こそ右手をお互いこつんっと合わせてから、田中は慌てて出口へ向かっていった。

教室を出るとき、うっかり頭を仕切りにぶつけてしまった。
長い背丈ゆえの失態。教室の空気に一瞬脱力感が広がる。
廊下に出た田中は、人口密度が極端に減った空間の空気を吸い、爽快感を味わう。
蝉の合唱に包まれながら一歩一歩出口へ向かう中、田中はふとあることを思い出した。

「そういえば、俺これからどうしようかな」

よく考えたら、今まで、菊地を心配したり、山根と思い出を語り合ったりしてただけで、
二時間以上待ち時間があったにも拘らずここを出たらどう動くかについて全く考えていなかったのだ。
さて、どうしようか。
山根と別れた今、俺にできることはいったい何なのか?
自殺するか。
どこかに隠れてるか。
誰かと合流するか。
それとも、誰かを殺すか。

「……まいっか、歩きながらじっくり考えよっと。何もすぐに決めることは無いや」

結局、いかにもマイペースな彼らしい結論に帰着した。
待ち時間で山根と十分に話せたおかげで、生への執着が薄くなったせいもあるのかもしれない。
いずれにせよ、彼はよい意味で余裕を持つことが出来たのだ。
これも二人の絆による賜物なのだろうか。
出口が、見えてきた。


田中はまだ知らない。
出口の先には、二時間以上前の悲劇をさらに上回るかもしれない不条理の海が、
手ぐすねを引いて田中を待ち受けているということを――

313 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/21(土) 22:36:28
【アンガールズ 田中卓志
所持品:不明
第一行動方針:これからどうするか決める
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明】

【現在位置:学校の廊下】  
【8/15 14:20】
【投下番号:223】

今回は以上です。
だいぶ遅くなりましたが、 ◆1ugJis83q2さん、山根の使用を許可して頂いて有難うございました!

>>300
新作乙です!
ちょw山里ずっと寝てたのかよww
よくマーダーに見つからないですんだなw

314 :名無し草:2007/07/21(土) 22:50:37
>>300
新作乙です!山ちゃん…どうしょうもねーなw

>>313
初投下乙!これからの田中が気になります。
ゆるい感じが良かったです。

315 :名無し草:2007/07/22(日) 08:29:58
投下乙

316 :名無し草:2007/07/22(日) 17:23:46
土肥ポンタの話、誰か書いてる?

317 :名無し草:2007/07/22(日) 19:15:37
したらば、まとめへどーぞ

318 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/22(日) 23:44:54
Vol.4 >>312-322(投下番号166)続き トップリード和賀

 飄々と告げられた放送は、神経を逆撫でするには十分な響きを持っていた。雲の上に
いるような芸人に混じって、よく知った名前が呼ばれてしまった。神様がどうのとか、
異常なことも言っていたけれどどうでもいい。端から見れば重要なキーワードであろう
とも、和賀にとって優先すべき事項は一つである。
 どこに吐き出しても収まりそうにない怒りがあった。もはや怒りですらなかったのか
もしれない。指先から腕、足先から下半身、心臓が何もかもを拒否しているような感覚
があった。拳銃だけは強く握りしめている。
 もはや和賀に残された道は一つしかなく、右手にある武器がそれを果たしてくれるも
のであることも明らかであった。止められるような理性はすでにない。ある意味幸せな
のかもしれないが、和賀に気づけるはずもない。
「ふざけんな」
 頭を木に打ち付ける。
 あのとき足を撃ってでも止めていれば良かった。例え泣き叫ばれても無理矢理引きずっ
ていれば免れられた状況だ。運命が最悪の道しるべに従って歩いている。何よりも憎む
べきは。
 木に頭をこすりつけたまま崩れ落ちた。青臭い雑草の臭いが嫌に鼻について、また体
中を感覚が駆けめぐった。かき消すため、普段は使わないような暴言を喚き散らす。木
に反響して耳に返ってきて、それですら消すために喉を枯らす。


319 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/22(日) 23:46:46
 猫が自らの尾を追いかけているような。木霊に対して永遠に返事をし続けるような。
端から狂人に例えられても仕方がない場面を作り続けていく。けれど和賀は決して狂っ
ていないのだ。怒りに身を任せて我を忘れるのは酷く人間らしい状態である。
「ちくしょう」
 掠れて呟いた。合図にして好ましくないループは終わった。木の根に生えた雑草が和
賀の涙を受け止めている。草は生きるために水を吸っているに過ぎない。
「俺が」
 止めていればこうならなかった。元凶を先に殺していれば。二人を遭遇させなければ。
無理にでも引きずれば。制御していれば。もっと話していれば。引き離していれば。銃
を渡していれば。せめて一緒にいたならば。
 嫌な感覚が頭に収縮されていく。到達する前に立ち上がる、また頭を木に打ち付ける、
口から音を吐き出した。言葉にすらなっておらず意味は持たない。木に食い込ませた爪
は、切りすぎていなければ剥がれていたかもしれない。
 体全体を引きはがして右足を上げる。
 数秒後には蹴り飛ばしてるはずだった。けれど鈍い音は追加されない。深く続いた森
の先に、風景に溶け込まない色が追加されていたからだ。荒れる息を隠そうともしない
和賀は、顔は地面に向けて目だけで相手を睨み付けた。
 知ってはいるし面識はある。けれど和賀の怒りを宥めるには不十分である。相手であ
る濱口もそれを知っているらしく、太い眉を寄せているだけで何も言ってこない。話し
たそうにしているが悩んでいるようにも見える。
 数秒間は同じ状況が続いた。和賀の呼吸は整っていく。どんなに怒り狂っていようと
も無関係の人は殺せない。無意識で良く分かっていた。狂っていない証拠でもあったの
に。

320 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/22(日) 23:48:34
 濱口は何か壊れたものを見たように後ずさる。様子を見た和賀は急に浮かんできた自
分自身の姿を思い出す。運命を変えられたあのとき、その相手に対して取った和賀自身
の行動と同じだった。だから目を見開いて固まった。
 一瞬の違和感は濱口に取ってのスターターになったらしい。開きかけていた口を閉じ
て、刹那よりも早く森へ消えていく。何故か見捨てられたような、不合格になったよう
な、奇妙な空気がある。選ばれなかった、ということは第六感だけで理解できた。
 無差別な怒りを遮られて喪失感だけが残されてしまった。頭に集まってきていた感覚
が、今度は流れるようにして地面に溶け出していた。額から流れた血液は実際に落ちて
いた。
 蝉が鳴いている。
 相方は死んだのだ。



【トップリード 和賀勇介】
所持品:スタームルガー・レッドホーク(5/6)
状態:額・指先に少量の傷、喪失感
第一行動方針:するべきことをする
基本行動方針:するべきことをする
最終行動方針:なし
【よゐこ 濱口優】
所持品:不明
状態:良好
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明
【現在位置:E5・森】
【8/16 06:15】
【投下番号:224】

321 :名無し草:2007/07/23(月) 00:47:12
>>320
乙!和賀これからどうするんだろう…

322 :名無し草:2007/07/23(月) 01:06:00
>>320
久しぶりにキター!乙です。
濱口が気になります!

323 :名無し草:2007/07/23(月) 06:41:13
>>320
ネ申

324 :名無し草:2007/07/24(火) 09:13:44
>>320
ネ申 濱口…

325 :名無し草:2007/07/24(火) 19:17:25
パスがわかりません

326 :名無し草:2007/07/24(火) 23:55:32
>>292−300
投下乙です!今後とも楽しみにしております。
ところでちょと気になったんですが

>>「痛かったら生きてる。痛くなかったら死んでへん。山ちゃん、どう?痛かった?」

↑これでは同じ意味では??それともこれも含めて本坊だということ?


327 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/25(水) 01:43:02
>>326
・・・いえ、単なる間違いです。ご指摘ありがとうございます、お恥ずかしい限りです。
まとめサイトのは訂正しておきました。

328 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/25(水) 02:46:45
>>248-254 の続き

『「江戸むらさきの」 「ショートコント」』


靴の裏から伝わる感覚が、ハイキングコースの土の柔らかさからアスファルトの硬さに変わり、赤岡達はようやく
自分達が山頂の展望台に到着したと悟る。
日中なら見晴らしの良さそうな奥に歩を進め、早速背もたれが大幅に欠けたプラスティック製の安っぽいベンチを見つけると、
どさりと倒れ込むように腰を下ろした赤岡は、そのまま膝あるいは太股の中程辺りから下が大幅にベンチからあぶれるのも
我慢の上で寝そべりたくなるのを何とか堪えつつ周囲を見渡し、少し考えて。
「さすがにみんなで一斉に寝る愚は避けたいから、見張りを立てようと思うんだけど、良いかな?」
そう、残りの二人を見上げて口を開いた。


そして数十分後。
野村は展望台の隅に存在するトイレにも似た小さな建物…多分本来なら展望台を清掃する際の用具等々が
収められていたのだろうコンクリート造りのそれの裏手で、一人膝を抱えて目の前の闇とその向こうを眺めていた。
ハイキングコースを歩いていた時と違い、見晴らしを確保するためか周囲に木々がないために
湿気のある風が吹き抜けてきて僅かばかり心地よいが、彼の気分を晴らすまでには至らない。

赤岡が提示した案は、赤岡と島田がハイキングコースから展望台に向かうルートを監視できる位置で交替に見張り、
野村が赤岡達の場所からは死角になるこの建物の裏で見張るというモノだった。
とはいえ、野村の目の前はすぐ斜面になっており、野生の動物でも通るかどうかという道なき道であり、
それを赤岡に告げた所、「あまりに人が来なさそうなら戻ってきても良いよ」という何ともいい加減な返事があった訳だけれども。
野村はじっと遠くにぼんやりと浮かび上がる学校の明かりを眺め続け、その視界の中で明かりがぐにゃりと歪み、
徐々にぼやけていくのを感じていた。
「……磯山。」
目元が蒸し暑い外気にも負けないぐらいの熱を帯びていくのも認識しながら、声を殺すように野村は呟く。

329 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/25(水) 02:49:29
胃が締め付けられるような不快感は既にずっと続いている。
しかし、相方が、昔なじみのツレが死んだという実感はまだ野村にはなかった。
けれども、彼の名は先ほどの放送で呼ばれており、その死が事実の一つとされてしまったために、
悲しいとも悔しいとも違う何とも言えない喪失感が、野村の周囲を取りまいていて。
いつ頃に死んでしまったのだろうか。どんな死因だったのだろうか。
知った所でどうする事も出来ない疑問が野村の脳裏に浮かび上がってくるのをどうしても止められない。
その時自分は一体何をしていたのだろう。あいつが苦しんでいる時に、ケタケタ笑っちゃいなかっただろうか。
そんな己の思考を嫌悪するように僅かに眉間に力が入った拍子に、野村の両眼に溜まっていた液体は
目から押し出されて頬を伝った。

「………っ!」
皮膚から伝わる感触に、一瞬野村の身体はビクリと震える。
号泣の二人の目の前で取り乱したり泣いたりするのは二人に気を遣わせてしまうし、何より格好悪い…そんな発想から
野村は無理矢理平然を装い、ここまで時に笑わせようとしたり笑って見せたりもしてきたけれど。
その努力がここにきて無駄になったのでは、という恐れに俄に野村の思考はとりつかれる。
しかし二人は今、野村の背後の建物の向こうのベンチにいて、己の様子にはまず気付かない…その事を思い出した瞬間、
野村の眼から再び涙がこぼれ落ちた。

――あぁ、そういう事か。

この時、野村はようやく何故赤岡が監視する必要もなさそうな場所の見張りを彼に託したかを理解した。
赤岡達の死角を見張るという事は、赤岡達の死角に入るという事。
つまりは、僕らはあっちを向いてますから思う存分向こうで泣いてきてください…そう言われたも同然だったのだ。
ただ、そうストレートに口にしてしまうと野村も反発してしまう為、見張りという形で促されただけの話。
「……赤岡のクセに、生意気だぞ。」
どことなく笑顔に似た歪んだ表情でそう小さく呟いたのを最後に、野村はがくんと頭を下げた。
虚勢を張る必要が無くなった事で、その薄い肩が嗚咽により小刻みに震えだす。

330 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/25(水) 02:53:20


なぁ良司。
俺達、こんな所で終わっちまうのかよ。
2004年に学園祭キングになって、それ絡みの取材受けたり親父達のやってるラーメン屋が紹介されたりしてさ。
このまま行けるんじゃねと思ったけど、結局注目は長続きしないですぐ消えて。たったそれだけで江戸むらさきは終わっちまうのかよ。
もう一度底力見せてやろうぜとか、ショートコントの使い手としてあの双子にはぜってー負けねーぞとか。
そんな事喋ってたの、全部無駄になっちまったのかよ。

なぁ良司。
それにオレ一体どうしたら良いんだよ。
『江戸むらさきの』ってお前が言ってくれなきゃオレだって『ショートコント』って続けられねーし、
お前がネタのタイトルを言ってくれなきゃオレ、次はどんな動きをすればいいのかわかんねーんだぞ。

なぁ……聞いてるのかよ。なぁ?





「ようやく…素直になったみたいだね。」
微かに聞こえてくる咽び泣く音に、島田は展望台のベンチの側の地面に腰を下ろしたまま
音のする方角…の建物をちらっと見やって安堵したように息を付いた。
格好付けしぃの割にはビビリで涙もろい、そんな彼がここまで磯山の事で動揺を見せずにいるには
よほど精神的に無理をしたに違いないから。
もっとも、そう口にする島田自身も磯山の死に対する動揺がない訳ではないし、何より先ほど菊地と遭遇した場所が
目と鼻の先という事もあって、その声は明らかにうわずってはいたけれど。
「ちょうど良い遮蔽物があって助かったよ。」
島田の隣のベンチに仰向けに寝そべり、星空を見上げながら赤岡は小声で島田に答える。

331 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/25(水) 02:55:11
街の外れで再会してから野村と行動を共にする事で、森の中の罠の件をはじめとして彼に助けられた事は多々あった。
お陰で何とか島田とも合流できた。
けれども、逆に考えればそのせいで自分達が野村が磯山と出会うチャンスを潰してしまったのかも知れない訳で。
今となっては結果論でしかないのだけれども、そう思えばとにかくお礼とお詫びの意を込めて野村に対し
何かできる事はないだろうか、そんな考えが頭をちらつくようになってしまって。
ハイキングコースをふらつく足で登りながら、当の野村に悟られないようコソコソと島田と相談していたのが
先ほどまでの事だったが、どうやら無駄な企みに終わらずに済んだようだ。

「しかし……」
東京の空とは比べ物にならないほどの満天の夜空…とはいえ幼い頃に見上げた長野の空よりは幾分星々も疎らで
光も弱い気もするが…をぼんやりと眩暈のせいか緩やかに揺れる視界に入れつつ、赤岡はぽつりと呟いた。
「問題はこれからどうするか、なんだよな。」
「…だね。」
元来、赤岡も島田も積極的にリーダーシップをとり、物事を進めていこうとするタイプではない。
しかしこの状況で周りに流される事がどれだけ危険かを身をもって体験した今、次の一手は自分達の意思で
慎重に決めねばならない事だろう。
「何か、これだけはやっておきたいって事、あるか?」
しばしの沈黙の後、死ぬ前にという言葉を意識的に押さえ込んだまま、赤岡はそう島田に問うた。
「僕には一つ、やりたい事ができた。その為にお前の助けを借りたいんだけど、手伝ってくれる?」
「まぁ、今のところは特にないし…手伝うのは構わないけど、内容にもよるよ?」
「…そんなに難しい事じゃないよ。それに、今すぐでなくても構わないし。」
まさかそれって本部に殴り込みとかじゃないだろうね、とでも言いたげな警戒の滲む島田の答えに、赤岡は小さく笑って口を開く。
そして首元に手をやってMP3プレイヤーに触れ、その硬い感触を指先で確かめてから彼は言葉を続けた。

332 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/25(水) 02:57:36

「…ネタをね、演りたくなったんだ。
 長野の単独で演るはずだったのも、そうでないのも、出来る限りのネタをこいつに全部録音したい。」
かつて、自分達の作品と共に生き様を後に残したい…その想いからライブの模様を収録したビデオシリーズを刊行した
憧れのかの偉大な先輩にあやかるように。
赤岡はそう島田に告げると「どうかな?」と相方の方へ視線を傾け、静かにその反応と返答を待った。





333 : ◆8eDEaGnM6s :2007/07/25(水) 03:03:18
【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー(2回目の放送収録) マイクスタンド
状態:左腕に裂傷(手当て済)・右頬に軽い火傷・全身に強い打撲・疲労・眩暈
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし・でも殺さない
第一行動方針:見張りつつ今後の予定を話し合う
最終行動方針:悔いのないように行く】

【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛  (以下、水色のリュック内) 缶詰2個 シャツ
状態:額に裂傷(手当て済)・疲労・動揺
基本行動方針:生存優先・赤岡達を信じる
第一行動方針:見張りつつ今後の予定を話し合う
最終行動方針:不明】

【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ 缶詰2個 薬箱
状態:疲労・強い喪失感
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:泣ける時に泣いておく
第二行動方針:赤岡達の前では泣かない
最終行動方針:不明】

【C8・展望台】

【16日 01:40】
【投下番号:225】

334 :名無し草:2007/07/25(水) 14:57:53
>>333
投下乙!
かなり続きが気になる…楽しみにしてます。

335 :名無し草:2007/07/25(水) 23:00:26
ほすほす

336 :名無し草:2007/07/26(木) 00:41:14
>>333
乙!
野村…セツナス…

337 :名無し草:2007/07/26(木) 22:43:53
干す柿

338 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:33:13
ダブルブッキング編
まとめサイト217の続き


『相違』




「とは言え、これからどうしましょうね…」
鬱蒼と茂る草の間に座りながら、黒田は呟くように言った。その声は相方の川元ではなく、
成り行きで共に行動することになった、レイザーラモンの出渕に向けられている。
川元は黒田の隣に座りながらも、その場にいる人間の顔には目を向けず、そっぽを向いて黙っていた。

黒田の勝手な決断に怒りが心頭に達しているものの、それに対する本当に説得力のある反論ができるかどうか、
川元には自信がない。どんなことを言おうと、自分の人間不信で全てが片付けられてしまいそうだ。
お人好しの黒田は、1日経ってもやはりまだBRの主旨に完全には乗り切れていないのだ。
そして基本的に「生き残ることは不可能である」という、絶対のルールを理解できていない。
それを1人、痛烈に思った。
せめて、コンビで生き長らえる道を最優先して欲しいという川元の願いにも似た期待は、
思いもよらない形で突然裏切られることになった。
(結局こいつは、一緒にいるのが俺であろうと誰であろうと構わないのか)
押し殺していた疑いの念が、再び頭をもたげて来る。

339 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:34:13
そんな川元の内心の渦巻きを知らず、黒田は呑気にも他人に対する親切を貫いていた。
「出渕さんは、どっか心当たりのある場所でもあるんですか?」
「い、いや、全然…誰にも何も聞けてませんし…。あ、2人は、どこか行くところがあったんですか?」
「いえ、何もないですけどね、適当に歩いてきたんすよ。
…ん〜、どうします?とりあえず、続けてどっかへ移動…」
「それはやめてください」それまで黙っていた川元がつっけんどんに口を出す。
「3人で動くのは目立ちますから、危険です。そんな賭けはしたくありません」
口調こそ冷たかったが、内容はまるで子どもが駄々を捏ねているようで、自分ながら情けなくもなるが。
見ず知らずの他人と言っていい出渕に、移動にまでくっ付いて来られたくない。これ以上妥協はできない。
元来の人嫌いはここに来て隠しようも無かった。

「川元さん…。 …済みません」
「いや、いやいいんですよ…こちらこそ、済みません…」
出渕も川元のキャラクターは知っているのだろう、全く反論をせずに口を閉ざした。
川元はそちらに少しも意識をやらず、ただ自分を蔑ろにする(―ように当人には感じられる)
黒田への不信を一層募らせていた。



―こんな状況に際して、今まで上手いこと噛み合っていた性格の違いが仇となるのか。


340 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:35:23
しばらくの沈黙。

間の持たせ方が分からなくなったらしい黒田が、ペットボトルを取り出し水を少し飲む。
ふとその様子を見た出渕が、はじめに話し掛けてきた時とちょうど同じ調子でおずおずと声を掛けた。
「あの、本当に、本当に申し訳ないんですけど、少しだけ、水を分けてもらえませんか…?」

それは更なる、理不尽な頼み。

「……」
川元は、自分が言われたわけでもないのに、頭にかっと血が上るのを感じた。
黒田も流石にそれには軽く承諾できず、困ったように
「…どう、したんですか?」とりあえず尋ね返す。
出渕はぐたりと項垂れ、話し出した。
「…ほんまに情けない話なんですけど、昨日僕はむっちゃ混乱してて、おかしくなってましてね…
街と言い森と言い…あんまり覚えてはいませんけど、とにかく怖くてずーっと走り続けてたんですよ。
誰にも殺されんように、ってだけ思って…地図も見んと、ただずうっと…。
で、合間に水飲んで、また無我夢中で走って、って繰り返して、我に返った時はもう、水が全然残ってなかったんです」
一旦区切り、デイパックからペットボトルを出して前に置いた。
中には、言う通り、一滴も水は残っていない。続ける声に絶望の色が混じる。
「―ほんまに、何であんなめちゃくちゃやったんか…今は自分でも分からんのですけど…
今は、ただ水がないって現実だけがあって…」それきり、頭を抱えた。


芸人たちの動揺や錯乱は、その程度や人格によって様々な形で表れる。
例えば全ての諦観であったり、何かしらへの依存であったり、はたまた殺人衝動であったり。
それが出渕の場合、恐怖と、冷静さの急激な消失による自我崩壊であったのだろう。
この状況でそれは、いくらでも考え得る他のネガティブなパターンと比べれば、
はるかにましな部類、と言って差し支えないだろう。

341 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:36:47
我に返り、生への執着を取り戻したことで、今それが当人の足を引っ張っている。
それだけなら、まだいい。
しかし、この場合。
共にいる人間に頼らなくては基本的に生命を維持することもできない。
水がなければ生きられない。誰であろうと、この持ち物だけは死守しなければならないのだ。そして、
―一番厄介なパターン。結果的に皺寄せがやって来るのは、ダブルブッキングの2人に向けて、なのだ。


冷たい怒りを腹に留めながら、川元は敢えて何も言わなかった。


その耳に、黒田から発せられる信じられない言葉が飛び込んでくる。
「…だったら、僕らここから一番近い川の位置知ってますから、そこで水調達しますか?飲める水みたいでしたし」
「え、っ、それなら是非…!」


「黒田さん!」
思わず柄にも無く声を上げた。あとの2人が、この上なく驚いた顔で川元を見つめる。


342 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:37:57
冗談じゃない。
あの場所は、コンビで行動する上での生命線とするために、見失わないようにしていた場所。
2人で、水に困窮しないように、離れ離れにならないように、そう決めた地点なのだ。
そこをこんなやつに侵されるなんてたまったものではない。
コンビでできるだけ生き残るという意図が、それによって本格的に崩壊させられてしまうではないか。

「川元さん、でも…」
「あの場所には連れて行けませんよ。あそこは僕らで生き残りたくて決めた場所でしょう。
そこまで介入させられるわけないじゃないですか!」
「だけど、他にここから川って言っても…」
「元々僕らには関係ないでしょう。どうしてそこまで世話を焼かないといけないんですか。
まず言いましたけど、僕は移動すること自体に同意してないんですよ!」
「でも…」
普段口数の少ない川元が、おかしなほどに熱を込めてまくし立てるのを、黒田は呆然と眺めた。
その剣幕に押されて、彼を宥める台詞も反論も、上手く浮かんでこない。
出渕はと言うと、川元の異常な気迫に恐慌しつつも水だけは諦め切れないようで、
遠慮の言葉を口にせずに様子を見ている。


いつもならば、2人の間にどんな意見の違いがあっても、コンビ共々そう冷静さを失うことはなかった。
だから毎回喧嘩には発展しなかったし、互いに怒りを覚えることもそうそう無かった。
しかし今は命が掛かっているのだ。後には引けない。

黒田が守りたいのは今や、恐らく目に付くほとんどの人間のそれであり、
反して川元の方は黒田との2人分だけなのだ。―そのどちらが正しいかなど、誰にも決められない。
ただ、ぶつかった意見の行き着く先を、2人は見出すことが出来ない。

343 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:39:24
濁った返答を続ける黒田に業を煮やし、しまいに川元は立ち上がった。
「…分かりました。そんなにこの人のために水がいるなら、僕が取ってきます。
一緒に行動だけはしたくありませんしね。それでいいでしょう?
出渕さんも助かるし、黒田さんの気も済むのなら」
「でも、かわ…」黒田が言い掛けるのを
「黒田さんはここで出渕さんと待っててください。1人の方が気楽だし安全です。
その代わり、僕が帰ってきたら、出渕さんとはここで別れさせてください」即座に遮って、
残る2人の同意も聞かず自分のデイパックを背負い、足元から空のボトルを拾い上げると
1人、早足で歩き始めた。



完全にむきになっている。
どれだけ場違いなんだ、俺らしくもない―自分の声が頭に響いたが、どうしようもない。
加えてこれ以上の妥協案も思い浮かばないのだ。
加えて今は、黒田を含めた誰とも共にいたくはなかった。
熱の籠った頭を1人で冷やしたい。


344 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:41:01
「ぶんちゃん」
呼びかける声が後方から聞こえて、少しだけ振り向いた。
声の主である、相方。その眉間は歪んでいた。不機嫌そうに見える。
彼もまた、あまり反論は出来ていなかったものの、自分自身の考えに対し半ばむきになっているのだろう。

川元に向かって、緩やかなアンダースローで小さな自動拳銃を投げ放った。
少し手先に当たって、痛、と呟きながらも何とか受け取る。
「…せめて持ってって下さい。そんで、早く帰ってきて下さい」
静かな口調は怒っているようにも聞こえた。
川元は少しそれを見つめた後、おもむろにデイパックを探った。
そしてスターターを取り出し、不器用な手つきで紙雷管を1つ押し込むと、黒田に投げてよこした。
「じゃあ代わりにそれ。何かあったら、こっちに向かって鳴らして下さい。運良く聞こえたら助けてあげますよ」
ぼそぼそと言い捨て、そのまま再び向き直り、足早に立ち去った。
辺りは細かく草木が生えていて、すぐ傍にいる筈の出渕の姿は隠れて見えない。
黒田はしばらくその場に立ち尽くしていた。



些細な意見の食い違いだった。
しかしそれは時に、取り返しのつかない事態をもたらす。
それがこんな状況ならば、尚更のこと。
またそれを予測できることと、未然に防ぐことができることは、全く別の話だ。



距離は少しずつ広がっていく。



狂い始めることを知らずに。


345 : ◆hfikNix9Dk :2007/07/26(木) 23:43:02
【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:陸上競技用スターター(紙雷管一発入)、控え銃弾(21発)
第一行動方針:川元を待つ
基本行動方針:とにかく生き残る
最終行動方針:未定

【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:ワルサーPPK(6/7)、眼鏡、紙雷管
第一行動方針:川へ向かう+頭冷やす
基本行動方針:できるだけ生き残る
最終行動方針:未定

【レイザーラモン 出渕誠】
所持品:ボウル(プラスチック製)
第一行動方針:親しい誰かと合流する
基本行動方針:ダブルブッキングと共に行動する
最終行動方針:生き残る

【現在位置:森(E4)】
【8/16 11:00】
【投下番号:226】


プロット都合で地点変更しました。済みません。

>>333
乙です。野村…
そして号泣のやりとりが、毎回しんみりとして泣けます。

346 :名無し草:2007/07/27(金) 00:50:39
>>345
乙!
うわあ…これからの展開気になりまくりだなあ。

347 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 01:59:27
>>281-285 松竹編第六話

 悪魔の契約 オセロ中島・アメリカザリガニ平井


 16日0時の放送が無愛想に終了した。淡々と読み上げられた死亡者の数の多さに、しばしの沈黙
が流れる。
 ……というのは建前で。
 闇を支配していた炎が消えたアミューズメントパーク内のゲームセンターで、オセロ中島知子は
静かに相手の出方を窺っていた。
 放送が終わった瞬間目の前の男――アメリカザリガニ平井と自然に目が合った。柔らかく微笑む
平井に、中島も引き攣った笑顔を返す。それは精一杯の愛嬌だった。
 すぐに視線を逸らすと、部屋の隅で気持ち良さそうに寝息を立てて眠る、オジンオズボーン篠宮
の姿を見た。完全に熟睡しているのか篠宮の腹部は規則正しく動く。こんな状況でも眠れる神経を
羨ましく思いながら、しかしその篠宮が確かに生きているという事実に酷く安堵した。
 中島がこのアミューズメントパークに辿りついたのは、先ほどの放送が始まる直前の事だった。
激しく燃え盛っていた炎が鎮火へ向けて弱まるのを横目に、中島はひたすら観覧車へと直進した。
観覧車まであと数メートルを残したところで、その男は現れた。正確には、中島の左手にある建物
の扉が突如開いたのだ。自動ドアにしては不自然な動きで、ゆっくりと。
 何故か身の危険は感じなかった。それでも中島の身体は小さく震えた。銃を握った殺人鬼に遭遇
する事よりもずっと、恐ろしい出来事に思えたのだ。そこにいた男は確かに、中島が探していた人
物であったのに。
 このゲームセンターに入ってきた中島を、流れるクラシックと共に出迎えた第一声はこんなもの
だった。
『僕らの幸せ、取り戻しましょ』
 可愛いクマのぬいぐるみを持って喋る平井が、少し可笑しくて笑った。


348 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:00:34

「中島さんのステータスって、何ですか?」
「ステータス?」
「中島さんの全てを作り上げてるモン」
 突然平井に話しかけられた事よりも、むしろその内容に中島は戸惑った。
「噛み砕いて言うと、中島さんの失いたくないモンですよ」
 そう言いながら笑う平井を、中島は完全に信用しているわけではない。ただ一人になりたくなかっ
た。楽屋では一緒にいた相方の松嶋尚美も、目覚めた時には近くにいなかった。かといって死体に
まみれた校舎の入り口で30分や1時間、相方が出てくるのを待つ勇気もなかったのだ。
「これまでの生活や。今まで通り、普通に生きたい」
 中島が失いたくないものはこれまでの日常。
 もしかするとこれも、建前なのかもしれない。
 死んでしまうかもしれないという恐怖はなかった。死んでしまう事自体が恐ろしいのではなく、
これまで築き上げてきた生活が消えてしまう事の方が嫌だった。今まで通り、テレビに出て笑って
いる生活を取り戻したい。
 しかしこれまでの生活を取り戻す手段はそう多くない。なんとかこのプログラムを止めさせるか、
あるいは優勝するか。女というハンデを考えたなら後者はまず無理だろう。それならば中島が今後
の行動方針を決めていく上で迷う理由は、今のところ一つも見当たらない。
 今のところ。

『観覧車の近くで待ってます』
 まだこれがバトルロワイアルであると分かる前から、平井はそう声をかけてきた。誰よりも早く
これがバトルロワイアルであるという現実に辿り着いたのかもしれない。そう思えるほど、平井の
行動は迅速だった。


349 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:01:53

「今まで通りですか、謙虚ですね」
 中島にとってこの平井の返しは意外だった。もしかしたら本当に、目の前の男はこの危機を脱す
る術を知っているのかもしれない。夢物語が一歩、現実に近付くのを感じた。
「なぁ、どうやって逃げんの?」
 それを聞きさえすれば心から信用できるのに。「お楽しみは後に取っときましょ」とおどける様
子を、なぜかあのクマと同様に可愛らしく感じた。
「ウチの相方、知らんよな?」
「主に松竹の芸人に声かけてんけど、松嶋さんは見当たらんくて」
「そうか」
 中島は心の中で別れを告げた。中島の描く夢物語に、仲間の救出劇は含まれない。例えそれが
プライベートでも親しくしていた相方の松嶋であったとしても。
 こんな状況にあるのに、意外と心は乱れなかった。
「あんたの相方は?」
 何も考えずに聞いた。相手の顔が歪んだので、何か悪い事でも聞いてしまっただろうかと内心
冷や汗をかく。
「岡田さん連れてきたいって、探しにいってますわ」
「岡田さん? あぁ」
 すぐに同期の彼の事だと理解した中島は、肘をついているゲーム台へと視線を落とした。下着の
入ったカプセルを見て、着替えには困らないなと思い小さく笑った。
「でも、相方放り出して大丈夫なん? 心配やろ」
「放送、聞いとりました?」
「聞いとったけど」
 噛み合わない会話に眉を顰め、中島は当然のように答えた。すると平井は参加者名簿を取り出し、
中島に手渡した。月明かりを頼りにそれを見ると、死んだと伝えられた芸人の名前に薄い線が引い
てある事に気付いた。


350 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:03:11

「参加者とこれまでの死亡者の人数見たら分かりますよ。参加者が多い割りに死人が少ないでしょ?
 まだまともな人間の方が多い証拠ですわ」
「……」
「そうそう出会いませんて、危険人物には」
 平井は涼しげな顔で、死人が少ないと言った。その言葉は厭に冷たく響く。だがもっともな意見
にも思えた。楽観視しているからではない。冷静に分析した結果なのだろう。
 やはり信用は出来ない。しかし、この冷静さがバトルロワイアルには必要かもしれない。中島は
思ったまま、その言葉を口にした。
「こんな時でも冷静なんやな」
「冷静やないと、不利ですやん」
「……それもそうや」
 平井を容認する中島もまた、恐ろしく冷静なのかもしれない。
 平井は笑っていた。こちらの反応を楽しんでいるように見えて、中島は少しだけ苛立った。
「何かと意見合いますね」
「せやけど、あんたの事は基本信用してへん」
「それでも会いに来てくれはったんですね」
 会いに来た。間違ってはいないのに、その言い回しは気に入らなかった。
「そろそろ本題に入ってもええですか?」
 今までのやり取りはなんだったんだ。中島はそう突っ込みたい衝動に駆られたが核心に触れる話
を早く聞きたくて、小さく頷き次の言葉を待った。
「ほな簡潔に。中島さんにはこれを有野さんに渡して欲しいんです」
 手渡されたのはゲーム台に並ぶ平井の支給武器、無線機2台とインカム一つ、更にはそれらの説
明書だった。そして気になる一人の男の名前に、中島は思わず反応した。
「よゐこ?」
「はい」
 聞きたいことは山ほどあった。しかし浮かび上がるどんな質問よりも、突然お使いを頼まれた事
の方が中島にとっては問題であった。ここまで辿りつくのも奇跡のようなこの状況で、何処にいる
かも分からない人物を探しにまた歩き回れとでもいうのだろうか。この男は。


351 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:05:16

「人に危険な事頼んどいて、あんた何もせえへんの」
「俺にはもっと危険な仕事がありますし」
「ほんまかいな。それに当てもなく人探せ言われてもね」
「や、大体の見当はついとります」
「え?」
 平井は地図を取り出して広げた。中島は平井の段取りのよさを見て、自らの運命を悟った。断る
隙は与えない。そう言われているようだった。
「ゴルフ場に向かってください。元町の南東をこう、北上して、こんな感じで……」
 平井の指がアミューズメントパークからゴルフ場までの道のりを歩いた。随分と几帳面に動く指
を見て、平井らしくないなと心の中で悲しんだ。
「えらい細かいけど、何か意味あんの?」
「地形の問題もありますし、一番早いですから。あと、頼みたい事もありますしね」
 中島は体が震え上がるのを感じた。平井は最初から有野に無線機を渡す作業を自分に頼むつもり
だったのか。それとも次に来た芸人に頼むと決めて、それがたまたま自分だったのか。どちらにせ
よ、歩かせるルートまで細かく決めている平井は策略的だ。
「で、なんでゴルフ場に居るって? 落ち合う約束でもしたんかいな」
「ま、そんなとこです」
「しゃんとせえへんな」
 大事なところは必ずぼかす。中島は迷った。動くべきか、動かざるべきか。
「時計持っとります?」
「え? あぁ」
 中島は左腕に飾られた腕時計を確認した。毎日使用しているお気に入りのものとは違う、愛想の
ない不恰好な腕時計だ。デイパックに入っていた、ただ時間を知るためだけの時計である。
「1時間ごとに連絡取り合いましょう。長針が丁度12を差した時、お互いスイッチを入れる。ただ、
 放送のある時間は放送が終わってからお願いします。ええですか?」
 話は中島を置いてどんどん進行していた。こちらの意見など聞く気はないのかもしれない。
 平井はポケットから中島と同じ腕時計を取り出し見せてきた。次いで中島も同じように時計を
見せ、互いの時計針を確認し合った。


352 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:06:55

 中島は腹を括った。とりあえず平井の計画に乗り様子を見るしかない。相手の腹の内はいつか見
えてくるだろう。それから手を打っても遅くはないはずだ。
「ほんならまぁ、気いつけて」
 平井が右手を振った。しかし中島にはまだ、やり残した事がある。
「なぁ、その前にお願いしてもええ?」
「お願い?」
 平井の顔が強張ったように見えた。しかし中島は構わず続けた。
「これ、欲しいねんけど」
「……は?」
 中島が下を指して強請ると、平井は呆気に取られた表情で聞き返してきた。決してからかうつも
りはなかった。だがそんな平井の顔を可笑しく思って、中島は声を出して笑った。
「中島さん……」
「あー、オモロイ顔してんで、自分」
「しょうもない。からかわんといてくださいよ」
「ちゃうって、ホンマに欲しいねんて」
 中島は席を立ち、テーブル代わりに使っていたゲーム台を軽く叩いた。
「ええやろ? もらっても」
「そんなもん好きにしはったらええやないですか」
「やから、割ってや」
 平井は無言で中島の顔を見てため息をつくと、自分の座っていた椅子を持ち上げた。
「危ないですから、下がっとってくださいね」
「はいはい」
 中島は、椅子を高く掲げ振り落とす平井の背中を見ていた。面倒くさがりなくせに他人に優しい、
いつもの平井の姿である。そんな平井を微笑ましく思う反面、それでも彼を信じきれない自分の
猜疑心の強さに一人、惨めな気持ちになった。


353 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:08:09

 騒音が響き渡りガラスが割れた事を確認すると、平井がこちらを振り返った。
「お好きなものどうぞ」
「ありがとう」
 中島は一言礼を言うと、破壊されたゲーム台に近寄った。割れた空間を覗き込み、中に転がって
いる下着の入ったカプセルを見回す。
 すると平井がおもむろに、カプセルを一個取り出した。
「なんだかんだで下着は白に限りますて」
 平井はニンマリと笑い、そのカプセルを手渡してきた。中島は明らかに気に入らないと表情で示
しながら、カプセルを開けて下着を取り出した。フリフリのレースとリボンが可愛らしい。可愛ら
しすぎて、少し子供っぽく思えた。
「これはないやろ」
「やったらどれならええんですか」
「そやね……これとか」
 中島は迷う事なく手に取った。そのカプセルから出てきた黒の下着は、ふんだんにレースが使用
してあり大人っぽさを演出する。それ以外にも中島は赤や紫といった妖艶さ溢れる品選びを続けて
いた。
「なんやエロいですね」
「あんたの趣味とは合わへんみたいやな」
 平井が下着と中島の顔を順に繰り返し見ていたので、中島は嫌味を込めて、最初に平井が取り出
した白の下着をその顔に投げ付けた。平井は面食らったかのように一瞬黙り込むも、その白の下着
を右手に握り、すぐにまた話かけてきた。


354 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:09:41

「せやけど、そない持って何に使うんですか」
「ええやん、邪魔になるもんと違うし。女の子に会うたらあげたろ思って」
「男の子でも喜ぶんとちゃいます?」
「こないな時に誰が喜ぶねんな」
「男なんてそんなもんですって。例えば落とし穴作ってその上にぶら下げたったら、多分めっちゃ
 釣れますよ?」
「何がしたいねん」
「なんやったら迷子にならんよう下着を等間隔で捨ててくとか」
「何の話や」
「使用済みパンツと食料をトレードするとか」
「ネタなら相方とやってくれへん? 私、あんたを突っ込む技術はないわ」
 平井の妄想話にうんざりした中島は、下着が詰められたデイパックを閉じ、そそくさと入り口に
向かう。自動ドアに手をかけたところで平井の方へ振り返り、出発前の最後の確認を取った。
「無線連絡、緊急の時とかどないすんの?」
「言うても電池ですからね、ずっとスイッチ入れとくわけにはいかんのですよ。頑張ってください
 としか言えません」
 しれっとした顔で平井は言った。
 なんて無責任な。やっぱりこの男は信用できない。信用しない。
 中島は自分に言い聞かせた。そして過去、何度となく喉まで出かかって飲み込んできた平井への
思いを吐き捨てた。
「……前から思うててんけど、あんた性格悪いで」
 平井と目が合った。中島は平井と同じように、ニヤリと笑った。


355 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/27(金) 02:11:45

【オセロ 中島知子】
所持品:無線機DJ-R100D(Lタイプ)×1 無線機DJ-X7×1 インカムEME-19A×1 説明書 ちょっとエロい下着×10 他不明
第一行動方針:無線機を有野に渡す
基本行動方針:平井の真意を探る
最終行動方針:ゲームからの脱出

【アメリカザリガニ 平井善之】
所持品:無線機DJ-R100D(Lタイプ)×1 インカムEME-19A×1 クマのぬいぐるみ 白の下着
第一行動方針:中島を動かす
基本行動方針:プログラムをゲームとして楽しむ
最終行動方針:ゲームの完全攻略

【現在位置:E1 アミューズメントパーク内ゲームセンター】
【8/16 00:35】
【投下番号:227】



>>345
乙です!
武器を交換し合うシーンにグッときました。
続き楽しみにしております!

356 :名無し草:2007/07/27(金) 02:44:04
>>355
乙!
平井怪しいな…
しかし中島…下着10枚も持ってったのかよw

357 :名無し草:2007/07/27(金) 03:17:36
>>345
乙!
川元じゃなくてもRGのウザさには苛立ちそうだw
でもそこがいい

>>355
乙!
>使用済みパンツを食料とトレード
徳井の出番だなwww

358 :名無し草:2007/07/27(金) 06:37:45
>>345
乙です
出渕うぜぇw
せっかく会えたのに離れるとは…

>>355
乙です
まだ二人とも余裕がありそうだな
ニヤリと笑ったってのがなんか格好いい

359 :名無し草:2007/07/27(金) 12:46:25
>>355

ちょっとエロい下着ワロス

360 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/28(土) 01:05:30
短いの1ついきます。投下番号199の江頭編の続きです。



8月16日、午前10時20分。

江頭は歩いていた。2時間ほど前に別れた玉袋の無事を願いながら、ただ、足を前に動かしていた。
行くあては特にない。唯一、気にかけたのはできるだけ人のいる場所に向かおうということだった。
笑わせる相手がいないことにはギャグも何もやりようがない。彼1人で笑いは生まれない。
江頭のギャグを見る者がいて、そしてそれを好む者がいて初めて、そこに笑いが生まれるのだから。

…地図の通りなら、南に集落がある。そこにはきっと、民家がたくさんあるはず。
 昨日の俺や玉ちゃんみたいに、休むために家のある場所を探すやつはきっといる。

観客を求める芸人としての本能に従って、江頭の足は川に沿って南へと向かっていた。
ときおり、民家の中の使えそうなものを物色したりしながら、ゆっくりと。
1時間後、彼はいつしか元町を出て、森の中へと踏み出していた。耳に届く、葉ずれの音と蝉の声。
昨日の朝、上ってきた道を下りながら、どこかに自分を必要としている人間はいないかと探す。
しかし、彼が思うよりも島は広く、そう簡単に別の人間と出会うことはなかった。
少し肩を落としながら、江頭はふと足を止める。腕に巻いた時計を見れば、正午が近かった。
4度目の放送の時間がもうすぐやってくる。彼はデイパックを背からおろして地面に置いた。
そのまま川辺の木陰に座ろうとして、江頭は思い直す。一応姿を隠しておくべきだと思ったのだ。
周囲を見回してみるが、隠れるのにちょうどいいものは見当たらなかった。
大きめの岩がひとつあったが、狙われる方向によっては遮蔽物の意味をなさない。
困った、と溜息をひとつつきながら、何とはなしに上を向いたとき、妙案が浮かんだ。

361 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/28(土) 01:08:54

…木の、上ならいい、かな。

思い立ったら即実行、とばかりにデイパックをきちんと背負いなおすと、木の幹に手をかける。
年の割には驚異的に高い身体能力を駆使して、江頭は器用に木をのぼっていった。
しばらくのぼると、木の股の部分にたどりついたので、そこに腰をおろす。
デイパックをいい位置にある枝に引っ掛けると、そこから金だらいと名簿、地図、鉛筆をとり出す。
裏返した金だらいを机がわりに、名簿と地図をその上にひろげて、放送の開始を待った。

やがて、あの妙に明るい音楽で放送が始まり、また増えた死者の名が羅列されていく。
禁止エリアと死者を聞き漏らさぬように集中しながら、複雑な気持ちで鉛筆を動かした。
必要なことを伝えると、ブツリと素っ気ない音で放送は途切れる。同時に彼の手も止まった。
もう一度、江頭は名簿を見つめてみる。朝別れた玉袋の名前は呼ばれなかった。
その事実に少しだけ安堵したものの、あたたかな気持ちになったのはほんのつかの間だ。
増えた名簿の×印に胸を傷めながら、どっと襲ってくる疲れに江頭は目をつぶる。

…何か、疲れた、な。少し、休もう。

今朝、江頭は玉袋の言葉によって自分の進むべき道を見つけた。
その充実感と高揚感によって、忘れていた疲れが今更のように江頭を蝕んでいる。
昨晩は何とか眠れたものの、その眠りは相方を失った玉袋の無念を背に感じながらの浅いものだった。
朝からはりつめた精神ですごしていたこともあり、江頭本人が思うより彼の精神は参っていたのだ。
ふう、と息をつくと、江頭は名簿と地図、鉛筆を枝にかけたままのデイパックにしまいこむ。
膝の上に裏返して置いたままの金だらいの底を手で押さえて、ぐったりと上半身を折った。

そのまま江頭は眠り込んでしまい、数時間後、木が揺れる衝撃と音でやっと目覚めることになる。




362 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/28(土) 01:20:24
【江頭2:50(江頭秀晴)】
所持品:金だらい(大)
真鍮の鍋と古手ぬぐいのヘルメット・唐草模様の風呂敷のマント
蛍光イエローのウエストポーチの腰帯・おたまの剣
ポーチの中に火打鎌と火打石のセット、ガーゼ、包帯、傷薬、消毒薬、メス、ピンセット(各1)
第一行動方針:笑いで世界を救うヒーロー、エガちゃんマンになる
基本行動方針:笑いで世界を救うヒーロー、エガちゃんマンになる
最終行動方針:笑いで世界を救うヒーロー、エガちゃんマンになる
【8/16 12:17】
【投下番号:228】

>>333
乙です。野村が悲しい…磯山がどうやって死んだかも知らないんですよね。
>>345
乙です。これからどうなっていくのかとても気になります。
二人の考え方の違いがよく出ててなんか、感じが伝わります。
>>355
乙です。パンツを持っていく中島いいですねw

363 :名無し草:2007/07/28(土) 01:31:33
>>362
エガちゃんマン待ってました!
誰かが接触しに来たのかそれとも……
次回も楽しみにしてます!

364 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/28(土) 01:33:28
すいません、位置忘れました。
【G6(F6との境付近)】です。

365 :名無し草:2007/07/28(土) 11:40:14
541 名前:名無しさん 投稿日: 2006/09/17(日) 19:59:23

私も就活だし書いてるの終わったら放棄しようかな・・・
1年後もスレ残ってるかもしれないし。放棄して他の人が続けてくれるならそれでも嬉しいし
格好良く死んでくれればもうどうでもいいや


366 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/28(土) 13:03:19
>>304-313のアンガールズ田中編続きです。


『田中の憂鬱』


この世には『三度目の正直』という諺がある。
一度や二度酷い事があっても、三度目には必ずいい事がある。
不幸続きの人間は往々にしてこの格言に縋り付くものだ。
だがその時彼らは得てしてこんな諺もある事を忘れている場合が多い。
――『二度あることは三度ある』――


出口までたどり着いた瞬間、田中卓志の眼前に広がったのは、この世の地獄とも思える光景だった。

「嘘だろ……」

そこに転がっていたのは四つの人体。いや、人体だったもの、だ。
血だまりの中に存在する彼らの身体には夥しい数の穴が開いていて、その穴から命が漏れ切っている事は遠目からでも明らかだった。
田中の脳裏には、山田の死体がフラッシュバックする。
大きく目を見開いていた彼の死体も無残だったが、ぽつねんと並んでいるこの死体の群れも負けず劣らず凄惨だ。
唾を飲み込み、恐る恐る死体に近づく田中。
徐々に、徐々に死体の姿がはっきりとしてくる。
その中の一体が誰なのかを確認できた刹那、田中は奈落の底に落ちそうな感覚に襲われた。

「おい! 嘘だろ!!!」

目の前の光景を信じたくないという思いとは裏腹に、ダッシュで死体の群れに駆け寄ると、
血で服が汚れるのも構わずに一つの死体を抱きかかえる。
その死体の正体が自らの見間違いではなかったことを悟り、田中は絶望に呑み込まれていく。

「……木さん! 鈴木さん!!」

367 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/28(土) 13:04:21
目と鼻、おまけに口からまで何やら液体を垂れ流しながら、見開かれた目を覗き込み喚き続ける。
虚ろな、そして哀しげな目をした亡骸は紛れも無く、親友であるドランクドラゴンの鈴木拓その人であった。

喚き続ける田中の脳裏には、生前の鈴木の元気な姿が思い浮かぶ。
空気の読めない人だった。
楽屋で一緒になった時には凄く大きな声で喋っていて、いつも山根に引かれていた。
一緒に食事に行った時はいつもどれを注文するかでグダグダ迷っていて、店員に呆れられていた事もあった。
それでも、貴重な親友だった。
俺と鈴木さんに山本も加えて、一緒にカラオケ行ったり、旅行に行ったりもした。
三人で一緒にゲームもやったりした。本当に楽しかった。
またあの時のように三人で笑い合いたかった。
たぶんもう会えないとは思っていたが、もしも会えたならば、もう一度一緒に遊びたかった。
それなのに、まさか出口を出た途端にいきなり物言わぬ姿になって現れるとは。
せっかく、山根に励ましてもらって元気が出たばかりだったのに。
今度こそはいいことが待っている。そう思ってたのに。
こんな時まで空気を読んでくれないなんて。

ふと三人でRPGをやっていた時のことを思い出す。
俺と山本が熱中してる中、鈴木さんはいつもどこか冷めていて、そのくせダメになると煩くなったり。
そんな時、こんなことも言ってたよな。

『この世界でも死んじゃった方がいいかな』

それに対して山本と二人で『うん、死んじゃった方がいい』って返した。
冗談で言っていたのは分かっていたから。冗談で返すのが当然だと思っていたから。
なのに、何も本当に死んで、しかもこんな風に亡骸を見せ付けることもないだろうに。
冗談で終わる、はずだったのに。

「本当に死んじゃっていいわけないでしょ〜がぁ……」

胸の内から絞るような声で田中は呟いた。
行く当てのない喚き声は、いつしか咽び泣きに変わっていた。

368 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/28(土) 13:05:27
場を支配するのは嗚咽を掻き消す蝉の声と圧倒的な血の香り。
それらの事象は田中の正気にひっそりと隙を作り始めていく。
絶望に包まれた田中の思考は徐々に自らに降りかかる不条理に矛先を向けていった。
何故だ!? 何故なんだ!?
山田さん、そして鈴木さん。
何故自分と仲のよい人物ばかりがこうもすぐに死んでしまうのか?
山田さんも鈴木さんも、こんな酷い死に方をしなければならないはずがなかった。
なのに何故なんだ!?
こんな理不尽な事があっていいのか!?
ハムスターが籠の中の回し車をぐるぐる回り続けるかのように、田中の思考もまた同じ疑問が回り続ける。
そして田中は思い当たる。恐ろしい可能性に。


「…………俺のせい?」

俺は、この世界の死神となったのか?

ここでは俺と親しい人間から死ぬように運命付けられているのか?

山根や山本、そして自分もまたすぐに死ぬことが運命付けられているのか?

「……それもいいかも……」

どうせなら、自分もまた、早く山田さんや鈴木さんの元へ行ってあげた方がいいかもしれない。
山田さんも鈴木さんも、きっと淋しがってるだろうから。
ついでに山根や山本、それに菊地さんや小木さんも一緒に。
そういえばこのバッグの中は結構重い。武器が入っていそうな感じだ。
そうだ、山根が出てきたら「山根〜さっきのお返しだよ〜」とかいって、この武器を振り下ろしてやろうか。
呆気なく額から血を流して倒れる山根を想像する。
同じように山本も、菊地さんも小木さんも……

369 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/28(土) 13:06:28
「……はは、あはははは……」

乾いた笑い声が漏れる。
何でこんなことを思いつくのだろう。
どんな武器を渡されても、山根を、親しい人をこの手で殺すなんて出来るわけないのに。
そう、出来るわけがない。なのに思いつく。ただわけも無く。
そんな自分がたまらなくおかしい。
否、おかしいのは自分だけではなかった。
無残な姿で横たわる山田と鈴木。
彼らの周りに広がる生温かい血。
平気な顔で芸人に殺し合いを強いるたけし。
監獄のように聳え立つ校舎。
東京とはまた違った不快な熱気を発するこの孤島。
本当に何もかもがおかしい。何もかもが分からない。
誰か教えてください。
俺はどうすればいいのでしょうか。俺が狂っているから分からないのでしょうか?


コツン、コツン。
不意に後ろから足音が聞こえてきて、やがて止まった。
田中は惨劇の現場から立ち上がり、ふらりと振り返る。
果たして振り返った先には、子供のように小柄な男がいた。
体型の割には大人びたスーツをびっちり着込んだ男は、狼狽を隠さずに立ち尽くしている。
奇しくも彼と同じ姓を持つその男、爆笑問題の田中裕二に向かって、田中卓志はゆっくりと向き直る。
さあ、聞いてみよう。

「あなたは、教えてくれますか?」


370 : ◆EeCmUBzmbs :2007/07/28(土) 13:09:10
【アンガールズ 田中卓志
所持品:不明
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明】


【爆笑問題 田中裕二
所持品:不明
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明】

【現在位置:学校の出口付近】  
【8/15 14:22】
【投下番号:229】

>>362
新作乙です。
エガちゃん……何が起こるのかwktk

371 :名無し草:2007/07/28(土) 13:17:04
>>370
乙です
>こんな時まで空気を読んでくれないなんて。
鬱描写なのにフイタw

372 :名無し草:2007/07/28(土) 17:56:14
投下乙です

373 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:01:18
麒麟・ソラシド編
”相思相生”

「あー、また戻ってきてんなぁ。あ、川島は2回目か」
「・・・どうしても行くんか?」
学校の門前にはライフルを担いだ兵士が待機していた。その物々しい空気に、川島は畏縮してしまっていたのだ。
殺されるかもしれない、そのイメージはあのライフルから簡単に想像できるのだから。
「うん・・・せなあかんことがあるからね」
「せっかく助かったのに、また危険な目に遭いに行くなんてどうかしてるわ」
川島は急に不機嫌になった。学校に向かうというのは半日も前から聞いていたのだから、その間に
抗議する機会はいつでもあったというのに、いざ危険が迫ってきたら足が動かない。
山里を連れてこなかった事に対するストレスが更に苛立ちを募らせる。
本坊と2人きりというのは、川島の未だ不安定な精神にとって、地雷原を全力疾走するようなものである。
とにかく第三者の存在が欲しかった。共に行動する人物が多ければ多い程、疑心暗鬼が生まれるのだが
川島はそれよりも自分の暴走が怖かった。誰か行動してくれる者がいれば、自分の銃をその人物に預けてしまえばいい。
そうすれば、自分の暴走はその人物の銃声で止まるのだろう。どうせ錯乱しているだろうし、痛みは感じないかもしれない。
「じゃあ、ここでお別れかな?」
ポンッと自分のデイパックを押し付けて、本坊は笑った。
「お別れって・・・お前?」
本坊はアキレス腱を伸ばして準備体操を始めた。
「こんな事誰にでもやらしてええ事と違うんやから、ってね」
昨日の水口の受け売りだ。本坊は影響を受けやすく、格好良いと思う言葉はすぐ使いたがる。
「死ぬつもりなんか?」
「うん。・・・このプログラムが始まった時からずっと」
あっさりと言う本坊にかける言葉が見つからず、ただ立ち尽くす。
「ほなね、川島。付き合わせてしもてごめん」
本坊は手を振って、小走りで学校の方へ行ってしまった。
「ほんぼ・・・」
声を出せた時には、本坊は遠くへ行ってしまっていた。
茂みから校門の兵士を見る。本坊に気付いたらしい。


374 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:02:30
本坊は両手を上げて、ゆっくりと兵士に近づいていた。
兵士は山里の時と同様、ライフルを構えて威嚇する。
「ここはプログラム参加者は立ち入り禁止だ!」
これも先程と同様の台詞。
「校舎の中までは入りません。確かめたい事があるだけなんです」
「立ち入り禁止だと言っている!今すぐ立ち去れ!!」
続けざまに喋っていない兵士が発砲する。
本坊の位置から大分離れた場所に着弾したが、山里の時といい、参加者とはいえ無抵抗の人間に予告無しで
発砲するなど、どうもこの校門の兵士2人はモラルが低い方らしい。
本坊は立ち止まったものの、しばらく動かない。痺れを切らした兵士の1人が警告する。
「早く立ち去れ!死にたいのかぁ!」
「・・・それが確かめられれば、別に死んでもかまいません」
「何だと!?」
兵士が一瞬動揺したその時、本坊は走り出した。
本坊の予想外の行動に若干アタフタしたが、兵士2人とも本坊にライフルの狙いを定めた。
本坊は走りながらも咄嗟に顎をひいて目を細める。銃弾には無駄な抵抗だと知りながら。
兵士が引き金に手をかけ、緊張が走った。

「うあぁああぁあああ!!」
叫び声と共に、林から1発の銃声が聞こえた。
それを聞いた兵士の片方は条件反射で林の方に発砲してしまった。
「何だ!?」
完全に定めた狙いを乱した銃声に、再び兵士は動揺する。
本坊はその隙を見逃さず、自分に近い方の兵士に飛び蹴りし、その兵士と共にスライディング状態で校門をくぐった。
「ぁああ!?」
本坊に蹴られていない方の兵士が文字に書き辛い類の声をあげた。
「本坊!」
林で発砲した人物----川島明がまだ硝煙をあげている銃を携えて校門へ走る。
蹴られた兵士の方へもう片方の兵士が駆け寄っている間、本坊は自分の首輪をベタベタと触っていた。
「しない・・・爆発してない」
その言葉を聞いた2人の兵士は血相を変えて、本坊を再び校門の外へ引きずり出して、片方はお返しとばかりに蹴り上げた。

375 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:03:31
「っ・・・あ!」
「本坊!?」
川島は転がってきた本坊を抱き起こす。
砂まみれの本坊はゴホゴホと咳き込んだ。
「ゲホッ・・・川島?来てくれたんや!何で・・・」
「わからん、気が付いたらこう・・・」
ガチャ、と2人の頭上で銃の冷たい音がした。
ライフルを構える兵士は、逆光のせいでより不気味に見えた。2人はライフルの先に釘付けになり、会話は途絶えた。
「”確かめたい事”は確かめられただろう・・・もう思い残す事はないな?」
ライフルが少し震えている。動揺を隠しきれていないのだ。
「・・・ああ、しまった!もうひとつやる事あるわ!」
やってもうた、と左胸部分のシャツを絞りながら本坊が言う。意味無くシャツを絞る(握る?)のは本坊の変な癖だ。
「まだ何かあんのか?」
少し呆れた口調で川島が問う。
「僕、たけしさんに頼み事あったんです。でも入ったらあかんみたいなんで、
 兵隊さん達がたけしさん呼んでもらえません?」
うっかりしてついでに言うにしては無理のあり過ぎる本坊の頼み事に、兵士2人は更に動揺する。
飛び蹴りされた方の兵士は怒りでわなわなと震えていた。
「言いたい事はそれだけか?」
映画などでよく聞く、殺し屋なんかが言う台詞だと思った。
兵士は血走った目で本坊の眉間にライフルを突きつける。
蛇に睨まれた蛙の様に川島は動けず、本坊を見る事も出来なかった。

「おーい、お前ら何やってんだー?」
寝起きのすっとぼけた声が、戦慄の空気をぶち壊す。
ライフルを突きつけていない方の兵士が即座に銃を下ろし、直立した。
それを横目で見た眼前の兵士は舌打ちをしてそれに倣い、その人物を睨む。
兵士の視線の先の人物はビートたけし。本坊にとっては最重要のファクターだ。
目を擦りながら尻を掻いている中年にいかつい兵士が随うという異様な光景に、川島はただ目を丸くするだけだ。
「たけしさん!今呼びに行こうと思ってたとこだったんです」
「・・・朝っぱらからちいせぇドンパチやってんなぁと思ったら、またお前か」
睡眠を邪魔されたたけしは面倒臭そうに大欠伸した。

376 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:04:51
そのふざけた態度に苛立ったのは対峙している本坊でなく兵士の方だったのを、川島は感じ取った。
「起こしちゃってすいません、手短にすましますね。ひとつ頼みたい事があるんですけど・・・あ、でもその前に・・・」
「何だよ、はっきりしねぇ奴だな」
「ここが禁止エリアになったって、嘘つかはったでしょ?何でですか?」
本坊は自分の首輪を2cmほど両手で持ち上げてそう言った。
たけしの眉間がヒクッと不自然に動き、不機嫌になったのがわかった。
嘘つき呼ばわりされるのは誰でも不愉快である。この場合は本坊の言う事も事実であるが。
「・・・お前らみたいにここに来る馬鹿がいるからだよ。おちおち寝てもいられねぇな」
「すいません!」
本坊なりに空気を読んで素直に謝る。謝ったところで何も変わらないが。
「じゃあ、たけしさんが安心して早くお家に帰る為にも、僕のお願い聞いてもらっていいですか?」
「・・・聞くだけならな」
「ありがとうございます!・・・次に僕がここに来た時に、改めてここを禁止エリアにして下さい」
「してもいいけどよ、何でだ?」
「僕はここに、水口以外の生存者を連れてきます。その時、ここを禁止エリアにしてもろたら
 全員の首輪が爆発して優勝者は決定。このプログラムは終わって、たけしさんも帰れます」
自信たっぷりにそう言う本坊は、満足そうだった。
傍らの兵士の、目深に被った帽子から覗く目は狂人を見た時の様だった。明らかに引いている。
当のたけしは「ふーん」とさも興味のなさそうな顔をしながらも、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「・・・別にいいけど」
あっさりたけしは了解する。
「ほんとですか!?」
「うん。早く帰れんならその方がいいし」
破顔する本坊とは対照的に、たけしは変わらずどうでもよさそうだった。
兵士はその2人を得体の知れない者の様に見ている。いや、川島もそれに加えるべきだろうか。
「それやったら今すぐ、出来るだけ早よ来るんで、待ってて下さいね!」
「はいはい・・・」
本坊のテンションに、徐々にたけしも距離を置き始める。
「ほな行こう、川島」
「え、ああ・・・」
まるっきり蚊帳の外だった自分が呼ばれて、川島は戸惑った。
「お騒がせしました。僕達はこれで」

377 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:06:10
本坊は一礼し、川島もつられるようにそうした。
「次に会う時は、お前は死体か?」
「・・・そうなったらええと思います」
その瞬間にたけしがふっと笑ったのを見て、川島は寒気がした。
「ほら、川島。早く」
本坊が川島の肩を掴んで急かした。2人は再び林へと戻っていく。
「お前ら、あいつらが背中向けてるからって撃つなよー」
兵士を横目にたけしは声を張った。
2人の兵士はたけしを睨みながらも、すごすごと持ち場へと戻っていく。
その時本坊を撃ち損ねた方の兵士が後ろで呟いた言葉を、たけしは聞き逃さなかった。
「そろそろ6時か・・・目覚ましにしては物騒だったな」
たけしは事務官から渡される死亡者名簿を読んで、放送の準備をしなければならない。
読みながら名前に棒線を引いていく時、何とも複雑な気分になる。
「”芸人風情が”か・・・」


そして、林の中の2人。
「ありがとうね、川島。お前があん時撃ってくれたから、目的達成出来たわ」
「本坊・・・あれ、本気なんか?」
「はは、昨日からマジで?とかおんなじ事言い過ぎやって」
「真面目に答えろ!」
笑って茶化す本坊を川島は一喝する。
「・・・そう、本気。水口を優勝させる為に、僕は学校に人を集める。人を集めて、その人達全員死なせる。
 その中にはもちろん俺も、お前もいる」
「そんな事したって・・・」
「僕は1人になりたくないし、誰も1人にさせたくないからそうする。川島が止めても無駄やげ?」
「なんで!」
「気にいらへんのやったら、僕を殺す?・・・そのピストルで」
川島は無意識のうちにポケットのピストルに手をかけていた。
「ええよ・・・川島に都合悪いんやったら、殺しても」
「ちがっ・・・」


378 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:07:19
その時、スピーカーの近くにいる2人は突然聞こえた轟音に耳を塞いだ。朝6時の放送が開始されたのだ。
川島が手をかけたピストルはポケットから地面に転がり落ちた。

死亡者が読みあげられる間、2人は沈鬱な表情だった。
だが、(不謹慎であるが)はっきり言ってある程度慣れた。
今まで知り合いも同期もまだ会った事の無い有名芸人も呼ばれた。
それにもすっかり慣れた筈だった。だが。
『16番 石田明』
本坊の顔は蒼白になり、がたがたと震え出した。
「本坊!?」
「石田が・・・」
「石田がどうした?」
「水口は石田と一緒やってんや・・・やったら水口は?」
本坊は弱々しく川島の腕に縋りつく。前の放送で川島が水口が死んだ場合の仮定を持ち出した時の冷静さは、
単なる虚勢であったのだ。実際に現実味を帯びると、この様に震える事しか出来ない。
たけしと対峙していた時とのあまりの違いに、川島は困惑し自分がピストルに手をかけた事など忘れてしまった。
「黙って聞いとき・・・まだ呼ばれてへん」
「う、うん・・・」
死亡者の発表は終わり、禁止エリアの発表に移った。
「呼ばれてへんわ・・・良かったな」
「うん・・・よかった」
そういう本坊の手はまだ小刻みに震えていた。

「ありがとう川島・・・取り乱してごめん」
放送が終了してすぐ、本坊は川島から手を離した。
「いや、昨日の俺も似たようなもんやったやろし」
「ああ、僕川島の”鏡”になるっていうたもんね。そんなつもりとは違ってんけど・・・」
ああー、とぼんやり口を開けた川島の顔が間抜けで、本坊が噴き出して川島もつられて笑う。
「本坊、聞きたい事あるんやけどええ?」
「もちろん」
「お前は”1人になりたくないし、誰も1人にさせたくない”って言うたけど、何でそれに水口は入ってへんの?
 お前の言うとおり水口は死んだ人にやさしいかもしれんけど・・・何でそれで仲間ハズレになんのや?」

379 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:08:58
「・・・最初は、優勝さそうとは思ってへんかってん。水口も含めて全員死のうと思ってた」
「やったら何で?」
「川島、ゴボウの話知ってる?」
「ゴボウ?」
「田村と違うで」
川島は本坊の言うとおり田村を思い浮かべてしまっていた。どうやらそんな簡単な事は見透かされているらしい。
「太平洋戦争の時な、日本兵がアメリカ兵の捕虜に良かれと思ってゴボウ食べさせはったのに、
 その捕虜は木の根っこ食べさせられたーって言うて、兵隊さんは訴えられはったっていう話」
「ああ・・・何か聞いた事あるわ。やりきれない話やんな」
「実はこの話って違うパターンがあってや。それやと捕虜は喜んでゴボウを食べてんて。
 でも日本兵は訴えられた」
「何で?捕虜が喜んだフリしてただけって事か?」
「ううん。日本兵もアメリカの捕虜も心を通わす事が出来たっていうのはほんま。
 でも誰か別の奴が工作して、日本兵は訴えられてん」
「誰?アメリカ軍の偉いさん?」
「違う。捕虜の話を聞いた検事か弁護士が、これを利用しようと捕虜虐待をでっちあげて訴えたんや。
 嫌な話やろ?激戦の中、敵国同士がわかりあえたいい話やったのに、戦ってもいいひん奴らがそれを引き裂いた」
「やりきれへん話やな・・・」
外部の人間によって引き裂かれた2人の兵士を、川島は哀れんだ。
「今回みんな死んだら、僕は似た様な事が起こるんとちゃうかって思う」
「似たような事って?」
「何回か前の時のプログラム、あれいきなり全滅で終わりやったやろ?」
「ああ・・・」
何年か前、マスコミが派手に騒ぎ立てたプログラムがあった。
全滅で優勝者なしというのは別段珍しくないのだが、24時間死者が出なかった為約30人の首輪が爆発したという
前代未聞の終局だったのだ。メディアはこぞって「プログラム始まって以来の軟弱学級」などといい、
学校の教師、参加者の父兄はもちろんその地域の駐屯地の兵士までがバッシングされるという事態に陥ったのだ。
事件当時、川島達は口には出さないものの生徒達には同情的であった。
「あん時、あの子らのお母さん達かわいそうやったやん?子供が無理矢理連れて行かされて死んで悲しいのに、
 テレビや雑誌はその子らの事何も知らんくせして傷つけて・・・自殺した人もいた」

380 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:10:58
その騒ぎは長く尾をひき、マスコミのバッシングと子供を失ったショックで自殺する保護者が後を絶たなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
本坊の発言には段々感情が篭っていった。川島もその時の生徒と遺族に同情するが、反政府的な発言はこの国ではタブーだ。
川島達の様な影響を与えやすい職業の者は特に気を配らなければならない。
それが枷になって、川島を黙らせるのだ。これだけ喋っている本坊が何の影響も受けないのだから、
川島が同情したところで何も変わらないのだが、長くはめられた枷はそう簡単にはずせるものではない。
「今回僕らが全滅したら、マスコミの人嬉々として僕らをバッシングするやろね。
 ”芸人バトルロワイアル、期待はずれの全滅!大した笑いもなし”とか言うてさ」
「芸人は、下に見られる職業やからな・・・」
「そんな事になったら、今頑張ってる芸人のみんなも、俺等の親も・・・あん時みたいに餌食にされる。
 だから、優勝者が必要やった!優勝者は沢山殺した奴とは違う、死んだ人にやさしないとあかんと思ってん」
「それで、水口を優勝者に?」
「そう。自分の意志で死んだ人の事を1番に考えてくれるあいつが、1番優勝者に相応しいと思った」
「水口はたった1人でみんなの命を背負わなあかんのやろ?それって、水口が1番辛いんと違うかな?」
「そっかー、やっぱりそうなんかな。・・・やったらさ、川島」
「ん?」
「やっぱり水口も、死んだ方がええんかなあ?」
泣きそうな顔で、本坊はそう尋ねる。
「・・・お前は水口にどうなってほしい?」
「生きてて欲しいよ」
「やったらその方がええんやって。お前が生きてて欲しいと思うんやったら、水口は生きてた方がええ」
「そういうもん?そんな簡単でええの?」
「うん、それでええと思う。そんで、それはお前も同じや」
「?」
珍しく自分に対して饒舌な川島を、本坊は不思議そうに見つめる。
「さっき学校で発砲した理由・・・今やっとわかった。俺は、お前に生きてて欲しいから、死んで欲しくないから、そうしたんや」
2人は下に転がっているピストルに目が行った。
「お前が水口に生きてて欲しいと思う様に、俺もお前に生きてて欲しい」
これまた珍しく、川島から本坊をまっすぐに見つめた。
「水口もきっと、お前に会ったら死んで欲しくないって言うと思う」

381 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:12:25
「・・・そうかな?そういう風に言うてくれんのかな?」
「ああ、2度もお前を死なせたくないって言いよるよ」
川島は自信を持ってそう言えた。どこから来る自信かと問われれば、明確な答えは出せないが。
「水口からそれを聞くまでは、俺はお前を死なせへん。それまではそばにいる」
「・・・そんな事言うて、また昨日みたいに僕殺そうとするんとちゃうん?」
本坊は少し拗ねた感じで言う。今までの川島なら、すぐに取り乱している筈だ。
だが、川島は本坊の予想通りにはならなかった。
「そうならへん為に、これを渡す」
川島は落ちているピストルを拾い上げ、本坊に手渡した。
「これ、川島のやろ?僕が持っててもええの?」
初めて手にするピストルを本坊はまじまじと見つめる。
「かまへん。もし、俺が前みたいに暴走したらそれで止めたらええ」
川島の覚悟を聞いた本坊は、一瞬目が泳いだが黙って頷いた。
「・・・僕は、たけしさんに言うた事を曲げるつもりはないげ?」
「それにしたって、水口を捕まえな始まらへん。後の事考えるんは、それからでも遅ないわ」
「川島・・・何か急に変わったな」
「・・・お前が俺の鏡になってくれたからやで」
「僕が言うた事やのに〜・・・お前に使われたら何か悔しいわ」
「お互いがお互いの鏡になったらええやんか」
川島が変わったのは本坊が弱みを見せたから、これに尽きる。
自分に縋りつく本坊を見て、川島は精神が不安定な自分の状態はこういう感じなのかと思った。
人のふり見てわがふり直せ、というやつでこの時点で本坊は”鏡”の役割を果たしていると言える。
今までの川島にとってプログラム中の本坊は畏怖対称だったが、鏡の如く似た者どうしとわかれば怖くはなかった。
そうすると、すらすらと言葉が出て来て、いつもの様に親友に接する事が出来たのだ。

それが、水口の生存という事実の上で成り立つ脆いものだという事を川島は知っていた。
知っていたのに、その後の事は考えたくなかった。
怖かったからだ。

382 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:25:20
【ソラシド 本坊 元児
所持品:ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:水口を捜す
第一行動方針:上に同じ
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】
【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:自分の精神を保つ
第一行動方針:本坊と水口を会わせる
第二行動方針:
最終行動方針:まず第一目標を達成してから】 

【現在位置:H-6】
【8/17 06:17】
【投下番号:230】

>>381訂正。 ×畏怖対称→○畏怖対象

>>328
タイトル噴きますた。
ネタ披露に向けて着々と話が進んでって今からwktk。全体的に漂う切なさが好き。
>>338
川元のイライラが凄いリアル。実際参加したらこんな感じなんだろなーと思わせるのは凄い。
>>347
投下速度も凄いけどクオリティが段々上がっていってるのもまた凄い。平井はどう転ぶんだろうか。
>>360
エガチャンマンにはマイペースで突き進んで欲しい。書き手ロワの書き手さんと同じ状態なんですね。
>>366
早くも精神的に追い詰められてる田中の描写が凄い。>>369の辺りは秀逸すぎる。

383 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:43:40
ちょっと捕捉。
>>379に出て来るゴボウの話は諸説が多く、どの話が本当なのかはっきりしていません。
それどころかこの話自体がただの都市伝説という説もあります。
たとえ話として使わせていただきましたが、上記のことを踏まえて
あまり鵜呑みにされないことをおすすめ致します。

384 :731 ◆p8HfIT7pnU :2007/07/28(土) 22:53:47
>>382
川島の状態表に誤りがありました。
川島の所持品はライター 煙草(開封済) 眼鏡になります。 

385 :名無し草:2007/07/28(土) 23:26:59
>>381
投下乙です
この後の本坊の反応が怖い

386 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:28:53
昨日来ましたが今日も来ました。今回は普通の長さで。
だいぶお待たせしましたが、投下番号170番、土田と日村の話の続きです。




…暑い。

河原の近くの木の下に座り込んで時計を見た。時刻は午後2時3分。もう昼すぎだ。
学校の北東にあるプレハブ小屋を出たのが朝の7時前だから、7時間以上歩いていたことになる。
決して体力のあるほうじゃないこの俺が、ずいぶん長いこと歩き続けていたもんだと思う。
さっきいきなり腹が鳴らなければまだ歩いていたかもしれない。疲れも気にならなかった。
何だろう、ちょっとハイになってるのかもしれない。精神的に追い込まれすぎて。

デイパックの中から食料の乾パンをとり出す。味気ない食事でも、ないよりはマシだ。
ほとんど味わうこともせずに、噛み砕いた残骸を水で流し込む。今は休むより先を急ぎたかった。
数枚の乾パンがのどの奥に消えていく。空腹は満たされなかったが、あまり沢山食べるのもまずい。
さあもう片付けよう、と乾パンの袋をデイパックに突っ込んだところで、指先に触れた何か。
何だろうと目をやると、それは参加者名簿だった。名前の横に、自分でつけた鉛筆の黒丸。
いたたまれない気持ちで、それをとりあげる。上から見ていくうちに、無印の設楽さんの名前に当たった。

…設楽さんは無事だろうか。正午の放送では名前を呼ばれてなかった、それまで生きてたことは確かだ。
どうか、もう一度会えますように。どうか、お互いが無事でいられますように。
もうあれから丸一日以上も経ってしまった。時間が経つのってなんて早いんだろう。


387 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:30:32

昨日、教室を出るとき、設楽さんは「学校の近くに俺がいなかったら、西へ進んで」と言った。
言われた通りにするつもりだったのに、学校を出てすぐ死体を見た俺はパニックを起こした。
しかもあたりを見ても設楽さんがいなかったもんだから、余計に混乱して頭が真っ白になった。
わけわかんなくなってつい、方向も考えずに走ったら、気づいたときには深い森の中。
葉っぱの間から落ちてくる夕日の光が地面を真っ赤に染めて、ゾッとした。血みたいな赤だった。
自分のいる場所がどこかすら分からず、とにかく身を隠さなければと思ってたら目の前にプレハブ小屋。
中に入って、地図で自分が学校の北東にいると理解したところで、あの第一回目の放送が流れた。

…オザが、死んじゃってた。

すごいショックだった。もう何か全部嫌になって、そのままプレハブ小屋の隅で小さくなってた。
西に行かなきゃって思ったけど、身体がいうことを聞かなくて。一人でうずくまってるうちに、夜になった。
枠がアルミサッシの窓に当たる風の音が不気味で怯えてたら、流れてきたのは夜中の0時の放送。
正直、午後6時から0時の間の記憶はほとんどない。ただ、怖くて、身体が震えて動かなくて、それだけ。
二回目の放送で呼ばれていく名前を聞くたびに背筋が凍るような思いで、名簿の黒丸を増やしていった。
それを見ながら、自分は6時間もこんなとこで震えてたのかって思ったら、ちょっとそれにもゾッとした。

…あの6時間で少しでも西に行けたはずなのに。

けどもう時間は過ぎてた。何をしたってもう、その時間は絶対戻ってこない。
そのまま、ぼろぼろ泣きながら名簿に印をいっぱいつけて、禁止エリアを書いていった。
今度は磯山やたくや、かずや…後輩たちの名前がどんどん呼ばれて、また胸が苦しくなって。
どんどん消えていく名前の中に、設楽さんが入っていないことが救いだった。それだけが心の支えだった。
設楽さんとの約束。西へ行って、もう一度会うっていう約束。俺を支えたのはそれだけだ。


388 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:33:12

放送が終わって、名簿と地図を確認しながら、ポロシャツの肩で涙を拭いた。顔はぐしゃぐしゃだったと思う。
だけど、こんなところで泣いても何にもならないと思ったから、無理に笑ってみた。
そしたら少し元気が出て、絶対設楽さんに会わなくちゃいけないって改めて思えて、勇気がわいてきた。
でも、もう真夜中だから下手に動かない方がいいだろうって思って、とりあえず身体を休めることにした。
疲れてたら明日何にもできない、そう思ったら何か、全力で寝てた。爆睡だった。
こんなときに寝られるなんて俺、実は結構神経太いのかもしれないな、と目が覚めたとき思った。

朝、また放送が流れて、誰かが放送に出てきて、何かすごく怖いことを言って、ついには殺された。
みんなおかしくなってるんだと思った。俺だってもうどっかおかしいのかもしれない。
けど、俺には設楽さんと会うっていう目的がある。まだ頑張れる、まだ大丈夫だ、そう自分を励ました。

放送のあと、地図をじっくり見て、このプレハブから出てどんどん西に進んでいくことに決めた。
そうすれば途中で川にぶつかる。そのあたりで一度南西に進路を変えてH5の小屋を目指せばいい。
あそこまで行ければ、大分真西に近づくし距離も稼げる。朝食もそこそこにプレハブ小屋を出た。

…そして、今の今まで歩きっぱなしだったわけだ。

おかげで目印にしようとしていた川はすでに目の前にある。そろそろ一旦進路を変えなくちゃならない。
名簿を見直したついでに、地図ももう一回見ておこうとデイパックの中から引っぱりだした、そのとき。

ガサ、ガサガサ。

どうにも不自然な葉ずれの音。頭の上、右のあたりから聞こえた気がして、軽く首を上に向けてみた。
なのにその方向には何も見えなかった。ただ、繁った木の葉が風に揺れてただけ。
そのまま目を右にきょろりと動かすと、視界ギリギリに何か映った。右…、というより後ろだ。
俺の座る場所から数メートルは離れてる、わりと太い木の陰から、ちらりとのぞく銃口。
それを俺に向けている人間が誰なのは葉陰でよく見えない。でも銃口の高さからして大柄な奴だろう。
そこまで考えたところで意外に冷静な自分に驚く。昨日ビビりすぎて逆に胆が座ってしまったのかもしれない。


389 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:35:11

…っつっても俺、どうしたらいいのよ! 助けて設楽さーん! 設楽さん助けてー!

胆が座ったところでこの状況をどうにかする方法なんて浮かびやしない。当たり前だ。
俺は一般人だ。軍人とかではない。ちょっと人より顔が面白いだけの、単なる一般人なのだ。
心の中で設楽さんに助けを求めてはみたけど、もちろん聞こえるはずもないので溜息をつく。
この場を生きのびるために、もう一度視界の隅の黒い銃口に意識を集中した。

高めの位置の銃口が、ゆらゆら揺れている。ということは、照準をあわせているのかもしれない。
アワくって撃ってはきてないんだし、むこうはまだこちらが気づいたとは思ってないはずだ。
あーヤバい、今のうちに何か考えないと。…そうだ、何よりあれだ、客観的にならないとダメだ。
現状を把握しないと話がはじまらない。勝ち目が少しでもあるのか、あるならソコに賭けないと。

…まず俺の武器は…アレとじゃ勝負にならない。闘う体力…あるわけない。精神力…知るか!

まったくダメだ! どうしよう、俺どうしよう設楽さん! 勝ち目なんてありませんけど!
どう考えても銃に応戦なんて無理。しかもアレ、形とかからして多分、マシンガンかなんかだ。
このままここに座ってたら即死。向かってっても勝ち目なし。でも俺は生きのびたい。
ならどうすればいい? 逃げればいい。じゃあどこに逃げる? できるだけ撃ちにくい位置に。
俺がそう答えを出した瞬間、視界の端っこで揺れ動いていた銃口がピタリと止まった。

…三十六計逃ぐるにしかず!

即断して、勢いよくデイパックを後方に放り投げた。ブワッと宙に浮いたデイパック。
それがものすごい音とともに穴だらけになっていく様を、すぐ横で目にして血の気が引いた。
それでも俺は全力で右へ走った…いや、正確には走ろうと思った。
腰がちょっと抜け気味でうまく立ち上がれなかったから、四つん這いで進む。
両手と両膝をフルに使って、ざかざか小石をかきわけていく。


390 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:37:04

…今、人類の四足歩行最速記録を叩き出してるぞ俺! 速いぞ俺! 頑張れ俺!

泣きそうな気持ちで、自分を励ましながら前へ。すりむけていく手と膝がずきずき痛んだ。
とはいっても、そんなの構ってる場合じゃない。とにかくここから逃げなければ。
だってあの弾にあたったら、きっと痛いどころの騒ぎじゃない。あんなの死ぬって絶対。
あのときもう少し遅かったら蜂の巣になっていたのは俺だったんだから。

考えるだけで冷や汗が出てきそうになったそのとき、大きな岩が視界に現れた。
夢中で身体をその後ろにすべりこませて、敵のほうをふりむいてそっとうかがう。
そのとき、苛立った様子で木の陰から出てきたのはよく知っている相手で、俺は大いに困惑した。

「え…、ツッチー…?」

声になんて出すつもりなかったのに。慌てて手で口をおおう。呟いただけだけど、聞こえてたら最悪だ。
一応隠れてるんだから、声なんか出すべきじゃないのに、思わず名前が口をついて出てしまった。
だって、こんなことって、こんなことってあるんだろうか。あれはどう見てもツッチーだ。
そう、ツッチーこと土田晃之。嘘でも誇張でもなんでもなく、俺のホントによく知ってる奴。

…ツッチーが、俺を、殺そうと、して、る?

あまりに驚いて一瞬思考を止めてしまったのがいけなかった。距離がつまってきてる。
俺が隠れる岩陰のほうに、その大きな身体が近づいてくるのがわかった。一歩、二歩、三歩。
やっぱりマシンガンだったあの恐ろしい銃口は、今は下へと向けられている。
ツッチーは周りを見回して、ちょっとだけ立ち止まってまた別の木の陰へと隠れた。
そこから顔を少しだけのぞかせて、何か…もしくは誰か、を捜しているようなそぶり。
一直線に俺のほうに向かってくるかと思ったのに、少しずつさぐるように移動している。


391 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:39:37

…ひょっとして、俺の姿を見失ってる…のかな?

そんな都合のいい考えが浮かんだ瞬間、パッとひらめいたのはそれを裏付ける理由となる事実。
穴だらけになったあのデイパックは、ツッチーの視界から俺を一瞬、消したに違いなかった。
それに、軽く腰が抜けたせいで四つん這いで走った…っていうのかな、いや俺的には走ってた。
あー違う、そんなんじゃなくて、とにかく姿勢が低かったから、きっと下草で俺のことが見えなかったんだ。
だってもし見えていたなら、逃げてる間も撃たれてたはず。マシンガンなら連射できる。
なのにツッチーは撃ってこなかった。しかも俺の姿を捜しながらこっちに来てる。
ってことはやっぱり、俺のことを見失ったに違いない。情けない話だけど、腰が抜けたおかげだ。

…こっからどうしたらいいんだろう。もう身代わりにできるデイパックもないし。

ふう、と息をついて、呼吸を整える。ジーンズの尻ポケットに突っ込んでいた武器に右手をやった。
武器はガスリボルバー、いわゆるちょっと精巧な玩具の銃。撃ち出されるのは子供騙しなBB弾だ。
それでも目つぶしとかくらいにはなるかもしれないし、近くなければ本物と間違えてくれるかもしれない。
グリップを握り、ポケットから引き抜いて胸の前にひきよせる。もう弾もこめてあるし、使えるはず。
とっさにこれだけ出しといてよかった。どのぐらい役に立つかわかんないけど、ないよりマシだ。

まずはツッチーの目をどこかに引きつける必要がある。隙を作らなきゃいけない。
けど、荷物は全部放り投げてきちゃったから武器以外何もない。この状況で一体何ができるだろう?
周囲に何か落ちてるものでもないかと見回すと、後方に手頃な大きさの石が落ちていた。
とっさにそれをつかんでみて、どうしようかと思案を巡らせるうちにふと、思い出したことがあった。


392 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:41:23

…頭の上あたりから聞こえた、あの葉ずれの音。聞いたとき、思わず俺は音のほうを向いたじゃないか。

それに思い至って、やることは決まった。ここから木に向かって投石。力のかぎり投石。
この石を思いっきり木に向かって投げてやれば、葉の揺れる音や幹に石の当たる音がするはず。
そうすればツッチーはそっちに意識がいくはずだ。その隙に逃げれば、どうにかなるかもしれない。
今度はあの、少し高く繁った草むらの陰に走り込んで隠れよう。そんなに距離もないし、きっと何とかなる。

自分を勇気づけながら、ツッチーの動きをうかがう。こちらから視線を外したときがチャンスだ。
ツッチーはあいかわらず木の陰でそこらをうかがっているようだ。定まらない視線にやきもきしながら見つめる。
すると、ツッチーの目が一瞬、俺の穴だらけのデイパックをとらえた。中身が気になるのか、視線が止まる。
覚悟を決めて、握っていた石を力一杯、自分からみて左横、ツッチーから見て右前方にある森の木めがけて投げた。

…ガサガサガサ、グワン、ゴン。

何だか途中、どうも不自然な音がしたが、俺のほうがそれに気をとられたら元も子もない。
ツッチーの足が音のほうに向かったのを確認してすぐ、岩の陰から飛び出して草むらを目指した。

…目指した、つもりだった。

半分腰が抜けていた自分を綺麗に忘れ去っていた俺は、見事に何もないところで転んだ。
それはつまり、最悪の事態よコンニチハ、という意味にほかならなかった。そおっとふり向いた瞬間の銃声!
幸い発射された数発の弾は全て狙いをわずかに外したらしく、俺の左横が穴だらけになったのみだ。
慌ててさっきまでいた岩の裏に戻ろうと動くが、その間にもマシンガンは容赦なく狙ってくる。
どうにか岩の陰に戻ったものの、自慢のおかっぱが一部、弾に持っていかれて短くなっていた。
髪のこげる焦げ臭い匂いを感じながら、唇を噛む。よかれと思ってやったのに、完全に裏目だ。
あんなことしないでじっとしていればよかった! 胸の内で叫びながら、頭を掻きむしる。
鼻の奥が泣き出す前みたいに痺れてきた。バカみたいだ。なんて、なんてバカなんだ俺は!
ツッチーはもはや明らかに俺をとらえている。蜂の巣になるのは時間の問題だ。もう終わりだ。

393 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:42:57

…設楽さん、設楽さんごめん、俺、約束守れないかもしれないよ、設楽さん…!

半分涙目で設楽さんに謝りながら、俺は震える手でガスガンを強く握る。せめて抵抗だけでもしなければ。
そう考えてツッチーの姿をもう一度確認しようと岩陰から少しだけ身体を乗り出した瞬間。

…ツッチーはすでに、俺が石を投げた木の下で、マシンガンの照準をあわせつつ笑っていた。

今度こそあのマシンガンの銃口は俺の胸の当たりを狙って外さないだろう。でも最期まで足掻いてやる。
俺は素早く、自分のガスガンをツッチーに向けた。この土壇場のハッタリがきくことを期待しながら。
ツッチーが銃マニアでもなければ、1.5メートルほどはなれたこの距離なら騙されてくれるかもしれない。
そう思って向けたABS樹脂製の黒光りする銃口は、ありがたいことにツッチーを一瞬ひるませた。

「…ツッチー、撃つ気ならこっちも撃つぞ!」

毒を食らわば皿まで。大声でハッタリを叫んでやれば、ツッチーは少し迷ったようだった。
しかし、これがオモチャだとバレたら即、蜂の巣だ。自分の渡っている橋の危なさに目眩がしそうになる。
焼き切れそうな神経を何とか保たせながら、一世一代の演技に賭けた。ツッチーを騙し切らねばならない。
設楽さんと踏んだ初舞台でも、これほど緊張はしなかった。ダラダラ垂れてくる汗が気持ち悪い。
それでも、“演技をしている”と自覚した瞬間、手の震えは止まった。舞台に上がったら、怯える暇はない。

「俺は…、俺は、コレを持ってる! もっと簡単に殺れる奴あたれ!」

鬼気迫る表情、というのを作ったはずだ。ギリギリの線での威しと懇願。騙されてくれることを祈るしかない。
ツッチーはまだ、銃口をおろそうとしない。ただ、何か考えている目をして、こちらを見る。
そして少しの沈黙のあと、くくっ、と笑ってから、口を開いた。


394 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:45:03

「…ヒムケン、知ってる? ソレはルパン三世の次元の銃」
「…は?」
「S&W M19 コンバットマグナム、しかもバレルは4インチ…だから漫画版じゃなくてアニメ版」

突然、アニメの話をしだしたツッチーにびっくりして、一瞬銃口を下げてしまいそうになった。
樹脂製の黒いグリップが、汗をかく手のひらから逃げそうになって、慌てて握りなおす。
恐ろしいことに銃の名前を当てられてしまった。何コイツ。アニメオタク兼拳銃オタクとかなんだろうか。
どんどん背筋が冷たくなってくるのを感じながら、それでも必死で耐えて叫ぶ。

「…だったら、何だよ!」
「俺をなめるなよ…伊達にガンダム芸人とかアニメ系の仕事、やってるわけじゃない」
「な、…」
「ガンダムほどじゃないけどな、ルパンも結構見てるよ…次元の銃ぐらい覚えてる」

…とても、とても嫌な予感がした。続く言葉は、聞いてはいけないような気がしていた。
だが無情にも、マシンガンを構えた男の唇からこぼれた言葉は、重く苦く俺の耳に響く。


「…M19は本物なら、グリップは木製のはずだ」


…なんてこった。

俺の一世一代の演技は、ツッチーのアニメ知識の前に敗北を喫した。所詮、元々かなう相手ではなかったのだ。
構えていたガスガンの銃口を下げる。そこにはもう、絶対的な敗北しかない。つまりは、死だ。
ツッチーの指が引き金を引く動きが、やたらにゆっくりと見えて薄ら寒くなる。

395 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/07/29(日) 00:46:38

ごめん、設楽さん、やっぱりダメだった。
これでほんとうのおしまいだ。
 
…俺の人生の最期は、こんな下らない幕引きになっちゃったよ。





【日村勇紀(バナナマン)】
所持品:ガスリボルバーM19コンバットマグナム4インチ(24連射)
BB弾控え(1876)、ガスガン用ガスボトル1本
第一行動方針:約束を守れなさそうなので、設楽に謝りたい
基本行動方針:設楽と合流したかった
最終行動方針:設楽と合流して考えたかった
現在位置:森(F6との境付近のG6)
【土田晃之】
所持品:MP7 A1(13/40)、控え弾丸(40)、ニューナンブM60(1/5)
剃刀の刃×5、食料と水3人分、鉛筆(+3本)
第一行動方針:日村の殺害
基本行動方針:できるだけ殺して、できるだけ武器をかき集める
最終行動方針:優勝を狙う
現在位置:森(F6との境付近のG6)
【8/16 14:15】
【投下番号:231】


396 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:07:40
>>382
本坊の暴走ktkr
こう、友情を綺麗に描けるのが羨ましいです。

>>395
こ、この展開はもしや……www
にしても一人称SS上手すぎ。

397 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:14:22
>>318-320 続き POISON GIRL BAND 吉田

 仕事以外で朝日を見たのは久しぶりだった。小学生のころは友人に連れられて初日の
出を見に行ったが、年を取るにつれて無くなっていった。ただ、薄く掠れた記憶と違え
て、純粋に綺麗だと感動出来るわけではない。原因は大人になるにつれて人より冷静に
なってしまった性質か、自然の恩恵を実感出来ない現状況か。恐らくは前者後者どちら
も混ざり合っているのだろう。
 雲の切れ目で太陽が地上を伺っていた。強くなった光は同じく濃度の高い影を作り出
していた。いくつも並んだ建物は同様である。我関せずの木々は弱い光で揺れた、変拍
子にもならない不規則なリズム。
 繁華街、と形容すれば良いのだろうか。少なくとも住宅街でない。様々な飲食店が立
ち並ぶ街の一角である。ぐん、と背筋を伸ばす建物とは相まって、猫のようにした吉田
は一人、片膝を抱えていた。高身長であるせいか子供の姿とは重ならない。それでなく
とも表情は冷静な大人そのものだ。
 意外にも短気なところはあるものの、根本は淡々としてパニックを起こしにくい性格
をしていた。だから現在、膝を抱えるのに選んだのもよく考えて決めた場所だった。
 誰からも見つかりにくい倉庫内、違う、見つかったら速攻で殺されてしまう。直ぐに
辺りを見渡せる広場、それも否、相手が飛び道具を持っていたら蜂の巣にされて終わり
だ。そんな常識をふまえたら答えはどうなるか。簡単なことだった。
 辺りを見渡せるが見つかりにくい屋根の上。
「これからの予定」
 強く顔に当たる風を嫌がりつつも呟いた。辺りには誰もいないため答えはなかった。
自問自答の流れになるが答えない。投げっぱなしの質問はたちが悪い、知っていても黙
ったままである。
 答えが見つからなかったのだ。先ほどから何度も尋ねているのだが、結局は長過ぎる
迷路に挫折して止まってしまっていた。強く浮かぶ方針はあるものの、吉田の性質が頑
なに拒んでいた。

398 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:15:41
 どうせ一人しか生き残らないのであれば先に死んでしまった方が良いかもしれない。
逆に、自分がどこまでいけるか確かめるのもありだ。双方とも対象が変わるだけで結局
は同様であり、主催の手のひらで踊って人を殺すということ。
 黙り続けていた。夏特有の生温い風が通りすぎていった。どこからか届いてくる、い
ずれは成り代わるはずだった生活の香りはなかった。近くで人が死んだわけでもないの
に嫌な臭いがしていた。だから眉を寄せる。
 屋根に降り注いだ塵を振り払って、利用した手を数回嫌そうに叩いた。昨日から変え
ていない靴下に触れた足がむず痒い気がしている。汗ばんだシャツの心地悪さに吐き気
を催しそうだ。それが全ての理由。
 生活は出来ていたが重い潔癖症だった。
「これからの予定……」
 自害をしようにも綺麗かつ躊躇いなく死ねる方法を知らない。前者を満たす練炭自殺
はどうも準備が面倒そうだ。凍死ならまだましかもしれないが太陽が許しはしないだろ
う。すでに早起きした蝉が鳴き始めていたから。
 自身に向けられない害を他人に向けたならどうなるか。距離を取れる飛び道具ならば
まだ、体だけは汚れない。けれど持っているのは高身長に良く栄える日本刀だった。鍔
はなく柄は木製で、世間的に知られているイメージとはほど遠いが刃物であることに変
わりはない。利用した場合は相手も自分も酷く汚れてしまう。
 長い指で弱々しく柄を掴んでいた。くしゃみをすれば屋根を滑り落ちてしまうかもし
れない。事実、落としかけて慌てたときもあった。月明かりに照らされていたおかげで
見失わずに済んだのだが。
「予定」
 質問は短く締めくくられた。袋小路に迷い込んだ証拠でもあった。繰り返していた口
の動きを止めて、細長い体をさらに弱々しく抱え込む。どこかの引きこもりのようだ、
感じてからある姿を思い出し、直ぐに打ち消した。どうせ会うことはない。

399 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:17:06
 するべきこともなく放心していた。数分経っても微動だにせず固まっていた。目線だ
けは辺りを眺めている。始まってからずっと同じような行動が続いていた。違う場所に
いたときは見つけられそうになったけれど、屋根に登ってからは全く危険が無い。
 確か誰かが言っていた。人間は本当にせっぱ詰まると上を見る余裕がなくなる。まさ
にその通りで、何人かが地上を通り過ぎたものの、何もせずに消えてしまった。必要な
いらしい吉田を置いていってしまった。
 酷く狼狽して臆病になっている人。正義感に燃えて主催への反発をたぎらせている人。
何かに対する怒りで我を忘れている人、正常ではなさそうな表情でぎらぎらと目を光ら
せている人、無気力になり右も左も分からなくなっている人。屋根から全てを傍観して
いる自分自身。被ったカードもあったが大体はバラバラに切れていて、人の種類を実感
するには十分だ。それだけいたにも関わらず誰も上を見なかったから、そういうことな
のだろう。
 空は青。雲は白。屋根は形容出来ない色。通り過ぎた人の服は色々。予定も色々、自
分はその他諸々。梅雨なら多分傘が咲いて色が増したかも、冬ならきっと風が刺して赤
が増した顔。朝はご飯を食べる? 昼は、夜は、今は。何をすれば良いのだろう。ブロ
グに書くなら今をどうやったろう。パソコンの前に座ることももう無いんだろう?
 頭に見慣れたウェブページが浮かぶ。句読点を無くした記事は数日前で止まってしまっ
ている。
 長い人差し指で空中に記事を書いた先だった。乱雑な建物の合間をかいくぐる訪問者
が一人。視力が悪いせいで誰かは分からないが、がに股から判断して男だと信じたい。
女性らしい女性、我が儘をいうなら歩くのが速い人、が好きだったからだ。
 細い目を更に細めた。埋めていた顔をしっかり上げて相手を見極めようとした。どう
いうわけか顔よりも早く、相手が握りしめている長いものの正体を知った。吉田の持ち
物のように危険な美しさを持ち合わせていない、けれど相手を強く表す物。

400 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:18:16
 吉田は少し笑う。よほどの強運の持ち主なのは分かるが意味は無いものだ。蔑む意も
込めた表情だった。
 きっとあの人も気づかずに行ってしまうのだろう。決めつけて諦めて、雲が浮かぶ空
を眺める。短い髪がかすかに揺れる。
 遠くから近づいてきていた足音が止まる。
「ポイズンガールバンドの」
 吉田は目を見開き、数秒間だけ固まった。ぎこちない動きで首の向きを変えれば、引
きつってはいるものの純粋な笑顔を浮かべている人がいる。紛れもない中年にも関わら
ず少年に見えた。黒目がちの鹿のような目が原因かもしれない。多分、街であうより森
の方が合っていたはずだ。せっかく偽造した野生を売り物にしているのだから。
「あれ、なんやっけ、名前……」
 申し訳なさそうに眉を寄せていた。握られた銛も同じように弱く揺れている。どこか
滑稽にも関わらず無表情でいた吉田は、簡潔かつ礼儀正しく答える。
「吉田です」
「そやった。俺はよゐこの濱口」
 知ってますよ、それだけ有名なんですから。返しかけてやめた。あまり話したことが
無い人の揚げ足を取っても利点はない。
「ん?」
 吉田の素振りを読んだのか、濱口は首を傾げ、子供に問いかけるようにしていた。馬
鹿にしているつもりはないのだろう、根本から出てくる優しさのせいか。
「いえ」
 吉田はただ小さく首を振って顔を逸らす。
 会話は続かなかった。風が耳に入って音を伝えていた。数秒間はそのままで止まり、
やがて鈍いが軽い音が沈黙を破る。ごつん、銛の柄先がコンクリートに触れていた。

401 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:19:21
「有野見んかった?」
 相方を捜しているのか。テレビでも分かるくらいに仲が良かったから当然かもしれな
い。吉田は傍観してきた人々の顔を思い返してから首を振った。
「そか」
 濱口が一瞬だけ顔を伏せる。直ぐに上げて残念そうな笑みを浮かべた。太い眉が八の
字に曲がっている。
「どこいったんかなあ」
 知らない。相手が後輩だったなら一瞬で答えていただろう四文字だ。もう先輩後輩な
ど関係ないのに一応は気にしてしまう。
「さあ……見当はないんですか?」
「どやろ。どっかに隠れてそうな気はするけど」
「そうですか」
「あいつ、しんどいとすぐ休むから」
 吉田は小さく驚いた。目の前にいる男はテレビと違った印象を持っている。俗に言う
馬鹿ならば分析も何もせずに探し続けるはずだが違うのだ。テレビの姿が虚像なのか、
過度な印象をつけられてしまっているだけか。今はただ、意外に冷静なところがある、
位しか分からない。
「そうですか」
 相槌にしかならない台詞を呟いた吉田は遠くを見た。自分の相方を思い出したからだっ
た。普段はマイペースすぎるほどの存在で、今もそれを貫いているのだろうか。あった
のはかすかな興味。
「そっちの相方は見とらんよ」
 示し合わせるように情報が提供された。心を読まれたような気がした吉田はくっと眉
を寄せた。けれど濱口は気にせず続ける。
「なあ吉田くん」

402 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:20:43
 適当ではないしっかとした響きがあった。少なくとも人殺しをしようか悩んでいるよ
うな含みはない。もとより銛では屋根上まで届きはしないが、そんな風に考える必要が
ないほどに正常だった。
 吉田はというと、先にどんな言葉が続くかを考えるわけでもなく、ただ濱口の荒れた
肌につたう汗を眺めている。よく見れば明るい色のティーシャツも汗染みてまだらになっ
ていた。反面教師にした吉田は無意識に額に触れる。
 靴下の不快感が再来していた。ごまかすために適当な問いかけを重ねた。
「なんですか」
「俺、人集めとるんや」
 告げた濱口の態度はかちりと噛み合って揺るぎが無い。テレビと違う印象だったのは、
するべきことをすでに決めていたからか。吉田には出来ていないことだ、だから混乱が
生まれる。
 世間で馬鹿というレッテルを貼られている人は自我を持ち行動を定めている。決めか
ねていた、濱口は馬鹿か、もしくは紙一重の場所にいる存在なのか。後者とまではいか
なくとも、少なくとも現状況では冷静にいられている。
 抱えていた片膝を引き寄せた吉田は何故か、自分を眺めているような錯覚に陥った。
背を丸めている自身は冷静ではなかったのだろうか。ただ冷静という形に種類があると
いうだけなのか。
 けれど吉田の混乱は予想外にも直ぐ解消された。情け無さそうに笑う濱口自身が答え
を示したからだった。
「有野がおらんと何も出来んから、あいつが出来んことをやっとこう思うて」
 馬鹿でも天才でもなく、ただ人が良いだけだ。

403 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:21:55
 何故か吉田は安堵の溜め息をつく。自分と他人を比較しても利点がないことを思い出
す。一人でいたときのような無表情を取り戻して、膝を抱える力を緩めた。日本刀が落
ちかけてやっと、数秒前の相当の動揺を悟る。
 普段の状況ならばナイスキャッチ、とでも言われていたかもしれない。しかし、やは
り濱口も混乱しているらしく戯れ言はない。それもまた吉田の動揺を緩めた。落ち着い
たままで詳細を尋ねる。
「集めてどうするんですか?」
「わからん」
「それで集められるんですか」
「やってみんとわからんよ」
 濱口の顔から笑顔が消えた。会ってから一番の真剣な表情になるが、直ぐに崩れて笑っ
てしまっていた。
「一緒に来んか?」
 それは当然でもあり意外でもある提案だった。人集めという目的には沿っているが、
屋根の上にいるような人間をわざわざ誘う理由が分からなかった。ひょっとしたら今ま
でも誰かれ構わず誘い続けていたのかもしれない。
 やはり人が良いのだ。後ろから日本刀で刺される可能性など考えていないのだろう。
 考察はほどほどに、提案に対する返答を探した。一緒にいても危害はない気がしてい
たが、現実としてずっと隣にいたら息が詰まる相手でもあった。濱口自体に問題がある
わけではなく、ただ単に面識が足りていないだけだ。逆ならばもう少し突っ込んだ質問
をして真意を探ることも出来た。結局は遠慮してしまい、外見だけの観察に止める。
 吉田ほどではないにしろ細い体に頼りがいはない。身体能力だけで考えれば相当なも
のだろうが、追い詰められた状況で発揮出来るかは分からない。肌荒れに悪そうな汗が
増えていた。黒くて小さな目は揺らいでいなかった。

404 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:22:58
 全体を捉えているだけならば誘いに乗っていたかもしれない。けれど人並みの慎重さ
と、銛自体が目立っていたせいで、おのずと目線はずれていく。そこにはただ一つの事
実だけがあり、吉田が同行を止めた理由にもなった。
 銛を持つ手が子供のように震えている。
 日本刀を持つ手を強め、また空を仰いだ。青い背景に過去の風景が映し出されている。
芸人として働いていた時に様々な人に言われ、自分で行動して実感もしていた。大人数
でいるときは出来るだけ性質がばらばらであった方が良い、という単純な理論。
 日本刀が落ちかけた。細い指先は、誰にも分からない程度で震えていた。お互いに平
常心を面で被っているならば答えは一つである。
 無表情のままで首を横に振った。情け無さそうに笑った濱口の顔は酷く哀愁に満ちて
いて、子供にすら頭を撫でられてしまいそうだった。事実、顔を隠すようにして自ら髪
を撫でている。
 一部始終の動作を見ていた吉田はなぜか罪悪感を覚えた。相手が子供のように見えて
いるからだろうか。申し訳なく、普段はしない口出しを始めてしまう。
「何も考えないで集めるのはよくないと思いますよ」
 聞いた濱口は更に情け無さそうな顔をする。後輩に指摘されてしまえば仕方がないか
もしれない。けれど吉田の言葉の真意は終わりではなく、一時的に相手を落としたに過
ぎない、つもりなのだが。
「大人数で動き回ったら目立ちますし。場合が場合なんで、仲間割れも考えないと」
 冷静を心がけているせいで辛辣になってしまう。濱口がどんどん沈んでいくのが分か
る。もう少し柔らかい言い方も出来るのだろうが、現状業では適切ではなかった。強く
言わないで失敗したら先が無いかもしれない。

405 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:24:16
 途中まで言って首を傾げた。どうして、大して面識の無い人にここまでしているのだ
ろうか。答えを見つける暇はなく、とにかく今は意見に努める。
「人を集めること自体は悪くないですから、そこまでを慎重にしないと」
「例えば?」
 吉田は何度目か分からない戸惑いを持てあます。ここまで素直に尋ねられてしまえば
答えざるを得ない。しかし正直、そこまで詳しく考えてはいなかったため、付け焼き刃
の提案をしてしまう。
「集合時間を決める、とか」
「何で?」
「……途中で会った人にも、出来るだけ人を集めるように伝えておけば」
 理解出来ないらしい濱口の目がまた、情け無い形で歪んだ。笑うわけでもない吉田は
淡々としたまま口を動かす。
「ひとかたまりで探すより、手分けして探した方が早い」
「ああ、なるほど、頭ええなあ」
「さっきも言いましたけど、大人数だと目立ちすぎますし」
「目立ったほうが探しやすいやん」
「それもそうですけど、狙い撃ちされたら即死ですよ」
 濱口の喉仏が一瞬だけ盛り上がった。唾を飲み込んだのか、そういえば、直接的な描
写は会話中初めてか。ようやく自覚して、やはりいつもよりは動揺していることを知る。
落ち着くための反面教師を求め、濱口の方を見やる。

406 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:25:19
 けれど濱口は、決死の理解に努めているせいか慌てていない。それどころか、目線を
動かす暇ですらない、と言いたげに思案に集中している。やがて返された質問も的外れ
ではなかった。
「集まったとこを狙われたら?」
 吉田自身も危惧していた問題だった。
「狙われない場所を選べばいいでしょ」
 大人げない反発だということには言い切ってから気づく。意外そうにしている濱口に
対し頭を下げてから、生温い空気を胸一杯に吸い込む。気持ち悪いが今は仕方がない。
「すみません、ムキになりました。確かにその危険はありますけど、適当にうろうろし
てるよりはずっとましです。集まったついでに方針も決められます」
「ああ、そうか、それはあるなあ」
「集合時間をずらすとかは?」
 濱口が固まる。あまりに分かりやすい態度は少し滑稽だった。普段なら笑っていたか
もしれない、何となく思うが掻き消して、今までで一番の真顔に変える。
 ここから言うことは濱口に取って残酷な事実になる。言おうとしている当人も笑顔に
はなれそうもない内容だ。
「二十、いや、十分でもいい。人に会う度に時間を遅らせていくんです。濱口さんは最
後」
「何で」
 どこかで銃声がした。強制で作られた間を更に引き延ばした吉田は、深呼吸の終わり
を溜め息に変えてから、どこか遠くを見やった。目を逸らしたかっただけだ。

407 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:27:38
「三人目が殺したがりの人だったとしても、被害に会うのは二人だけです」
「え」
「五人目がそうなら四人。六人目なら五人。次の人、がいなければ少なくても巻き込ま
れない」
「それって」
「最後に行けば結果だけ分かるんですよ。何もなければ全員いますし、何かあったなら」
 吉田は逸らしていた目を戻し、失礼にならないよう相手に合わせた。
「誰か死んでるでしょうね」
 相手の目が泣きそうなぐらいに見開いていたのは間違いではないのだろう。言った本
人ですら声を低く保つのに必死だったのだ。けれど今までの流れから、これだけで全て
を理解してもらえるとは思えない。残酷を知った上で更に突き落とす。
「死んだ人がいたら近づかなければいい。極端に言えばどっちでもいいんです。奇跡で
も起こらない限り一人しか生きて帰れない、つまり」
「もうええよ」
 たった五文字の制止にも関わらず明らかに震えていた。怒りではない違う感情が込め
られているようだった。顔を下向けた濱口は髪を撫で、酷く弱々しく肩を落としていた。
少し震えている理由は諦めからくる笑みのせいか。
「そうかもしれへんけどあかんわ。俺には多分、できん」
 出来たら良かった、そんな風に続きそうな気がしたのは気のせいだろうか。
「できん」
 予想に反した繰り返しだったのだけれども。
 風と一緒に現実が通り過ぎた。残された間が辛辣を伝えていた。これ以上何かを言う
のは酷だ、判断した吉田はただ黙り込む。争いの音が聞こえたが空耳のようだった。音
がないように思える、感覚だけで言えば静かの海よりも冷たかったのかもしれない。

408 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:28:31
支援

409 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:29:00
「とにかく」
 濱口の掠れた声ですら強く響いた。消えていた音が波紋のように取り戻されていく。
あり得ないくらいに平和な蝉の声が鳴り響いていた。
「時間は決めといたほうがええなあ」
「……そうですね」
「今日の五時くらい?」
「早過ぎませんか? 最低でも明日の今頃くらいじゃないと」
「そうなん?」
「人ってそんな直ぐ出てこないですよ。ただでさえこんな状況ですし、見つけたとして
も誘えないかもしれない。実際、今までどれくらい会いました?」
「いや、ほとんど」
「街中なら少しは違うかもしれないですけど」
 森を彷徨うよりは可能性がある。物を補充する人がいるかもしれないし、最低限の安
息所ならすでにあるかもしれない。
 弱々しかった濱口の肩が少しだけ上がった。不都合は考えないようにしたのか、だと
すれば嫌な傾向だ。先ほどから見ている限り安定しているとは言い難く、殺す側に回る
ことはないにしろ、自害なら十分にあり得る。
 少し考察しすぎていた。自らを閉じるかのごとく体を引いた。さよならの合図と同等
で、濱口も銛を担いで息をつく。今から海に行ってくる、そんな台詞がつきそうな位に
軽い動作だ。そのまま振り返り、顔だけを吉田に向けた。
「明日の午後一時な」
 この期に及んでまだ誘うか。もはや驚かなくもなった吉田は、一秒もしないうちに決
定的な情報不足に気づく。

410 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:30:03
「場所は」
「あ」
 どうやら本気で忘れていたらしい。失礼ながら、テレビでの印象を強く思い出した。
馬鹿というよりは抜けているという形容の方がしっくり来るが。
「どないしよ」
 しかも決めてすらなかったらしい。いよいよ溜め息をついた吉田は、先ほどから大売
り出しをしている口出しを赤字覚悟で絞りだした。
「あそこの高いビルの」
 長い人差し指で背の高いビルを指さす。けれど濱口の目には届いていないらしい。も
とより留まっている高さが違うから当然ではあった。必死に背伸びをしている濱口を見
やり、確認出来ていないことを知りつつも、詳しい説明を続ける。
「直ぐ横に貯蓄倉庫があります。目立たないし、いいんじゃないですか?」
 実際、ここに来る前に吉田が隠れていた場所だ。目立たない割には広く、ドアが少な
いため人が入ってくる可能性も低い。違う建物から入るドアが一つ、外から入るドアが
一つ。窓はなぜか補強されており、人が出られる大きさではなかった。
 ずっと隠れていても良かったのだが、裏返せば逃げにくい上に、潔癖症には厳しい環
境だったため捨ててきた。こんな風に再利用されるとは思わなかったけれど。
 聞いていた濱口は、理解出来たのか出来ていないのかよく分からない表情で頷いた。
数秒後には両手を合わし、吉田に向かって頭を下げてくる。素直過ぎるのは危ないです
よ、言いかけて止めた。まるで相手を騙しているようになってしまうからだ。
 目的を持った背中を遠く見送った。弱い視力で細くなっていた目が元通りになれば、
前と同じような空白が辺りを支配した。これからしばらくは一人の時間が続くのだろう
か。小さい自問で紛らわせて左肩を揉む。普段通りの握力に驚いてから直ぐに、手の震
えが弱くなっていることにも気づいた。どういう意味なのだろうか。

411 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:31:04
 太陽が予想より高く登っていた。多数の雲に遮られて細い光を作り出している。もし
期間中に虹が出たら皮肉以外の何者でもないな、ぼんやり思った流れで考え事に浸った。
無意識が働き、日本刀は落ちないように抱え、デイパックのジッパーが噛み合っている
か確認する。やがて無意識も終わって動きは無くなる。
 そのままどれくらい経ったのだろうか。しっかと固まった手を片膝に置いて、強くなっ
ていく日差しに肌を焼かれて、靴下の不快すら忘れ去っていた。浮かぶ光景は過去の仕
事と、つい先ほどの情景。震えた濱口の指先や汗染みたシャツ、荒れた肌に流れていた
汗。液体が赤ければ猟奇的だったかも、趣味の悪い想像ですら拒否せずに受け入れる。
 五対五ほどの対比がだんだんに傾いていった。過去よりも現在を考えているわけだか
らごく自然である。明日までに誰も集まらなかったらどうするつもりなのだろうだとか、
らしからぬ心配事を多く繰り返した。暇だから仕方がない、自らを納得させようとして
も、ついでに先を考えるせいで無視出来なくなる。
 どうせなら刃向かって終わるのもありかもしれない。思ってから決意を始めようとし
た。場に相応しい優柔不断を持てあますつもりでいた。この時点ではまだ、時間はたく
さんあったのだ。
 また風が吹いた。どういうわけか酷く冷たい気がして身を竦めた。抱えていた日本刀
の柄が頬肉に埋まり、同時に視界の幅を奪った。かちり、カチンコに似た音が鳴って、
場面転換のごとく右から左へ柄が流れた。先にあった新しいシーンは間違いなく見所だっ
た。
 建物と建物の狭い隙間から新しい登場人物が送り込まれる。日光に当たった瞬間に目
立った影に食い殺されてしまいそうなほど弱かった。普段は高く上げている顎は下向き、
自信に溢れていた目は遠くからでも分かるくらいに淀んでいる。

412 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:32:16
 吉田はなぜか息を飲み、相手を中心に全体を眺めた。揺れた木々にすら否定された孤
立は、教科書に載っているような絵とは懸け離れて、頭を直接割るくらいの影響力を持っ
ていた。今までと同じような傍観を努めるも、よく知った相手だったためより引きつけ
られてしまう。
 けれど長くは続かない。隙間から出てきて数秒歩き、急に立ち止まったかと思うと、
押されたかのように前倒しになって倒れてしまったのだ。さすがの吉田も驚いて体を前
に出した。嫌な結論かどうかを判断するには距離が遠すぎる。
 日本刀を抱え直し、柄にもなく早くなる鼓動に不快感を覚えた。流れているのは冷や
汗か、そういえばまずい状況になった人には初めて遭遇する。現実として他人と変わら
ない反応をする自身に刃向かう余裕も無くなっている。
 どうするべきかが重要だった。生きているならば助けるべきだが、せっかく見つけた
場所を一時的に手放さなければならない。どうせ最後には一人しか残らないから放って
おいた方が。
 思考が止まった。蘇った記憶があった。申し訳なさそうに笑いながらも道を定めた先
輩の姿だった。耳には最後に言われた誘いの言葉が作られる。意志を背負った汗染みた
背中が浮かぶ。
 対して考えもせずに動いていた。末では直情的な自らを知らないわけでもなかったた
め驚かなかった。ごく冷静に、ぐっと屋根に吸い付くスニーカーのゴム底を意識しなが
ら下りていく。登ったときとは別の手順でおおざっぱに進んだ。周りには滑稽に見えて
いたかもしれない。
 わざわざベランダから室内に入り、土足を嫌がりながらも階段を進み、中指の先だけ
で玄関を開ける。開けた世界は嫌に広くて目眩がして、倒れている体も酷く遠かった。
何度目か分からない深呼吸をしてから踏み出す。

413 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:33:27
 月並みな例えが許されるならば、たった数メートルが間違いなく運命を決める分かれ
道だった。歩いている途中で背筋を伸ばしたのは無意識ではない、軽く持った日本刀に
落ちる気配はなかった。
 コンクリート上の雑草が吹かれて揺れる。
 死んだような中田の姿を覗き込む。
 刹那、吉田の眉は明らかに寄った。体を引いたせいで雑草が踏みつぶされた。あった
のはただの現実、生きてはいるようだが似ているほどに残酷な。
「……汚ね」
 一秒にも満たない呟き。
 上半身は赤黒い血や爽快な青、まみれた泥でぐちゃぐちゃになっていた。足に至って
は赤黒い池でも歩いてきたかのごとくだった。黒くて目立たないが髪も汚れている。し
かも汚れは見た目だけでなく、数歩分の距離を取ってもなお追ってくる異臭が不快を誘
う。二日連続の靴下が霞むくらいにだ。
 寄せたままの眉が決めたはずの決意を拒んでいた。ぶら下げていた両腕を組み、神経
質な素振りで指を動かした。なまじ死んでいない分、放っておくにも覚悟が必要になる。
 深い溜め息をついた。口だけで息を吸った。ムキになっていたかもしれない、どうに
か出来るような対応を速やかに考えていく。直ぐには思いつかず、諦めて身を翻す気に
もなれず、苛々とつま先をコンクリートに打ち付けた。潰れていく雑草に気づき、汚れ
てしまった靴底を裏返して嫌がる。
 ふいに対応策を思いついた。雀の涙ほどにしかならなくとも、気分はまだましだろう。
決めてしまえば行動は早く、息を止めて中田のそばにしゃがみこむ。
 指先だけを伸ばし、夏にはそぐわない中田の長袖を掴んだ。前開きの服で良かった、
途中で起きてくれればもっと良かった、思いつつも無理に剥がし、慣れない手つきで裏
返しにする。意識して同じ指を使い続けていたせいで酷く手間取った。

414 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:34:37
 最終的には裏返したままの服を着させ直す。臭いは消えないが、見た目は少しましに
なった。何とか妥協して両腕を掴み、背中で担ぐようにする。途中で見つけた涎には気
づかないふりで対応した。
 あれだけ長かった道が更に伸びたように思える。頭にあった思考は一転して淀んでい
る。暑い暑い蜃気楼に溶け込むような錯覚の中、整っていたはずの息をだらしなく早め
て、誰よりも遅い一歩を細かく繰り返す。ベルトで支えた日本刀や、中田の手に握られ
て離れない凶器が邪魔をしているし、相手の方が低身長であるせいで負担も大きくなる。
 室内まで連れて行く気力が無かった。仕方無く、外側からは見えない塀の内側に凭れ
かけさせるだけで終えた。何もない場所で倒れているよりはましだ。決めつけた瞬間に
はすでに、自身の汚れた体に苛つき始めていた。
 残る理性で何とか中田の支給品を回収する。不安定な安全を確保したのち、直ぐに室
内に入って水を探した。水道は止まっていたが、温い冷蔵庫に二リットルのペットボト
ルがあったため、先を考えずに全て使った。置いてあったタオルで両手を綺麗に拭き、
ようやく冷静さを取り戻す。
 服は汚れたままだったが妥協するしかない。換えになりそうなものもあったけれど、
知らない誰かのお古でサイズも合わなかったから諦めた。大きな溜め息と共に戻った先
は狭い屋根の上。閉鎖された変わらない世界だが、少し身を乗り出せば中田が増えてい
る。
 日本刀を抱えて考え込んだ。額を何度も拭い汗を嫌った。時間は戻ってきているもの
の状況は悪化している。悩む議題が増えた分、相当なものだ。
 固まりかけていた決心が歪んでいる。その通りに行動するならば、今回のようなこと
を何度も繰り返さなければならないのか。途方に暮れても足りないくらいで視界が歪ん
だ。頭にあった先輩の笑顔も同様だった。

415 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:37:07
 とにかくは冷静に戻るべきだ。ようやく気づいた優先事項を消化するにはどうすれば
良い。遠くを眺めようとした瞬間、額から落ちた汗が屋根に落ちて滲む。脱水症状になっ
たらどうしようもない、生理的な危機を脱するため、左肩だけに掛けていたデイパック
を前に持ってくる。慎重にジッパーを開いてペットボトルを取り出した。
 数秒後、些細な行動であればあるほどに運命を定めることを知る。キャップを外そう
として、固くて開けられず力を強めた瞬間。勢いづいた入れ物が空中に投げ出され、ス
ローモーションを演じながら舞った。自然な、実に自然な曲線を描いた水は、示し合わ
せたかのように倒れた後輩の方へ向かう。
 弾けた水の音が波紋になって広がった。
 あれほど動かしても開かなかった瞼が角度を取り戻していく。塗れた黒髪から落ちる
水滴が太陽光で反射していた。目を見開いた吉田が息を飲むより早く、切れていた中田
の糸が張りを取り戻す。吊られたのごとく上がった顔にあったのはただの異常で、水滴
のごとく追加されたのはただの無常だ。
 忘れさっている我を取り戻した中田は笑った。
「お前が神か?」
 歪みかけていた決意を捨てた吉田は表情を消した。
 突然の突飛な質問はなぜか場に合っていた。吹いていた風を忘れて、答えを探しすら
せずに黙り込んだ。答えとして受け取った中田の顔からも表情が消え、汚れた手だけは
何かを探していた。数秒後に止まり、吉田の方を睨み付けてくる。
「道具はどこだ」
 支給品のことだろうか。
「俺にはするべきことがある」
 人殺しの道具がなければ出来ないことなんてたかが知れている。教える気にはなれず
に見下ろすだけでいた。それが更に中田の神経を逆撫でしたらしく、頼んでもないのに
目的の説明が始まる。

416 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:38:10
「世界を作り直すべきだ、そのためには新しい神が必要だ、それを知っている俺がなる。
今の神を殺す必要がある」
 どこぞの病気した中学生でもあるまいし、世迷い事を偉そうに言われても困惑するだ
けだ。聞くことも面倒になって目を逸らす。
「神を。意志もなく笑う存在を」
 目線を戻した。失礼ながらも思い当たる人物がいたからだった。かつて吉田と同じ屋
根の下で生活した、中田が一番知っているべきである存在。
 何がどう崩れてそうなったのだろうか。興味というよりは義務のごとく問いを投げよ
うとして止める。見下ろさせまいとしっかり上がっていた中田の顔が見えなくなってい
たからだ。張っていた糸は切れてしまったのだろうか。
 表情が見えない分、血で汚れた足下が嫌に強調される。吉田がぼんやりしている最中、
汚れを気にしないほどの凄惨を作り出してきたのだろう。
 吉田はまた目を見開いた。決められなかった方針の尻尾を掴んだ確信があった。再度
確認する。吉田が汚れを気にして動かなかった時間に、汚れを気にしない中田がいくつ
もの人を殺したのだ。それはもはや尻尾ではなく答えだった。全てが整合して先が決まっ
た瞬間だった。
 汚れないまま道を進める唯一の方法。
「俺、多分それが誰か知ってる」
 冷静に、かつ相手に伝わりやすいように呟いた。日本刀を強く抱えたのと同じぐらい
に、中田の目だけが吉田を捕らえた。黒すぎる瞳の奥に浮かんでいたものは何だったの
だろうか。答えを探す前に、決めた方針に従って自らを動かす。
「でもどこにいるかは知らない。沢山人がいる場所にいけば見つかるかもね」
 焦らず、弱っている中田でもしっかり聞き取れるように心がける。頭に沸き出した嫌
な感情に支配されないように制御する。

417 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:39:29
「明日の午後二時二十分、高いビルの近くにある貯蓄倉庫に人が集まるらしいから」
 溜め息で間を開けてから無表情を極めた。
「行ってみれば?」
 現状では自分に出来る限りの最善策だった。一度これと決めたら動かない性格が生き
て、中田を進ませるべき道を更に強化していった。
「それまで寝てれば休めるだろうし。道具? も、そのとき返す。必要だろうから」
 中田の目の黒が更に深くなっていく。言われたとおりに動くのが嫌なのか、必死で意
識をつなぎ止めているようにも見えた。けれど生理的なものには勝てないらしく、薄い
瞼からはゆっくり力が抜けていき、やがて完全に閉じる。口元から流れていく涎が嫌に
目立っていて、それが更に吉田の道を舗装した。
 風が吹いていた。太陽は雲に隠れて、地上は影に覆われた。数秒してから一瞬だけ光
を取り戻したが、すぐに戻って暗い世界が作られた。それは着ている服と、頭の中の色
に似ていた。
 吉田は考える。方針を決めた自身の背中は、同じく意志を持って街へ消えていった先
輩のように確かなのだろうか。とりあえず汚れていることは分かるがそれ以上は無い。
イメージと繋がれていたもう一つのイメージが鮮明に浮かんできていたせいで。
 あの申し訳なさそうな態度や笑顔も綺麗では無かったのだ。良くあるドラマのように
作られた綺麗事が汚れていないわけは無い。感動するよう仕向けられた話には飽き飽き
していたから、そういうことなのだろう。進む道は間違ってはいない、性格を自覚した
上で取った仕様がない行動だった。
 大丈夫を確信する。一度決めれば突き進むことが出来ることも知っていた。しばらく
は迷うこともない、そういった思考回路はぐしゃぐしゃにして捨ててしまった方が都合
も良い。端から見ればどうしようもなくても、吉田にとっては真実であった。
 やがて確かめるために、何も持っていない両手を目の前に並べて眺めた。そして気づ
く。
 おかしい。震えが強くなっている。




418 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:41:16
【POISON GIRL BAND 吉田大吾】
所持品:日本刀、(ウォーハンマー、ラドムVIS-wz1935(9/11))
状態:汚れに対する嫌悪、背中に軽い汚れ
第一行動方針:明日の集まりをどうするか考える
基本行動方針:汚れずに進める方針に従う
最終行動方針:方針の結果次第
【よゐこ 濱口優】
所持品:銛
状態:良好
第一行動方針:明日のため人を集める
第二行動方針:有野を捜し、指示してもらう
基本行動方針:(考えていない)
最終行動方針:(考えていない)
【オリエンタルラジオ 中田敦彦】
所持品:ルービックキューブ
状態:気絶に近い睡眠
第一行動方針:道具を取り返す
第二行動方針:神(意志無し)の正体を知る
基本行動方針:減らす
最終行動方針:神になる


【現在位置:E5・元町】
【8/16 10:00頃】
【投下番号:232】

419 : ◆xCi5vGY7XY :2007/07/29(日) 01:43:57
以上です。
支援してくださった方ありがとうございました。

420 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:48:18
>>370
田中っていう人間が伝わってきます。
もう1人の田中との出会いはどう転ぶのか楽しみです。
>>382
あいかわらず本坊が恐ろしい…どうなってしまうんでしょう。
今後の展開が激しく気になります。
>>418
中田の登場楽しみにしてました。
その濱口の行動方針はある意味恐ろしいです…。

421 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:29:26
>>418
乙です!
これは意外な展開。
うん、いいパスするなぁ……。

422 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:34:58
>>395
燃える展開にwktk
追い詰められても日村らしい思考に癒されたw

423 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:55:23
>>418
新作乙です。
ついに中田キター!!そして濱口が今回はマーダーじゃなかったことに安堵。
てか >基本行動方針:(考えていない)
   >最終行動方針:(考えていない)
とか、見事にハマグチェクオリティ発揮www

424 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:00:16
>>418
投下乙
中田より吉田の方が怖いと思うのは自分だけでいい

425 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 09:37:10
>395
日村の話待ってました!
この後の展開が気になる…もう一度設楽に会えるのか会えないのか

426 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/31(火) 01:15:32
>>347-355 松竹編第七話

 運命の人 アメリカザリガニ柳原・森三中大島


 柳原は今、とてつもなく後悔している。
 人は幾つになっても後悔を繰り返す生き物だ。あの時こうしていれば。あの時ああしなければ。
過ぎた出来事に対して、人は常に考える。後悔が生み出すものは自己嫌悪と自己啓発である。後者
に繋がる後悔ならば多少なりと意味のある事なのだろう。しかし大抵の場合は前者で止まってしま
うもので、柳原もまた例によって沸々と沸き上がる自己嫌悪に陥っていた。当てもなく岡田を探す
と言ってしまった事、時間がないとはいえろくに休む間もなくゲームセンターを出てしまった事、
つまらない理由で平井に当たってしまった事。
 平井の言う通り、大人しくゲームセンターで待機しておけばよかった。
 それは疲労からくる弱音だった。足場の悪い森の中を歩き続けるには、何か自分を甘やかすきっ
かけが欲しくなる。そういえば食事もまだ摂っていない。襲撃される事を恐れているのではない。
一度立ち止まったらそのまま動けなくなってしまいそうなほど、体力の限界はとうの昔に過ぎてい
たからだ。何なら今は、体力の限界3週目といったところだろうか。
 柳原は今のところ誰かに襲われるといった類の危険には巡り合っていない。
 しかし定期的に流れる全島放送のおかげで、忘れていたい現実は簡単に思い起こされる。プログ
ラムは着実に進行し、人の命を奪っている。いつも元気で明るく振る舞っている柳原の胸に恐怖を
抱かせるには、それだけでも充分だった。
「はあ……」
 今まで、こんな大きなため息をついた事があるだろうか。
 怖いというのは勿論そうだが、本当の恐怖を味わっていない柳原にその表現は相応しくない。
きっと何より寂しかった。大勢の芸人達がいるはずのこの島で、柳原はあまりにも一人の時間が長
かった。一人を望んでいないが故に、柳原はどうしようもなく寂しかった。

427 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/31(火) 01:18:10

 ゆっくりと流れる時間は、何の前触れもなく豹変した。
 大地が揺れた気がした。
 少なくとも、空気が大きく動いた。
 柳原は周囲を見回した。しかし暗くて何一つ見えない。それでも確かに、何かが向かってくると
感じた。
 何かが見えるより先に、揺れる草の音が聞こえた。
 森がざわめく。
 柳原は立ち止まり、耳をひそめた。
 成長しすぎた草を踏みつける音だった。ついさっきまで自らの足元が鳴らしていたそれとよく似
ていた。だが荒れている。その音は、繊細さを失っている。
 ゆっくりとそちらを向いた。闇が動いていた。例えようがない。それは初めて見る、四次元の世
界のように思えた。
 柳原は決めていた。出会った人物が誰であっても接触を試みると。相手がどんな武器を持ってい
ようとも逃げないと。そして岡田の行方を聞いて、遭遇した人物も一緒に助けるのだと。
 柳原が平井の計画に疑問を持った事は一度もない。もしかしたらその計画が失敗するかもしれな
いと考えた事すら一度もない。必ず成功するし、この道中自分が死ぬ事もまず有り得ないと、意識
せずともそう思っている。ほんの少し我慢すれば、何事もなかったかのように元の生活を送れる、
そうも思っている。柳原は誰かに襲われるといった類いの危険には巡り合っていない。その事実が、
柳原の判断を誤らせているのかもしれない。
「ヴオェッ」
 柳原は目を凝らした。声だけ聞くと、明らかに中年のオッサンがえずいているようだった。
 闇に影が浮かんだ。がたいのいいオッサンが、のそりのそりと近付いている。
 柳原はバトルロワイアルに参加している芸人を片っ端から思い浮かべた。しかし思い浮かんだど
の芸人とも、その影はリンクしない。


428 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/31(火) 01:19:21

 柳原の脳裏によぎった最後の人物は、もう人間ですらなかった。いや、正確には、人間であるの
に人間の在るべき姿ではなかったのだ。弾痕の残る体はどす黒い血に染まり、千切れた首は在るべ
き場所から今にも崩れ落ちそうなほど脆く、その顔は垂れ流した涙に汚れている。目の前にある影
とは似ても似つかないはずのモンスターの姿が鮮明に映し出され、柳原の視界から離れようとしな
かった。
 震えた。
 手足が、全身が、精神が……。
 柳原という存在を作る全てのものが震撼した。
 息を呑んだ。むしろ、息が出来なかった。
 柳原は許しを請うように見つめた。参加者たちが味わった苦悩と無念を全て背負うとでも言うか
のように、強い眼差しで見つめた。
 揺らめくように近づいてくるモンスターの影は、あるところでピタリと止まった。
 視線がぶつかった、ような気がした。
 モンスターは両手を伸ばしていた。それが何を意味するのか、柳原には一瞬で理解出来た。
 息が出来なかった。
 これは幻想でもなければ、登場人物の心理を描写するための使い古された表現技法でもない。柳
原は確かに息が出来なかったのだ。
 思ったよりも二人の距離は近かったようだ。だから今、柳原は首に巻きつく肉厚の手のひらをリ
アルに感じ取る事が出来るのだ。
 柳原の視界はゆっくりと傾く。
 無防備だった柳原の体は、素直に後ろへと倒れた。

 空を遮る葉の間から、一粒の星が現れた。無限に溢れる星屑の中から唯一、柳原に小さな光を見
せてくれた星だった。
 その時柳原は「運命」という言葉を思い浮かべた。
 空に広がる星のように、世の中にはたくさんの人が溢れている。その中のほんの一握りの人間が、
自分にとって「運命の人」になり得るという。運命の人は、未来を大きく変えるきっかけになる人
物であったり、生涯の伴侶であったり、自らの一生を語る上でかけがえのない存在なのだと思う。
ならば自分にとっての「運命の人」は誰だ。いつその人に出会えるのか、それとももうすでに出
会っているのか――。


429 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/31(火) 01:21:20

 そこまで考えて、やめた。
 柳原にとっては無意識である。しかし、柳原の体は認識していた。喉元が圧迫される事により生
の終わりは目前まで迫っていた。もうすぐ幕は閉じる。ならば意味のない思惟など柳原には必要な
い。
 柳原は抵抗しなかった。その代わり柳原の両手には、根強く育つ草が固く握られていた。
 静かな夜だ。
 だからこそ、その声はとてもよく響いた。
「死なないで」
 か細い声だった。だが耳を澄ませなくとも届いた。
「……でも死んで」
 迷いは締めつける指にもよく表れていた。跡を付けてしまいそうなほどに力を込めたかと思えば、
ゆるゆると力が抜け僅かに指の位置がずれる。そしてまた全体重がその指に乗りかかる。
 追い詰められているのは柳原ではない。
「でも死なないでぇっ!」
 怒号のように届いたのは、怒りではなく悲しみだった。遠吠えにも似た号泣の音がその後に続く。
柔らかい指は既に添える事しか出来ずに意思を失っていた。そのため柳原は激しい咳をひたすらに
繰り返した。
 慌てて上体を起こそうとしたところで、柳原は初めてその人の姿を見た。喉を押さえ未だ咳き込
みながら、やっとこれまで起こった事を把握する。
 乱れる呼吸を整えながら、人間らしく黒々と光る後頭部を見つめた。泣き喚く声と合わせるよう
に、その頭は震えていた。柳原の体を跨いで圧し掛かっているその人物が、腹部のシャツを濡らし
ている。起き上がるにも起き上がれないでいる柳原はどうしたものかと小さく唸り、目の前にある
頭を軽く撫でた。撫でられた頭は花が萎れる時のように小さく項垂れ、その状態は悲しみのサイレ
ンが鳴り止むまでずっと続いた。


430 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/31(火) 01:23:24

 森が静けさを取り戻すには随分の時間を要した。
 無風状態に近い今の気候は、夜とはいえやはり暑い。全身を汗の膜で覆われている。柳原は何か
煽ぐものを探した。
 見つけ出すまでに消費した時間は一瞬だった。柳原は支給された武器、真昆布を手に取ると自分
の顔を丁寧に煽いだ。生温い風はフワリと舞い汗の膜を薄くする。
 隣を見やると物欲しそうな丸い顔とぶつかり、柳原は手を止めた。
 今度はその相手に風を送りながら、気遣うように話しかけた。
「何があってん。大島……」
 理由などない。そうは思えなかった。武器も持たずに柳原を襲った芸人、森三中大島美幸が極度
の錯乱状態に陥っていたのは、何かそれなりの理由があると柳原は考えた。二人は親しい間柄では
ない。しかし柳原は、大島はもっと強くたくましい女性であると勝手なイメージを抱いていた。そ
のため大島が狂乱しながら柳原を襲ったりボロボロと涙を零し泣き狂ったりする姿が、どうにも似
合わないと感じていた。女性だからといってしまえばそれまでなのだが、それだけでは何故か腑に
落ちないものが柳原にはあったのだ。
 大島が柳原に返答するまで、10分以上のタイムラグが生じた。それほど大島は精神的な負担を強
いられていたのかもしれない。柳原はギュッと締めつけられる胸を左手でさすり、時折優しく相槌
を挟みながら、大島の話を静かに聞いた。
 大島は途切れ途切れになりながら、劇団ひとりを襲った事、突如現れた音と火花に驚き武器を無
くしてしまった事などを柳原に話した。そしてバトルロワイアルの地に立った大島美幸を語る上で
避けては通れない、彼女の運命を狂わせたとある出来事を、震える体を抑えながら語り始めた。
 柳原はその声に耳を傾けながら、自らの幼さを痛感し、憤慨した。


431 : ◆//Muo9c4XE :2007/07/31(火) 01:24:30

【アメリカザリガニ 柳原哲也】
所持品:真昆布
第一行動方針:岡田を探す
基本行動方針:芋蔓式に人を集める
最終行動方針:ゲームの終了

【森三中 大島美幸】
所持品:なし
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明

【現在位置:I5 森】
【8/16 01:50】
【投下番号:233】

432 :名無し草:2007/07/31(火) 09:36:58
>>431
乙!
柳原と大島ってなんか意外な組み合わせだ
続き楽しみに待ってます

433 :名無し草:2007/07/31(火) 23:15:11
>>431
投下乙です!
松竹編早ぇよw
大島の過去(?)に期待

434 :名無し草:2007/08/02(木) 08:27:21
>>431 投下乙
大島の過去が気になる!
ほしゅ

435 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/08/03(金) 16:27:07
>>192-199 雨上がり編の続きです。



校舎の外に出た蛍原は、雑木林に身を潜めてデイパックから地図を取り出した。
遠目にはたいした危険も無いように見える山でも、実際に入り込むと
右も左も分からなくなる……というのはよくある事だ。
先にしっかりとしたルートを決めておかなければ、合流どころではなくなってしまう。

蛍原は地図と名簿を広げて現在位置と目的地をざっと確認する。
蛍原と番号が一番近い亮とでも一時間近くの差が開いてしまっている以上
ロンドンブーツとくりぃむしちゅーや大竹が合流する前に追いつくのは厳しいだろう。
蛍原はまず宮迫との合流場所に急ぐことにした。
三村の到着する時間近くになれば彼らも動き始めるだろう。
万が一合流に失敗してしまっても、宮迫との待ち合わせ場所をあらかじめ確認しておけば
時間ぎりぎりまで淳たちを探すことができる。

「ほとんど真西やな」
地図とコンパスを確認した蛍原が小さく呟く。
目標の送電線は頭の先だけが僅かに木々の間から覗ける程度だが
コンパスは目標の送電線のほぼ水平を指していた。
これならそう道に迷わずに目的地まで辿り着けそうだ。
蛍原は名簿をデイパックにしまうと、地図を折り畳んでポケットにねじ込む。
デイパックから突き出している大きなケースの中身を今確認しようかどうか迷っていると
後ろから恐る恐るといった感じで声を掛けられた。


436 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/08/03(金) 16:28:09

「ホ、ホトちゃん? 」
「おわっ! びっくりしたぁ」
蛍原が声に驚いて振り返ると、そこにはネプチューンの堀内健がデイパックを
両腕に抱え込んで困ったように立ち尽くしていた。

「なんやホリケンか。どうしたん」
途方に暮れているといった様子の堀内に、蛍原は特に警戒をする様子も見せずに向き直った。
蛍腹に攻撃の意思がない事が堀内に伝わったのか、堀内は蛍原の前に急いで駆け寄ると
次々と質問を投げかけてくる。

「ホトちゃん一人なの? 誰かと待ち合わせとかしてる? 」
「ああ、宮迫と待ち合わせやで。ホリケンも誰かと待ち合わせか? 」
不安そうな表情の堀内に、蛍原はそういえばホリケンは自分の次だったっけと
名簿の順番を思い起こしながら答えた。
堀内は迷子の子供のような、困惑と不安の入り混じった表情で蛍原を見つめていたが
蛍原が質問を口にした途端に表情を曇らせた。

まずいことを聞いたかと、蛍原が答えを制する前に、堀内が幾分悲しそうな表情で話し出す。
「席がバラバラで、待ち合わせできなかったんだ。
俺がいちばん最後だから、外で待っててくれてるかと思ったんだけど……
出てきたら泰造も潤ちゃんもいなくって。ウドちゃん達が出口のところで、その……死んでたから
もしかしたらどこかに隠れてるだけかもって思ったけど、俺が出てきてもいないし……」
よほど不安なのか、話しているうちに声が小さくなっていく。
確かに教室のあの様子では、席が隣か余程近くなければ待ち合わせは難しいだろう。


437 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/08/03(金) 16:29:13

「……どうするん? 探すんか? 」
「うん……探したい」
躊躇いがちに問いかけた蛍原の言葉に、堀内は俯いたまま頷いた。
一旦離れてしまった状態で、目印もなしに再会するのははっきり言って厳しいだろう。
あまり考えたくはないが、故意に置き去りにしたとか、残りの二人がゲームに乗ったという事もありうる。
堀内の様子を見る限りその可能性は低いだろうが、バトルロワイアルという異常な状況を考えると
何が起こっても不思議ではない。
頭ではそう分かっていても、とてもそんな事は言い出せない蛍原に、堀内が縋るような目で訴える。

「あのさ、俺も一緒に行っていい?ダメなら、無理にとは言わないけど……」
怖いんだ、と呟いて俯く堀内を見て、蛍原は迷い犬を拾ったような気分になっていた。
誰かを探すのには一人より二人の方が効率は良いだろう。
それに堀内はくりぃむしちゅーと仲が良い。一緒にいれば警戒されることなく合流できるかもしれない。

「ええよ。宮迫もアカンとは言わへんやろ」
デイパックを担ぎ直した蛍原が堀内を元気付けるように軽く肩を叩いて言うと、堀内が嬉しそうにぱっと顔を上げた。

「ほんと?! ありがとう! 」
「ええねんけど、くりぃむかロンブーか大竹さん探さなアカンから、ちょっと急ぐよ」
「くりぃむ? くりぃむしちゅー探すの? 」

蛍原の言葉に、抱えていたデイパックを背負った堀内が意外そうに聞いてきた。
「そうやで。俺らと待ち合わせしとった訳やないんやけど、場所の目星はついてんねん。
あいつらな、多分乗らん方向で動いとる」
蛍原はコンパスと森を見比べながら、進む方向に目星を付ける。
「それに便乗しようと思ってんねん」
冗談めいた口調で付け加えた蛍原に、じゃあ俺らも便乗するよと堀内が笑って続けた。


438 : ◆U2ox0Ko.Yw :2007/08/03(金) 16:31:14

【雨上がり決死隊 蛍原 徹
状態:異常なし
所持品:ガンケース (中身未確認)
第一行動方針:ロンブー・くりぃむ・大竹のいずれかを探して合流
基本行動方針:宮迫と合流
最終行動方針:生存 】

【ネプチューン 堀内 健
状態:異常なし
所持品:未確認
第一行動方針:蛍原の手伝いをする
基本行動方針:名倉潤と原田泰造を探す
最終行動方針:生存 】

【現在位置:校舎前の雑木林】
【8/15 15:38】
【投下番号:234】


439 :名無し草:2007/08/03(金) 17:31:11
>>435-438
乙です!これから話がどう転がっていくのかがとっても楽しみです。

440 :名無し草:2007/08/03(金) 17:37:03
>>438
乙です。
なんかしらんがこの組み合わせ……

平和だなーっと思ったw

441 :名無し草:2007/08/04(土) 02:02:25
>>438
乙です!なんかちょっとほのぼのしちゃったw
いいコンビになりそうだね。これから楽しみ

442 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:44:23
>>386-395の続き。
土田と日村の話でもあり、また他の誰かの話でもあり。





狙いをつけた銃口。引き金を引く指のゆっくりした動き。にんまりと笑みを浮かべるツッチー。
もう何もできることはなかった。その場で自分のできることはやりつくしていた。
ここから挽回できる何かがあるなら、こうなるまえに試していたはずだ。
もう本当に何もない。おしまいはすぐそこだ。あの世が口を開けて待っている。

…だが、恐ろしさに目をつぶろうとした瞬間、事態は急変した。

ガサガサガサっとツッチーの頭上の木が揺れ、落下する物体。
思わず俺は指差しながら声を出していた。どう考えてもありえないものが落ちてくる!

「…つ、ツッチー、上! 上!」
「何を今さ…
グワァン! バサ!
 おぁっ!
ドゴォ!
 ぐ…ぅ」
バタリ、ドサ!



443 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:46:03

→→→


 あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ!

 『おれはツッチーのマシンガンで撃たれて死ぬんだと思ったらやつの頭の上に金だらいと人が落ちてきた』

 な…何を言っているのかわからねーと思うが
 おれも何が起きたのかわからなかった…

 頭がどうにかなりそうだった…

 吉本興業だとかホリプロだとかそんな巨大な会社じゃあ断じてねえ
 大川興業前総裁の身体をはった芸の片鱗を味わったぜ…


                                   ―― B. Y. ヒムナレフ
←←←


444 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:48:16

おしまいだ、と思った。
確かに思ったはずだ。

数秒前に死を覚悟したにもかかわらず、俺はまだ生きている。絶賛存命中だ。
けど今まさに目にした、奇跡的にシュールでベタなこの光景をどう理解すればいいっていうんだろう。
何この状況。あまりのことに俺一瞬固まっちゃったけどこの状況ちょっとすごくない?
あの生きるか死ぬかの状況から一変して犯人の頭に金だらい直撃だよ。
もはや驚きすぎて志村後ろ的なリアクションしちゃったよ。後ろじゃなくて上だったけど。
しかも命がけで超真剣に演技しちゃってたんですけど俺。何これドッキリ? ドッキリなの?
ならこのハマりっぷりはあの解散ドッキリ以来だよ俺的に。衝撃だよ。寿命縮んだよ。
いやむしろ俺寿命もうちょっとで終わるところだったんだった。奇跡だよこれ。超奇跡。
だって何あのタイミング。完璧だったんですけど。ほとんど神業としか思えない。しかも笑いの神。
ひょっとして木の上でタイミング見計らってたとか言わないよね? だとしたら凄すぎる。
ベテランAD並…いやADでベテランてのは問題あるか、ああ違った、そういう問題じゃなかった。
とにかく見事にギリギリのタイミングだった。あと1秒遅かったら俺この世にサヨウナラだよ。

…しかし金だらいにもビックリしたけど、そのあとに落ちてきた人にはもっとビックリだ。
頭下にして落ちながらツッチーの延髄めがけて鮮やかなクロスチョップ決めていったよ。
あの人恐るべき身体能力の持ち主だよ。ツッチーぶっ倒れて動かないんですけど。気絶してるよあれ。
しかも何か…頭に鍋かぶってないかあの人? 肩のあれ風呂敷? さらにウエストポーチ?
…凄すぎるよ。この状況でその格好って芸人として隙がなさすぎるよ。頭下がるよ。
ていうかそれより何よりホントありがとうございます。あなたは俺の命の恩人です。

「江頭さん…!」

でもあの、腰打ったみたいですけど大丈夫ですか?


445 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:50:04
→→→


「うう…」
「江頭さん…!」
「あ、えーと…」
「日村です、バナナマンの」
「あ、うん、わかってる、ごめん」
「あの、江頭さん、ありがとうございました…腰、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫」
「ホントに助かりました、もう俺ダメかと思って…」
「…」

江頭さんは地面の上で腰をおさえて海老のように丸まったまま、俺の言葉に困ったような笑顔を作った。
左手で腰をさすりながらよろよろと起き上がると、ツッチーのほうへと四つん這いで寄っていく。
うつぶせに倒れたまま動かないツッチーの様子をうかがいながら、江頭さんは心配そうな顔でこう言った。

「し、死んでないよね、ね?」
「…た、たぶん」

返答の声がちょっと震える。俺が助かったかわりに、ツッチーが死ぬなんてとこまでは考えてなかった。
今更のように、視界の中でぴくりともしないツッチーが心配になってくる。

…生きていて欲しい。俺を殺そうとしたことにしても、何かの間違いって可能性、あるから。

俺とこいつはほぼ同期で、そりゃ設楽さんのがこいつと仲良かったけど、俺とも仲悪くなんてないんだよ。
襲われたときはそりゃ怖かったし、とにかく逃げることばっか考えたけど、やっぱりツッチーはツッチーだ。
こんなふうにこいつが俺のこと殺そうとするなんて、やっぱり何かの間違いだとしか思えない。
せめて、理由くらいは聞いておきたい。何で俺を殺そうとしたのか。何でこんな殺し合いに乗ったのか。

446 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:52:02

…でも、もう一度起き上がってきて襲われたらそれはちょっと怖いな。話とかする間もなかったら困る。
 けど、目の前でこいつに死なれるなんて絶対嫌だ。こいつ無愛想だけど、ほんとはいい奴なんだから。

相変わらず目を閉じたままのツッチーを見てたら少し怖くなってきて、縋るように横の恩人に目をやる。
その人はなぜか、指先でツッチーの頬をつついていた。…江頭さん、頬で人の生死はわかんないと思います多分。
触るのが怖かったけれど、俺はツッチーの腕をとった。そっとふれた手首の血管は、ちゃんと脈打っている。
よく見れば、うつぶせの背中も小さく上下していた。ただ気絶しているだけらしい。よかった。生きてる。

「大丈夫です江頭さん、土田、気絶してるだけみたいです」

江頭さんはこちらを向いて俺の目を見ると、心底安堵した顔をした。この人も本当にいい人だ。
落ちたときの衝撃のせいか、ずれた鍋の縁が右目を半分隠したままで、何か不思議な顔の江頭さん。
その姿がおかしくて、ちょっと笑った。江頭さんもつられたのか、鍋をなおしながら笑顔を見せる。

俺は運がよかった。この人がたまたまあの瞬間、木の上にいてくれたおかげで助かったんだから。
そしてあの完璧なタイミングで金だらいを落としてくれたおかげで俺は生きのびられた。
金だらいで助かった命なんて、芸人らしくていいかもしれない。嬉しくなってつい、ニコニコしてしまう。

それにしても、何で江頭さんは木の上にいたんだろう。ていうか金だらい持って木に登ったんだろうか。
その姿を考えるだけでどんどんおかしくなってくる。鍋かぶって風呂敷巻いて金だらい持って木登り!

「江頭さん、あの、なんで木の上に?」
「んー、見つからないと、思って」
「あ、隠れてたんですか?」
「う、うん」
「そっか、ここ川辺で目立つから…俺も気をつけなきゃいけなかったな…」


447 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:53:18
つい油断して普通に座り込んじゃったけど、こういう狙いやすい場所でそれはダメだよな。
なんか冷静にもの考えられてたし、色々悟ったような気になってたけど、まず前提でコケてるよ俺。
江頭さん、こんな格好してるけどすごい冷静なんだなあ。さすがだ…。

「江頭さん、すごく落ち着いてるんですね」
「えっ? そ、そんなことない!」
「俺、隠れるとか思いつかなくて…江頭さんがいなかったら死んでましたよ」
「や、俺、たらい、落としただけだろぉ…」
「いや、あの金だらい落とすタイミング、完璧でした…むしろ奇跡ですよアレ」
「そ、そう?」
「しかも江頭さんまで落ちながらクロスチョップ決めてましたよね? あれも狙ったんですか?」
「あ、違う、たらい落としたら、荷物も引っかかって、落ちて…拾おうとしたら、俺も落ちた」
「え、アレ偶然ですか?!」
「うん、落ちて、下に首、見えて、何となく…」

…何となくアレやれちゃうんですか江頭さん。身体能力の高さもさることながら、何か…持ってるなあ。
俺なんか木も登れるか怪しいのにさ…落ちながら何となくクロスチョップ、しかも決まるって…。
感心してほうっと溜息をついたら、江頭さんがもう一度、ゆっくりと口を開いた。

「あの、あれは、さ」
「はい」
「クロスチョップ、じゃなくて、フライング、クロスチョップ」
「…あ!」
「ほら、ホントに、飛んでるだろぉ」
「そうですよね、ホントに飛んでますもんね、ミル・マスカラスより本物ですよ!」
「お、俺、ミル・マスカラス以上?」
「以上ですよ、ホントにフライングしてるんですもん!」
「そ…そっか、へへ」


448 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:55:02
はにかみながら、でも得意げにこめかみを掻く江頭さんを見ていたら、つい吹き出してしまった。
そんな俺を見て、江頭さんも笑い出す。不思議なほど和やかな空気がそこには流れていた。
まさかこんなところで、プロレスの話ができるなんて。何だか普段の生活に戻ったみたいだ。
幸せな気分にひたっていたら、地面につっぷしたままのツッチーが小さくうめいた。

「やばい、ツッチー起きるかも」
「に、逃げる?」
「ええ、俺は逃げます…江頭さんは?」
「…俺も」
「あ、じゃあ江頭さんも俺と一緒に来ませんか?」
「え、どこ、行くの?」
「学校から見て真西に進みたいんで、とりあえずちょっと南のほうの小屋目指します」
「小屋…、待って」

言いながら、江頭さんは近くに落ちている自分のデイパックを引っぱると地図をとり出す。
…そういえば俺の荷物、穴だらけになっちゃったけど持っていけるんだろうか。
ふと思って放り投げたままのデイパックのほうに目をやろうとしたとき、江頭さんが声をかけてきた。

「あの、小屋、ってこれ?」
「えーと…あ、そうです、このH5の」
「んー、俺、人いそうなとこ…集落、行こうと思ってる、から」
「ああ、そうなんですか…じゃあ遠回りだからダメか…」
「ごめん」
「とんでもないです、あの、ホントにありがとうございました」
「いや…」

俺の感謝の言葉に照れたのか、少しうつむきながら、小さな声で江頭さんは答える。
そういう江頭さんの姿に、本当に心から、この人に会えてよかったと思った。
ここに、こういう場所に、江頭さんみたいな人がいてくれて、本当によかったって、そう思った。
俺は何もできないけど、この気持ちだけはちゃんとこの人に伝えておきたい。立ち上がって、姿勢を正す。


449 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:57:02
「…ホントに、江頭さんに会えて、よかったです俺」
「…」
「江頭さんに助けてもらえて、プロレスの話とかできて…何か普段に戻ったみたいで」
「…うん」
「ここ来てから、初めて声出して笑えました…本当に、ありがとうございました」

深々と頭を下げた。多分、人生で一番、心をこめてお辞儀をしたと思う。
俺が顔を上げたとき、地面に膝をついたままの江頭さんは、とても真面目な顔をして口を開いた。

「あのさ、俺は、俺はさ…、エガちゃんマン、なんだ」
「エガちゃんマン?」
「…俺は、笑いでみんなを救う、エガちゃんマンだ!」

そう言い切った江頭さんは凄い勢いで立ち上がり、俺の目の前に仁王立ちする。その姿はなぜか、神々しい。
頭の金の鍋も、肩の唐草模様の風呂敷も、腰の蛍光イエローのウエストポーチも、そこにささったおたまも。
まぬけなはずのその全てがなぜか、俺の知っているどんな「何とかマン」よりもカッコ良く見えた。

「…江頭さん、“エガちゃんマン”、すごい似合ってます」
「ほ、ほんと?」
「ホントです、最高ですよ!」

笑顔でそう告げると、江頭さんは仁王立ちのまま、顔をくしゃくしゃにして笑った。
そんな江頭さんに「荷物をとってきます」と一言ことわって、穴だらけの自分の荷物のところへと向かう。
中身を確かめると、なかなかに悲惨な状態だった。ペットボトルに穴があいたのが痛い。いろいろびしょぬれだ。
名簿と地図、鉛筆、食料、ガスボトルは救出したものの、BB弾の袋に風穴があいたせいで荷物の中が混沌としている。
とりあえずペットボトルを捨ててから、軽く振って水を切ると、BB弾もいくつかこぼれた。
もうBB弾に関しては諦めるしかないが、乾パンの残りの半分ほどが砕けてしまったのと、水がなくなったのはキツい。
少しだけ、ツッチーの荷物から水と食料をくすねようかという気が起こったものの、やめておいた。
できるだけそういうことはしたくない。だから、あのマシンガンもそのままにしておくことにする。

450 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:58:15

濡れた紙ものを左手に、乾パンの袋をもう一度ボロボロのデイパックにおさめ、背ではなく腹に抱えてみた。
BB弾がこぼれるのを防ぐためにデイパックの底部分の穴を右手で塞いで立ち上がり、俺は恩人に声をかける。

「…俺、行きますね」
「うん」
「それじゃあ、エガちゃんマンさん、気をつけて」
「…うん、そっちも気、つけて」

互いの無事を祈りながら、俺たちは別れる。寂しいけれど、また生きて会えると信じたい。
きっと江頭さんは、この先も人を笑わせて歩くのだろう。芸人として、羨ましいことではあった。
けど、俺が芸人でいるためには設楽さんが必要だ。設楽さんなくして、俺はバナナマンの日村ではありえない。
それはとても幸せなことだけど、失うときのことを思うなら、とても不幸なことでもあるんだろう。
蝉がうるさく鳴きわめく森の中へと足を踏み入れながら、俺は独り言を口にする。

「…設楽さん、絶対生きててよ」

まず何よりも、設楽さんに会いたい。会って、言いたいことがある。
きっと設楽さんはわかってる、それでも、改めてちゃんと言っておきたい。
あの黒い目を見て、ちゃかしたりしないで、本気で設楽さんに伝えたい。

「…俺、死ぬまでバナナマンでいたいんだ、設楽さん」

聞こえないと知りながら、この島のどこかにいるはずの設楽さんに向かって呟く。
前へと動かすこの足が、どうか設楽さんがいるところへまっすぐたどり着けますように。
そう祈りながら、俺はただ、ひたすらに歩いた。ただ、ひたすらに前へ。




451 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 00:59:55
【江頭2:50(江頭秀晴)】
所持品:金だらい(大)
真鍮の鍋と古手ぬぐいのヘルメット・唐草模様の風呂敷のマント
蛍光イエローのウエストポーチの腰帯・おたまの剣
ポーチの中に火打鎌と火打石のセット、ガーゼ、包帯、傷薬、消毒薬、メス、ピンセット(各1)
第一行動方針:笑いで世界を救うヒーロー、エガちゃんマンになる
基本行動方針:笑いで世界を救うヒーロー、エガちゃんマンになる
最終行動方針:笑いで世界を救うヒーロー、エガちゃんマンになる
現在位置:森(G6をまっすぐに南下中)
【日村勇紀(バナナマン)】
所持品:ガスリボルバーM19コンバットマグナム4インチ(24連射・24/24)
BB弾控え(1861)、ガスガン用ガスボトル1本
水なし、食料半分粉々
第一行動方針:設楽との合流
基本行動方針:設楽との合流
最終行動方針:設楽と合流してから考える
現在位置:森(G6とG5の境付近、北より)
【土田晃之】
所持品:MP7 A1(13/40)、控え弾丸(40)、ニューナンブM60(1/5)
剃刀の刃×5、食料と水3人分、鉛筆(+3本)
第一行動方針:気絶中
基本行動方針:できるだけ殺して、できるだけ武器をかき集める
最終行動方針:優勝を狙う
現在位置:森(F6との境付近のG6)
【8/16 14:32】
【投下番号:235】


452 :名無し草:2007/08/05(日) 01:03:14
乙。

江頭と日村の会話に癒されましたw

453 :114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/08/05(日) 01:05:46
改変元ネタ:
ttp://www.geocities.jp/rapaz_q/polpol1.html
ジョジョ芸人にノせられてやった。後悔は少ししている。

454 :名無し草:2007/08/05(日) 01:45:14
ちょwwヒムナレフwww
そしてエガちゃんマン地味に強いな…

乙でした!

455 :名無し草:2007/08/05(日) 02:19:47
>>443
フイタwww
投下乙です!
エガちゃんマンを好きにならずにはいられないw

456 :名無し草:2007/08/05(日) 16:52:12
>>451
乙!

和やかだなw
エガちゃんマンはやっぱりすげぇ!
そして設楽と日村の再会が楽しみ

457 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/05(日) 17:11:18
>>273-276 の続き(井戸田編)

『空と君のあいだに 2.』


木の根元に寄りかかりながら、原田はジャケットの内側に着ていたシャツを脱ぎ、破って紐状にしたモノを
己の腹部に巻き付けて行く。
さっそく布に血が滲んで来るのも構わず腹部をキツく圧迫するように布の端を縛ると、そこで少しは楽になったか
原田はふぅと息を付いた。
「…随分と手慣れてますね。」
「一時期、フンドシやサラシばっかりだったからね。」
その原田の様子を傍らの地面に座り込んだまま、しかし先ほどよりは多少は落ち着いたか、ぼんやりと眺めていた
井戸田が小さく呟けば、原田は視線を相手に向けていつもなら苦笑混じりとなるのだろう口ぶりで答えつつ、
右腕にも包帯代わりの布を巻き付けてジャケットを羽織り直す。
そう言えば、最近こそはそういう仕事も減ったようだが、確かに昔は事ある毎に裸かそれに近い格好になっていたはずで。
そういったモノを身につけるのも慣れてしまっているのだろう。

「で…どうするんですか? これから。その身体で。」
しかし、こうやって最低限の応急処置を施したとはいえ、弾丸による負傷は原田の余命を大幅に削っているはずで。
地図に記されている病院に行ったとしても縫合が出来るわけではないし、せいぜい痛み止めが見つかれば御の字といった所。
問いかける井戸田の口調に褪めた色が濃く滲んでしまうのも仕方がないだろうか。
けれど。
「もちろん、健や名倉さんや…このバトルロワイアルを止めたがっているみんなを捜す。」
原田は真っ直ぐに井戸田を見やり、そうキッパリと言い切ってみせた。
「……………。」
どこか子供めいたその原田の態度に、井戸田は眩暈がするのを感じる。
……この人の頭の中には学習するという単語は存在しないのか?
ついさっきくまだまさしに発砲され、バトルロワイアルに乗った芸人が存在する事を、
そして井戸田がくまだを殺してしまった事でもはやバトルロワイアルを止める事など出来ないのだと察するモノだろうに。

458 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/05(日) 17:17:26
「名倉さんや堀内さんや、他の人達もゲームに乗ったと考えたりはしないんですか?」
「する訳ないだろ。俺は、信じているから。」
やはりキッパリと言いきってみせる原田に、井戸田は反射的に口の中で微かに「馬鹿ですか」とツッコミの言葉を発していた。

何でこの人はそんなに無条件で信じられるのだろう。
ここに、すぐ目の前に信頼が無惨な形で裏切られた例が存在しているというのに。

そんな井戸田と自分の間に先ほどからずっと露骨に生じている温度差に、原田は一つ肩をすくめる。
「……これは、ますだおかだの増田くんから聞いた話なんだけど。」
そして話題を変えるように、原田はそう話を切り出してきた。
「ほら…って言っても井戸田くんは知らないだろうけど、うちの上の子がそろそろバトルロワイアルの対象学年だから
 色々情報とか集めて心構えを決めておいた方が良いって思ってさ、あの人バトルロワイアルに反対してるだけあって
 何かいろいろ詳しいし。それでちょっと前に教えて貰ったんだけど。」
「……………。」
いきなり喋りだす原田に鬱陶しそうな眼差しこそ向けるモノの、井戸田が静かにしてください等と言い出さない事から、
原田は相手が一応自分の話を耳に入れる体勢にはなっていると判断し、言葉を続ける。
「何年か前に1日目の夜に全滅で終わったプログラムがあっただろ? その後凄いワイドショーとかで叩かれてた。
 あれ、実は…本当は裏でもの凄い事が起こってたんだ。」
「…何か新型兵器でも投入されてたんですか?」
「違う。そのクラスの学級委員の子の机の中から、クラスの子全員の署名が入った宣誓書が見つかったんだ。
 『私達はバトルロワイアルに参加する事になっても絶対にクラスメートを殺しません』っていうね。
 他の子の家からもその宣誓書のコピーが見つかって…筆跡と指紋を調べた結果、本人達が書いた物と証明されて。」
やはり負傷のせいなのか、ゆっくりとした口調になるのは避けられないけども。原田は言葉を重ねて井戸田の方を見た。

459 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/05(日) 17:19:49
「その後、そのプログラムを監視していた防衛軍の兵士が何人か名乗り出てきて…親たちに証言したんだ。
 その内容はどれもほぼ一緒。子供達は宣言通り、プログラムが始まっても誰一人殺し合う事をせず、
 エリアの中の材料を集めてみんなでカレーを作ったり、川で遊んだり、キャンプファイアーをしたりして……
 それで時間切れになって本部に殺されたって。」
「…TVではそんな事、一言もやってなかったけど。」
熱の籠もった口調の原田に対し、井戸田はぼそりとそう口を開く。
記憶にあるのは、見ていて気の毒になるほどの家族や学校へのバッシングの数々。
『長い事やってるんだし、たまにはこういう回もあるんじゃないの?』と日曜昼間におまかせする番組で
感想を口にした芸能界のドンたる事務所の大先輩までもがとばっちりで叩かれていたような。

「もちろん、こうしたんだろう。」
そんな井戸田に対し、原田は緩慢に両腕を持ち上げて両手にチョキを作り、胸の前で何かを切る仕草をしてみせた。
それは俗にバラエティ番組で『ここ編集でカットしておいてね』という意図で使うジェスチャー。
「そんなの放送したら、バトルロワイアル反対派が増えかねないと局が懲罰を受けるのは目に見えてるしね。」
長話がさすがに身体に堪えるのか、原田はそこで木にもたれ掛かる背中に体重を掛けて大きく呼吸を繰り返し、
しばしの間を挟むと「でも」と新たに喋りだす。
「俺は、その中学生の子達は殺し合わないと決めた通り、誰一人裏切る事なく互いを信じ抜けたんだと思う。
 彼らにそれが出来たのなら、だったら俺達大人だって相方やみんなを信じてやっていける筈だし、
 信じなきゃいけない…そう思うんだ。」

「それが泰造さんの根拠という事ですか。」
「そう言う事。でも俺が駄目だったせいでくまだくんには申し訳ない事になってしまったし…信じる事が難しいって事も、
 十二分に思い知らされた。でも俺は、まだ諦めたくない。」
井戸田の問いに、原田は小さく頷いた。
幸か不幸かはわからないけれど、今回のウソ番組…バトルロワイアルには爆笑問題やくりぃむしちゅーやTake2などと、
かつて一大バブルの熱狂を共に駆け抜けた戦友(なかま)が多く駆り出されている。

460 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/05(日) 17:22:09
彼らと再会し、あの時築き上げた絆を以て協力しあえば、バトルロワイアルを止める手だてやこの島から脱出する方法も
きっと見つけられる筈。
井戸田からすれば夢物語以外の何物でもない、その考えこそが原田を原田たらしめる原動力となっているのだ。
「だから、俺は行かなきゃいけない。で、そういう井戸田くんの方は…どうするつもりかな?」
「俺は……」
逆に原田から今後について問いかけられ、井戸田は口をつぐんで傍らに横たわる小沢を見やった。
小沢に死なれた事で、くまだを殺してしまった事で。原田のようにバトルロワイアルを止めたいなどという
当初抱いていた考えはとっくに井戸田からは削がれてしまっている。
こうやって蒸し暑い中でのうのうと生きている事自体もどこか鬱陶しく思え、出来る事ならば原田の持つジェリコで
額を打ち抜いて貰えれば万々歳なのだけれど、今の原田の言葉を聞く限りその願いは叶わないだろう。
「……………。」
まさか手負いの原田から銃を奪う訳にもいかないし。そう考えた所でふと井戸田はくまだの存在…というよりも
彼が所持していた銃の事を思い出した。
適当に用件を口にして原田と別れた後、あれでこめかみをぶち抜けばいい…そんな不穏な思考に導かれるまま、
ゆっくりとその場から立ち上がり掛かった所で、井戸田の表情に急速に今まで以上にうんざりとした色が浮かび上がった。

井戸田の視界に入っていたのは、藪の中からひょこっと覗く獅子舞の赤い頭。
支給品にそれが含まれていない限り、このバトルロワイアルの参加者で獅子舞を所持しているのはただ一人。
「そんな所で何やってるんですか、たむけんさん。」
井戸田の冷ややかながらもピンポイントな呼びかけに、誤魔化す事はもちろん逃げる事も難しいと悟ったか、
獅子舞は藪の中でガサガサと揺れると、間もなく二人の前に獅子舞を肩に掛け、サングラスを着用したほぼ裸体な男が
ビクビクと挙動不審げにその姿を現す。
「君は……」
東京発信のTVではお馴染みな話芸の神のその姿に、原田が思わず興味を露わに口を開き掛けたのに被さるように。

「す、済みませんでしたぁー! どうぞ命だけはご勘弁ください!」
男は、たむらけんじはそう声を張り上げて蹲り、二人の前で土下座をしたのだった。

461 : ◆8eDEaGnM6s :2007/08/05(日) 17:26:55
【スピードワゴン 井戸田 潤
所持品:結婚指輪・ダーツの矢(20本)
状態:軽い疲労・自己嫌悪・やや自殺願望
基本行動方針:何をやっても無駄
第一行動方針:何をやっても無駄
最終行動方針:何をやっても無駄】

【ネプチューン 原田 泰造
所持品:ジェリコ941 (9mmパラベラム弾 39/40)
状態:右上腕に軽い銃創・腹部に銃創(共に手当て済)
基本行動方針:信じる
第一行動方針:堀内と名倉を捜す
最終行動方針:仲間を集めてこの島から脱出する】

【たむらけんじ (田村 憲司)
所持品:支給品不明 サングラス・獅子舞(共に舞台衣装)
状態:疲労・動転
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:殺されずに済むなら土下座も辞さず
最終行動方針:】

【H6・学校近くの森】
【15日 16:40】
【投下番号:236】

投下が多くてレスが付けられませんが、どれも続きを楽しみにしています。

462 :名無し草:2007/08/05(日) 17:46:48
>>461
投下乙!
切ねぇ…と思って読んでたらたむけんw
続き楽しみにしてます。

463 :名無し草:2007/08/05(日) 17:54:22
たむけん出てたことすら忘れてたww
あれ?ところで関西発信じゃなくて?

464 :名無し草:2007/08/05(日) 18:17:27
>>461
乙!
熱血キャラ少なかったから原田の人物像が栄えるね。
井戸田の動向も気になるけどとりあえずたむけんにwktk

465 :名無し草:2007/08/05(日) 18:26:37
たむけん普通の格好じゃないんだ

466 :名無し草:2007/08/05(日) 18:43:22
>>463
関東では獅子舞、関西では私服が多いらしいよ

467 :名無し草:2007/08/05(日) 19:06:13
>>466 あーそう言う意味か。ありがと。

468 :名無し草:2007/08/05(日) 20:45:50
>>457

乙です。
井戸田かが切なすぎる・・・

たむけんに期待です

469 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:31:14
>>366-370続き 田中編です。


『田中の暴走』


灼熱の日光を防ぎ、狂おしいまでの熱気のみを通す大きな建物の下。
疲れたような安定しない足取りで田中裕二は歩いていた。
彼は困惑していた。
何にかと問われても答えられない。ツッコミどころが多すぎるのだ。
バトルロワイヤル。まさかこの年になって参加させられるなんて。
たけしの説明と彼が作り出した死体は、参加芸人の中でも屈指の芸歴と年収を誇る彼からさえも、余裕と安穏を奪うには十分すぎるものだった。
なぜ芸人なのか。なぜ俺達が選ばれるのか。
もう二十年以上前からテレビの世界で生きてきた。もっとも、当時は太田とのコンビではなかったが。
その後、大学を中退して、太田に誘われるがまま再びこの世界に飛び込んできて、若手のホープとしてちやほやされて。
その後挫折もあった。コンビニでのバイトにばかり精を出していた時期もあった。
けれどまた復活して、それからはトントン拍子で収入もレギュラーも増えていって。
今年はついに芸術選奨文部科学大臣賞なんて大層な賞ももらっちゃって。
今日もこれだけの芸人が集まっている中で栄えある総合司会を任されて。
総合司会なんだからそんな事する必要なんかないのに、太田の奴が相変わらずボケをかましまくって。
いつも通り、いちいちそれにツッコミながら、番組を仕切っていく。そのはずだったのに。

「いくらなんでもこの仕打ちはひどいんじゃねえか?」

自分達が何をやったというのか。ただ、芸人として、他人を笑わせていただけだ。
多分に太田頼みな面もあったけど、それでも馬鹿な脳味噌なりに必死に頑張って来た。
なのに頑張って来た結果が、これだというのか。
俺達が今まで勝ち取ってきた財や地位は、全て砂上の楼閣だったというのか。
俺達の漫才は立派に認められていた。そう思ってたのに。
理不尽に押しつぶされるかのような苦しさ、虚しさがじわじわと広がっていく。
しかしそれと同時に、彼は一つの信念を心の中に打ち立てていた。


470 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:33:26
――人は、殺さない。

そもそも、先程こっそりと確認した武器が到底人を殺せるとは思えないような代物だったっていうのもある。
だが何より、人を死なせるのが嫌だった。
真っ当すぎるほどの小市民である彼にとって、人を殺すという事は完全に許容範囲外のことであった。
そしてそれはこんな状況になっても揺らぐ事はなかった。
例え自らの命を危機にさらされても、人殺しという禁忌を犯すような発想は彼の頭には毛頭なかった。
田中裕二は、あくまで己の倫理に忠実であり続けたのだ。

人殺しはしない。そう決心した彼の頭には、必然的に脱出という案が浮かぶ。
この場に集められた面々の顔を田中は思い出す。
あいつらだって、きっと人殺しなんかやりたくないはずなんだ。みんなで集まればきっと道が開ける。脱出できる。
そのためには俺達が頑張らなくちゃ駄目なんだ。
総合司会である、みんなの代表である俺達が模範とならなくちゃ誰がみんなをまとめられると言うんだ。
まずは太田を探そう。それからみんなで集まろう。みんなで集まれば、きっと希望が出来る。

(光。そしてみんな。絶対に一緒にここから脱出して、また漫才やろうな。
 俺は絶対にこの状況から逃げないから、だからお前らも一緒に頑張ろうぜ)

じわじわ体内を巣食っていく胸騒ぎを必死に押し止め、決意を胸にする田中。
ちょうどその時だった。
彼の網膜が、血だまりの中倒れ伏す四人の男とその内の一人を抱きかかえる男の背中を捉えたのは。


「……はは、あはははは……」

その男は笑っていた。
壊れたような笑い声は、田中自身が打ち立てたばかりの誓いを早くも揺るがし始める。
倒れ伏す四人の男にはいずれも動く気配がない。死んでいるのは明らかだった。
いきなり四人もの死体に出迎えられたのもショックであった。
なるべく犠牲を減らして脱出するという夢物語が早くも不協和音を立てて瓦解したような気がした。
だが、何よりもこれだけの死体に囲まれて笑っていられる男が不気味だった。

471 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:37:18
どうして笑っていられるのか。理由が知りたい。いや、知りたくなんかない。
矛盾に満ちた葛藤を抱えつつふらふらとその男に引き付けられる。その刹那、足が凍った。
垣間見た男の横顔に張り付いた暗い目、歪んだ眉は、この世の絶望を全てかき集めた末に出来た代物のように感じられた。
何故だろう。その男とはよく共演していたはずなのに、初めて見たような顔をしている。
言い知れない恐ろしさが、前頭葉から視床下部までじんわりと駆け巡っていく。
その間にも男は立ち上がり、こちらに振り返ってくる。
ふらふらと立つ男と目が合った瞬間、田中は幽霊を連想した。幽霊と言うには少し肌が浅黒い気もするが。
目いっぱい顔を歪ませた男は、助けを乞うかのように彼を見下ろしてくる。
しかし、男が発するSOSに田中は気づくことが出来ない。むしろ彼自身がSOSを出したい気分になっていた。
男は田中に向き直り、そして言った。

「あなたは、教えてくれますか?」

教えてくれる? どういう意味だ?
予想もしなかった言葉に田中の頭はますます混乱の渦中に巻き込まれる。
意味を求めて、彼の眼も目まぐるしく動く。
やがて、言葉の意味も捉えきれぬまま、ある一点に彼の眼が留まった。
それは、絶望に包まれた彼の顔の真下の、血に塗れた服と体。そして、転がる死体。
先程の死体の群れの中で笑っていた姿と照らし合わせても、これらの因果関係は単純に考えればすぐに説明がつく。
見たこともないような表情を浮かべる男の正体に関し、彼はこのような結論を出す。

――どう見ても殺人鬼です。本当にありがとうございました。

落ち着いて考えれば、男は先程まで血まみれの男を抱きかかえていたのだから自身も血まみれになるのは当然だし、
そもそもその男――田中卓志は田中裕二の直前に教室を出たばかりなのだから、四人を殺す時間的余裕はまるでないのである。
だいたい頭を教室の仕切りにぶつけるようなうっかり者が一気に四人も殺せるなんて普通は思わない。
しかし、いきなり出口付近に転がっていた四人の死体と、その中心に立つ血まみれの男の持つインパクトは、
混乱に突き落とされた田中裕二にとっては余りに大きすぎたのだった。

472 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:39:18
もはや飽和状態に陥っていた彼の頭には、誤解を解くだけの力は残ってなかった。
絶対的な恐怖に直面した彼は、当然質問に答えるどころではなくなっていて。
ついにこの状況に耐え切れなくなる。

「う、うわあああああああああああー!!」

喉元まで出かかっていた恐怖のサインが、ついに口から毀れる。
同時に、彼は一目散に逃げ出した。この男から離れるために。
校舎内にいた頃に立てた勇ましい誓いは、もはやすっぽりと彼の頭から抜け落ちていた。

        *     *     *

目の前にいた小男こと田中裕二は、結局質問に答えないまま、田中卓志の脇を通り過ぎ、走って逃げていった。
ただでさえ小さな田中裕二の体がさらに小さくなっていく様子を見た田中卓志は、ぼそりと呟いた。

「田中さんも狂っちゃったのかな……」

いろいろ混乱していたせいだろうか、彼は今の自分がどう見えるかについて全く考えていなかった。
それゆえ、田中裕二の恐怖の対象が自分だという事に気づいていなかった。
田中裕二の取り乱した様子が目に焼きついた彼は、更に不安になる。
田中裕二といえば、自分が出ていた番組でMCを務めたこともある上、今回の芸人を集める口実であったウソ番組においても総合司会を任されるはずだったほどの大物芸人だ。
あの人ならば、答えを、これからの道を教えてくれると思ったのに。
このおかしな状況は、あれほどの人さえも呑み込んでしまうというのか。
背中を、冷たい汗が流れていく。

答えは得られなかった。
答えを得るにはどうすればいいのか。
また、誰かが来るのを待つのか。
この血だまりの中で、ひたすら答えを待ち続けるのか。
それくらいなら、いっそのことやっぱり狂ってしまおうか。
菊地さんのように、そして、田中さんのように。

473 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:41:26
その時、田中卓志の脳裏に、幾つかの記憶がよみがえる。
二年ほど前、自分達がまだそんなに知名度がなかった頃。
縁があって『爆笑問題のバク天!』に出させてもらって。
『恐怖のバク天芸人』の収録の直前、ガチガチに緊張してる俺らのところに田中さんはわざわざ来てくれて。
頑張れよ、って励ましてもらったっけ。
まだほとんどテレビ出演の経験がなかった中で、あの励ましは本当にありがたかった。
つい一ヶ月前も、DVDの発表会見で一緒になったっけ。あの時は今ここに横たわっている鈴木さんも一緒だった。
「大爆笑間違いなし!」と息巻いていた田中さんは、本当に自信に満ちた顔をしていた。
写真撮影の時も、俺の隣で無邪気な笑顔を見せていた。
そんな田中さんでさえも、狂うというのか。


その瞬間、体内に電撃が走ったような衝撃を覚えた。

――嫌だ! そんな事は認められない!


脳内にたち込めていた黒い霧が晴れていく。
どうすればいいのか。そんな事は教えてもらうような事ではなかった。自力で知るべき事だった。
人殺しなんて出来ない。それなら、生きて他人を救うべきだ。そうじゃないのか田中卓志。
菊地さんの姿を思い出す。今の自分なんかよりももっと深い絶望に包まれていた彼を見て、自分は心を痛めた。
もうあんな風に狂った菊地さんを見るのが嫌だった。だから、山根との雑談に逃避して、そのまま菊地さんの事を忘れようとして。
だけど、それは間違った選択肢だったのではないか。
おかしくなった人から逃げるのではなく、ちゃんと向き合うべきなのではないか。
菊地さん、そして菊地さんのようになった人のために、心を癒してあげるべきなんじゃないのか。
彼らの心を元に戻してあげるのが、自分の役割なんじゃないのか。

ようやく確固たる行動方針が決まった田中卓志は、再び死体の群れの中に跪く。
鈴木拓の顔に手を翳し、目を閉じさせながら、彼はゆっくりと語りかけた。

「鈴木さん、俺はまだまだそちらには行きませんから、山田さんによろしく伝えておいてください。
 菊地さんは俺が何とかするから、安心してくださいって」

474 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:43:19
だがとりあえず、まずはあの人を正気に戻してあげなければならない。
顔を上げ、田中裕二が消えていった方向を見やりながら、すっくと立ち上がる。
後ろで足音がした。振り返ると今度は、髪の薄い個性的な顔立ちの男がいた。
かすかに見覚えのある顔だった。上木総合研究所のベイビー谷本。同じ事務所で、同じ広島県人でもある。
いつもはほとんど動きを見せない顔に疑問を浮かべ、何か言いたそうにしている。
目が合わさる、その瞬間が合図となった。

「ゴメン!」

彼自身でもよく分からないまま言い捨て、そして駆け出していく。
残された谷本は、わけが分からないといった表情でただ彼の後姿を見送る事しか出来なかった。

        *     *     *

(これでも中学時代は陸上部だった。その上今年の夏は24時間テレビでのマラソンのためにずっと特訓を続けてきたんだ。
 だから、割とすぐに田中さんに追いつけるはずだ)

卓志の読みは当たった。
走り出して五分ぐらいたった頃、ついに尚も暴走を続ける裕二の後姿を捉える事に成功したのだ。
足音に気づき後ろを向いた裕二の顔が恐怖で引きつる。

「つ、ついて来るなあ!!」

血まみれの男にまたしても迫られた裕二は必死に叫ぶ。

「待ってください、田中さん!」

卓志もまた叫ぶ。せっかく追いついたのだ。この機会を逃したら、二度と裕二を正気に戻すチャンスはないと思うと自然と足に力がこもる。
真夏の透き通るような青空の下、繰り広げられる鬼ごっこ。
追うのは身長188cmの大男、逃げるのは身長154cmの小男。しかも苗字は両方『田中』。滑稽なまでにアンバランスな組み合わせである。
だが、その鬼ごっこは唐突に中断を迎える。
後ろからの追撃者に気を取られた裕二が、前方に置かれた石に気づかず、躓いて転んだからだ。

475 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:45:02
「うわあああ!」

悲痛な叫びを上げながら地面に転がる裕二。それを卓志は見逃さず、飛び掛って取り押さえる。

「落ち着いてください、田中さん!」
「やめろお! 離せこの野郎!」
「田中さん、僕です! もう大丈夫ですから、とりあえず落ち着きましょう!」
「うるせえ! 殺されてたまるか!」
「誰も田中さんの事を殺したりなんかしませんから、だから」
「ふざけんな! そうやって油断させて殺す気だろ! この殺人鬼!」
 
取り押さえても尚、駄々っ子のように往生際が悪い裕二の放った台詞に卓志は一瞬黙り込む。
何てことだ。疑心暗鬼のあまり他の人間は皆殺人鬼だと思い込んでいるというのか。
このような状況ではよくある発狂の仕方だ。しかし、まさか田中さんほどの人がここまで思い詰めていたなんて。
予想以上に深刻な事態だと卓志は少し考え込む。
裕二はその隙を見逃さない。卓志の拘束を振りほどいて、再び逃げ出そうとする。
卓志が伸ばした長い手も届かず、自由の身になるべく小さな体を前に押し出す。
卓志は尚も諦めずにその背中に向かって声を震わせる。

「みん、みんなだって、殺し合いなんかけしてやりたくないはずなんですよ! だから、怖がる必要なんかありませんから落ち着いて!」

しかし返ってくる返事は無常にも。

「いいかげんにしろ! テメエが言うな、殺人鬼のくせに!!」

完全なる拒絶。それを受けた卓志に落胆が走る。
何てことだ。自分と田中さんとの距離はこんなに遠いものだったのか。
説得すればきっと分かり合えると思ったのに。元に戻す事が出来ると思ったのに。
再び田中さんの背中が小さくなろうとしている。
やっぱり狂った人は元に戻らないというのか。
殺人鬼の幻想を取り除いてあげる事は、もう出来ないというのか。
卓志は肩を落とし俯く。血まみれの服が目に入ってくる。

476 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:46:44
その時だった。
不意に卓志の頭に、一つの発想が浮かんだ。

(はっ、待てよ、よく考えてみたら、田中さんは俺に向けてでしか殺人鬼だと言ってないな……
 もしかして、別に田中さんは他の人間は皆殺人鬼だと思い込んでいるわけじゃないんじゃないか?
 そうだ、逆に考えるんだ。
 『田中さんは俺一人の事を殺人鬼だと思い込んでいる』と考えるんだ。
 考えてみたら、校舎前で田中さんとばったり会った時、俺ってすんごく怪しかったよな。
 服は血まみれで、しかもわけわかんない事言ったりして。
 田中さんが俺の事を誤解するのも当然の事だったんじゃないか?
 そうだ、きっとそうに違いない。
 そして、田中さんが俺の事だけを殺人鬼だと思い込んでいるのなら、十分誤解を解くことができる!)

自信を取り戻した卓志は、再び強い決意を持って立ち上がる。
その時には裕二の背中は消えかかっていたが、二人の体力の差を考えれば、もう一度追いつくのは簡単だった。


「まだついて来んのかよこの野郎!」

もはや泣き声で裕二が叫ぶ。実際、圧倒的な体力と執念の差を見せ付けられ、いつ泣き出してもおかしくないような顔だ。
そんな彼に向かって、卓志ははっきりと、でも落ち着いて言った。

「田中さん、俺の事殺人鬼だと思っているでしょう!」

返ってきたのは忙しない息遣いの音だけであった。しかし尚も卓志は続ける。

「誤解です!俺は人殺しなんかじゃありません!」
「嘘つけ!」

間髪入れずに返ってくる怒声。しかし、もうここで諦めるわけにはいかない。
自分の考えが正しければ、誤解さえ解くことができればきっと田中さんとは分かり合えるはずなんだから。
慎重に言葉を選んで卓志は声を掛ける。

477 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:48:55

「嘘じゃありません! 俺には人殺しなんか出来ません!
 第一俺が出てから田中さんが出てくるまでの間に、四人も殺せるような時間はなかったでしょ!」

実際自分が四人の死体を見つけてから裕二が現れるまで、ほとんど時間が経っていなかった事を卓志は思い出していた。
論理的に攻めたのが効いたのか、裕二の足がちょっとだけペースを下げたような気がする。

「だ、だったら、何で笑ってたんだよ!」
「あ、あれはただ、鈴木さんが、ドランクドラゴンの鈴木さんが死んでたのにビックリして、取り乱してただけです!」
「ならその血まみれの服は何なんだっ!」
「これはただ、鈴木さんを抱き起こしたから血がうつっただけですよ!」

走り詰めでへとへとだった事もあって、徐々に裕二の走るスピードが弱まっていく。
彼自身もようやく卓志の言い分を聞く余裕が出来てきたようで、表情に軟化が見られてきていた。
そんな彼に向かい、卓志は止めとなる台詞を吐く。
ありったけの想いを込めてぶつけるように叫ぶ。

「す、鈴木さんは、俺の親友だった人なんです! 
 親友をこの手で殺せるわけ、ないでしょうがああ!」


刹那の静寂の後。
必死に届けと願った想いは。
ついに、裕二の足を止めることに成功した。

「……………………はは、そうか、そうだったんだ……。
 そうだよな……何勘違いしてたんだ、俺……」

震えた声を出し振り向いた裕二の顔は、恥ずかしそうな、それでいて憑き物が落ちたような顔で。
それを見た卓志はついに自分が裕二と分かり合えた事を理解し。
そのまま二人は、力を使い果たしたかのようにその場に倒れこんだ。


478 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/05(日) 21:51:22
        *     *     *

「俺、さ……逃げてばかりいたんだよね……昔からさ……」

喘ぎ声に混ぜながら、自嘲気味に裕二が語りだす。
流石にその場に寝転んだままだと危ないという事で、あれから二人は木陰に移動していた。
ずっと走り詰めだっただけに、二人ともなかなか動悸が止まらない。
木陰に移ってすぐ、二人はまたしてもだらしなく木にもたれ掛かることになる。
裕二が語りだしたのは、そんな時だった。

「授業を抜け出して喫茶店に行ったり、芝居の稽古をサボったり……そんな自分に何の疑いも持たなくってさ……」

一瞬だけ言いよどむ。
そんな裕二の自嘲に卓志も尚もぜえぜえ喘ぎながら耳を傾ける。

「だけど、今度ばかりは逃げるつもりなんかなかったのに……
 今度こそ、光にもバカにされないように、年長者としてみんなを引っ張って、カッコよく殺し合いを止めさせるつもりだったのにさ……
 何なんだよ……簡単に勘違いして、無様に逃げ出してさ……挙句の果てに殺人鬼呼ばわり……
 情けねえよなあ……もう40を過ぎたいいおっさんなんだぜ、俺が逃げたら誰がこの状況に立ち向かえるっていうんだよ……
 ほっんと、バカだ、俺……」

搾り出すように嘆く裕二。その口調は、悪戯を見咎められた事に対し拙い自己弁護をする子供のようで。
その表情も、泣き出す寸前の子供に酷似していて。
しかしそんな裕二に、卓志は牧師が罪人に教え諭すかのように、優しく話しかける。

「そんなことないですよ、田中さん」
「えっ?」
「俺、励まされましたもん、田中さんに。
 正直俺も、あの時はおかしくなりかけてました。親しい人が次々と死んじゃって、どうすればいいのか分からなかった。
 山根を殺すことまで考えちゃったりして、狂っちゃう寸前まで来ていて。
 それでも、田中さんの事思い出したら――なぜだか知らないけど、何もかも吹っ飛んじゃいました」


479 :名無し草:2007/08/05(日) 22:30:02
支援

480 :◇EeCmUBzmbs氏代理:2007/08/05(日) 22:31:56

正直言っていることに多少違和感は感じている。
それでも成り行き任せで卓志は喋り続ける。

「まだいけますよ、田中さん。まだまだこれからです。
 田中さん達なら、きっとこの馬鹿げた殺し合いを止められます。
 だから、頑張ってくださいよ。みんなを導いてくださいよ」

裕二は顔を上げる。
その顔にはいつの間にか光るものが走っていて。

「だ、大丈夫かな、こんな俺でも……」
「大丈夫ですよ! 俺、爆笑さんの漫才とか見てると、いっつも惹きこまれましたもん!
 あんなに素晴らしい掛け合いの出来る人達が、どうしてこんな殺し合い程度で死ぬって言うんですか!」

卓志の必死の、そして本心からの呼びかけに、ついに裕二は。

「あ、ありがとう……ありがとう……!」

あたかも誘拐犯から解放された子供のように、人目をはばからず、水っ洟をぐずらせて泣いた。
 
        *     *     *

「お前は、これからどうするんだ? 俺はとりあえず光を探すつもりだけど」

ようやく泣き止んだ裕二が問うてくる。
それに対し、卓志はきっぱりと、決意を込めて言った。

「とりあえず菊地さんを探します。菊地さん、山田さんが死んで、すごく傷ついていたようだったから。
 今度こそ菊地さんのために、出来る限りの事がしたいから。
 あと、他の心が傷ついた人の助けになってあげたいですし」


481 :◇EeCmUBzmbs氏代理:2007/08/05(日) 22:34:28
そう言って卓志は立ち上がろうとする。傷ついた人を探すために。
だが、その行動は。

「ちょっと待った」

裕二の制止に止められる。

「それならさ、俺と一緒に探さないか?」
「え?」

意外な提案に首を少し傾げる卓志。
それに対しすっかり落ち着きを取り戻した裕二は続ける。

「ほら、探すならさ、人数が多いほうが楽だろ?」
「でも田中さんは太田さんを探すんじゃ……」
「うん、そうだけどどっちみちいずれみんな集めるつもりだしさ、それに一人でいても二人でいても見つけられる確率は一緒だし。
 何より一人でいるより二人でいたほうがいざという時に安心だろ?
 俺こんな武器しかないけど、それでも二人でいろいろカバーしあったほうがいいと思うんだ」

そう言いつつ裕二はデイパックの中から手頃な大きさの箱を引っ張り出す。
箱の中にはぎっしりと画鋲が詰まっていた。

「うわ、これは……」
「はは、しょぼいだろ? でも俺はかえって良かったと思うんだ。これなら人を殺す心配がないからな。
 光を探す、それと同時に菊地も探す。これでどうだい?」

裕二からの提案を受け、卓志は彼の顔を見返す。
その顔はつい一ヶ月前にも見たように、自信で溢れかえっていて。
その顔を見た卓志は、決断した。


482 :◇EeCmUBzmbs氏代理:2007/08/05(日) 22:36:15
「分かりました。田中さんと一緒に、菊地さんと太田さんを探しましょう」
「おお、分かってくれたか、ありがとう!」

裕二が手を差し出してくる。その手を、卓志は力強く握り返す。
『四度目の正直』という言葉が、彼の脳裏に浮かび上がる。
夏の太陽が、彼らの前途を照らすかのように相変わらず燦々と輝いていた。

        *     *     *

「あ、そういやお前の支給品って何だったっけ?」
「ああ、そういえばまだ見てなかったですね。なんか重いものみたいでしたけど。
 ちょと確認しますね」

そう言ってデイパックを開ける卓志。
次の瞬間、まるで卓志達によるショートコントの直後のような微妙な空気が二人の間に流れた。

「…………」
「…………」
「……これって……言ってみりゃお前よりもよゐこの濱口辺りに支給されたほうがぴったりだったんじゃねえか?」
「…………そうですね……」
「まあ、食料として考えりゃありがたい部類に入るかもしんねえけどさ……」
「一応鈍器としてでも使えますしね……」

ため息に近いやり取りが二人の間で交わされる。
二人を脱力させたその『武器』に関する説明書を、呆けたような声で裕二が読み上げた。

「新鮮! 本場高知産本ガツオ、か……」


483 :◇EeCmUBzmbs氏代理:2007/08/05(日) 22:38:42
【田中同盟結成】

【アンガールズ 田中卓志
状態:服が血まみれ
所持品:カツオ(高知産。凍っている)
第一行動方針:菊地と太田を探す
基本行動方針:人殺しはしない
最終行動方針:心が傷ついた人を一人でも多く助ける】


【爆笑問題 田中裕二
所持品:画鋲一箱分
第一行動方針:太田と菊地を探す
第二行動方針:今度こそ逃げない
基本行動方針:人殺しはしない
最終行動方針:みんなで一緒にこのゲームから脱出する】

【現在位置:G6 林】  
【8/15 14:38】
【投下番号:237】


484 :名無し草:2007/08/05(日) 23:14:09
>>483
投下乙です!
支給武器カツオって……臭そうだねw

485 :名無し草:2007/08/06(月) 06:20:55
武器っつーよりも、完全に食料じゃねーかw
でも夏場はすぐに傷みそうだなあ

486 :名無し草:2007/08/06(月) 08:53:20
>>484-485
現実的w

487 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/08/07(火) 07:39:42
千鳥・中山功太・笑い飯編を書いていた者です。
長い間が出来てしまいましたが、投下を再開します。
まとめサイト投下番号90の続きです。





島中に響いていた放送が終わり、夜の静寂が戻ってくる。
しかし、クラブハウスの中の異質と化した空気は元に戻らなかった。

「あの人、なに死んどん」
しばらくして、ようやく大悟が声を発した。力はなかった。
教室で名前を呼ばれ「はあーい」と間延びした返事をして出て行った。振り返ることのなかったその後姿が、大悟が最後に見た西田の姿だった。
インディーズ時代から付き合いのある先輩である。仲間にする芸人として笑い飯は真っ先に名前が出てきた。
あんな素っ気ない別れを最後にしたくはなかったのに。
「ほんまに、なんで……」
功太は涙の滲んだ目を押さえた。功太も大悟に比べれば長い付き合いではないが、笑い飯とは親しかった。こんな放送だけで
死んだと納得できるわけがない。しかし、首に巻きついた輪が、学校の出口の死体が、ここは殺し合いの場だと告げている。

「はよ、人集めんと」
大悟の声はまだ少し震えている。
「知らんところで死なれたりすんのはもう嫌じゃ」
その気持ちは痛いほどわかる。しかし、ただ仲間を集めて一緒にいるだけでは何の解決にもならないのではないか。
大悟には何か考えがあるのか。
「集めて、どうするつもりですか?」


488 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/08/07(火) 07:40:50

少し、間があった。
「人集めてけば、わしより頭ええ奴はいっぱいおるけえの、これを止めさせる考えが浮かぶかもしれん。
 ほかにも、プログラムに詳しい奴とか、器用な奴とか強い奴とか、一緒におったほうがみんなで生き残れる可能性あるやろ?」
大悟の言葉を黙って功太は聞いている。
「そんなうまいこといくか思うとるやろ」
「はい、正直」
「思うとんのかい」
即答され、大悟はがっかりしたようにソファに体を預ける。
「でも、バラバラになってるよりはずっとええんちゃいます? 安心やし。俺も一人でいたときは怖くて動けませんでしたもん」
「そうか。功太落ち着いとるなあて思うとったけどな」

落ち着いていられるのは大悟と一緒だからだ。出発前、そして直後に起こったことを正直に話してくれて、それを悔やんでいたのを見て、
功太は大悟を全面的に信頼すると決めた。その後から以前のような観察眼が戻ってきたように思える。
このプログラムのことを様々な角度から考えた結果、破壊する方法は思いつかなかったが、どう動けばよいかは大体わかった。
せっかく大悟という信頼できる人間に出会えたのだから、これからずっと行動を共にしていけるようにしなければならない。

「わし考えなしで動くから、お前みたいな奴に止めてもらうと助かるわ」
それが自分に求められているなら、大悟のためにそうあるつもりでいる。心配なのは運動神経の無さだ。襲われたときにはまず確実に
大悟の足手まといになるだろう。
「俺も物凄く弱いんで大悟さんに世話かけると思いますけど」
「そんなん構わん。ちゃんと守ったる」
力強い言葉が功太の胸に響いた。

「……ありがとうございます」
そういって目を合わせる。なんだか照れくさい。それは大悟も同じだったようで、、
「あ、すまんな、功太寝てええよ」
唐突にそう言われた。功太は素直に返事をして、ソファに深く身を沈めた。
すぐに眠くはならなかったが、大悟もそれ以上はしゃべらなくなり、やがて功太の意識はまどろんできた。

489 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/08/07(火) 07:42:55

すっかり寝入った功太の顔を見て、大悟はさっきのやり取りを思い返す。

「守ったる」なんて、随分と大見得を切ったものだ。しかし、その言葉に嘘偽りはない。
もう、誰にも死んでほしくないのだ。

プログラムの破壊が出来たら理想的だが、仲間を集めるのはそれが第一目的ではない。
ただ、無事を確認したいだけ、そして、それ以上傷つかないようにしてやりたいだけだ。
知り合いがプログラムに乗ったかもしれないことは考える気にもなれなかった。
人殺しを肯定し、積極的に行動する人間が仲間にいるはずはない。万が一誰かを手に掛けてしまったとしても、
それはこのプログラムに追い詰められた末の不幸な結果に決まっている。

そこで大悟は山里のことを思い出す。
あいつの言動こそプログラムに追い詰められた人間のものではないか。
小心な山里が事実を認めたくないがゆえにあんなパフォーマンスをしてみせたのも不思議ではない。その代償は大きかったが。
山里に再会する可能性は限りなく低い。いまさら自分の行動を悔やんでも取り返すことは出来ないのだ。
だから、この先は間違えてはいけない。自分がこれからやろうとしていることは、きっととてつもなく難しいことなのだろうから。

490 : ◆qUGJ5zg7gg :2007/08/07(火) 07:46:32
【千鳥 大悟
所持品:煙草 ライター 木製バット
第一行動方針:ノブと仲間を探す
基本行動方針:自分から攻撃はしない  襲われれば反撃
最終行動方針:できるだけ多くの仲間と生き残る】

【中山功太
所持品:ホワイトボード 専用マーカー(黒・赤・青)
第一行動方針:仲間を探す
基本行動方針:大悟についていく 戦いは極力避ける
最終行動方針:まだわからない】

【現在位置:D-7・ゴルフ場のクラブハウス】
【8/16 00:20】
【投下番号:238】


491 :名無し草:2007/08/07(火) 10:29:16
>>483
力作乙!
最初はどうなる事かと思ったけど持ち直してくれて本当によかった…
田中同盟のこれからに期待。

>>490
復活乙!
大悟かっこいいぜ大悟!
これから二人が誰にめぐり合うのか期待。

492 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:50:44
>>426-431 松竹編第八話

 芸人魂〜ガチレース〜(前編) 森三中大島・ますだおかだ岡田・ななめ45°岡安


 人々が笑ってくれるなら、私は裸にでもなろう。
 あなたが喜んでくれるなら、私は全てを曝け出そう。
 みんなが楽しんでくれるなら、私は人殺しにでもなろう。

 体を張れる希少な女芸人として生きる日々は、大島にとって素晴らしく充実していた。どんなに
顔が悪くても、どんなにバカな事をやらかしてしまっても、明るく笑い飛ばしてしまえば生まれる
はずの苦しみも芸人としての喜びに変化する。陰湿なイジメにあっていた過去を思えば、芸人とし
て味わう痛みも恥ずかしさも歯痒さも、全てちっぽけなものにしか感じない。
 例えばこの斧で自分の体を引き裂いても、とても幸せな一生でしたと笑っていられる自信がある。
 大島はデイパックに入っていた支給武器である斧を握り、そんな事を考えた。重量感のあるその
斧を片手で支えるのは中々大変なものである。それでも大島は、まるでダンベル体操でもするかの
ように高い位置で斧を持った腕を上下させた。しかしすぐに止めて呟いた。
「鍛えちゃだめでしょ。二の腕引き締まるじゃんか」
 揺れる二の腕は商売道具なんだから。そうも呟いて、掲げた腕をゆっくり下ろした。
 蝉の声はよく響く。
 大島は当てもなく島をさ迷いながら、耳に入る全てのものを受け入れた。蝉の鳴く音しか存在し
なかったスタート直後からすると、今は随分と騒々しい。遠くから悲鳴のように轟く銃声は、逐一
参加者たちにプログラムの進行を知らせた。
 もう、戻る場所はない。
 大島はこの現状さえも受け入れたつもりでいた。


493 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:51:57

 額の汗を柔らかい腕で拭う。
 大島は学校をスタートして数時間、今後の身の振り方について考え続けていた。
「人殺すってキャラじゃないしなあ」
 風船を持った可愛い客寄せパンダが子供の首を狩るようなものだ。大島はこのバトルロワイアル
で、自分に一番似合う行いをすると決めていた。自分らしい行動……そのヒントは、これまで共に
支え合って生きてきた大島の夫が握っている。
「私が死んでも、笑って欲しいし」
 大島は、妻に「面白さ」を求める夫の事を思った。決して映画やドラマのような美しい恋愛をし
たわけではない。そのせいだろうか。大島はもう会う事もないであろう夫を思っても、涙一つ流せ
なかった。そのかわり大島は、その夫にだけはずっと笑っていて欲しいと願っていた。これから先
の長い人生、ちょっとした合間に自分をふと思い出した時、腹を抱えて笑ってしまうような爪跡を
遺したい。そう考えた。
 大島は立ち止まり、大地に斧を置いた。
「とりあえず、脱ぐか」
 バトルロワイアルという殺伐とした空気の中に女が全裸で闊歩している。その光景を思い浮かべ、
ひとまず掴みとしては充分だと納得する。
 シャツに手をかけ上半身を曝け出そうと思ったその時、大島はある男と出会った。それは大島の
行動方針を全面的に肯定するような、この状況に相応しい相手だった。

「パァッ! 出たっ! ……さようなら〜。えっ帰んのっ?」

 もしこの出会いがもう数時間ほど後だったら、この男は間違いなく死んでいただろう。大島が平
常心である今だからこそ許される、会心のギャグである。
 ただ一つ問題があった。このような芸風の持ち主を弄ったり膨らませたり出来る引出しが、大島
にはなかったのだ。
 大島はただ呆然と、その男を見つめていた。


494 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:53:04

「よっしゃ、今日もええ切れ味やな」
 世界中の誰もが納得しないであろう独り言を呟いた男――岡田圭右は、氷のように固まっている
大島に気付き嬉しそうに歩み寄ってきた。何故か脳裏によぎった逃げ出したい気持ちをグッと堪え、
大島は軽く会釈をした。
「あ、おはようございます、岡田さん」
 よく考えてみれば、楽屋で会った芸人同士のノリで挨拶している大島も充分的外れである。しか
しここからの展開こそが、二人の芸人魂を見せつけるお笑いバトルロイヤルの始まりなのだ。
 スタートのゴングは、岡田から発せられたこの一言だった。
「大島、あっこにカメラあんで」
 大島は空を見上げるようにして顔を動かした。岡田の言う通り、指差す方向にはカメラがあった。
木の枝に括りつけられた小さなカメラが、横を向いている。
 芸人にとってカメラは「窓」である。世間と芸人を繋げる大事な「窓」だ。芸人がボケるという
行為そのものは、見てくれる人がいて始めて成り立つ。カメラが存在するからこそ、そして窓の向
こうで笑ってくれる人がいるからこそ、芸人は輝けるのだ。
 大島の足が動いた。カメラの視界に確実に入る、出来る事ならセンターを意識して、大島は歩い
た。
 ベストポジションだと思った。普段の番組収録ならこんな位置取りしたくても出来ない。
 そこで大島は気付いた。この世界は自由なのだ。このプログラム中は何をやっても咎める者がい
ない。つまらない規制に縛られる事なく、自分が思うように行動できるのだ。言葉に気を使う必要
もないし、センターに行きたければ行けばいい。先輩芸人を押しのけても、誰も文句は言わないの
だ。
 大島は希望の光とやらを見た。色に例えるなら黄色。実体がないのだから分からないが、恐らく
そんな色の光だ。今大島は世間とを繋ぐ窓の真ん中を陣取っている。世間の中心は大島だ。あのカ
メラが働いている限り、例えこれが1分にも満たない1コーナーであったとしても、今この瞬間は大
島が主役なのだ。


495 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:54:37

 大島は隣に立つ岡田を見た。その瞬間、岡田の口が何か話そうとする仕草で動いた。だから大島
は岡田の腕を掴んだ。
 岡田を自由にさせるわけにはいかない。折角今自分を抜いているカメラが、岡田を映す別のカメ
ラに切り替わってしまうかもしれないからだ。
 当然現実にはそんな事など起こり得ない。しかし大島は続けた。カメラが芸人を撮る理由など、
大島は一つしか知らない。
 掴んだ腕を引っ張ると、大きな体はバランスを失った。岡田の驚いた顔が目の前まで来たところ
で、大島は右腕を真横に広げ思い切り振り抜いた。
「うぐっ!」
 何の工夫もないラリアットであるのに、岡田の体は驚くほど吹っ飛んだ。
 バトルロワイアルという環境を思えば大島のやった事は立派な殺人未遂である。けれど当の大島
にはなんの悪気もなく、あくまでちょっと過激なバラエティ番組のテンションで笑いを取りにいっ
たに過ぎない。
 大島は気付いていない。普段なら「何やってんだよ」と笑いながら突っ込まれるとか、周りが同
調して岡田をボコボコにするとか、次の笑いに繋がる何らかの展開が得られるものだ。しかしこれ
はバトルロワイアルである。殺し合いを強いられている今の立場で同じ事をしたとしても、同じ笑
いは生まれない。むしろ周りの恐怖心を煽るばかりで、意図した笑いとはどんどんかけ離れていく。
大島が望む大爆笑な展開など、バトルロワイアルでは起こり得ないのだ。
 ところが例外もあり得る。例えば、その場に居た全員が大島と同じものを求めていたらどうだろ
う。「殺し合い」という言葉に踊らされる事なく自分を貫こうとする芸人たちが、たまたま同じ場
所に居合わせたとして、それでも本当に笑いが生まれる事などないのだろうか。
 どう足掻いても大島の思いは報われないのだろうか。答えは、数分後訪れる。


496 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:55:55

 ラリアットを決め例え様のない満足感に浸る大島は、中々勢いのあるオイシイ画が撮れたはずだ
と思い自画自賛していた。だが上体を起こす岡田を見てある事に気付く。この場合本当にオイシイ
のは攻めた大島ではなく、完全に受身だった岡田になるのではないか。きっと今カメラはあたふた
している岡田を映しているに違いない。その上岡田は、律儀にリアクションをとるのだ。
「なんや! この見事なラリアット! あんたはスタン・ハンセンか!
 そんならわしゃ長州か! えー、藤波、俺はお前の噛ませ犬じゃない。
 ……そら似てないわ。見てみぃこの空気、どないしてくれんねん!」
 カメラから伝わってくる沈黙の原因をなすりつける岡田に、大島はまたも固まった。しかし同時
に嫉妬もした。岡田は自らのキャラクターを忠実に演じる。それはバトルロワイアルという環境に
あっても全く揺るがないようだ。世間は今岡田に釘付けである。もちろんこれらは、大島の勝手な
思い込みでしかないのだが。
 大島は吠えた。譲れないものがある人間は、強い。
「負けられっかぁぁああああああっ!」
 カメラを指差した。バッターボックスに立つ選手がバットでピッチャーを差す時のように、大島
は視聴者を威嚇した。よく見とけ。そんな思いでカメラを睨んだ。
「え、え、何っ?」
「岡田圭右をぶっ潰す!」
 立てた親指を大地に向けた。宣戦布告、大島は沸き上がる観衆の声援とリングを揺らすブーイン
グの嵐を同時に聞いた。
 視線は集まった。大島は歴史に名を刻むその瞬間を思い描き、満面の笑みを零した。注目を浴び
るのは、どんな状況にあっても心地よいものだ。


497 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:58:07

 大島の様子を見て危機感を感じた岡田は、真っ青な顔で悲鳴をあげた。
「が、ガチはあかんやろ! シューターはいらん! プロレスの美学に反すっ……いたたたた!」
 大島は岡田の髪の毛を力強く引っ張った。持ち上がった顔は固く目を瞑り感じるままの痛みを声
に出していた。大島は迷わず、岡田の頭部に自分の頭部を打ち付けた。
「だっ!」
 荒々しいヘッドバットを受けた岡田の上体は一瞬だけゆらゆらとさ迷い、音を立て地に落ちた。
改めて横たわる岡田を尻目に、大島はまたもカメラを指差した。
 ここら辺りでハプニング的なポロリでもあった方が面白いだろうか。しかしまだ全ての攻撃が終
わったわけではない。
 大島はこの島に放り込まれた女の中で自分にしか出来ないであろう最高の技を繰り出すと決めた。
仰向けに倒れ込む岡田の足元へ移動すると、その岡田の両足を掴んだ。そしてもう一度、カメラを
見た。
「お前ら飯食ってないでよく見てろよコノヤロー!」
 ありったけの声量で叫んだ。それからすぐに岡田の足を広げ、今度はその岡田に向けて絶叫した。
「先輩! いただきまーすっ!」
 小さい目を垂らしヘラッと笑うと、大島は岡田の股間めがけて勢い良く頭突きした。大島の一撃
必殺――急所ヘッドバットを食らった当の岡田は、声にならない呻き声を上げその場でのた打ち回
っていた。戦線離脱、岡田はもうまともに喋る事すら出来ないでいる。大島の勝ちが確定した瞬間
だった。
「よっしゃーっ!」
 何が良かったのかは定かではないが、大島は天を突き刺すほどのガッツポーズをカメラに向けた。
地球が揺れるほど盛り上がる会場を見まわし、大島は無事窓のセンターを勝ち取った事を自覚する。
岡田が小さく「これがお前のやり方か」と呟く声も掻き消すほど、大島の喜びによる雄叫びは大き
かった。


498 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 01:59:51


 ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ……

 大島が念願のセンターを手にして間もなく、その不快な音が二人に近付いた。
 未だ苦しそうな表情を浮かべる岡田がうつ伏せながらその方向を見やったため、大島も同じよう
にそちらを向いた。
 ゆっくりとした足取りで男が歩いていた。左手を翼のように横に伸ばし右手を口元にやり、途切
れる事なく音を鳴らし続けている。何事かと思いながらも、大島はこれから起こる何らかのハプニ
ングに期待せずにはいられなかった。大島の胸が膨らみすぎてブラジャーとTシャツが破れてしま
う。それほどまでに大きな期待感を抱いていた。
 近付いた男は大島の周りを旋回しながら鳴らしていた音を止め、今度は「それっぽい」口調で喋
り始めた。
「はい、こちら岡安です。ただいま私は上空2000メートル付近を飛ぶヘリコプターから、
 国内某所にある無人島を一望しております。
 本日この島で第50回バトルロワイアルが開催されたという事で、
 今その様子を伺っているところなんですが……あ、人が居ますね。少し話を聞いてみましょう。
 地上へ降り立つまで少々時間がかかりますのでいったんスタジオにお返しします」
 流暢な中継が終わるとその男――ななめ45°岡安章介は、またヘリコプターの音真似をし次第に
歩行スピードを落としていった。大島の目の前で回るのを止め、音だけでなく体全体を使って着陸
するヘリコプターの様子であろうモノマネを見せた。音が鳴り止み気が済んだのかと思いきや、今
度は電車の発車ベルの音真似を始め、岡安の十八番である車掌モノマネを仕掛けてきた。


499 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 02:01:07

「間もなくー1番ホームにーななめ45°岡安によるー爆走列車が通過します。
 白線の内側まで下がってーお笑いください」
 溢れ返った期待はどこへやら、呆気に取られる大島に対して岡安は手のひらをこちらに向け押す
ようなジェスチャーをした。大島は意味が分からず岡安の顔を見た。すると岡安はもう一度「白線
の内側まで下がってお笑いください」と言い、同じような手の動きを見せた。そこでようやく「下
がれ」と言いたいのだと理解し、大島は片足を下げかけた。だがすぐに思い直し動きを止める。岡
安は不思議そうな表情を浮かべ、更にもう一度繰り返した。
「白線の内側まで下がっ……ったぁっ!」
 轟音以上に迫力を帯びた音が響き渡る。大島の平手打ちは見事に岡安の頬を直撃し、その反動で
岡安は地を這った。そんな岡安を指差した大島は、ふんぞり返って一言、強い口調で言い放った。
「つまんねー事何度も言ってんじゃねーよ! ぶっ潰す!」
 またカメラを見上げた。
 暴れる自分を見て大笑いする少し変わった夫の顔を思い浮かべ、大島は得意げに笑った。


500 : ◆//Muo9c4XE :2007/08/09(木) 02:03:24

【森三中 大島美幸】
所持品:斧
第一行動方針:岡安をぶっ潰す
基本行動方針:旦那を笑わせる
最終行動方針:死ぬ覚悟は出来てるつもり

【ますだおかだ 岡田圭右】
所持品:ブラインド
第一行動方針:とりあえず安静
基本行動方針:カメラに向かって一発ギャグ
最終行動方針:何も求めない

【ななめ45° 岡安章介】
所持品:不明
第一行動方針:謎
基本行動方針:謎
最終行動方針:謎

【現在位置:J5 森】
【8/15 14:55】
【投下番号:239】

>>490
乙です!
復活楽しみにしてました。
大悟の活躍に期待で胸が張り裂けそうです。


501 :名無し草:2007/08/09(木) 11:28:24
>>490
おかえり!
大悟とか飯とかの話好きだったから復活してくれて嬉しい。
続き楽しみにしてるよ。

>>500
乙!
何このカオスwww
つーかプロレスネタ折り込みすぎだろ。笑ったけどw

502 :名無し草:2007/08/09(木) 21:53:49
>>500
>「とりあえず、脱ぐか」
吹いたw
ぜひやってほしかった。


503 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:02:34
爆笑問題太田編行きます。


『No longer human』


「人非人でもいいぢやないの。私たちは、生きてゐさへすればいいのよ」(太宰治『ヴィヨンの妻』)



ふと空を見上げてみた。
終戦記念日の空は雲一つなく晴れ渡っていて、その事が少し私を苛立たせる。おまけに蚊の飛ぶ音も煩い。
舌打ちをして私は首を下げた。
ポケットから煙草とライターを取り出す。
煙草をくわえ、火を点けようとするが、汗で手が滑りなかなか上手くいかない。
軽い試行錯誤の末ようやく点いた火が、狭い緑の空間での熱気を彩る。
煙草に火を点ける。
不健康な煙を吸い込むと共に、細長い物体の先端から、自由自在に変化する何かが空に昇っていくのをうっとりと眺める。
燻ったような焦げから発せられるそれを見て、ちょっとだけ心が落ち着いた。

乳白色の煙をゆっくりといとおしむように吐き出しながら、自分の身に起こった出来事を反芻する。
見知らぬ教室で目が覚めた。
大量の芸人仲間とともに兵士に囲まれていた。
ドアからたけしさんが入ってきて、殺し合いをしろと言われた。
わけも分からないままゲームが始まった。
わけも分からないまま外に放り出されていた。
外に出てからはあてもなく歩き回って、気がついたらこの森の中にいた。

要するにこういう事だ。
私たちは今、バトルロワイヤルに参加している。



504 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:06:43
何故、我々が参加する事になったのだろうか。
50回目だから芸人だなんて正直意味不明だ。独りよがりなシュールとしか思えない。
たけしさんに殺し合いをしろと言われたのも気に入らない。
中二の時の正月に初めて聴いた『ビートたけしのオールナイトニッポン』。
ハイスピードで繰り広げられる東京弁、今では考えられない危ないネタ。全てが衝撃だった。
あの時感じたカルチャーショックは今でも鮮明に覚えている。
あの頃のたけしさんには、危険を顧みず思う存分毒を吐く事の面白さを教えてもらった。
いつしか私は彼にのめり込んでいった。ただ単純に、彼の事が大好きになっていた。
あれから25年。私たちは今、そのたけしさんに殺し合いを強制させられている。
なぜ、たけしさんがあの役なのだろうか。
たけしさんにはもっと笑える事、あるいは芸術的な事をやって欲しいのに、あんな役は似合わない。
……それとも、まだ若かった頃に言ったあのギャグが原因なのだろうか。
たけしさんの代打で『ビートたけしのオールナイトニッポン』に出た時、私が言ったギャグ。

『たけしは風邪をこじらせて死にました』

ネタの中で、私は自然にたけしさんを殺していた。
もしかしたら、たけしさんが私に殺し合いを命じたのは、この事へのオマージュなのかもしれない。
はるか昔の私のネタふりに今になってたけしさんが反応して、私を殺し合いに参加させた。
そう考えると、少しだけ笑いがこみ上げてくるような気がした。

タバコを木に押し付け、火を消す。目の端に映ったスーツの袖は惨く汗ばんでいて、軽い不快感が湧く。
ここまで来る過程での私の様子を想像してみる。心もとない様子でふらふら歩くその姿はリストラされたサラリーマンみたいで滑稽だった。
まあ、この状況も人生からのリストラを言い渡されたようなものだから同じようなものかとくだらない事を思いつく。
でも、私はやっぱり芸人であって、サラリーマンではないのだ。
その証拠に、私はネタを作り出す事が出来る。
その時ふと前方にキラリと光る監視カメラを発見した。
鬱陶しい蚊の鳴く音をBGMにして、いつものように私はカメラに向かってボケてみる事にする。

「どうせならさ、バトルロワイヤルじゃなくて、”蚊取るロワイヤル”でもやればいいんだよ」

505 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:08:40
しかし響くのは相変わらず蚊の音だけ。誰も突っ込んでくれる者はいない。
おかしい。いつもなら田中の小僧が『くだらねえこと言ってんじゃねえよ!』とか言って突っ込んでくれるのに。
諦めきれず更にボケ続ける。

「えー、今日は君達に、ちょっと蚊の潰し合いをしてもらいます」

教室でのたけしさんの口調を真似して、もったいぶった感じで言う。
しかしそれでも周りで響くのは蚊の鳴く声のみ。
『うるせえよ!』と突っ込んでくれる奴は相変わらず出てこない。
これではつまらない。
首を振ってデイパックを開ける。
……食糧等とともに入っているのは、ただのマイクだった。
芸人としてはまずまずである。しかし、殺人者としてはどうだろうか?
当然失格である。
マイクによって人が死ぬなんて展開、下手なコントでもありえない。
それなら本来の用途で使うしかない。

「涙が〜あふれる〜悲しい〜季節は〜誰かに〜抱かれた〜夢〜を見る〜♪」

こうやって歌っていればいい加減誰かが来るかもしれない。
サザンの曲でも歌ってツッコミを待つ。しかし誰も来ない。
おかしい。こんなところでうるさくしてる奴なんか絶好のツッコミ対象のはずなのに。
最後まで歌い切っても誰も来なかった。歌い切ったところでようやくマイクのスイッチが入ってなかった事に気がついた。
これじゃあ誰もやって来ないはずだ。

「……ふざけんじゃねーぞバカヤロー」

そう呟きながら、私はマイクを投げ捨てる。
いい加減面倒くさくなってきたので、その場に寝転がる事にした。
もはやネタを続ける気にもなれない。これも年を取りすぎたせいだろうか。

鬱蒼とした木々の間からのぞく雲のない空を見上げて、私は考える。

506 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:10:39
それにしても、この舞台で一体私は何になるべきなのか。
たけしさんは私たちに向かって芸人の諸君と言っていた。
ここ数年になって文化人的発言を繰り返してきた結果もはやアイツは芸人とはいえないと言われるようになった私にとって、これはある意味名誉と呼べるものなのかもしれない。
しかしこの世界ではいくらボケても突っ込んでくれる奴がいない。この世界での自分はやはり芸人ではない。
一体この世界での自分は何者なんだろうか。
望むべくは平和か、それとも殺戮か。

子供の頃の自分の口癖を思い出す。
何かあるたびにすぐ私は「殺す」と口走っていた。
あの頃は命というものを本当に軽く考えすぎていた。自分の命さえも。
己の中の攻撃性がコントロールできなかった。破壊衝動を抑えられなかった。
少年少女が凶悪犯罪を犯す時の心境に似てるかもしれない。”病気”でも”特別”でもない殺意。理由のない暗黒。
でも、本当に人を殺す機会が来た今、私は殺す事が出来るのだろうか。
あの頃の殺意を、大人になった今も再現できるのだろうか……。

        *     *     *

「――さん! 起きてください! 太田さん!」

掛け声とともに全身に振動が入る。
ゆっくりと目を開けると、淡い光とともに馴染み深い顔が映りこんできた。

「んー? なんだ、猿かよ……」
「なんだじゃありませんよ! 動かないもんだからびっくりしたじゃないですか!」

安堵半分、呆れ半分といった感じの表情をしているのは、事務所の後輩である5番6番の猿橋英之だった。
覗き込んでくる顔から汗を垂らしてくる。妙に冷っぽいのは気のせいだろうか。

「ああ、悪ィな。ちょっと考え事してたもんで」
「ちょっとじゃないですよ! 危ないじゃないですか、こんなところに無防備に寝っ転がってちゃ!」

507 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:12:19
どうやら私のことを心配してくれているらしい。まあ後輩だから当然なんだろうが、真面目な奴だ。
起き上がって時計を確認してみたら、寝転んでから一時間以上も経過していた。
やれやれ、考え事に夢中になりすぎたか。迂闊過ぎる。よく誰にも見つからなかったものだ。

「分かった分かった、悪かった。てかお前、何でこんなところにいるんだよ。
 お前ならてっきり田中か樋口でも待ってると思ったんだがな」

時計を見た限りではもう田中が出発する時間は過ぎていた。
こいつの性格を考えれば、わざわざ一人で私を探すより校舎近くで相方の樋口か番号の近い田中を待ってから動くほうが自然なはずだ。

「いやー、実はそのつもりだったんですけど、なんか待ってる途中で学校辺りから激しい銃声が聞こえてきましてね。
 それであの辺りにいるのは危ないかなって思って一旦逃げてきたんですよ」
「……ということは、もう既に、殺し合いに乗った奴がいるってことか……」
「はい、残念ながら……」

眉尻を下げ、沈痛な表情を作って猿橋は答える。
いずれにせよ、これでこの殺戮を望む奴がいることが確定したのは興味深い事実だ。

「……で、お前はどうするつもりなんだ? 俺や樋口たちと一緒に殺して回ったりするつもりなのか?」

とりあえず試しに聞いてみる。
案の定猿橋は顔色を変えると、手をばたばたと振った。

「そ、そんなわけないじゃないですか! 人殺しなんて出来るわけがない!」
「つーことはあれか? 殺し合いを止めさせるとか、そんな事でも考えてるのか?」
「当たり前でしょう! こんなのおかしいですよ、芸人同士で殺し合いなんて! 太田さんもそう思いますよね!?」

きっぱりと猿橋は答える。あまりにも毅然としすぎていて逆に胡散臭いぐらいだ。
とりあえず適当にああ、と答えておく。

「よかった! やっぱそうですよね! 太田さんもそう思いますよね!
 俺は太田さんたちについていきます! 一緒にこのゲームを壊しましょう!」

508 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:13:59
猿橋の顔がやにわに明るくなり、私の手を握ってきた。猿橋はどうやら私を完全に信用しているようだ。
散々バトルロワイヤルをおちょくるようなネタを繰り返してきた我々をずっと間近で見てきたせいかもしれない。
私はそんな奴の顔を冷ややかな目で見つめながら、聞き返した。

「なあお前よお、本当にこの殺し合いを止められると思ってんのか?」
「……正直、難しいとは思います。実際、今もあまりの事に辛くて心が折れそうですし……
 でも、素直にゲームに乗るよりはマシだと思います。やっぱ人殺しなんて絶対にやってはいけないことだと思いますし。
 それに俺には……絶対に帰らなきゃいけない理由がありますし」
「ん? 帰らなきゃならない理由って何だ?」
「あ、いえ! 別になんでもないです! そうだ、ところで太田さん、実は俺、さっきから小便したくて、それで……
 ちょっと見張っててくれませんか? 何なら武器も預けますから」

そう言うと猿橋はデイパックから黒光りするものを取り出してきた。

「これ……拳銃じゃねーか」
「グロック17らしいですよ。
 本当はあんまり使いたくないんですけど、小便してる間ってどうしても無防備になる瞬間があるじゃないですか。
 だからちょっと万一の時のために太田さんが持っててくれたら安心だと思いまして。
 実際俺よりも太田さんの方が上手く扱えそうだし」

私は銃を眺めてみた。
ちっぽけな、そして意外と軽い本物の拳銃。
全てを呑み込むかのような漆黒。
それが反射する鈍い光。
人間の攻撃性の象徴。 


これが、これさえあれば。

人を。

殺せる。

509 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:15:08
「それじゃー頼みますからね」

そう言って猿橋は銃を私に押し付けると、私に背を向け、茂みに向かう。
ギラギラとした目で銃を見つめていたであろう私に対し、何の疑念も抱こうとはしなかった。
弾が装填されているかどうか確かめてみる。校舎近くにいる時に既に装填し終えてたのだろうか、きっちり全弾込められていた。


無防備な背中を見せる後輩に向かって、私は右腕を水平に、まるで前へ倣うかのように上げて。



一発。



間抜けな破裂音、眩しいマズルフラッシュとともに、私の右腕が撥ね上がる。
やはりよほどの事がない限り銃は両腕を添えて撃つのが良さそうだ。
グロック17から昇る硝煙に一瞬目を奪われそうになるも、すぐに目を落とす。
ちょうどチャックを開けたところだった猿橋は、衣服ごと右胸の皮膚を貫かれ、倒れ臥していた。
私はゆっくりと彼に歩み寄る。

「お、太田さ……な、んで……」

私に気づいた猿橋は、うつぶせの状態から顔半分だけを向けて聞いてくる。
その表情にははっきりと「信じられない」と書かれていて。
猿橋の心臓の上に銃を押し当てると、私は。

「今楽にしてやるよ」

それだけ言って、引き金を引いた。

        *     *     *

510 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:16:14
何故、人を殺してはいけないのか。
こう聞かれた人間は、当たり前のようにこう答える。
いけないから、いけないのだと。
それが生きていく上でのルールだから、人間を殺してはいけないのだと。
だが、その”いけない”に、果たして正当な理由はあるのだろうか。
ルールとかそんなもの抜きで、きちんと論理的に殺人の許されない理由を説く事が出来る人間は、果たして存在するのだろうか。
少なくとも私には分からない。
言葉で人を殺しかねない人生を歩んできた私にとってそんな後付けの決まり事なんか意味を成さない。
私に言える事は、ただ”生きる”事は素晴らしいという事だけだった。
”生きる”事が楽しいから。”生きる”という事に価値があるから。
”生きる”事の面白さを奪う事が申し訳ないから。
そのような理由で、人を殺す事はいけないものだと私は認識していた。
だが、この状況はどうだろうか。
バトルロワイヤル。このイベントにおいて何よりも優先される事は、一人だけ生き残る事。
その過程において、生きている人間を減らさなければ、ゲームは進まない。
つまり、ここにおいては、圧倒的に『”生”より”死”の方が高い価値を持つ』。
人を殺してはいけないというルールはここでは露ほどの意味も持たない。
”死”が正解であるこの世界ではもはや、私に躊躇う理由は無い。
ましてやこの状況が辛いのならなおさらだ。
長年の間バトルロワイヤルをネタにしてきた私だからこそ、このイベントを止める事は不可能に等しいと分かっていた。
辛い思いをしてまで不可能な事に挑戦するくらいなら、死んで解放された方が良い。
猿橋が選ぶべき道は、”生”ではなく絶対的な”死”だった。
だから、殺した。

この空間における正解は”生”ではなく”死”である。ではなぜ、私自身は”死”を選ばないのか。
答えはごく単純なものであった。私にもまた、絶対に帰らなきゃいけない理由があるから。
それを物語るのは、左手薬指に煌く小さな愛の証。

(……みっちゃん)

最愛の妻にして、永遠の私のアイドル。
もう十五年以上の付き合いになる妻。

511 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:21:43
苦しい時期に不甲斐ない私の変わりに家計を支えて、私をここまでの地位に押し上げてくれた妻。
ちょっと酒癖が悪くて暴力的だけど、それでも本当は優しい妻。
彼女を残して死にたくなかった。まだやりたいことがたくさん残っている。
私の作った映画を見せてやりたい。2人でのんびりと世界一周旅行に生きたい。
今みっちゃんを残して死ぬ事は、私には選ぶ事は不可能だった。

        *     *     *

「みっちゃん、俺、猿殺しちゃったよ。でも許してくれ。俺だってみっちゃんのところに帰りたいからさ。仕方ねえんだよ」

猿橋を殺した事自体には罪悪感は沸かなかった。ただ、彼らの才能をもう発揮させる事が出来ないのが、非常に残念だった。
しかし、それでも私は立ち止まる事は出来ない。死を選ぶ事が出来ない私に残された道は、他の人間に死を与える事だけだから。
猿橋のデイパックに手を伸ばし、水と食糧を自分のデイパックに詰め替えながら、私は考える。
それにしても、これからどうやって時間を潰すか。ただ死を与えて回るのは退屈で仕方がない。
本でも持ってくれば良かったのだが、生憎にも楽屋に忘れてきてしまっていた。どうしよう。
その時私は、あるフレーズが思い浮かぶ。
――桜の美しさは、人間を狂気に導く。
坂口安吾の『桜の森の満開の下』では、満開の美しい桜が人間を殺人に導く過程が書かれている。
そこには桜を媒介として死と恍惚が結びつくさまが表現されていた。
狂気、苦しみ。そういった負の感情に対するエクスタシー。
果たして、本当にそういうものは存在するのだろうか?

興味深い疑問だ。
人間は、頑としてこれを認めたがらなかった。死によって得られる恍惚は、決して有り得てはならないとされていた。
だが、考えてみればどうだ。この場では、むしろ死こそが正義である。
今までの常識とは百八十度異なるこの世界は、この命題に対する答えを見つける絶好のチャンスではないか。
”死”の魅力とは一体どんなものなのか、自らの体験を通して追求できる。
こんな貴重な体験が今までにあっただろうか。

512 : ◆EeCmUBzmbs :2007/08/11(土) 11:24:22
暇潰しの内容が決まった。
知的探究心を満たすべく、私は立ち上がり、歩き始める。
すぐ近くに私が投げ捨てたマイクがそのままの状態で転がっていた。
何となく役立てる機会がありそうな気がして、私はそのマイクを拾う。
マイクに触れた瞬間、ふと私の脳裏に思考が浮かんだ。

(今の俺が考えている事を他の奴らが知ったらどう思うだろうな。ひょっとしらこう言うかもな。
 『太田さんはもはや人間じゃない』と)

死を与え、死を楽しむ私の姿。他人から見るこの世界の私は、もはや死神。


今の私は正に、人間、失格。


しかしそれでも一向に構わない。何と言われようが関係ない。
だって私はただ、やりたい事がやれればそれで構わないのだから。
楽しく生きられさえすれば、それでいいのだから。



【5番6番 猿橋英之 死亡(射殺)】

【爆笑問題 太田光
所持品:マイク、グロック17(15/17)・控え銃弾(34発)、煙草、ライター、結婚指輪
第一行動方針:苦しんでいる人々に死を与える
基本行動方針:死の魅力を追及する
最終行動方針:最後の一人まで生き残る】

【現在位置:F7 森】  
【8/15 14:38】
【投下番号:240】

513 :名無し草:2007/08/11(土) 13:00:17
乙!
太田いいな。太田っぽい。

514 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/12(日) 08:45:43
>>272の続き、ロザン菅編投下いきます。

『彼女の希望と彼の絶望』


――そろそろ日差しも傾いてくる頃だが、菅達は未だ先程までと同じ場所に座り込んで会話をしていた。
先程の銃声を聞いて殺し合いに乗った人物が来る可能性もなくはないのだが、そこまで考えが至っていないようである。
(尤も、菅の場合は他の事を考えすぎる余りその辺りを考えるのが後回しになっているだけなのだが)
強く照り付ける夏の日差しは確実に2人の気力を奪い、次第に考えは他人任せになっていく。特に菅がそうだった。

「あーつーいー! 誰も来えへんし相方どこ行ったかわからへんしほんまにどうしよう!」
「そうだねぇ……なんか誰かに迎えに来て欲しいっていうか、動きたくないよね」

(大丈夫、この人は絶対に裏切らへん人や)
にこにこと笑ってその言葉に同意する伊藤を見て、改めて菅はそう確信する。
それと同時に、自分は相手がここまで素直でなければ信じられないのかと僅かな自己嫌悪も感じた。
(それにしてもほんまに暑いなぁ、何か扇げるもんが欲しいけど……)
菅の持っているナイフや伊藤の持っている銃は確かに生き残る為には必要かもしれないが、この暑さを乗り切るには苦しい物がある。

誰か扇子でも何でも持ってきてくれればいいのに、と何とも理不尽な願いを菅は心の中で呟く。
しかし、それで本当に誰かが何かを持ってくるはずもなく。
仕方なく諦めて、せめてもう少し涼しい所に行きたいと思い声を掛けた。



515 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/12(日) 08:47:11
「そろそろどこか行きません? 暑いし、相方探したいですし」
「うん、そうだよね。早く見つけなきゃ……その、死んじゃうかもしれないし、探しに行こっか」

伊藤が少し悲しげな表情を浮かべてそう返したのは、菅にとって予想外の事だった。
そう思って、彼女の事を希望だけを見ていて現実を見れない人だと思っていた事に気付き心の中で謝る。と、そこで違和感を感じた。
(この人の事は信じてる、はずなのになんでこんなイメージ抱いてたんやろ? ……ま、ええか)
この時、思い詰めてでも違和感の答えを見つけ出していれば何かが変わったのかもしれない。だがそれは彼の性格が許さなかった。

「じゃあどこへ行きますか? 僕はどこでもいいんですけど……」
「私もどこでもいいんだよね……あ、そういえばさっきの人、死体に会ったって言ってたよね?」
「言ってましたねぇ……じゃあ学校戻ってみますか? えっと、誰か死んでたら僕が確かめるんで」
「うん……じゃあ学校行ってみようか? 会えなくても学校ならホテルも近いからそっちに行けば誰かいるかもしれないし」
「そうしましょうか。じゃあそろそろ行きます?」
「うん、とりあえず南……でいいんだよね?」
「はい。1時間ぐらい走れば着くと思うんですけどどうします?」
「……とりあえず、この暑い中を走るのは嫌だな」

そして2人は歩き出す。まだ見ぬ希望と相方を探しに。
行く先には彼女を絶望に叩き落としかねないものが待っている事を彼らは知らない。



516 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/12(日) 08:48:40
――彼は気付かない。否、気付けない。
現実が見えていないという事は他の冷静でいる者より利用しやすいということであり、
つまり自らの抱く信頼というのは相手を利用する事を前提としている事に。


【ロザン 菅広文】
所持品:バタフライナイフ、他不明
状態:良好?
第一行動方針:とりあえず学校へ
基本行動方針:生存優先、その為なら他人を利用しても構わない(自覚はしてない)
最終行動方針:生き残るつもりはない
【北陽 伊藤さおり】
所持品:コルトガバメント(8/9)、替え弾倉×2
状態:良好
第一行動方針:とりあえず学校へ
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:


517 : ◆0M.qupOW5Y :2007/08/12(日) 08:51:08
【現在位置:森(F4の東)】
【8/15 16:11】
【投下番号:241】

518 :名無し草:2007/08/12(日) 12:48:38
太田編、ロザン菅編乙!

いいねー!先が気になる終わり方だ。

519 :名無し草:2007/08/13(月) 18:34:56
ほっしゅ〜

520 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/14(火) 17:05:10
新規書き手です。バカリズム、りあるキッズ・安田編投稿します。



「何処に居るんや、長田・・・」
草木が生い茂る中を掻き分けて進むのは、りあるキッズのボケ担当である安田 善紀。彼は相方の長田 融季を探すために、慣れない山道を一生懸命歩き続けていた。
11歳の頃からコンビを組んで活動している相方。互いの価値観などの違いから、喧嘩をすることもあったけれど、自分にとっては大切な親友でありパートナー。彼に逢ってお礼を言わない限り、死ぬことは出来ない! その思いだけが、安田を突き動かしていた。
「絶対に探し出して合流して、一緒に行動するんやから!」
気合を入れる仕草をし、足を前に大きく踏み出したその時――。

「―――やっと1人かかったか―――」

聞き慣れない男性の声と同時に、安田は足元を取られ、そのまま穴の中へと突き落とされた。突然の出来事だったために、構えなども取れないままだった。
「な・・・・・・、何や、この穴は」
「落とし穴。見たら分かるだろ?」
くすくすと言う笑い声が頭上から降ってくる。安田が痛む身体に鞭を打って顔を上にあげると、そこにはおかっぱ頭の男性が立っていた。一瞬、雨上がり決死隊の蛍原ではないかと思ったが、仲間思いの彼がこんなことをするわけがない。声質や体型的にバナナマン・日村とも違う。
一体誰だ・・・? そう思っていると、男性は素早く穴の中へと降りて、安田の後ろに回りこんだ。
「暫くの間、お前には眠ってもらうから」
慌てて抵抗しようと身体を動かしたが、極端に細い身体ではたいした戦力にならない上、男性の動きの方が一瞬だけ早かったため、攻撃を避けることは出来なかった。
「ううっ・・・・・・!!」
安田はスタンガンを首筋に当てられ、意識を失ってしまった。
意識を失う直前に長田の姿が見えたような気がしたが、それをハッキリと確認するだけの余裕もないままに――。


521 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/14(火) 17:07:08
――あれからどれくらい経っただろう。
安田は口を塞がれて、両手足を縛られ、身動きの取れない状態で、地面の上に転がっていた。周囲を見回してみるが、眼鏡を取られてしまったようで、何も見えない。ただ分かるのは、自分以外に何人か、人が居ると言うことだけだった。
「(俺、捕まったんか。まだあいつのこと、見つけてないのに・・・くそっ!!)」
身体を大きく動かして、ロープを解こうと自棄になる。しかし、ロープは切れるどころか手首に食い込んで、尋常ではないほどの痛みを伴うだけであった。口を塞いでいる布も、全く取れる気配が無い。
安田は自分の隣に座っている男性に、ジタバタと暴れながら訴えた。
「〜〜〜〜〜〜!!」(訳:頼むからこの布を取って!!)
「うるさい奴だな。外してやるから、少しは静かにしろ」
男性はぶつぶつと文句を言いながらも、布とロープを外した。ようやく自由に喋れるようになった安田は、男性に『あなたは誰なんですか? 何でこんなことを!』と顔を真っ赤にしながら詰め寄った。
「うるさいなぁ。名前と俺の目的を言えば良いんだろ? どっちもちゃんと言うから、黙っといて」
男性は溜め息を吐き、更に一息置いてから話し始めた。

「俺はバカリズムの升野、マセキ所属の芸人。宜しく」
バカリズムの升野だと名乗った男性は、何かを企んでいるような笑みを浮かべると、安田に一歩近づいた。そして、『今の段階での計画なんだけど』と前置きをした上で、自らの計画についてを簡単に話した。
「俺は後輩や先輩たちが、こんな戦いで死んでいくのを見るのが嫌なの。だから、ゲームに乗ったふりをして、馬鹿な奴らを殺すつもりでいるんだ」
「馬鹿な奴ら・・・?」
「そう、馬鹿な奴ら。暢気にやってる男とか、そこら辺で銃構えてるアホとかね」
安田は升野の言葉の意味がよく分からず、きょとんとした表情になった。
「暢気にやってるって・・・、え、誰がですか?」
「あれだよ。下手に名前を出すと死ぬかも知れないから、名前は出せないけど・・・」
升野は立ち上がると、学校のある方角を視線で示した。

522 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/14(火) 17:09:54
学校はビートたけしと、兵士が何人か居る場所。そこへ突入して、彼らを殺すと言うのか? そんなことをしたら、自分が死んでしまうというのに・・・。
「ええっ!!? いや、駄目でしょ、それは」
「そのくらいしないと駄目だろ。ま、あそこを攻めるのは最後だけどね」
「何だ・・・・・・いきなり攻めるわけじゃなかったんですね」
「当たり前だ、いきなり出来るわけないだろ!!」
顔を真っ赤にして怒り、スタンガンを向けてくる升野に、安田は必死に『すみません、すみません』と頭を下げた。またスタンガンで気絶させられては、彼としては堪ったものではなかった。
「ごめんなさい。ホンマに反省してるから、勘弁して・・・」
「ちっ・・・分かったよ」
升野は呆れた表情のままスタンガンをしまうと、地図を取り出して兵士たちの居場所を予測し始めた。
最も兵士が多いと疑われるのは本部であるが、升野自身は、本部を攻めるのは一番最後だと決めていた。楽しみは最後に残しておいてこそ、ゲームは楽しくなるもの。そのためには、まず、周りに居る人間から料理をしなければ・・・。
升野は頬が緩みそうになるのを必死で抑えつつ、禁止エリアである海近辺にマークをつけていった。

「・・・・・・あいつらの居場所は、禁止エリアの近辺の可能性が一番高い。そこを狙う」
「禁止エリアですか」
「あくまでも仮説ね。他の場所に居て、バッタリ出逢うって可能性もあるんだから。その時はその時で、容赦なく殺せば良いだろ。よし、行動開始だ!」
そう言うと、彼は安田の腕をつかんで、いきなり走り始めた。
「何をするんですか!! 俺は長田を探さないといけないのにー!」
「今は後回しだよ。あいつらを全員殺したら、一緒に探してやるから。俺の仕掛けた罠に引っかかったお前が悪い」
安田は転びそうになりながらも何とか体制を保ち、升野の足の速さについていったが、体力的な違いから、5分も走らぬうちに息切れを起こす羽目になってしまったのだった――。

523 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/14(火) 17:11:17
【バカリズム升野英知 りあるキッズ安田善紀 同盟結成】
【バカリズム 升野英知】
所持品:スタンガン、地図。他は不明。
状態:良好。
第一行動方針:(表面上)兵士を探す。
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバックだけ。中身は不明。
状態:良好。
第一行動方針:長田を探す。
基本行動方針:上に同じ。
最終行動方針:長田と合流し、2人で最後まで残る。
【現在位置:林の中(H7付近)】
【8/16 11:00】
【投下番号:242】


今日はここまでとさせて頂きます。
りあるキッズとバカリズムのデビューは同時期ですが、年齢は10歳離れているので安田さんは敬語を使っています。

524 : ◆8wwdPoYeY2 :2007/08/14(火) 17:39:41
訂正です、初でとんでもないミスやってしまいましたorz
状態が良好となっていますが、これは生存か死亡のことみたいだったようで・・・。
ログはきちんと読みましたが、意味が分からなくて無茶苦茶にしてました;
本当にすみません。まとめサイトでは訂正しています。

525 :名無し草:2007/08/14(火) 22:29:10
>>523
初投下乙です!
バカリズムおもしれー。(表面上)っていうのが気になる。
安田振り回されそうだが大丈夫だろうか。

526 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/15(水) 17:37:05
ダブルブッキング編
まとめサイト226続き

『信じること疑うこと』



「結局、また1人かよ」

日が高くなり一層湿気と熱気が籠もる森の中、地面を這う草を蹴りながら、川元は口の中で呟いた。
たった1人向かうのは、数時間前まで相方と一緒にいた水辺の地点。

本来ならば、あの場所へ戻るのは緊急時。そしてコンビ共々であるはずだったのに。
出渕のせいで、更にそれを庇う相方・黒田のせいで、すっかり思惑が狂ってしまった。
「あのバカが…」
今やかなり後方にいるはずの黒田に対する恨み言が漏れる。
一向に気は向かないが、あんな条件を自分から提示した以上、実行しないわけにもいかないだろう。
とは言えサボる手はいくらでも考え付いたが、まぁせめてもの意地というものだ。
帰還した暁にはまたコンビでの行動に戻れる。それだけが今の行動を支える軸になっている。

コンビでの行動。

(おかしなもんだな…)

何となく、樹木の隙間から、断片的にしか見えない空を見上げた。
微風が、汗にぬれた額を掠める。

人と関わるのが苦手で人間不信。
それが、広く知られている川元の人格。
コンビとしてはやや認知度が薄いとは言え、川元のこのキャラクターは未だに世間に知れている。
それを知る者は彼がこんなにも他の人間との行動に執着することなど、想像もしないに違いない。

527 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/15(水) 17:38:10
「……」

先刻からは大分冷めてきた頭に、ある出来事が去来した。
それはもう、随分昔の話になる。


******
「死んだら、僕が正しかったということですよね」

そんな捨て台詞を吐いた後、川元は「箱」の中に閉じ込められた。
当時人気があった、あるバラエティ番組、子供の教育に宜しくないという風評を受けながら、
「帝国を支えるのは国民の生命力。それを培う番組なのだ」と常々宣伝していた、
何にせよ非常に悪趣味な番組の、一企画に放り込まれたのだった。

溶接された箱の中でのたった1人の生活。孤独で閉鎖された世界。
空白の半年間。何もかもがあっという間だった。

川元は、人嫌いのキャラクターを全面に出した。
面白かろうと思って多少のデフォルメはしていたが、またそれは同時にありのままの自分自身の姿でもあった。
例え周囲に人間がいても、一切頼りにはできない。それをまざまざと思い知ったいい機会ともなった。

自分で発した言葉、即ち、
『誰も助けてくれず、自分が死ぬようなことがあったら、「人間は信じられない」という考えの確かさの証明になる』
それだけを、来る日も来る日も反芻していた。

ただ、所詮はバラエティ番組だから、人が死ぬような事態は起き得ない。
企画自体は、少なくとも当人にとっては然程大したこともなく終わったのだ。
しかし問題は、企画が終わってからすぐに降りかかってきた。

528 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/15(水) 17:42:20
普通の芸人としての生活に戻った川元の前に広がっていたのは、余りにも酷な現実であった。
川元のキャラクターは他人を遠ざけた。人間不信な性格設定は、思った以上に世間の反感を買ってしまったのだった。
ファンは離れ、ライブに出ても笑いは取れず、回りまわって仕事が入らなくなる。
完全な悪循環に陥った。

川元の精神はそれによって更に荒んだ。世の中、箱の中と変わらない。
このまま売れず、食い扶持を失ってしまうのか。
『誰も助けてくれず、自分が死ぬようなことがあったら、「人間は信じられない」という考えの確かさの証明になる』
諦念に取りつかれたまま、日々少ない仕事を潰していた。

ただ1つ、箱に入っていた時と違ったのは、閉鎖された空間の中に自分以外にも人間が存在したことだった。
相方。
相方の黒田は、苦しい状況の中、1度も「解散」という言葉を口にしなかった。


1度だけ川元から、黒田の考えを訊いてみたことがある。
こんなことになってしまって、辛くはないのか。やめたくはないのか。
半ば呟くように尋ねる川元を、目を丸くして見つめた後、彼は言い放ったのだ。
「まあ、でもしょうがないじゃないですか。とりあえず今まで通りやってきましょうよ。だーいじょうぶですって!次のライブでは受け取れますって!きっと!」
底抜けに明るい声だった。深刻な投げ掛けを瞬時に吹き飛ばす程に。
その顔は、しばらく収入が少な過ぎてまともな食事も取れていないためか、酷く痩せてはいたけれど。
余りに予想外の相方の言葉と態度に、川元はそれ以上何も言えなかった。
こんな時にまで、適当だな。そう思いながらも、ただ頷いて、柄にもなく滲みそうになる涙を必死に隠そうとしたものだ。


それからだ。川元が、いい加減極まりなく、話も性格も合わない相方に、誰よりも信頼を置くようになったのは。
だからこそ企画以来、表向き何事もなかったかのようにコンビで活動を続け、やがて本来の土壌を取り戻すことができた。
お笑いという生きる指針を、失わずに済んだのだ。


*****


529 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/15(水) 17:44:05

BRが始まった当初こそ、流石に生命の危機に際してまで相方のことを思う余裕はないだろうと、信用を捨てていた。
が、黒田は川元を探しに来た。歩き通して、ぼろぼろになって、そして人を殺してまで―川元を助けた。
その時から、死ぬまでの間相方のことだけは信じてみようと胸の奥底で決意したのだ。
『誰も助けてくれず、自分が死ぬようなことがあったら、「人間は信じられない」という考えの確かさの証明になる』
しかし川元は生きている。相方に救われながら。

例え先程のように意見がぶつかり合っても、完全に相手を突き放して離れ離れになってしまおうとは考えられなかった。
特に2人でいることのメリットを重視しているわけではない。そもそも、最初から理由などなかった。
相方と共に行動すること自体が、今や生きる目的のようになっているのだった。
本来の落ち着きを取り戻した川元の思考から、黒田への不信感は少しずつ消えていっていた。


静かに回想に浸っていた川元の耳に、いきなり場違いなクラシック音楽が飛び込み、強制的に彼を我に返らせた。
聞き覚えのある、虫唾の走るような旋律。―それは定例の放送。
そういえば、黒田共々まともに放送を聞けたのは今までに1、2度だけ。発表された人間を控えてもいない。
―一体これまでにどれだけの芸人が逝ったのだろう。
心なし眠たそうなたけしの声を無視するように、黙々と足を進め続ける。
時折聞き慣れた名も読み上げられるが、極力気に留めないようにしながら。
しかし、なかなか放送は終わらない。
(着実に死んでる。いや、殺されてる。殺しているやつがいる、だから人が死ぬ)
ぐるぐると頭を駆け巡る考え。
それを更に掻き乱すように、遠方から微かに聞こえてくる銃声。誰かの声。途切れ途切れの。

「くそっ――」
やり切れず。思わず走り出した。


530 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/15(水) 17:45:09
結局誰もかも、自分が生き残るためなら殺しでも何でも厭わないのだろう。人間なんてそんなものだ。
その証拠に、死人は増える一方じゃないか。
その証拠に、自分を襲ってきた人間がいたじゃないか。
みんなそうなんだ、みんな―

『「人間は信じられない」という考えの確かさの証明』


だとしたら。
(あいつは?)
黒田と共に残してきた、あの人物。
こちらに対して、一切害意を示さなかった。武器も持っていなかった。怯え切っているだけのように見えた。
それでも。
あいつが「他の誰か」と同じように、自分のことだけ考えているとしたら。
どうなる?


足を止めた。
一瞬強い風が吹き抜けて、夏草をざあっと薙いでいった。


歩き出してからおよそ2時間。
川辺まで、あと1時間。


531 : ◆hfikNix9Dk :2007/08/15(水) 17:46:13
【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:ワルサーPPK(6/7)、眼鏡、紙雷管
第一行動方針:川へ向かう…?
基本行動方針:できるだけ生き残る
最終行動方針:未定

【現在位置:森(F4)】
【8/16 13:10】
【投下番号:243】


番組=電○少年。川元は元「箱男」。


>>523
曲者升野!待ってました。何を企んでいるのだろう…。
次回を楽しみにしています。

532 : ◆xCi5vGY7XY :2007/08/15(水) 23:47:12
>>397-418 続き アームストロング栗山

 眩しくてうざったい太陽が高く上がっていた。灰色の雲を避けるようにして光を刺し
てきている。恨みを買った覚えはないのに。
 火をつけた煙草を咥えた栗山は、一口目なのにふかすだけで終えた。多めに出てきた
煙が空に向かって伸びていった。厚い雲のように光を隠してくれ、柄にもなくロマンテ
ィックな考えが浮かぶ。苛ついていたからかもしれない。くそったれな放送が新たな喧
嘩を売ってきたからだ。
 今度は深く煙を吸い込んだ。吐き出しても苛つきは止められそうも無かった。むしろ
頭に血が上りやすい栗山にしては良く耐えているほうだ。今日が普通の日だったら既に
ぶち切れていただろう。それほどまでに今はおかしい。
 仲の良かった人たちが次々にいなくなっていく。コント番組で競演した仲間も含まれ
ていた。歯を食いしばるくらいしかできないのにも腹が立つ。
 名前の上に横線が引かれていくだけだ。これだけのことがどれだけの意味を持つか。
考えたくもなくて顔を上げれば、名簿を眺めて黙り込む先輩がいる。童顔に無口という
激しいギャップを持つ人。
 栗山が怒り狂わない理由にこれがあった。プログラムが始まってから今まで、ほぼずっ
と同じ行動を続けている相手。口数は少なくても優しいはずの、仲が良い先輩の相方。
 そのはずなのに、二人の芸人をあっさり殺してしまった。
 栗山はツバを飲む。一緒に煙草の煙を飲み込んでしまったけれど気にしなかった。汗
が出ている理由は暑さだけではない、むしろ寒気がしているくらいだ。
 はっきりいって怖かった。
「清人さん」
 放送が終わっても顔を上げない相手を呼んだ。考え事をしていた大溝は気づかずに黙
り込んでいる。慣れていたはずの無言がすごく息苦しくて、煙草を外した栗山は大きく
息を吸い込む。深呼吸をしてからもう一度呼んだ。

533 : ◆xCi5vGY7XY :2007/08/15(水) 23:48:23
「清人さん」
「聞こえとる」
 シカトだったようだ。肩を落とした栗山は、すぐに体勢を直して聞く。
「これからどうします?」
「今までと変わらん。人を集める」
 大溝は目を落としたまま、参加者名簿をひらひらと見せてきた。それぞれの名前の近
くに丸、三角、バツ印がつけられているものだ。マークは栗山達にとって信用できるか
を表すもので、行動を決める基準にもなっている。
 ただ、はっきりグループ分けしてしまったせいか、バツ印のついた人に対する疑いは
強くなってしまった。単純と言われる栗山も相当だが、大溝の場合はもっと強いみたい
だ。もともと頑固な性格だったから納得はできる。けど、だからと言って。
 栗山はまた思い出す。バツ印をつけられたお笑いコンビの死体。首を振って考えない
ようにしてから、もっと詳しい予定を欲しがった。
「それはそうなんすけど、集めるにしても色々あるじゃないすか。人がいそうなとこに
行くとか、そういう感じの」
 大溝は答えない。でも今度は、答えないワケを知っていた。短くなった煙草を消した
栗山は座ったままで空を見上げる。知らない名前の木が辺りを囲っている。
「その前に、ここがどこかわからなきゃ、なんすけどねえ……」
 いつもなら笑い飛ばしている状況だ。別荘の集まる場所にいくつもりだったのに、森
に入ってしまったせいで迷子になってしまった。今思えば、木に傷をつけて道しるべに
でもしておけば良かった。後の祭り、というやつだ。
 やはり大溝は黙っていた。何も言えないからだろう。迷った原因はお互いにあるから
喧嘩もできない。太陽の方角から位置を割り出すとか、したこともない悪あがきをたく
さんしたせいで大体の位置すらわからなくなっていた。
 沈黙がむなしい。死なないための行動と、普段もしなければならないありふれた心配
事を同時にするのは難しい。考えてから動くタイプの人ならまだましだけれど、特に栗
山は違う。

534 : ◆xCi5vGY7XY :2007/08/15(水) 23:49:36
 ようやく印のついた名簿が片付けられた。同時に立ち上がった大溝が、どこか適当な
ところを見やって頭を掻いた。面倒そうにため息をつき、落ちていたデイパックを手に
している。
 黙ったままで歩き始めてしまった。当然、栗山の準備は終わっていない。慌てて金属
バットを肩に担ぐ。
 追いかけようとして止まった。怖いなら離れればいいのか。一緒に行動してきた中で
も初めての疑問だ。少し寂しがりな栗山にとっては簡単に答えらない。結局は場のノリ
と流れに従い、更に離れた距離を小走りで進む。
 ヤブ蚊に突っ込んでも止まらなかった。大溝はなぜか早歩きに進む。一応仮眠はした
ものの、疲れた体には堪える。ようやくスピードが緩まったころにはひどく息を切らし
ていた。
「どうしたんすか、急に」
 息が整わない上に、格好悪く頭を下ろしながら聞いてみる。肺いっぱいに空気を吸い
込んでから、辛くないくらいのスピードで顔を上げる。
 あったのは森の切れ目と街への入口。
「元町か」
 大溝がいつの間にか地図を取り出していた。目を見開いた栗山も、先輩の横に立って
地図を覗き込んだ。そのまますぐに決めつけてしまった大溝を疑う。地図を信じるなら、
別荘地からは遠すぎる場所にいたせいだ。
 さんざん迷った後ならあり得るかもしれない。無理やり納得してから続いている道路
を眺める。たくさんの飲食店が並んでいるし、人がいる可能性は高いはずだ。森をうろ
ついているよりはいいけれど、その分危険も多い。
 大溝が歩き出した。危険なんて気にしない、背中がそんな風に語っていた。手だけは
銃を確認している。
 一歩一歩が歩きやすかった。土よりはコンクリートの方が進みやすいからだ。疲れて
いるから助かる、久しぶりについた安心のため息が小さな音になって消えた。相変わら
ず無言は続いている。

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